界渡りの不確定な切り札   作:アルフレッド

20 / 20
ガンダムSEED編第二話「コーディネーター」

キョウスケside

 

ホテルに入り、部屋に備え付けられていた端末を起動する。

 

まず調べるのは、先ほど耳にした言葉だ。

 

《コーディネイター》

 

検索すると、すぐに大量の情報が表示された。

 

「……遺伝子操作?」

 

「受精卵の段階で遺伝子を調整して、病気への耐性や身体能力、容姿なんかを変える技術みたいね」

 

「それを受けた人間をコーディネイターと呼ぶのか」

 

「で、そうじゃない人間がナチュラル」

 

「なるほどな」

 

そこまではいい。

 

問題は、なぜそれが先ほどの学生たちの会話に出てきたのかだ。

 

キラ・ヤマトという学生がコーディネイターであることを、わざわざ『噂』として話していた。

 

単なる医療技術の違いなら、あんな言い方をする必要はない。

 

さらに調べていく。

 

そこで最初に出てきたのが――

 

ジョージ・グレン。

 

「……この男が最初なのか?」

 

「正確には、世界で初めて自分がコーディネイターだって公表した人みたい」

 

ジョージ・グレン。

 

文武両道どころではない。

 

様々な分野で常人離れした才能を発揮し、人々から英雄のように扱われた男。

 

その男が、自分は生まれる前に遺伝子操作を受けていたと公表した。

 

そして、その技術を人類へ公開した。

 

「……なるほど」

 

「ここから広まったのね」

 

「ああ」

 

技術が広まれば、それを利用する人間が現れる。

 

より健康に。

 

より優秀に。

 

より美しく。

 

生まれてくる子供に、より優れた能力を与えたい。

 

そう考える親が現れること自体は理解できる。

 

だが――当然、それを受け入れない人間もいた。

 

「宗教的な反発、倫理問題、経済格差……」

 

「金がある人だけが優秀な子供を作れる、なんてことになれば揉めるでしょうね」

 

「それだけじゃないな」

 

「ええ」

 

生まれながらに能力を調整された人間。

 

そうではない人間。

 

コーディネイターとナチュラル。

 

技術によって生まれた違いは、いつしか社会そのものを二つに分け始めたらしい。

 

コーディネイターへの反発。

 

差別。

 

それに対するコーディネイター側の反発。

 

対立は長い年月をかけて深まっていった。

 

「それで宇宙へ出たのか」

 

「それだけが理由じゃないみたいだけど……結果として、かなりの数のコーディネイターが宇宙へ移住してるわね」

 

そして、その先に出てきた名前が――

 

プラント。

 

「…………」

 

俺たちがユニウスセブンで救助した人々が暮らしていた場所。

 

今まで俺たちにとってプラントとは、宇宙に存在する国家のようなものという認識でしかなかった。

 

だが、最初から独立国家として作られたわけではないらしい。

 

宇宙での生産を担う巨大なコロニー群。

 

そこへ多くのコーディネイターが移り住み、いつしか地球とは異なる社会を形成していった。

 

そして地球側との軋轢はさらに大きくなる。

 

「……ブルーコスモス?」

 

エクセレンが新しく表示された名前を読み上げた。

 

「なんだ?」

 

「反コーディネイター団体……みたいね」

 

そこから先を読み進める。

 

コーディネイターという存在そのものを否定し、排斥しようとする思想。

 

そして、それを掲げる組織。

 

「…………」

 

「キョウスケ?」

 

「ようやく少し見えてきた」

 

「今回の戦争?」

 

「ああ」

 

俺たちはユニウスセブンへの核攻撃を見た。

 

だからといって、それだけを見てこの世界全体の善悪を決めるべきではないと思った。

 

その判断は間違っていなかったらしい。

 

ナチュラルとコーディネイター。

 

地球と宇宙。

 

プラントと、それを管理してきた地球側の国家。

 

そして、その対立をさらに煽る思想や組織。

 

今回の戦争だけが突然始まったわけではない。

 

その前に、長い積み重ねがあった。

 

もちろん――

 

「だからって、ユニウスセブンに核を撃っていい理由にはならないけどね」

 

「ああ。それとこれとは別だ」

 

エクセレンも同じことを考えていたらしい。

 

「ねえキョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「じゃあ、さっき学生が言ってたキラ・ヤマトって子……」

 

「ああ」

 

中立国オーブのカレッジに通うコーディネイター。

 

プラントにいるわけでもない。

 

ザフトに所属しているわけでもない。

 

「コーディネイターだからプラント側、って単純な話でもないみたいね」

 

「そのようだな」

 

「……面倒な世界だな」

 

「でも、放っておけないんでしょ?」

 

「…………」

 

「なんで黙るの?」

 

「否定できんからだ」

 

◇ ◇ ◇

 

「エクセレン、いったん帰るぞ。レモンにシャトルを改造してもらう」

 

「んふふ。だと思った。救助活動するのね?」

 

「ああ。ついでにこの世界の技術も拾っていく」

 

「ちゃっかりしてるわねぇ」

 

「使えるものは使う。それに――」

 

端末に表示されているオーブの情報へ目を向ける。

 

「実績を積んでオーブに接触する」

 

「実績?」

 

「今の俺たちは、この世界では身元不明の人間だ」

 

「まあ、異世界人ですとは言えないものね」

 

「そんな人間が突然政府に接触しても信用されるはずがない」

 

「だから先に信用してもらえるだけの実績を作る?」

 

「ああ」

 

地球連合にもつかない。

 

ザフトにもつかない。

 

可能な限り戦闘には介入せず、救助を優先する。

 

連合兵であろうとザフト兵であろうと関係ない。

 

助けられる人間は助ける。

 

それを続けていれば、いずれ俺たちの存在は知られることになる。

 

「その上で中立国のオーブに接触する、か」

 

「少なくとも、何の実績もない今よりは話を聞いてもらいやすいだろう」

 

「なるほどねぇ。でもキョウスケ?」

 

「なんだ?」

 

「それって結局、助けたいから助けるのを理由付けしてるだけじゃない?」

 

「…………」

 

「また黙った♡」

 

「帰るぞ」

 

「はいはい♪」

 

◇ ◇ ◇

 

「レモン」

 

「おかえり。どうだった?」

 

「戦争が始まった」

 

「…………」

 

「それで、このシャトルを改造してくれ」

 

「……戦争が始まった、からシャトルを改造してくれに繋がる理由を聞いてもいい?」

 

「救助に使う」

 

「なるほど」

 

レモンは一瞬考え――

 

「どこまで弄っていい?」

 

「ステルス性能とセンサー、それに救助能力を――」

 

「そうじゃなくて」

 

「?」

 

「どこまで弄っていい?」

 

「…………」

 

嫌な予感がした。

 

「……せめて外見はそのままにしてくれ」

 

「オッケー」

 

「量産型Wも何人か連れていく」

 

「戦力として?」

 

「救助要員だ」

 

「……Wシリーズを?」

 

「戦うために作られたからといって、戦うことしかできないわけじゃないだろう」

 

「教えれば吸収するやつらだ」

 

「そうね……」

 

◇ ◇ ◇

 

「行くぞエクセレン、アンノウン救助隊の出動開始だ」

 

「ノリノリね。キョウスケ」

 

「人助けだからな」

 

「そういうところ、好きよ♡」

 

「……出るぞ」

 

「照れた?」

 

「出るぞ」

 

「二回言った♪」

 

◇ ◇ ◇

 

俺たちはL1コロニー『世界樹』で行われている攻防戦に潜り込んだ。

 

もちろん、戦闘に介入するためじゃない。

 

一人でも戦死者を減らすため――救助するためだ。

 

ザフトも地球連合も関係ない。

 

救難信号を出している脱出艇。

 

撃破された機体から脱出したパイロット。

 

宇宙空間を漂流している人間。

 

見つけた者から片っ端に救助していく。

 

主に船外で救助活動を行うのは量産型Wだ。

 

改造したシャトルのセンサーで要救助者を探し、量産型Wが船外へ出て回収する。

 

ある程度の人数が集まったところで、戦闘区域から離れた岩塊へ移送。

 

簡単な生命維持装置と発信器を残し、俺たちはその場を離れる。

 

もちろん――

 

「ザフトと連合は別々か」

 

「さすがに一緒に置いたら、助けた意味がなくなっちゃうものねぇ」

 

「目を覚ました瞬間に殺し合いを始められても困る」

 

「救助した人たちが全滅しました、じゃ笑えないものね」

 

「ああ」

 

だからザフト兵と地球連合兵は別々の岩塊へ置いている。

 

あとは発信器を拾った友軍が回収してくれるだろう。

 

「なんというか……」

 

「なんだ?」

 

「私たち、宇宙で遭難者を拾って岩に並べて回ってるのよね」

 

「言い方を考えろ」

 

「だって事実じゃない」

 

「救助活動だ」

 

「はいはい、アンノウン救助隊ね♪」

 

「放置すればデブリだ」

 

「ものは言いようねぇ♡」

 

◇ ◇ ◇

 

ZAFTside

 

「またです」

 

「また?」

 

「戦域外で遭難者十二名を発見。全員生存しています」

 

「救助した部隊は?」

 

「不明です」

 

「オーブか?」

 

「識別情報はありません」

 

「……前回と同じか」

 

「はい」

 

◇ ◇ ◇

 

『漂流者を一名発見』

 

「生きてるか?」

 

『生命反応あり。意識はありません』

 

「拾え」

 

『了解』

 

後にこのパイロットがZAFTのコーディネーター『エリス・クロード』でヴェルトに移住希望を出すのは未来の話である。

 

◇ ◇ ◇

 

「キョウスケ、パイロットは救助したわよ」

 

「そうか」

 

「機体が残ってるけど?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「回収する」

 

「即答♡」

 

「この世界の技術も拾うと言っただろう」

 

「救助隊なのに鹵獲までしてる~」

 

「放置すればデブリだ」

 

「ものは言いようねぇ♡」

 

量産型Wに機体をシャトルの近くまで運ばせる。

 

あとは俺が触れればいい。

 

【ストレージ】への収納条件は、対象への接触。

 

幸いなことに、パイロットスーツや手袋越しでも『触れた』と判定される。

 

宇宙空間でいちいち素手になる必要がないのは地味に助かった。

 

機体の装甲へ手を当てる。

 

次の瞬間、目の前にあった機体が消えた。

 

「何度見ても便利よねぇ、それ」

 

「俺もそう思う」

 

「これならいっぱい持って帰れるわね♡」

 

「…………」

 

「どうしたの?」

 

「お前、レモンと同じことを考えてないか?」

 

「失礼ね!」

 

「否定しないのか」

 

「使えるものは使うんでしょ?」

 

「……そうだが」

 

「ほら♡」

 

◇ ◇ ◇

 

どうやら戦闘が激化してきたようだ。要救助者が増えてきている。

 

『隊長。脱出艇へ流れ弾が向かっています』

 

「撃ち落とせ」

 

『しかし、それでは――』

 

「構わん。救助を優先する」

 

シャトルからのビームで流れ弾が消滅している。

 

「救助を再開する」

 

「了解」

 

この救助活動から将来謎の救助チーム「アンノウン」と呼ばれることは俺はまだ知らない。

 

「キョウスケ!ZAFTがニュートロンジャマーとやらを投入してきたようよ!連合側の機体が機動停止してるわ!」

 

「こちらでも確認している! どうやら核分裂反応を阻害する装置らしい! それだけじゃない。通信もレーダーもまともに使えなくなっている!」

 

「こっちは?」

 

「レモンが手を入れた機器は動いている!」

 

「さすがレモン♪」

 

「喜んでる場合か! 周りが全部使えない中で俺たちだけ使えている方がまずい!」

 

「あ」

 

「仕組みを調べられたら面倒だ。退却するぞ!」

 

「了解!」

 

『隊長、最後にもう一名生命反応を確認』

 

「位置は?」

 

『戦域境界付近です』

 

「……拾ってから帰る」

 

「やっぱりそう言うと思った♡」

 

「生きてるんだろう?」

 

「ええ」

 

「なら置いていけん」

 

「どうやら戦艦から放り出された連合のオペレーターの様です」

 

「関係ない!救出する。だが岩塊に置いてくるひまがない。そのままヴェルトに連れて帰る!」

 

「了解」

 

◇ ◇ ◇

連合side

 

「例の所属不明艇は?」

 

「ニュートロンジャマー散布直後に戦域から離脱しました」

 

「機能停止は?」

 

「……確認できませんでした」

 

「何?」

 

「通信も推進も、正常だったようです」

 

「…………」

 

◇ ◇ ◇

キョウスケside

 

「レモン」

 

「なに?」

 

「シャトルの改造は成功だった」

 

「当然でしょう?」

 

「問題もできた」

 

「なに?」

 

「性能が良すぎる」

 

「…………」

 

「なんだ?」

 

「そんな苦情を言われたの初めてだわ」

 

「それと土産だ」

 

「なに?」

 

ドン。

 

「…………」

 

「この世界の機動兵器だ」

 

「キョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「シャトルの件は許す♡」

 

「何をだ」

 

◇ ◇ ◇

 

「……ここは?」

 

「目が覚めたか」

 

「あなたは……」

 

「世界樹でお前を拾った者だ」

 

「世界樹……!」

 

ラ・ミラが勢いよく身体を起こそうとする。

 

「っ……!」

 

「動くな」

 

「戦闘は!? 艦はどうなったんですか!?」

 

「分からん」

 

「分からない?」

 

「俺たちは地球連合軍じゃない」

 

「…………?」

 

「ザフトでもない」

 

「では……オーブ?」

 

「それでもない」

 

「…………」

 

「説明すると長くなる」

 

「所属不明の救助艇……」

 

「?」

 

「最近、戦場で兵士を救助している所属不明艇があるって……」

 

「もう噂になってるのか?」

 

「……まさか、あなたたちが?」

 

「…………」

 

「なんで黙るんですか?」

 

「面倒になりそうだと思ってな」

 

「それで……ここはどこなんですか?」

 

「…………」

 

「また黙った」

 

「説明すると長くなると言っただろう」

 

「それでも聞かないわけにはいきません」

 

「……そうだな」

 

当然の反応だ。

 

目を覚ましたら知らない場所。

 

助けた人間は連合でもザフトでもオーブでもない。

 

これで気にするなという方が無理だろう。

 

「ここはヴェルトだ」

 

「ヴェルト?」

 

「俺たちがそう呼んでいる場所だ」

 

「どこのコロニーですか?」

 

「コロニーじゃない」

 

「では、月面基地?」

 

「違う」

 

「……小惑星?」

 

「惑星だ」

 

「惑星?」

 

「ああ」

 

「…………どこの?」

 

「それを説明すると、さらに長くなる」

 

「…………」

 

「なんだ?」

 

「あなた、さっきからそればかりですね」

 

「事実だからな」

 

「歩けるようになったら見せた方が早い」

 

「何をです?」

 

「外をだ」

 

「……?」

 

◇ ◇ ◇

 

「…………」

 

「これがヴェルトだ」

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「ちょっと待ってください」

 

「待っている」

 

「そういう意味じゃありません!」

 

「現在位置は?」

「地球圏との距離は?」

「どうやって世界樹からここまで?」

「救助艇の航続距離では不可能では?」

「そもそも航行時間が合わない」

 

と矢継ぎ早に質問が飛んできた。

 

「……頭の回転が速いな」

 

「オペレーターですから」

 

「そうか」

 

「それで、説明してください」

 

「…………」

 

「逃げないでください」

 

「逃げてない」

 

「では説明を」

 

「……異世界だ」

 

「はい?」

 

「ここは、お前たちの世界とは別の世界にある」

 

「…………」

 

「…………」

 

「もう一度お願いします」

 

「異世界だ」

 

「聞き間違いじゃなかった……」

 

「身体が治って、C.E.世界の状況を確認できたら帰す」

 

「……いいんですか?」

 

「なぜ駄目なんだ?」

 

「こんな場所を知ってしまった私を……」

 

「だからといって監禁する気はない」

 

「…………」

 

「ただし、こちらの情報を外で話されると困る。そこは相談させてもらう」

 

「分かりました」

 

「それまでは休め」

 

「はい」

 

◇ ◇ ◇

 

療養中で暇なのかラ・ミラ・ルナがシロガネの艦橋に来た。

 

「何か手伝えることはありませんか?」

 

「病人は寝ていろ」

 

「もう治りました」

 

「クスハ」

 

「軽作業くらいなら大丈夫ですよ」

 

「ほら」

 

「…………」

 

「なんで残念そうなんですか?」

 

「人手が増えるのは助かる」

 

「全然そういう顔してませんけど!?」

 

「まあ無理はしないようにな」

 

◇ ◇ ◇

 

「レモン、ジンの方はどうだった?」

 

「当然ながら性能としてはゲシュペンスト以下ね」

 

「……」

 

「でも汎用性としてはゲシュペンストにも負けないわ」

 

「ほう」

 

「元々地球上での戦闘も考えられていたようで拡張性が高いのよ」

「これはゲシュペンストも見習うべきところよ」

 

「今開発中のゲシュペンストⅡ(ツヴァイ)も負けてられないわね」

 

「・・・・・・聞いてないぞ」

 

「今言ったもの」

 

「……いつから作っていた?」

 

「少し前から」

 

「初耳だ」

 

「だから今言ったでしょう?」

 

「そういう意味じゃない」

 

「大丈夫よ。ちゃんと予算は――」

 

「待て」

 

「なに?」

 

「予算?」

 

「…………」

 

「レモン」

 

「ジンの話に戻りましょう♡」

 

「戻すな」

 

(先にミツコに話を通しておいたのか)

 

「それでね。この機体、面白かったから少し弄ってみたの」

 

「少し?」

 

「少しよ?」

 

「…………」

 

「なによ、その目」

 

「シャトルの前例がある」

 

「失礼ね」

 

「原型は残っているんだろうな?」

 

「もちろんよ」

 

「なら見せろ」

 

「いいわよ♪」

 

――格納庫。

 

「…………」

 

「どう?」

 

「レモン」

 

「なに?」

 

「ジンはどこだ?」

 

「目の前にあるでしょう?」

 

「俺が持ってきたジンだ」

 

「だからそれよ?」

 

「…………」

 

「何よ?」

 

「原型の意味を辞書で調べてこい」

 

「それほど変わってないわよ」

 

「それほど変わってないわよ」

 

「エンジンを核融合バッテリーに換装して、Nジャマー環境下でも問題なく稼働できるようにしたでしょ?」

 

「重斬刀はあなたじゃ使いづらいから刀型に再設計。刀身には対ビームコーティングを施してあるから、ビームサーベルとの鍔迫り合いもできるわ」

 

「ビーム射撃の防御や斬り払いも可能。機動力を上げた分、駆動系と関節部は全面的に強化して、アクチュエーターの出力と姿勢制御のレスポンスも上げておいた」

 

「もちろん、ジン本来の換装性と拡張性を殺すようなことはしてないわ。ハードポイントもそのまま残してあるし――」

 

レモンが改造されたジンを見上げる。

 

「あ、色は赤くする?」

 

「しない」

 

「即答ね」

 

「なぜ赤くする必要がある」

 

「あなたの機体だから?」

 

「ジンだぞ」

 

「アルトだって赤いじゃない」

 

「アルトはアルトだ」

 

「似合うと思うんだけどなぁ」

 

「そのままでいい」

 

「じゃあ赤は次の機体ね」

 

「次?」

 

「なんでもないわ♡」

 

「待て」

 

「それよりエクセレン用もあるわよ」

 

「話を逸らすな」

 

「ほら、スナイパーライフル♪」

 

「わぁ♡」

 

「エクセレンも乗るな」

 

「動力が違う」

 

「うん」

 

「駆動系も違う」

 

「うん」

 

「武器も違う」

 

「そうね」

 

「制御系も弄ったな?」

 

「当然」

 

「どこが原型だ」

 

「外装♡」

 

「…………」

 

「あとハードポイント」

 

「それを原型とは言わん、仕方ない、しばらくはあちらの世界で動くときはこれで動こう」

 

◇ ◇ ◇

 

「くっ、プラントも行くとこまで行き始めたな。まさか、全地球規模でニュートロンジャマーを投下させるとは!これはかなりの犠牲者が出ることになる!」

 

「ねえキョウスケ?」

 

「言いたいことはわかるが絶対数が多すぎる。今の我々ではこの規模の犠牲者を助けることができない……」

 

「…………」

 

「世界樹とは違う。漂流者を拾って回れば済む話じゃない」

 

地球全域。

 

その規模でエネルギー供給に異常が起きれば、影響を受けるのは軍だけではない。

 

病院。

 

工場。

 

交通機関。

 

食料生産。

 

水や生活物資の供給。

 

一つが止まれば、それに繋がる別の何かも止まる。

 

何人か、何十人かを救助すればどうにかなる話ではなかった。

 

「……悔しい?」

 

「ああ」

 

「珍しく素直ね」

 

「ここで強がってどうする」

 

「そうね……」

 

エクセレンもそれ以上は何も言わなかった。

 

できないものは、できない。

 

力があるからといって、何でもできるわけじゃない。

 

今のヴェルトには人も足りない。

 

艦も足りない。

 

物資を作る力があったところで、それを地球全域へ届ける手段がない。

 

そもそも俺たちは、この世界では存在すら公にしていない。

 

「……だからオーブとの繋がりが必要なのね」

 

「ああ」

 

エクセレンの言葉に頷く。

 

「俺たちだけで救える人数には限界がある。なら、現地の人間と協力できるようにするしかない」

 

「アンノウンだけじゃ駄目?」

 

「救助隊の真似事ならできる。だが――」

 

眼下に映る地球を見る。

 

「世界一つは救えん」

 

「…………」

 

「少なくとも、今はな」

 

「今は、ね♡」

 

「なんだ?」

 

「ううん。キョウスケらしいなって」

 

「そうか?」

 

「『無理だ』で終わらないもの」

 

「できないなら、できるようにするしかないだろう」

 

「ほら、それ♡」

 

◇ ◇ ◇

 

「キョウスケ、ジンの色どうする?」

 

「もう赤にしといてくれ」

 

◇ ◇ ◇

C.E.70年5月3日

 

ザフトが地球連合軍の月面プトレマイオス基地を目標に侵攻を開始するという情報を聞きつけ、俺たちも月を舞台に戦うことになった。とはいえ今でもあくまで救助が目的だ。

 

ただしそれを邪魔するやつを許さないというだけだ。

 

「エクセレン」

 

『なに?』

 

「もう一度確認する。俺たちは戦争をしに来たんじゃない」

 

『分かってるわよ。救助活動でしょ?』

 

「連合もザフトも関係ない。助けられる人間は助ける」

 

『了解♪』

 

「ただし――」

 

刀の柄を握る。

 

「救助を邪魔する奴は排除する」

 

『撃墜していいの?』

 

「できる限り殺すな」

 

『はいはい。武器とか手足を狙えばいいのね』

 

「頼む」

 

『キョウスケは?』

 

「同じだ」

 

『刀持ってる人が言っても説得力ないわよ?』

 

「…………」

 

『なんで黙るのよ!』

 

敵機がビームライフルを構える。

 

『キョウスケ!』

 

「見えている」

 

放たれた光。

 

機体を捻り――刀を振るう。

 

ビームが弾けた。

 

『…………』

 

まさか本当に防げるとはな。

 

◇ ◇ ◇

 

「ラ・ミラ」

 

「はい?」

 

「オペレーターはできるな?」

 

「……本職ですけど」

 

「なら手伝ってくれ」

 

「いいんですか?」

 

「人手が足りん」

 

「分かりました!」

 

ラ・ミラがシャトルのオペレーター席へ座る。

 

「このシャトルのシステムは?」

 

「レモンが弄った」

 

「……それで分かれと?」

 

「触れば分かる」

 

「無茶言わないでください!」

 

「大丈夫よ♪ 私も最初はそんな感じだったから」

 

「エクセレンさんまで!?」

 

「救助用センサーと通信関係だけ覚えればいい。分からないところは量産型Wに聞け」

 

「量産型Wにも聞けるんですか……」

 

「聞ける」

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「私、もう何に驚けばいいのか分からなくなってきました」

 

『キョウスケさん、方位二八〇に救難信号! 生命反応二!』

 

「了解」

 

『待ってください。方位三一五にも反応!』

 

「どちらを先にする?」

 

『二八〇です! 三一五は救命艇の生命維持装置がまだ正常に作動しています。二八〇のパイロットを優先してください!』

 

「了解した」

 

『量産型W二名を回します。エクセレンさんは右舷方向から接近するザフト機に注意してください』

 

『了解♪』

 

「……」

 

『キョウスケさん?』

 

「いや」

 

『なんですか?』

 

「本職がいると楽だと思ってな」

 

『今までどうやってたんですか!?』

 

『私とキョウスケで適当に♡』

 

『適当!?』

 

「救助できていたから問題ない」

 

『ありますよ!』

 

「この人数で今まで救助活動してたんですか?」

 

「ああ」

 

「もっと大きな艦は?」

 

「ある」

 

「あるんですか!?」

 

「目立つから持ってこなかった」

 

「…………正解だと思います」

 

俺たちは勝つために戦場に来ていない。

 

戦場のあちこちで、「脱出したパイロットを拾う」「救命艇を護衛する」「攻撃されたら無力化する」「また別の救難信号へ向かう」

 

それを繰り返す。

 

◇ ◇ ◇

 

ザフトside

 

「あいつらはどっちの味方なんだ!?」

 

「どちらでもありません!」

 

「じゃあ何なんだ!?」

 

「……救助隊です」

 

「救助隊がなんでジンに乗ってるんだ!?」

 

「謎の部隊なんですよ!通信を送っても無視されるし!」

 

◇ ◇ ◇

キョウスケside

『キョウスケさん!』

 

『ザフトの新型です! キョウスケさんを狙っています!』

 

「新型?」

 

『ジンに似ていますが、推進力が桁違いです!』

 

「……ジンの高機動型か」

 

『来ます!』

 

「分かった。救助対象から引き離す」

 

『キョウスケ?』

 

「俺を狙っているなら都合がいい」

 

「……こいつ」

 

一撃を避ける。

 

追撃。

 

それも避ける。

 

だが、すでに次の攻撃が来ていた。

 

「機体だけじゃないな」

 

『え?』

 

「パイロットが強い」

 

◇ ◇ ◇

???side

 

新型の高機動ジンの中のパイロットは笑みを浮かべながら。

 

「このパイロットなかなかやるな!」

 

「赤いジンもかなり中身をいじってあるようだ」

 

「少し話をしてみたくなった」

 

◇ ◇ ◇

キョウスケside

 

『所属を聞かせてもらいたいものだな』

 

「…………」

 

『聞こえているのだろう?』

 

「ラ・ミラ」

 

『はい』

 

「無視していいんだったな?」

 

『こちらから正体を明かすつもりがないなら、その方がいいですけど……』

 

『なるほど。徹底している』

 

「…………」

 

『ザフトの機体を使いながらザフトに属さず、連合兵を救いながら連合にも属さない』

 

「…………」

 

『そしてこちらの通信にも答えない、か』

 

「よく喋る奴だな」

 

『キョウスケさん! それ送信されてます!』

 

「……そうか」

 

『フッ……』

 

そして俺が耐ビームコーティング刀で攻撃を受けた瞬間。

 

『ほう……』

 

「…………」

 

『その機体。本当にジンなのかね?』

 

「…………」

 

『答える気はない、か』

 

『君は連合の兵士を救った』

 

「ああ」

 

『その直後にはザフト兵を救ったそうだな』

 

「それがどうした」

 

『敵味方の区別すらしないというのかね?』

 

「俺たちにとっては、どちらも敵じゃない」

 

『では、なぜ戦う?』

 

「邪魔をするからだ」

 

『…………』

 

「俺たちは人を助けに来た。それを邪魔するなら退かす。それだけだ」

 

『フ……実に単純だな』

 

「複雑にする必要があるのか?」

 

俺は何とかジンハイマニューバを引き離し戦場にまぎれる。

 

「ラ・ミラ」

 

『はい?』

 

「今の機体のパイロットは分かるか?」

 

『識別できませんでした』

 

「そうか」

 

『気になります?』

 

「ああ」

 

『強かったから?』

 

「それもある」

 

『それも?』

 

「……何か嫌な感じがした」

 

『嫌な感じ?』

 

「うまく言えん」

 

『勘ですか?』

 

「そうなるな」

 

◇ ◇ ◇

 

???side

 

「逃げられたか」

 

赤いジンの反応は、すでに多数の機影の中へ紛れ込んでいた。

 

追えないわけではない。

 

だが、今はそれが任務ではない。

 

「面白い男だ」

 

ザフトのジンを使いながら、ザフトではない。

 

連合兵を救助しながら、連合でもない。

 

そして敵味方を問わず人間を救いながら、その邪魔をする者には容赦なく刃を向ける。

 

「アンノウン……か」

 

最近、兵士たちの間でそう呼ばれ始めた正体不明の救助部隊。

 

「なるほど。確かに何者なのか分からんな」

 

男は小さく笑う。

 

「だが――」

 

赤いジンが消えていった方向へ視線を向ける。

 

「また会うことになりそうだ」

 

◇ ◇ ◇

 

キョウスケside

 

「……くしゅん」

 

『キョウスケ?』

 

「なんだ?」

 

『今くしゃみした?』

 

「したな」

 

『宇宙服の中で?』

 

「悪いか」

 

『誰か噂してたりして♡』

 

「くだらん」

 

『女の人だったりして♪』

 

「それはもっとない」

 

『あら、分からないわよ?』

 

「救助に戻るぞ」

 

『はいはい♡』

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

白翼の機械人形になった転生者は海賊(人助け)をしながら、世界を見守る。(作者:キング・クリムゾン!!)(原作:ONE PIECE)

とんでもなく長い話にする予定なのでどうかよろしくお願いします。


総合評価:577/評価:7.1/連載:20話/更新日時:2026年07月04日(土) 20:44 小説情報

念能力者が行く多重クロス世界(作者:匿名のななし)(原作:色々)

日常と非日常、常識のタガが完全に外れた「なんでもありの無法地帯」。▼それが、俺が揉め事処理屋を営んでいるこのイカれた現代日本だ。


総合評価:513/評価:7.62/連載:17話/更新日時:2026年09月07日(月) 18:00 小説情報

ダンまち世界に闇の福音に転生して人類を導くのは間違っているだろうか(作者:魔法少女(偽))(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

令和を生きたアニメやマンガが好きで多少の武道の心得がある社会人がトラ転して前世の武術やアニメの技術を教えたりして色々やらかしたり助けたりして超有名人になっていく▼※他作品のキャラや武器が登場したりします


総合評価:1313/評価:6.94/連載:14話/更新日時:2026年07月16日(木) 09:45 小説情報

メゾン・ド・チャンイチ、改めヒルズ聖域(作者:久保サカナ)(原作:BLEACH)

▼米花町の葬儀会社に勤めていた男がまさかの多重転生!?▼聖闘士星矢LCのマニゴルドに転生して生のために全力で生きた男(お師匠大好き)の次の転生先は…▼まさかのBLEACHの主人公・黒崎一護だった!!!▼「アテナ様、俺なんかやっちゃいました?」▼「まぁまぁ、セージや仲間達も一緒ですから」▼メゾン・ド・チャンイチ改めヒルズ聖域は今日も賑やかです()▼アニメ見たら…


総合評価:198/評価:8.25/短編:4話/更新日時:2026年09月04日(金) 14:59 小説情報

日向ヒカゲ忍法帖(作者:鍋川太一)(原作:NARUTO)

 NARUTOの世界に転生した、男の物語。木の葉の名門に生まれた彼の運命やいかに?▼ 作者の独自解釈がてんこ盛りです。主人公はいろんな事に疑問を抱いている。苦手な方は戻って下さいな。▼ NARUTOを読んでいないと分かりづらいと思います▼ 続かないかも知れないし続くかもしれない。


総合評価:1191/評価:7.47/連載:22話/更新日時:2026年09月07日(月) 18:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>