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割とノリと勢いで書いてるので、ヒロインを複数にするかどうかは本当に何も考えてなかったり……多分、気付くと増えてる状況になってそう。
あ、九校戦編はちょいちょい鋼くん以外の視点が入る予定です。
「何も、なかったな」
一高の代表チームを乗せたバスは九校戦が行われる会場近くのホテルまで何事もなく到着した。
そう……大亜マフィアの工作員が自家用車で自爆特攻して来るなんてなく、本当に何事もなくホテルに到着してしまった。
ハゲとの邂逅で疲れてしまったらしい七草先輩と、何も起きなくて暇だった俺の二人が揃って気付いたらスヤァしてしまい、悪い顔をした渡辺先輩に寝顔を隠し撮りされていたという事があったくらいだ。
隠し撮りしておいて「仲の良い姉妹にしか見えなかったな」ってどういう感想よ。
隠し撮りした写真を端末に送り付けられたけど、手を繋いだまま頭を預け合うように寝ていた七草先輩と俺のどっちが姉でどっちが妹に見えたのかまでハッキリと言って欲しいのですわ。
「しかし、何故に何もなかったんだ?」
頭が足りないドラゴンさんは今回の九校戦では賭博をやってないのか?いや、普通に考えれば原作の自爆特攻が無茶振り過ぎただけか。
実際、あんなピンポイントでバスを狙うとか普通に無茶振り過ぎる。
俺なら命令を聞いた時に上層部がボケた可能性を疑うレベルだ。
バスが何時に一高を出発したのかを把握出来る監視兼連絡係をわざわざ一高周辺に置き、途中でバスが休憩する可能性もあるからずっと尾行するか定期的に居場所を把握出来る体制を整えたりとか、本気で面倒だろ。
しかも、仮に特攻が成功していたとしても多分死者は出ない。この時代の乗り物は安全性がアホ程担保されてるから、特攻する車両に可燃性の燃料か爆薬を大量に載せておかない限りは精々怪我人が数名、しかも軽傷で終わると思う。
危険物満載の車が十師族が乗るバスと事故ったりしたら、裏の裏まで調べ上げられてあちらさんが望まない展開になりそうだから危険物を積むとかはしなさそうだな。
怪我人が出た事と事故の影響による精神的な落ち込みを狙っていたとしても、優秀な魔法師を確実に一人失ってしまうリスクに対して得られるそれだけとかリターンが合ってないよね。
「何もないなら、ない方が良いのだけどさ」
渡辺先輩から見せられた隠し撮り写真のせいで七草先輩が奇怪なうめき声を上げて動かなくなってしまったので、対応を市原先輩に丸投げしてバスから降りると、バスの下部にあるトランクルームから自分の荷物を回収する。
原作では大して描写されなかったけど、九校戦期間中の着替えとか諸々となると流石に荷物が多い。
ホテルで洗濯とかお願い出来るからある程度は量を絞ってはきたけど、それでも10日以上外泊するとなるとどうしても荷物は増えてしまう。
先に会場に郵送しておく事も出来たのだけど……仕事が忙しすぎて郵送するのすっかり忘れていたのよね。
夏休みの時期はイベントが多いからうちの会社も稼ぎ時だというのに、九校戦のせいで半月近くも出社出来ないってのは本当に社員さんたちに申し訳ない。
幸い社員さんたちから「九校戦での活躍を期待してますね。それが我が社の宣伝にもなりますから」と応援を貰えたので、出来る範囲で頑張ろう。
カラカラとキャリーケースを転がし、冷房の効いたロビーに入りカウンターで手続きをして鍵を受け取る……何故か俺は一人部屋を指定されたので、鍵の受け取りとか自分で全部やらなきゃならないのよね。
俺と10日以上も同じ部屋で寝るとか精神的にキツイから無理って酷くない?寝起きは結構悪いけど、イビキとか歯ぎしりとかしないから安眠妨害はしないよ。
ロビーの端で司波兄妹がE組の連中と話している姿が見えたが、わざわざ話に行く用事もないのでスルー。
九校戦期間中の仮宿となる自分の部屋に着くと、さっそくキャリーケースを広げ自分が過ごしやすいように中の荷物を取り出して部屋の模様替えをしていく。
同室がいたならやらなかったが、一人部屋なので何も気にせずに出来るのが良いよね。
色々と弄ってある程度満足いく形になったので時計を確認すると懇親会までまだそれなりに時間があった。
懇親会とかいう謎の行事マジでいらねぇだろ。
コレに参加させられるせいで九校戦の開幕する二日前には会場入りしなきゃいけなくなるっていうね。
うちはまだ会場に近いからいいけど、北海道や九州にある魔法科高校は本当に大変だと思う。
全国の魔法科高校の代表、合わせて400人くらいをホテルのパーティーホールに集めて立食式の懇親会とか本当に面倒で仕方ない。
生徒会役員は他の学校の生徒会役員と知己になっておけば、不測の事態が起きてもお互いに協力し合えますね。みたいな顔繋ぎの意味合いもあるのだろうけど……次の生徒会長の最有力候補ってあーちゃん先輩なんだよなぁ。
あの小動物先輩が一高の代表として不測の事態に他校と交渉なんて出来るのかね?深雪さんが前に出た方が上手く纏まりそうだ。
「仮眠を取る時間は流石にないか……汗かいてるし、シャワー浴びてから行こ」
来ていた制服をスパーンと脱いで、ファ〇リーズ的なのをシュシュっとしてハンガーに掛けると、タオルを持つと部屋にあるユニットバスへと移動する。
前に遥さんからおススメされたシャンプーが最近のお気に入りなので、備え付きではなく持参したシャンプーでわしゃわしゃと髪を洗っていく。
髪が長いと色々と面倒であるが、長い方が武器を隠しやすいので仕方ないね。
コンディショナーしたり、洗顔したり、身体洗ったりと一通り済ませたらタオルで髪と身体の水分を大雑把にふき取り汎用型CADを手に取り魔法で水分を飛ばす。
割と苦手な魔法ではあるが、自分の身体を乾かす程度なら失敗したりはしない。
下着にインナー、さっきファ〇った制服を着てパッと見た程度ではバレない暗器などを仕込み……夏だし、気分的に普段と髪型を変えるか。
鏡の前に座り髪に何度か櫛を通し、ハーフアップにしてゴムで仮止め。
三つ編み作って、ねじねじしてグルグルして……最後に崩れないようにリボンを結んで暗器代わりにもなる刻印を刻んである簪をぶっ差しておく。
鏡の前でくるくる回って確認していくが、変な所もなさそうだし大丈夫そうやね。
「はい、なんちゃってアルトリアヘアーの完成っと」
俺にはアホ毛はないのでオルタの方のが近いか?懇親会でハンバーガーもきゅもきゅしなきゃ。
時間的にはまだ余裕はあったが、部屋に居たらそのまま面倒になって寝そうな予感がしたので散歩でもしてから懇親会の会場へ向かう事に。
「ふむ……おや、あの子は」
陽が傾き、涼しくなりつつあるホテル周辺を散歩している最中に、日本の魔法師社会で一番偉くて厄介な人物に目撃されていた事に……俺は全く気付いてなかった。
「達也くん、鋼くんの居場所を知らないかしら?」
「鋼ですか?先程花を摘みに行くと言って会場から出たのは知っていますが」
挨拶回りも終わり、ようやく一高の生徒会長としての責務が終わった七草会長が賑やかな会場には似付かわしくない壁の花と化していた達也に近付く。
「もう来賓の方々の挨拶が始まるというのに、何処に行っちゃったのかしら」
まるで、すぐに迷子になってしまう幼い子供を心配する姉か母親のような様子を見せる七草会長の姿に、達也はふと前々から気になっていた事を尋ねてみようと思い立った。
「前々から聞きたかったのですが、会長にとって鋼はどういう存在なのですか?」
バスに乗る前の七草会長の痴態は達也も目撃したし、バスの中での様子も妹やその友人たちから聞いてはいたが、鋼と七草会長の関係性は達也からすれば不可解その物であった。
婚約者候補であるという話は以前耳にしたが、普段の二人の様子から特にそれを意識しているような素振りはない。
学校の先輩と後輩、また友人と呼ぶには距離が近く、恋人と呼ぶには距離がある。
鋼から人間初心者と陰で言われている達也から見ても独特な関係性を見せているのが鋼と七草会長であった。
「達也くんまでソレを聞くの?もう散々皆んなから揶揄われたのに」
少しばかりげんなりとした顔をしているが、婚約者も定めていなければ、鋼以外に特別仲が良い男子がいるという噂がなかった七草家の令嬢の奇行を目撃したら、誰であっても気にはなるであろう。
「前までなら、色々と危なかっかしい弟みたいな子……だったのだけどね」
前までならという事は今は違うという事なのだろうか?何がきっかけとなり七草会長の内心が変わったのかは不明だが、あの変わり様は相当な何かがあったのだろう。
「鋼くんを婚約者にしろって言われた時に……喜んじゃったのよね、私」
「会長?」
「ううん、何でもないわ。もう来賓の方々の挨拶が始まるからこの話はおしまいね」
少しだけ赤くなっていた顔を隠すように七草会長は話を切り、鋼を探す為かこの場を離れて行った。
それから直ぐに始まった何名かの来賓の挨拶を達也は壁の花になったまま聞き流していく。
達也からすれば、当たり障りのない話しかしない来賓に意識を割く必要性を感じなかった。
そんな達也が来賓の中で唯一気になっている人物がいた。
最強の名を維持したまま第一線から退き、師族会議の長からも身を引いた後は滅多に表舞台へ出て来ないにも関わらず、何故か毎年九校戦には顔を出している生きた伝説の一人。
『最高にして最巧』、『トリック・スター』、『老師』などの異名を持つ九島烈。
本人に直接会った事はないが、映像では何度かその姿を拝見している。
あまり表に出せない繋がりではあるが、知り合いのある女性の祖父なので、どんな人物か話を聞く機会はこれまでにもあった。
さらには自分の祖父と友人関係であった人物であり……叔母や、母の魔法の師でもあったという。
そんな人物がこの舞台で何を話すのか、それが達也には気になっていた。
順調に来賓の挨拶は進み、ついに九島烈の順番となった。
会場内の明かりが落とされ、舞台上がスポットライトで照らされた途端。
……会場にざわめきが広がった。
壇上に現れたのは齢90に近い老人である九島烈ではなく、夜色のドレスを纏った美しい少女であった。
ほっそりとした肩が露出され、晒された白い肌を更に映えさせる二の腕まで覆われた黒色のオペラグローブを嵌めた両手がへそ辺りで組まれていた。
濡羽色の長髪は背中に流され、照明の光を反射させる銀のアクセサリーが首元を飾り、顔に掛けられた透ける程に薄いヴェールの奥には何処か儚さを感じさせる笑みが浮かべられていた。
会場に集った多くの生徒たちはその少女の美しさに魅了され、本来壇上へと現れるはずであった『老師』の存在を完全に忘却していた。
極一部の勘の鋭い生徒たちは、会場内に広がった魔法の気配を察知し表には出さぬよう警戒を強めた瞬間、少女の後ろにある影の中に立つ老人の姿に気付いた。
そして、少女の姿に魅了された多くの生徒にも魔法に気付いた極一部にも該当しなかった数少ない存在。
第一高校に所属している生徒たちは思わず叫び出しそうになる口を必死に閉じ、ひたすら声を出さぬよう耐えていた。
会場のざわめきが落ち着いた頃を見計らったのか、少女の背後から老人から姿を見せた。
「諸君、私が九島烈だ。まずは、ちょっとした悪ふざけをした事を詫びよう」
マイクを通してはいるが、年齢を感じさせない芯が通った声が会場内に響いていく。
「いま私が使った魔法はとても弱い魔法だ。にも関わらず諸君らの多くは私の姿に気付かず、魔法の痕跡や
一部、それどころではない生徒たちが大勢いた事で流石の老師も自分に気付いた者を数え損ねたらしい。
「諸君、強く複雑な魔法だけが魔法ではない。弱く単純な魔法も工夫次第でこのような使い方が出来る」
老師からのその言葉は、とある事情で魔法が碌に使えない達也に取っては衝撃であった。
達也が、達也だけが使える埒外で規格外の魔法。
その魔法を如何に活かすかを基準にしていた達也にとって、自分にも出来そうな弱い魔法でこれほどの事を成した老師は尊敬に値する人物であると認めざるを得なかった。
「僅かな違和感に目を向けたまえ。自分の直観を信じ、大切な何かを見落としていないか常に疑い続けるといい」
ただ、自分たち一高の生徒からすれば僅かではなく最大の違和感が常に視野に入るのは、正直勘弁して欲しい。
「さすれば諸君らは、多くの成長する機会を得られるであろう」
良い言葉ではある。間違いなくこれからの自分の指針の一つとなる感動的な言葉であるのに……何故、こうも素直に称賛出来ないのだろうか。
「魔法に使われるのではなく、魔法を使う者として、諸君らのこれまでの努力と、これからの創意工夫に溢れた活躍がこの大会で見られる事を期待している」
会場のあらゆる場所から拍手が溢れていく。
ちらりと他校の生徒を見れば、感動した様子で手を鳴らしていた。
出来れば、自分もそちら側に居たかったなと心底思いながら達也も手を鳴らす。
「そうそう。僅かな違和感に目を向けるという話だがね」
拍手が響く中に、再び老師の声が響く。
達也は、いや達也だけでなく何故か一高に所属する生徒たちは猛烈に悪い予感がした。
「此処にいる身目麗しい少女にしか見えない
万雷の拍手がピタリと止まり、会場の空気が死んだ。
「信じられないかも知れないが、身分証も確認している。それに、衣装や化粧を施したスタッフが確認をした。彼は間違いなく男性であるとね」
会場の一部から「やっぱりか」、「何してんだアイツは」、「どれだけ女のプライドを砕けば気が済むんだ、あの馬鹿は」という呆れを含んだ声や。
「嘘でしょ」、「……老師も冗談とか言うんだな」、「アレで男とかあり得ないだろ」という嘆きが響いた。
あまりの衝撃に耐えられず床に膝をつく者や、愕然とした表情を見せる者で会場が混沌としていくなか……とある生徒会長は頭を抱え、とある兄妹の兄は珍しく、死んだ魚のような目で混沌とした会場内を眺めるしかなかった。
「これが、違和感に目をむけるという事だ諸君。まぁ、私でも初めは騙されると思うがね」
そう言葉を締めると、『トリック・スター』の異名を持つ老人は、まるでイタズラ小僧のような笑顔を浮かべるのであった。
鋼くんを男の娘に設定した時から絶対にやりたかったネタが書けて大変満足。
鋼くんが舞台にいたのは、本来舞台に上がる予定だった美人さんが急に体調を崩してしまい、代役を立てるか演出を変えるか悩んでいた老師閣下が偶然散歩していた鋼くんを見つけたので。
老師閣下から直接頼まれたら断れる訳がないので、仕方ないね。
なお、懇親会後に一高主要メンバーに呼び出された。残当。
老師閣下の台詞をかなり弄ったのは「魔法師が兵器として扱われている現状を憂い、自分の作った制度の果てに孫が作り出されたのを嘆いてる人間が、孫と歳が変わらない少年少女に兵器としての一面を強調するような事を言うのか?」と疑問に思ったので。
テロリスト云々の事を話すなら、本来なら春に起きた大きな事件である一高のブランシュ事件にも触れなきゃいけないよね。
なお、実際に話す場合は一高と七草家と十文字家の怠慢を明かす事になるので話せる訳がなかった。
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