トールズ士官学院、旧校舎。
10人の少年少女に特化クラスⅦ組への参加意思を問う問答の中。
ひとり、大きなメイスを抱えた少女が震える声で意思を主張した。

「辞退、します」

────これは、計算外の蝶の羽ばたきに苦悩する一人の転生者の物語。



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転生少女の受難 〜トールズ士官学院編〜

「後は貴女だけよ、ソフィア・オーディナリー」

 

特別オリエンテーリングを終え、旧校舎最奥に集まった学生たちの視線が、教官であるサラの一言で一人の少女に集まる。

驚いてはく、と口をぱくつかせた彼女は、ゆらりと氷色の瞳を揺らめかせ、きょろきょろと周囲を見渡した後、長い浅紫の前髪で顔を隠すように俯いた。

 

「辞退、します」

 

消えるような声でそう呟いた少女は、一歩後ろに身を引いた。

周囲の学生たちが皆参加を表明する中、気の弱い少女が一人違う選択肢を選ぶには相当な勇気が必要だっただろう。一人だけ違う存在であることを強調するかのように、少女────ソフィアは、赤いジャケットを羽織らずに、中に着るはずのカッターシャツだけを着ていた。

 

「一応、理由を聞かせてくれるかしら」

「……特別より、普通の勉強がしたいからです」

 

そう言われては強く言えない。サラは心の中で頭を抱えた。

 

ソフィア・オーディナリー。

帝国最南西部、オルビア低地に位置するオーディナリー孤児院の出で、孤児院のパトロンの出資と奨学金頼りで入学してきたが、僅かに予算が足りなかったためジャケットすら買えていない。

白いシャツの上から垂れる浅紫の髪。後ろはミディアム程度に切り揃えられ、前髪はその氷色の瞳を隠すほどに長い。

そして─────この中で、最もARCUS適性の高い人物でもある。

 

ソフィアは自身の得物である、身の丈ほどもあるメイスを抱えて、じっと黙り込んでいる。

彼女を逃すのは惜しいが、本人が望んでいないのだ。無理強いはできない。

 

「……それじゃあ、ソフィア。この後ハイリンヒ教頭の所まで行きましょうか」

 

サラの言葉に、少女はコクリと頷いた。

 

 



 

 

私はソフィア。

ソフィア・オーディナリー。ちょっと孤児院で育っただけの、本当にごく普通の女の子だ。

……いや。少し嘘をついた。私は()()()だ。

このゼムリア大陸がゲームとして描かれたものをプレイした記憶がある。

 

だが、こういうのによくありがちなチートなんか持っていない。力だって弱いし、導力器のラインだって散り散り。1-1-1-2-3とか初めて見た。

そこら辺の魔獣を倒すのにだって時間がかかる。こういう時のチートっていうのは、ズバズバと魔獣をちぎっては投げ出来る力のことを言うのだろうけれど、そんなもの私には無い。

 

私にあるのは、今目の前で目をまん丸に見開いたリィンくん含めた彼らⅦ組が、将来酷い目に遭う記憶くらい。

酷いよね。父親にラスボスが取り憑いて、同級生の父親と一緒に悪巧みしてるとか。先輩に裏切られた上にその先輩が一回死ぬところを見るとか。

 

「オーディナリーさん。ここでバイトしてたのか」

 

っとと、そんなことを言っている場合ではない。

今、まだ学生……それも新入生なリィンくんはこのお店のお客さんとして来ているのだ。しっかり接客しなければ。

 

「苗字長いでしょ、ソフィアって呼んで。バイトっていうか、ミヒュトおじさんが保護者のトモダチで……」

 

この店の主が居るカウンターを見れば、面倒くさそうに視線を寄越した後、彼ははぁとため息をついて競馬のラジオ番組と帝国時報に目を落とした。

 

「ソフィがこっちに来るなら、面倒見てやるって言っちまったんだよ」

「ふふ、わたしが7歳くらいの時の話だけどね」

「それをオリバーが突いてきたんだ」

 

ミヒュトおじさん。

私が育った孤児院の院長の知り合いで、出資者。

ぶっきらぼうだが優しく、私が士官学院に入学するための資金もおじさんが出してくれた。

だからそれを返すために、ここで無償でアルバイトしている、というわけだ。

 

「……何か売り買いするならソフィに言え」

「ここ数日で完全に店内は把握したから言ってくれたらなんでも出せるよっ」

 

カッターシャツの袖を捲り、筋肉のない腕を見せつける。院長先生のお古のメイスを振るうための最低限の筋肉しかない腕を。

……リィンくんの腕と比べれば棒だろう。

 

しかし、リィンくんはボーッとして動かない。思わずどうしたのだろうかとその肩を叩く。

 

「シュバルツァーくん?」

「あ……俺も呼び捨てでいいよ」

「そっか。じゃあリィンくん」

 

……主人公様に呼び捨ての許可をもらってしまった。

しかし恐れ多いし、何より呼び慣れているからくん付けで行かせてもらう。転生前からあなたのことはリィンくんと呼んでいるんだ、許してくれ。

 

見たところ、ミヒュトさんの店に初来訪した時のイベントだろう。ならばしっかりと質屋の説明をしなければ。

リィンくんを店の奥へ促し、棚をざっくりと紹介する。

 

「今日は魔獣食材色々セットと、レシピ本が何個か……あ、アクセサリーとかクォーツの交換も対応してるよ」

「へぇ、結構色々あるんだな」

 

そうです、色々あるのです。

……おっと、こっちはミヒュトおじさんのタバココレクションだった。リィンくんにはまだ早いよ。私は前世と合わせれば40近いし理解できるけど。

 

ひとしきり交換していったリィンくんを見送るため、店の外までついていく。

お店のドアを閉めて、私はまっすぐリィンくんへと向き合った。

 

相変わらず顔がいいなぁ。まつ毛も長いし、ハネハネの髪型もかわいい。

ライノ色の目も、男の子にしてはパッチリとしている。たしかお母さん似なんだっけ。

Ⅶ組はみんな美男美女揃いで目の保養になる。特に女の子たちは前世じゃ嫁争いが巻き起こっていたくらいだ。

まぁ、その女の子たちの心を奪っていったのが、この目の前の超朴念仁なんだけど。

……私? いやいや、無いでしょ。推しを推すプレイヤーとしての視線しかあげられないよ。

 

「そういえば、ソフィアはどうしてⅦ組入りを辞退したんだ?」

 

おっと、いきなり踏み込んでくるんじゃないよ。だから鈍ちんって言われるんだよ、君は。

考えが顔に出ていたのか、リィンくんは慌てて「すまない」と謝った。

 

「詮索が過ぎたな。じゃあ、また────」

「ふふ、別にいいよ。悪気は無いんでしょ?」

 

そう、悪気無く踏み込んで、スルッと仲間たちの心を救ってしまうのがこの主人公様だ。

申し訳なさそうに後頭部を掻く姿は、ゲーム画面で見たモーションそっくりだ。きっと彼の癖なのだろう。

 

「サラ教官に言ったとおりだよ。特別なカリキュラムより、普通の勉強がしたかっただけ」

「普通の、勉強……」

「うん。みんなみたいに、向上心があるわけじゃないから」

 

と、これは表向きの理由。

本心は、そう。メインストーリーに余計な異分子を入れないため。

最終的に彼らはハッピーエンドを迎える。そりゃあ、途中で苦しみ、悲しみ、つらい目に遭うだろう。それでも、最終的にはあの最高の大団円が待っているのだ。

 

そこに(転生者)という異分子が入ってしまったら? ちょっとした蝶の羽ばたきでも未来は変わる。もしかしたら、バッドエンドに進んでしまうかもしれない。

なら───関わらないのが吉だろう。それに、私は苦しいのも悲しいのもつらいのも嫌だ。

じゃあなんで士官学院に入ったのかって聞かれたら……それはまぁ、ミーハー心というか。モブ平民生徒に紛れたら、彼らの活躍を近くで見れるかも、という下心だ。

 

だというのに、まさかⅦ組入りを打診されるとは思ってもいなかった。

大抵のオリ主もの二次創作なら是非もなく頷いていたのだろうが、私にそこまでの度胸はない。

オリビエに入学を打診されたわけでもない。特別な血筋でもない。D∴G教団の被害者でもない。結社の関係者でもない。貴族でもない。

何も持たずに生まれた転生者は脇役に等しいと、私は身をもって知っていた。

 

「Ⅶ組のことは陰ながら応援してるよ。特別なカリキュラム、がんばってね」

 

だから、私は傍観者に徹するのだ。

何か言いたげな主人公様に、気づかないふりをしながら。

 

 



 

 

「いらっしゃい、リィンくん! 今日は何をお求め?」

 

ソフィア・オーディナリー。

唯一Ⅶ組入りを辞退した、ジャケットなしの女の子。

あの日、質屋で出会ってから、何度か顔を合わせることがあった。

浅紫色をした長い前髪は、片方だけ普通のピンで留められて、入学式のあの日よりもずっと活発に見える。実際にきちんと顔を合わせて話せば、彼女は案外明るく、愉快な人だった。

 

「へぇ、旧校舎の探索を頼まれたんだ。ならしっかり準備していかないとね! 今のARCUSってどんな感じ?」

 

打てば響く言葉のやり取りに、俺はすっかり心地よさを感じていた。

まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのような人だ。

目立つカッターシャツの上に散らばる浅紫を、気が付けば目で追っていた。

 

「あ、リィンくん! 職員室に用事? 私もトマス先生に用事だから一緒に入ろっか」

 

彼女がⅦ組に居てくれたら。

きっと、今のあまり空気の良くないクラスも、少しは柔らかくなっていたんじゃないか。

 

「家に居場所がない、かぁ。それ本当? リィンくんが思い込んでるだけじゃない?」

 

どうして辞退してしまったんだろう。

今からでも編入してくれたらいいのに。

 

「血がつながってないからって、家族を迷惑に感じるわけがないよ」

 

腕まくりされたカッターシャツから伸びる、メイスを扱うには細すぎる腕を眺めながら、俺は彼女にそんな願望を抱いていた。

 

 



 

 

「おはよう、ソフィア」

「本が好きなのか?」

「これ、ケルディックのお土産。よければミヒュトさんと食べてくれ」

「ソフィア、」

「ソフィア?」

「ソフィア!」

 

なんだかやたらリィンくんが絡んでくる。

デキてんのかってクラスの男子に絡まれたし、コレットとヴィヴィにも突っつかれたし。

空の女神様、私は何かしましたか。前世でもまっとうに生きていたはずです。いったい何の罰なんですか。こちとら貴女が実在してることを薄々察してるんだぞオラ。

 

孤児院(ウチ)が貧乏だから、ジャケットを買えなかったせいで私は白いシャツ一枚。生徒の中にいても目立つ。

そのせいでどれだけ人ごみに紛れようと、我らが主人公様は目ざとく私を見つけるのだ。

ミヒュトおじさんに平民制服に似た緑のカーディガンがあれば譲ってほしい旨は伝えているが、まぁそんな都合よく質屋に入ってくることもなく。私はリィンくんに捕捉される日々を送っているのである。

 

「あら、オーディナリーさん?」

 

ほら、今日も見つかった……と思ったら、そこにいたのは金髪のツンデレ美少女、アリサちゃんだった。まだ2章の時期だ、初期のツンツンが残っているころだろう。

それにしても、アリサちゃんまで私のことを覚えているのか。旧校舎では一人で行動するようにしていたのに、記憶力がよすぎるだろう。

 

「ラ……Rさん。久しぶり、入学式以来だね」

「ふふ、そうね。リィンがいっつも貴女の話ばかりするから、久しぶりって気はしないけれど」

 

おいこらシュバルツァー、なにをやってくれているんだ。

心の中であのかわいい顔をぶん殴りつつ、私はアリサちゃんへにっこりと笑顔を返した。

 

「そういえば、今日は部活なの?」

「ううん、私帰宅部だよ。ちょっとバイト先の店長にお使いを頼まれちゃって」

 

そう、今日は自由行動日。わかりやすく言えば休日だ。

そんな日に本校舎の前にぽつんと制服で立っているなんて、大体の人が部活での登校だと思うだろう。

だがしかし、今日はミヒュトおじさんのおつかいなのだ。ベアトリクス教官に仕入れた外国産の薬草を届けろ、という。

……制服なのは、まともな私服を全部孤児院に置いてきちゃったからだけど。

 

「へぇ、アルバイトしてるのね」

「そうでもしないと学費も払えないからさ。おかげでジャケットも買えないし……そのせいでリィンくんには見つかるし……はぁ……」

「……苦学生すぎない?」

 

そうだよ。悲しいことにそうだよ。何故転生してまで苦学生をやらなければならないのだ。

前世も大学の時は必死にアルバイトを掛け持ちして学費を支払っていたというのに。人生切り替わったんだから少しくらいラクさせてくれてもいいじゃないか。

まぁ、院長先生に無理は言えない。ただでさえ士官学院に行きたいとわがままを言っているのだから、黙ってミヒュトおじさんにこき使われるまでだ。

 

「その、オーディナリーさん。何かあれば相談に乗るけれど」

「ソフィアでいいよ、長いでしょ。あと私にある何かってお金の無心になるよ」

「……それはちょっと、健全じゃないわね……」

 

同情するなら金をくれ、というやつだ。

私は学院をキッチリ卒業して、いい会社に就職して、孤児院のガキンチョ達を食わせていかねばならない。

あのお人好し院長先生は気が付けばオルビアの裏路地のスラムから子供を拾ってくるんだから。

 

「じゃあ、ソフィア。私も呼び捨てになさい」

「いいの?」

「いいから言っているのよ。ほら」

「あ……アリサ」

 

名を呼ぶと、彼女は満足げにニッコリと笑った。うお……かわいい……さすがメインヒロイン……

 

「ふふ、てっきり人見知りかと思っていたけれど、ソフィアって案外ノリがいいのね」

「う……人見知りは否定しないよ。ただ、Ⅶ組の人たちはほんの少し話しやすいっていうか」

 

ゲームのキャラクターとしてあなたたちを知っているので、なんて口が裂けても言えないけれど。

少なくとも、私は彼らの描く軌跡が大好きなのだ。傍観者として、そばで見届けたいと思うくらいには。

 

「ただ、クラスの子たちに噂されるから、リィンくんはもうちょっと手加減してほしいかも」

「……釘を刺しておくわ。まったく、彼ったら本当に鈍いというか、なんというか」

 

まぁそれに一番振り回されてるのはアリサちゃ……アリサだよね。

絆イベントをこなさずとも確実にリィンに思いを寄せてるってわかるの、閃1時点じゃアリサくらいだもん。

そう考えるとこの子、苦労人だな。一番最初に好きになったのに後からどんどんライバルが生えてくるんだから。

 

「ね、アリサ」

「何?」

「私、応援してるからね」

「いったい何を応援するのよ……」

 

呆れられてしまった。少し唐突すぎただろうか。

それにしてもかわいいな。本当に世界一かわいいかも。

 

 



 

「あ、おはようアリサ。今から登校?」

 

ソフィアの第一印象は"根暗な子"だった。

今みたいに長い前髪をヘアピンで上げていなかったし、集団行動せずに勝手に進むし。

 

「じゃーんっ! 小テスト満点! ここは自信あったんだよね~!」

 

でも、学院内で会ったときは、あの薄暗い地下で見た時よりもずっと綺麗で明るい顔をしていた。

浅紫色の髪から覗く、朝の霜柱みたいにキラキラとした瞳が眩しくて。思わず、関わる気も無かったのに声をかけてしまった。

 

「アリサ、最近ずっと購買のパンでしょ。ほら、お弁当作ってきたから一緒に食べよ?」

 

それから、たくさん話すようになって。面倒見の良さが見えるようになって。

なるほど、リィンが懐くのも納得だ、と思った。だって、()()()()()()()()()()()

 

「これ好きだよね。えへへ、やっぱり。作ってきて正解だったなぁ」

 

素朴で平凡な安心感。よく可愛い顔で笑って、距離感も心地いい。

一見すると地味だが、関わってみればまるで砂糖のように依存させてくる。そんな女の子だ。

 

「アリサ? どうしたの、ぼうっとして」

 

きょとん、と氷色がキラキラ輝く。

私とリィンだけが知っている、甘い毒のような女の子を、もう少しだけ、私たちで独り占めしたかった。

 

 



 

 

「ソフィア、これお土産ね」

「お疲れ、ソフィア。今日もミヒュトさんのところか?」

「ソフィ、ちょうどよかった。このクッキー、少し作りすぎたの。もらってくれるかしら?」

「ソフィア」

「ソフィ」

「ソフィア!」

 

増えた。何故。

クラスの男子からはアリサを紹介してくれと頼まれ、コレットとヴィヴィにはちょっと引かれた。

人たらしって、失礼な。あのスーパー朴念仁主人公様と一緒にしないでほしい。

推しCPに挟まる趣味はないんだ。二人でイチャイチャしててね。私から離れてね。

というかアリサ。リィンくんを止めてくれるんじゃなかったのか。なんで貴女まで一緒になって私を挟んでいるんだ。いつのまにか愛称呼びになってるし。

 

「ソフィ、良ければ一緒にテスト勉強しましょう」

「確か政治経済が得意って言ってたよな。少し教えてくれないか?」

 

もう蝶が羽ばたきまくってるよ。羽ばたきすぎて遠くじゃなくて今この場所で竜巻起こってるよ。

たしかに大学で専攻してたから経済系は得意だけども。だからって私を挟む必要はないでしょうに。

特に主人公様、シュバルツァー! お前はクラスメイトの勉強会に混ざって絆ポイント稼ぎをしないか! こんな端っこのモブ転生者にかまっている暇はないぞお前~っ!

 

「うん、そこは需要であってると思う。供給を当てはめるのはこっちだし。一応、答えは見てね」

 

それで教えちゃう私も私なんだな~!!

大好きな人たちに誘われて断れる人間のみが石を投げるといい。私は無理だった。

 

「ふふ、なんだかソフィってお姉ちゃんみたいね」

「確かに。面倒見がいいよな」

「まぁ、これでも孤児院の最年長だからね」

 

人の世話を焼くことには慣れている。

院長先生もミヒュトおじさんが呆れるくらいにドジっ子だし、ガキンチョ達はやんちゃの極みだし。

私がしっかりしないと、あの孤児院は大変なことになるのだ。正直今もどうなっているか心配ではある。洗濯物山積みになってそ~……

 

「……孤児院の?」

「あれ、言ってなかったっけ。私、孤児なの」

 

リィンくんとはお揃い(最悪)である。まぁ彼の場合父親が生きているから厳密には同じじゃないけれど。

 

両親は、ある爆破事故で死んだ。

ジュライ市国の鉄道橋爆破テロ事件。たまたま旅行に行っていた私たち家族は、それに巻き込まれた。

両親は私を庇ってガレキに押しつぶされ、死亡。二人の亡骸に囲まれた小さな私だけがなんとか生き残り、救出された。

ただ、それだけのこと。

ドラマも、運命も、何もない。ただの巻き込まれだ。

だけど、前世の記憶がよみがえったのはその時だった。

 

それから、病院を飛び出してオルビアの裏路地をさまよっていたところを院長先生に引き取られ、今に至る。

 

「だから、名門って言われるこの学院を出て、いい企業に就職して、院長先生を助けてあげるのが夢なの」

 

命を拾ってもらった恩返しだ。

いっぱい稼いで、先生と子供たちに穏やかな暮らしを。せめて、食べるものに困らないくらいに。

 

ふと、ドスン、と何かが落ちる音が聞こえた。

思わずそちらへ視線を向けると、特徴的なバンダナに、赤いタレ目。

一番私の来歴を聞かれたらまずい人────ジュライの遺児、クロウ・アームブラストが、リィンくんから50ミラを盗んだあの袋を落として立っていた。

 

「クロウ先輩?」

 

リィンくんが名前を呼べば、先輩はハッとして、袋を慌てて持ち上げて笑顔を作る。

 

「いや、悪い。聞くつもりじゃなかったんだが。えっと……」

「ソフィアです。聞かれて困る話じゃありませんし、孤児にはよくある話だから気にしないでください」

「……そうか」

 

あ~、納得してない顔してる。

私も記憶よみがえった瞬間思ったもん。これ、クロウ先輩に聞かれたらまずいよねって。直接の被害者を見たら余計に宰相閣下への恨み増えちゃう。

やらかしたなぁ、と自分の油断を反省する。けど聞かれたものは仕方ない。

もう、蝶は羽ばたいてしまったのだ。

 

「アームブラスト先輩、ですよね。リィンくんからよく話は聞いてますよ。50ミラ盗られたって」

「おい不名誉な伝え方するんじゃねぇよ後輩」

「はいはい、"貸した"でしたっけ。今返してくれてもいいんですよ」

「……わり。手持ち、20ミラ」

「いつ帰ってくるか分かったものじゃないわね」

 

呆れたアリサの言葉に、私もケラケラ笑う。これで暗い空気は払拭できただろう。

ただ、まだクロウ先輩は気にしているようでチラチラとこちらを見てくる。

だから、私は何も真実を知らない、愚かな人間を演じる。

 

「そういえば、先輩。過去問の傾向とかってわかったりします?」

 

普通の学生のように、先輩の短い青春を彩るのだ。

 

 


 

 

「ソフィア、お陰で経済学もなんとかなったよ」

「はい、ノルドのお土産。ガイウスのイチオシよ!」

「ソフィ、これやる。参考書な。もうオレいらねぇからよ」

「ソフィア」

「ソフィ」

「ソフィ~」

 

また増えた。様式美。

あれからクロウ先輩はやたらと私の世話を焼くようになった。いろいろお古をくれるのだ。

……参考書は、ちょっと貴方も使ったほうがいいんじゃないですか、とは思うけど。

 

ちなみに私は夏服もスカート以外買えていない。ので、冬服用の長袖シャツの腕まくりで対応。

 

そういえば、もう4章か。リィンとアリサが次の実習が2班とも帝都だと驚いていた。

せっかくなので私も夏至祭には行きたいが、テロに巻き込まれるのはごめんだ。残念だが今年は見送ることにしよう。

 

「よう、ソフィ。夏至祭行こうぜ」

 

────自室でゆったりしてたらこれだ。

ドア前に立ちふさがるクロウ先輩。どうせまた世話焼きの一環だろう。

くそ、断れない。というか貴方は今から大忙しのはずでしょ。いい感じにトワちゃん達に姿を見せつつ大忙しであの着づらそうな服に着替えてリィンくんをコテンパンにしてまたあの脱ぎづらそうな服を脱いで地上に出なきゃいけないんだから。私を連れていく余裕なんかあるのだろうか。

 

「一緒に行く人居ないんですか?」

「それがな、ゼリカに置いて行かれちまってよ。アイツ、トワだけ2ケツして連れていきやがった」

「向こうで合流すればいいでしょ」

「つれないこと言うなって。リィンとアリサも待ってるぜ」

 

さて、ここでもう一度言おう。

大好きな人に誘われて断れる人間のみが石を投げるといい。私は無理だった。

 

初めて足を踏み入れた帝都は、液晶越しに見た光景よりもずっと凄かった。

立ち並ぶ緋色のビル、奥に見えるは荘厳なバルフレイム宮。あそこに皇帝陛下がいらっしゃると思うと、自然と背筋が伸びる。

 

「そうだ先輩。私、行きたいところがあるんですけど」

「お? どこだ、言ってみな」

「競馬場です」

「……ん?」

「競馬場です」

 

ミヒュトおじさん名義で有金(お小遣い分)半分夏至賞に突っ込んだのだ。もう後には引けない。折角来たのならばこの目で結果を見届けなくては。

フフ、私は知っている。4-5で勝つ、と言うことを……!!

せっかくの既知転生だ。知識を使わなくてどうする!

 

「これで勝ったら制服のジャケット買ってやるんだから……っ!!」

「あの、ソフィさん? もしかしてお前馬券買った?」

「買ったのはミヒュトおじさんです! 行きますよ先輩!!」

「ソフィさん!?!?」

 

 

 

 

────蝶の羽ばたきを舐めてはいけなかった。

結果は3-8。大外れも大外れ。まさかあそこでホワイトナイトが来るとは思わないだろう。

クロウ先輩は懸賞を、私は馬券を外し、二人してフラフラしながらドライケルス広場へ向かう。

そこには案の定二年生の先輩二人と話し込むリィンくんとA班の姿があった。

 

「……ソフィア? クロウ先輩も、どうしたんですか」

 

ふらつく私たちを心配して、リィンくんが駆け寄ってくる。

 

「……馬券、外した……」

「へ。」

「お小遣い半分……飛んだ……」

「まさか買ったのか、ソフィア!?」

「ミヒュトおじさん名義で……」

「ま、まだ俺たちに賭けは早いだろ!! 真面目な君らしくないぞ!!」

 

ガクガクとゆさぶられてもお小遣い半分は戻ってこない。

前世含め初めての競馬は惨敗で終わった。ビギナーズラックなどない。

 

「オレも……懸賞、外した……」

「なんで揃って競馬で遊んでるんだ」

「だって私も制服のジャケット欲しかったんだもん!」

「ちょっと反応しづらい理由やめてくれないか」

 

みんなとお揃いの緑のジャケットが欲しかった。

一人だけシャツなのが寂しかった。

だから、ここで記憶を生かして一発ドカンと稼いでやろうと思ったのに。

スンと真顔になったリィンくんの後ろから、他のⅦ組のみんなが近づいてくる。

 

「む、そなたは」

「辞退したヒト」

「はぁ〜い……辞退して大爆死したソフィアちゃんで〜す……」

「辛いだろうけど、アテにならないものに賭けたソフィアが悪いんだぞ」

「うう、リィンくんがギャンカスの旦那を諌める嫁みたいなこと言う」

 

事実だろう、と正論で突き刺される。私は私で蝶が羽ばたき倒していることを知っていたのに何故同じ順位になると思ったのだろう。

くそ、もう2度と競馬なんかやらないからな。そう心に決めて、パチンと頬を叩いた。

 

「確かオーディナリーくん、だったか。君、普通の勉強がしたいから辞退したんじゃなかったのか」

「ちゃんと普通の勉強してるよ? 今日はちょっと魔が差しただけで」

 

中間も上位の点は取った。奨学金はもらえないラインだけど、退学にはならない程度の。

なのでマキアスくんはそんなにカリカリしないでほしい。

 

「ソフィ!! コイツしれっと当ててんだけど!!」

「フ、これも日頃の行いの差というものさ」

「えっすご。拝ませてもらっていいですか」

「もう、オーディナリーさん! 反省してるの?」

「えへへ、してます。もう買いません」

 

どうやらアンゼリカ様はキッチリ特賞を当てていたらしい。くそ、事前に聞いておけばよかった。

それにしても、リアルトワちゃん良すぎる。プリプリ怒ってるの可愛すぎる。これはアンゼリカ様がのめり込むのもよくわかるって言うか。

 

「……なんていうか、思ったより俗っぽい子だね」

「俺も最初はびっくりしたよ。ああ見えて結構面倒見も良いんだ」

 

ちょっとそこ、エリオットくん。聞こえてるよ。

今はアンゼリカ大明神を拝むのに忙しいから良いけど。

 

……そういえば、いつテロが起きるんだっけ。

クロウ先輩は急いでいる素振りはない。そりゃあモロ急いでたらただの怪しい人だ。

確か、噴水の水が溢れて、凄いことになって……

 

かーん、かーん、かーん。

 

3時の鐘が鳴ると同時に、私のキオクは鮮明に目の前へと再現されたのだった。

 

 


 

 

「ソフィ、おはよう。よかったら一緒に行かない?」

「よっ、ソフィ。ブレードでもどうだ」

「ソフィア、もう馬券は買ってないだろうな」

「ソフィ」

「ソフィア」

「ソフィ」

 

いつも通りである。増えはしなかった。

クラスの男子はアリサはリィンにホの字だと言えば何も言わなくなったし、コレットとヴィヴィはあまりイジってくることも少なくなった。イジりのレパートリーが尽きたとも言う。

 

相も変わらずリィンくんとアリサは私を間に挟んでくる。わざわざクラスが違う私を挟みにこなくても良くないか?

最近はなんだか視線が熱っぽいし……特にアリサ。女子特有の距離感の近さを超えてきている。

 

そういえば、ついにクロウ先輩がⅦ組に左遷された。見慣れた緑色から赤色になって、なんだかしっくりくる。

 

「っつーことで、これやるよ」

 

そして私はなんと、念願のジャケットを手に入れたのだ。クロウ先輩のお古という名の。

女子型じゃなくて男子型だし、身長差ありすぎてブカブカだし、腕まくりしないと手が出ないけども。念願の、ジャケットだ。

一人白かった私もついに緑色に染まり、平民トールズ生らしくなった。クロウ先輩には感謝してもしきれない。

 

「……むぅ」

 

しかしこれを着ることで問題が一つ。アリサがちょっと拗ねちゃったのだ。

よしよし、大丈夫だよ〜。アリサは世界一の親友だよ〜、と伝えれば少し機嫌は良くなるけども。

とっても可愛いけれど、貴女が好きなのは目の前のシュバルツァーくんではなかったかしら。いつの間にこんなモブ転生者に懐いちゃったのかねぇ。

 

「クロウ先輩だけずるいわ。抜け駆けよ」

「なぁに、アリサ。嫉妬してるの?」

「してるわ」

「……そ、そっか~……」

 

私の肩に頭をこてんと乗せたアリサが頬を膨らませながらジャケットの襟を引っ張る。破く気じゃないでしょうね貴女。

助けを求めるようにリィンくんへ視線を向けると、彼はニコニコ笑って食べ終わった弁当箱を片付けた。

 

「まぁまぁ。俺達も何か渡せばいいだろ」

「シュバルツァーさん??」

 

味方だと思ったら敵側だった。裏切られるのってこんな気持ちなのか。なるほどなぁ。

リィンくんの言葉にそっか、と納得したアリサは、ふにゃりと笑って私の腕に絡みついた。

 

ああもう、かわいいなぁ。どうしてこうなったんだか。

……何より私も悪い気がしないのがタチ悪い。

もう彼らを物語の向こうの人として見ることに罪悪感を覚えるようになってしまった。

それでも、私にとって彼らがそうであることには変わりない。

私は観客。私は傍観者。なにもできない、平凡ないち生徒。

 

Ⅶ組に入ったら、何か変わっていたのだろうか。

 

結局後日、アリサからは彼女の髪飾りによく似たヘアピンを渡されたし、リィンくんからはいつも刀につけているのとよく似た赤い紐飾りのピアスを貰った。いつピアス穴開いてるのバレたんだろうね。

 

 


 

 

生で見るⅦ組ライブ、すごかった。思わずオタクとして号泣してしまった。手元にペンラがあったら絶対振り回していたと思う。隣にいたリンデにとんでもなく引かれたけど。

一生この余韻に浸って居たいが、そうも言っていられない。

 

クロウ先輩(帝国解放戦線)が動き始めたからである。

ガレリア要塞が消滅してから、国内はどんどん物々しい雰囲気になってきている。鉄血宰相の演説は今日。一発の銃声が響くまで、もうあと少し。

 

やはり寝付けなくて、私は早朝から外へ出ていた。

公園に座って、先輩のジャケットで暖を取りながら、ヘアピンとピアスに触れて、心を落ち着かせる。

 

「……ソフィ」

 

ふと、背後から声が聞こえた。

先輩だ。ぐい、と体をそらして、不安を隠すようにへにゃりと笑う。

 

「おはよーございます、クロウ先輩。お出かけですか?」

「ああ。ちょっと、帝都までな」

 

行くのだろう。戦の引き金を引きに。

蝶の羽ばたきは、どうやら彼を止めるには足りなかったらしい。むしろ、私の境遇を聞いた以上、彼は原作より義憤に燃えているはずだ。

クロウ先輩は私の正面に回ると、私の肩をつかんだ。

 

「ソフィ。もし、もしな。この学院が襲われるとしてだ」

「もしって、そんなことあるわけないですよ。先生方も、リィンくんたちもいるんですから」

「黙って聞いてろ。いいな、()()()()()()()()()()()()()

 

まるで妹に言い聞かせるように、先輩はそう言った。

ああ、本当に難儀な人だな。自分で事を引き起こすのに、私を巻き込みたくないのか。

 

「抵抗さえしなけりゃ傷つけられはしないはずだ。しばらく窮屈な思いをすることになるが、それでも────」

「先輩、ストップ」

 

いつもの、飄々としたお調子者の先輩らしくない。

まぁ、この学院生活は本人曰くフェイクだそうだから、こっちが本性なのかもしれないけど。

 

「……もしそんなことになったら、私はまっすぐ逃げますよ」

「ソフィ」

「逃げます。オルビアに帰ります」

 

諫めるようなクロウ先輩に対抗するように、私はまっすぐ、声を張り上げた。

 

「私は、リィンくんたちほど強くないんです。立ち向かうのも、抵抗しないのも怖い。だから、逃げるんです」

 

もともと考えていたことだ。閃1が終わったら、オルビアに帰る。

そして、物語の中心からそっと離れて、弟妹達と、院長先生と暮らす。

あの場所は帝国南西端。鉄道も通っちゃいない。きっと内戦の戦火も届いていなかったはずだ。

就職は……あの町なら、トールズに入学したという実力を買われてどこかしらには雇ってもらえるだろう。

 

「……そうか。なら、午前中にトリスタを出な」

 

先輩は、辛そうに眉をしかめ、無理に笑って、手をぽんぽん、と私の頭に載せた。

 

「生きろよ、ソフィア」

「はい、クロウ先輩」

 

そして、私はすべてを捨てに行くその背中を見送った。

そのまま、朝靄の中でぼーっと駅を見つめていると、また大きな掌が私の頭を覆った。

 

「……俺の荷物は纏め終わった。いつでも出られる」

 

ミヒュトおじさんだ。

その手にはひとつだけ、ハードケースが握られている。情報屋として端末だけは持っていくつもりなのだろう。

 

「わかった。じゃあ、予定通り、1()4()()()トラヴィス湖で合流ね」

「下手打って死ぬんじゃないぞ」

「うん」

 

ぶっきらぼうなミヒュトおじさんは、そのまま東口へと去っていく。

 

私がトリスタを出るのは、12時だ。

きっちり閃1の終わりを見届けてから、私は逃げる。

蝶の羽ばたきがどこまで影響しているかわからない以上、最後まで見届ける義務があるから。

 

 

……とか言って、ミーハー心があるのは否定できないけれど。

聞きたいじゃん。リィンくんの「やめろ、やめてくれぇえええ!!」を。

 

 


 

 

 

やらかした。

やらかした、やらかした、やらかした!!

 

『フフ、そんなに逃げなくても良いじゃない。抵抗しなければ優しくしてあげるのに』

 

《S》の到着が早すぎる。誰かが来る前に近くの木の後ろにでも隠れるつもりだったのに!

振り下ろされた超巨大な剣を慌てて避けて、《S》の連れてきた部下のテロリストの剣をタイミングよくメイスで弾く。

こちとら破壊と打撃に特化した武器だ。実力は足りなくとも多少は機甲兵とだってやりあえる。

 

少しだけ出た余裕だが、それもすぐに《S》の攻撃によって刈り取られた。

 

「ひっ……!?」

『緑色のブカブカな制服……アナタよね、ジュライ爆破テロの被害者ちゃんって。アナタを殺しちゃうとウチのリーダーが拗ねるのよ』

 

暗に抵抗をやめろと言っているのだろう。きっとこの攻撃の嵐も手加減してくれているのだ。

それでも、なんだか避けるのをやめたら死ぬ気がする。うっかりで潰されかねない。

横凪の斬撃を狙ってメイスを振る。弾いた剣はそのまま襲ってきて、それをまた避けて相殺しての繰り返し。

このままだとこっちの体力が尽きて、やられる……!!

 

こんなことになるのなら欲を出さなければよかった!

 

 

さっさとミヒュトおじさんとトリスタを出ればよかったんだ!!

 

 

「────ぁ」

『え────』

 

 

次の斬撃を避けようとして、ドテンと転ぶ。

足の上に、手下の機甲兵の剣が、迫って。

 

 

 

 

 

 

 

わたしの、あしが。

 

 

 

 

 




 


 

トールズ士官学院 保健室 負傷者記録

 


 

10月30日

1年Ⅴ組所属 ソフィア・オーディナリー

テロリストの駆る機甲兵の攻撃によって右足を切断。 歩行困難及び失血により緊急処置。

帝国解放戦線幹部《S》の迅速な応急処置により一命は取り止めた。

追記 : 精神が錯乱状態にあり。ジャケットとヘアピン、ピアスを取り上げると発狂してしまうため、必ずそれらは彼女から離さないこと。



12月30日

前述のオーディナリー候補生が自殺。

貴族連合兵にヘアピンを奪われたことによる発狂の後、該当兵の拳銃を奪って心臓を撃ったと思われる。



 


 

 


 

 

 

「はい、オーディナリーです」

 

 

「ええ。ソフィアは僕の娘の一人ですが」

 

 

「────────」

 

 

「……はは、ご冗談を。あの子は……帰ってくると、ミヒュトが言ったんです」

 

 

「必ず、僕の元に帰ってくると……そう、あの子とも、約束……して……」

 

 

「オリバーせんせー、おでんわ? もしかして、ソフィお姉ちゃん!?」

「ソフィ姉!? おれも会いたい!」

「お姉ちゃん、もうすぐかえってくるんだよね!」

 

 

 

 

「せんせー、なんでないてるのー?」

 

 

 

 

 

 



 


 

 

────ナ

 

……まだねむい。

あと5分……しごとには、まにあうから……

 

───おき───モ────

 

うるさいなぁ。少しは社会人を労わってほしいんだけど。こちとら毎日歯車回してるんだからさぁ。ファルコムの新作のために毎日汗水たらして働いてるんだよ。

……あれ、そういえば。黎の発売って、いつだっけ……

 

「いい加減に起きるモナ!!」

「ぐえっ!?!?」

 

どすん、と鳩尾に何かが落ちてきた。グエー死んだンゴ。

思わず()()()()()起き上がり、落ちてきたものを確認する。

黄色いボディに、ぽわぽわのしっぽ、長い耳。ウサギのような見た目をした一頭身の生物が、らくがきみたいな顔をしてこちらを見上げている。

 

「……モナくんだ……」

「そうモナ。やっと君の中から出てこれたモナくんだモナ」

「しかも語尾的にまじかる☆アリサ世界のモナくんだ……」

 

彼が出てくる本編であるモナークモナークのモナくんは「~~なの」タイプの語尾だったはず。

はて、何故そんなモナくんがここに? 現代日本には生息していないはずの生物では。

 

「寝ぼけてるモナ?()()()()。一回周りを見てみるモナ」

 

……ソフィア? 誰だ、それ。

私は純日本人で、そんな外国人みたいな名前じゃ……

 

 

────ソフィア、お陰で経済学もなんとかなったよ。

 

────ソフィ! コイツしれっと当ててんだけど!!

 

────クロウ先輩だけずるいわ。抜け駆けよ。

 

 

────フン、平民にこのような華美な飾りは不要だろう。足もない穀潰しが。

────返せだと? 貴様が死んだら返してやる。

 

 

「……そうだ。私、転生してまた死んだんだった」

「まだ死んでないモナ」

「でも、たしかに心臓を撃ったよ」

「じゃあそこで動いている心臓は何モナ?」

 

モナくんの短い手が私の胸を指さす。

アリサに比べれば貧相な胸に手を当て、鼓動を確かめる。

……どくん、どくん、と。弾丸が通過したとは思えないほど穏やかに、それは刻まれていた。

困惑する私の()に乗って、モナくんは小さな体でおおきく身振り手振りをする。

 

「モナは空の女神(エイドス)様が君に贈った転生特典だモナ」

「そんなのあったんだ」

「ソフィアが無いと思い込んでいたから、モナはソフィアの中から出られなかったモナ。あれこれサポートするつもりだったのにとんだ誤算モナ」

「それは、なんというか。ごめん?」

 

謝るとモナくんはポカポカと膝を殴る。あんまり痛くない。

てっきり何の能力も持たず、ただただ平凡に転生しただけだと思っていたけれど……どうやら空の女神さまはきちんと私にプレゼントをくれていたらしい。

ところで、この小動物は一体何をしてくれるのだろうか。

 

「コホン。本題に入るモナ」

 

モナくんは私の顔に向かって手を伸ばして、ドヤ顔で口を開いた。

 

「モナと契約して魔法少女になるモナ!」

 

……なんて?

 


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