※Fantiaにも公開しています。
【続・本編】も先行公開中。気分でその内こちらにも公開予定です。
私は今、動けない状態にある。私のお腹には左右から人の腕が回っていてガッシリと掴まれており、お尻は胡坐の姿勢で座ったその人の上に乗っている状態。私の前にはゲームの画面があって、お腹を抱く手の行く先はコントローラー。
「あの、降りたいです」
「ダメ」
すっと目を細められて端的に断られる。暴れようとしてもこの人の力は強すぎてすぐに無力化されるのはもう分かり切っていた。
背中には柔らかい感触。女性特有のあれが私に押し当たっているのが分かる。私を拘束する腕や座っている足も太過ぎず細すぎず、でもムチっとした肉付きで触れると心地いい。何より、顔を上げると見えるその顔は良すぎる以外の何物でもない。
私がこの人に捕まる様になったのは数日前だけれど、その片鱗はずっと前からあったと思う。あれは確か、初めてこの場所。兄の住んでいる家へ訪れた時の事。
私の兄は今年で高校2年生になる。そして一つ年が違う私は今年から高校デビュー。そこで志望校として選んだのは、住んでいた両親の居る家からは少しだけ距離のある場所だった。それでも自転車で通えるくらいの距離だから良かったんだけど、最終的に結果は不合格。滑り止めのつもりで受けたもう一つの高校が合格となった。でもそこは電車で通う必要のあるそこそこ遠い場所だった。
兄は先に高校デビューをしていて、家を出てアパートで一人暮らしを始めていた。そして私の受かった高校は兄の家からだと徒歩圏内。そこで話し合った結果、都合よく同じアパートの隣室が引っ越しをするという事で私もそこへ住む事になった。両親から離れて隣に兄が居るとはいえ、一人暮らし。正直不安半分、期待半分だった。
入学までに引っ越しも終えて、新しい家で自分だけの世界を手に入れた事に私は浮かれていた。でも隣に兄が居るから、騒いだりはしない。寧ろ少しだらしない面もある兄がちゃんと一年間過ごせていたのか、確認する事にした。
「マナミ、お前に言っておくことがある」
「なになに?」
「俺の家にはそれなりに訪問者が来る。失礼とかはそんなに気にしなくて良いが、余り関わらない方がお前のためだ」
「訪問者?」
兄にはそこまで友達が多いイメージが無い。居るにはいるだろうけど、そんなに沢山遊びに来る想像が出来なかった。だから私は『隣に妹が引っ越してきて頻繁に来るかもしれないのを嫌がっている兄の発言』って感じに勝手な解釈をして、その時は気を使ってあげよう程度に受け止めた。
それから数日して、私と兄の高校生活が始まった。兄にとっては二年目、私にとっては初めての高校。家から遠い場所って事もあって知り合いは誰も居ない状態からのスタートだったけど、幸いにも初日から話せた子が居て一安心。その嬉しさもあってか、私は学校が終わると同時に兄の部屋へ訪問した。
「お
「あ」
「ん? 『お兄』?」
そこで私は兄の部屋でベッドへ横になりながら漫画を読んでいる女の人と邂逅した。長い黒髪。無表情で気怠そうにしながらも見惚れそうな程に整った顔立ち。首にはヘッドホンが掛かっていて、真っ赤な目が部屋に入った私をジッと見つめて来る。その口調は静かで、兄が呆けてる間にベッドから立ち上がったその人が近づいてくる。私よりも大きな身長。私が150㎝ちょいだから、多分170㎝よりあると思う。向かい合うとその人の胸に私の顔が並んで、私はその張りつめたYシャツを見せつけられる。凄く、こっちも大きい。
「お前、妹居たんだ」
「あ、あぁ」
「名前は?」
「白瀬 マナミ、です」
「ふぅーん。その制服のリボン、一年生?」
言われて気付いた。目の前の人の制服は私や兄が通ってる高校のと同じだって。でもリボンの色が違っていて、それが学年を現す様になっている。男女でネクタイとリボンになっていて、1年生から順に黄・緑・青。新入生の私は勿論黄色で、目の前の人は緑色。つまり兄と同じ学年。
「あの……貴女はお兄の、彼女さん、ですか?」
「彼女? こいつの? いや、違うから」
「はぁ~。遅かれ早かれ説明は必要、だよな」
軽い様子で否定する目の前の人を前に、兄が頭を抱えながら話してくれる。
まず目の前に居る人の名前は『黒沢 ジュリ』さん。兄とはクラスメイトであり、付き合っている訳では無いらしい。そんなジュリさんがどうして兄の家でベッドに我が物顔で寛いでいるのか。それは兄の家が学校から近い上に、ゲームや漫画といった娯楽が沢山揃っているから。つまりここを一種の遊び場みたいに使っているって事らしい。
「私以外にも何人かよく来てるから」
「そんなの、ここをたまり場にしてるって事ですよね?」
「まぁ、そういう事」
兄はだらしなくて面倒な事は極端に嫌う。この人達を拒絶して学校で面倒な事にならない様に、全てを流れに任せてしまったのかもしれない。もし嫌だって思いがあるなら、ここは私が代わりに言って追い出すべきなのかも。
「お兄、それで良いの?」
「……」
「もしお兄が嫌なら、私が」
「『ここで時間潰せば?』って言い出したの、お前の兄だから」
「へ?」
「それに、そいつも内心役得だと思ってる。私みたいな美少女が毎日遊びに来る上、ベッドで横になってる間はスカートの中も見放題。でしょ?」
「…………」
「お兄?」
私自身、ビックリするくらい兄へ冷たい視線を向けているのが分かる。もしジュリさんの言葉がその通りなら、そうなるのも仕方ないと思う。兄は一切否定しようともせずに明後日の方向へ視線を向けていて、それが嫌でも図星を突かれた人の様子だと分かってしまう。
「にしても、妹ねぇ」
「な、なんですか?」
ジュリさんが私の周りを歩きながらジロジロと見つめて来る。さっきまで無表情だったその顔に薄い笑みを浮かべながら、面白いものを見つけた人みたいに。
嫌な予感がしながらもその場を逃げ出せずに居た時、突然インターホンの音が部屋に響き渡った。そして間髪入れずに玄関の扉が開いて、二人の女の人が入って来る。それぞれショートカットとツインテールの髪形をしてる人。
「お邪魔~! ん?」
「ちょっと、急に止まんないでよ。って、誰?」
「あぁ、ユナとアンか。お疲れ」
目の前にジュリさん、背後には知らない二人。挟まれた状態で、私に逃げ場は無い。入って来た二人も同じ制服に緑のリボン。つまり二年生。私が固まっている間に私越しでジュリさんが二人へ話しかける。そのまま私そっちのけで会話が続いて、私が兄の妹である事も共有された。
「へぇ~! 妹ちゃんなんだ!」
「あんた、妹なんていたの!?」
一人が一気に近づいて来て顔を覗き込んで来る。一方驚いた様子を見せる人は少し距離を取ってジロジロと見つめて来る。まるで客寄せのパンダになったみたいな気分で、私は少しだけ後退ってしまった。でも挟まれていた私の背中は自然にジュリさんとぶつかってしまって。
「ん? 私と遊びたいの?」
「ち、ちが」
「あ、ジュリちゃんずるい! 私も~!」
「わぷっ!」
背中にジュリさんの体を感じた瞬間、私はごく自然な様子で後ろから抱き締められていた。力は籠っていなくて苦しくもないけど、初対面の人に抱き締められたら抵抗だってする。でも行動を開始するよりも早く、今度は前から抱きしめられた。
「私は紅音 ユナだよ! よろしくね!」
抱き締められながら、自己紹介をされる。ショートカットの赤い髪が私の額を霞める度に、ふわっと爽やかな甘い香りに包まれる。ジュリさんよりも小さくて私よりも大きな身長。ピッタリ間くらいなんだと思う。でもやっぱりYシャツのボタンは苦しそう。私だってそれなりにある筈だけど、二人とも私の比じゃないくらいに大きい。気怠げなジュリさんに比べると人懐っこいというか、多分誰とでもすぐ仲良くなれそうな雰囲気をユナさんは醸し出している。
「あんた達、いつまで団子になってる気?」
「あ、ごめんね。可愛くってつい」
「すんすん、ふぅん」
「あ、あの……」
「匂いを嗅いでんじゃないわよ。あんた、こっちに来なさい」
「っ!」
二人に挟まれていた状態から少しだけ解放されたと思った瞬間、突然ジュリさんが首元に鼻を近づけて匂いを嗅いでくる。必要なら兄の代わりに拒絶しようと思ったのが嘘みたいに、私はそれに対して戸惑う事しか出来なかった。するともう一人の人が私の手を掴んでそこから半ば強引に引っ張り出してくれる。
「あ、ありがとうございます」
「あんた、名前は?」
「白瀬 マナミです」
「マナミね。あたしは桃原 アンよ」
そう言って桃色のツインテールを片方だけ払い上げる様な仕草をしたアンさん。少し勝気というか、目も釣り目でふわっと甘い香りが漂ってくる。二人に比べると凄く親近感が湧くのは同じくらいの身長だからか、同じくらいの大きさだからか……。でもこの人も二年生、なんだよね。
「その制服って事は、今年の一年生よね? これからここに住むわけ?」
「い、いえ。隣に引っ越してきたので」
「隣に? そっか。それじゃあ、これからよろしくね!」
「とりあえず、こっち来て」
「え、あの……」
思わず助けを求めるみたいに兄へ視線を向けたけど、兄はまるで見て見ぬふりをする様に私の視線に気付いて携帯を見始めてしまった。ここから逃げ出す事も出来ず、私はジュリさんに手を引っ張られてベッドの傍にあったゲーム機の前へ。隣に座らされると、反対側にユナさん。その向こうにアンさんが座って、当たり前の様にゲームが起動される。
「お前の兄貴、ゲーム強いから。マナミは?」
「そこそこ、です」
「じゃあ私達の特訓に付き合って!」
「いつかアイツをギャフンと言わせるんだから!」
そして始まったのは大乱闘。緊張と困惑の中で始まった戦いは徐々に盛り上がって、気付いたら私もみんなと一緒に楽しみだしていた。気付いたら時間も忘れる程に。
どれくらい遊んだのか、気付いたら外は夕日が沈む直前だった。最初に帰ろうとしたのはユナさん。それに続く形でジュリさんとアンさんも帰り支度を始める。
「じゃ、また明日。マナミは居る?」
「予定は無い、ですけど」
「なら明日も一緒に遊ぼうよ!」
「打倒、あんたの兄よ!」
そう言って玄関から出て行った三人を見送ってから、私は兄に視線を向ける。無関心を貫こうとしながらもチラチラと視線は感じていた。この前言っていた訪問者は間違いなくあの人達の事。
「お兄」
「何も言うな」
「……因みに、見たのは?」
「ジュリが白。ユナが水玉、アンがピンクだ」
「最低」
「ぐっ!」
ジュリさんの言う通りだった事に思わず言葉が反射的に飛び出してしまった。
悪い人達じゃ無いのは、この短時間でも分かった気がする。余り関わらない方が良いとも言われたけど、遅かれ早かれ出会ってはいた。その上で一緒に遊んで、また約束もしてしまった。これで明日居なかったら、性格が悪いのは私でしかない。それにゲームが上手いお兄に勝ちたい気持ちも、分かるから。
「明日も来るから」
「はぁ、お前もか……」
私は明日もここへ来る事を決めて、自分の部屋へと戻った。
この出会いがある意味、始まりだった。何度も会う内に打ち解けていけば、その分だけ勿論距離も近くなる。けどそれが友達や仲間としての距離とは違うと感じる様になったのはいつだったか。
「ジュリさん」
「ダメ。にがさない」
「むぎゅ!」
「ジュリちゃん! 交代!」
「ユナはさっきやったじゃない! 次はあたしの番よ!」
「えぇ~! 私もマナミちゃん抱っこしたい!」
抱き締められて真面にゲームが進行しない。私もコントローラーは持っているけど操作出来ないし、かといって一方的にやられるかと言えば物理的にジュリさんは二人から妨害されてやっぱりゲームが進行しない。妨害する二人はコントローラーを放っているので、結果時間切れまでキャラは動かなかった。
気に入られたのは分かる。でもこの人達、明らかに距離が近すぎる……っ!