「は!?」
驚きの声を上げる者、驚きのあまり声が出ていない者反応は一様ではないが驚きという点では一緒だった。それはモノクマとてそれは例外ではない。
「ボ、ボクが毒ガスを中和しただって?一体どういう根拠で言ってるのさ!」
「根拠はさっき言った通りだ。水がドッキリハウス内に存在しない以上外部から持ち込まれたものに間違いない。さらに言えば毒ガスが使用される可能性を予期できた人物、つまり少なくともオクタゴンに毒薬の瓶がある事を事前に知っている人物でなければならない。」
「毒ガスの存在なら君や左右田クンだって知ってるはずさ。だってオマエラの言い分に基づくとこのコロシアイって2回目なんでしょ?」
「たとえこのコロシアイが2周目だったからと言って俺たちにはあれだけの水を持ち込める方法が存在しないから無理だ。逆にそれができたのはお前しかいないんだ!」
「うぐっ...。」
「じゃあこいつは犯人に協力したってこと?」
「じゃがモノクマが犯人に協力など立派なルール違反じゃぞ!」
「てめー!性根の意地汚さは相変わらずみてえだな江ノ島盾子!」
各々がモノクマを糾弾するも当のモノクマは落ち着いており、
「あのね、ボクは不当なクレームは受け付けないことにしてるの。第一、隠す必要もないから言っちゃうけどさ、ドッキリハウスに水を持ち込んで毒ガスを中和したのはボクだよ。」
「だけどそれは弐大も言った通りルール違反...。」
「まだ話は終わってないよ。ボクは水を持ち込んで毒ガスを中和しただけで犯人への協力もしてないしあらゆるルール違反も犯してないから。ボクの名誉にかけて誓ってあげるよ。」
「確かに毒ガスは死因とは全く関係ありませんからねぇ。犯人が意図して引き起こしたのかどうかも疑問ですう。」
「そうだよ!あとボクの正体が江ノ島盾子さんだって?最近の高校生は想像力豊かだね。そんな根拠どこにもないじゃん。」
今はまだいい。この裁判は七海殺しのクロを解き明かす為で江ノ島盾子だと証明する裁判はまた別の裁判だ。
「さっきの罪木の言ったことがふと気にかかったんだけどあれもそうだったのかもしれないな。」
「あれやそうばかりでは何のことか分からないぞ、日向。お前は何に気づいたんだ?」
「辺古山や他の女子達は知らないだろうけどタワー内にもオクタゴンに落ちてたガラスのカケラが落ちてたんだ。」
「ガラスのカケラって毒薬の瓶の事だよね?何でそれがタワーにあるの?」
「犯人が置いたとしか考えられない。状況からしてオクタゴンからカケラの一部を回収してタワー内に置くことができたのは犯人しかいないからな。しかもオクタゴンに入れるのは犯人と被害者の七海だけだし、タワーの昇降ボタンを犯人に破壊される前にタワー内に侵入して置かなければいけないしな。」
「しかしストロベリーハウス側のボタンは破壊されていなかった。事実、貴様はタワー内でそのカケラを発見できている。即ち犯人も同様にタワー内に入ることができたと言う事だ。何もマスカットハウス側のボタンが破壊されるまでの間しか置くことができない訳ではあるまい。」
「いや、犯人は間違いなくタワー内にカケラを置いた後、マスカットハウス側で降りてボタンを破壊した筈だ。決定的な根拠だってあるぞ。」
「その根拠とやらを聞かせてもらおうか。」
「俺がカケラを見つける為にタワー内に入る直前ボタンを押しても直ぐには扉が開かなくて数秒経った後タワー内に入れたんだ。ここから分かるのは俺がボタンを押す直前までタワー内の床はマスカットハウス側にあったという事。もしストロベリーハウス側にあったんだったらボタンを押したらすぐに開くはずだからな。」
「そうか。犯人のヤローがもしボタンを破壊した後にカケラを置いたならストロベリーハウス側からボタンを押さなきゃならねえ。だけど日向がボタンを押した時、床がマスカットハウス側にあった以上そんなことはありえねえってことか。ボタン破壊の後にストロベリーハウス側に一度床を上げたらもうマスカットハウス側に戻せねえしな。」
「ああ、そう言う事だ。そして毒ガスが放たれてからボタンが破壊されるまでの短時間でカケラをあそこに落としておく事ができるやつなんて犯人しかいないってことになるんだ。」
「ガラスのカケラを持ち歩く理由など考えられぬから犯人は偽装工作の為に意図的に置いた線が濃厚だな。証拠隠滅をしようとし、ウッカリ落としてしまったという物ならばオクタゴンにカケラが残ってあるはずがないからな。」
「ちょっと待って。マスカットハウス側で犯人はタワーから降りてその直後にボタンを壊したなら疑われるのってやっぱり私たち女子だよね。男子ならエレベーターでストロベリーハウスに戻れないってことで犯人候補から外れそうだし。でも九頭龍や辺古山おねぇの言う通りカケラが偽装工作なら男子の誰かが女子に疑いの目を向けようとしたって考えられないかな?」
「西園寺の言う通り男子である場合だけカケラの偽装工作によるメリットが生まれるんだ。逆に女子が犯人なら逃走ルートを暗示する様な真似をしたって何も得をしない。」
「おお、西園寺、お前さんもやるのお。久しぶりに活躍した気がするぞ!ガッハッハ!」
「私だってやる時はやるんだから。ていうか一言余計だし。」
「いやー、しかし日向よ。お前さんの言っておることには納得できるんじゃがいくら犯人にメリットがあってもストロベリーハウス側に連絡エレベーターで戻れんからにはワシら男が犯人というのは無理があるのではないか?」
「そんなのオクタゴンの隠し通路を使えば自由にハウス間を行き来できる。犯人は隠し通路を使う権利を持ってたんだからな。それに連絡エレベーターを真っ先に爆破して置かなければならないのは女子が犯人の場合だけだ。男子が犯人ならボタンを破壊した後、隠し通路でストロベリーハウスに戻って最後に連絡エレベーターを破壊することも可能だしな。」
「オクタゴンに隠し通路なんてあったんだ。」
俺がいくら前周回を経験しているからといって全てを話していては流石にきりがない。よって皆には前周回の最後の学級裁判で明かされた事実と被害者と加害者のパターンしか教えていない。特に今回なんかは澪田の事件と違って俺が田中と交渉するぐらいしかできることがなかったからというのもあるが隠し通路を知らないのは当然だ。犯行が起こるとすれば、オクタゴンで調達された物が使われる事が予想されたから事前にできることは少なかった。
「しかしだ。犯人が男子の可能性が高いとはいえ俺様含め5人だ。特定することはまだまだ難しいとは思うが?」
「完全に断定することは難しくても推測はできるぞ。田中、お前はファイナルデッドルームをクリアしたら得ることができる極上の凶器の話を覚えてるか?」
「無論覚えているぞ。しかし何かまでは知らぬ。お前ならば前周回の知識で知っていたりはしないのか?」
「知っている。極上の凶器は形ある物じゃなくてこのドッキリハウスの構造そのものなんだ。実際、前周回ではハウス間の高低差を利用した殺人が行われた。」
「なるほど。タワーの床を昇降と表現していたのはこの為か。ボタンやカケラが話題の中心となっていて一応話には付いていけた故、詳しくは問わなかったがこのドッキリハウスにその様な高低差が存在するのなら無理はないな。」
「でもよ、今回の犯人は何でその極上の凶器を使わなかったんだ?ファイナルデッドルームをクリアしてんだったらそれをトリックに組み込まねえ手はねえだろ。」
「日向のもつ記憶を恐れたからではないのか?もしトリックに組み込めばそこを足がかりとして私たちに犯行を芋づる式に暴かれる恐れがある。」
「まあどのみち日向おにぃにあっさりバレたけどねー。」
「話は少し変わるけどこの殺人自体は突発的なものだったはずだ。もし計画殺人ならオクタゴンにある物を使って殴打した方が足はつきにくい。でも今回オクタゴンにある物で使用された形跡があるものはナイフと毒薬だけだった。凶器は犯人が持っていた物でそれによって七海は殴打されたんじゃないか?」
「で?それが極上の凶器と何の関係があるの?」
「西園寺は凶器と言われてどういったものを連想する?」
「えーと、凶器っていったら人を傷つけたり殺したりする為の物とかかな?」
「まあ言葉通りに捉えればそんなもんだろうな。そして極上の凶器はドッキリハウスの高低差を利用したものだから凶器目的だけじゃなくて偽装工作にだって当然利用できる。でも今回の犯人は殺人はおろか偽装工作にさえ極上の凶器を利用してないんだ。」
「日向の記憶を恐れたからじゃろ?」
「問題は俺の記憶を恐れることができた理由だ。突発的な犯行である以上、殺人を犯した後に極上の凶器を探すなんてことはしない。さっきの西園寺の凶器というフレーズから連想する意味合いを考えれば当然だ。
でも今回の犯人は突発的な犯行であるにも関わらずその極上の凶器の正体を知っていた。だからこそ、俺の知識を恐れて極上の凶器を使わなかった。計画殺人じゃなくて元々殺人を犯すつもりはなかったから初めてオクタゴンに入った時に確認したっていうのも考えにくい。じゃあ何で知っていたと思う?」
「既に知っていたから以外に自然な答えなんてないと思うんですけどぉ。」
「罪木の言う通りだ。つまりだ、今回七海を殺したクロは前周回について完璧な知識を持つ左右田。お前だよな?」
「いやいやいや、ちげーって!何回言えば分かるんだよ!俺はやってねえし嵌められた側だよ!」
「確かに左右田は先程から疑われてばかりいるな。犯人の罠ではないのか?」
「それにだ。前周回の記憶をもつのは日向だってそうじゃねーか!根拠として薄すぎてどうかと思うぞ!」
今までの論理展開は不自然なところはないとはいえ犯人の心情によるものが大きく、あくまで犯人がとり得る合理的な行動を予測しただけのものだ。根拠としては薄いし、このままでは逆に俺が怪しまれる恐れがあるがここで友を討つ為の反証ならある。
「さっきも言った通り犯人は突発的な犯行だろうから手持ちの何かで殴打した可能性が高い。その何かが何を意味するかお前なら分かるだろ!左右田!」
「俺のスパナの事を言ってんのか?」
ああ、そうだ。今となってはお前と俺だけだよな、この事実を知ってるのは。今周回では第一の事件を防ぐ事に集中していて正直確認はしていないけど、前周回では十神による身体検査でお前が常備しているスパナは没収されていた。スパナをいじっていると落ち着くと言っていたから今周回も充分ありえたけどやっぱりそうだったのか。
「え?あんたスパナなんて持ってんの?見せてみなよ!殴打もできるし絶対凶器じゃん!」
「いいぜ。」
そう言って左右田の取り出したスパナは特に汚れた所もなく、ましてや血にも染まっていなかった。
「何の変哲もないのお...。」
「おい、日向。テメーの推理本当に合ってんのか?」
ここまでは想定の範囲内。推理の結論に至るまでの途中過程だ。
「そのスパナの血は水で洗い落としたんだな?オクタゴンは水浸しになってたから。濡れたスパナぐらいちょっと拭けば水気だって取れる。」
「おめーらしくもねぇ言い掛かりだぜ、日向。俺を犯人だと断定したかったら証拠を見せてみろよ。」
「こっちから見せる証拠はもうない。」
「日向、冗談を言っている場合じゃないぞ!」
「そうだぞ!貴様正気か!」
比較的冷静な方である辺古山や田中でさえ驚くが俺は本気で言っている。
「証拠を見せるのはお前の方だ。お前の部屋に水で濡れたツナギがあるはずだ。」
「ッ...。」
「あの事件現場にいてその時あれだけの水がばら撒かれたんだ、全身が間違いなく濡れたはずだ。そして直ぐに捜査が行われて学級裁判が開かれた。スパナとは違って短時間で水気を完全に吸い取ることはできないしエレベーターを爆破した時点で俺たちが現場に向かうのは明白だから一度着替えてまた濡れたツナギを捨てに来る時間だってない。この密室空間でツナギを隠せるといったら部屋の中しかないんだ。お前が無実なら見せてくれ部屋の中を。」
「お前が考えてるもんなんてねーよ。大体、犯人の近くにはカーペットがあったんだからそれで水を凌げば全身濡れずに済むだろ。」
「そのカーペットはお前の大事なドライバーの血や七海の流した血痕を守る為に使われたからお前はカーペットを使うことはできなかったんだ。さあどうだ、これでもまだ部屋の中を見せられないか?」
「はははは。やっぱり俺じゃお前には勝てねーわ。濡れたツナギが部屋にある以上もうどうしようもねーもんな。」
左右田が罪を認めた瞬間だった。その時の左右田の笑いはただ乾いたものだった。
「左右田よ。もしやお前さんがカーペットで血痕を守っておったのはどこか自分の中で罪の意識があったからなのではないのか?」
「ちげーよ、そんなんじゃねえ。俺が本気でお前らを、日向を出し抜こうとするならこれぐらいやらなきゃいけねえと思ったんだ。」
「左右田、お前はわざとあからさまに自分の私物を置いてそこに血を塗ったりすることで犯人に嵌められた無実の第三者を演じようとしたんだな。俺の記憶を逆手に取る為に。」
「日向の記憶を逆手にじゃと?」
「ああ、前周回の事件でもいくつか犯人の偽装工作によって無実の人間が疑われる展開があった。その記憶を逆手に取って、さも自分が犯人に嵌められた人間だと誤認させるように事件を演出したんだな?」
「そうだよ。今周回でもソニアさんの事件では九頭龍が、澪田の事件では弐大が疑われた。前周回の記憶を持っている日向相手じゃなくても今までの学級裁判の展開を布石にしたこの作戦は使えると思ったんだ。自首する気があったんじゃねえよ、あくまでベストを尽くしただけだ。」
「でも、どうして!お前も俺たちに協力してくれるんじゃなかったのか?なんで七海を殺したんだ?一度は一緒に絶望を打ち破ったのにどうしてだよ...。」
「お前の七海に対する想いは知ってる。けどな、だからといって何もかも教える訳じゃねー。それにお前らが説得してくれた時にはもう手遅れだったしよ。」
「そうか、あの時は既に捜査中だったな。」
「田中も悪いな、あんだけ熱弁させといてよ。」
「左右田!最後にこれだけ教えてくれ!今までのお前は俺たちを騙してた訳じゃ、嘘だった訳じゃないんだよな?」
「ああ、そこに嘘はねえ。ただ絶望を打ち破って手に入れた俺の希望がこの結果を招いた、それだけの話だ。」
左右田の真意や動機は闇の中。
そして、それが左右田と交わした最後の言葉だった。