第一章 超エイプリルフール!
タワーマンションの窓から差し込む朝日は、かつてのボロアパートのそれよりずっと鋭い。
酒寄彩葉が目を覚ますと、隣で眠っているはずのかぐやの姿がなかった。枕元には、一枚の紙。
『いろはへ。ごめんね、やっぱり月人がまた来ちゃった。もう逃げられないから、月に帰るね。今までありがとう。大好きだよ。 かぐやより』
彩葉の思考は、その瞬間、音を立てて凍りついた。
10年前の絶望を再現するかのような、底なしの暗闇が脳内を支配する。
「……っ、ああ、あ…………!!」
言葉にならない叫びが喉を突き破り、彼女はそのまま部屋の隅にうずくまった。ドアにロックをかけ、カーテンを閉め切り、外界を拒絶した。
彼女にとって、かぐやを失うことは、自分の魂を半分引きちぎられるのと同義だった。
「嫌だ、行かないで、置いていかないで……」
暗闇の中で、彩葉は狂ったように自分を抱きしめ、10年前のトラウマと恐怖を数時間で味わい尽くしていた。
一方、リビングのクローゼットに隠れていたかぐやは、タイマーをセットしたスマホを片手にニヤニヤしていた。
「そろそろネタバラシかな! いろは、びっくりした? エイプリルフールだよーっ!」
勢いよく寝室のドアを開けようとしたかぐやだったが、内側から固く閉ざされた鍵に、表情を曇らせた。
「……いろは? 冗談だよ! 嘘だってば! ほら、私ここにいるよ!」
返ってきたのは、獣のような慟哭と、何かが壊れるような鈍い音だった。
焦ったかぐやが、無理やりドアをこじ開け、部屋に踏み込んだ時、そこには光を失った瞳で震える彩葉がいた。
「いろは! ごめん、悪かったよ! ほら、触って、本物だよ!」
かぐやが駆け寄り、その細い肩を抱きしめる。
その瞬間、彩葉の感情が爆発した。
「……っ、バカ! バカバカバカ!!」
彩葉は、かぐやの胸を拳で叩き、そのまま喉が枯れるほどの号泣とともに怒りをぶつけた。
「嘘でも言っていいことと悪いことがあるの! 私は、私は……かぐやがいない世界なんて、もう一秒も生きていたくないのに……!!」
激しい怒りと、それ以上の恐怖。
彩葉の涙が、かぐやの黒いTシャツをぐっしょりと濡らしていく。
やがて、泣き疲れて震えが収まった頃、彩葉の瞳に「異質な光」が宿った。
彼女はかぐやの腕を、骨が軋むほどの力で握りしめると、低く、這うような声で囁いた。
「……ねえ、かぐや。もう二度と、私の視界から消えないで」
「う、うん。もちろんだよ」
「トイレに行く時も、寝る時も、ツクヨミにログインする時も……全部一緒だよ。一歩も外に出しちゃあげないし、私も一歩も離れないから」
彩葉の笑顔は、慈愛に満ちているようでいて、その実、底が見えないほど歪んでいた。
かぐやの自由奔放さを愛していたはずの少女は、今、その「自由」を奪うことでしか自分を保てなくなっていた。
「いろは……? ちょっと痛いよ……?」
かぐやが微かな恐怖を感じて身を引こうとしたが、彩葉の手は万力のように離れなかった。
かぐやは気づいていなかった。
軽い気持ちでついた嘘が、彩葉の中に眠っていた「純粋すぎる独占欲」という怪物を目覚めさせてしまったことに。
「大丈夫。ずっと一緒だよ、かぐや」
彩葉はかぐやの耳元で優しく囁き、その銀色のブレスレットに、自らの指を深く絡ませた。
外では春の陽気が満ちていたが、密室の中には、二度と解けることのない、歪んだ愛の鎖が静かに降り積もっていた。
第二章 歪む愛
エイプリルフールから一ヶ月後、タワマンの中にて
かつて、この部屋はかぐやと彩葉が仲良く楽しく過ごす幸せな拠点だった。
けれど今、ここにあるのは、彩葉が作り上げた完璧な「隔離世界」だ。
「……いろは、あのね。明日の配信、たまには外のスタジオで撮らない? 朝日も、たまには顔を出せって心配してたし……」
リビングのソファで、かぐやが遠慮がちに切り出した。
かつての彼女なら、彩葉の制止を振り切ってでも飛び出していっただろう。けれど、あの日以来、かぐやの心には消えない罪悪感がこびりついている。
自分の嘘で、彩葉をあそこまで壊してしまったという負い目が、彼女の足を鈍らせていた。
彩葉は、キッチンで夕食の準備をしながら、手を止めずに答える。
その声は、驚くほど穏やかで、そして冷たい。
「だめだよ、かぐや。外は危ないって、前も言ったでしょ? 月人がどこで見てるかわからない。……それに、ここなら機材も全部揃ってるし、何より、私たちがずっと一緒にいられる」
彩葉が振り返る。その瞳には、かぐや以外の何も映っていないかのような、純粋で濃密な執着が宿っていた。
彼女は濡れた手を拭きもせずにかぐやに近づくと、その隣に深く腰を下ろした。
「……それとも、かぐや。また私の前からいなくなる方法を考えてるの?」
「そんなわけないじゃん! あれは、ただの冗談で……」
「冗談でも、二度と言わないで」
彩葉はそう言うと、ソファの脇に置いてあった小さな、しかし上質な黒い箱を手に取った。
不思議そうに見つめるかぐやの前で、彩葉はその箱を開ける。
中に入っていたのは、シンプルだが、どこか拘束具を思わせる、硬質な黒い革のチョーカーだった。中央には、銀色に輝く小さな月のチャームが揺れている。
「いろは、これ……?」
かぐやが微かな不安を覚えて身を引こうとした瞬間、彩葉の手が素早く伸び、かぐやの細い首筋を掴んだ。
抵抗する隙を与えず、彩葉はチョーカーをかぐやの首に回し、背後のバックルを小気味よい金属音と共に固定する。
「……っ」
首元を走る異物感と、圧迫感。
かぐやが息を呑むと、彩葉はそのチョーカーのチャームを愛おしげに指で弾いた。
「よく似合ってるよ、かぐや。……これはね、私が作った、新しいお守り。これをつけていれば、月人もかぐやを見つけられないし……何より、私が、かぐやを見失わなくて済むから」
彩葉は、首を締め付けすぎない、しかし決して自分では外せない絶妙な加減で固定されたチョーカーの上から、かぐやの喉仏を愛撫する。
それは、愛の証というよりは、所有の印(タグ)だった。
「これ、外せないの……?」
「外さなくていいよ。ずっと、私のそばにいるんだから」
彩葉はかぐやの手首にある銀色のブレスレットに触れ、そのまま視線を首元のチョーカーへと移した。
ブレスレットは彼女の「魂」を繋ぎ、チョーカーは彼女の「身体」を繋ぎ止める。
彩葉は、かぐやの首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。
「かぐやがいなくなったら、私は自分を壊すよ。朝日にも、ヤチヨにも、誰にも止められない方法で。……ねえ、私が壊れるところ、見たい?」
「……いろは……」
かぐやの背筋に、冷たい戦慄が走る。
チョーカーの圧迫感が、彩葉の言葉と共に重くのしかかる。
彩葉の愛は、もはや「献身」ではない。
相手を窒息させるまで抱きしめ続ける、歪んだ「自己防衛」に変質していた。
その夜、配信が始まると、画面の中の二人は以前と変わらない仲睦まじい姿を見せていた。
「いろP」としての的確な指示と、「かぐや」の天真爛漫な笑い。
リスナーたちは「やっぱり二人は最高だ」「かぐやのチョーカー、可愛い!」と歓喜のコメントを流し続ける。
彼らは知らない。それが、少女が自由を失った、決定的な証拠だとは。
カメラに映らないテーブルの下で、彩葉の左手は、ずっとかぐやの太ももを、離してなるものかと強く掴んだままだった。
『……かぐや。彩葉が少し変だよ。独占欲と不安の数値が、許容範囲を超えている』
スマホの画面内で、ヤチヨが警告を発する。
しかし、その通知に気づいた彩葉は、かぐやの目を盗んでスマートフォンの電源を静かに切った。
「ヤチヨも、今日はもう休みな。……私たちだけの時間、邪魔されたくないもんね」
彩葉は微笑む。
窓の外では、満月がこの密室を覗き込んでいた。
かぐやは、自由を奪われた痛みと首元の重みよりも、自分を愛しすぎて壊れてしまった彩葉への哀れみに胸を締め付けられ、ただ黙ってその抱擁を受け入れるしかなかった。
彼女が自分についた「嘘」の代償は、永遠に解けない銀の鎖と黒い首輪となって、二人を箱庭の中に閉じ込めていく。
「大好きだよ、かぐや。……死ぬまで、ここから逃がしてあげないからね」
彩葉の囁きが、春の夜の静寂に溶けて消えた。
第三章 脱走
かぐやがマンションを抜け出したのは、彩葉が「次の配信の衣装の設定してくる」と別の部屋に籠もった、わずか数分の隙だった。
首元の黒いチョーカーは、指一本通らないほどきつく締め直されている。かぐやはそれを隠すようにパーカーのフードを深く被り、裸足に近い状態で非常階段を駆け降りた。
「……はぁ、はぁ……っ!」
心臓が早鐘を打つ。彩葉に見つかれば、次は足首に鎖をつけられるかもしれない。そんな確信に近い恐怖が、かぐやを突き動かしていた。
公衆電話から震える指で芦花の番号を叩き、深夜の街を必死に駆け抜ける。
「……かぐや!? その格好、一体どうしたの……!」
芦花のマンションに転がり込んだかぐやの姿は、見るに堪えないものだった。顔色は土色で、首元には黒い革の帯が食い込んでいる。
「……いろはが、変なんだ。お願い、芦花、助けて……」
かぐやが言い終えるか否か。
静まり返った夜の廊下に、狂ったようなインターホンの連打音が響き渡った。
ドアの向こうから聞こえるのは、聞き慣れた、けれど温度の一切ない彩葉の声。
「芦花。……そこに、私のかぐやがいるよね? 返して。今すぐ」
芦花が震える手でドアを開けると、そこには、かつての快活な面影を失った、冷徹な瞳の彩葉が立っていた。
「……彩葉、あんた正気じゃないよ! かぐやが怯えてるじゃない!」
「怯えてる? 違うよ。かぐやは、私がいないとダメなの。私が守ってあげないと、またどこかに行っちゃうんだから」
彩葉は芦花の静止を無視し、力任せに室内へ踏み込んだ。隅で震えるかぐやの腕を掴み、引きずり出そうとする。
「やめて、いろは! 痛いよ……っ!」
「痛くないよ。かぐや。さあ、おうちに帰ろう?」
「いい加減にしてよ!!」
芦花が間に割って入り、彩葉の肩を強く押し戻した。
その瞬間、彩葉の瞳から理性の光が完全に消えた。
「……邪魔しないで」
彩葉は無造作に芦花を突き飛ばした。
芦花の体はリビングのテーブルに激しく打ち付けられ、鈍い音が響く。
「芦花……っ!」
かぐやが駆け寄ろうとしたが、彩葉はその細い首のチョーカーをぐいと引っ張り、無理やり自分の方へ向けさせた。
床に倒れ込んだ芦花が、怒りに震えながら立ち上がった。
そして、無防備に近づいてきた彩葉の頬を、思い切りビンタした。
乾いた音が部屋に響き、彩葉の顔が横を向く。
沈黙。
やがて、彩葉はゆっくりと顔を上げ、頬を赤く染めたまま、壊れたダムのように感情を溢れ出させた。
「……何がわかるのよ。あんたに、何がわかるっていうの!!」
彩葉の叫びは、もはや悲鳴だった。
「10年前、かぐやが消えたあの日から、私の時間は止まったままなの! 8000年も一人で待たせて、やっと戻ってきたのに、また冗談で『さよなら』なんて言われて……! あの時の、心臓が握りつぶされるような絶望を、あんたに味わえるわけないじゃない!!」
彩葉は、かぐやの足元に崩れ落ち、その膝に縋り付いた。
「私がいなきゃ、この子はまた月に帰っちゃうの! 私が縛っておかなきゃ、誰かがまたこの子を奪いに来るの! かぐやがいない世界に、何の意味があるの!? 勉強も、音楽も、未来も、そんなものかぐやがいなきゃただのゴミクズなんだよ……っ!!」
嗚咽と共に漏れ出す、あまりにも肥大しすぎた「愛」という名の呪い。
彩葉はかぐやの服を強く握りしめ、ボロボロと涙をこぼしながら、子供のように泣きじゃくった。
「……お願い、かぐや。私を一人にしないで。どこにも行かないって、私の所有物だって、もう一度言ってよ……何でもするから、首輪だって、鎖だって、もっと強くしていいから……っ!」
芦花は、そのあまりにも歪で、あまりにも純粋すぎる地獄のような独占欲を前に、上げかけた手を下ろすことしかできなかった。
そこにあるのは、友情でも愛情でもなく、一人の少女の「生存本能」そのものだったからだ。
外では冷たい夜風が吹いていたが、芦花の部屋の中には、彩葉の熱すぎる絶望だけが、濃密に充満していた。
第四章 ハッピーエンド?
芦花の部屋でビンタの余韻と、静まり返った空気があった。
床に崩れ落ち、かぐやの足元で「一人にしないで」と泣きじゃくる彩葉。
その無様な、けれどあまりにも一途な姿を見下ろしながら、芦花は自分の右手の痺れを感じていた。
「……何がわかるのよって、言ったよね、彩葉」
芦花の声は、低く、地を這うように響いた。
彩葉がびくりと肩を揺らし、涙で濡れた顔を上げる。
「あんたの絶望なんて、私にはわかんないよ。かぐやを失うのが怖い? 縛り付けておかなきゃ死んじゃう? ……笑わせないでよ。あんた、自分のことばっかりじゃない」
「……何よ、芦花に何が……っ!」
言い返そうとした彩葉の言葉を、芦花のさらに激しい叫びが遮った。
「私だって、彩葉が好きでたまらなかったんだよ!!」
部屋の空気が、一瞬で凍りついた。
かぐやが息を呑み、彩葉は目を見開いたまま固まる。
「…‥え?」
彩葉は先程までの様子と違い意表を突かれたような顔をした
「10年前も、今も! 私がずっと見てたのは、かぐやじゃない、あんたなんだよ、彩葉! あんたが笑えば嬉しくて、あんたが泣いてたら胸が張り裂けそうで……でも、あんたの瞳にはいつも『かぐや』しか映ってなかった!」
芦花は、一歩、彩葉に歩み寄った。その瞳からは、ボロボロと大粒の涙が溢れ出している。
「あんたがかぐやを失うのが怖いっていうなら、私のこの10年は何だったの!? 一番近くにいても、一度も私を選んでくれなかった。それどころか、あの日……事故の時だって、あんたがかぐやを庇って倒れた時、私の世界も終わったんだよ!!」
芦花は彩葉の胸ぐらを掴み、無理やり視線を合わせさせた。
「あんたは『かぐやがいなきゃゴミクズだ』って言ったよね? じゃあ、あんたがいない私の世界は、一体何なのよ! ……大好きだったんだよ、彩葉。親友のふりして、あんたに触れたい手をずっと隠して、あんたとかぐやの幸せを祈るフリをして……。そんな私の、地獄みたいな片想いの何が、あんたの執着に劣るっていうのよ!!」
彩葉は言葉を失っていた。
自分に向けられた、かぐやへのそれとは質の違う、けれど同じくらい重くて、熱い「愛」。
ずっと一番近くで支えてくれていた芦花の、剥き出しの「女としての叫び」に、彩葉の思考は真っ白に塗りつぶされる。
「……芦花、私は……」
「……言わなくていい。わかってるよ。彩葉は一生、私を選ばない。」
窓の外では、欠けた月が、彼女たちの歪んだ夜を冷ややかに照らしていた。
第五章 パンケーキ食べよ!
芦花の声から、先ほどまでの刺すような鋭さが消えた。代わりに宿ったのは、すべてを諦め、それでも受け入れると決めた者の、静かで圧倒的な熱量だった。
芦花はゆっくりと歩み寄り、彩葉の隣に膝をつく。そして、震える彩葉の肩を、包み込むように強く抱きしめた。
「ひっ……、あ……っ」
彩葉の喉から、小さな悲鳴が漏れる。
「彩葉、見て。かぐやじゃなくて、今、あんたを抱きしめてる私を見てよ。……あんたが怖いのは、一人になることだよね? 10年前の暗闇に戻るのが、死ぬほど怖いんだよね」
芦花の確かな体温が、彩葉の強張った筋肉を少しずつ解かしていく。
「かぐやを縛っても、あんたの不安は消えない。だって、かぐやはあんたの所有物じゃないから。……でも、私は違う。私は、私の意志で、あんたの隣にいるって決めたんだよ。彩葉がどれだけ壊れても、どれだけ醜くても、私が彩葉を現実に繋ぎ止める」
芦花は彩葉の耳元で、祈るように、自分自身に言い聞かせるように囁き続けた。
「……だから、もういいよ。かぐやを、離してあげな」
彩葉の指から、力が抜けた。
かぐやの腕を万力のように締め付けていた指が、力なく床に落ちる。かぐやは、解放された腕をさすりながら、信じられないものを見るような瞳で二人を見つめていた。
芦花はそのまま、床に転がっていた黒いチョーカーを拾い上げた。
銀色の月のチャームが、街灯を反射して虚しく光っている。芦花はそれを一瞥すると、迷うことなく部屋の隅のゴミ箱へと放り捨てた。
「……っ、う、うああああ……!!」
形のある「絆」を捨てられた瞬間、彩葉は子供のように声を上げて泣き伏した。
芦花はその背中を、何度も、何度も、優しく叩き続ける。
「大丈夫。大丈夫だよ、彩葉。……私がいる。私がずっと、彩葉の『寂しさ』を半分背負ってあげるから」
どれくらいの時間が経っただろうか。
窓の外、夜の底が少しずつ白み始め、夜明けの冷たい光が部屋に差し込んできた。
泣き疲れた彩葉は、芦花の胸の中で、規則正しい寝息を立て始めた。その横では、かぐやがソファに深く腰掛け、鋭い朝日に目を細めている。
「……芦花。ありがとう」
かぐやの掠れた声に、芦花は力なく笑って首を振った。
「……お礼なんていいよ。私も、自分のためにやったことだから」
芦花は、眠る彩葉の髪をそっと撫でる。その瞳には、届かなかった恋の痛みと、それでも「守れた」という微かな安堵が混ざり合っていた。
解決したわけではない。彩葉の心の傷も、芦花の片想いも、かぐやの罪悪感も、消えてなくなったわけではない。けれど、首輪で繋がれた密室よりも、今の三人を照らす朝日は、ずっと風通しが良かった。
「……お腹、空いたね」
芦花がポツリと零すと、かぐやが小さく、本当に小さく、あの日以来初めての、柔らかな笑みを浮かべた。
「うん。……何か、作ろうか」
「パンケーキ.........食べない?みんなで」
三人の止まっていた時計が、軋んだ音を立てながら、再びゆっくりと動き始めた。
そしてそれは、芦花を加えた四人での新しい物語の合図でもあった。
まだまだ下手くそなので優しく見守ってくださると幸いです