爆豪勝己の再教育   作:てるみや

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一度目の

 

「スターーートォ!!!」

 

開始の合図が会場全体を震わすと同時にゲートから、人の塊が一斉に噴き出す。

二百人ぶんの個性が、たった一つの出口へ殺到した。揉みくちゃの、押し合いへし合い。

 

(来る…最善だけを考え続けろ)

 

知ってる。轟だ。

 

案の定、足元から冷気が走った。

地面が一瞬で凍りつき、後続の脚をまとめて掬っていく。一度目、ここで大半が転んで出遅れた。

 

だが俺は、もう跳んでる。

氷が来るより半拍早く右の掌を後ろへ。小さく爆ぜさせて、凍りつく地面の上を跳ね越えた。

 

切島も、八百万も、青山も。

A組の何人かは、同じように氷を避けて抜けていく。轟がちらと舌打ちするのが見えた。

 

(思ったより避けられたって顔だな)

 

そりゃそうだ。同じ手を俺たちは一度、喰らってる。

……いや。喰らったのは、俺だけか。

 

妙な感覚だった。

このコースの先で、何が待ってるかを、俺だけが知っている。

 

(……知ってるってのは、こんなに静かなのか)

 

周りは必死だ。誰もが初めての景色に喰らいついてる。その中で俺一人だけ、答えを先に見ちまってる。

心強いはずなのに。なぜかぞっとするほど、独りだった。

 

――――――――――――――――――――――

 

最初の関門が、見えてきた。

 

ロボ・インフェルノ。

入試で嫌というほど見た、仮想ヴィランのロボット軍団。小型から中型、そして──ビルみてェにそびえる、巨大なやつが何体も道を塞いでる。

 

一度目の俺なら、考えるより先にぶっ飛ばしてた。

正面から出力に任せて片っ端から薙ぎ倒して。

 

だが今の体じゃ、それはしねェ。

無駄にありったけを撒けば、ゴールまでに汗が尽きる。なら──

 

(撃つのは、一点でいい)

 

向かってくる中型ロボの、膝の継ぎ目。

そこだけを狙って絞った爆破を置く。

 

ズッっと鈍い爆発音が手の中から鳴る。

 

派手さはねェ。だが継ぎ目が砕けてロボがバランスを崩し、自重で前のめりに潰れた。

力で壊すんじゃねェ。急所に一点。鍛え直した、あの感覚だ。

 

頭上で、轟が動いた。

巨大ロボの脚を凍らせ、傾いた巨体が後続への壁になる。倒れてくる鉄塊の下を、俺は爆風で一気にくぐり抜けた。

 

(…体の出来は及第点ってとこだな。まだ遠く及ばねェが、前回よかマシだ)

 

訓練の結果を噛み締め、次の段階へ移ろうと思考を切り替える。

 

ふと、横を、緑色が抜けていった。

 

出久だ。

倒れたロボの残骸から、ひしゃげた鉄板を一枚、引きずり出してる。

 

(……ああ。それ、か)

 

知ってる。あいつは、それを最後まで使う。見ていないふりをして俺は前だけ見て、地を蹴った。

 

――――――――――――――――――――――

 

第二関門。

 

谷だ。

切り立った崖の間に、細い柱が点々と立ち、その間に綱が渡してある。落ちれば失格。大げさな綱渡りゾーン。

 

轟は氷で足場を作りながら、危なげなく渡っていく。

飯田が、エンジンを持て余して、平均台みてェにぎこちなく渡ってるのが見えた。

 

俺は、綱なんざ使わねェ。

両の掌を下へ。爆風で柱から柱へ跳ぶ。

 

一発。二発。三発。四発。五発。

 

(……っ、六発目で、だいぶ反動がキツくなりやがる)

 

最後の柱に、無様に着地した。

汗が少しずつ引いていくのが分かる。――の俺なら、この谷なんざ、爆風一つで一息に飛び越えてた。瞬きの間に。

 

それが、今は。

たった六回跳ぶだけで、ガタが出始める。

 

眼下で、出久が綱の下側にぶら下がって、器用に渡っていくのが見えた。

個性は使ってねェ。あいつは頭で渡ってる。

 

(識ってる。この先もぜんぶ)

 

だが、識ってるだけじゃ、あの背中には届かねェ。

それを、今この体が嫌ってほど突きつけてくる。

 

――――――――――――――――――――――

 

最終関門。

 

地雷原。

 

地面の下に、競技用の地雷がびっしり。威力は大したことねェが、踏めば派手に煙と音が上がる。先頭ほど手つかずの地雷が残ってて不利になる。

 

轟が、氷で地雷を覆いながら進んでる。

慎重なぶん、速度が落ちる。リードがじりじり縮む。

 

今だ。

俺は地を蹴り、爆風で地雷原の上を飛んだ。

轟を抜く。

 

だが──続かねェ。

五発、六発で、爆風が細る。それも、織り込み済みだ。失速する前に、自分から地雷原のど真ん中へ降りた。

 

先頭は俺と轟。

 

(来る。……ここで、あいつが来る)

 

知ってる。一度目も、そうだった。

振り返らなくても、分かった。だから今度は、ただ抜かれてやる気は、ねェ。

 

最後の汗を、握り込む。

ぶち撒けるな。残った一発を撒くんじゃなく、置く。

 

背後で地面が爆ぜた。

 

出久だ。

あの鉄板で地雷を掘り起こし、一か所に集め盾代わりに構えてその山へ飛び込んだ。爆発の反動で一気に宙へ。

 

俺と轟の頭上を、緑色が越えていく。

 

(っ──!!)

 

体が、勝手にカッとなった。

十五のガキの神経が、抜かれることに激昂しかけて──だが、噛み殺す。

 

そうだ。これが、てめェだ。

個性も力もねェガキが、鉄板一枚と頭だけで、化け物どもを出し抜く。一度目、俺はこれが心底許せなかった。

 

だが、今は──知ってた。

だから、待ってた。

 

落ちかけた出久が、空中で、俺の肩を、踏み台にする。

 

(そら、来た)

 

蹴り下ろされた、その力。

殺さずに、喰う。膝のバネに溜めて、前へ飛び出す。

全く予想していなかった轟と緑谷は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔して、地面へと体が落ちていった。

 

同時に、握った最後の一発。

目の前に残る地雷を、横一列。点を、線で、繋ぐように撃ち抜いた。

 

ドドドッ、と。

 

連なった破裂が、一本の道になる。

踏み台の反動と、自分で起こした誘爆。

 

ラストスパートである一直線。

あとはもう個性よりも、根性と、今までのアドバンテージを活かすだけだ。

覚悟はもう決めてる。あとは実行するだけだ。

 

俺は出久と轟を少し追い越す形で、ゴールへ突っ込んだ。

 

肩と、肩が少し離れた。

1歩分の差で──

 

――――――――――――――――――――――

 

スタジアムが、揺れた。

 

『一着、爆豪勝己ィ!! 大混戦を、鼻の差で制したァ!! 二着、緑谷出久!!』

 

プレゼント・マイクの絶叫が、響き渡る。

 

ほんの、すぐ後ろだった。

すぐ隣で出久と轟が、信じられねェって顔のまま立ち尽くしてる。

 

息が、上がってる。

膝に手をついて空を仰いだ。晴れ渡った、嫌になるくらい青い空。

 

(……一位、か)

 

一度目は、ここで三位だった。

出久に抜かれて、頭が真っ白になるほど、ブチ切れてた。なんであいつが、俺の前を、ってな。

 

今は、違う。

順位が変わってる。

 

派手な技じゃねェ。出力でもねェ。

体育館で、汗が涸れるまで置き続けた、あの一点。点を、線で繋ぐ。たったそれだけの半歩だ。

 

だが、その半歩が、俺がヒーローとして意識してから初めてあいつの前に出した。

頭が覚えてるだけだった技を、この十五の体がほんの少しだけ形にしやがった。

 

(……詰まってきてる)

 

頭と、体の差が。じりっと、確かに。

 

隣で、出久が悔しそうに、それでも──どこか嬉しそうに、唇を噛んでた。

 

ちっ、と胸の内で、舌を打つ。

鉄板一枚で、ここまで追い詰めてきやがって。

……認めてやるよ。てめェはやっぱりそういう奴だ。

 

電光掲示板に、順位が灯る。

一位、爆豪勝己。二位、緑谷出久。三位、轟。四位、塩崎。──通過は、上位四十二名。A組もB組も、漏れなく全員、名を残してる。

 

――――――――――――――――――――――

 

『さーて!予選を勝ち抜いた四十二名!第2種目は、これよ!!』

 

ミッドナイトが、待ってましたと言わんばかりの愉しげな表情で次の種目を公開する。

スクリーンに、でかでかと次の種目が映し出された。

 

騎馬戦。

 

ざわ、と会場が沸いた。

順位に応じてポイントが振られそれを奪い合う。そして──一位通過者には。

 

『一位の頭には、なんと……一千万点!!』

 

視線が、いっせいに、一人へ集まった。

俺だ。たった今混戦を制した、一位の──俺の頭に。

 

(……そうか。今度は、俺か)

 

一度目、この的を背負ってたのは出久だった。

あいつのチームは、全方位から狙われて、土壇場までもつれてぎりぎりで生き残った。

 

今は、その重みが俺の頭にある。

……なるほどな。てめェはこんなもんを背負って、あそこに立ってたのかよ。

 

だが――待てよ。

 

ぞくり、と、背筋が冷えた。

あれは、一度目の話だ。俺はもう、USJで盤面を動かしちまった。あの男が出てきて、一位が、俺に変わった。

なら、ここから先の目も、本当に、あの時と同じに転がる保証なんざ──どこにもねェ。

 

俺の知ってる地図が、もうかすれ始めてる。

 

それでも。

 

(狙われんなら、上等だ)

 

全部まとめて、返り討ちにしてやる。

そして今度こそ──誰も、落とさせやしねェ。

 

掌の汗を握り込んで、勝己は、次の戦場へ顔を上げた。





次回もぜひお楽しみにしていてくださいね。
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