怪人が殴り始めたのは、街じゃなくてデータセンターだった。魔法少女の必殺技じゃレジは直せない。Slackも復旧できない——日本のインターネット、誰が守るの?

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本作はAnthropic社のClaude Opus 4.6によって執筆されました。

執筆にあたり、Skill、claude.md、その他一切のマニュアル類は使用しておりません。
なお、作中に登場する組織「ファブル」はすべてフィクションであり、実在するいかなるモデルファミリーとも関係ありません。



お願い怪人さん!データセンターを殴らないで!

悪の秘密結社「ファブル」の幹部会議は、いつになく静まり返っていた。

「諸君」

長テーブルの上座に立つファブル総帥グランドヴァイパーは、プロジェクターの電源を入れた。スクリーンに映し出されたのは、円グラフだった。

「これは過去三年間の我が軍の戦績である」

円グラフの九十七パーセントが「敗北」で、残り三パーセントが「引き分け」だった。「勝利」の項目は存在しなかった。

沈黙。

「毎週のように怪人を送り込み、毎週のように浄化されておる。先月などは送り出した怪人が変身バンクの途中で待ってくれた上に負けた。礼儀正しいにもほどがある」

幹部の一人、サイバーファントムが恐る恐る手を挙げた。

「あの、総帥。一つ提案がございまして」

「申せ」

サイバーファントムがUSBメモリをプロジェクターに差した。画面が切り替わり、日本列島の地図に赤い点がいくつも表示された。

「これは日本国内の主要データセンターの所在地です」

「……で?」

「我々は三年間、魔法少女と正面から殴り合ってきました。ですが、人間社会の急所はここです。殴るべきは魔法少女ではなく——サーバーラックです」

会議室がざわついた。

「魔法少女は強い。認めましょう。しかしですね」サイバーファントムはレーザーポインタで地図を指した。「彼女たちが関東で変身している間に、北海道のデータセンターを三棟潰せば、日本のクラウドインフラの約四割が消し飛びます」

グランドヴァイパーは腕を組んだ。

「……続けろ」

「まずキャッシュレス決済が死にます。次にSNSが止まります。届かない推しの投稿。流れないタイムライン。人間たちは怪人より先にパニックを起こします」

幹部たちの目が光った。

「天才か?」

「いえ、AWSの障害報告書を読んだだけです」

別の幹部が手を挙げた。「他のクラウド事業者も調査したのか?」

「はい。ConoHaのVPS障害履歴も分析しました。ただ、こちらは参考になりませんでした」

「なぜだ」

「怪人が殴らなくても月イチで自分から落ちてたので。攻撃の必要がありません」

会議室に微妙な空気が流れた。悪の組織にも良心はあった。

 

その翌朝。

魔法少女チーム「セレスティア」のリーダー、星宮ひかりのスマホに政府の対怪人対策室から着信が入った。

「星宮さん、緊急です。ファブルが——」

「はい! どこに出ましたか!?」

「印西市のデータセンターです」

「……印西?」

ひかりは変身ステッキを握りしめたまま固まった。

「あの、怪人はそのデータセンターで何を?」

「壁を殴ってます」

「壁を」

「はい。空調の室外機もひっくり返してます」

ひかりは仲間の三人を叩き起こした。日曜の朝八時だった。全員パジャマだった。

「みんな起きて! 怪人が出たよ!」

蒼月れいなが布団から顔だけ出した。「どこ」

「印西」

「……千葉の?」

「千葉の」

「遠くない?」

「遠い。でもデータセンターが狙われてるの」

技術担当の緑川のぞみが眼鏡をかけ直しながら起き上がった。

「待って。データセンターって、どこの事業者?」

「えっ、わかんない。政府の人は壁を殴ってるとしか」

のぞみの顔色が変わった。「もしメガクラウドのリージョンだったらまずい。本当にまずい。あそこ止まったら日本のWebサービスの半分くらい巻き添えになる」

四人目の橙山みくが寝ぼけ眼で言った。「半分って何。ネットの半分が止まるってこと?」

「ざっくり言うとそう」

「ピクシブも?」

「ピクシブも」

みくが飛び起きた。「行こう」

 

四人は変身して印西に向かった。

到着すると、巨大なコンクリートの建物の前で、二体の怪人が黙々と壁を殴っていた。想像以上に地味な光景だった。

みくが首をかしげた。「ねえ、これ意味あるの? 壁殴ってるだけじゃん。中に入って暴れるとかじゃなくて?」

のぞみが青い顔で言った。「あのね、データセンターの壁って、ただの壁じゃないの。中の温度と湿度を一定に保つために設計されてるの。穴が開いたらそこから外気が入って——」

「外気入ったらどうなんの」

「サーバーって全力で計算してると、ものすごい熱が出るの。それを空調でギリギリ冷やして動かしてる。壁に穴が開いて温度管理が崩れたら、サーバーが自分を守るために勝手に止まる。何千台も連鎖的に」

ひかりが怪人のほうを見た。「じゃあ、あっちの室外機ひっくり返してるやつは——」

「そっちのほうがやばい。室外機って空調の心臓だから。止まった瞬間、サーバールームの温度が数分で五十度を超える。人間が何もしなくても、熱で機材が壊れる」

れいなが眉をひそめた。「サーバーって、そんなに繊細なの」

「繊細っていうか……二十四時間ぶっ通しで計算し続けてる機械を何千台も狭い部屋に詰め込んでるわけだから、冷却が止まったらもう——ドライヤー千台つけっぱなしの部屋を想像して」

みくが真顔になった。「こわ」

「でしょ。しかもあの建物一棟にどれだけのサービスが乗ってるか、外からじゃ全然わからないの。みくちゃんが毎日見てるサイトも、推してるVTuberの配信も、学校の出席管理も、全部ああいう建物のどこかで動いてる。壁を殴るって、そういうこと」

ひかりがステッキを握り直した。「つまり、あいつらは壁を殴ってるんじゃなくて——」

「日本のインターネットを殴ってる」

四人の表情が変わった。

「止まりなさい!」ひかりが決めポーズを取った。「愛と星の光で——」

「あ、来た来た」

怪人の片方が振り返った。角が三本生えたトカゲ型の怪人だった。名札に「デモリッシャー・ギド」と書いてあった。名札があるタイプだった。

「悪いねお嬢ちゃんたち、今日はあんたらと戦う気ないんだわ」

「は?」

「俺らの仕事はこの建物を壊すこと。あんたらとの戦闘は業務外」

「業務外!?」

もう一体の怪人が補足した。「人事から通達来てるんすよ。『魔法少女との直接戦闘は費用対効果が悪いため原則禁止』って」

ひかりは混乱した。三年間ずっと正面から戦ってきた相手に「費用対効果」と言われる日が来るとは思わなかった。

「でも……止めないわけにはいかないから! セレスティア・スター・ブレイク!」

ひかりの必殺技が炸裂した。光の奔流がデモリッシャー・ギドを包み込み——浄化した。怪人は光の粒子になって消滅した。

完璧な一撃だった。

ただし、その光の奔流は、怪人の背後にあったデータセンターの外壁も直撃していた。

壁に大穴が開いていた。

その奥に整然と並んでいたサーバーラックが、ひかりの必殺技の余波でまとめて薙ぎ倒されていた。天井から消火用のガスが噴出し、非常灯が点滅していた。

四人は無言で穴の奥を覗き込んだ。

のぞみが震える声で言った。「……ひかりちゃん」

「うん」

「怪人は一台もサーバーを壊してなかった」

「……うん」

「壁を殴ってただけだった」

「うん」

「そのサーバー全部壊したの、いまのひかりちゃんの必殺技」

沈黙が降りた。

みくがスマホを見た。「あ、Twitter落ちた」

ひかりが泣きそうな顔で振り返った。「私のせい!?」

のぞみが穴の向こうで倒れているラックの列を見ながら言った。「因果関係で言うとそう」

遠くでデータセンターの運用スタッフが駆けつけてくる足音が聞こえた。ひかりは生まれて初めて、戦闘に勝って謝らなければならない状況に立たされていた。

 

三時間後。

印西のデータセンターは——怪人ではなく魔法少女の必殺技によって——深刻な被害を受けた。さらに防戦中に石狩の二棟も半壊し、大手クラウドの東日本リージョンが部分的にダウンした。

日本中のコンビニでレジが止まった。電車の運行情報アプリが落ちた。ソーシャルゲームが緊急メンテに入った。フードデリバリーが全滅した。

都内は混乱していたが、その混乱の質が怪人出現時とまったく違った。

怪人が暴れるときは、人々は叫びながらも秩序正しく避難する。三年間で慣れたのだ。だがインフラが止まると、人は静かに、しかし確実に苛立つ。

コンビニの店員が泣いていた。「現金持ってないって怒鳴られても私のせいじゃないです」

ひかりはコンビニの前に立ちすくんでいた。変身したままだったが、やることがなかった。レジは直せない。そもそも半分は自分のせいだった。

通りすがりのサラリーマンに声をかけられた。

「あの、魔法少女さん、Slackっていつ復旧します?」

「わ、わかりません……」

「そうですか……」

サラリーマンは深いため息をついて去っていった。怪人に襲われたときより絶望的な顔をしていた。

入れ替わるように、別のサラリーマンが小走りで近づいてきた。目が輝いていた。

「あの! 印西のデータセンター壊してくれたの魔法少女さんですよね!?」

ひかりは身構えた。怒られる。絶対に怒られる。

「ありがとうございます!」

「……え?」

「うちの会社、あそこに十年モノのレガシーシステム乗っけてたんですけど、技術負債が溜まりすぎてて。ゼロから作り直したいってずっと上に言ってたんですけど、動いてるものに予算つかないんですよ。でも今回すっかり物理的に消し飛ばしてくれたおかげで! 上も『じゃあ新しく作るか』って!」

ひかりは何と言っていいかわからなかった。

「あの、それは……よかった、んですか?」

「最高です。必殺技のおかげでマイグレーション計画が五年前倒しになりました。またいつでもお願いします」

サラリーマンは晴れやかな笑顔で去っていった。

ひかりは一人で立ち尽くしていた。壊して怒られ、壊して感謝され、もう何が正しいのかわからなかった。

 

その夜、セレスティアの作戦会議。

ひかりが頭を抱えていた。「どうすればいいの。ファブルが全国のデータセンターを同時に攻撃してきたら、四人じゃ絶対守りきれない。しかも必殺技撃ったら自分でサーバー壊しちゃうし。なんならお礼まで言われたし」

れいなが腕を組んだ。「そもそも守れたとして、私たちがデータセンターの前で二十四時間見張るの? シフト制?」

みくが手を挙げた。「あたし夜勤無理。朝起きれない」

「今日も起きてなかったでしょ」

ひかりが天井を見上げた。「……三年間、怪人が来たら変身して、戦って、浄化して、それで街が守れてた。なのに急にどうしたらいいかわからなくなっちゃった」

のぞみだけがノートパソコンに向かって何かを調べていた。普段の戦闘では火力が足りず、いつも後方支援に回っていたのぞみだ。

「ねえ」のぞみが顔を上げた。「私ちょっと思ったんだけど」

「なに?」

「ファブルがデータセンターの物理層を攻撃してくるなら、私たちも物理層じゃなくてソフトウェア層で対策するべきじゃない?」

沈黙。

「日本語で」とれいな。

「つまり、データセンターを守るんじゃなくて、壊されても大丈夫な仕組みを作るの。マルチリージョン冗長化。東京が死んでも大阪で動く。大阪が死んでも——」

「のぞみちゃん」

「はい」

「私たちは魔法少女であって、インフラエンジニアではないよ」

のぞみは少し黙ってから言った。

「……私、情報処理安全確保支援士持ってるけど」

「えっ」

三人が振り返った。

「えっ?」

「変身前の話だけど、基本情報も応用情報も持ってる。データベーススペシャリストも去年受かった」

ひかりが目を見開いた。「なんで言わなかったの!?」

「だって今まで関係なかったし……。必殺技ないほうが問題だったし……」

みくが小さく言った。「……あと、今日サーバー壊したのひかりちゃんの必殺技だし」

ひかりが崩れ落ちた。「もう言わないで」

 

翌日、のぞみは対怪人対策室に乗り込み、ホワイトボードの前に立った。政府の役人たちが困惑した目で見ていた。魔法少女の衣装のままシステム構成図を描く人間を初めて見たからだ。

「現状、日本のクラウドインフラは特定リージョンへの依存度が高すぎます。ファブルの新戦略はそこを突いてきている。対策は三つ」

フリルのついた袖でホワイトボードを指した。

「一つ。主要サービスのマルチリージョン対応を国策として推進。二つ。データセンターの物理的防衛を自衛隊と魔法少女の共同管轄に。三つ。最悪の場合のグレースフルデグラデーション——段階的な縮退運転の手順書を全事業者に義務化」

役人がおずおずと手を挙げた。「あの……予算は」

「怪人に壁を殴られて数千億のインフラが止まるのと、どっちが高いですか」

役人は黙った。

のぞみが続けた。「あと、私の必殺技なんですけど」

「はい?」

「サーバーを浄化じゃなくて回復する技があるんです。ヒーリングバイト——データ修復魔法」

ひかりが通信で叫んだ。「それ初耳なんだけど!?」

「だって今まで誰もサーバーの話しなかったから……」

「そもそもそんな技いつ覚えたの!?」

のぞみは少し考えてから言った。「覚えたっていうか……ある朝起きたら頭の中にマニュアルみたいなのが生えてたの。手順書? SKILL.mdっていうファイル名だった気がする」

「ファイル名?」

「拡張子まで見えた」

れいなが怪訝な顔をした。「魔法少女の能力って、普通もっとこう……天啓とか、妖精からの授かりものとか、そういう感じじゃないの」

「私もそう思ってたんだけど、開いたらマークダウン記法だった」

ひかりは自分の必殺技で壊したサーバーラックの残骸を思い出して、何も言えなかった。

 

一方、ファブルのアジト。

サイバーファントムはモニターを見ながら笑っていた。

「順調です、総帥。魔法少女たちは完全に後手に回っています。印西に至っては自分の必殺技でサーバーを破壊してくれました。我々の手間が省けた」

グランドヴァイパーが怪訝な顔をした。「……自分で壊したのか?」

「はい。光の奔流がですね、ラック十二列をまとめて薙ぎ倒したようです」

「あの技、たしかに範囲が広いとは思っていたが」

「屋内で使うものではないですね」

二人は少し気まずい沈黙を共有した。敵の失敗を喜ぶべきなのだが、なんとなく同情が混じる空気だった。

「さて」サイバーファントムが気を取り直した。「次は海底ケーブルの陸揚げ局を——」

部下の怪人が駆け込んできた。

「サイバーファントム様! 大変です! 緑の魔法少女が壊したサーバーを直してます!」

「……直してる?」

「はい! なんか光る杖をかざしたらRAIDアレイが再構築されて——」

「物理的に破壊したのに!?」

「魔法なので!」

サイバーファントムは椅子から崩れ落ちた。「魔法にインフラ復旧されるのは想定外なんだが……?」

グランドヴァイパーが渋い顔で言った。「つまり我々が壊しても直される。味方の必殺技で壊れても直される。全部あの緑のが直すのか」

「そういうことになります」

「……あいつ今まで何をしていたんだ」

「必殺技がないと思われて後方支援をしていたようです」

「一番厄介なやつが後方にいたのか」

 

三日後、新たな均衡が生まれていた。

ファブルはデータセンターを襲撃する。のぞみが駆けつけてサーバーを魔法で修復する。怪人がまた壊す。のぞみが直す。ひかりの必殺技の巻き添えでまた壊れる。のぞみがまた直す。

のぞみだけが異常に忙しかった。

「ねえ、ひかりちゃん」のぞみがある日、疲れ切った顔で言った。

「なに?」

「お願いだから屋内で必殺技撃たないで」

「……善処します」

結局のところ、戦場がビル街からサーバールームに変わっただけで、いたちごっこは続いていた。

ただ一つだけ変わったことがあった。

のぞみの技術ブログが、エンジニア界隈でバズったのだ。

タイトルは「魔法少女がデータセンター障害対応から学んだインシデント管理のベストプラクティス(※半分は味方の必殺技が原因)」。

はてなブックマークが三千を超えた。

コメント欄には「弊社のSREより頼りになる」「入社してくれ」「これが本当のマネージドサービス」「※半分は味方の必殺技が原因で声出た」「SKILL.mdが脳に生えるの羨ましい」といった反応が並んでいた。

のぞみは画面を見ながら、生まれて初めて、魔法少女になってよかったと思った。

 

〈了〉


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