転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
しかし、湾口では神谷艦隊がすでに待ち構えていた。
圧倒的な艦数を前に、志々雄一派もまた切り札を投入する。
大阪湾で爆発が連なり、港の倉庫を装っていた外板が吹き飛んだ。その奥から現れた甲鉄艦『煉獄』は、黒煙を上げながら湾口へ進んでいた。
外洋へ出るまでが最も危険だと分かっていた方治は、前方に砲弾が落ちた時、煉獄に損傷がなく、船足も落ちていないことを確かめた。
「何事だ! 何が起こった!」
「前方から砲撃! 湾口に敵艦の影を確認!」
霧の奥で発砲炎が瞬くたび、並んだ艦首が見えた。
右に五隻、左に五隻。
その外側にも砲口の火が続いている。最前列だけですでに、沖田から聞かされた五隻を上回っていた。
「戦艦十五隻! さらに後方に巡洋艦十隻! 輸送船、砲艦、その他の船影は数え切れません!」
「十五隻だと! 馬鹿な! 沖田は五隻と言っていたはずだぞ! 三倍ではないか!」
手袋の中に汗が滲んだ。五隻を想定して立てた突破策は、もう使えなかった。
――あの桃色娘め。どこで五隻などという数字を拾ってきた!
砲弾が煉獄の左右と艦首前方へ落ちた。方治にも、威嚇射撃だと分かった。ここで船首を返せば生きて帰れるかもしれないが、東京へは届かない。
――だが、退くわけにはいかん。ここで負ければ、志々雄様の天下布武は水泡に帰す!
乗組員が怯えていようと、命令を変える気はなかった。
「全砲門を開け! 中央の一隻へ火力を集め、力ずくで穴を開ける! 負ければ志々雄様の天下は水泡に帰すぞ! 撃て! それから、あの男に例の攻撃を始めさせろ!」
命令は伝声管を通って各部署へ伝わった。主砲が轟き、砲弾が神谷艦隊へ向かった。
◇◇
敵艦は威嚇射撃に怯まず、湾口の二重艦列へ進んでくる。
退かない以上、正面を突破する手段を用意していると考えるべきだった。
「初弾に怯まず、突っ込んできますか」
「志々雄の連中に、まともな勘定を期待する方が間違いだぜ。この距離で、夜の海を動く船へ大砲を当てられるなら話は別だがな」
宇佐美は笑ったが、燕には煉獄の砲口が旗艦ではなく、その左後方へ向いたように見えた。
「宇佐美さん、敵の砲撃が来ます。右へ回避の舵を」
「普通の砲手なら逆立ちしても無理だぞ」
「普通なら、です。右へ!」
旗艦が進路を変え、後続艦もそれに続いた。砲弾は燕のいる船を通り過ぎ、動きの遅れた四番艦へ落ちた。左舷甲板で炎が上がり、激しい着弾音が艦橋まで響いた。
「四番艦左舷甲板に被弾! 損傷軽微、航行に支障なし!」
「……普通じゃねえ奴が乗ってやがるな」
損傷は軽い。
旗艦の転舵だけでなく、後続する各艦の速さまで読んでいる。
燕は各艦へさらに進路を変えるよう命じた。同じ位置を敵に狙わせるわけにはいかない。
「見えているとは限りません。風か波か、それとも機関の音か……こちらの動きを別の何かで捉えています」
「そんな化け物を乗せた船を、まだ捕らえる気か?」
「先に目と手を潰します。敵の主砲と舵を狙ってください。沈めるのは、そのあとでもできます」
旗艦に続いて両隣の戦艦が撃ち、煉獄の左右に水柱が立った。中央を通った一発は艦首装甲を掠めた。燕の狙いは装甲を破ることではなく、煉獄の進路を制限することだ。
◇◇
煉獄の主砲甲板で、青野霙は裸足に伝わる振動から敵艦を数えていた。
両目は赤い布で覆われている。
機関が海水へ送る振動はそれぞれ異なり、船腹に返る波の音からは艦の大きさが分かる。霙は風向き、砲口の熱、海流も合わせて、敵艦の位置と速さを捉えていた。
右前方の大きな船が舵を切った。その後ろで二隻が速力を合わせ、空いた場所へ別の艦が入ろうとしている。見えていない霙の方が、砲手たちより先にその場所を指した。
「右舷四度、仰角をさらに二度。西寄りの潮風、波のうねりは二拍子……狙いは先頭から四番目の戦艦だ。今いる場所じゃねえ。次の波を越えた先へ落とせ。二番から五番、右から半拍ずつ遅らせて撃て」
四門の主砲が順に轟き、反動が霙の足裏へ伝わった。右の砲弾は風に流され、最後の一発が狙いどおり着弾した。遠くで鉄が割れ、四番艦の機関音が乱れた。
「敵四番艦に再度命中!」
「見事だ! この暗闇と長距離で、二度続けて直撃を奪うとは!」
「喜ぶのは早いぜ。向こうの指揮官も相当な腕利きだ」
神谷艦隊の砲弾は、煉獄の右前、左後ろの順で海へ落ちた。砲撃は逃げられる方向を絞り、主砲と舵を狙っている。次の一発も艦首装甲を掠めた。霙は、敵が煉獄を沈めずに捕らえようとしていると読んだ。
「こっちの砲撃軸を一発で読んでやがる。俺たちを船ごと奪うつもりだ。おい方治、甲板へ雑魚兵を出すなよ。向こうには、銃で人間だけを抜く奴もいる。眉間に穴を開けられてから泣いても遅いぜ」
「貴様に言われずとも分かっている!」
方治が舷側から離れた。霙は旗艦の機関音を探した。指揮を執る船を止めれば、包囲の連携を崩せる。
「次は旗艦だ。左舷三度、仰角はそのまま。奴が包囲を狭めるために前へ出たところを撃つ」
◇◇
包囲を緩めなかった。遠ざかれば敵砲手へ次の計算時間を与える。ならば砲撃を浴びせながら近づき、煉獄の速力を奪う方がまだましだった。
「全艦、微速前進。包囲を狭めます。砲塔を三つ潰しても進んでくるなら機関を、それでも止まらなければ弾薬庫を避けて船底へ撃ち込んでください」
「まだ捕らえる気か」
「甲鉄艦一隻を海へ沈めたら、観柳さんが三日は泣きます」
「三日で済むかねえ」
「ただし、こちらの船と兵を失ってまで残す価値はありません。突破されると判断したら撃沈します」
「きゃっ……!」
燕が言い終えるより早く、上甲板で爆発が起きた。艦橋が大きく揺れ、燕は床へ倒れた。
煉獄の砲撃なら横から来る。だが、続く爆発も頭上で起きていた。
宇佐美に抱き起こされた燕が甲板へ出ると、霧の中から導火線のついた黄色火薬筒が次々に落ちてきた。宇佐美が兵士を床へ伏せさせた直後、そばの筒が爆発し、鉄片が扉に刺さった。
「何事だ! 装甲の厚いこの船を、上から揺さぶっただと!」
「大量の黄色火薬筒が降ってきます! 空に敵がいます!」
「お空から……どうやって飛んでいるのですか?」
「見えません! 霧と夜の闇が深すぎて、翼らしきものしか捉えられません!」
「探照灯を上空へ向けろ! 何が飛んでいようと照らし出せ!」
「待ってください。探照灯をつければ、煉獄からこちらの位置が見えます」
「構いません。全艦、探照灯を上空へ! 甲板の連装回転機関砲を起動してください。空の敵を撃ち落とします!」
探照灯が霧を照らし、人の胴に蝙蝠の翼をつけた影を捉えた。
蝙也は機関砲を撃たれると翼を畳んで急降下し、銃弾の下へ逃れた。再び翼を開いて上昇し、上空から笑った。
「くくく……はははは! 遅い! 海上の木偶の坊が、俺の影を捉えられるものか!」
探照灯が、蝙也の腹に結びつけられた黄色火薬筒を照らした。蝙也は十本の導火線へ火をつけ、両手で投下した。
「火を探している間に、船ごと燃えろ!」
「影を追わないでください! 落ちてくる火の上を撃ちながら、その根元へ砲口を広げて! 右舷の探照灯はさらに上、翼を開くところを狙います!」
旗艦と両隣の戦艦が機関砲を撃ち、二本の火薬筒を空中で爆発させた。残りは主砲周辺と艦尾へ落ちた。燕が上空を迎撃している間に、煉獄は距離を詰め、四番艦へ三度目の砲弾を当てていた。
「船一隻だけでも面倒だってのに、空からまで来やがったか」
「どちらも通しません。対艦砲撃を継続。連装回転機関砲は上空へ!」
巨砲と機関砲の音が重なった。燕は煉獄と蝙也の双方から目を離さなかった。
◇◇
京都では、夷腕坊は、戦場から離れる路地へ入っていた。厚い腹の中から聞こえる武器の音で、仲間たちが分断されていると分かる。宇水は東、宗次郎を追う銃声は北の屋根、鎌足の大鎌は南で別の刃とぶつかっていた。どの音も遠ざかっている。
――揃いも揃って誘い出されたか。これでは数で押すこともできん。
本隊へ戻る道には警官が溢れ、仲間を捜せば自分も待ち伏せへ踏み込む。西の川へ出れば潜れる。夜明けまで生き残るには、それで十分だった。
――所詮は狂人の寄せ集めよ。ここで付き合って死ぬ義理はない。
「ぐふふふふ……」
逃走を悟らせないよう、夷腕坊はいつもの笑い声を上げながら裏路地へ曲がった。川まで三つ目の角に差しかかったところで、暗がりから声がした。
「どこへ行く気だ? ここからが一番面白くなるところだぜ」
油樽の並ぶ裏庭で、とある男が崩れた塀へ腰を預けていた。
包帯の隙間から覗く目は、人形の顔ではなく、その腹に隠れた外印を見ている。
外印が逃げようとした時、無限刃が夷腕坊の左肩から右脇腹を斬った。刃は厚い皮膜と木骨を裂き、内側の鋼線に挟まれて止まった。上半身が傾き、切れた操り糸が外印の足元へ落ちた。
「ぐ、ああっ!」
「ほお。一刀で二つにしてやるつもりだったが、面白い仕掛けだな。腹の中へ何重も骨を通してやがる」
斬り口に残った脂が燃え、炎が糸と歯車を伝って腹の中へ入ってきた。このままでは、外印も人形ごと焼かれる。
「な……刃から火が……! 燃える! 中まで入ってくる!」
外印は焼けた背部を破って夷腕坊から脱出し、そのまま路地へ逃げ込んだ。人形は失ったが、外印自身は逃げ延びた。
「消えろ、雑魚が。貴様のような腰抜けは、もう十本刀でも何でもねえ」
外印を追わなかった。燃える夷腕坊から煙管へ火を移し、足元の油樽を倒した。人形の火が油へ移り、隣の蔵まで燃え広がった。
「何て言ったかな。沖田が前に口にしていた、りすとらとかいう奴だな」
蔵の戸が燃え上がった。無限刃を鞘へ戻し、戦闘音の集まる中央へ向かった。
「前の露払いは済んだ頃合いか。そろそろ俺も動くとするか」
志々雄は燃える夷腕坊と蔵を背に、大通りへ出た。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は大阪湾での煉獄迎撃と、ついに動き始めた志々雄を描きました。
燕と霙の砲撃戦や、蝙也の空襲、夷腕坊の扱いについて感想をいただけると嬉しいです。
実はリストラがある十本刀!!だれが落ちる?
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鎌足
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蝙也
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夷腕坊
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方治