妻を想っているのに愛人を複数作るのも!
実の息子を育児放棄するのもまだ良い!
しかし、親戚の集まりに顔を出さないとは失礼にも程がある!
特務機関NERVにて。
エヴァンゲリオン初号機、その整備場所。
紫色の巨人を前に、話は進んでいた。
「これが人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン‥‥その初号機」
「我々人類の、最後の切り札よ」
地上では使徒*1が暴れ、地下であるこの場所にも振動は伝わっている。
「これが‥‥
父ゲンドウに放棄され、親戚に預けられた少年。
『来い』の一言だけで地元を離れここまで来た彼の目的は、やはり父ゲンドウである。
「そうだ」
上の通路に一人の男が立っている。
彼こそ
人類補完計画*2という、不完全な今の人類を完全な存在にしようとする試み。
その計画に乗り、最愛の妻ユイと再び会おうと暗躍している男である。*3
「‥‥ゲンドウ君」
「ふっ‥‥出撃」
久し振りにあった父ゲンドウが発したのは、淡白で最低限な単語だけだった。
なにを隠そう、このゲンドウという男は隠キャのコミュ障であり、親戚の集まりが苦手なタイプの人間だ。*4
妻以外には、息子相手にすら心を晒せない臆病者である。*5
「出撃!?パイロットもいないのに!」
「今届いたわ」
半ば叫ぶように言った葛城ミサト*6の言葉を、赤木リツコ*7が否定する。
シンジが初号機に乗ることは既定路線である。
初号機の設計段階から計画されており、それを見越してシンジの母ユイは初号機と一体化した。*8
「まさか、シンジ君を乗せる気!?」
「それしか方法は無いわ。零号機が凍結している以上、初号機の他に戦う手段が無いのだから」
エヴァンゲリオンは複数の機体があるが、日本には現在零号機と初号機しかない。*9
つまり、誰かが初号機を動かして使徒と戦わなければならない。
「シンジ、エヴァに乗れ。でなければ帰れ」*10
「‥‥ゲンドウ君」
勇気では無い。勇気とは未知へ踏み出す最初の一歩である。暗闇を開拓する意思である。
だからこそ、これは覚悟なのだ。危険を危険と認識して尚進む意思なのだ。
「ゲンドウ君!」
大声が炸裂した。近くで作業していた職員すら手を止めて顔を向けるほどだった。
「人類補完計画とやらで人類を滅ぼそうとするのは良い!」
「妻のことしか考えていないような顔をしながら愛人を作るのも! 実の息子を育児放棄するのもまだ良い!」
「しかし! 親戚の集まりに顔を出さないとは失礼にも程がある!」
その場に居た全員の顔が大きく変わった。
驚きであり、焦りであり、恐れでもあった。
───