とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第117話 帰り道の幼馴染たち

 伊本さんの家を出たのは、夜の八時を過ぎた頃だった。

 住宅街の静かな夜気の中、三人で並んで歩き出した。

 街灯が等間隔に並んで、足元を照らしている。

 

「三人でこうして歩いてて大丈夫なのか。目立つだろ」

 

 俺がそう言うと、朝香は少し考えてから答えた。

 

「むしろ、プラスよ。西遊記のキャスト三人が仲良く歩いてる。それだけで話題になるわ。隠れてこそこそするより、堂々としてた方が印象がいいの」

「……計算してんな」

「当然でしょ。芸能人が三人いれば、どこを歩いても仕事になるの」

 

 どこまでも思考が芸能人な朝香に、ルナが隣で苦笑する。

 

「朝ちゃんは本当にそういうとこ抜かりないよねー」

「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

 しばらく、三人で歩いた。

 夜風が思ったより冷たくて、朝香がカーディガンの前を合わせる。

 

「ルナ、最近どうなんだ」

 

 俺が聞くと、ルナは少し間を置いた。

 

「んー、まあ、大変だよー」

「グループのこと?」

「朱代が抜けてからメンバーの士気を保つのがねー。ライブツアーも控えてるし、走り回ってる感じー」

 

 飄々とした口調だったが、疲れが溜まっていることは明白だった。

 

「ファンは離れてないのか」

「コアなファンは残ってくれてるよー。新規が取りにくくなってて、そこが課題かなー」

「今度のライブ、いつなんだ」

「年末くらいかなー。ドーム公演」

 

 ルナはスマホを取り出して日程を確認する。

 

「忙しいのに今日来てくれたんだな」

「伊本さんに誘われたら断れないじゃんー。あと、みんなの顔見たかったしー」

 

 さらっと言ったが、本音だろう。

 ルナが先を歩き始めたタイミングで、朝香が少しだけ声を落とした。

 

「今日みたいなのが、普通なのかしら」

 

 問いかけというより、独り言に近い声だった。

 

「今日みたいなのって、どういう意味だ?」

「伊本さんの家……家族団欒、みたいな?」

 

 朝香は前を向いたまま、言葉を選ぶように続ける。

 

「食卓に全員が揃って、誰かが笑ったら全員が笑って。話が途切れても気まずくならなくて……ああいうのが、普通なの?」

「そういう家庭は多いと思うけどな」

 

 俺は、そういう普通の家庭とは程遠くなってしまったけどな。

 

「あたしの家はそうじゃなかった。食卓に全員が揃うこと自体が少なかったし、揃ったとしても話題はだいたい仕事の話だったわ」

「ご両親は仕事以外の話はしないのか?」

「そうね。基本的にあたしの仕事の話をよく聞いてくれたわ」

「仕事の話してたのお前かよ」

 

 授業参観の話を聞いたときも思ったが、朝香のご両親は割と不憫だな……。

 

「普通って何なのかしらね」

 

 ルナが少し先で振り返った。

 

「二人とも、なんの話してるのー?」

「なんでもない」

 

 さらりと誤魔化そうとする朝香をじっと見てから、ルナは何も言わずに前へ向き直った。

 

「そうだ、ルナ。ライブ、みんなで行っていい?」

「えっ、ライブ?」

「伊本さんも誘って。西遊記メンバーで行くのはどう?」

 

 朝香の言葉に、ルナが目を丸くした。

 

「朝ちゃんが自分から言い出すなんて珍しー」

「悪い?」

「悪くないよー。むしろ、嬉しいよー」

「じゃあ、決まりね」

「関係者席に呼べるかマネさんに聞いてみるねー」

 

 ルナが苦笑しながらも、どこか嬉しそうにスマホを操作し始める。

 その様子を見て、朝香は満足そうに前を向いた。

 さっきまでの疲れた顔が、どこかに消えていた。

 

「翼も来るわよね」

「もちろん」

「決まりね」

 

 朝香が小さく頷く。

 街灯の下で、三人の影が並んで伸びていた。

 

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