エピローグ EMIYA
空には
その瞳は固く閉じられ、ただひたすらに、ただひたすらに、次の召喚を待つ。そして絶対に、絶対に、記憶が記録となっても忘れない様に。衛宮士郎に、己の過ちを繰り返させぬ事。そして
(……次の、召喚か?)
英霊エミヤは眼を開けて、
固有結界の景色も、『座』の風景も、どちらも英霊エミヤの心象風景である。つまりこれは、エミヤの心が外部よりなんらかの影響を受けて、変質しているのだ。しかし、断じてエミヤに悪い変化では無い。断じてエミヤを思うがままにせんとする、
何故ならば、エミヤは、英霊エミヤの心は、この暗闇の中に浮かび上がる大銀河、
「これ、は」
「シロウ、お疲れ様でした」
「!? 君、は」
エミヤ以外存在するはずもない、英霊エミヤの『座』。そこに別の人物が立っていた。彼は切れ切れに、かろうじて言葉を絞り出す。
「せい、ばー……」
「貴方にならそう呼ばれるのも悪くはありませんが……。ちゃんと呼んでいただけませんか」
「アルト、リ、ア……」
「よくできました」
アルトリア・ペンドラゴン……。いや、英霊アルトリアは、
「君が、何故英霊に」
「守護者ではありませんよ? 死した後に、正英霊へと昇格したのです。なので、ちょっといじわるを言わせてもらえば、貴方の様に擦り切れるほどに
「そう、か……。ある意味で、わたしの頑張りは、無駄では無かったのだな」
「ええ。それどころか、貴方のおかげで随分と救われた人も多いのです」
その言葉に、エミヤは洗われた様な表情になって、涙がこぼれない様に上を向く。とても、我慢ができなかった。褒めて欲しかったわけでは無い。なのに、褒められる事が、これほど嬉しいとは。
大空には暗い黒い宇宙と、大きな銀河が輝いている。それを、その風景を、受け入れられそうな気がしていた。
「いや、受け入れてもらわにゃ困る」
「そうね、黒いシロウ。お久しぶり。……2千年ぶりかしら?」
「!?」
そこに立っていたのは、衛宮士郎とイリヤである。士郎は相変わらずの、
「な、ぜ、お前たちが」
「これでも頑張った。英霊エミヤ、お前もう既にアラヤの守護者から、正英霊に昇格してもおかしくない徳を積んでたんだぞ」
「だけどアラヤが手放さなくてね。だからわたしたち、わたしたち自身の都合もあったけど、アラヤに肩を並べるか追い抜くレベルにまで自分たちを昇華したのよ」
「な!」
その瞬間、エミヤは見た。このイリヤと衛宮士郎の世界で、地球と太陽で形成されるラグランジュ・ポイントのうちのL3点に存在する、二連星の惑星を。太陽を挟んで地球の真向かいにある、2つの惑星を。いや、純粋な意味での惑星ではない。これは、この2つの存在は……惑星サイズの量子コンピューターだ。
「うん、そういう事。俺たちは、その地球よりちょこっと大きいサイズの量子コンピューターを建造して、それに意識と魂を移植した。まあそれよりずっと前に、量子電脳を搭載した機械体に意識と魂を移植してたんだけどな」
「と言うわけで、もうアインツベルンの第三魔法は魔術に落ちてるわ。それを知ったときの、本家……って言ってもシロウに乗っ取られてたけど、その連中の慌てっぷりは面白かったわね」
「千何百年前の話をしてるんだよ、
「自分じゃ気づいて無かったけど、それだけ怨み骨髄だったのよ」
「事実上の、不老不死、か」
エミヤは唖然とする。そして次に気づいた。惑星サイズの意識体ということは、十二分にアラヤや、下手をするとガイアに相当する。その彼らが、おそらくはアラヤに干渉したのだ。個人的な思いだけで。個人的な想いだけで。
「っつうわけで、英霊エミヤ。お前これから正英霊な」
「な」
「のんびりと隠居生活を楽しんで」
「い、イリヤ」
そして背後より、アルトリアの両腕がエミヤの身体に回される。柔らかい雰囲気が、エミヤの心身を包む。
「ふふ、ようやく手に入れましたよ。わたしのシロウ。わたしはカムランの丘に帰り、そして還ってきた全ての『わたし』と統合されました。そう、まだ高校生であった頃の貴方と共に戦った『わたし』とも。英霊となり、シロウやイリヤと共にあの世界に残った『わたし』とも」
「あ……」
「シロウ、わたしは随分待たされましたよ? お腹が空きました。ふふ、とりあえずブリ大根を所望します。あと、卵サラダと炊き立てのご飯、それに昆布と鰹節で出汁を取った豆腐の味噌汁も」
ついに涙腺が決壊する。英霊エミヤは、滂沱と涙を流していた。彼はうん、うん、と何度も頷く。その後ろで、士郎とイリヤがこの空間に持ち込んだ食材と調理機器を取り出して、組み立てたり洗ったりしていた。
*
まあこの観念的世界に持ち込めるのだから、食材も調理器具も物質的な存在では無い。その物質的存在ではない料理を、だが英霊エミヤの心の込められた料理を頂きながら、彼らは色々な思い出を話していた。
「しかし、遠坂の子孫にも悪い事したな」
「……何をやった、衛宮士郎」
「お前を助けるためだったんだ。勘弁してくれ」
「黒いシロウのところに繋げて、あなたを正英霊に昇格させるのよ? 第二魔法の並行世界運営技術が必要に決まってるじゃない。……科学的に」
「あ゛」
そう、それはつまり……。
「第二魔法も、魔術に落ちた、という事か」
「まあ、わたしたちの世界を含む、その周辺並行世界群では、ね。まあその外側の並行世界群では、まだまだ第二も第三も、魔法のままよ」
「シロウ、お代わりを所望します」
「ああ、少し待ちたまえ」
ちなみに、魔法が魔術に『落ちる』には、魔法が『魔力や神秘を必要としない狭義の科学技術で実現可能な技術になる』事が必要だ。まあ魔法も魔術も、狭義ではなく広義なら、科学に入ると言うのが士郎の言なのだが。
「第三魔法と違って、2千年近くかかって、やっと魔術に落ちたんだ。そうとう厳しかったぞ。超空間航法までなら、けっこう簡単だったんだが。そこから超空間ジャンプの失敗で異界に消えちまったのを科学的に検証して、並行異世界へ干渉する技術の完成にどれだけかかったか」
「凄い物だな……」
遠い目になる、エミヤだった。異界に於いても、英霊の座に於いても、衛宮家は騒がしい。彼らは超越存在と成り果てても、人間性を失う事は無いのだった。
これにて完結でございます。皆さま、お楽しみ頂けたなら幸いです。テーマの1つは、『魔法も魔術も、(広義では)科学だ!』という事ですな。あとブラックロッドの技術を、Fate世界に引っ張り込んで無茶苦茶活躍させる事。そしてもっと大事なテーマは、イリヤが可愛い事<マテ
まあ、ですが。電卜易断機も出そうと思ったんですよ。でも余裕が無かったですわ。電卜易断機と言うのは、コンピューター技術の魔術的応用の1つでして。超高速のコンピューターによる何千、何万、何十万、何百万、何千万回もの計算にて、無数に卜占、占いを重ねて、長期間は無理ですが1秒以内であれば確実に未来予知をする、という代物です。
1秒の未来を予知してどうにもならんだろう、と思ったら大間違い。電卜易断機は懐に入れて持ち運べるのです。そしてその演算結果を、持ち主の脳に
何故だ、何故この設定を出せなかった!
仕方ないです。別作品で、また機会があったら電卜易断機、出しましょうかね。それでは皆様、長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。