やはり俺がポケモントレーナーなのはまちがっている。 作:~神斗~
八幡と凪。二人は無意識のうちに、手に持ったモンスターボールを強く握りしめていた。
お互いに残されたのは、最後の一体。エース同士による究極のバトルだ。
これから最高の戦いが始まるというのに、胸の奥でどこか名残惜しさを感じている自分がいた。……この熱い時間が、ずっと続けばいいのにとすら思ってしまう。
「最後くらい、現チャンピオンとしての意地を見せてもらうわよ。おいで、トドロクツキ!」
『ヴォォォン……!!』
凪さんが解き放ったのはトドロクツキ。ボーマンダの古代の姿とも噂されるそのポケモンは、圧倒的な異彩と、これまでの二体とは比べものにならないほどの重厚な圧力を放っていた。
「俺たちの……エースの実力を見せてやる! いけっ、リザードン!」
『グォォォン!!』
それに応えるように、天高く灼熱の炎を吐き出しながら現れるのは、八幡の相棒であるリザードン。その鋭い眼光と王者の風格は、古代の竜の圧力にも一歩も引いていない。
「行くわよ! トドロクツキ、りゅうのまい!」
三日月の巨大な翼をはためかせ、トドロクツキが狂おしい舞を踊る。体内から溢れ出る古代のエネルギーが増幅され、その眼光が一層鋭さを増していく。
「そう簡単に積ませるかよ! リザードン、俺たちも『りゅうのまい』だ!」
リザードンもまた翼を大きく広げ、全身の血を滾らせる力強い演舞を披露する。互いの戦意が高まり、攻防のギアが一気に跳ね上がった。
「トドロクツキ、スケイルショット!」
トドロクツキが両翼から鋭利な鱗の刃をマシンガンのように射出する。大気を切り裂く突風の波。
「全部打ち落とせ! ほのおのパンチ!」
リザードンは両拳に灼熱の炎を宿すと、迫り来る鱗の弾丸を高速の拳打で次々と粉砕していった。爆風と火花が散り散りになり、夜空を眩しく彩る。
「そのまま距離を詰めて、ドラゴンクロー!」
「逃がさないわ! スケイルショット!」
超スピードで肉薄するリザードンに対し、トドロクツキは古代の野性味溢れる動きで距離を保ち、緑の光を纏った無数の鱗の刃を間近から連射した。
ガキィィンッ!
竜の爪と迫り来る鱗の弾丸が至近距離で激しく交錯し、空中で爆風が弾ける。互いに一歩も引かない激しい攻防。だが、間近で放たれたスケイルショットの衝撃に押され、リザードンは側胸を弾き飛ばされるように地面へ叩きつけられた。
「くっ……! やっぱり強い……!」
地面を激しく滑りながら着地するリザードン。浅くないダメージに顔を歪める。
「さすが八幡と、そのエースね。でも……素早さはこちらが上よ! トドロクツキ、地面にいる今なら効くわ! じしん!」
トドロクツキが上空から急降下し、大地のエネルギーを爆発させるように地面を踏みつけた。砕けた破片とともに、巨大な衝撃波がリザードンへと押し寄せる。
「飛べ、リザードン!」
咄嗟の判断で上空へ退避し、直撃こそ免れたものの、衝撃の余波がリザードンの体力を確実に削っていく。このまま持久戦に持ち込まれれば、古代のスタミナとスピードに押し切られてしまう。
八幡はメガリングが装着された左手首を、痛いくらいに強く握りしめた。
(これ以上、様子見をしている余裕はないな……!)
「八幡……?」
「凪さん、俺たちの全部をぶつけます! ……さぁ、共に限界を超えよう!」
八幡が指先でキーストーンに触れた瞬間、リザードンの胸元に抱かれたメガストーンと共鳴し、目も眩むような進化の光が世界を包み込んだ。
『グォォォォォォッ……!!』
光の中から現れたのは、流線型に研ぎ澄まされた翼と、鋭い尖角を持つ姿――メガリザードンY。
その瞬間、夜空を覆っていた雲が瞬く間に吹き飛び、真夏のような苛烈な太陽の光がフィールド全体を照らし出した。特性『ひでり』。
「まさかメガシンカするなんて……! 特性による天候の上書きまでやってのけるなんてね……!」
「いきますッ! 全力のフレアドライブ!!!」
『リザードーッ!!』
太陽の光をその身に吸い上げたメガリザードンYの全身が、まるで「太陽そのもの」のような圧倒的な灼熱の炎に包まれる。直視することすら叶わない熱量。
「負けられないわよ! トドロクツキ、全開のドラゴンダイブ!」
トドロクツキもまた、残された全てのエネルギーを解放し、不気味で苛烈な青い竜のオーラを纏って彗星のごとく斜め上空から急降下する。
真夏の太陽を背負った【灼熱の彗星】と、太古の闇を纏った【群青の彗星】。
二つの強大なエネルギーが、公園の真ん中で正面から激突した。
ズドォォォォォンッ!!!!
凄まじい爆風が吹き荒れ、トレーナーゾーンに立つ八幡と凪さんの服を激しく持ち上げる。熱風と衝撃が収まり、周囲を覆っていた土煙がゆっくりと晴れていった。
中心には、二体のポケモンが膝をついていた。
メガリザードンYの炎の角が小さく揺れ、トドロクツキの巨躯がグラリと傾く。
やがてトドロクツキは目を回し、そのままドサリと倒れ込んだ。完全な戦闘不能。
それを見届けたメガリザードンYは、最後に一度だけ天に向かって勝利の雄叫びを上げると、元のリザードンの姿へと戻り、どっとその場に座り込んだ。
「……勝った、のか」
八幡は自分の手が微かに震えていることに気づいた。
「あーあ……負けちゃったかぁ……」
凪さんはトドロクツキを優しくボールに戻すと、深く息を吐いて八幡のもとへ歩み寄ってきた。その顔には、一切の悔いもない清々しい笑顔が浮かんでいる。
「完敗よ、八幡。……本当に、最高のバトルだったわ」
そう言って差し出された手を、八幡はしっかりと握り返した。
「……ありがとうございました、凪さん」
膝を突き、限界まで戦い抜いてくれたリザードンの背中を優しく撫でる。
学校での裏切りも、奉仕部で負った深い傷も。
胸の奥に澱のように溜まっていた暗い不快感は、いつの間にか、この熱く心地よいバトルの余韻とともに綺麗に吹き飛んでいた。