▽前回のあらすじ
ヒロと変装して豪華客船のパーティーを満喫する花梨。一方、
第248話
変身っ。
キッドの背後から声をかけてきたのは、蘭だった。
「このくらいの、小さな男の子、見かけませんでしたか? 眼鏡を掛けてるんですけど……」
蘭はコナンの身長に合わせるように手を下げ、迷子になっているかもしれないと周囲を見回しながら訴える。
コナン――あの少年は、さっきまで
今ごろは、小五郎の元に戻っているはず――。
(心配しねーでも、あのボウズはちゃんと会場に戻ってるよ)
会場へ駆けて行くコナンの背を見送ったキッドは、にこりと笑顔でこう答えた。
「お連れ様ですか? 眼鏡の男の子なら、背の高い男性と……あ! そうそう、眠りの小五郎さんと話しているのを、さっきお見かけしましたよ」
「そうですか。よかった! では、あの……お化粧室に行きたいんですけど、場所がわからなくて……。達也のステージが始まる前に行っておきたいんですけど……」
コナンが見つかってほっとしたのだろう。今度は化粧室を探すように、蘭はキョロキョロと辺りを見回した。
「ああ、木村達也さんのソロライブですね? 実は私も楽しみでして。ご案内いたします」
「すみません」
キッドは蘭に、「会場近くの化粧室は混んでおりますので、時間がかかりますよ」と伝え、それより遠い化粧室のほうが早く戻ってこられる――と、人気の少ない通路の先にある化粧室へと案内していく。
会場の外はキッド捕獲のための刑事たちでごった返していたが、蘭の案内をしている
「お客様はお一人で来られたんですか?」
「あ、いえ、家族で来ました。実は、鈴木会長の娘さんが、友達で……誘ってくれたんです。あと……眠りの小五郎って実は私のお父さんなんです」
親切に接客したからだろうか、蘭はキッドを疑うことなく、答えてくれる。
「そうだったんですか! 会長夫妻のお嬢様のお友達で、眠りの小五郎のお嬢さん……!」
「……本当は、もう一人一緒に来る予定だったんですけど……。今日は来られなかったみたいで……」
蘭の眉がわかりやすく下がった。
やはり、鈴木園子が花梨を誘っていたが、今日は来られなかったらしい。
「……それは残念でしたね」
給仕姿のキッドもつられるように眉を下げ、昨日の出来事を思い出す。
……花梨の家で見た、カウンターテーブルに置かれた招待状。昨日、自宅へ戻り、以前撮った同じアングルの写真と見比べると、やはり招待状が無くなっていた。
(花梨は来ていない……? けど、招待状はなくなってた……。幼なじみ二人と接触してないだけで、来てるんじゃ……)
花梨が来ているという希望を捨てきれない。
「はい……。でも、花梨ちゃん……あ、友達の名前なんですけど、その子に似た人を会場で見かけた気がするんです。すぐ見失っちゃったから彼女だったのかはわからないんですけど……。彼女、見た目がすごく特徴的だから……」
「っ!? へ、へえ……そうなんですね……」
(なんだって!? やっぱり来てるのか……!)
蘭の話に、キッドは一瞬目を見開き、花梨のこととなると、普段は完璧なポーカーフェイスもあっさり綻んでしまう。
「でも、違うかな……花梨ちゃんだったら、私に声、かけてくれるはずだもの」
しゅん……と、蘭は肩を落とし、それ以上は黙り込んでしまった。
「……そのご友人、花梨さんは……とても大切な方なんですね」
「……はい。幼なじみなんです。とっても優しくって、話してると癒されるっていうか……。でも、急に留学しちゃって……」
「っ、留学……ですか?」
やはり、ここでも彼女がついた嘘――“偽りの留学”が事実として語られている。
毛利蘭なら、真実を知っているかと思ったが、そうではなかった。
(花梨……お前、どこまで隠蔽する気だよ……。そんなにオレを真実から遠ざけたいのか……?)
花梨が残した“嘘”には隙がない。キッドはギリッと歯を食いしばった。
そんな様子など気にも留めない蘭は思い出すように語る。
「先月の五日だったかな……電話がやっと通じて、留学先で皆によくしてもらってるって言ってて……よかったなって――。そうは思ったんですけど、やっぱり寂しいなって思っちゃって……」
「っ…………それは、寂しいですよね」
(先月の五日って言ったら、花梨が行方不明になったあとじゃねーか……! オレも……寂しいよ、花梨……)
思わず感傷に浸り、二人して落ち込み、無言になってしまった。
……そのまま無言で歩き、少しして。
「それにしても……ずいぶん遠いんですね……」
「あ、もうすぐ着きます。あちらですよ」
まったく人気が無くなった通路の先に、化粧室が見える。
会場からはかなり離れてしまったが、ここなら用をサッと足して、すぐに戻れば達也のライブに間に合いそうだ。
「あ、本当だ。ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ♡」
「え……?」
お礼を告げて、蘭は化粧室に入る。スタッフの笑顔に少々違和感を覚えたが、すぐに用を済ませて、会場に戻ることにした。
「ふぅ…………ん? えっ……――」
それは、蘭が化粧室を出てすぐのことだった。
プシュー……。
何かが顔の前で噴き出し、蘭は意識を失った。
◇
「よし、パーフェクト! こんなもんかな~♪」
蘭に扮したキッドは化粧室で前髪を掻き上げ、鏡の前でポーズを取る。
……我ながら、完璧な変装だ。
今回は、青子に変装するときよりも胸パッドを厚めにしてある。
着痩せする花梨とは違い、毛利蘭はわかりやすくプロポーションがいい。
背も高いから、少し膝を落として歩けば問題ないだろう。
蘭は傷つけないよう、丁重に救助ボートへ寝かせておいた。
そのうち起きるだろうが、そのときにはすべてが終わっている算段だ。
「……花梨、来ているのか……?」
さっさと会場に戻ることにした。
一方で、キッドが蘭と化粧室に向かっている間、会場では――。
「わあ! 達也さんだ!」
余興として、木村達也のソロライブが始まっていた。
園子一押しということで決まった、達也のライブ。歌ったのは二曲だけだったが、先月リリースされたニューシングル「素顔の君に伝えたい」で、会場は大盛り上がりとなった。
「いい曲だったね」
「ね~♡ 楽屋にごあいさつに行っても大丈夫かなぁ? 持ってきた差し入れ渡したいな~」
「うーん、関係者じゃないと入れてもらえないんじゃないかな」
「そっか、それもそうだね。じゃあ、偶然会えたら渡すことにするね。会えちゃったり~♪」
「ははっ、リンがそう言うと、本当にそうなる気がするから不思議だよ」
長く続いた拍手が鳴り止むころ、ヒロは花梨の頭を優しく撫でて微笑んだ。
だが、次の瞬間、優しかったヒロの眼差しが、キッと険しくなる。花梨を自分の背に匿った。