猫と蛙とおでこ少女とシャーマン   作:ねこまんじゅう_neko_10k10

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ネギま読んだのが10年くらい前なせいで、これ作っていくなら原作買いなおそうか検討中。
(むむむ、、、)


第2廻 眺めるおでこ少女

図書館島の怪奇現象騒ぎは、数日後にはすっかり話題に上らなくなっていた。

新聞部は原因不明のまま終息を報じ、学園側も設備不良や一時的な錯覚の可能性が高いと発表している。

生徒達の関心も新学期の話題へ移り、騒ぎはそのまま忘れ去られつつあった。

だが、はそれを素直に信じる気にはなれなかった。

数日前の夕暮れ。

図書館島の奥で出会った不思議な少年と、その肩に浮かぶ二匹の存在。

そして、一般常識では説明のつかない出来事の数々。

あの日のことを、綾瀬 夕映(あやせ ゆえ)はまだ誰にも話していない。

話せないと言った方が正しいのかもしれなかった。

ただ一つだけ確かなのは、自分が思っていたより世界はずっと広く、そして不思議に満ちているということだった。

だからこそ――。

 

春の朝。

麻帆良学園女子中等部二年A組の教室には、いつもより少し浮ついた空気が流れていた。

窓の外では満開の桜が風に揺れている。

校庭を吹き抜けた風が花びらをさらい、白い校舎の壁を淡い桃色に染めていた。

新学期が始まってまだ数日。

クラス替えこそないものの、新しい教師が来るという話題は十分に生徒達の興味を引いていた。

教室のあちこちで笑い声が上がる。

春休み中の出来事を話す者。

朝から菓子の交換をしている者。

席を立って友人のところへ遊びに行く者。

始業前の教室らしい賑やかさがそこにはあった。

その中で夕映は、いつものように本を読んでいた。

机の上に開かれているのは昨日買ったばかりの文庫本だ。

まだ読み始めたばかりで、物語はようやく導入部分を終えたところだった。

周囲の騒がしさは嫌いではない。

静かすぎるよりも、このくらいの方が落ち着く。

誰かの笑い声や話し声が遠くから聞こえる程度の雑音は、むしろ読書の邪魔にならなかった。

頁をめくる指が止まる。

ふと窓の外を見ると、桜の花びらが一枚だけ教室へ舞い込んできていた。

春だな、とぼんやり思う。

 

「ねえユエ。」

 

左隣から声が掛かった。

顔を上げる。

同じ図書館探検部の部員である早乙女 ハルナ(さおとめ はるな)が、こちらへ身を乗り出していた。

 

「なんでしょう。」

「この前はごめんね。」

「?」

 

突然の謝罪に夕映は小さく首を傾げる。

ハルナは困ったように笑った。

 

「図書館島の見回り。」

 

その言葉で思い出した。

数日前の夕暮れ。

新聞部が大騒ぎしていた怪奇現象の調査。

図書館探検部として行われた見回りだ。

 

「ああ。」

「木乃香とのどかと一緒に備品整理しててさ。」

「うちもすまんかったなぁ。」

 

前の席から近衛 木乃香(このえ このか)が振り返る。

申し訳なさそうな顔をしているが、どこかのんびりした雰囲気は変わらない。

 

「探検部の仕事やったのに、ゆえ一人に任せてもうた。」

「気にしていません。」

 

夕映は首を振った。

実際、二人が謝る必要はない。

たまたま予定が重なっただけだ。

 

「でもさ。」

 

ハルナが頬杖をつく。

 

「何もなかった?」

「何も。」

 

即答だった。

ハルナは分かりやすく肩を落とす。

 

「なんだぁ。」

「何かあった方が良かったのですか。」

「探検部としては盛り上がるじゃん?」

「危険です。」

「それもそうか。」

 

ハルナが笑う。

夕映も小さく口元を緩めた。

正確には何もなかった訳ではない。

夕暮れの書架。

古い紙の匂い。

薄暗い通路の奥に現れた黒い靄。

 

そして――

あの時、穏やかな笑みを浮かべていた、一人の少年。

思い返しても現実味がない。

夢だったと言われた方が納得できるくらいだ。

だが、夢ではない。

 

夕映は小さく視線を落とした。

あの出来事については、まだ誰にも話すつもりはなかった。

何より自分自身が整理できていない。

説明しようとしても上手く説明できる気がしなかった。

 

「今度何か埋め合わせするよ。」

 

木乃香が言う。

 

「では次の休日にでも書店に付き合ってください。」

「ええけど。」

「新刊の発売日なんです。」

「そういうとこ、ゆえはまめやなぁ。」

「本は重要です。」

「ユエらしいわ。」

 

三人が笑った。

窓から吹き込んだ風が文庫本の頁を一枚だけめくる。

穏やかな朝だった。

少なくとも、この時までは。

やがてホームルーム開始のチャイムが鳴る。

席を立っていた生徒達も少しずつ自分の席へ戻っていった。

夕映も本を閉じる。

栞を挟み、机の中へしまう。

その直後だった。

教室の扉が開く。

源 しずな(みなもと しずな)先生の姿が見えた。

そしてその前には、見慣れない小柄な人影。

次の瞬間だった。

カタン。

何かが外れる音がした。

夕映が反射的に顔を上げる。

視界の端で黒板消しが落下を始めていた。

誰かが仕掛けた悪戯なのだろう。

教室では何人かが吹き出している。

黒板消しは真っ直ぐ、小柄な彼の頭上へ向かう。

避ける暇はない。

そう思ったその時、ほんの一瞬だけ黒板消しの動きが止まったように見えた。

黒板消しの動きが止まったように見えた。

まるで空中に引っ掛かったように。

あるいは見えない手で支えられたように。

錯覚と思うには奇妙な静止だった。

しかし次の瞬間には、そのまま落下する。

ぽすん。

鈍い音。

白い粉がふわりと舞った。

そして足元のロープトラップにひっかかり、教室の入り口から反対の壁に派手に転がりぶつかる。

一拍遅れて教室中が爆笑に包まれる。

夕映は笑わなかった。

今のは何だったのだろう。

気のせいだろうか。

そう考えながら前を見る。

すると神楽坂明日菜もまた、どこか納得していない顔で転がった彼を見つめていた。

その視線を見て、夕映は小さく目を細めた。

少なくとも、自分だけが違和感を覚えた訳ではないらしい。

だが、その違和感はすぐに別の騒ぎへ飲み込まれていった。

教室へ入ってきた彼は、あまりにも小柄だったのである。

頭から白い粉を被ったまま立ち尽くしている姿は、どう見ても教師には見えない。

小学生。

それが夕映の率直な感想だった。

もちろん口には出さない。

だが、どうやら同じことを考えた者は多かったらしい。

 

「えっ?」

「あれ・・・?」

「えっーーー子供じゃん!」

「君、大丈夫!?」

 

あちこちから驚きの声が上がる。

ざわめきは瞬く間に教室全体へ広がった。

派手に入室した本人は完全に萎縮していた。

肩を震わせながら、おろおろと周囲を見回している。

その様子が余計に年齢相応に見えてしまう。

前の席では木乃香が目を丸くしていた。

 

「かわええなぁ……」

「そこですか。」

 

思わず夕映が小声で突っ込む。

ハルナも苦笑していた。

 

「いやでも確かに可愛いねぇ。」

 

夕映は返事をしなかった。

気持ちは分からなくもない。

教室の騒ぎがなかなか収まらない中、源先生が軽く手を叩いた。

 

「さ、自己紹介してもらいましょうかしら。ネギ君」

「は、はいっ!」

 

小柄な教師は慌てて前へ出る。

まだ少し粉が髪に残っていたが本人はそれどころではないらしい。

緊張で赤くなった顔から、深呼吸を一つして。

 

「今日からこの学校で、まほ……」

 

 少年の顔が一瞬だけ固まった。

 

「え、英語を教えることになりました。ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします。」

 

教室からは笑い声が上がる。

噛んだ。

その程度の認識だったのだろう。

だが、夕映の耳には『まほ』という二文字だけが妙に残った。

 

(まほ。)

 

その二文字だけが妙に耳に残った。

図書館島での出来事を知らなければ、気にも留めなかっただろう。

単なる言い間違い。

それで終わる話だ。

しかし今の夕映には、どうしても偶然と思えなかった。

黒板消し。

先ほどの違和感。

そして今の失言。

それぞれ単独なら取るに足らない。

だが、重なると話は別だった。

考え込みかけたところで、教室が再び大きくざわつく。

原因は自己紹介の続きだった。

 

「「「かわいい~~~!!!」」」

 

教室が揺れた。そして歓声が響き渡る。

その後の新しい子ども先生への質問責めである。

質問に律儀に答える姿を、夕映は黙って見ていた。

近くで見ると、やはり小柄だった。

十歳だったとは。

小柄な体。

あどけない顔立ち。

それなのに大学卒業レベルの語学力。

しかも教師。

どう考えても釣り合わない。

気になる部分は他にもある。

本当に授業ができるのだろうか。

生徒達をまとめられるのだろうか。

そんな現実的な疑問も浮かぶ。

 

「天才じゃん!」「すごーい!」

 

質問が飛び交う。

ネギは完全に押され気味だった。

答えようとしては別の質問が飛んでくる。

その繰り返しである。

見ているこちらが気の毒になるほどだった。

 

そんな空気を断ち切るように、一人の生徒が立ち上がった。

神楽坂明日菜である。

勢いよく椅子を引いた音に、周囲の視線が集まった。

明日菜はそのまま教壇へ向かう。

迷いのない足取りだった。

そして。

ネギの胸倉を掴む。

教室が静まり返った。

さっきまでの騒ぎが嘘のようだった。

 

「ねぇ、あんた。」

 

明日菜の声は低い。

怒っているというより、確かめようとしている声だった。

 

「さっき黒板消しに何かしなかった?」

 

ネギの顔から血の気が引く。

明らかに動揺していた。

黒板消しの件だろう。

夕映にも分かった。

おそらく明日菜は見ていたのだ。

あの一瞬の違和感を。

空中で静止したように見えた黒板消しを。

だからこそ追及している。

ネギは何か言おうとして口を開く。

しかし言葉にならない。

しどろもどろになりながら視線を泳がせていた。

教室中の視線が彼に集まる。

 

その直後。

 

「いいかげんにしない!」

 

雪広あやかの声が飛んだ。

いつものやり取りが始まる。

教室の空気が一気に緩む。

ネギはおろおろと二人を見比べていた。

結局そのまま騒ぎは流される形になり、ホームルームは進んでいった。

だが、夕映だけは時折教壇へ視線を向けていた。

黒板消し。

『まほ』という言葉。

そして、あの慌てよう。

小さな違和感はまだ消えていない。

新任教師ネギ・スプリングフィールド。

まだ何も分からない。

証拠もない。

ただ、数日前までは存在しないと思っていたものが、今は違う。

世界には説明のつかないものがある。

それだけは知っている。

だから、目の前の少年についても、もう少し観察してみようと思った。

 

 

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