『僕のヒーローアカデミア』という作品がある。
実のところ、俺はあまりこの作品のことをよく知らない。
熱心な友人と軽く話を合わせるためにwikiを流し読みした程度の知識量しかない。
しかし、この作品の舞台が『個性』という超常の力を大多数の人々が持つ世界であること、そんな『個性』を振るうヒーローやヴィランと呼ばれる人達が活躍する物語であるということは知っていた。
だからだろうか、物心ついた時にはここが俗に言う『ヒロアカ』の世界であることはわかっていたし、ついでに自分には『ヒロアカ』が創作物として存在する世界に生きていた前世の記憶というものがあることもわかっていた。
そんな世界に生まれたからには、自分にどんな個性が宿っているか気にならない人がいるだろうか?
少なくとも、俺は気になった。気になりすぎて赤子の時分には夜泣きを多くしてしまった。これに関しては、今世の親には申し訳なく思うばかりだ。
だがそんな俺を、両親は嫌な顔ひとつせず優しく育んでくれた。
……前世と比べるというのはいささかながらはばかられるが、十分以上に愛情を受けていると感じた。
そして4歳を迎えた頃。
ヒロアカ世界においては、個人差によって前後する場合もあるが、4歳ごろには個性が発現するとされている。無個性でなければだが。
しかし俺には、個性を持っている自信があった。
だから、母から個性の検査に行くと言われた時には小躍りした。
これまでは肉体年齢に引きずられてかほんのり苦手意識のあった病院が、遊園地のどのアトラクションよりワクワクする場所になった。
検査が終わって、待合室で結果を待つ。しばらくすると、名前を呼ばれた。少し苦い顔をする。名前を呼ばれるのはあまり好きではないのだ。
しかしそんな思いは、個性の判明という一大イベントの前にチリのように吹き飛んでいく。
診察室の中に入れば、すでに人の良さそうな医師が中でバインダーを見ながら待っていた。
彼はこちらを向いてにこりと微笑むと、前の丸椅子に座るよう促した。
促されるまま素直に椅子に腰掛けるも、言いようもない高揚感を前に、年甲斐もなくあるいは年相応に椅子とともにクルクルと回ってしまう。
その様子を見た母に、普段より強い語気で嗜められる。
母も緊張しているのだろう、真剣な眼差しを医師に向けている。
そんな様子を前に母に、少しはしゃぎすぎたと内省して聞く姿勢を作る。
……ごくり。
己の飲み込む唾の音が、いやに大きく体内に響いた。
こちらが落ち着くのを待っていただろう医師が、ゆっくりと口を開く。
「新田くん。君の個性は……」
「『滅殺開墾ビーム』*1です」
うん、知ってた。
だって俺の名前は、『
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ヒロアカ世界ってのは、とにかく名前が個性的だ。
というより、名前を見れば大体個性がわかると言っても過言じゃない。
なんで個性が発現する前、なんなら産まれる前から個性ドンピシャな名前を付けられるんだろう。異形型ならわからないでもないが。
ヒロアカ世界七不思議の一つだ。
ちなみに、俺の母曰くビビッとアイデアが降りてきたという。
そんな世界で、俺は"滅殺"の2文字を背負って産まれた。
そもそもなんだよ『新田 滅殺光』って。
親も大事な一人息子の名前なんだから、そんな邪神の怪電波の如きアイデアは着拒してしっかり考えてほしかった。
なんなら、ビームの個性なんだから『
日の丸弁当の梅干しがサルミアッキ*2に変わってるような違和感だ。そんな弁当があったら味が全部サルミアッキに支配されるだろ。もはやフィンランド料理と化している。
当然、そんな世界のルールを周りの人たちも朧げに気にしているようだった。もっとも、血液型占いレベルの信じ方のようだが……。
というわけで年は巡り、今や15の夏。
滅殺の2文字を背負った俺は、血液型占いレベルで避けられていた。
「なんでだよ……!なんでこんな名前で産まれてきたんだ俺は……!こんな名前じゃなかったら、今ごろ彼女とか3人くらいできてたろ……!」
暑い日差しと蝉の声が差し込んでくる教室の中で、俺は休み時間を机に突っ伏して無駄に消費していた。カサカサとゴキブリのような動きでもがきながら世の不条理を呪う。
「いや彼女ができない云々は名前とは関係ないんじゃないかな……」
前の席からクラスメイトが、黒々とした尻尾でつつきながら反論してきた。
俺の心に300のダメージ。
「いやでも変な名前は変な名前だろう!?お前だって散々な目に遭ってきたんじゃん」
「確かに僕の名前は縁起良かったり悪かったりするけど……」
と、言い淀む異形型の彼の名は『内閣 総辞職』。
個性『内閣総辞職ビーム』*3という事で俺とはビーム友達、ビー小町を結成している。
彼はその名前のセンシティブさから今の政権に不満がない時は遠巻きにされ、今の政権に不満がある時には担ぎ上げられる面倒な星のもとにいる。
「はーあ、なんか名前変える良い方法ないかな……」
「なら良い方法があるよ」
「お、なんだなんだ」
「ヒーローになってヒーローネームで呼んでもらうとか」
「ヒーローになるまでどんだけかかるんだよ」と嘆息する。
しかし、悪い案ではないかもしれないと心のどこかで考え始めた。
「1年の時からインターンをやってるような学校ならそんなに時間はかからないんじゃない?」
そこに内閣の追い打ちが決まる。
逃げる相手を落とすことに限っては無類の才能を持つ内閣の
「俺は……!ヒーローになる……!」
拳を振り上げ、決意を口にする。
漫画なら見開き1.5ページ分くらいはもらえるだろう。決めゴマだ。
「すっごい不純なヒーロー誕生の瞬間を見た」
「うっせえ死活問題なんだよ」
「あと1年からインターンやるヒーロー科って、トップレベルの信用がある学校じゃないと厳しいだろうから行くなら雄英じゃないかな」
唐突にハードルが上げられた。内心で吐血する。
しかし、今の湯だった頭にそんな理屈は関係ない。
最速でヒーローになり、この終わり散らかした名前をもうちょっとかっこいい名前とかで上書きするのだ。
「俺は今日から……!ヒーロー『クレイザーX(仮)』だ……!」
「ダッッッッッッ」
友がサ行の文字を言い始める前に、俺は滅殺開墾ビームを発射したのだった。
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「筆記で落ちたわ」
「ダッサ」
うるせえよ。大体歴史が悪い。知ってる歴史とちょこちょこ違うんだから仕方ないだろ。
「もうヴィランになった方が早く名前の上塗りできるんじゃない……?」
「 そ れ だ 」
「本名がヴィラン向きすぎて忘れられそうにないけど」
「それじゃなかった」
「名前上塗りするより恥の方が積み上がってるね、これなら二千年はもつよ」
「誰の恥がローマンコンクリートじゃ」
俺は滅殺開墾ビームを発射した。
原作時間は決めてない、続きはない、ドラゲナイの3ない活動を推進しています。