第43話
「皆、よう集まってくれた」
厳粛な空気の中、元柳斎の声が木霊する―――
ここは隊首会議場
”大逆の罪人”藍染惣右介の騒動から徐々に落ち着きを取り戻しつつある頃、
雷山を含めた11人の隊長が一堂に会していた。
「此れより、隊首会を執り行う」
杖を突く音が響く―――
それほどまでに隊首会議場は静寂が包んでいた。
「藍染への対処を話し合う前に1つ、皆に伝えねばならぬことがある。【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”についてじゃ」
「【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”?」
初めて聞く【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”と言う組織の名に
最も反応したのは雷山たちと今まで接点が無かった【七番隊隊長】狛村左陣だった。
「左様。先の藍染惣右介の一件で護廷十三隊とは異なる指揮系統が動いておったのは、皆も知ってのことじゃろう」
「成程な。それが十四番隊ってやつか」
更木はかつて雷山の口から【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”なる言葉が出たのは記憶していた。
あの時は
「しかしじいさんよ。十三隊しかねえから護廷十三隊なんじゃねえのか?」
「正式には護廷十三隊には含まれぬ」
更木の問いに元柳斎は答える。
”十四番隊”と名乗るからには護廷十三隊に含まれる十四番目の隊と考えつくのは至極当然であった。
「【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”とは護廷十三隊に含まれぬ、いわば独立した部隊」
「……独立?そのような部隊が存在するなど、聞いたことがない」
「当然であろう。その存在は長きに渡って秘匿されてきた」
白哉は静かに語ったことを元柳斎は肯定した。
四大貴族でさえ【宮廷遊撃部隊】に関する情報は秘匿されるため、白哉がその名に心当たりがないのも当然であった。
「……こうやって正式な場で話すのは今回が初めてじゃないかな」
この場で隊長として古株に入る京楽と浮竹はかつて雷山と狐蝶寺の口からその存在は聞いていた。
しかし、元柳斎が隊首会の場でその存在を認める形で【宮廷遊撃部隊】について言及するのは初めてのことであると記憶していた。
「で?」
「ん?」
「てめぇがその十四番隊ってのの隊長か?」
鋭く向けられる剣八の視線の先、そこに立つのは雷山であった。
剣八の興味はすでに雷山へと移っていた。雷山だけがこの場で唯一、護廷十三隊とは異なる立ち位置をしていることが明白だったからだ。
「そうだな……細かく言えば、更木が思っているような隊長ではない」
「じゃあてめぇはなんだ?」
「まとめ役だ」
「一緒じゃねぇか」
「その細かい部分を話すと長くなる。またの機会にしろ」
「雷山、ここからはおぬしが説明せよ」
「……すべて、話して良いんだな?」
元柳斎は無言で頷いた。それに対して、雷山はやれやれと言いたげに頭を掻くと静かに語り出した。
【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”について、
「ではいちから説明するが、正式名を【
「創設は今から約600年前、その仕事は大きく分けて3つある」
雷山は護廷十三隊の欠員補充の『隊長代理』と三界が滅ぶ可能性が出た場合の敵勢力に対する『尖兵』について続けて説明していた。
「そして最後に、護廷十三隊では対処しきれない事態に対する『援護と支援』だ」
「護廷十三隊で対処できぬ事態……」
「今回の一件がまさにそうだ。中央四十六室が全滅させられ、護廷十三隊は四十六室を騙る藍染の手のひらの上で、総隊長を含めた各々が自らの正義の為に内戦を繰り広げた」
隊長たちは皆、一様に雷山の話を静かに聞いていた。
雷山が語ることは多少の誇張表現があったが、おおむね事実であった。
その事実が侮辱とも捉えかねない雷山の言葉に誰も彼もの反論の余地を潰していた。
「そんな状況下で護廷十三隊のみの指揮で動けば、敵の術中に陥ることになる」
「……だから鬼道衆、隠密機動とも違う独自の指揮系統による部隊が創設されたと」
砕蜂は敬愛する椿咲が属する部隊として【宮廷遊撃部隊】にある程度の理解は示していた。
しかし、まるで護廷十三隊や隠密機動の指揮は当てにならないと言われていることには思うところがあった。
「俺たちは基本的には中央四十六室や護廷十三隊総隊長の命令を是としている。しかし場合によってはそれに背く」
「それで今回のルキアの処刑に介入した、という訳か」
白哉はそこで得心が言った様子だった。
数多くの隊長格がルキアの処刑阻止に動いている中、雷山や銀華零など一部の者たちが明らかな武力行使に出ることができたその理由について、
「ああ、藍染が裏で手を引いていたのは分かっていたからな」
「分かっていたのならば、何故……」
「少し前に元柳斎にも言ったが、俺が正直にこの事を言い回ったとして、果たしてそれを信じたのか?」
「…………」
この場に集う隊長は全員、藍染の隊長としての評判を知っていた。
それ故に、雷山の言う通り信じることは無かっただろうと押し黙ってしまっていた。
「沈黙が答えだな。話を戻すが、十四番隊の現構成員は6名。勿論、全員が隊長だ」
「全員が隊長……」
「本当は全員召喚しようと思ったんだが、そんな大所帯で来てもしょうがないからな。これから世話になる2名だけ来てもらうことにした」
その時、隊首会議場の外から2つの霊圧が近づいてきた。
やがて扉の向こうから声がした。
「失礼します。銀華零白、狐蝶寺春麗。参りました」
「入れ」
元柳斎の許可と共に扉がゆっくりと開く。
そこに立つは2人、
銀色の髪をする死神、銀華零白。
風車の髪飾りを付ける死神、狐蝶寺春麗だった。
「お待たせしました」
銀華零は礼儀として議場に入る前に一礼した。狐蝶寺もそれに倣うように一礼した。
「あの者たちはいったい……」
この場に集う隊長たちの中で、2人の姿を見たことがあるのは元柳斎、卯ノ花、京楽、浮竹の古参の隊長たちだけだった。
そして『隊長代理』として表に出て来ていた雷山と違って銀華零と狐蝶寺はあまりその姿を見せていなかった。
そのため彼女たちを知らない隊長たちはその正体を推し測りかねていたのだ。
「この者たちについては儂が説明する。藍染惣右介と共に市丸ギン、東仙要が離反したことにより、現在三番隊、九番隊は隊長不在となっておる」
「…………」
特に狛村の表情が僅かに曇る。
東仙要の離反は狛村にとって未だ簡単に受け入れられるものではなかったのだ。
「この状態をを長く放置することは出来ぬ。そこで当面の間、【宮廷遊撃部隊】より2名を選抜し、各隊へ派遣する」
元柳斎が隊長たちに説明をする中、銀華零と狐蝶寺は近くまで歩いて来ており立っていた。
それを確認した元柳斎は手に持つ杖を地面に突いた。
「ここに【護廷十三隊総隊長】山本元柳斎重國と【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】雷山悟両名の名のもとに任命する」
元柳斎はまず銀華零の方へと目を向けた。
「【十四番隊・第五将”大将”】銀華零白。『三番隊隊長代理』に任ずる」
「謹んで拝命いたします」
「【十四番隊・第四将”副将”】狐蝶寺春麗。『九番隊隊長代理』に任ずる」
「はい、拝命します」
元柳斎の声が響く中、銀華零と狐蝶寺は”謹んで拝命する”意思を示すべく深く頭を下げていた。
頭を上げると狐蝶寺はすぐに狛村に視線に気が付いた。
「狛村くん」
「?」
「東仙くんのことは私も残念に思っているよ」
「…………」
狐蝶寺は狛村が目を伏せるとき、その瞳が僅かに揺れていたことに気付いた。
そのことから狐蝶寺は狛村が東仙を引き留めることが出来なかったことを悔いているのだと見抜いた。
「だからといって同情はしない。それは狛村くんを
「……けれど、それとは無関係に九番隊のみんなは私が責任持って面倒みるよ」
狛村はしばらく黙った後、深く頷いた。
「……頼む」
「うん」
そのやり取りを見届けた元柳斎が杖を再度床へ打ち付ける。
それを合図とするかのように銀華零と狐蝶寺はそれぞれ定位置についた。
「では本題に入ろう」
全員の視線が元柳斎へ向く。
それを合図とするかのように隊首会議場から先ほどまで僅かに残っていた柔らかな空気が完全に消えた。
「皆も知っての通り昨晩のこと、現世空座町にて
「それについては私から報告するヨ」
マユリはそう言うと列と列の間、元柳斎と向かい合うようにして立った。
「昨晩に確認された
「崩玉の影響だろうな」
「これについては藍染惣右介が崩玉を持ち去った時点から想定済みだヨ。想定より早いというのが気がかりだがネ」
「近々、現世に駐在さす隊士を選抜せねばならんぬな」
”――――隊首会中失礼します!!”
その声と共に隠密機動・裏廷隊の死神が瞬歩で現れた。
通常、隊首会中は隊長以外の立ち入りを禁じられているが、非常事態の報告については免除となっていた。
「十二番隊より山本総隊長、並びに各隊長へ報告。現世にて
隊首会議場に緊張感が走った。
藍染が離反してまだひと月と経たぬうちに、”成体”としての
藍染が明らかな行動に移してきたからだった。
「……これも想定のうちか?」
「フン、誰に聞いているのかネ?」
「元柳斎、急ぎ十四番隊に出撃命令を出す。悪いが、失礼させてもらうぞ」
「ならぬ。それに手は打ってある」
「どんな手だ?」
「浦原喜助に話を通してある。現世にて、黒崎一護とその仲間を援護せよと」
「…………」
”いつの間に……”雷山はそう心の内に思っていた。
「しかし、我らが手をこまねいているわけにもいかぬ。そこで、現世駐留を黒崎一護と最も近しいとして朽木ルキア。そしてその朽木ルキアと近しい隊長格として【六番隊副隊長】阿散井恋次に命ずるものとする」
元柳斎は白哉にこの後すぐに阿散井恋次、朽木ルキア両名に知らせよと目配せをしていた。
「なお、現世駐留の任において阿散井恋次以外の隊長格の派遣は無いものとする」
現世へ派遣する人材が大まかに決まったことで、話は次に移る。
「現状、藍染惣右介の目的については不明となっておる。しかし、大霊書回路にてその痕跡があると報告も入っておる。そこで京楽春水、浮竹十四郎両隊長には大霊書回廊にてその痕跡の捜索を命ずる」
「山じい、ちょっといいかい?」
「なんじゃ?」
「七緒ちゃん……副官も一緒に連れて行っていいかい?」
「構わぬ。こちらについては【宮廷遊撃部隊】より1名派遣することも決まっておる」
数日前、山吹の希望もあり大霊書回廊の捜索に彼女が加わることが元柳斎に伝えられていた。
「悪いね、雷山隊長。助かるよ」
「気にしなくていいぞ。本人の希望だしな」
「五番隊隊首室は引き続き雷山悟に捜索を命ずる」
「ああ、分かった」
・
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・
「―――と言うのが、隊首会で決まった事なんだが」
「はい」
「現世に派遣する人員のところで少し話が大きくなってな」
「はい?」
隊首会より数時間後、
五番隊隊舎では雷山に呼ばれる形で椿咲、山吹、浮葉の3人が来ていた。
「えっと、雷山隊長。それはどういう事でしょう?」
「阿散井が隊長格以外の戦力として十一番隊の班目に同行を頼んだそうなんだが、綾瀬川がついていくと言い出し、騒ぎを聞きつけた松本乱菊がどうしてもと聞かずに、結果として日番谷と引率責任者とする先遣隊として派遣することになったそうだ」
「……乱菊ちゃんにはしっかり言っておきます」
現世派遣の裏でそんなことがあったと聞いた椿咲は、一時的でも受け持った部下である松本乱菊の我儘に申し訳なさそうにしていた。
「まあ、それは良いんだが、椿咲にも現世に向かってもらいたい」
「私もですか?」
「ああ、先遣隊は隊長1名、副隊長2名、上位席官2名からなる精鋭。しかし
今回、現世に派遣するメンバーはただ派遣するというだけならば、過剰とも言えた。
通常ならば【宮廷遊撃部隊】からの派遣などまったく必要ないほどに、
しかし、藍染が接触したことで
「仮に
「それで日番谷隊長とも面識がある私が抜擢されたわけですか」
かつて『十番隊隊長代理』だった椿咲は【宮廷遊撃部隊】の中で最も現護廷十三隊と繋がりを持っていた。
場合によっては共闘もあり得るため椿咲を向かわせるのが得策と判断されていた。
「そう言うことだ。一応聞くが、任せていいか?」
「勿論です」
椿咲は即答に近い形で返事をしていた。
「先遣隊の出立はいつですか?」
「たしか今夜だったはずだ」
「分かりました。準備ができ次第、私も現世に向かいます」
「ああ、頼んだぞ」
そう言うと雷山は視線を椿咲から山吹へと移した。
「山吹には大霊書回廊で藍染の痕跡の捜索を頼みたい。すでに担当する浮竹に話は通してある」
「ありがとうございます。雷山部隊長」
「最後に浮葉だが、十四番隊に残って不測の事態が起きた際のバックアップを頼む」
「承知しました」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
「……よしっ」
穿界門の前では気合を入れるように頬を叩く椿咲の姿があった。
日番谷率いる先遣隊はすでに出立しており、その後を追う形であった。
「それじゃあ、参りますか」
「ちょっと待て、椿咲」
名前を呼ばれた椿咲は振り返っていた。
見ると雷山が歩いて来ていた。その様子から自身の見送りに来たのだと椿咲は感じた。
「……珍しいですね」
雷山は普段、椿咲が潜入調査などに発つ際は見送りなどはしてこなかった。
それは椿咲ならまず無事に帰って来るだろうと自信の表れと、彼女の実力を高く買っている証拠であったからだ。
「ああ、今回ばかりは見送りをしておこうと思ってな」
しかし、今回は実力が未知数とも言える
危険性があると雷山は判断し、顔くらい見ておこうと考えたのだ。
「大丈夫ですよ。それは雷山隊長が一番分かっていることでしょう?」
「ああ、死んで帰って来るとは思わん。だから椿咲にやってもらう任務の確認に来た」
「1つ、
「ちゃんと覚えているな。では、頼んだぞ。椿咲」
「はい!」
椿咲は返事をすると、穿界門へと向けて歩いていく。
雷山は椿咲の背中を見送っていたが、途中で言い忘れたことを思い出した。
「椿咲!瀞霊廷の動きを察知した藍染がどう動くかは分からん。場合によっては現世に不要な影響も出すかもしれんが、その際の責任は俺がとるから存分にやってくれ」
「任せておいてください!」
椿咲は振り返って見せた。
その顔には自信に満ちた笑みが浮かんでおり、【十四】の文字が刻まれる隊長羽織が風にはためいていた。
そしてその背中は徐々に穿界門の中へと消えて行った。