【ウマ娘if】転移した俺は、トレセン学園で運命に抗う 作:KUROX
東京都立府中病院 中庭
『……』ぎゅ
スズカ『……』ぎゅ
繋いだ手に力を込めると、スズカもそっと握り返す
『……気持ちいいな』ザッ…………ザッ…………
スズカ『ええ……寒くないですか?トレーナーさん』ザッ…………ザッ…………
『大丈夫だよ、スズカの方こそ寒くない?』
スズカ『トレーナーさんの手が……温かいので平気です』
『……』ザッ…………ザッ…………
スズカ『……』ザッ…………ザッ…………
スズカ『少しベンチで休んでいきましょう』
『ああ』
繋いだ手は離さず、並んで座る二人
『……』
スズカ『……』
しばらく、どちらからも口を開かなかった
『……昨日の騒ぎが嘘みたいだな』
スズカ『ふふっ……ハイセイコーさん……すごかったですね』
『次会った時に文句言ってやらないと……』
スズカ『やっぱり、現役の頃のお二人は……仲がよかったんですか?』
『……さあ?』
スズカ『?』
『よく……覚えてないんだ』
スズカ『そう……なんですね……けど、きっと仲良しだったんですよ』
『なんで?』
スズカ『だって、ハイセイコーさんはトレーナーさんのこと……』
スズカ『“たかちゃん”って呼んでました……』
『!』
『……コホンッ……そうだっけ?』
スズカ『はい、とっても親しげに……』
『あぁ~……よく覚えてないなぁ~……』
スズカ『……////……』
スズカ『たかちゃん♪』
『ぐはっ!……ちょっ、スズカ!』
スズカ『ふふっ……なんですか?』
『ちょっと……その呼び方は……』
スズカ『“私”はダメなんですか?』
『ダメではないんだけどね……なんというか……その言い方はズルいっていうか……』
『親子ほど歳が離れてるからね……ちょっとその呼び方は……』
スズカ『……むぅ』
『!』
『ス……スズカが、どうしてもって言うなら……構わないんだけど』
スズカ『ふふっ……冗談です♪』
『へ?』
スズカ『だってなんか呼びにくいですし……ふふ』
『何それ……俺、弄ばれてない?』
スズカ『ふふふっ……』
『……ふっ、はははっ……』
スズカ『……』
『……』
スズカ『トレーナーさん……今日、なんの日かわかりますか?』
『今日?……ごめん、入院で日付の感覚が全然わからなくて……』
スズカ『謝ることないですよ……』
『……』
スズカ『はい!これ♪』
『ん?なにこれ?』
スズカ『ハッピーバレンタインです♪』
『!』
『そうか……もうそんな……』
『……2月14日……』
『俺たちが初めて一緒に走った日だ』
スズカ『はい、今日でちょうど一年です』
『バレンタインステークス……』
スズカ『覚えていますか?』
『忘れるわけないよ、俺が緊張しすぎて鼻血出した日』
スズカ『ふふっ……そこですか?』
『それと……スズカが、すごく楽しそうに走ってくれた日』
スズカ『……はい』
『そっか……あれからもう一年か』
『ありがとう、スズカ』
スズカ『私がトレーナーさんにあげたかったので……』
『これって……もしかして……手作り?』
スズカ『……はい……////』
『!』
スズカ『初めて作ってみたので……味の保証はしませんけど……////』
『食べていい?』
スズカ『……はい……////』
……ガサガサ
『……』
スズカ『……』ドキドキ……
『……パクッ』
スズカ『……』ドキドキ……
『……ウマい……』
スズカ『!!』
『……ちゃんとチョコの味がする……あれ?』
『なんか、変な事言ってない?俺』
スズカ『いいえ、全然言ってませんよ……』
スズカ(……よかった……)
『もぐもぐ……』
『スズカ……お返し楽しみにしといてね』
スズカ『!』
スズカ『はい!とぉーーっても!楽しみにしてますね!』
『いや!そこまで期待されても……』
スズカ(……本当によかった……)
少しだけ……何かが、軽くなった二人は……
支え合いながら、またゆっくりと歩き始める……
◇◇◇
1か月後……
バタンッ
『……』
『久しぶりの我が家か……』
スズカ『お邪魔します……ヨイショ』ドサッ
『荷物持ってくれて、ありがとう、スズカ』
スズカ『お安い御用です♪』
『……』部屋を見渡す
スズカ『?』
『……スズカ』
スズカ『はい』
『俺が入院中に部屋片づけてくれた?』
スズカ『!』
スズカ『……いいえ、トレーナーさんが自分で片付けたんだと……思いますよ』
『そう……なんだ……』
スズカ『……覚えて……ないんですか?』
『……う~ん……断片的には覚えてるんだけど……』
スズカ『……』
『俺って掃除できるんだ』
スズカ『ふふ……普段からもう少し気を付けた方がいいと思いますよ?』
『う゛……留意します……』
・・・・・・
スズカ『トレーナーさん、何か食べたいものあります?』
『食べたいもの?』
スズカ『退院のお祝いに、なんでも作りますよ……!』
スズカ『私が作れるものなら……』
『はは……食べたいものか……』
『……』
スズカ『……あまり、食欲ありませんか?』
『いや!そんなことは……』
『……うん、あんまりないかも』
スズカ『……けど、食べなきゃダメです!』
『うん、わかって……!』
『……おかゆ』
スズカ『え?』
『俺が熱出した時、スズカが作ってくれたおかゆ、あれがいい!』
スズカ『おかゆ……退院祝いですよ?おかゆでいいんですか?』
『あれがいいの!』
スズカ『ふふっ……はい、わかりました』
スズカ『じゃあ、荷物の片付けが終わったら買い出し行ってきますね』
『……俺もついていく』
スズカ『……大丈夫、ですか?』
『うん、街を歩いてみたいんだ』
スズカ『はい、一緒にいきましょう……』
・・・・・・
スズカ『トレーナーさん、支度できました?』
『うん、お待たせ』
スズカ『おひげ剃ったんですね、それにお着替えもして』
『男子、家を出ずれば七人の敵あり!って言うでしょ?ちゃんとしないと……』
スズカ『そういうものですか?じゃあ、行きましょうか?』
『うん』
・・・・・・
『……』
スズカ『……』
『この辺り……外周を走る時によく通ったよね……』
スズカ『はい』
『……すごく懐かしく感じる……何年も前みたいな……』
スズカ『そんな昔じゃないですよ……ふふ』
スズカ(トレーナーさん、大丈夫そう……)
『……そうだよね』
『……ホェー』しみじみ
スズカ『……』
通行人A『なぁ、このあとどうする?』
通行人B『とりあえず駅前でメシ食おうぜ』
通行人C『賛成、俺もう腹減って限界』
『!』
スズカ『……』
『スズカ……』
スズカ『はい』
『……手握ってもいい?』
スズカ『もちろん、いいですよ』
『ありがと』ぎゅ
スズカ『いいんですよ』ぎゅ
『……行こう』
スズカ『はい』
・・・・・・
府中市某所 スーパーマーケット
わいわい……ガヤガヤ……
『……』
スズカ『人が多いですね……どうします?トレーナーさん、一度帰りますか?お買い物なら私一人でも……』
『……大丈夫、一緒なら』ぎゅう
スズカ『わかりました、離れないでくださいね』ぎゅう
・・・・・・
スズカ『これと……あ!あと卵も買わないと……』
『……』
スズカ『!』
スズカ(トレーナーさん、凄い汗……)
スズカ『トレーナーさん、人の少ないところで少し休みましょう』
『……』
・・・・・・
スーパー内 レストコーナー
スズカ『トレーナーさん、お水です』
『ありがとう』
スズカ『大丈夫ですか?無理してませんか?』
『……もうちょっと……平気だと思ったんだけどね……』
『ごめん、俺からついていくって言い出したのに』
スズカ『私は全然いいんです、それよりトレーナーさんが無理してるんじゃないかって……』
『無理……は、してないんだけど……』
スズカ『……』
心配そうなスズカの顔を見て、思い直す
『ふぅーっ……今さらスズカにカッコつけてもしょうがないか……』
スズカ『?』
『街を見てみたいっていうのは本当、まだ一人じゃ心細いからスズカと歩きたかった……』
『それに……部屋で一人で待つのは寂しい……俺だけ置いて行かれたみたいで……』
『だから、スズカについていきたかった……』
スズカ『……』
『あ゛ぁー、ちょーダセェー、45のおっさんが何言ってんだろ……』
スズカ『ダサくありません!』
『!』
スズカ『少しでも前に進もうとしているトレーナーさんがダサいはずありませんから』
『スズカ……』
『ありがとう』
スズカ『私は何もしてませんよ』ドヤ✨
『!?』
『それ……俺のマネ?』
スズカ『ふふ……似てました?』
『全然似てません、45のおっさんはそんな可愛くありません!』
スズカ『あら?結構自信あったのに……ふふ』
『ははは……』
スズカ『トレーナーさんもう少し頑張れますか?』
『うん、休んだから、大丈夫!』
スズカ『すぐに買い物終わらせちゃいますね』
『うん、いこう』
ぎゅ……
・・・・・・
片桐自宅
『ごちそうさまでした』
『フーッ……久々に食べたいもの腹いっぱい食べた……ゲプッ』
スズカ『ふふっ……ただのおかゆですよ?』
『俺にとっては“ただの”じゃないんだよ、スズカが初めて俺のために作ってくれた……』
『“特別な”おかゆなんだよ、それに……』
『病院食に食べたいものなかったし……ホントおいしかったよ』
スズカ『お粗末様でした♪』
『スズカ』
スズカ『はい?』
『はい!これ♪』
スズカ『なんですか?これ?』
『ハッピーホワイトデーです♪』ニコッ✨
スズカ『!』
スズカ『あ、ありがとうございます……嬉しいです』
『気に入ってくれると、いいんですが……』
スズカ『けど、どうやって?入院してたのに……』
『ネット注文でね、看護師さんに頼んで病院で受け取って貰うようにしたんだ』
『ホントは実物見て選びたかったんだけど……申し訳ない』
スズカ『いえ、とっても嬉しいです!開けてもいいですか?』
『どうぞ』
スズカ『……』がさ……がさ……
スズカ『……耳飾り』
淡い緑色の石が一粒あしらわれた、小さな銀色の耳飾り
『いつも付けてるだろ?その大きさなら一緒に付けても邪魔にならないと思って……』
スズカ『……綺麗』
スズカ『ありがとうございます、トレーナーさん!』
『気に入ってもらえたなら、なによりです』
スズカ『トレーナーさん、付けてもらっていいですか?』
『もちろん♪』
・・・・・・
鏡の前に立つ二人
スズカ『……どうですか?』
『うん、よく似合ってる』
スズカ『ありがとうございます、大切にしますね』
『……うん』
スズカ『……』
『……』
スズカ『大変!』
『?』
スズカ『私一度寮に帰ってお布団持ってこないと!』
『!?』
スズカ『トレーナーさん、私一度寮に戻りますね』タッ……
ガシッ
スズカの肩を掴む
『待ちなさい!スズカさん!』
スズカ『はい?』
『ど、どういうことですか?』
スズカ『まだ、夜は寒いのでお布団がないと……』
『つ、つまり……泊まる……と?』
スズカ『はい、トレーナーさんを一人にできませんから、よくなるまで一緒にいます!』
『が、外泊許可!外泊許可とってないでしょ!?』
スズカ『……休学中なんで大丈夫だと思います!』
『……そ……そういうもんなの』
スズカ『……多分?』
『と、ともかく!お泊まりはダメです!』
スズカ『……トレーナーさん一人になっちゃいますよ?』
『う゛……睡眠薬飲んで寝ちゃえば……平気……です』
スズカ『……看護師さんも誰もいないんですよ……?』
『……寝ちゃえば……』
スズカ『すぐ寝付けます?』
『……う゛ぅ……』
スズカ『トレーナーさんが寝るまで、でもダメですか?』
『……くっ』
『ダメです!帰りが遅くなってスズカになにかあったら……あったら……』ずぅぅぅん……
スズカ『!』
スズカ『ごめんなさい!私トレーナーさんが心配で!』
スズカ『……寮の……門限まではここにいます』
『……うん、ありがとう』
スズカ『……寂しくなったらいつでも連絡してくださいね……何時でもいいですから』
『ふふ……スズカの方が寂しそうだけど?』
スズカ『むぅ~……トレーナーさんが心配なんです!』
『ありがと、それだけで十分だよ』なでなで
スズカ『……////』
少しずつ日常へ……少しずつ……
◇◇◇
数日後…… 府中市某所 丘の上の公園
『はあ……はあ……はあ……』
スズカ『トレーナーさん、大丈夫ですか?』
『はあ……はあ……入院生活で……ここまで……身体がなまっていたとは……はあ……はあ……』
スズカ『お散歩にしては、ちょっと遠くまで来すぎちゃいましたね』
『はあ~……スズカはさすがだね……リハビリも順調そうだ……はあ……』
スズカ『もちろんです♪ちゃんとリハビリも頑張ってます!』
『うん、偉い、偉い……』
スズカ『少し休んでいきましょう、いい眺めですよ』
『……ホントだ……ここからなら街を一望できるな』
スズカ『ほら、トレーナーさん、あそこ』
『……トレセン学園……さすがの大きさだな……ここからでもよく見える』
スズカは遠くに見える学園を見つめたまま、静かに息を吸う
スズカ『私、トレセン学園でもう少し頑張ってみようと思うんです』
『!』
スズカ『レースには出られなくなっちゃいましたけど……』
『……』
スズカ『“走ること”を諦めたくない……』
スズカ『違う形になっても、走り続けたい……』
スズカ『だから……勉強してサポート科に転科しようと思うんです』
『……うん……そっか』
スズカ『そして……将来は、トレーナーさんみたいに……』
スズカ『“走る楽しさ”を教えられるトレーナーになりたいんです』
『!』
スズカ『私がトレーナーさんから貰ったもの……もっとたくさんの娘に教えてあげたいんです』
スズカ『トレーナーさんと一緒に走った、私の走りで……』
『……うん、凄く素敵だと思う……』
スズカ『……』
スズカ『トレーナーさん……これからも私の新しい走りを見ていてくれますか?』
『……ああ、もちろんだよ……』
スズカ『よかった!じゃあ、これからもご指導お願いしますね、トレーナーさん♪』
期待に満ちたスズカの顔を、まっすぐ見ることができない
スズカ『……トレーナーさん?』
『見てる……これからもスズカのこと……でも……』
『……』
『俺は、トレーナーを辞める……』
スズカ『!?』
遠くに見えるトレセン学園を見つめる
『あそこにいるウマ娘たちは、みんな夢を持って走っている』
『走る理由はそれぞれ違っていても、叶えたい夢があるから、みんな必死に……』
『トレーニングを重ね、時には自分の身を削っても走り続けている……』
『その夢を支え、手助けするのがトレーナーの仕事だ……』
スズカ『……』
『俺は……俺には……その資格はない……』
スズカ『……そんな……そんなことっ……!』
『俺にはっ!』
スズカ『!!』
『あんなに輝いている……ウマ娘たちの夢を……支えることはできないっ!』ガクッ……
スズカ『トレーナーさんっ!?』
『はぁ……くっ!はぁ……はぁ……』胸を押さえる
スズカ『トレーナーさん!大丈夫ですか!?』
『……ごめん……ちょっと……疲れた、だけだから……』
スズカ『少し休みましょう……』
『……ああ……』
スズカ『……』
『……』
◇◇◇
数日後…… トレセン学園 正門前
『……久しぶりだな……本当に……』
(退職整理のため、俺はトレセン学園の正門に立っていた)
(スズカも付いてくると言ったが、今日は一人にしてほしいと断った)
(一緒だと、決心が迷いそうだから……)
???『あれ!おっさんじゃねぇーか!』
???『ポッケちゃん!片桐トレーナーさんでしょ!』
『!』
ポッケ『ああ、そうだった!そうだった!おかえり!トレーナー!』
ダンツ『おかえりなさい!片桐トレーナーさん』
『!』
『あ……ああ』
ポッケ『あんま皆を心配させんじゃねーぞ!トレーナー!』タッタッタッ……
ダンツ『あ!ポッケちゃん!えっと……元気になったみたいでよかったです!』ペコッ
ダンツ『待ってよー、ポッケちゃん!』タッタッタッ……
『……』
『……おかえり……か……』
・・・・・・
トレセン学園 トレーナー室
ガラッ
『……変わってないな……』
(必要なものだけ持って帰って……あとは整理だな……)
・・・・・・
コンコンコン……
『?』
『はい』
???『失礼する』ガラッ
『……』
『ルドルフ会長……と、エアグルーヴ……』
ルドルフ『おかえり、片桐トレーナー』
グルーヴ『やっと戻ったな、トレーナー』
返事の代わりに、深く頭を下げる
『その節は、大変ご迷惑とご心配をおかけしました』ペコッ
グルーヴ『!』
ルドルフ『謝罪は必要ない、片桐トレーナー』
『……』
ルドルフ『元をただせば、休養中の君を半ば強引に引き戻したのは学園側だ』
ルドルフ『そういった意味では学園側にも責任はある』
『……ありがとうございます』
ルドルフ『そんなに改まらないでくれ、トレーナー』
ルドルフ『今日はこれを君に返しにきただけだ』さっ
『……』
『……トレーナーバッジ』
『どうして?……会長が?』
ルドルフ『うん、あのURAの緊急役員会の時にな……』
──────
役員A『片桐トレーナー何か申し開きはありますか?』
『ありません……処分も必要ありません』
役員B『なにを言っている!処分を受けんつもりか!!』
『……』タッ……タッ……タッ……
『お返しします』コトッ
役員A『……トレーナーバッジ……』
『ご迷惑をお掛けしました』ペコッ
『失礼します……』タッ……タッ……タッ……
役員A『……』
バタンッ
役員B『フンッ……当然だ……』
ルドルフ『……』
ルドルフ『……役員の方々、少し話を聞いてもらえないだろうか……』
ざわざわ……
役員A『聞きましょう』
ルドルフ『そのトレーナーバッジ、一度私に預からせて頂けないでしょうか?』
役員A『!』
役員B『ルドルフ君、あのトレーナーを守りたい気持ちはわかるがね……』
役員B『暴行事件だよ?本人も認めているんだ、仮に辞意を撤回したとしても免職は免れないだろう』
ルドルフ『私にはどうしても片桐トレーナーが暴行を働いたとは思えません』
役員C『ただの身内びいきではないのかね?』
ルドルフ『キッ』睨む
役員C『……うっ』
ルドルフ『私も新聞各紙を読んで確認しましたが……』
ルドルフ『片桐トレーナー暴行事件については各新聞によってあきらかに違いがありました……不自然なほどに』
役員A『……』
ルドルフ『学園でももう一度この事件について調べます、ですので……』
役員A『本人が認めているのですよ?ルドルフ会長』
ルドルフ『……』
ルドルフ『沈黙の日曜日』
役員A『!』
ルドルフ『すでにこの呼び名が独り歩きしているほど、昨日のレースは衝撃的でした』
ルドルフ『事故の当事者でもある片桐トレーナーのショックは我々では計り知れない……』
ルドルフ『ウマ娘のことを一番に考える片桐トレーナーであれば』
ルドルフ『一時的に自暴自棄になって自ら罪を背負おうとしても不思議ではありません』
役員A『……確かに片桐トレーナーの言動からは強いウマ娘愛を感じました……しかし』
役員A『ことはただ真実を証明すればいいだけではないのですよ』
役員A『その真実で“世論”を納得させなければ、やはり片桐トレーナーに戻る場所はないでしょう』
役員A『できますか?ルドルフ会長』
ルドルフ『……』
ルドルフ『彼は、私が目指す……』
ルドルフ『“あらゆるウマ娘が幸福に過ごせる、理想の世界”に必要なトレーナーです』
役員A『……』
役員A『わかりました、このトレーナーバッジはルドルフ会長に預けましょう』
ルドルフ『感謝します!』ペコッ
──────
ルドルフ『君に返すまで、私が預かっていたものだ』
『……』
『……もう、必要ありません』
ルドルフ『!』
グルーヴ『片桐トレーナー!』
ルドルフ『エアグルーヴ』
グルーヴ『しかし!』
『……』
ルドルフ『……そうか、訳を聞かせてもらってもいいかな?』
『……』
『俺に、ウマ娘たちの夢を支える資格はありません……』
ルドルフ『!』
グルーヴ『!』
『今日も退職整理のため、私物と部屋の整理に来ただけです……』
作業を再開する
ルドルフ『そうか……では、“これ”は机の上に置いておくよ……』
『だから!』
ルドルフ『必要ないのであれば自分で処分するといい』
『!』
ルドルフ『それでは、私たちは失礼する』タッ……タッ……
グルーヴ『会長!』
『……』
ルドルフ『おっと、忘れるところだった』
『?』
ルドルフ『謹慎2カ月』
ルドルフ『レース中のコース侵入に対して、URAが君に下した処分だ』
『!』
ルドルフ『ま、すでに休養期間中に終わってしまったがね』
『……』
ルドルフ『片桐トレーナー、君の道を塞ぐものは何もない』
『……』
ルドルフ『失礼する』
ガラッ……バタン
『……』
・・・・・・
グルーヴ『会長!これでは話が!』
ルドルフ『そう怒るな、エアグルーヴ』
グルーヴ『しかしこれでは!』
ルドルフ『片桐トレーナーは、なぜトレーナーを辞めると言った?』
グルーヴ『え?……』
グルーヴ『たしか……自分にはウマ娘たちの夢を支える資格はない、と』
ルドルフ『本人の体調や、やむを得ぬ事情であればトレーナーバッジは私が処分していた』
グルーヴ『!』
ルドルフ『しかし片桐トレーナーは“ウマ娘たちの夢”と言った』
グルーヴ『……』
ルドルフ『道は守った、後は片桐トレーナーを信じよう、エアグルーヴ』
グルーヴ『……はい』
ルドルフ『彼は私の理想に必要な男だ』
──────
URA緊急役員会翌日 トレセン学園生徒会室
ルドルフ『すまない、わざわざご足労いただいて』
藤井『ホンマ、まさかのご招待やわ“皇帝”シンボリルドルフ会長』
ルドルフ『その二つ名はよしてくれ、まだ夢半ばの未熟者だ』
藤井『さすがはルドルフ会長、謙遜もお上手で』
ルドルフ『ふふ、君も噂通りのようだ』
藤井『それで、ルドルフ会長がわざわざ、わしに連絡するとはどんなご用件でしょ?』
ルドルフ『察しのいい藤井記者ならわかっているのではないかな?』
藤井『片桐トレーナー暴行事件』
ルドルフ『うん、そのことで藤井記者に話を聞きたい』
藤井『それは構いませんが……なぜわしに?』
ルドルフ『藤井記者のところの新聞だけ暴行事件の記事がなかった』
藤井『……』
ルドルフ『取材に来ていなかった可能性も考えたが……』
ルドルフ『他の記者に聞いたら……確かにあの日、君も取材に行っていたはずだ』
ルドルフ『であれば、藤井記者程の人があの事件を見ていなかった訳はない』
ルドルフ『それでも記事になっていないのには何か理由があるのだろ?』
藤井『ちぃっと、わしのこと買い被りすぎなとこもあるようやけど……』
藤井『さすがは皇帝シンボリルドルフ、名推理ですわ』
ルドルフ『聞かせてはくれないだろうか?』
藤井『……』
藤井『六平トレーナーはわしのこと三流記者と呼びますが……』
ルドルフ『?』
藤井『あれを暴行事件と書ける記者は、わし以下……四流や』
ルドルフ『!』
藤井『あんなんただの暴走した記者たちの起こした“自損事故”や』
ルドルフ『詳しく聞かせてくれ』
藤井『……』
・・・・・・
ルドルフ『……そんなことが』
藤井『ことの真実は、今話したことで全てや』
ルドルフ『藤井記者、君に頼みがある……』
藤井『……タダで、とはもちろん言いませんよね?ルドルフ会長』
ルドルフ『ああ、以前君から依頼のあったトレセン学園の独占取材……一度は断ったが、許可する』
藤井『ホンマでっか!さすが皇帝さま!ちぃっとやる気出てきましたわ』
藤井『で?予想はついてますが……ルドルフ会長のお願いって』
ルドルフ『ああ……』
藤井『……!!』
ルドルフ『どうだろうか?』
藤井『……真実を明かすのは造作もないですけど……世論まで動かすとなると……』
ルドルフ『難しいかもしれないが、学園もできる限りの助力はする!』
藤井『……愛されてますなぁ、片桐トレーナー……ちょっと妬いてまうわ』
藤井『せやけど、これからのトゥインクルシリーズには必要な男や』
藤井『不肖藤井泉助!一肌脱がせてもらいます!』
ルドルフ『ありがとう!藤井記者!』
──────
トレセン学園 トレーナー室
『よし、私物はこんなもんか……』
机の上のトレーナーバッジを見つめる
(……俺は……トレーナーを続けるべきじゃない……)
『よいしょ……』てくてく……
『……』ペコッ
扉の前で振り返り一礼する
ガラッガラッ……バタン
『……』
???『トレェェェーーーーナァァァーーーッ!!』
『ん?』
どんっ!
『ぐはぁっ!……』
ターボ『おかえり!トレーナー!いつターボたちのトレーニング見てくれるんだ?』
南坂『こら!ターボ、片桐トレーナーは病み上がりなんだからいきなり突進はダメだろ?』
南坂『すいません、片桐トレーナー……』
『いえ……平気です』
南坂『おかえりなさい』
『……』
ロイス『おかえりなさい、“私の”片桐トレーナー!今日はどんなメニューを?』
ネイチャ『ロイスー、まだ、諦めてなかったか……さすがに空気読みなさいよ……おかえり、トレーナーさん』
イクノ『おかえりなさい、片桐トレーナー……体調は大丈夫でしょうか?決して無理はなさらないよう』
マチタン『おかえりなさい、トレーナーさん♪』
マチタン『体調がまだよくないんだったら、私が元気になるおまじないかけてあげますね』
マチタン『いきますよぉ~……えいっ、えいっ、むんっ♪』
アース『Bravissimo!マチタンの“むん”から最高の歓迎のメロディーが聴こえたよ!私からも――おかえり、片桐トレーナー♪』
『……』
南坂『それじゃあ、みんなトレーニング行くよ』
カノープス『はぁーい』
南坂『失礼します、片桐トレーナー』
わいわい……ぞろぞろ……
遠ざかる声と足音を、一人で見送る
『……おかえり……じゃ、ないんだよ……もう』
・・・・・・
トレセン学園 校舎内
???『これはこれは、片桐トレーナーやありませんか』
『?』
『藤井記者?どうして学園内に……』
藤井『見てわかりません?念願のトレセン学園独占取材中ですわ』
『独占取材……』
藤井『そういや、わしの記事……読んでもらえました?』
『記事?』
藤井『……ああ、あんた、あの頃は入院中でしたな』
2カ月前……
【片桐トレーナー暴行疑惑――“沈黙の日曜日”現場で何が起きていたのか】
藤井記者の署名記事によって、あの日の真実は公になった
サイレンススズカの病院へ向かう片桐トレーナーを取り囲み、強引に進路を塞いだ記者たち……
その押し合いの末に起きた、記者たち自身による転倒事故
片桐トレーナーが暴行を働いた事実はなかった……
URAも調査結果を正式に発表
暴行疑惑を報じた各紙は、相次いで記事を訂正した
“片桐トレーナー暴行事件”は、こうして決着を迎えた
──────
『藤井記者が……俺のために……』
藤井『勘違いせんといてください、わしは欲しかった独占取材をいただいただけです』
『……』
藤井『それに――』
藤井『四流の記事が幅を利かせるんは、三流記者として我慢なりませんからな』
『……ありがとうございます』ペコッ
藤井『礼ならルドルフ会長と六平トレーナーに言うてください』
藤井『わしは記者として、真実を書いただけですわ』
『……』
藤井『ほな、取材がありますんで……失礼します』
『はい……』
藤井『……おかえりなさい、“アイドルトレーナー”』
『!』
藤井『ほな』ザッ……ザッ……
『……』
・・・・・・
トレセン学園 トレーニングコース
『これで……見納めか……』
『……』
???『あ……あのう……か、片桐トレーナーさん!』
『?』
『ライスシャワー……』
ライス『ト、トレーナーさんに、お話ししたいことが、あります!』
『俺に?何かな?』
ライス『……おかえりなさい!』
『は?……う、うん……』
ライス『あ、あの……ライス、デビューはまだ先で……で、でも』
ライス『……』
『ライス、緊張しなくていいよ、落ち着いて』
ライス『!』
ライス『は、はい……ライス、ハイセイコーさんの大ファンなんです!』
『!』
ライス『ハイセイコーさんの走りはみんなを笑顔にして、日本中を幸せにして……』
ライス『ライスもあんな風に走りたい……そう思って!』
ライス『それで……ハイセイコーさんのこといっぱい勉強したら、片桐トレーナーさんのことも書いてあって』
ライス『二人三脚でスーパーアイドルウマ娘になったって!』
ライス『だから、ライスもハイセイコーさんみたくみんなを幸せにしたいんです!』
『……』
『うん、ライスならなれるよ』
ライス『本当ですか!?』
『ああ、だって君の名前は“ライスシャワー”だろ』
ライス『!』
ライス『ライスの名前……どうして?』
『君に関わる全ての人に、幸福が訪れるように……だから、ライスシャワー』
ライス『……』
ライス『でも、でも……ライスが一生懸命がんばっても……周りの人たちを不幸にしちゃうの……』
『!』
(……がんばっても……不幸にしてしまう……)
『……ライスの考えすぎだよ……周りの人を不幸にするなんて』
ライス『ううん、みんなそう言ってくれるけど、そんなことない!だって……』
ライス『みんなで外周を走り始めた途端、ゲリラ豪雨で……みんなまでびしょ濡れになっちゃうし……』
ライス『ライスが教室に入った瞬間、急に強い風が吹いて……みんなのプリントが窓から飛んでいっちゃって……』
ライス『お出かけに誘ってもらった日も、電車が止まって……みんなの予定まで潰しちゃったの……』
ライス『……全部、全部!ライスのせいだもん!』
『それじゃあ、なんで君は走り続けるんだい?』
ライス『!』
ライス『……それでも……それでもライスはみんなを幸せにしたい!』
ライス『ハイセイコーさんみたいに、日本中を笑顔にしたいの!』
ライス『ライスは、“ライスシャワー”だから!』
(……折れないんだな……)
ライス『だから!トレーナーさん!ライスのトレーナーさんになってくださいっ!!』
『!!』
ライスは祈るように、じっと片桐を見つめる
その真っすぐな瞳から逃げるように、視線を落とす
『……ごめん』
ライス『!!』
『俺……もうトレーナー辞めるんだ……』
ライス『え?』
『だから、ごめんな、ライスのトレーナーにはなれない』
ライス『……』
『もう、行くね、ごめんね』ザッ……ザッ……
ライス『……』
ライス『それでも……』
『!?』
ライス『それでもライスは!みんなを幸せにする!ライスシャワーになりますっ!!』
『!!』
(……どうして?……どうしてそんなに真っすぐ走れる?……どうして……)
・・・・・・
ザッ……ザッ……
ポッケ『おかえり!トレーナー!』
ダンツ『おかえりなさい、片桐トレーナーさん』
『……違う』
ザッ……ザッ……
ルドルフ『おかえり、片桐トレーナー』
グルーヴ『やっと戻ったな、トレーナー』
『俺は……戻ってきたんじゃない』
ザッ……ザッ……
ターボ『おかえり!トレーナー!』
南坂『おかえりなさい』
ネイチャ『おかえり、トレーナーさん』
マチタン『おかえりなさい、トレーナーさん♪』
『俺は、もう……』
ザッ……ザッ……
ライス『……おかえりなさい!』
『……』
(……俺の……居場所は……)
足を止め、学園校舎を振り返る
何も言えないまま、深く頭を下げる
『……』ペコッ
ザッ……ザッ……
正門から外に出ていく
◇◇◇
ガチャ
スズカ『おかえりなさい、トレーナーさん』
『!』
『あ、あぁ……ただいま』
(……ただいま?……違う!……これは……)
『来てたんだな……スズカ』
スズカ『トレーナーさんが疲れて帰ってくるんじゃないかって、心配で』
スズカ『大丈夫でした?』
『う、うん……』
(……迷うな……!)
スズカ『……そんなに荷物多くなかったみたいですね、持ちましょうか?』
『……』
(……これ以上……夢を奪うことは……!)
スズカ『……トレーナーさん?やっぱり疲れちゃいました?』
『……いや、大丈夫……ありがとう、自分でできるから』
(……居場所があっても……!)
スズカ『そう……ですか』
『……』
(……夢を奪う俺に……トレーナーの資格は……ない)
スズカ『トレーナーさん……本当に……』
『スズカ』
スズカ『はい』
『……少し、一人にさせてくれないか……』
(君がいると……)
スズカ『!』
スズカ『……一人で、大丈夫ですか?』
『一人で考えたいことがあるんだ』
スズカ『……なにか、あったら……』
『わかってる!』
スズカ『!』
『……すぐに連絡するよ』
スズカ『……はい、わかりました……』
スズカ『……』
ガチャ……バタンッ
閉じた扉を見つめたまま、その場に立ち尽くす
(……なにやってんだ……俺は……)
タッ…………タッ…………ドサッ
荷物を仕事用のデスクに置く
『!?』
『これ……スズカか……?』
【スズカ&片桐トレの交換日記★ノート】
ノートを手に取り、懐かしい表紙を指先でそっとなぞる
パラッ……
──────
【交換日記を始める前のこと その1】
初めてトレーナーさんに会ったのは、理事長室でした
私の顔を見たトレーナーさんは
しばらく動かなくなって
誰のトレーナーにもならない、と言いました
でも、断っている人の顔には見えませんでした
どうして、あんなに悲しそうな顔をしていたのでしょう?
【片桐】
初対面の女の子に心配されるような顔をしていたとは
海より深く反省しております
『……』パラッ
【交換日記を始める前のこと その2】
夕焼けの高台で
トレーナーさんは息を切らしながら
奇遇だね、と言いました
でも本当は、街中を走って私を探してくれていたそうです
怖くはないのか、と聞かれました
怖くないです
私は、走ることが大好きですから
そう答えると、トレーナーさんは
担当トレーナーとして、君と一緒に走りたい
そう言ってくれました
あの日、私を見つけてくれて
ありがとうございました
【片桐】
あの日、君を探しに行ってよかったです
俺の担当になってくれて
ありがとう
『……』パラッ
【正式契約の日】
高台からの帰りは
私がトレーナーさんをおんぶしました
少し速く走りすぎて
トレーナーさんが何を言っているのか
ほとんど聞き取れませんでした
でも、二人で走るのは楽しかったです
学園へ戻って
同じ契約書に二人で名前を書きました
お礼まで同時に言ってしまって
たづなさんに、息ぴったりですねと笑われました
今日から改めて
よろしくお願いします、トレーナーさん
【片桐】
おんぶされながら
「そうですね」と言いました
命懸けで
こちらこそ、よろしくお願いします
一緒にたくさん走りましょう
『……ふっ』パラッ
【普通のトレーナーをやめた日】
トレーナーさんが
一晩かけて作ったトレーニングメニューを
コースへ投げてしまいました
白い紙が風に舞って
六平トレーナーに、とても大きな声で怒られました
二人で紙を拾いながら
トレーナーさんは
俺は、スズカを速くするだけのトレーナーではなく
安心して走るためのブレーキになる
と言ってくれました
では、そのブレーキが壊れないように
体調管理をしてくださいね
【片桐】
次から紙はゴミ箱へ捨てます
ブレーキも壊れないようにします
海より深く反省しております
『……ブレーキに……なれんかったけどな……』パラッ
【追いかけっこ】
今日のトレーニングは
トレーナーさんとの追いかけっこでした
私が勝つたびに
トレーナーさんのスタート位置が
どんどんゴールへ近付いていきました
最後は、私が100メートル
トレーナーさんが20メートル走って
トレーナーさんが勝ちました
芝生に大の字で倒れながら
おっさんの意地を見たか
と、とても嬉しそうでした
おめでとうございます
【片桐】
勝ちは勝ちです
次は十メートルで勝ちます
【スズカ】
それは競争にならないと思います
『……速かったな……スズカ』パラッ
【右回りのフォーム改造】
最初の仮想中山レースでは
フクちゃんに負けてしまいました
右の小さなコーナーで外へ膨らみ
左脚だけが重くなっていたことに
トレーナーさんはすぐ気付きました
トレーナーさんの昔話(?)を聞いて
すぐにトレーナーさんの実体験だとわかりました
上体を低く
歩幅を短く
その言葉を繰り返しながら走ると
身体が自然に沈んで
小さなコーナーを滑るように曲がることができました
ゴールで両手を上げていた
トレーナーさんの方が
私より嬉しそうでした
【片桐】
察しのいい娘は
トレーナーさん大好きです
『……』パラッ
【初めてのGⅠ】
勝負服へ着替えた時
トレーナーさんが写真を撮ろうとしました
まだ走っていないので
先頭で帰ってきた後なら、と約束しました
宝塚記念を先頭で走り切って
約束通り、一枚だけ撮ってもらいました
ライブの後にも
もう一枚だけ撮ってもらいました
2枚とも、トレーナーさんの手が震えて
少しだけ傾いています
でも、大切な写真です
【片桐】
最速の機能美
GⅠバージョン
次は百枚撮ります
【スズカ】
二枚までです
『……写真……貼ったんやったな……』パラッ
【プールへ行った日】
五十メートルプールの横が
とても走りやすそうだったので
少しだけ走ろうとしたら
トレーナーさんとエアグルーヴに
左右から同時に肩を掴まれました
その後、トレーナーさんと水泳で勝負しました
府中のトビウオと呼ばれていたそうですが
私が勝ちました
水面に浮かびながら悔しがる
府中のトビウオは
あまり速そうには見えませんでした
【片桐】
府中に海はありません
よって今回の勝負は無効です
【スズカ】
トレーナーさんが
自分で言ったのに
【片桐】
次は勝ちます
おっさんは諦めが悪いんです
『……懐かしい』パラッ
【スズカの隣で】
屋上で
トレーナーさんの頭を抱きしめました
私の大事なトレーナーさんが
自分のことを大事にしてくれないのは嫌です
冗談にしないでください、と伝えると
今度はトレーナーさんが震える手で
私の頭を抱きしめました
そして
君の走る先を
俺はずっと見ている
スズカの隣で
そう約束してくれました
【片桐】
約束します
君の走る先を
俺はずっと見ます
スズカの隣で
『……なにを……!』パラッ
【天皇賞へ】
熱を出したトレーナーさんの部屋で
おかゆを作りました
天皇賞を走らないでほしいと言われました
私は
走れるのに、走らなかった後悔はしたくありません
自分で選んで走って
その先に何が起こっても
全力で走った後なら
全てを受け入れられると思うから
そう伝えました
【片桐】
一緒に走る
一緒に見る
スズカと、最高の景色を
次のページへ伸ばした指が一瞬止まる
(……もう、秋天か……この先は……)パラッ
『!!』
『な……んで?……スズカ』
『……』
【十一月一日 天皇賞(秋)】
今日の作戦は
片桐隆さんでした
絶対に帰ってくるんやで
そう送り出してくれたのに
約束を守ることができませんでした
目を覚ました時
白い天井より先に
私の手を握るトレーナーさんの手が見えました
袖には芝と土が付いたままでした
あたたかくて
安心しました
手を握っていてくれて
ありがとうございました
『!』
(……俺の書くところ……空白に……)
『……ぅぅ……』
(あの時、俺がしっかり……)
パラッ
【もう一度、立つ】
平行棒を握っても
脚が震えて
立つことができませんでした
トレーナーさんは
私と同じ高さまでしゃがんで
無理しなくていい
今日は立てなくてもいい
止まって、休んで
それからもう一度立とうとすることも
ちゃんと前に進んでいる
そう言ってくれました
顔を上げると
すぐ目の前にトレーナーさんがいました
だから私は
自分の脚でもう一度立つことができました
トレーナーさんも
ゆっくり、トレーナーさんのペースで
『……くっ……ぅ』
(……ただの……ケジメだったんだ……)
(……スズカが歩けるようになったら……死のうって……)
パラッ
【今度は、私が】
月明かりに照らされた崖の先に
トレーナーさんが一人で立っていました
海へ向かって歩いていく姿を見た時
走ってはいけないことも
脚の痛みも忘れて
全力で走りました
もう、貴方は一人じゃない
そう叫んで
トレーナーさんを抱きしめました
あの日
トレーナーさんが私を探してくれたように
今度は、私が見つけました
見つけることができて
本当によかったです
『……うぅ~……くっ』
(……俺なんかの……ために……)
パラッ
【明日も一緒に】
今日、トレーナーさんが
私のことを、うちの娘と呼んでくれました
嬉しくて
トレーナーさんをパパと呼んだら
パパはやめて、と言いながら
久しぶりに笑ってくれました
ずっと笑っていなかったので
私まで泣いてしまいました
明日も一緒に中庭を歩こう
そう言ってくれました
明日が来るのが
楽しみです
『うぅ~……』
(……スズカは……ずっと……明日を見てるのに……)
パラッ
【──────】
丘の上で
新しい夢を話しました
風が吹くたび
トレーナーさんにもらった
緑色の耳飾りが揺れていました
違う形になっても走り続けたい
いつか、トレーナーさんのように
走る楽しさを教えられるトレーナーになりたい
そう伝えた後
トレーナーさんは
トレーナーを辞めると言いました
本当は
辞めないでと言いたかったです
でも
私の願いで
トレーナーさんを苦しませたくありません
だから、あの時は何も言えませんでした
でも
ここにだけは書かせてください
私は
トレーナーさんと走った日々を
大切な思い出だけにはしたくありません
私は、また
トレーナーさんと一緒に走りたいです
『う……ぅぅ……』
『うああああああああああ……』
(俺は……何をしてきたんだ……!)
『あああああああああああ……』
(何を見てきたんだ……!)
『ああ~ああ~あぁぁぁぁ……』
(ずっと!一緒に!走ってきたんじゃないのか!)
『ああ、あああぁ~……』
(自分一人で勝手に決めて!)
『うぅ……うっ……ぐっ……あぁ~』
(スズカと一緒に走ってきたんじゃないのか!)
『うっ……うっ……うっ……』
(聞かなきゃ……スズカに……全部……)
『うぅ~……うっ……ぐすっ』
(辞めるのは……スズカとちゃんと話をしてからだ)
『すぅ~~~……ふぅ~~~……』
『……』
『いつまで!寝ぼけてんねんっ!!片桐隆ぃぃっ!!!』
ドカッ!!!
自らの頬を拳で殴る
『……』
『……いってぇ~』
『……』
(……グーパンはアカンやろぉ~……ワシぃ……)
『……』
『ヨッシャ!』
(ほな、行こかっ!!)
『とはいえ……』
(寮に戻ったんやろか?)
『!』
(携帯!すぐ気づかんかい!ワシのアホ!)
『……』ピッピッピッ
携帯『プップップッ……』
『……』
携帯『トゥルルルル……』
♪~♪~♪
『……え?』
♪~♪~♪
(キッチン……?)
タッタッタッ!
スズカのスマホ【トレーナーさん】♪~♪~♪
『スズカ……忘れて……』
『……まさか……!』
『俺が追い出すようなこと言ったから!?』
(なにやってんねん!ワシはっ!!)
バッ!
スズカのスマホを掴む
(すぐに、話さなアカンねん!)
ガチャッ
・・・・・・
タッタッタッ……
『はぁ……はぁ……』
(どこ探す?どうやって見つける?……早く!……スズカに!)
『前にも……はぁ……こんなこと……はぁ……』
『はぁ……はぁ……』
『……絶対に見つける……』
タッタッタッ……
・・・・・・
タッタッタッ……
『はぁ……はぁ……』
ウマ娘A『でさぁーマジ、ウケんだけど……ゴルシがさぁ』
ウマ娘B『やば!アイツと関わんない方がいいよぉ~』
『ん?あれは!』
(MOBウマ娘ちゃんたちっ!)
(まさか、とは思うけど……行くしかないやろ!)
『君たち!』タッタッタッ……
ウマ娘A『あれ?片桐トレーナーじゃないですか!?』
ウマ娘B『こんなところで偶然お会いできるなんて!』
ウマ娘A『あ!もしかしてうちらのことスカウトしたいとか!?』
ウマ娘B『え!マジですか!』
『いや、そうじゃなくて……』
(全力疾走で息切らせてスカウトしに来るか!つーか空気読めやっ!)
『スズカを……サイレンススズカを見なかったか?』
ウマ娘A『スズカ先輩?』
ウマ娘B『そーいえば……結構前に、あっちのほう歩いていくの見ましたよ』
『本当か!ありがとう!』タッタッタッ……
ウマ娘B『いえ、どういたしまして』
ウマ娘A『片桐トレーナー!スカウト待ってまぁーす!』
(いやぁ~、あのMOBウマ娘ちゃんたち優秀!)
(方向がわかっただけでも……)
『……』
『あれ?……この展開……まさか!』タッタッタッ……
(神様でも!ご都合主義でも!今はなんでもええ!スズカに会えれば!)
タッタッタッ……
◇◇◇
タッタッタッ……
『ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…』
『ハァ…ハァ…ハァ…オエッ!プ……』
(入院していたとはいえ……運動不足ここに極まれり、やな……)
(モブちゃんたちが、言うてた方向……ワシの読みが正しければ……)
タッタッタッ……
街を見下ろせる高台
(ここのはずや……)
(スズカは……)キョロキョロ……
キラッ✨
(……あの耳飾り!)
『……』
『スズカ!』
スズカ『!』
スズカ『……トレーナーさん』
スズカ『どうしたんですか?こんなところに……』
『スズカ……君と話がしたい』
スズカ『お話……ですか?』
『ああ……』
スズカ『……』
『ごめん!』
スズカ『!?』
『一人で考えるとか言って、追い出すようにして……』
スズカ『……』
スズカ『別に、気にしてませんよ……』
スズカ『ずっと……一緒にいたから、寂しくはありましたけど……でも……』
スズカ『学園でなにかあったのかな?……って、それで一人になりたいのかな?って』
『……』
スズカ『……』
(全部話すんやろ!)
逃げそうになる視線を、スズカへ戻す
『学園に行ったら……いろんな人に会った……』
スズカ『……はい』
『今まで会った……たくさんの人に……』
スズカ『はい』
『俺は……退職整理のために行っただけなのに……』
スズカ『……』
『……会う人、会う人みんなが……』
『“おかえり”って……』
スズカ『……はい』
『俺は!……もう、戻らないつもりだったのに……』
スズカ『……』
『大事な担当から、夢を奪うような俺には……!』
『帰る場所なんてないはずなのに……』
スズカ『……』
『……みんなから“おかえり”って言われて……』
『……』
『ああ……俺の帰る場所は、ここなんだって……』
スズカ『……』
『……思ってしまった……』
スズカ『……』
『……あとちょっと……誰かに、背中を押されたら……』
『決心が、揺らぎそうだった……』
スズカ『……』
『また、間違った選択をしてしまうんじゃないかと思った……』
スズカ『間違いだなんて……!』
『そう、それすら全部一人で決めていた……』
スズカ『!』
『……』
『……交換日記読んだよ……スズカが置いてくれたんだろ?』
スズカ『はい……』
『……』
『……ずっと二人で走ってきた……』
『なんでも、二人で決めてきた……』
『思い出させてくれて、ありがとう』
スズカ『……ぅ』
『俺だけで決めちゃいけなかったんだよな……』
『それなのに俺は……』
『大人になって……痛みに弱くなったみたいだ……』
スズカ『……』
『歳を重ねる度、何度も傷ついて、その度に立ち上がって、痛みから逃げることを覚えて……』
『大人の立ち回りだと思っていた、誰も傷つけないように……自分が傷つかないように……』
『多少のことには目を瞑って……なるべく安全な道へ……』
『誰も傷つけないように……自分が傷つかないように……』
スズカ『……』
『目を瞑っちゃいけないものにまで、目を瞑って……』
『一番大事なものにも目を瞑って……全部一人で決めようとしてた……』
スズカ『……』
『今度はしっかり、スズカを見て決めたい』
『だから、スズカ……聞かせてほしい……』
『……』
『あの秋天に後悔はないか?』
スズカ『!!』
『君の“大好きな走り”を奪った、あのレースに……後悔はしてないか?』
スズカは視線を落とし、片桐は黙ってその答えを待つ
スズカ『……一度も後悔しなかったと言えば……嘘になります』
『……』
スズカ『私と、トレーナーさんで決めたことだし……』
スズカ『全力で走った結果だったけど……』
スズカ『……もう走れないって、わかった時は……すごく……寂しくて……』
『……スズカ』
スズカ『……きっと』
スズカ『……トレーナーさんと出会う前の私だったら耐えられなかった……』
『!』
スズカ『……あの頃の私は……走ることが全てで……楽しくて……誰よりも先頭の景色を見たくて……』
『……』
スズカ『でも、トレーナーさんと出会ってから、たくさんの楽しいこと、知らない景色を見て……』
スズカ『私にも走る以外の、かけがえのないものができました』
スズカ『それに、新しい夢もできました』
スズカ『だから……今はもう、後悔なんてありません!』
『!』
スズカ『私は……私の今の夢を追って、走り続けます!』
『……ぅ……く』
スズカ『だから、トレーナーさん』
スズカは一歩、片桐との距離を縮める
スズカ『もう、自分を責めないでください……』
スズカ『大切な場所を捨てないでください!』
『!!』
『……うっ……くっ……ぅぅ』
(泣くな!下向くな!スズカを見ろ!)
(もう大事なものに目を瞑るな!大切な場所から逃げ出すな!)
涙に滲む視界の中、ようやくスズカをまっすぐ見返す
スズカ『私は!私の大好きなトレーナーさんのように!』
『!!!』
スズカ『走る楽しさを教えられるトレーナーになります!』
スズカ『それが私の今の夢です!』
『うっ!うぅぅぅ~……』
『ぅぅ~……くっ!』
『……』ゴシゴシ……
『スズカ!』
スズカ『!』
スズカ『はい!』
『君のその夢……俺にも手伝わせてくれ!!』
スズカ『!』
スズカ『はい!……トレーナーさん!!』
──────
オルゴール♪~♪~♪~
こうして、俺たちのトゥインクルシリーズは幕を閉じた……
思えば、一人ツッコミばかりしていたような気がするなぁ……
なにはともあれ……
(って!ちょっと待てぃ!!)
ん?
(なんじゃこりゃ!?いきなりとき〇モのエンディングみたいになっとるやんけ!!)
ん?ラブコメのエンディングと言えばこれじゃないの?
(ラブコメちゃうわ!これ、U!MA!MU!SU!ME!ウマ娘やぞ!?)
ラブコメやろ?よく、トレセン学園は結婚紹介所って言われてるし……
(それは一部のオタクだけや!ウマ娘はスポーツ!なんやったらスポ根!愛と努力と絆のドラマ!)
そうなの?どうりで片桐がスズカになかなか手出さないわけだ……
(……お前いっぺん豆腐の角に頭ぶつけて〇ねや……ってか、そもそもお前誰やねん!?)
あ、これはどうもご挨拶が遅れました
《【ウマ娘if】転移した俺は、トレセン学園で運命に抗う》の作者のKUROXです✨
(作者!?作者がいきなり出てくるな!)
いやぁ~最終話だからいいかな~……?って、テヘペロッ☆
(お前の倫理観さっきからおかしいぞ…… )
社会不適合者ですから!(`・∀・´)エッヘン!!
(ただのリアル社会不適合おっさんやん……)
(つーか、せっかくええ感じに終わって、読者さんもしんみりしてるのに、ぶち壊しやぞ!)
(作者として、ええのか!?)
このまましんみり終わっちゃったら、僕の個性死んじゃうもん(´Д⊂グスン
これが!【ウマ娘if】転移した俺は、トレセン学園で運命に抗う、略して“トレ運”です!
(略し方なんてどうでもええねん!で!ホンマは何しに来てん?)
うん、【ただ、出たかった!!】
(……)
はーっはっはっはっ……
(……この作者終わってるわ)
ところで、たかちゃん!
(たかちゃんはやめい!)
まだまだ、伏線が残ってるねぇ~……この物語……
(!!)
まだまだイジメてあげるからね……たかちゃん♡
(なっ!?)
それではっ!サラバだ!
(おい!ちょっと待てい!最後に不穏なセリフ残すなや!)
2章でまた会おう!!
はーっはっはっはっ……
(……)
(……こんな終わり方でええの?)
ー1章ー 【サイレンススズカ編】
015話 おかえり、We are DREAMERS!! 完
ごめんなさい!ごめんさい!ごめんなさい!
11話からずっと……うつ展開・曇らせ展開の連続で……
全然ギャグシーンが書けなくて…… 我慢の限界がきて……
最後に思いっきりチョケちゃいました
賛否あると思いますが……これがKUROXの作風だと思って、諦めてくださいw
ともあれ、第1章第15話「おかえり、We are DREAMERS!!」
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
これにて、第1章サイレンススズカ編は、一旦終了です。
交換日記から始まり、あの丘で再び交わった二人。
ずいぶん遠回りしましたが、ようやく片桐に「おかえり」と言ってあげることができました。
ここまで片桐とスズカの物語を見守ってくださった皆様、本当にありがとうございました!
9月12日は片桐の誕生日。
その日に第1章の最終話を公開できることを、とても嬉しく思います!
ですが、物語はまだ終わりません。
次回からは、新たな物語――第2章が始まります!
【生誕祭後夜祭】
9月13日(日)19:00
第2章第1話 公開予定
そして、今回の第1章第14話・第15話と、第2章第1話を扱う裏話・ネタ解説はこちら!
『KUROXの
9月14日(月)7:00公開予定です!
感想などいただけると、作者が泣いて喜びます。
【X(本編直接公開・最新情報)】
https://x.com/utsupapa_2021
【note(裏話・ネタ解説)】
https://note.com/kurox_1200
※noteは、登録・ログイン不要でそのままお読みいただけます。
それでは皆様、第2章でまたお会いしましょう!
KUROX