核攻撃から6時間。カンバーランドの航空戦力であるMQ-9リーパーによる、ポイント・ネモへの無人偵察が敢行される。そこからの映像では、ポイント・ネモにあった暗黒ドームと人工島が消滅していることが判明した。
しかし、これが一時的なものなのか、それとも永続的なものなのかは判断できない。そのため、丸々24時間の監視を2週間ほど続けた。
その結果、「何もなかった」という結果が得られ、カンバーランドはアメリカ海軍第3艦隊空母打撃群司令官経由で本土に次のように通知した。
『国籍不明勢力の発生源を駆除した』
山部島の航空自衛隊も参加して、ポイント・ネモ周辺の捜索を行い、これまた百々女木総理に「太平洋上異常なし」の報告が上げられた。
これに関して日米首脳陣はオンラインで共同会見を行い、この時をもって影との戦闘が終結したことを宣言した。
それでも世界は脅威が完全に消え去ったとは考えていなかった。どこかに残党が存在するかもしれない。再びポイント・ネモに暗黒ドームや人工島が出現し、影が襲ってくるかもしれない。
そのような事態を避けるために、イギリスとフランス、ドイツの三ヶ国が主導して、多国籍監視部隊の結成を行った。影の脅威に曝された国家の多くが賛同し、このプロジェクトに参加した。意外だったのは、東側諸国筆頭とも言われる中国がこのプロジェクトに参加表明をしたことだろう。実際に最新空母である「福建」を派遣することを決定した。
その後1年以上をかけて、ポイント・ネモ周辺の監視が海上と宇宙から行われる予定となっている。
一方で山部島は、10月上旬に日本へと帰還した。先のポイント・ネモでの経過観察と、放射線の除去を経たことで、帰還が後ろにずれ込んだのだ。
しかし、こうして帰ってこれたこと自体に意味がある。特に民間飛行隊の損害がなく、無事に帰ってきたことは非常に喜ばしいことなのだ。
山部島は相模湾の真ん中に停泊する。
「なんか涼しくなってる~」
「10月だからねー!」
「外洋に出ている海上自衛官ってこんな気分なんですね……」
梅香隊の3人は、執務室の屋上に出て遠景を眺める。日本の空気に触れたかったのだろう。
「俺としては、君たちを怪我無く日本に帰させたことが、一番の安心材料だよ」
中里は、そんなことを呟く。神崎もその場にいて、デジカメで海上から見た日本の景色を撮影する。ちょうど背景に富士山が存在し、写真映えする構図だ。
しばらくすると、大小さまざまな複数の船舶が山部島に接近する。そのうちの1隻には、紫色の旗がはためいていた。
「あれは……内閣総理大臣の旗だな」
「ということは……」
その旗が示す通り、総理大臣である百々女木首相が山部島を訪問したのである。百々女木首相は足立空将補と面会し、談話を行った。
そして民間商船で山部島にやってきた民間人には、梅香隊の3人が見覚えのある人物たちがいた。
「お母さん!」
「ダディ! マミー!」
「パパ~、ママ~」
家族である。加藤の父親はすでに殉職しているため、母親のみだ。
家族との再会で、3人とも涙を流している。
「感動の再会だな」
「感極まるのも分かりますよ」
神崎はデジカメを下ろす。そんな野暮なことはしない方がいいことは、神崎もよくわかっている。
「さて、世界は影の脅威から解放されたわけだな。これからは影の連中の技術をリバースエンジニアリングする時だ。その技術さえ確立すれば、人類は新しい時代を迎えることができる。それまでの数ヶ月は、世界から戦争がなくなるはずだ」
大西洋に影の人工島が出現したことで、世界中が影の脅威に怯え、戦争や紛争が停戦状態になった。それは今も継続している。
しかし、時機にそれらも再開することになるだろう。
「世界はまだ混乱の中にいるんですね……」
「そりゃそうだろ。お前も、これから世界中を飛び回って影の航空機の残党狩りをするんだよ」
「……えっ」
「そりゃそうだろ。防対本はまだ解除されねぇから、専従広報室の俺たちも解散するわけにはいかない。諦めろ」
「そんなぁ……」
神崎はまだ原隊に復帰できないし、これからも中里にこき使われることが確定したのだった。
そうして世界は穏やかに以前の姿を取り戻していく。