声優になった元同期がインターネットでもあまり見かけないコテコテのオタクみたいなしゃべり方になっていた。
その事実に俺と朝香は固まってしまっていた。
「その、口調は何?」
カメラが回っていることに気が付き、正気に戻った朝香がおそるおそる尋ねる。
「いやぁ、拙者生粋のコミュ障でしてなぁ。この口調でないとまともに人と話せないのでござるよ」
「そう、なんですか?」
スタジオから出てきたムラセミ役の声優である秋毫さんに視線を向けると、秋毫さんは苦笑しながら答える。
「照れ隠しみたいなものだから、生暖かい目で見守ってあげてくださいね?」
「は、はあ……」
というか、この人声良っ!
見た目も美人だし、とてもじゃないがさっきまでダミ声で鳴いていたセミブレードとは思えない。
……それを言うなら朝香もそうか。
「あら、自己紹介がまだでしたね。ムラセミ役の
「長那凪世弥役の伽須翼です」
「シガラティ役の羽田朝香です」
「おっほwww。お二人がセミブレードの役名を名乗る日が来るなんて、テンションあがりますなぁwww」
主演がこの調子で大丈夫なのだろうかと思わないでもないが、コミュニケーションに難があるタイプでいえば俳優にも結構いる。
よく共演する井田さんはぶっきらぼうなタイプだし、カメレオン俳優と名高い
それに、アニメセミブレードシリーズの〝斬鉄飛翔〟が始まってからもう一年経つ。
包容力のありそうな秋毫さんもいるし、なんだかんだで、うまくやっていけているのだろう。
「それにしても……」
身長が伸びなかったとはいえ、同い年かと疑う見た目である。
たぶん、百五十センチもないだろう。
顔つきも昔に比べたら成長はしているとは思うが、かなりの童顔だ。
小学生と言われても、ギリ騙せるレベルのビジュアルである。
「ちょっと翼。あんまりジロジロみないの」
萌絵を見ていると、むっとした表情の朝香に脇腹を突かれた。
「うっふーん♡ どうやら翼氏は拙者の悩殺ボディにメロメロのようですなぁ」
「鏡見てから出直してきなさい」
「あのぉ、そろそろ対談のほうに……」
それから俺たちは、対談の撮影に移った。
スタジオの一角には、白を基調としたソファセットが用意されており、三人掛けのソファに、俺、朝香、萌絵の順番で腰を下ろす。
照明が調整されている間、萌絵は前のめり気味にカメラの位置やマイクの角度を確認していた。
「本番、いきまーす」
志賀さんの合図で、カメラの赤いランプが点いた。
「本日は〝劇場版 斬鉄飛翔セミブレード~蒼空の紅剣シガラティ~〟ゲスト声優の伽須翼さん、羽田朝香さんにお越しいただきました!」
萌絵の司会に合わせて、二人で頭を下げる。
普通にしゃべれるじゃんと思ったが、司会という役を作っているのだろう。
さすがにTPOはわきまえているようだ。
いや、さっきのはドッキリで素のリアクションを捕えるためのカメラがあった。
普段からあのオタクキャラでいるのなら、そっちを見せるためにあえてオタクキャラを演じているのではないだろうか?
「実はですねぇ……なんと私、子役時代は二人と同じ事務所に所属しておりました! イェーイ! ドンドンパフパフ!」
「本当に久しぶりね、川越さん」
朝香が落ち着いた口調で答える。
「俺の場合は同期だったからな。なんか昔の仲間が活躍してて嬉しい気持ちになったよ」
「いやいや、二人に比べれば私なんて全然!」
俺の言葉に対し、オーバー気味に手を振って否定する萌絵。
どうやら、身体を使った表現力も衰えているわけではなさそうだ。
「思い出話に花を咲かせたいところではありますが、さっそく本題に入っていきましょう!」
今回の対談は映画の宣伝が目的のため、萌絵はすぐに話題を軌道修正する。
「二人はセミブレードシリーズって、プレイしたことある?」
「俺はガチ勢じゃないけど、ランクマに潜ったことはあるよ。あと、カードも一通りさわってたかな」
「ゲームはちょっと触った程度だけど、アニメは見てたから世界観は把握しているわ」
「ふむふむ……では、翼君。好きなセミブレードは何かありますか?」
「クマゼボルグかな。数年前の対戦環境で、防御力とゴリ押し性能のバランスが崩壊気味だったんだよ。使ってるほうが楽しかったけど」
「あ~、あの時代ランクマ潜ってたからわかるぅ。あの頃のクマゼボルグ、鎧の貫通値がエグイことになってたからね」
「そうそう、あれのせいで大会でもクマゼボルグミラー戦ばっかりになってたな」
一通りガチめの話で盛り上がったところで、萌絵は朝香へと話題を振った。
「朝香さんはどう?」
「アニメの方で活躍していたセミナギが好きよ」
「セミナギいいよねぇ! 特に巨大セミゴロンロボを一太刀で真っ二つにしたシーンが激熱だよね!」
「ええ、あのシーンはライバルである日暮のセミブレーダーとしての成長も描かれていてとてもよかったわ」
朝香は該当シーンを噛み締めるように頷くと続ける。
「アニメを見て、それからゲームで探したらまるで別物みたいな性能で戸惑ったけどね。でも、それも含めて愛おしいと思ったのよ」
「わかる人にはわかるんだよねぇ、セミナギの良さって。私も未だにあの回だけは円盤擦り切れるくらい見てるんだよね」
それから対談は続き、志賀さんから合図が出たタイミングで、萌絵は話を切り上げてまとめに入った。
「それでは最後に、劇場版への意気込みを一言ずつお願いします!」
「シガラティは、今回のタイトルにある通り〝
「長那凪世弥は、シガラティが住む神殿の守り人をやっている少年です。彼とシガラティの関係にも注目です」
「私も民吾として頑張ります! 民吾とムラセミの新たな冒険を見逃すな! みんなも一緒に……」
「「「ブレード・オン!」」」
「……はい、以上で対談は終了です! 皆様、お疲れ様でした!」
志賀さんがカットの合図を出す。
カメラのランプが消えると、萌絵は満足げに息を吐いた。
「いやぁ、喋り倒しましたなぁ」
機材の片付けが始まる中、朝香がふと思いついたように口を開いた。
「そうだ、せっかくだし、三人でご飯でも行かない?」
あの朝香が打算抜きで誰かをご飯に誘うなんて……文化祭での一件は彼女を人として成長させたらしい。
よっぽど意外だったのか、萌絵は一瞬固まってしまった。
「お、おほー! 朝香氏からのお誘い、行くに決まってるでござる!」
「決まりね」
朝香がスマホを取り出して、個室のある店を検索し始める。
その様子を見て、俺は思わず笑ってしまった。
子役時代、稽古場の隅でひたすら台詞を繰り返していた萌絵と、こんな風に朝香も交えてご飯に行く日が来るとは思わなかった。