恋愛ADVなので当たり前の話なのですが...
全校集会が終わり、HRの時間になる。
転入生がいる各学年のSクラスは、各々盛り上がっていた。
ーーー1ーSにて。
「フハハハ。改めてよろしくな、皆の者!!」
教壇に九鬼門白とヒュームが立ち、それぞれ挨拶を終えると。
「ちょっと待ったーー!!プレミアムターイム!」
「さっそく質問か。許す、申せ」
「私は武蔵小杉!ここのプレミアムな委員長よ」
東西交流戦では、前代未聞のやられっぷりを見せた1年生の総大将だ。
醜態を晒しても、1ーSは変わらず彼女が取りまとめていた。
「よろしくな。愛称でムサコッスと呼んでやろう」
「そんなあだ名いらないわ!で、いくら九鬼であろうと、従って欲しいルールというものがあるの。それは私がリーダーであるということ」
「断る。九鬼は自分にしか従わぬ」
「なんとっ!?」
まさか小杉の提案を断られるとは思わず、他の1-Sの生徒達にも動揺が広がる。
「フハハ、我は支配者。クラス1つぐらいは掌握せねばな」
「...じゃあ、決闘あるのみねぇ」
「受けて立とう。まずは能力を示さねばな」
その言葉を聞き、武蔵小杉以外の生徒が決闘を次々と申し込む。
ーーーその結果。
「ぜ、全員次々と負けていく...なんて奴」
将棋、陸上競技、料理、果てはラップ対決と広いジャンルの決闘を挑まれるも、全て打ち勝っていく紋白。
「フハハ、汗をかいたわ。皆いい腕をしているな!」
さらに、紋白は川神学園へ向かう道中でクラスメイトの顔と名前を完全に記憶していた。
人材スカウト事業の責任者でもある紋白にとっては、朝飯前のことであった。
「ムサコッスよ、何で勝負する。我はなんでも受けるぞ」
「...ふ、フフ。まぁ、飛び級って事で体格じゃハンデあるかもだけど...ここは、戦闘を提案するわ」
「構わぬぞ、暴力も時には歓迎だ。力を示す意味でな」
「へぇ...良くいったじゃない」
実は小杉には九鬼の従者部隊に所属する兄がおり、よく体術等の稽古をしている。
そのため、1対1の武術には自信があった。
「1つ断っておこう。スポーツではなく戦闘となれば、今までとはちと状況が異なる」
「さっそく行くわよ!」
紋白が今までの決闘とは違い、特に構えるような仕草を見せず話しかけてくるが、小杉は先手必勝とばかりに加速する。
「我の武は、少々お前達とは異質なものでーーー」
「くらえ、プレミアムスラーーーーーシ...」
「撃退」
瞬間、カッターのような鋭い蹴りが小杉を襲った。
「ウゴエ!!」
そのまま衝撃音と共に天井に突き刺さって気絶した。
「警告が遅かったな...すまぬすまぬ、フハハ!」
「紋様は姉の揚羽様と違い完全な武闘派ではありません。戦闘となれば、私が自動的に守りますので悪しからず」
紋白に戦闘を提案すれば、世界最強が初見殺しの蹴りをお見舞いしてくるという訳だ。
腕に覚えがある程度で、どうにかなる話ではなかった。
「なんだか過保護な感じで、むず痒い所だがな」
「スポーツでの勝負ならば、手を出しませんので」
本人自身の高いスペックと護衛であるヒュームの圧倒的武力により、九鬼紋白は転入初日にして1ーSを掌握した。
ーーー3ーSでは、喝采がおきていた。
「短い間ですが、よろしくお願いします」
品の良い笑顔で、穏やかにお辞儀する葉桜清楚。
その挨拶に、3ーSの男子生徒達は惜しみない拍手で迎えていた。
「神は我等を見捨てていなかった!受験前に、オアシスを用意してくださった!」
「笑顔が可愛いなぁ...清楚ちゃん清楚だよぉ」
「文学少女バンザイザーイ!」
川神学園では武士娘が多く集うことから、文学少女は希少な存在であった。
まだ少し緊張の見える葉桜に、3-Sの長である京極が語りかける。
「京極彦一だ。君の生い立ちは朝礼で聞いたが、出自など私達は気にしない。3-Sは君を歓迎する」
「はいっ!ありがとうございます」
本人のたおやかなオーラもあって、そのまま3ーSのHRは穏やかに過ぎていった。
ーーー対して、4名の転入生が加入する2ーSでは。
「義経と弁慶、与一。そして彼らを護衛する雷だ。皆、転入生とは仲良くするんだぞ」
教壇に並ぶ4人の紹介を、宇佐美先生が簡単に終わらせた。
「き、緊張することはないぞ!皆を野菜だと思えば...だめだ、これから仲良くする学友をそんな目で見れない」
「義経こそ、リラックスして」
与一はずっと手を顔に当てて、決めポーズをしていた。
三者三様の相変わらずな様子に、雷は内心ため息をつく。
(義経は相変わらずのあがり症だな、全校集会では成功していた野菜作戦も失敗だ。...それに、先程から約1名の視線が鬱陶しい)
眼帯をした赤髪の軍人のことである。
鋭い視線がずっと突き刺してくるので、駄目元で同僚にアイコンタクトをとるが...
(諦めろ、お前のせいだ)
どうやら、救いは無いらしい。
「ヒュホホ、分かっておると思うが...英雄を名乗るからには、それなりの力を示して貰わねばならぬ」
「我の名前を呼んだか?」
「おっ、そのボケはいつ来るかと思ってましたよ」
「フハハ、姉上にも同じことを言われたな!そして、我が友冬馬よ。先ほどからポーズをつけて何をしているのだ?」
「ひたすら義経さんに流し目をしているのですが、中々反応してくれませんねぇ...」
「フハハ、義経は真面目だからな。余計に緊張してしまうぞ」
「さぁ、私が相手です。ライ、決闘です。来なさい」
そうしていると、闘気を抑えられないといった表情をしていたマルギッテが、やはり仕掛けてきた。
(ったく、猟犬も勝負吹っ掛けるの好きだなぁ。というか、不死川が流れを無視されて半べそかいてんぞ)
「...マルギッテ、お前は義経達を優先すると思っていたんだが」
「そっちは後でも機会はあるでしょう。昨日...いや、戦場の時以来のリベンジが最優先だ。今度は、最初からフルスロットルで狩ります」
「軍人が自ら平穏を乱してどうする。俺とは、昨晩のヤツで満足しておけ」
「アレで満足できる私だと思っているのですか?...私には分かります。お前も、不完全燃焼だったのでしょう?」
「...何だか、やり取りが大人ですねぇ。私も混ぜて欲しいのですが」
交わす言葉は怪しいが、昨日の東西交流戦の一幕のことである。
雷は銃を使わず、マルギッテも壊れかけのトンファーであり、二人とも万全の状態による戦いではなかった。
「というか、やっぱりそこは知り合いだったんだな。どうりで、纏っている雰囲気が似ているというか」
「それより、英雄の力を見たいんじゃなかったのー?発言してた心が泣いてるよ?」
「泣いとらんわっーー!!」
転入生の目玉である武士道プランの英雄達を差し置いて、何故か軍人同士による決闘が始まろうとしていたが。
「あー、ちょっといいかな。マルギッテ、だっけ」
そんな中、めんどくさがり屋である弁慶が珍しく間に入った。
あの弁慶が仲裁に入るとは珍しいこともあるものだ、と雷は内心驚いていた。
「あんまりHRの時間も無いだろうし、雷や義経の代わりに私が軽く錫杖で叩くよ。それで吹き飛ばされなければ、そっちの勝ちで良い。それでどう?あー面倒だから、私と戦うのは無しね」
「...まぁ、いいでしょう。弁慶、貴方の力には興味があります。そのおざなりな所は、宇佐美先生とそっくりですが」
「オジサンと弁慶は余裕を持った人間同士、気が合うんだ」
「決めつけないでください、年上は好みじゃありません」
ピシャリと歩み寄った宇佐美先生を振る弁慶であった。
「こいつ、せっかくオジサンが親近感もってあげたのに...」
「では、私のような男はどうですか?弁慶さん...」
そこで、葵はすかさず弁慶に流し目を送る。
「んー、悪くはないけど、趣味じゃないね」
宇佐美先生よりは穏やかに振られた葵であったが、何のダメージもないようでそのまま流れるように義経へにこやかに話しかける。
「義経さんも、そう緊張しないで」
「は、はい」
「おいなんだテメェは!慣れ慣れしい奴だな」
葵の怒涛のアタックに、流石の与一もガードしに行ったが。
「ふふ、貴方とも仲良くなりたいと思っています。色々な意味で」
「な?」
「気をつけろよ、お前は若の射程範囲内だからな」
「というか、トーマの射程はほぼ無限大なのだ」
弁慶の提案から何故か先に進まない様子を見て、ため息をついたあずみがテコ入れに動く。
「そんな色めき立たないでくださいますか?決闘するなら、さっさとしましょう」
「おや、ヤキモチですかあずみさん?」
あずみが無言でメイド服から短剣を構えた。
「...しばらく大人しくしています」
(その流れであずみを口説きにいくとは、よくやるな)
感心しているが、昨晩同じようなことをしていたのには気づいていない。
「ふむ、なかなか面白い余興が見られそうだな」
そうこうしているうちに、ささっと雷が簡易的な決闘スペースを確保していた。
2人は同じタイミングで構える。
「それじゃあ、ぬるっといくよ...軍人さん?」
「来なさい。トンファーでガードした私はまさに堅牢。その防御力は古の城塞に匹敵...」
「そぉい」
「う、うわぁっ!?」
繰り出された錫杖の一撃がトンファーにぶつかった瞬間、マルギッテは廊下まで吹き飛ばされてた。
「一撃で、廊下まで押し出すとは...トンファーが無ければ危なかった...ということですか」
教室が一気にザワついた。
「つうか、普通にすっげぇ強いなおい!」
「ヒュホホホ。なるほど、たいしたパワーじゃな。武蔵坊弁慶の名前、伊達ではないの」
(だが、近距離こそ此方必殺の間合い...柔道の靱やかさで負ける気がせんわ)
英雄の名を体現するようなパワーを実感し、マルギッテは獰猛な笑みを浮かべていた。
「この腕の痺れ、今ので軽くとは。フフフ...ライだけではないということですか、面白い」
「認めて頂いたようで何より。でも、雷は"こんな攻撃"じゃ崩せないんだけどね?これから、4649」
「っ!...良い性格をしていますね、貴方も狩りの対象として認めましょう」
「相変わらず、このモードの姉御はおっかないな。...兄貴、フォローを頼むぜ。ストレス発散で殴られたくないからよ」
しっかりとこの場を収めた弁慶だったが、雷の目からは少し苛ついているように見えた。
与一からフォローするように小声で頼まれたが、あまり理由についてはピンと来ていない。
(放課後に川神水の買い出しにでも誘うとしよう)
「次は、義経が威を示す番だな!」
そう言うと、義経は鞄から何冊ものノート本を取り出して見開きを見せた。
「多摩川に来る野鳥の数の推移を、1ヶ月単位でまとめたものだ!これを見ながら、義経と地球環境についても考えていこう!」
・・・・・しーん。
「...あれ?なんだこの反応は、皆冷めているぞ」
「だから言っただろ義経。そんな事してもウケが悪いと」
「はじめて聞いたぞ!」
昨夜、ウキウキで準備していた義経を肴に川神水を飲んでいただけで何もアドバイスしていなかった。
何なら、全力で主を褒めていた。
「あれ?そうだっけ、ごめんね」
「弁慶...」
(あぁ、その顔がいい!)
弁慶は、主君である義経の困った顔を見るのが大好物であった。
(...相変わらずの主従関係だ。義経に対する弁慶のサディズムが、これ以上酷くならないことを祈るしかない)
「で、では...気を取り直して。まずカルガモが」
「あー義経、それ長くなりそうだからまた今度な。そろそろHRも終わりだからさ」
「...カルガモ」
悲しげに頭を落とす義経を前に、流石の宇佐美先生も少し焦った表情を浮かべる。
「ま、まあでも。これだけよく調べたわ、えらいえらい」
「!ありがとうございます!!」
少しカタコトな褒め言葉だったが、それに気づくことはなく嬉しそうに感謝の言葉を告げる義経だった。
「ユニークな人が増えた...と校内掲示板に書き込む俺」
「準の立てたスレッド、荒らしていいー?」
「やめなさい!」
「...ところで。S組に人数が増えた分、Sクラスの最大人数も増えたのであろう?」
「ごもっとも」
2ーSは特進クラスなだけあってその他のクラスより人数が制限されており、現在は30名で編成されていた。
ここに4名が転入することで、今後は34名になるということだったが。
「ぬるいのう。此方は嫌じゃぞ、席が余分に増えるなど」
「確かに。少数精鋭クラスであるなら、徹底すべきです」
「という事で、4人入った分4人落とすべきだと思います」
心を筆頭に、マルギッテやあずみでさえもその意見に賛同する。
「もちろん、この3人が落ちるかもってことだね〜」
「うむ。対等な真剣勝負...これが我等なりの歓迎であるな」
「誰もが落ちるのは自分ではないという自信がある、か」
気落ちするどころか、蹴落としてやると言わんばかりに2ーSの生徒から視線を向けられる。
「ううむ、なんだか申し訳ないな。義経達のせいで...」
「そんな心持ちだと、落ちるのは本当に義経になるよ」
「...む。それでは、武士道プランが物笑いの種だな」
「ふっ。俺と兄貴にとっては朝飯前だな。この中に紛れ込んでいる組織の奴を追い出すチャンスでしかない」
「さっきので、もう手を出してこないんじゃなかったか?」
「あれは外部の人間用だぜ、兄貴。内部調査も必要だろ」
(手に負えん...)
義経達も、改めて気合を入れ直した。
「はぁ、そう言うと思ったぜ。この後にテストを出すから、オジサンに時間をくれよな」
余計な仕事を増やして...と、内心愚痴を零す宇佐美であった。
「で、結局。若的には誰が好みなんだ?」
「私は4人同時に愛する事ができる男ですから」
男女関係無く、アプローチを仕掛けるつもりのようだ。
「俺は紋様しか見えないねもう。彼女なら出来る。幼女だけの国、ロリコニアの建設を...!」
「まぁ我は、一子殿一筋である!」
「皆、キャラがぶれんのう」
「お前もロリコニア、入国できるさ...2年で追放だがな!」
「やっかましいわ!!」
そんな色めき立つ準達を尻目に、小雪は義経と弁慶に話しかける。
「あのね、このハゲはロリコンだから、2人は安全だよ」
「ロリコンとはなんだ弁慶?」
「病名だね、不治の病。そこの中二病が可愛く見える程の」
「ほ~、そうなのか。うん、覚えた」
「大丈夫だったのかなぁ、このクラスで」
(...同意だな、平穏と静寂には程遠い)
騒がしい日々が始まる予感に、宇佐美と雷は同時にため息をついた。
ーーーその頃、2ーFでは。
「僕達のクラスには、誰も来ないんだね。ボリボリ」
「熊飼!HR中に柿ピーを食うな!」
「ああぁっ、すいません。つい、口寂しくて」
変わらずの光景であった。
転入生の騒ぎで2ーSの方向から盛り上がっている声は聞こえてくるが、内容までは聞き取ることができない。
「全く、ビールが飲みたくなるだろう」
「ふっ、発想がなんというか...」
「誰がババくさいだと、大串!」
「うぐわっ!そんな事言ってねぇ!!」
目は口ほどに物を言うとばかりに、余計な鞭の罰をくらっていた。
「ただでさえウチのクラス、問題児多いし...」
「受け持ちの学生が増えたら、先生大変系」
「義経達が入るとなると、S組がまた強くなるわね」
川神学園は事ある毎にクラス対抗のイベントが開催されるため、今回の転入生が2ーSに入ったことで純粋な戦力差は大きく開いてしまう。
「うわぁ...こっちのクラスに対する圧力が増しそう」
「仲良くしたいと言ってましたし、大丈夫ですよ!」
「そう願いたいもんだ。これ以上騒がしいのは嫌だぜ」
(とはいえ、これだけ話題になっている英雄だし、流石に仲良くすべきだ。放課後になったら、挨拶に行こう)
いつもより騒がしい雰囲気であった1日の授業が終わり、放課後になると大和達は2ーS前廊下へ向かうことにした。
「義経達、いるかしらね?」
2ーF風間ファミリーの面子で、転入生に挨拶に来た。
思った通り廊下には野次馬で溢れているが、そんな中で一際目立つ赤髪の人物が2ーS扉の前に立っていた。
「検問だ。ここは通れないと知りなさい」
「揉める気はないぜ?挨拶してお友達になりたいんだ。本当に下心はないんだぜ、マジマジ。...弁慶さんどこ?」
下心を隠そうとしない岳人に呆れた様子のマルギッテ。
「お前達のような野次馬が多くて、2ーSの平穏が乱されていると知りなさい」
「なるほど、マルさんは番犬というわけか」
「私は防衛戦も完璧だ、諦めて帰りなさい」
そこで、すかさずクリスが歩み寄る。
「ガクトの言う通り、挨拶に来ただけなんだマルさん」
「あ。お嬢様も来てらしたのですか」
「マルさん、通してくれ」
「...どうぞ」
扉を開放し、横にスペースを空けてもらえた。
「お役目ご苦労様です」
「くっ...!!まだまだ自分も甘い」
中将の愛娘で自身の妹のような存在であるクリスからのお願いには、断る術を持たないマルギッテであった。
そうして大和達は、話題の2ーSへの潜入に成功すると。
「おお、義経達がいたぞ...スキが無いな」
「弁慶も凄く強いわね。間近で見ると良く分かるわ」
(...クリス達も武士娘として、力量が気になるんだろうな)
「あっ!」
観察していると、義経の方からこちらに気づいて駆け寄って来る。
「やぁ、源さん。東西交流戦ではどうも」
「わざわざ挨拶に来てくれたのか、ありがとう」
義経が嬉しそうに駆け寄ってくる。
昨晩の交流戦の勝ち鬨を上げた後に、大和は義経との自己紹介をしっかりと済ましていた。
「弁慶、与一。お前達も来てくれ」
「はーい」
弁慶がゆらーっと歩いてくる。
「機関からの刺客かもしれねぇ。俺は会わないぞ、絶対にな」
「わけのわからない事を。ブツクサ言ってないで来い」
「いてててて、姉御痛ぇよ。おい引っ張るな、引っ張るな!!」
与一は引きずられてきた。
「クリスティアーネ・フリードリヒだ!」
「源義経。改めて、よろしくお願いする」
2人は熱い握手を交わしていた。
学友として、また互いに競い合う強敵として。
「直江大和。よろしくね弁慶さん」
「どうも。大和の妻、直江京です」
いつの間にか2人は入籍していたようだ。
沈黙が正解の選択肢に、大和は答えてしまったのだろうか。
「おおっと、京が積極的に?」
「すくすく成長してるの。心も体も」
(この弁慶は大和と話が合いそう...要注意なんだッ!)
否、私情100%の牽制であった。
互いに自己紹介を済ませた大和達であったが。
「...俺は気を許さないぞ。悪魔のナイフがどこから狙っているか分からないからな。疑わしい4人は振り払ったが、今は兄貴も席を外していることだし、俺が守らなければならない」
ただ1人、与一は自己紹介を拒否していた。
ちなみに、2ーSを再編成するためのテストによってクビを切られたのは、転入生の4人ではなく別の4人であった。
「川神一子よ。武道やってるから話合うと思うの」
ワン子が無邪気100%の笑顔で話しかける。
与一は一瞥した後、その挨拶に返す形で語り始めた。
「...改めてだが、1つ言っておくぜお前達」
与一はクールに、そしてくねっとポーズを決める。
「あまり俺に関わらない方がいい...不幸になるからな」
「うぐっ!な、なんだ心が痛い。古傷が開いたか...」
その言葉を聞いて、先程からじわじわと痛みを感じていた心臓により強い負担がかかる。
「懐かしくもあるよねぇ、この中二病的な感じは」
「那須与一に質問だ!人生とはなんだ?」
風間がどこか聞いたことのある質問を、ビシッと与一に投げかける。
「フン、死ぬまでの暇つぶしだろうよ」
さらに繰り返される問答を聞き、大和は膝から崩れ落ちた。
「や、やめろぉっ...そんか事言って、後で恥ずかしいのはお前なんだぞ!!!」
「俺に干渉するな。面倒事に巻き込まれたくなければな」
与一はぷいっと背を向けた。
「あふんっ、もうやめて!」
大和は恥ずかしさのあまり、その場でのたうち回っていた。
「顔が真っ赤だよ大和。可愛いねぇ」
「過去の自分の生き写し...これは恥ずかしいわね」
昔は大和も同様に中二病を患っており、全く同じ回答をしていた記憶が蘇る。
「同じ弓使い同士だが、興味は湧かないのか京」
「大和の方が100倍かっこいい、以上」
「まぁ京の性格上、興味なさそうねぇ...」
事実、京は心底どーでも良さそうだった。
与一に視線を向けることもなく、未だに顔の赤みが引いていない大和を見てニマニマしていた。
「こらっ、与一。だめだろう?他のクラスから、わざわざ挨拶に来てくれたんじゃないか。仲良くやっていかないと」
「仲良くするかどうかは、俺の自由だろ。人間ってやつは、そう簡単に信用できないんだよ」
「与一...」
遠くを見る与一に対して、少し寂しそうな表情を見せる義経。
だが、それは一瞬のことですぐに首を振り大和達にフォローを始める。
「皆、こんな事を言っているが、与一は良い奴なんだ。昔、川で溺れそうな犬を助けた事もあったんだ...プリンも義経にくれたりしたし。だから、仲良くしてやって欲しい」
「...あほらしい。いつの話言ってるんだよ」
そんな話をしていると、後ろに控えていた弁慶が般若の表情に変わる。
「与一。公衆の面前で義経に恥をかかせたらどうなるか教えておいたはずだが?」
「!冗談じゃねぇ、やってられるか!」
その言葉を聞き、瞬時に与一は逃げ出した!
「わー、追いかけっこー?僕も混ぜて混ぜてー!」
「ばっ、逃走の邪魔するな!さては、お前が政府の人間だったのか!?」
小雪が楽しそうに与一の行く手を阻んだ。
「ご協力どうも、捕まえたぞ与一。...私は、お前を捕まえた」
「ぐおおおっ!あ、姉御...待て、話し合いを!」
175センチはある体が、片手で持ち上がっていた。
「冬馬、そこの窓開けてくれるかな」
「名前で呼んでくれるなんて嬉しいですね、こうですか?」
「与一。ちょっと頭、冷やそうか」
「う、うおああああっーーーーー!!!!!」
与一は片手で、窓の外まで豪快に放り投げられた。
しばらくして、ザッパーンという着水音が聞こえる。
「片手でプールまで投げたんですか、凄いですね」
「腕力だけならお姉様並よ。まさにパワー系ね...」
「わわわ、与一大丈夫かな。ちょっとすまない!」
義経は自分の鞄からタオルを出して、廊下へ飛び出した。
「義経は本当に甘いな...まぁ、そこが魅力なんだが」
大和達は一連の流れを見て、ポカーンとしていた。
「...ツッコむ暇なかったよ。えらく濃いのが来たねぇ」
「ま、まぁ。挨拶も出来たし今日は帰ろうか...ん?」
「よーしつーねちゃん、たったかおー☆」
3ーFに所属する武神こと川神百代の登場である。
ワクワクした表情を隠す気もないようだ。
「あ、お姉様!!」
「おー妹に弟に、愉快な仲間達も一緒か」
一子と大和は同時に頭を撫でられた。
「...来たか、やっぱり」
「任せておけ。今朝の代わりに、この場は俺が収める」
「雷?...学園の外にいただろうに、いつの間に現れたんだ」
ヒュームから教わった瞬間移動である。
とはいえ、距離と速度はまだまだヒュームに追いついていない。
「困った時に駆けつけるのも護衛の仕事だ」
「さっきの与一は?」
「...あれはあいつが悪い」
「お、噂をすれば。例の護衛じゃないか」
百代は嬉しそうに、雷と弁慶の元へ歩み寄った。
「はじめまして、だな...武神は、義経に勝負を挑みたいのだとお見受けする」
「もうワクワクしすぎて、授業中に先生から注意されたぐらいだ。...だが、お前の事もその対象に含まれているぞ?」
「...申し訳ないが、今は引き受けできない」
「そうなのか、じゃあ仕方が無い...なんて引っ込むような性分じゃないんだ。戦わせてくれよ~ウズウズしてるんだ」
「もちろん、戦いから逃げている訳ではなく...問題は、学校外からの挑戦者」
「ふーん?」
「学校内部の人間と争うのは、もちろん歓迎すべきこと。だが、義経のネームバリューが大きすぎた。外部からの挑戦者達は既に相当な数だ」
「まぁ、人気者だろうからな。いちいち外の人間まで相手にしては、キリがないのは分かるが」
「そこで、1つご協力いただきたい。義経と真剣勝負で闘いたい外部の人間は、まず武神と1戦交える。そこで認められた人間にのみ、外部からの挑戦者は限定すると」
「それなら戦いに不自由しなそうだから、OKだ!...だが、いずれは義経ちゃんと、お前とも戦いたいぞ」
「それは勿論、義経も望んでいること。ただ、俺はあくまで九鬼従者の立場であるため、上の許可が必要になるが...機会は"必ず"作りたいと思っている」
「それでいい、今は納得してやるさ」
その言葉を聞き、満足そうに頷く百代であった。
ひとまず、この場は収まったようだ。
「えーと、つまり。学園の人間は、義経に戦い挑んでいいのね?」
「おーワン子やる気か?」
「うん!面白そうだし、またとない機会だわ」
「自分も是非お願いしたいな!」
「既に申し込んでいる人が多いので、順番待ちだけどね」
事情を知っている弁慶が、雷の代わりに答えた。
「あはは...皆考える事は一緒ねぇ。じゃあ順番を待つわ!」
「うん。それまでに腕をさらに磨いておくか」
「有名人だけあって、義経は忙しくなりそうだな」
義経への決闘依頼の数は、公開しているだけあって沢山の量になっているが。
「こっちはまったりするだけだよ、ね?」
「...弁慶はもう少し、活発になっても良いと思うが」
決闘の申込みを公開受付していない弁慶と与一には、ある程度自由な時間があった。
「柄じゃないことはしない主義だから、無理だね...っ?」
「んー?...」
「...」
ふと、百代と弁慶は互いに見つめ合った。
「先輩と弁慶...2人はちょっと似ている感じだね」
「というか...間近で見ると、本当可愛いねーちゃんだ」
百代は、無造作に弁慶の胸を揉もうと手を伸ばすが。
「っと。女性とはいえ、お触りはご遠慮いただこう」
「あぁ、そのたわわに触りたかったのに...」
護衛らしく、雷に手を止められていた。
弁慶へ瞬時に詰め寄ったところを、武神の速度に対応してしっかりと間に合わせていた。
「あれ、さらっと止めてるけど、僕らじゃ無理だよね」
「というか、止める理由がないだろ。止める気もない癖に、モロは相変わらずむっつりだな」
「僕の発言のどこにむっつりな要素があったのさ!?」
揶揄うガクトに反論するモロであったが、ムッツリなことは否定できなかった。
「...あれ、姉さんって今日学長に呼ばれていなかった?」
「げっ、もうそんな時間か。お前達...っと、弁慶達もまたな~」
こうして大和達と義経達との初会合は終了した。
今日はまだ転入初日ということで、義経達も早々に帰っていった。
義経との勝負は、明日の放課後から順番に始まっていくらしい。
ーーー次の日の昼休み、2年生の廊下にて。
「ひかえい、ひかえい、ひかえおろーう!!」
「紋様の、おなーりー!!」
1ーSの小杉と2ーSの準が先導して紋白を案内していた。
「紋様。こちらが2年生の廊下になります」
「お前達。そこまでへりくだらんでも良いのだぞ」
「そんな事を言わず紋様...俺を思う存分、使って下さい。...貴方のカリスマは圧倒的だ、自然と頭が下がる」
「フハハ!嬉しい事を言ってくれるわ!」
「いやぁ、紋様の偉大さは昨日良く分かりましたので!この武蔵小杉、紋様の懐刀として誠心誠意頑張ります」
(いつか寝首をプレミアムにかいてやるけどね!)
そんな小杉に、いつの間にか現れたクラウディオが小声で耳打ちする。
「武蔵小杉様、これは余談なのですが。昔、九鬼家では裏切り者をとらえた場合、サイコロを握らせたそうです。出た目と同じ数の風穴を顔面に空け処刑したとか。...6など出せば苦しんで死ぬことになるでしょう、大変ですな」
「は、ははは...ためになるプレミアムな雑学ですね」
クラウディオには、小杉の考えていることなど筒抜けであった。
ーーーなお、2ーFにもその喧騒は伝わっており。
「おい皆、廊下見てみろ!九鬼紋白が歩いているぜ」
「うわっ、あれが...2年のクラスに何の用かしら」
「紋白ちゃんは小さくて可愛いですね、直江ちゃん」
「委員長みたいなお姉さんキャラが好きそうなタイプだ」
「はい。いい子いい子してあげたくなりますね」
普段なら、井上準がいつの間にか甘粕委員長の傍にいる時間だったが、今日は廊下で紋白の傍に付き添っていた。
上級生をも従えて前を歩く紋白の姿は、九鬼であることを抜きにしてもカリスマを感じさせる。
「...確かに風格があるというか、堂々としてるよね」
「あっという間に1年生系を制圧系でしょ、凄ぇ系」
「しかもだ、もう忠実な部下を従えているぞ」
「九鬼の人間だけあって、カリスマが凄いのねぇ」
「いやぁ、少なくとも井上の奴は違う理由で従っているだろ」
どうやらお目当ては2-Fではないようで、後ろの扉はそのまま通り過ぎていくようだ。
「ウチのクラスは通り過ぎていくみたいだね、良かった」
「騒がしいのはご免だからな」
「同意だ、これ以上のドタバタはいらねぇ。...ふわぁ」
「タッちゃん寝不足なの?大丈夫?」
「あぁ仕事がちょっとな。ま、お前が気にするな」
しかし、紋白は横目で廊下からばっちりと2ーF生徒の様子を観察していた。
「なんだか物見高いクラスがあるな」
「ここは2ーF。風変わりな奴等の集まりですね」
「...ほぅ。面白い人材がいそうではないか」
「あ、なんか九鬼紋白がこっちの方見てるよ?」
「目ん玉は合わせない方がいい系!」
「...もう遅い。モロに見つめ合っちまった」
「え、モロと見つめ合った!?」
「違うから。こういう時だけ発言して、まったくもう」
「ポニーテールの娘が、川神一子だな?」
「そうです。紋様の兄上の、想い人ですね」
「綺麗で澄んだ瞳をしていた、いい人材だ」
(だが、兄上が落とせぬ程の極上の女とは思えぬが...)
珍しく紋白が思案を続けていると、気づいた時には目的地に辿り着いていたようだ。
「ああ着いた。ここが俺のハウス、2ーS組です。着物姿の変なのとか、眼帯姿のおっかないのとかがいますが...悪者ではないので、ご心配なく」
義経達の姿を見に来た野次馬も、紋白の姿を見ると道を譲った。
「フハハハ!紋、学校でも会えて嬉しいぞ!」
「フハハハ!我も同じ気持ちです、兄上!」
「い、いやぁ。まさしく兄妹ですねぇ」
「ふふふ。で、あろう?そうなのだ、兄妹なのだ!」
その言葉を聞き、一層嬉しそうな表情になる紋白。
「学校内で挨拶をしていないと思い、参りました兄上」
「うむ。分からない事があれば、何でも兄に聞け」
「お義兄さん、安心してください。俺がサポートします」
「タコを弟に持った覚えはないわ、あずみ!」
「はーい☆お任せ下さい英雄様ぁっ!...おうコラハゲ、てめぇ何血迷ってんだああん!?」
「不純な気持ちは無い。俺はただ、紋様にお仕えし、浴室などにもお供したい。そう心から願ってるだけだ!」
「なるほど、これはどうしようもないロリコンだ」
「というか、いつの間に取り入ったのですか」
呆れた女性陣に対して、葵と小雪が答える。
「昨日授業が終わると同時に、1年生のフロアへ走っていったんですよね、準は」
「で、到着した瞬間。ひざをついて忠誠を誓ったんだよね」
あずみの首絞めにも、一切意識を落とす感じもない準である。
ロリが絡んだ空間で彼を沈めるのは、壁越えの者にも至難の業なのかもしれない。
「てめぇは2ーFの、甘粕委員長を見てればいいだろ」
「委員長は恋愛対象、紋様は仕えたい対象なんだ!!理想は委員長と結婚し、職場は紋様の部下。あぁでも、若の葵紋病院があるんだよなぁ。...ちくしょう、俺はどうすればいいんだ」
「おやおや準、そこまで悩むとは。本気ですね」
「今だけだよ。だって、大人になれば紋白は大きくなるし」
「おいやめろ...全く、月日というのは残酷すぎる」
喧噪を気にした様子もなく、紋白は義経達に近づき話しかける。
「ところで義経に弁慶。クラスではうまくやっているか?」
「あぁ。といっても、まだまだこれからだが」
「少なくとも私が飲んでいても、誰もつっこまなくなった」
「フハハ。まぁ兄上のクラスだし、心配は無用か!」
「問題は、那須与一ぐらいであろうよ」
与一は、雷達以外の面子とは全く関わりを持とうとしていなかった。
今もどこで何をしているかわからず、"今日は風が騒がしいな"と言って昼休憩になって早々に教室から去っていった。
「そうか...まあ、3ーSの葉桜は大丈夫であろうな。今もあそこにいると聞いている」
ーーー同時刻、川神学園図書室。
武道に定評のある川神学園だが、図書館の蔵書量も他の学園より遥かに多いとのこと。
本来なら静寂に包まれた空間だが、今は少し騒がしい。
葉桜清楚が本を読んでいる姿を、周りの生徒達が見守っているからだ。
読書する清楚の姿が、文学少女好きの心を掴んでいる。
そんな騒ついた生徒達の前に。
「先輩方、図書館ではお静かに」
雷の言葉で、浮かれている皆が我に返った。
そのままそそくさと退散していく。
「すまぬな、雷よ。私も昨日注意したのだがな」
「お気になさらず、こちらが周りに迷惑をかける訳にはいかないので」
(とはいえ、立ち振る舞いだけでここまで人を心酔させるか...確かに可憐な容姿だが、原因はそれだけではあるまい。滲み出るカリスマ...)
「葉桜君の正体は、想像の遥か上を行く人物かもしれぬな」
小声で、つい考えていたことが口に出た京極に対して。
(...流石だな。武神とは違うタイプで有能な人物だ、観察眼に長けている。俺に人事権があれば、昨日の時点で口説いていた)
やり取りをしていると、清楚が雷と京極の姿に気付いて小さく手を振る。
雷は頷き、京極も扇子を振って挨拶を返した。
図書館の時間はその後、静寂に包まれて平穏に過ぎていった。
今日の授業が終わり放課後になると、グラウンドではギャラリーの大歓声が起きていた。
武士道プランの目玉である、義経との決闘が始まっていたのだ。
「おっ、早速やってるねぇ~。どれどれ、偉人のデータを取らせてもらいますよっと」
そんな集団を、屋上から見下ろしている女子生徒が一人。
しかし、その生徒は川神学園の制服を着ていなかった。
「許可はもらっているのか?」
「もちのロンだよ、雷君。もしかして、そういうドジをする女の子がタイプだった?」
気配を消して話しかけたが、彼女は気付いていたようだ。
「わざと余計な仕事を増やすような性分でもないだろう、なら問題ない」
「相変わらずいけずだねぇ。"協力者"同士、仲良くやろうよ~。ま、いいけどね☆」
件の人物に近づき、同じく屋上のフェンス越しに義経へ視線を向ける。
今は義経と生徒会長が戦っているようだが、流れは完全に義経のペースであった。
「流石、あの源義経なだけあるよ。私じゃ苦戦は避けられないねん」
「その状態で挑むならな」
雷の発言に、彼女は裏のある笑顔を見せてこちらを向いた。
「あはっ、意地悪なことを言うね~。私の負けず嫌いな所はもう知ってるでしょ?」
「ただの確認だ。そう簡単に負けるような環境にはしない」
「そこは信頼してるよん?...そうそう。転入したら、私の事はちゃんと"燕先輩"と呼んでね、後輩になる蒼井雷君?」
「...善処する。何かあれば連絡を」
やたらとこちらを揶揄ってくる様子にため息をついた後、面倒な問答が始まる前にその場を瞬時に去る雷であった。
「ふふっ...東の生活も楽しみだなぁ~」
どうやら、川神学園へ新たに吹く風は武士道プランだけでは終わらないようだ。