エルフィンド共産社会連邦史〜凡人転生者の私がいかにしてエルフィンドを支える終身名誉内務総統になったのか〜 作:区星
エルフィンドにおいて、終身名誉内務総統の関わっていない政府機関の方が少ないことは周知の事実である。
大総統の権力やカリスマ性を持ちいて、ありとあらゆる方面で改革を実行した。時には強行手段も多数行った、星暦800年代より始まる農地改革はその典型といえるだろう。
富める地主と自作農、搾取される小作人によって構成されてされていたエルフィンドの農業を国営化し。国営農業公社による集団農法と肥料の使用、輪栽式農業の採用に踏み切ったことにより大きく生産力を向上させた。内務総統の回顧録によれば、農業公社は初期投資の大きさから初期は多額の赤字を吐き出していたという。
一方でこの国営化が長期的に見ると劇薬であることは内務総統も認識していたようで、星暦860年代頃には小作人に対するありえないほどの低額での整理された土地の売り渡しとオルクセン同様の農業組合の設立をおこなった。
それ以外にも旧ドワフシュタイン領のドワーフ達、及び租借したメルトメア州のオーク達への職、教育、インフラ整備の提供、オルクセンの方が良かったと言わせないための移住する白エルフへの教育。
外交においては赤シャツ隊を支援してくれたグロワールとの外交関係樹立、旧エルフィンド王国が親しかったキャメロットとの外交関係の継承。二大大国との関係を作っていざとなった時に侵攻されないようにするなど、内務総統が関わった事業は多岐に及んだ。
軍事においては徴兵制と20年間の基礎恩給を組み合わせることで徴兵逃れを減らしつつ軍人経験のある一般人を増やし、かつ社会保障の一部を掛け合わせる。ドワーフを味方に取り込んだことにより鉄鋼業に投資しやすい環境を作れたのでグロワールやキャメロットの技術を積極的に導入し、オルクセンと軍民で技術格差が出にくいようにした。特に国営ドワーフ鋼産業公社の貢献は大きく、エルフィンドの鉄鋼業は星欧でも上位の品位を誇った。
現代エルフィンドにおいて珠玉とされる内務総統の施策は星暦860年に設立された、エルフィンド国民産業信託公社である、当時としては異例となる債券だけでなく主要な産業の株式を投資対象として抑えた投資信託であり、なおかつ少額から始められるというものであった。
現代でもエルフィンド国民産業信託公社は存続しており、国民の大規模な金融資産の運用をメインとしつつ、祖業である投資信託の売り出しも行っている。
後世において、エルフィンドの行政基準は、星欧でも最高水準であったオルクセンに匹敵するか、特に金融面においては凌駕しうるとされており、諸国に先んじて設置された証券取引所はエルフィンドだけでなく、グロワールやキャメロットの大企業も上場するなど隆盛を極めていた。
同時代において、グスタフ・ファルケンハインという星欧大陸歴代屈指の名君と並んで、ジュリオ・チェッラレンコの極まった辣腕は、『ジェリオ無くしてエルフィンド無し』と後世の歴史家に断言されるほどであった。
普通であればこれだけの改革を行えば、人間関係の摩擦が生じかねないところであるのだが、あまりに多忙を極めたため、大総統ですら、『一日3分しか顔を見てないことがある』と溢したほどであり、人間関係について大きな問題を起こすことはなかった。
第二次星欧大戦の終結後、病を得て職を辞したが、エルフィンドにおけるジュリオ・チェッラレンコはエルフィンドの歴史教科書の近現代史において、名前が書かれていないページの方が少ないという有様である。
〜エルフィンド共産社会連邦史 ジュリオ・チェッラレンコの章〜
おおー、褒め言葉ばっかりだ、さすが私。とはいえ一部記載されてないところもあるよね。
内政政策、特に農業と工業についてはエルフィンド独自の政策っていうのはあんまりなくって、それこそ窮余の策である農地国有化ぐらい。大半はオルクセンからの模倣に過ぎないんだよね、輪栽式農業の採用も農業組合の設立もオルクセンが先行してたし。
国営ドワーフ鋼産業公社もその規模の割にはオルクセンに比べると技術開発の速度は高かったとは言えないし、事実モリム鋼の実用化はオルクセンに一歩遅れてる。
ただ……金融だけはオルクセンに勝ってた自信はあるかな、現代でもエルフィンドはキャメロットに匹敵する星欧の金融ハブとして強いし。特に株式市場の整備、アレはだいぶ上手くいったよね。
ま、前回話すって言ってた第二次西部オルクセン戦役のその後について話を戻すとたった40年程度で第一次星欧大戦が発生してしまった。
エルフィンドは初期は中立を保っていたものの、軍事的結びつきの強いキャメロット・グロワールの要請もあり、最終的に強大な海軍を地裂海に送り込んで、協商陣営として参戦し、講和会議に参加することになった。
その際にグスタフ国王から「アスカニアに報復的賠償金を課すのは危険」という親書を受け取った時、私は思い出していた。かつての世界にいた、美大落ちのことを。
エルフィンドとしては返済不可能な額の賠償金を課すことに賛同しない、とキャメロットとグロワールに打診した結果、賠償金は結局大幅に減額された。
これで『悪魔』は生まれない。そう思っていたのだが……。
アスカニアにおいて生まれたのは『悪魔』ではなく鎌と槌を持った、私たちにとっては親しみを覚えるが、キャメロットやグロワール、エトルリアに置いては、あまり良い思想ではないとされた、赤色を象徴とする集団による支配であった。
ポルスカのアスカニアへの軍事介入から始まり、グロワール、ロヴァルナ、キャメロットとエトルリア、と大陸全土に飛び火した戦争は、莫大な犠牲を吐き出しながら、エルフィンドとオルクセンの仲介によってなんとか終戦を迎えた。
戦後70年経って分かったが、オルクセンとキャメロットは共同で秘密裏に核兵器の開発に成功していたようだ。しかし、ロヴァルナとアスカニアに投下することは結局できなかった。
我々は核の炎を知らずに、東西冷戦に突入してしまったのである。
これでよく人類が滅亡しなかったものだと、今でも折に触れて思う。
東西冷戦において、エルフィンドはロヴァルナともキャメロットとも国交を維持し続け、極めて強力なホットライン機能を果たし続けた。史上最も成功した資本主義国家と東側に揶揄され、西側には赤い資本主義と揶揄される。そう言った立ち位置にありながらも、エルフィンドは大きく発展した、東西の経済的ハブとして大きな立ち位置を持ち、冷戦終結後もその役割は大きかった。
「これが私の記憶し、そして体感しているエルフィンドのその後、というわけでね。何か質問はあるかしら?」
「失礼ながらいくつか語られていないことがあるように思われます、教義主義者と、新たな女王資格の持ち主について……ですが」
「おおーよく調べたね。さすがはオルクセン屈指の敏腕記者、大総統と同じダークエルフなだけはある」
クーデターを行い、政権を奪取したエルフィンド共産社会党、そして赤シャツ隊が行ったのは、エレントリ館の解体、及び公共公園化であった。
白エルフの聖地であるエレントリ館、であるが故に。逆説的にエルフィンドの変化の象徴になりうると、大総統は判断した。
本来なら大総統官邸としてもいいほどに豪奢な建物であったが、エルフィンドのエルフ達は平等であることを指し示すように、誰でも立ち入ることができるエレントリ公園へと変化していた。
それらの政策に反発する教義主義者達を、赤シャツ隊や警察は強く弾圧した。公共の敵、民衆の敵、復古主義者と断じる形で。一方で転向者には監視を行うものの基本的に自由にさせるなど、積極的に転向を促した。
たとえ黄金樹から生まれたエルフがいても、エルフィンドでは他の白エルフと同じように扱われる。本当に居るのかは私にはもうわからないけどね。
「女王エルフを名乗るエルフはこれまでもこれからも存在しない、これが私の私見だよ。エルフィンドは立憲君主制になるべきではない」