米花町には犯罪者が多すぎるって話。   作:ひつまぶし太郎

10 / 10
灰原哀をヒロインにするにあたって避けては通れないピスコ回です。


10/犀はスキーがお好き

 

 

「スパイダーマン?」

「そう!最近流行りのちびっ子ヒーロー」

 

その時の認識は、別にただの話題の一つで。

 

「可愛いのよね。割ところっと騙されてくれたり、なのにすっごく頼りになるし…」

「へぇ…」

「あとやけに私に懐くし…頭撫でると可愛い反応するのよ?」

「全身タイツの子供がお姉ちゃんに発情してるってこと?殺さなくちゃ…」

「言い方!」

 

もしかしたら、という可能性の一つでもあった。

 

「……ねぇ、志保。私はさ、全然詳しくなかったけど…お母さんたちのやってたことで、SSシリーズって…知ってたりする?」

「SS…?ずいぶん前に、それこそ…お母さんが命を落とす前に凍結されたって聞いたけど。Synthetic Soldier。試験管で人間を生み出す悪魔の計画…」

「シンセ…?」

「人工的な、って意味よ。多様性幹細胞を元に全臓器どころかあらやる部位の再生を…ってコンセプトで始めた、みたいな記述があったわね…。倫理的な問題でお母さんが無理矢理計画を凍結したらしいけど…」

 

あるいは、逃げられない罪の話。

なぜ姉がその話題を出したか、それを知るのは姉が死んでから。

縋るように、姉との最期の言葉をなぞる様に資料を読み返していたから。

母の死後、計画の凍結とともにコールドスリープ状態にされていた赤子が5年前に解凍され別の実験に使われていたという事実と、姉からのヒントのせいでたどり着いた真実に志保の心は凍りついた。

 

───ねぇ、きっと君には笑顔が似合うと思うんだ

 

…まぁ、近い未来無垢ショタによるパーフェクトコミュニケーションによって心がほぐれるどころか手を出すようになるのだが。

 

「それよりお姉ちゃん大丈夫?かなりヤバいことになってるって聞いたけど」

「心配しないで…まぁ、仲間に誘った人が『巨大なサイの鎧を着て暴れ始めたときは』どうなるかと思ったけど…」

「やっぱり、米花町で強盗なんて無謀だったのよ…」

「しょうがないじゃない。仲間を募るなら米花町が一番やりやすかったんだから…」

「それで今や新聞を毎日騒がせる『ライノ』一味に成り上がり?面白い冗談ね」

 

 

志保は、今でもその笑顔を今でも昨日のことのように思い出す。

 

 

「私は大丈夫よ。ライノに殺されそうになったときも噂のスーパーヒーローが助けてくれたし。…まぁたぶんそろそろ嘘に気づかれて捕まっちゃうけどね」

 

 

あの時の自分は最後に何を言ったのだろうか。

捕まっても面会に行くとか、そんな呑気なことを言っていた気がする。

組織に影を踏まれているより、きっと刑務所のほうがましだ、なんて馬鹿なことすら想像して。

 

 

「ねえ、志保。もし危なくなったらスパイダーマンに助けてもらってね」

 

 

そんな未来、あるわけないのに。

 

 

「うわー!なんで君たち脱獄してるわけ!?警察は何やってんの!?勘弁してよ!」

「うるさいガキだ!子供に用はない!俺の邪魔をするな!」

「ちょっとさぁ、みんなして僕を子供扱いしすぎじゃない?そりゃ…」

 

あの日、薬を飲んだ日。

降りしきる雨の中で、灰原哀でも宮野志保でもなかったあの短い時間で、少女は少年に一度助けられている。

 

爆発で瓦礫が舞い、銃弾がぶっ放され、それを小さくて白い蜘蛛が必死に防ぎ切る。

 

「未熟者なのは認めるけどさ!」

「ぐぁ!」

「そんな子どもに何度も何度もやられてるのって恥ずかしくならないの?僕だったら恥ずかしくて一生牢屋から出てこれないね!」

 

そんな、米花町ではよくある過激な銀行強盗。

運悪くそこに巻き込まれた彼女は、限界寸前の意識が途切れる直前に、スパイダーマンを頼った。

 

「ふぅ…まったく。そもそも脱獄してまずすることが銀行強盗?普通その囚人服着替えるところからでしょ!服が気に入ったんならそれに見合う場所にいてよね…」

「スパイダー…マン」

「…うわ、すごい熱。服もぶかぶか…大丈夫?」

「米花町…2丁目…2…番地…」

「え、もしかして今僕ってタクシー扱いされてる?お客さん?ちょっと?泥酔したサラリーマンでももうちょい住所しっかり言うよ?もしもし?」

 

意識が途切れ、20番地のどこかまで聞き取れなかったスパイダーマンと阿笠博士が、ほんの少し言葉を交わしたらしいが、志保は知らない。

 

「なら、ワシが預かろう。こんな雨の日にこんな小さな子を外には放り出せんし…君も少しは休んでいったらどうじゃ?温かいコーヒーでも出そ…もういってしまったか…」

 

高熱で魘される女の子相手だとめろめろになる前に心配が勝るスパイダーマンが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のはもう少しあとの話。

 

スコーピオンに殺されかけるその日まで、二人の糸が交わることはなかった。

 

 

 

 

 

「シンデレラの魔法も十二時には解ける…ちょっとだけでも、いい夢を見れたってわけね…」

 

白い雪の世界で、血の池に沈みながら宮野志保は自嘲する。

志保は今、とらわれていた部屋からなんとか脱出したが、その先で黒の組織の幹部2人に待ち構えられていた、という状況だった。

 

「綺麗じゃねーか…闇に舞い散る白い雪…。それを染める緋色の鮮血。組織の目を欺くためのその眼鏡とツナギは、死に装束にしては無様だが…ここは裏切り者の死に場所には上等だ…。そうだろ?シェリー…」

「あら、もしかして死に花を咲かせるために待っててくれたってわけ?こんな寒い中、ずいぶんと辛抱強いのね…」

「フン…その唇が動くうちに聞いておこうか。お前が組織のあのガス室から消えたカラクリを…」

 

雪は止まない。

絶望は止まらない。

 

「うわー!ごめん!女の人に銃向けてる遊園地でいい年して男二人でジェットコースター乗ってそうなそこの二人!───危ないから避けてね!」

 

だが、ヒーローは来た。

脱獄したライノを止めるために必死に糸を巻き付けて怪我人を出さないように頑張っている最中というかなりまずい状況で、普通にコナンから救援要請の電話がベル・パーカー宛に来て、ビビり散らかすスパイダーマンが。

 

『ちょ、ごめん!今っ!東京のォ゙…おわぁ!?雪…サンバってヤツ?に参加してて!手、がぁ!離せないぃぃぃイイイイイイかもぉ!?ちょ、こら!ショッピングモールに突っ込まないで!』

『ハハハ、しっかり捕まってろよおチビちゃん!ショッピングデートだ!』

『うわ、水無アナウンサー!いい衣装ですねロケ中ですか?雪降ったからってサンタコスするとか単にコスプレしたかっただけかなみたいな感じですけど!とっても素敵です!ミニスカなのがフェチ丸出しでえぇぇぇええええ…』

『…ふざけないで!カメラ回してほら早く!あいつよ!あのセクハラしかしないおしゃべり蜘蛛野郎をカメラに収めて!今日の緊急ニュースはスパイダーマンの悪事で決まりよ!』

『……なんでそんなに水無アナウンサーに嫌われてんの…?じゃなくて!悪い、ベル…いや、スパイダーマン!助けてくれ!』

『イヤ!だか!ら!…今忙しくて。……ええ!?嘘でしょなんで正体バレてんの!?』

『わりー…さすがにお前への灰原の態度見てたら分かりやすすぎて…』

『は?』

『正直インスタの匂わせ女かなってくらい臭かった』

『そんな正体バレって許されるんですか!?』

 

そう。

コナンの言う通り、私だけは彼の魅力を分かってるムーブとか、意味深に唇を撫でたりとか、なんか周りが小学生だからバレないのをいいことに灰原はやりたい放題秘密裏に付き合ってる思春期ごっこみたいなことをしていた。

付き合ってないのに。

 

付き合ってないのに(2回目)。

 

恋愛に疎いコナンが気づくレベルなので結構灰原はやっていた。

やらかしていた、とも言う。

 

とはいえ、普通に見て見ぬふりするつもりだったコナンは幼児化しているにも関わらず黒の組織に灰原が攫われたというピンチに、断腸の思いで携帯を取ったのだ。

 

その期待に完璧に応えてみせたベルは、まさにスーパーヒーロー。

空中に飛び上がったライノの背中に糸を貼り付け、無理矢理力付くで振り回す。

 

「さぁライノ、年貢の納めどきだ!」

 

ハンマー投げのようにライノが投げられる直前にジンが目を見開き、だが、避けるよりも先に大きな人影が屋上に叩き込まれる。

 

「あ、兄貴───!?兄貴が空中から飛んできたサイのケツに轢かれた!?」

 

そして、宮野志保の恐怖の象徴であり、悪のカリスマで黒の組織の幹部のジンはその整った顔をサイのケツに轢かれて屋上から吹き飛ばされた。

 

「だから避けてって言ったのに!」

「巫山戯ろクソガキ!おチビなお前なんか今すぐにでもペシャンコにしてやる!今のコイツラみたいにな!」

「まさかその子どもっぽい口調って僕に合わせてたりする?それとも普通に頭殴りすぎた?…あ、ごめーんそもそも君は元から頭悪かったか!」

「殺してやる!」

「今日はせっかく季節外れの雪なんだよ?ちょっとは頭冷やしたらどうかな!」

「無理だな!生と死のやり取りはぞくぞくするだろ!?」

「理解できないかなって!」

 

最終的にスパイダーマンが、脱獄囚のライノを鉄コンテナと衝突させて確保したことで街の平和が守られたにも関わらず、ツバを飛ばしながらスパイダーマンを自分の番組の『Judgment.Jiffy.Journal』で悪しざまに罵る水無玲奈が見られたというが、どれもこれも米花町ではよくある話だった。

 

 

「…ありがとう、私のヒーロー…」

「ごめんぼろぼろでヒロインぶって浸ってるところ悪いけどちょっと物申したいことが…」

「あら、キスする?」

「いや、そんな誤魔化し方ずるんんんんんんんんん!?」

 

 

黒の組織すら容易に近づけない米花町。

犯罪者たちが多すぎるその街で、住民たちは今日も元気に暮らしている。

 

 

 

 




今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
少年の過去とか、匂わせ哀ちゃんとか、十億円事件の詳細とか、JJJと化した水無玲奈とか、ケツに轢かれるジンの兄貴とか、キスで誤魔化す悪女哀ちゃんとか。
あとどっかでコナンにタクシー扱いされて流行ってる?って言ってた理由とか。
色々詰め込まれた回でした。
もし許されるなら感想と評価をくださるととても嬉しいなって思います。

■J・ジョナ・ジェイムソン。
略してJJJ。スパイダーマンを目の敵にしており、スパイダーマンの写真をピーター・パーカーから買っては一面に乗せてくれる新聞社の社長。
スパイダーマンが自分を戒めるためにあえてJJJのニュースを聞いていたり、逆に本気で鬱陶しがっていたり、作品ごとに多少の特色はあれど憎みきれないキャラである。

■ライノ
力自慢具合で言うならかなりトップクラスの敵。
スパイダーマンの敵としてはかなり有名。
アメイジングスパイダーマンではあまりにもかっこいいスーツと共に登場した。
本作では十億円事件の名もなき大男がライノになった。

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