トルキナ連邦召喚   作:mogatoku

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誤字報告ありがとうございます。


6 外交貴族メッサルの光明 ―― 知恵者と集うドワーフたち

 

 

「では、説明します」

 

 ベルヌース殿が文書を懐にしまいながら言った。

 

「ああ、どうなんだ? 先ほどステイムという鍛冶屋に剣を買うと言ってしまったんだが」

 

 メッサルはそれが気になって仕方がないのだ。

 

「一応、ステイム工房はクイラ王国に剣や槍などの古典装備の武器を販売することができます。連邦法では外邦に…つまり邦外の国に“新たな技術の武器を提供してはならない”ということになっています。なので“鋼鉄の剣や槍を使っていない国には売ることはできない”とまあ、理屈の上ではそういうことになります。ですが、そんな国はめったにありませんし、鋼鉄の剣や槍の軍が連邦の安全保障を脅かすことはまずありません。仮にそんな国に販売したとしても誰も気にしないでしょう」

 

 つまりクイラ王国は剣や槍を使っているから、ステイム工房からそれらを買えるということか。

 

 ――ならば帆船はどうなんだ?

 

「使っていればいいのか? 我が国は帆船の軍船なら使っているが?」

 

 クワ・トイネ公国から輸入したものだが、ちゃんと使っている。

 

「だからこそ、こちらの西アケア帆船製造社はクイラ王国に帆船を輸出することができるのです。ただし帆船は安全保障の観点では微妙な立ち位置にありまして、軍事目的の帆船を輸出することは原則として許されていません。商船であれば輸出できます。もし、それでも軍船が必要だという話でしたら、良い方法があります」

「良い方法? まさか“商船”として購入して軍で使うのか?」

 

 それくらいのことは誰でも思いつきそうだが…

 

「それはダメです。そんなことしたら連邦から何も買えなくなります。剣も買えなくなります」

「だが商船など要らないぞ? 海軍で使えない船など買い入れていったい何をしろといのうだ?」

 

 するとベルヌース殿が声を落とした。

 

「まずクイラ王国の商人が商船として購入します。商船として運用すべく船員を訓練し、実際に荷を運んで商船として運用するのです」

「それから軍で使うのか?」

「いえ、そうではありません。あくまで隣国の侵略を受けるなど、もし国に一大事が起こった時にだけ、王国政府が臨時で商船を徴用すればいいのです。こちらは軍事目的で販売することはできませんが、判例では”侵略を受けた際に商船を戦時徴用するのは国防上やむを得ないことであり、その実施を以て〈軍事目的の販売〉とは見なすことは適当ではない”とされています」

「だがそれを……」

 

 メッサルは顔をしかめる。

 

 ――狙ってやるのは、インチキではないのか?

 

「これならばザルゴンさんは先ほどの帆船を販売することができますし、クイラ王国は必要な帆船を手に入れることができます」

 

 ベルヌース殿の説明はつまりこういうことだ。

 

「つまりトルキナ政府を騙せと?」

 

 ――いいのか? そんなことして?

 

 トルキナ政府を怒らせることにならないか?

 

「騙すのではありません。もしもの時だけ、商船を戦時徴用するだけです。侵略を受けなければ、戦時徴用はありません。船はあくまで商船であり、王国は誰も騙していません」

 

「……」

 

(き、詭弁ではないか…!)

 

 その悪びれぬ物言いに、メッサルは呆れてしまう。

 

「例えばですが、商人が“元”水兵あたりを船員として雇い、訓練しながら、商売に活用する。するとどこかの国が攻めてきたときには王国政府は船員ごと徴用すれば、円滑に海軍に組み込めるんじゃありませんか?」

「……それは……そうだろうが…」

「まあ、これはあくまでここだけの話、おおっぴらに話すわけにはいかない話です」

 

 やはり正々堂々と話せるような方法ではないようだ。

 

「ただ軍事目的での購入ができないのは間違いありませんので、あくまで商船として購入し、訓練し、使わなければなりません」

「外務卿閣下、わたくしからゼルヌース様にお尋ねしてもようございますか?」

 

 御用商人のゼシムが先ほどから何か言いたそうにしていたが、我慢できなくなったようだ。

 

「ああ、かまわん」

「ありがとうございます。先ほどから伺っておりますお話ですが、つまりわたくしども商人があの帆船をこちらの御方(おかた)から買い入れ、普段は麦の運搬に使用し、いざロウリア王国が攻めてきた時には、国王陛下の軍に差し出せということでございますか?」

「差し出すのではなく、貸し出すのです。まあ、タダで貸し出すことにはなりますし、沈んでしまえば補償してはもらえないでしょう。でもその代わり、他でいろいろと配慮してもらえば良いのです」

「そうしていただけるとありがたいのでございますが」

 

 ゼシムがチラッとこっちを見てきた。

 この話に乗り気のようだ。

 

(なぜだ? どんな利がある? ゼシムに利があるようにも思えんのだが…)

 

「その辺りの方法についてはわたしが助言できますよ。もしクイラ政府とゼシムさんがわたしと長期契約を結んでいただければですが」

 

 ずっと黙って聞いていたドワーフが、話に加わった。

 ロドル・ケイディン殿だ。

 

(輪車の御者(ぎゃしょ)をしに来たのではないのか!)

 

「ロドルは会計士ですが、経営助言士でもあるのです」

「さようでございますか。ただし問題がございます。いきなり船を買えと申されましても、さすがにそこまでの持ち合わせは…」

 

 突然、ベルヌース殿が何かに気付いたような素振りを見せた。

 

「おや? そこにいるのはもしかしてゴルデーンさんではありませんか?」

 

 視線の先に振り向くとまたダークドワーフが立っていた。

 

「リグルーンさんではありませんか。購入資金のご相談ですか? でしたらわたくしが承ります」

 

 弁護士のベルヌース殿よりも身なりが整っているが、貴族と言うより執事のような雰囲気だ。眼鏡を掛けている。

 

「こちらはクイラ王国のメッサル卿―――」

 

 リグルーン殿が新たに現れた褐色のドワーフに皆を紹介すると、そのドワーフは名乗った。

 

「わたくしはゴルデーン・ザンフィールと申します。ゼンバール銀行の邦外顧客開拓部におります」

「ぜんばーるぎんこう?」

「はい。資金ならわたくしどもがご用意することができます。帆船自体を担保とし、さらにクイラ王国政府が保証人になってくださるのであれば、金利もお安くご提供いたします。返済期限も特に設けませんので、当面の間は、毎月、利息だけお支払いいただき、訓練が完了し、運用を始めたら、収益から少しずつ元金を返済していただくという形であれば、お客様も数多くの帆船をご購入いただくことができるのでは、と考えております」

 

 要は「カネなら貸してやるから、この帆船を買え」という話だ。

 その露骨な商売根性にメッサルは半ば唖然として、御用商人ゼシムの顔を確かめる

 どんな反応をするのか気になったのだ。

 

「つまりあなたは高利貸しなのでございますね?」

 

 ゼシムもまた疑わしげな視線を向けていた。

 

「高利貸しとは心外です! わたくしどもは融資を通じてお客様の事業の拡大や継続をお手伝いすることで、そこから金利を頂戴して、利益を上げているのです。お客様のことを考ずに、ただ暴利をむさぼる高利貸しとはまったく違います!」

「なるほど」

 

 ゼシムが何やら思案している表情で頷いた。

 

「もしゼシム様が利益を出せずに、金利の支払いが滞った場合でも、ただちに船を取り上げたりせずに、まずは経営状況を確認し、改善を助言いたします」

「なぜそこまでしてくださるのですか?」

「それは……両国が批准書を交換すれば、石油採掘に関わる莫大な権利料がクイラ王国政府に支払われます。その受け取り口座をぜひ当行に――」

「その前にメッサル卿!」

 

 ゼンバール銀行の話についていけなくなりかけていたメッサルに、突然話が振られる。

 

「何だ?」

「助言者としてではなく、代理人として正式にわたしを雇っていただけませんか?」

 

 ベルヌース・リグルーン殿が、また雇えと提案してきた。

 

「なに? 先ほどの金貨では足りないのか?」

「先ほどは今日一日、法律に関する助言をするための代金です。もし代理人として雇っていただければ、今後、連邦における代理人として、借り入れや売買の書面手続きなどを代行いたします。連邦の文字の読み書きはおできにならないでしょうから」

 

 なるほど。確かにそういう者がいると手続きに時間を取られずに済みそうだが……

 

「失礼だが、貴公を信頼するとして、その理由は何だ?」

「わたしは友人から頼まれて、本日ご案内しています」

 

 ギブルス殿の紹介だ、ということのようだ。

 メッサルは腕を組み考え始める。

 

(確かにギブルス殿の紹介は信頼する理由になるが……何しろ今日初めて会ったばかりだが…?)

 

 そう考えていると、商人ゼシムが話に割り込んできた。

 

「わたくしがベルヌース様をお雇いしてもよろしゅうございましょうか?」

 

 ゼシムはなぜかベルヌース殿の話に乗り気のようだ。

 

「ではこうしましょう。まずは今回の滞在中だけ契約いたしましょう。ただしその後も継続して雇っていただけるのであれば、ゼシムさんには別の代理人をご紹介します」

「その代理人もドワーフなのかね?」

「良くおわかりで」

「そうか……今後の事は王子殿下と相談なくては」

 

 少なくとも王子の承諾があれば、問題にはならないだろう。

 

「もちろんです。わたしと正式に長期契約を結んでいただいた暁には、蒸炭(むしたん)を作る釜を手に入れる方法をお教えしましょう」

 

 この言葉にドルゴが反応した。

 

「それ本当か! ならメッサルの旦那! ぜひ契約してくれ。あれなら良い鉄が作れそうだ」

 

 ドルゴは蒸炭(むしたん)を作りたいのか。

 

「殿下のお気持ち次第だが、殿下がうんと言わなければ、わたし個人が契約しても良いのか?」

「外務卿個人との契約ももちろんできます。ただそうなると代理できる範囲が狭くなってしまいますが」

「そうか。ならぜひ王子に頷いていただかなくてはな」

 

 メッサルはいつの間にか自分も乗り気になっていた。

 ゼシムとドルゴに影響されたようだ。

 

「ではあそこの店に入ってもう少しお話しいたしましょう」

 

 港から通りにぞろぞろとドワーフの一団が入っていく。

 メッサルと商人ゼシムと鍛冶頭領ドルゴ。

 弁護士のベルヌース殿に、会計士のロドル殿。

 帆船屋のザルゴン。そして銀行のゴルデーンである。

 

「ここは酒場では?」

 

 するとベルヌースが何かを見つけたようだ。

 

「おや? そこにいるのはバルンじゃないか! いやあ奇遇だな」

「お、おう。その、なんだ…珍しいな。客を見つけたのか?」

 

 そのテーブルには、なんだかいかにも海の男という感じのドワーフがいた。

 髪は黒く、肌は浅黒いが、ダークドワーフではなさそうだ。ザルゴン・風然と似た感じだ。

 

「メッサル卿、こちらはバルン・慈伴(じばん)氏です。退役軍人で、かつては連邦軍第6軍海軍団にいました。古典装備群の元大佐ですよ」

 

 確かに海の男という雰囲気が出ている。

 すぐに弁護士のベルヌース殿が説明を始めた。

 

「法律の壁があるため、王国は元軍人を軍事目的で直接雇うことはできません」

 

(なぜ突然、こちらが雇いたい前提で話しているのだ?)

 

 ベルヌース殿は偶然知り合いに会っただけなのに、なぜか「雇えない」と説明し始めた。

 

「ですが、先日の最高監査人の答弁をお聞きになりましたか? 冒険者組合は退役軍人を優先的に配置するなど、戦争になっても対処できるように欲しいと!」

 

 メッサルは思い出す。

 質問者の淑女が「冒険者には成人して間もない若者が多い」と心配する弁を述べた後だった。

 

「確かにそう話しておられたな」

「つまり“冒険者として”なら元軍人を雇えるのです!」

 

 ベルヌース殿が拳を小さく握り、力説している。

 

「するとこちらのジバン殿は冒険者なのか?」

「これから冒険者になってもらうのです」

 

 ――違うのか!

 

「そうすれば王国は冒険者として元海軍大佐を雇うことができます。ですが王国が必ず雇うと約束してくれないと、冒険者登録したくないそうです」

 

(さっき偶然会ったのではないのか? なぜそれをベルヌース殿が知ってる?)

 

 と突っ込みたくなるが、メッサルは外交貴族である。

 そこには気付かぬふりをして尋ねた。

 

「雇って何をしてもらう?」

「先ほどの帆船の扱い方について、船員の皆さんに注文を付けてもらいます」

「あの船を扱えるのか?」

「あの船たぁ何だ?」

「縦帆すくな型です」

 

 帆船屋ザルゴンが元海軍のバルンの問いに答えた。

 そうか、この帆船屋も〈海のドワーフ〉というやつか。

 

「それなら問題ねえ。ドワーフは訓練期間が長いせいで、たいていの帆船は扱えるようになるからな」

「つまり船を指揮できると?」

 

 ベルヌース殿が答えた。

 

「商船の船長を冒険者に任せるのは不自然なので、あくまで“船舶の護衛”として乗船してもらいます。操船訓練の時も船の護衛に着いてもらえば、海での戦い方について“護衛”の立場から注文を付けることあるでしょう。こんな風に船を動かしてくれなければ、矢の的になるだけだとか、反対にこう動けば、海賊船に狙いを付けて燃やしやすいとか」

「海賊船?」

 

 バルン・慈伴が笑みを浮かべた。

 

「オレの注文は厳しいぜ。その辺の船乗りなんかすぐにいっぱしの水兵になっちまうんじゃないか? ワハハハハ」

「つまり…」

 

(……注文と称して指導するつもりか)

 

「あ、ちなみに連邦法では邦外国への軍事訓練指導は原則として禁止されていますので、あくまで“護衛”の立場での注文です」

 

 ベルヌース殿が白々しく補足した。

 

(それはつまり…‥)

 

 メッサルはようやく話が見えてきた。

 

 ――そうか! そういうことか…!

 

 いや、ベルヌース殿の話が見えてきたのではない。

 彼の話は先ほどから充分に理解している。

“いかにトルキナの法をすり抜け、クイラ王国の軍備を強化するのか”

 彼の話は要するにそういうことだ。

 

 いまメッサルが見えてきたのはそれではない。

“ギブルス殿がなぜこのベルヌースという友人を紹介し、案内を任せたのか?”

 ということが見えてきたのだ。

 

(このベルヌースという男をわたしに見せるためだ!)

 

 ――ギブルス殿はわたしを、ひいては王国を助けてくれようとしているのだ!

 

 実際、この弁護士は先ほどから法の抜け道を安全に抜ける術を話してくれている。

 さらには今、あの船を扱えるという人物まで紹介し、雇うよう薦めている。

 

 ――ギブルス殿はきっとこう言っているのだ!

 

“ベルの知恵を使い、トルキナから優れた武器と船を買って軍備を強化し、使える人物を集めて軍を育て、そして自分たちで国を守れ!”と。

 

 だがギブルス殿は立場上、直接それを話すことができない。

 外交貴族は外国の利益のために働いてはならない。

 まして法の抜け道を教えるなど言語道断だ。

 だからこのダークドワーフに案内を頼み、この後のことは自分はあずかり知らないと言って、立ち去ったのだ。

 

(ギブルス殿…)

 

 メッサルはその配慮に感じ入り、次第に胸が暖かくなっていくのを感じる。

 

「で? どうする? オレを雇ってくれるのか?」

 

 ――ならば自分がすべきことは明らかだ!

 

 メッサルは決断した。

 

「わかった。なんとかしよう」

「元部下…仲間もいいか?」

「ああ、必要なだけ連れてくるがいい」

「よっしゃあ! 話は決まりだ! なら冒険者組合に行かなくちゃな」

「では王国は指名依頼を出してください。――おや?」

 

 ベルヌース殿が立ち上がった。

 また何か、いや誰かに気付いたようだ。

 

「あそこに見えるのは――」

 

 そう言って陸軍の“元中佐”とかいうドワーフの居るテーブルにも案内された。

 さらには――

 

「おお、あそこに座っているのは建築士の――」

「やあ、そこにいるのは土木設計――」

「おや? もしやあなたは城塞研究家の――」

「おいロドル、電話だ!」

 

 その後も次々と現れる優秀そうな者たち。

 なぜか皆ドワーフだが――。

 

(ベルヌース殿はいつまでこの“偶然”の茶番を続けるんだろうか…? もう分かっているというのに…)

 

 ひととおり面会が終わると、鍛冶工房に戻り、リンシャに乗り込んだ。

 

(ふう、なんだか慌ただしかったな…)

 

 宿館に戻る途上、リンシャの中でドルゴが言った。

 

「なあ、ゼシムの旦那、なんだか楽しそうだな」

 

 ふと視線を向けると、御用商人ゼシムが楽しげな笑みを浮かべていた。

 

「いえ、何でもないですよ」

 

 そう言って前の座席に視線をクイッと向けた。

 

(ああ、二人がいるから話せないのか)

 

 リンシャを降り、弁護士ベルヌース殿と会計士ロドル殿がリンシャで去ってからメッサルは尋ねた。

 

「それでゼシム、何が可笑しかったのだ?」

「これは要らぬ所をお見せして失礼を」

「いや、かまわん。それで何を笑っていたのだ?」

 

 するとゼシムは再び楽しげな笑みを浮かべた。

 

「はい。商人はどこも同じだなと考えておりました」

「商人?」

「はい。このトルキナ連邦という大国は武器や軍船の輸出を禁じているようですが、商人というのは常に抜け道を探し出して、儲けようとするものです」

「確かにな。お前たち商人は実に抜け目なく、ずるがしこい」

「したたかと言って欲しいところでこざいます。ただ…」

「ただ?」

「どうやら違う所もありそうです」

「ほう。何が違う」

「彼らは単にカネを儲けようとしているのではないように感じます」

「ああ、確かにな。それはわたしも感じる」

 

 確かに彼らは仕事で報酬を得ようとしている。

 だが必要以上は要求してこない。

 

「したたかだが、不思議とがめつくない。おまえたちと違ってな」

 

 もっと高く要求してきても不思議はないのに、そうしない。

 どことなく仕事に困っているようには見えるのだが、それは気のせいなのか…?

 

「それは心外なお言葉ですが…おっしゃりたいことは分かります。彼らは商売人のようでありながら、クイラの商人とも、クワ・トイネの商人とも、ロウリアやアルタラスの商人とも違います。どこかムーの商人に似ていますが、やはり違います」

「ムーの商人とも付き合いがあるのか」

「はい。燃える水を買ってくれていましたので」

「そうか。だが燃える水はもうトルキナの物だ。優先権がある。勝手には売れんぞ」

「はい。それは聞いております」

「それでムーの商人とどこがちがうのだ?」

 

 メッサルはムーの商人という者とは話したことがあった。

 

「ムーの商人は相手の国の窮状に興味がありません。ですがあのベルヌース様は、あきらかに王国の助けとなる方法を話して報酬を得ました。さらには長期の代理人契約を望んでおられます。正直わたしは、ベルヌース様のお話には感心しております。あの御方はかなりの知恵者とお見受けします。しかも相当にお顔が広いご様子です。王城ではなく、ぜひわたくしと契約してだきたいと思っております」

 

 メッサルにはこう聞こえた。「お雇いなさい。いらないなら自分が雇ってしまいますよ」と。

 

 ゼシムもドワーフだ。

 

 人間至上主義のロウリアに支配されれば居場所はない。

 クイラ王国が強くなることを望んでいるのだろう。

 

「ハハハハ。そうは行かんぞ」

 

(心配するな。必ず雇う)

 

 メッサルは笑い飛ばした。

 

 ――ベルヌース殿はきっと知っているのだろう。

 

 クイラ王国には何が必要なのかを。

 どうすれば良いのかを。

 

 ――ならば必ずや、王国は変わることができる!

 

 今朝まで全く見えなかった道筋が見えてきそうな気がしてきた。

 メッサルは視線を遠くへと向けた。

 監査府が手配した旅客輪車がこちらに近づいてくるのが見える。

 王子達が戻ってきたのだ。

 

 気がつくと、メッサルは頭の中の渦は消えていた。

 メッサルはスッキリと晴れやかな気分で一同を迎えた。

 

 

 こうしてクイラ王国代表団は帰国するまでの間、トルキナ連邦の民間人と次々と契約を交わしていった。

 後日、クイラ王国にやって来たのは、ドワーフの一団であった。

 

 彼らは王国の改革を陽気に、そして着実に進めていった。

 もちろん、メッサルは、国王や宮廷、さらには将軍や領主達を説得するために、奔走し続けなければならなかった

 だが、その甲斐もあり、みるみる充実していく国王軍に、諸侯達もまたこぞって真似をし始めた。

 

 やがて時は流れ、ザッツ王子が言った

 

『メッサルの愉快なドワーフ仲間たちのおかげで、夢が叶ったぞ』と。

 

 王子の夢?

 まさか――

 

「王国万歳っ!」

『王国バンザアアアイ! オオオオオオオオオオ!』

 

 眼下では国王軍の兵士達が一斉に拳を突き上げていた。

 

 





メッサル視点はこれで一旦終わりです。


次回の投稿日は不明です。
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