全てが片付き。
違う形ではありますが。
宇宙の覇者となったラインハルトが、最後の飛躍の土地に戻ってきました。
原作の野心で自分を燃やし尽くしてしまったラインハルトと違い。
其処にはかけがえのない友に支えられた、穏やかな覇者の姿がありました。
幼い頃、ハンナは見た。
空から降りてきた人たちが、貴族の軍をやっつけたのを。
貧しい中、生きていくすべを教えてくれたのを。
それからしばらくは、ひどい時間が続いたけれど。
大人達は信じていた。
助けてくれた人。ラインハルトという人が、必ず戻ってくると言っていた。
それを希望にし頑張ろうと。
そしてハンナは、希望を信じた。
そのラインハルトという人の映像も見た。
見たことがないくらいきれいな人で、でもとても怖い目をしていた。
すごい人だなと思ったけれど、天使というよりは悪魔に思えた。
でも、悪魔でもなんでもいい。
勝手なことばかりする貴族達よりはましだからだ。
それから時間がたって。
貴族の軍隊がまた追い払われて。
同盟というところの軍隊が来た。まだ幼くて前に来たときのことはよく覚えていなかったけれど。
記憶の奥底から思い出す。
確かに、この制服を着ていたと思う。
それから、ここに昔住んでいたという人たちが来て、色々と支援してくれた。
昔は農奴だったというおじさんは。
今では色々なことを知っていて、聞けば何でも答えてくれた。
そして少しずつ住んでいる土地がよくなっていって。
ハンナが十五になった頃には、国が「自由惑星同盟」になったことを理解した。現在は同盟の駐留財務官という人が統治しているのだけれど、とても親切で、貴族とは大違いだった。
今まで貴族に取り上げられていた作物も、だいたいは自分のものにできた。しばらくは貴族から取り上げたお金で皆の生活を支援してくれるので、税金はいらないと言う話だった。
これは元々不当に取り上げられていた税金だから、気にすることもないと言われた。
ただ、ずっと言われたことを覚えている。
生きていく力を自分で身につけるように、と。
だから、補助されたとしても。
自分で生きていくことを、忘れてはいけなかった。
ある日、ハンナが果樹園の手入れをしていると、きれいな女の人が来た。元は貴族だったらしいけれど、同盟になった時に貴族を捨てたらしい。
ヒルダというその女性は、いくつかの質問をして。
ハンナが全てに問題なく答えると、頷いていた。
「ラインハルト議長がここを視察に来ます。 もしも不満や、足りないことがあったら何でも言って良いそうです」
「わかりました。 それでは遠慮なく色々言わせてもらいます」
「ふふ、失礼がないようにしてください」
女性としてはいわゆる女盛りだろう。
だけれども、子供を産んだことのある体だと、ハンナは一目で見抜いていた。
相手は誰だろう。
ただ、とても聡明そうな人だった。
それに不幸そうには見えなかった。
きっといい人が相手だったのだろう。
ほどなくして、三つ首の竜みたいな艦が惑星上空に飛来する。それを村に設置されている立体テレビで見て、アジ=ダハーカだと大人達が騒いでいた。
ラインハルト議長が、軍人時代に乗っていたものであるらしい。
今では同盟軍の殊勲艦であり。
この艦が来ると、ジークカイザーと叫ぶ大人と。
いや、議長万歳だという突っ込みが入り交じる。まだ、人々は民主主義というのをよく理解していないのだ。
ラインハルト議長がシャトルで降りてくる。
護衛を連れているが、若い頃の姿から全く衰えがない。
充溢していて、人生を静かに楽しんでいる雰囲気だ。
ただ、目の苛烈な光は衰えているように思う。
悪魔みたいだった昔と違って。
今は年老いた獅子王みたいだなとハンナは思った。
まだ三十路の筈だろうに。
不思議な話である。
議長は、昔カストロプとかいうろくでなしの貴族が屋敷にしていた場所で、会談をする。
あまり長くはなかったが、ハンナも時間をもらったので会う。
丁寧に礼をすると、落ち着いた雰囲気でラインハルト議長は言う。
「何か不安や足りていないものはあるか」
「はい。 私は良いのですけれど、村の東の川が荒れ放題で、このままだと近いうちに氾濫すると思います。 大人達は気づいていませんけれど、大雨の時とかは堤がぎしぎしいっていて」
「ほう、よく気づいてくれたな。 即座に測量官を派遣させよう。 聡明なお嬢さん、私にも最近息子ができてな。 お嬢さんのように聡明に育つことを願うばかりだよ」
「ありがとうございます。 私は幼い頃、あなたに救われました。 また今回も救われることになりそうです。 救われてばかりですね」
それでいいとラインハルト議長は言う。
昔、ラインハルト議長は、弱い者は弱い立場に甘んじていれば良いと思っていたそうである。
自分が弱い立場から這い上がったからだそうだ。
だが、今では弱い者のことがわかるようになってきたのだとか。
帝国と同盟を見て。
荒れ果てた地球に降りたって。
銀河系で、人間が版図にしている隅々まで回って。
結婚して、子供もできて。
大事な盟友と姉が結婚して、甥と姪ができて。
それで色々と思うところもあったそうだ。
「問題があったらいつでも頼るように。 頼られて、それでしかるべき存在であることが、私たちの仕事だ。 指導者がそれをできなくなったときは、お嬢さんが立ち上がるといい。 そしてそんな情けない指導者を打倒するのだな」
「わかりました。 そのときは頑張ります」
「うむ……」
やはり、優しくなったようだ。
昔の苛烈な瞳とは、全く違った。
ハンナは戻ると、すぐに来てくれた測量官に、堤を示す。確かに問題が発生していたらしく、すぐに手を回してくれるそうだった。
大人でも気づけなかったのに立派だ。
そう褒めてくれた。
だけれども、これからは。
ハンナが自分の足で歩く番だ。
きっと、あのラインハルトという人は、皆がそうすることを今は望んでいる。
そういう気がした。
(終)
はいというわけで短編、その時歴史がまた動いた終わりです。
ラインハルトがヤンと共闘する話はいくつか見たことがあるのですが、ラインハルトが同盟に亡命するパターンはあまりみないので、いっそ自分で書いてみました。
原作でもラインハルトは自分の血統にこだわっている様子もなく、おそらく権力を生涯保持することにも興味がなかったと思います。実力がない覇者が打倒されるのは当然で、生きている間でも構わないとまで言っていますので。
そういう意味では、意外とラインハルトに同盟の最高評議会議長は向いているかもしれません。
ちょっと変わったifですが、楽しんでいただけたのなら何よりです。
最後に。感想評価などよろしくお願いいたします。励みになります。