箱舟のお陰であっさり到着したアッチーナの山。
「やっぱり~!チョー激アツ…っ」
「さすがにこの暑さは俺でも参っちまうぜ。アイミー、大丈夫か?」
「無理かも~…」
「こんな所に長居は無用。さっさと目的のものを見つけて退散しましょ」
「ムッ、また何か来るぞ!」
お約束の魔物登場である。
「フハハハハ!お前達、流れ星の欠片を探しているようだが」
「やっぱこの展開よねぇ」
「オレはクリムゾングレイブ。この山を支配する者だ。このオレに勝つ事ができたらくれてやろう」
赤い体躯に紫色のモヒカンの半魚人ならぬ半竜馬だ。斧を構えている。
「絶対勝たなきゃ!」
「よし、サチ、行くぞ!また俺に化けるか?」
「いいえ。今回はドラゴーンと八竜神でそれぞれ行こう。アイミーはいつものよろしく」
「了解!」
「アタシは?」
「リリ姉は、ボシュがテンションマックスになるまで待って、アンコールかけて」
「サチじゃなくてボシュにね」
「うん。ボシュが怒ればさらにパワーが倍になる」
「よっしゃ、じゃあサチ一発目行け!」
サチの大津波からの攻撃に耐えた敵が雄叫びを上げる。
「いやぁ~っ」
「アイミーが怯えた!」
「ああ、アタシに怯え解除の術が使えればっ」
「仕方ない、アイミーが立ち直るまで二人でやるよ!ボシュ!」
「お、おう!ドラゴンソウルー!」
動揺したのかボシュの攻撃は今一つだ。
前回はドラゴーンで痺れさせる事に成功したが、今回の敵に麻痺は効かないようだ。
「まだまだ!大暴れしてやる!」
「っ、う…!」
「おいサチ!済まん、ガードし切れなかったっ」
サチがもろに攻撃を食らってしまった。
「サチ大丈夫?!ベホイミー!」
「ゴメン、避け切れなかった。大丈夫、アイミーそろそろどう?」
「もう少し待って…」
「おい、アイツなんか仕掛けて来るぞ!」
いよいよ魔物もダメージが蓄積されてきたようだ。その体がブルブルと震え出す。
「ぬおー、小賢しい!怒りが天を突くー!」
「え、何それ?」
「マズいわ、アイツの攻撃力が上がる!アイミー、あれを解除できる?」
「ええ?私?!やった事ないよ…」
「大丈夫やれる。凍てつく波動、使ってみて!」
ようやく復活したアイミー。戸惑いながらも初めての技を繰り出した。
「こんな感じ?えーい、凍てつく波動!受けてみよー!」
両手から立ち昇る黒いモヤモヤが、魔物にまとわりついて覆い尽くす。
「くう~!そんな卑怯な技を持っているとはっ、炎刃さみだれ斬り!」
「ゴッドガード!全然威力ないぜ!」
「攻撃力が戻ったわ、そしてボシュが攻撃を受けたお陰でテンションがマックスになった!」
「よし来た、今だわね、ボシュにアンコール!」
「そんじゃそろそろ本気出すぜ、ゴッドチェイン発動!食らえドラゴンソウル!」
それは、これまでで一番といっても過言ではない威力であった。
「ぬおお…見事だ。よくぞこのオレを倒した。約束通り流れ星の欠片をくれてやろう」
サチは敵から投げつけられた黒っぽいものをパシリと掴み取る。
「これが流れ星の欠片?」
「全然キレイじゃないね」
「想像と違ったー」
一連の戦いぶりを見ていたミカヅチが、しずしずとサチに近寄る。
「やるじゃないサチ。周りが良く見えてる。的確な判断力で指示できる才能、かなりステキ!」
「それはどうも」
近づかれた分、数歩距離を取ったサチが流す。
その異様な雰囲気に気づいた3人が聞き耳を立てる。
「ねえあなた、魔王様の元で働いてみない?私が四天王に推薦してあげる」
「ええっ!?そんな、ウソでしょ、サチが…」
「アイミー落ち着いて。私がイエスって言う訳ないでしょ。お断りよ!」
「あら残念。あなたなら豪氷天や灼爍天が抜けた穴を埋められると思ったんだケドー」
「おい。一人忘れてるぞ」
「忘れてなんかないわ。暴嵐天の穴を埋められる存在なんて、いる訳ないじゃない…」
意味深なコメントを吐くミカヅチだが、他の者はそれどころではない。
暑さに耐えかねた面々は早々に脱出を図る。
「そんな事より、さっさとズラかろうぜ!」
「そうよ、ベビーマジシャンに材料を届けて、オーブを作らせないと!」
急ぎ神殿に戻って来る。
「材料が手に入ったのか?早かったな!うひょー、湧いて来たぞ、創作意欲がっ!早速オーブ作りに取り掛かる。誰も邪魔するな?」
部屋へと入って行ったベビーマジシャンを見送り、一行は大人しく出来上がりを待つ。
サンディとアギロは箱舟で待つと出て行った。
いつものごとく、サチ達はワイワイと他愛もない会話を楽しむ。
それを黙って聞いているミカヅチとグリザード。
しばらく経って、唐突にミカヅチが口を開いた。
「それにしても分からないわ」
「何よ、いきなり?」
「サチ。あなたはそれだけの力がありながら、なぜ女神なんかに従うの?あなたならこの世界を支配する事だって可能かもしれない。それこそあの頼りない冥王なんかよりも!」
これに真っ先に反論したのはアイミーだった。
「サチがそんな事する訳ないでしょ!」
「そうよ。そういうアンタこそ、どうして魔王なんか生み出したのよ。世界征服なら自分でやればいいじゃない。あ、もしかして自信ないとか?」
「はあ?世界征服なんて興味ないんですケド!」
「だがこの世界から人間を消したいんだろ。それからどうするつもりだ?どうせまたはぐらかすだろうが、一応聞いておく」
「あら心外!それじゃまるで、私が人間を滅ぼしたいみたいじゃない?」
「だって魔王は人間を滅ぼそうとしていたわ」
「あれは私の意志じゃない。全ては神のご意志よ」
きっぱりと言い切ったミカヅチ。反論する間も与えずに続ける。
「あなた達も知っているはずよ。かつて世界を創った神は、人間を失敗作として滅ぼそうとした事を」
ところが、娘の女神が世界樹となる事で人間を滅ぼす事を諦めた。
フォズから受けた講義で知った事だ。
「でも本当にそうだったのかしら?もし神が人間を滅ぼそうとした理由が別にあったら?そして、それを邪魔した娘に失望していたとしたら」
「貴様は…そんな神の感情を利用したのか」
「利用だなんておそれ多い!私は器というお供えモノをしただけ。人間を滅ぼす事は神のご意志よ。まあ私的には、人間が滅びようが世界が滅びようがどうでもいいんだケド!」
「それなら、あなたの目的は?」
サチの問いに答えが返される前に、ベビーマジシャンが騒々しくやって来た。
「うひょひょー!待たせたな!できたぞ!」
「ご苦労様。これで準備は整ったわ。早速行きましょ」
外で待機していた箱舟に乗り込む。
「今度はどこへ向かおうってんだ?」
「ラミージュ砂漠にあるとこしえの祭壇よ。そこにオーブを掲げた時、女神のいる場所に通じる扉が開かれるわ」
「砂漠かぁ…今度はお肌乾燥注意!」
「汗で流れちゃうけど、保湿は重要よ」
「だよね~、分かってるぅ!リリ姉サマっ」
「これ、良かったら使って」
「高そうなクリームっ、サンキューです!」
やがて砂漠に到着した一行が舟から降り立つ。
見渡す限り砂だらけだ。
「遠くに塔が見えるよ。きっとあの中に祭壇があるんだね」
「早く建物の中に入りたーい」
「右に同じ!干物になる前に!妖精の干物なんて聞いた事なーい」
リリとサンディが絶妙な掛け合いを見せる中、一行は砂の中を歩き続ける。
ところが、向かえど向かえど一向に塔に近づけない。
「何だか、さっきより遠くなってるような…」
「そんな訳ないだろ、向かって歩いてんだから?」
しかし実際塔はまだ霞んで見えるほどに遠い。
「気のせいじゃない、いくら歩いても塔に近づいてないぞ!どうなってる?」
「テンチョー、こうなったらもっ回箱舟動かしてよ」
「ダメだ。見えてる場所には行けない。お前も知ってるだろ」
そう、天の箱舟はただの乗り物ではない。馬車のように使える訳ではないのだ。
「どうやら俺達が目指すとこしえの祭壇は、何らかの力で守られているようだ」
「あの見えている塔は恐らく幻。本物はどこかに隠されているのよ」
「隠されてるったって、周りには砂の大地しかないんですケド!」
「ケド!」
「お前ら、もはや立派に姉妹だな…」
「隠すって言っても、穴掘って隠してる訳じゃなく目に見えないだけ。蜃気楼の粉を集めて。そうすれば術が解けるはず」
「探し物上等!さっさと集めようぜ!」
開き直ったボシュは気合十分で前を向いた。