機動戦士ガンダム 地獄の底のお姫様 ―木星帝国の王女は、地球を焼かないと決めた― 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「神の雷はまだ落ちていない! 総統の意志を継ぐ我々こそが、地球という傲慢を焼き払うのだ!」
U.C.0136。指導者を失った喪失感は、ある者たちの中で歪んだ“信仰”になってた。第9居住区の動力センターが、『真・木星帝国』を名乗る武装集団に占拠された。崇めてるのは――わたしがこの手で殺した、あの独裁者の偶像。
皮肉、なんて言葉じゃ足りない。わたしが守りたい民が、わたしが否定した過去を神格化して、わたしに銃を向けてる。父を殺したのは正しかったのか。この時ほど自問したことはない。……でも、迷ってる暇はない。センターが落ちれば、数万人が窒息する。
わたしはバタラで突入した。待ち構えてたのは旧式のゾンド・ゲー。でもパイロットの狂信は、機体性能を超える脅威だった。
「裏切り者の王女め! 貴様さえいなければ、神の雷は地球を焼いていたものを!」
サイコミュが敵の殺意でわたしを圧し潰す。憎悪の濁流の中から、父の幻影が手招きする。おいで、テテニス。お前もこちら側だ――。
その時、空間に太陽みたいな温かさが満ちた。
「テテニス! 亡霊の言葉に耳を貸すな!」
ジュドーのガンプが、隣に並んでた。その桁外れのプレッシャーが、父の幻影を追い払う。
「あんたが見るべきは、死んだ親父の影じゃない! 今を生きてる連中の顔だろうが! そいつらを救えるのは、亡霊じゃない。今を生きてる、あんただ!」
視界がクリアになる。わたしはリミッターを解除して、自爆しようと動力炉へ突っ込むリーダー機に肉薄した。斬るんじゃない。マニピュレーターで、抱きしめるみたいに固定して、サイコミュを最大解放する。
「……もう、いいのよ。あなたの絶望も、父の罪も、ぜんぶわたしが背負う。だから――生きて。木星にリンゴが実る日を、わたしと一緒に見て。お願いだから」
祈りみたいな脳波が、空間を白く染めた。リーダー機の自爆カウントが、止まった。パイロットは子供みたいに泣いてた。誰も死なせない、勝利。……でも、降伏したそのパイロットが震える声で吐いた一言が、余韻を凍らせた。「王女様……あんたは知らないんだ。“真・木星帝国”に武器と金を流してるのは、外の人間なんだ。地球圏のアナハイム・エレクトロニクスと……フォンセ・カガチ、という男だ」。アナハイム。宇宙世紀の影で両陣営に武器を売り続けた死の商人。そしてカガチ。二つの名が繋がった時、わたしは悟った。この木星の狂気は――木星だけの問題じゃなかった。