ボクが絶剣として生きているのは間違っているのだろうか? 作:ダウナーすこすこてぃっしゅふぉーるど
原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
タグ:R-15 オリ主 残酷な描写 アンチ・ヘイト 転生 クロスオーバー ソードアート・オンライン 絶剣 アストレア・レコード 独自解釈 独自設定 曇らせ(予定)
通称――AIDS。
それが、私の病名だった。
幼い頃に
立つことも。
歩くことも。
喋ることさえ、息が上がる。
喉から声を絞り出そうとしても、空気が擦れるだけで、音にはならなかった。
そんな現実のすぐ傍。
死の足音は、いつも静かに――けれど確実に、近づいてきていた。
怖かった。
満足に外へ出られない私にとって、唯一の楽しみは読書だった。
現実が怖くて。
逃げるように、文字の世界へ潜り込んだ。
白黒の文字の世界は、今生きる現実よりも彩り鮮やかな世界。
没頭した。
名探偵が難事件を次々と解き明かすミステリー。
魔法使いが大勢通う学校で、杖と呪文が飛び交うファンタジー。
不思議な国に迷い込んでしまう、お姫様の物語。
ジャンルを問わず、貪るように読み耽った。
最初は、
「少し安っぽいな」
なんて思った本もあったけれど。
そんな感想はすぐに吹き飛んだ。
現実みたいで、でも現実じゃない。
――こんな世界だったらいいな。
そう思えるからこそ、深くのめり込めた。
数多ある小説の中で、特に、心を奪われた作品がある。
『ソードアート・オンライン』
近未来。
VRMMOと呼ばれるゲームが普及した世界。
黒の剣士と、閃光の少女が駆け抜ける物語。
その中で、私が何より惹かれた存在。
私と同じ病を抱えていた、一人の少女だった。
《絶剣》――ユウキ。
誰よりも明るく。
誰よりも強く。
誰よりも優しくて。
そして――誰よりも早く、命を終えた人。
きっと、たくさんの悪意を浴びたはずだ。
たくさん痛い思いも、悲しい思いもしたはずだ。
それなのに彼女は、そんなことを微塵も感じさせないほど、強く在り続けた。
その姿に、私は心から憧れた。
もし、私が同じ立場だったら。
もし、私があの世界にいたら。
もし、私が――――――――
考えても仕方のないことだと、わかっていた。
それでも。
彼女に出逢えたから。
私はほんの少しだけ、
「生きたい」と、足掻くことができた。
「――――――――」
声は、出なかった。
意識が遠のく。
視界が白く滲み、瞼に力が入らない。
世界が、ゆっくりと暗くなっていく。
誰かが遠くで、何かを言っている気がした。
けれど、音はぼんやりと響くだけで、意味はもう掴めなかった。
もう一度、外を歩きたかった。
外の空気は、どんな温度だろう。
暑い?
寒い?
それとも、ちょうど心地いい気温かもしれない。
湿度はどうだろう。
じめっとして、少し嫌になるかもしれない。
それとも、さらりとしていて、爽やかな気分になれるだろうか。
風の匂いを、もう一度感じたい。
お日様の香りを運ぶその匂いを、胸いっぱいに吸い込んで。
髪を攫おうとする意地悪な風に、
「なんでそんなことするの?」
なんて、お姫様みたいに文句を言ったりして。
もう一度、家族と話したかった。
やりたいことも、欲しいものも、たくさんあって。
そんなワガママを言うと、お母さんが
「もぅ、また?」なんて、口を尖らせて叱る。
だから私は、こっそりお父さんに、
「大好き」
って甘えて、お願いを叶えてもらう。
でも、それも結局お母さんに筒抜けで。
二人揃って怒られて――それでも最後には、
「仕方ないなぁ」
って、許されるんだ。
誕生日には、食べきれないほどのご馳走。
胃が「これ以上は無理だよ」って泣き出すくらい詰め込んで。
でも、ケーキは別腹だよね?
さっきまで悲鳴を上げていたお腹の中で、
「ここ、空けておきました」
なんて言って、ケーキ用の椅子を差し出すはずだ。
学校に行って、友達を作って、たくさん遊びたかった。
授業についていけなくても、優しい担任の先生が、わかりやすく教えてくれる。
テストの点数が良いと、誰よりも喜んで、
「よくやったわね、流石よ」
って、頭を撫でてくれる。
給食で嫌いなものが出ると、隣の友達がこっそり食べてくれる。
「じゃあ、私の嫌いなものも食べてくれる?」
なんて言って、お互いに交換したりして。
ご飯の後は、太陽がじりじり照りつけるグラウンドで、ボール遊びや鬼ごっこ。
体力がなくて、すぐにバテちゃう私を、
「弱い奴狙うなよ、バカ」
なんて言いながら、少し生意気な男の子が庇ってくれる。
気になる男の子ができて。
恋なんてものも、してみたかった。
恋って、どんな感じなんだろう。
きっと、心があったかくて。
その人を思い浮かべるだけで、胸がきゅっと苦しくなって。
泣きそうになる私を、
「泣くなよ」
なんて言って、優しく抱きしめてくれる。
きっと私は。
そんな彼を、もっともっと好きになってしまう。
キス――――なんて、して。
それはきっと。
甘くて。
少し、酸っぱくて。
心が蕩けてしまいそうな、幸せの味がするんだろう。
山も、海も。
都会のコンクリートジャングルだって。
今の私にとっては、どんな壮大なファンタジー作品よりも、胸が躍る大冒険の一つになってしまうだろう。
――ああ、叶うなら。
叶うならどうか。
ユウキのように、生きてみたい。
短い命だったとしても、
粗末になんて――絶対にしない。
私が、ここにいたんだって。
確かに、生きていたんだって。
その証を、刻みたい。
生まれ変われるのなら。
あの人のように。
強く。
強く。
一瞬一瞬を、大切にして。
――生きてみたい。
ボクが絶剣として生きているのは間違っているのだろうか?
――音が、した。
かすかな、けれど確かな音。
耳の奥で、こつりと何かが弾けるように鳴った。
ざわり、と。
風が布を
どこかで金属が触れ合う、乾いた響き。
遠くで、人の声が幾重にも重なっている。
そう思った、その瞬間。
――思考が、はっきりしている。
次に、匂いが鼻腔を満たした。
久しく感じていなかった、湿った土の匂い。
石と苔が混じった、冷たく澄んだ空気。
消毒薬も、薬品も。
あの病室特有の、無機質で閉ざされた匂いは、どこにもない。
肺が、勝手に大きく膨らんだ。
息が、入ってくる。
途中で詰まらない。
喉が焼けるように痛むこともない。
それだけで、胸の奥がいっぱいになった。
――重い。
身体が、確かに地面に引き留められている感覚。
背中に伝わる硬さ。
肩、腰、脚へと分散する体重。
指先を、ほんの少し動かしてみる。
ぴくり、と。
動いた。
遅れも、震えもない。
私が命じた通りに、身体が、正確に応えた。
その事実を理解した瞬間。
心臓が、どくん、と強く脈打つ。
一拍ごとに、血が全身を巡るのがわかる。
早すぎず、遅すぎず――
生き物として、正しい速さ。
瞼の裏が、じんわりと白く染まる。
光だ。
怖い、と思うよりも先に――――
私は、目を開けた。
眩しい。
空は高く、青く、どこまでも広がっていた。
雲が流れ、風が吹き抜ける。
木々が擦れ合い、葉が歌う。
視界の端で、誰かが通り過ぎる。
革靴が石を打つ音。
固いもの同士が触れ合う、重い金属音。
知らない場所。
知らない世界。
それなのに。
胸の奥に、確かな確信があった。
死んだはずの私が。
願ったはずの私が。
――ここに、いる。
私は、ゆっくりと息を吸い込んだ。
この世界の空気を、胸いっぱいに抱きしめる。
――生きている。
確かに、今。
ここで。
何が起きたのかは、まだ分からない。
分からないけれど――
私は、確かに今、生きているんだ。
「……ここ、どこだろう」
声を出して、息を呑んだ。
久しぶりに発したその音は、驚くほど自然に喉から滑り落ちた。
違和感が、ない。
それどころか。
少しだけ――前の私とは、声が違う気がした。
恐る恐る、湿った地面に両手をつき、体を起こす。
かつて衰えきっていたはずの身体が、羽根のように軽い。
起き上がれる。
あっさりと。
いつも触れていた、硬くて、ほんのりお日様の匂いがする布団。
それよりもずっと冷たく、ずっと硬い地面の感触。
なのに、不思議と心地いい。
足に、力を込める。
寝たきりの末、最期にはうんともすんとも言わなかった両足は、どこへ行ったのだろう。
反抗期のように言うことを聞かなかったあの脚は。
今は――嘘みたいに、素直だった。
その事実が、ただただ嬉しくて。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
いつも見上げていた、病室の天井じゃない。
変わらない景色じゃない。
地に足をつける、という言葉の意味を、私は今、理解した。
石畳を踏み締め、私は確かに立っている。
一挙手一投足。
そのすべてが愛おしくて、感激で、視界が滲む。
ざわめく喧騒。
知らない匂い。
空気と熱量が、全身に叩きつけてくる。
胸が、高鳴った。
読み漁ったファンタジーの中に、足を踏み入れたみたいだ。
憧れが、現実になった。
私は今、どうやら路地裏に倒れていたらしい。
自分の姿も見たい。
この世界を、この目に焼き付けたい。
感情の赴くまま、私は急く様に路地裏を抜けて――――
「――――………………ぁ」
無意識に、声が漏れた。
圧倒される。
活気に満ちた商店街。
老若男女が、舗装された石畳を
生命力に満ちたリズムが、肌を震わせる。
客引きの声、笑い声、行き交う人々。
猫の耳を生やした可愛らしい人。
物語でしか見たことのなかった、美しいエルフ。
サンタクロースのような髭を蓄えたドワーフ。
そして――剣、槍、斧。
様々な武器を携えた人々。
紛れもない。
ここは、異世界だ。
心が、躍った。
まるで――ソードアート・オンラインで見た、あの世界のように。
◇◇◇
「ふぁああ……すごい、すごいっ!」
思わず、声が弾んだ。
それに釣られるように、体も、心も跳ねる。
見渡す限り、未知。
知らないものばかりなのに、怖さはどこにもない。
多種多様な人々が織りなす音色が、風に乗って流れてくる。
靴が石畳を叩いて刻む一定のリズム。
擦れ合う武器が鳴らす、低く澄んだ金属音。
そこに重なる、人々の声――高く、低く、笑い、呼びかけ、歌うように。
まるで、街そのものが演奏するオーケストラだ。
五感すべてに、びりびりと衝撃が叩きつけられる。
それは痛みじゃない。
むしろ――これでもかというほど、私に「生」を教えてくる。
――――あぁ。
私は、今。
生きてるんだ。
気づけば、頬が緩んでいた。
胸の奥が熱くて、足取りが自然と軽くなる。
私は、劇団のエキストラにでもなったみたいに、
スキップするような勢いで人混みの中へ飛び込んだ。
誰も、私を止めない。
誰も、特別扱いしない。
そのことが、たまらなく嬉しかった。
――と。
ふいに、視線が引き寄せられる。
通り沿いに並ぶ、一軒の宝飾店。
ショーケースの中で、光を受けてきらめく装身具たち。
赤、青、緑。
透明なもの、深く濁ったもの。
形も大きさも、すべてが違う。
その彩りに、私は思わず足を止めていた。
理由はわからない。
ただ、硝子の奥で反射する光が、やけに強く目に入った。
ショーケースの縁。
磨き抜かれたガラスに、街の喧騒と一緒に――人影が映り込んでいる。
……誰?
最初に浮かんだのは、そんな疑問だった。
細い肩。
しなやかに伸びた背中。
軽く結い上げられた、淡い紫がかった黒色の髪。
見覚えが、ある。
いや――
見覚えがありすぎた。
心臓が、強く跳ねる。
まさか、と思って一歩近づく。
影も、同じ距離だけ近づいた。
恐る恐る、硝子を覗き込む。
そこに映っていたのは――
少女だった。
健康的に引き締まった体躯。
病室で見慣れていた、痩せ細った自分の面影は、どこにもない。
そして。
その顔を、私は知っていた。
大きな瞳。
真っ直ぐで、強くて、どこか楽しそうな光を宿したその眼差し。
笑えば、きっと屈託なく弧を描くであろう口元。
――違う。
違わない。
「……うそ」
声が、震えた。
硝子に映る少女も、同じように口を動かす。
ありえない。
はずがない。
だって、この顔は。
この姿は。
私が何度も、何度も画面越しに見つめてきた――
「……ユウキ……?」
呟いた瞬間、胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
指先が震える。
それでも、確かめずにはいられなかった。
私は、そっと頬に触れる。
柔らかい。
温かい。
ちゃんと、そこに“ある”。
夢じゃない。
幻でもない。
硝子の向こうの少女は、間違いなく――
《絶剣》ユウキ、だった。
頭が、追いつかない。
どうして?
なぜ?
どうして、私は――
でも。
問いが渦巻く中で、ひとつだけ、はっきりとした感情があった。
嬉しい。
胸の奥から、じわじわと込み上げてくる。
だって私は、ずっと憧れていた。
強くて、明るくて、最後まで生き抜いた、あの人に。
「……そっか」
小さく、息を吐く。
硝子に映るユウキが、同じように微笑んだ気がした。
「私……ユウキとして、生きるんだ」
それは、奪うことじゃない。
なりきることでもない。
あの人が遺した“強さ”を、
この世界で、もう一度生き直すということ。
私は、背筋を伸ばした。
《絶剣》ユウキの姿で。
でも、中身は――憧れて、足掻いて、生きたかった“私”のまま。
――ここからだ。
ここから、私は生きる。
硝子に映る少女――《絶剣》ユウキ。
その姿を、もう一度だけ、じっと見つめる。
憧れていた。
羨ましかった。
そして――救われていた。
画面の向こうで、最後まで笑って剣を振るった彼女に。
でも。
この身体は、もう“見ている側”じゃない。
胸に手を当てる。
心臓が、確かな強さで鼓動を刻んでいる。
逃げることもできた。
「これは偶然だ」と言い訳して、元の“私”として生きることも。
けれど――
それは、できなかった。
だって、この命は。
この姿は。
誰かの願いの先に、辿り着いたものだから。
「……うん」
小さく、声が漏れる。
硝子の向こうで、ユウキが笑った気がした。
まるで、「任せたよ」と言うみたいに。
胸の奥が、すっと静かになる。
私は、首を横に振った。
「……違うな」
この言葉は、もう似合わない。
“私”は、病室に置いてきた。
恐怖も、後悔も、叶わなかった未来も。
ここにいるのは。
剣を握り、前を向いて、生きていく存在。
――なら。
私は、深く息を吸い込み、胸を張る。
「……ボクは」
声が、自然にそう名乗った。
違和感は、ない。
むしろ、しっくりきた。
「ボクは、ユウキだ」
《絶剣》ユウキとして。
でも、誰かの影じゃない。
憧れて、願って、選び取った――ボク自身として。
ボクは、もう一度硝子に映る自分を見て、軽く拳を握った。
この身体で。
この世界で。
生きていく。
全力で。
一瞬一瞬を、噛みしめながら。
「……行こうか」
そう呟いて、
ボクは、人の流れの中へと一歩を踏み出した。
初めましての人は初めまして。
お久しぶりの方はお久しぶりです。
感想・評価多ければ続き書いて投稿する。
なくてもだらだらと書いたら投稿するわ繰り返します(
折角なら初速大事ということで、評価いっぱいくれたらうれしい
ボクが剣聖(以下略)はぼちぼち仕事も落ち着いてきて、メンタルも回復してきたので本当に加筆修正していくので、そちらはそちらでお待ちくだされ。
僕が剣聖( https://syosetu.org/novel/397525/ ) もよろしくね