気づいたらなんか横顔がコブダイみたいな男に憑依していた話   作:凍傷(ぜろくろ)

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更なる後悔の時間です。


おまけのお話

 

 破面編突入は防げました。

 ええ、それはまず間違い無く。一時的に、とは付くと思いますが。

 正直に申しますと『生ハリベル』を見たかったという欲望はあります。一護より先にネリエルと接触して懐かれたかったなどという欲望もありますが。

 誰かの犠牲の上に存在する誰かの欲望など、成就しないに越したことなどないのです。

 いえまあてっぺんに愛染が居ないだけで、十刃とか居るってことはまあそのー……ですねぇ?

 いずれ戦うことになろうとも、迎え撃つだけです。

 それよりも今は、とりあえずの後悔を乗り越えたことを喜ぶとしましょう。

 愛染が作った崩玉がどうなっているのかも気になるところですし。

 

「……さて。まずはどうしても訊きたいことがある」

「ふむ。どのようなことでしょう」

 

 現在。現世、空座町の空座第一高等学校。

 そのグラウンドを見渡せるベンチにて。

 隣に座るは日番谷隊長殿です。

 なんだろう。急に黒崎一護を見守ることになった私ですが、ここに日番谷隊長が来るなんて聞いてない。

 やっぱり雛森第四席の様子を見に……?

 

『反膜』(ネガシオン)

「───」

 

 あー。

 

「どさくさ紛れでどいつもこいつも問いただすのを忘れたらしい。で、俺に訊いて来いだと」

「なにも隊長でなくとも」

「隊長以下だとだまくらかして逃げる可能性がある、と十一番隊副隊長が言っていた」

「───」

 

 あんの桃色小娘がァアアッ!!

 おのれ! 更木隊長から逃げる際に散々騙して逃げてきたツケがこんなところで!

 ええいいつか覚えておきなさい副隊長殿! いずれ後悔させて差し上げます!

 

「はぁ……。では説明しますが。……簡単なことですよ。『反膜』。ええ、ネガシオンは『光の中は隔絶された異空間となり、攻撃など外部からの干渉を受け付けない』という、そこに存在する限り、外部からの攻撃を一切受け付けないものです」

「だったら」

「ですが『目に見えている』。私の卍解、鎌鼬劈烏は光の屈折にも作用するものです。目に見えるもの、というのは目に見えている時点で『隔絶など出来ていない』のですよ。ならば簡単です。『見えるなら、斬れる』。光が届いているのですから」

「………」

 

 日番谷隊長が、驚愕と呆れを混ぜたような目で私を見ています。

 仕方がないでしょう、そういう能力なのですから。

 

「おまけに話しておきましょう。日番谷隊長、鎌鼬、という事象をご存知で?」

「あ、ああ……まあ」

「鎌鼬というのは事象のこと、とは現世で言われているものです。それは、妖怪の仕業、とも呼ばれていて、『転ばせて、斬って、癒す』。それを妖が行なっているという伝承があります。なので───斬れた、と思っても血なども出ていない。うすーく皮膚が切れているだけ、というのが大体ですね」

「……。それが?」

「転ばせる。斬る。癒す。それを極限解放して放つこと。それが、鎌鼬劈烏の本領です。言ったでしょう? 見えるのなら斬れます。反膜も見えなければよかったものを、『見えている』のだから『斬れる』のです。そして、虚が開けた空間という事象ごと斬ったので、何事もなかったように閉じました」

「───……、お前っ……!」

「さすがに愛染隊長を殺し切ることは出来ませんでしたがね。自慢の反膜も、虚の軍勢も一斉に斬り尽くされた時は、さすがの彼も目を見開いていましたね。いやはや、実に良い後悔でした」

「……周囲に慕われている奴が裏切る中、お前まで敵じゃなくて、本当に良かったって思ってる」

「『己は強い』と確信している者は、どうやったって驕りが出ます。特に、自慢のものを背にした時ほど『余裕』が『怠惰』に変わるのです。そこを突かれた強者ほど脆いものなどありますまい。なにせ、宝物が壊された子供と然程変わらぬのですから」

「……なるほど。泣くか、余裕も無しに怒るか、か」

 

 そこへ顔面標的固定の黒棺です。

 霊力をこれでもかというほど圧縮密集させて放った九十番台。

 ダメージはありましたが殺し切るには至りませんでした。

 なので山本総隊長です。

 生憎と鎌鼬劈烏は最大出力で放つと、しばらく使えなくなるのです。

 あの時は『斬』(きりつけ)だけで全力ブッパしてしまいましたからね。

 『転』(ころばせ)『癒』(なおし)も無く、斬滅。

 市丸ギンだけ残したものの、あれも位置が近過ぎたら斬滅していましたよ。

 

「今、使えるのか?」

「さすがに無茶をさせすぎました。今は刃禅時以外は休んでもらっていますよ」

「次、使えるとしたら?」

「最大出力でないのなら、今すぐにでも」

「……なぁ、一貫坂」

「なにか?」

「隊ちょ」

「お断りいたします」

「…………はぁ」

 

 隊長になる気はないか? と訊こうとしたことくらい、容易に想像できます。

 愛染隊長、東仙隊長の穴を埋めなければならなかったとしても。

 あ、市丸ギンは現在拘束されているそうです。たぶん原作の愛染と似たような捕まり方。

 

「とりあえず、まあ、あれだ」

「ふむ?」

「更木がお前と戦いたがってたぞ」

「旅に出たとお伝えください」

「自分で言え」

「嫌です」

 

 日番谷隊長と二人、空座高校の制服を着て、のんびりと語らう。

 私のは超特別式オーダーメイドです。

 花山薫の制服だってここまで作るのに苦労しませんよ、きっと。

 

「しかし、日番谷隊長は制服がお似合いですね」

「ガキっぽいって言いてぇのか」

「違います。ご覧ください私の有様を。言いたくもなるでしょう」

「……………………すまん」

 

 相当デカく作ってもらったのにギッチギチですよ。

 チャドだってもっとゆったりだったのに。

 

「ああそういえば。お前、バイト、だったか? 現世の仕事もしてるとか」

「ええ。バイト先の制服もギッチギチです。しかし生活のためなので」

「……そこらへんは支給されないのかよ」

「何事も経験じゃと、総隊長殿が……」

「………」

「………」

 

 悲しい風が吹きました。

 

「ところで、日番谷隊長はどこで私がバイトをしていると?」

「乱菊……松本副隊長からだ」

「ああ……」

 

 バイト先のレストランに、歩く破廉恥と、ハゲと、ナルシストと、入れ墨マユゲが来たのです。

 定期連絡係? としてとかなんとか。

 ようするに私がきちんと生活出来ているとかとか、罰とはいえ心配だから見て来なさい的なアレなアレなんでしょう。

 で、客席に着いてピッチピチな私を見て、もう息を殺して大爆笑ですよ。特に破廉恥とハゲ。

 それを説明すると、日番谷隊長は顔を両手で覆って、ずーん……とめっちゃダウン気味になっておりました。

 

「……で。どうした?」

「客として全力で迎えましたよ。……迷惑客として、ですが」

 

 

───────────────────────────

 

=_=/回想

 

「くっひ……うぶふははははは……!! ちょっ、ありゃっ……! ぶふふはははははは……!! だぁっはっはっはっはっは!!」

「わっ、笑ったら悪いわよっ……ぶふっ! くっふうふふふふ……!! あははははははは……!!」

「慈楼坊先輩……立派っす! ていうか二人とも、いい加減笑うのやめてくれないっすか」

「そうだよ。いくら見た目がアレでも、きちんと罰として働いているか、を確かめに来ているんだからね、僕たちは」

 

 このクソ忙しい昼時にわざわざ現れ、注文もせずにヒソヒソゲラゲラ笑う……なんという厄介客でしょう。

 ……後悔なさい。

 あなたがたにはその席に座って居る間だけ、後悔の時間を差し上げます。

 そう思い、瞬歩でテーブル前へと移動。

 その場限定で霊圧解放をして、総隊長殿が七緒ちゃんにやったアレのように、霊力で圧をかけた。潰し、泡を吹かせるまではいかないけど。

 

いらっしゃいませお客様。ご注文は?

 

 その上で、卍解した劈烏を光の屈折で一人一人にしか見えないようにした上で、その眼前に突き付けた。

 

「ヒエッ……ア、アノ……! コノ、デ、デミオムライス、ッテイウノヲ……! ヨ、ヨッツデ……!」

 

 松本乱菊さん、四人の分まで頼むとは中々の胆力、お見事。

 

ご一緒に黒 棺(くろひつぎ)はいかがですか?

いりませんいらないっすごめんなさい!!

 

 阿散井恋次くんが絶叫まがいに即答した。

 彼の脳裏には、いつかのひしゃげ砕かれた(まと)が映っているのかもしれません。

 

後悔なさいますか?

「「なさいませんっ!!」

 

 班目一角、綾瀬川弓親が即答で返した。

 その時点で霊圧を弱め、普段のレストランの空気を味わわせる。

 

「そうですか。お勤め御苦労様です。ここの支払いは私が持つので、存分に堪能していってください。……ただし」

 

 しかし再び圧を掛け、軽くとある方向を指差し促す。

 その先におわすはG。

 それが、「破道の九十、黒棺」───詠唱破棄で出現した小さな黒棺にて、粉々に霧散した。

 

「他者に迷惑をかけるよう騒ぐのであれば、後悔していただきます」

「「「「絶ッッ対に静かにします!!」」」」

 

 そうして私はその場を離れ、仕事に専念するのでした。

 

───────────────────────────

 

……。

 

「ということがありまして」

「たかが御器噛(ごきかぶ)り相手に九十番台詠唱破棄してんじゃねぇよ」

 

 まったくのツッコミでした。

 

「はぁ……悪かったな。アイツらには俺から言っておく」

「いえいえ、来てくださること自体になんの不満もありませんよ。他者に迷惑をかけないのであれば、誰であれお客様ですから」

「そこんところを言っとくってことだ」

「なるほど」

 

 日番谷隊長が立ち上がり、飲み終えた空き缶を持って歩き出す。

 

「おや、もうお帰りですか?」

「雛森が来るとうるさそうだからな」

 

 言って、溜め息。

 原作のように愛染関連でネガティブガールになっていない雛森第四席は、それはもう元気だ。

 当然、シロちゃんと出会えばお姉ちゃんぶるのは当然でありまして。でもそんな彼女に構われるのもまんざらでもなさそうなのがシロちゃん隊長。

 しかしここでツツくのは野暮ってものです。

 愛とは見守るべきもの。

 下手に誰かの介入があるとひん曲がってしまうのが愛。

 ならば本人同士の生き様に委ねるが一番です。

 

「(しかし九十番台詠唱破棄。まさか成功するとは思いませんでしたけれど、恐らく崩玉が馴染んできた証拠でしょうね)」

 

 霊力が自分の中でぐるぐると渦巻いているのが分かります。

 けれど自分で制御出来なくなるほどではなく、むしろ劈烏とともにゆっくりと、こう……限界値が押し広げられていっているような感覚。

 しかしこう、なんといったらいいやら。強引に霊力を振り絞って枯渇し傷ついた霊脈に、見知らぬ誰かの霊力をどばどばと注ぎ込まれて、馴染む暇もないといえばいいのでしょうか……分かります?

 エネルギッシュなジョースターの血を注げばなじむのに、知らないおっさんのアブラギッシュな血液を流し込まれるディオ・ブランドーの嘆きのような……喩えが最低ですね。献血をなんと心得る。

 

「(ええ、霊力はあります。けれど、まだ馴染んでいないのですよ、日番谷隊長。すぐにでも使えます。扱いに困る霊力ですが───)」

 

 そんなでも、『なおれ、なおれ』って頑張って注いでくれているのです。

 散々と振り回されてきたあの子が、私と劈烏のためにと。

 可愛いものじゃないですか、『馴染まないから要りません』などと言うものが居るなら、私が後悔させて差し上げます。

 ほら、初めてのお弁当をパパに作ってくれて、○○が特に美味しかったぞーうとか言ったら、次からのお弁当がほぼそれになっちゃった~的な状況というか。

 ……最初から注ぐべきものが霊力しかないから当たり前なのですがね。

 こんなのが自分の中にあって、自分の願いを叶え続ける~みたいな万能感を得ちゃったら、そりゃあ愛染もああなっちゃうよって納得してしまう。

 

「(……え? 私ですか? 私は父性ばかりを感じておりますよ)」

 

 そもそもこの子に対する『思い方』が違うのです。

 愛染はこの子を道具としてしか見ず、私は迷子の子供のように受け入れました。

 道具? 願いを叶える万能器? とんでもない、意志もあって話も出来る。ならば、そんな見方など出来るものですか。

 『私がそうであれと願ったから』なんて可能性もありますが、ならば望むところです。

 意志もあって語れるなら、そう願った甲斐があるというもの。

 自分の本心など、自分自身でも案外分からないものですがね。

 

「さて。では私も行きますか。確か今日はスーパーの特売日でしたね」

 

 そして今日もこの世で生きる。

 罰がいつ終わるのかも知らされてはおりませんが、今はのんびりとこの子と、そして劈烏との絆を深めましょう。

 ……あ、浦原さんとは一度会って、卍解が盗まれないようにする相談等をしておいたほうが良いでしょうね。

 

……。

 

 で。

 

「おっしょーさまー!」

「OH……」

 

 スーパーにて、買い物カゴを持った織姫嬢と遭遇しました。

 ああ、ネギだ……! ネギを振り回しておられる……!

 某音楽が、某音楽が脳内に勝手に……!

 

「お、おやおやお嬢さん、お久しぶりです。貴女も買い物を?」

「はいっ、私、一人暮らしですからっ」

「………」

 

 そういうこと、あんまり言わないほうがいいですよ。

 ただでさえ美人さんなんですから、ヨコシマな考えを持ったお方が聞き耳を立てている可能性だって……あ、変態同級生女子とかがあそこにおりますね。後悔なさいますか?

 しかし元気ですね。

 尸魂界編が終わったあたりだと、原作ではどうにもあまり元気がなかったような印象だったのですが。

 もしや私が捕まってまで伝授した殺意が、彼女を後悔の無い生き様へと導いたとでもいうのでしょうか。

 ならばトルネコさんのように捕まった甲斐もあったというもの。

 

 良いことです。

 私、初期あたりのギャグとシリアスの空気が絶妙に混ざったあの頃が、特別に好きなのですよね。

 初期といえば……ゾンビパウダーとか刻魔師麗とかよく読みましたなぁウフフ。そうそう、私、剣牂とかめっちゃ好きだったんです。

 でもさすがに昔すぎてタイトルとキャラの名前くらいしか覚えておりませんね。ドルバッキーとかクインキーがセクシーだったのは覚えているのですが。

 

「強く生きなさい。けれど、挫けそうな時は誰かを頼ることを忘れずに。頼ることは、弱いことではありません。意地になり、手遅れになることが弱いことです。手遅れになる、というのは己が進めようとする努力の手のみでなく、早ければ差し伸べられた手も間に合わなくなる、という意味も含まれます」

「……はい。そして、伸ばしたのに届かなかった手は、その人に後悔を生ませる。ですよね?」

「……なにか、経験が?」

「………………お兄ちゃんが居たんです。もう、会えません」

「……そうですか」

 

 少し、自分のデカい手を恨んだ。

 恨んだけど、その手で彼女の頭を撫でた。

 

「後悔なさい。その後悔は、きっとあなたを前へと進ませる。同時に、その兄への感情を『後悔のみ』にはさせない筈です」

「…………どうして」

「兄を思い出すあなたの笑顔は既に、悲しむ以外のものに溢れています。なにか、きっかけがあったのかと。そして、尸魂界に来たことにも繋がるのやもと思っただけです」

「~……」

 

 撫でた頭からそっと手を離し、そして元気に振る舞う。

 そう、明日を向かんと既に前を向くお方に、いつまでも過去を見ろというのは失礼無礼!

 ならば生命の源、新たなる命の象徴たる本日のメイン・お一人様ワンパックの卵を手に入れるべく走るのです!

 

「さあ、ここより先は戦場! お嬢さん、覚悟はよろしいか!?」

「はい! 戦場なら殺意を!」

なにを殺す気ですか!?

 

 でも既に集まっているマダムたちの目は血走っておいででした。

 なるほど、これは私も覚悟を以って挑まねば後悔しそうです……!

 

「いきますよお嬢さん!」

「おっしょーさま! 織姫です! 井上織姫!」

「なるほど! 私は一貫坂慈楼坊! 故有って現世でモサッと生活しております! では織姫さん!」

「はいお師匠!!」

「存分に後悔させて差し上げなさい!!」

「はいっ! 行きます!」

 

 そして私たちは駆け出しました。

 途中、変態同級生女子も巻き込み、お一人様ワンパックの卵をめぐり。

 数量限定? 知ったことではありません、取れなければ後悔するのみ!

 これよりここに集いし歴戦の猛者たるあなたがたに!

 私たちが勝利を得るまでの間だけ、後悔の時間を差し上げます!!

 

……。

 

 ちょこん。

 

「いえまあ……ワンパックならば、どれだけ戦おうとも戦利品は一つなわけですが」

「えへへへへ、そうですよねー」

 

 我々の手には卵ひとパックが入った買い物袋が下げられております。

 変態同級生女子も、彼女は彼女で卵が欲しかったようで、手に入れてからはフツーに帰っていきました。

 

「織姫嬢、お家は何処に? 送っていきますよ、女性の一人歩きは危険な時間です」

「え? あっ、大丈夫ですっ、こう見えて結構強いんですからっ」

「ふむ? 相手が虚でもですか?」

「だめっぽそうだったら逃げます!」

「よろしい」

 

 くすくす笑いつつ、歩く。

 歩いて歩いて、結局家まで送り、私も帰りました。

 ……しかし、はて。

 変態同級生女子の名は、なんでしたでしょうか。

 などと思いながら、夕暮れの土手を巨漢がゆく。

 さて、今日の夕飯はなににしましょう。

 最近、前世でハマっていた、わかめとニラと溶き卵の味噌汁に再びハマっているのですよね。

 あれは良いものです。

 

「む? 来ますね」

 

 そう思った時には後方から足音。

 ケナゲにこちらに向かってぱたぱたと走ってくるのは、「せんぱーい!」……第四席でございます。

 

「おや、そちらの買い物も御済みで?」

「はいっ! 今日は隣町でセールをやっていたので」

「それはよい買い物をしましたね」

 

 べつに一緒に住んでいるわけではありません。

 でも何故か同じアパートの隣同士です。

 私は用意されていた場所に向かっただけなのですけどね、同じ部屋ではなかっただけ、ヨシとしましょう。でないと日番谷隊長が怖いので。

 

「そちらの方でも卵は買えましたか?」

「あ、いいえ。向こうでは長ネギのタイムセールでした。一本何円、何本まで、といった感じで」

「なるほど。では卵と長ネギのトレードをいたしませんか?」

「えへへへへ、先輩ならそう言ってくれると思っていました」

 

 私を見上げ、ほにゃりとした気の抜けた笑顔を向けてくる後輩女子。

 ……これで付き合ったりとかそういう浮ついた話が一切出てこないのです。

 ブリーチがラブコメ作品だったら『ウッソだろお前……!』とか、浅野啓吾氏に言われてしまいそうです。

 

 ……ああそうですそうです、変態同級生女子の名前。

 本匠千鶴、でしたっけね。

 

 そんなわけで、卵数個とネギ数本をトレードしつつ、今日も平和な空座町でこんな日常を満喫するのでした。

 

「───雛森さん」

「はい、先輩」

 

 まあ、平和な限りは、ですが。

 

「虚です。少し離れていますが───」

「ええ。黒崎さんの反応は───動きましたね」

「傍まで見に行きますか?」

「一応、それが罰なので。雛森さん、義骸とともに私の買い物袋をアパートまで持っていってくださいますか? 合い鍵も渡しますので」

「えっ、アッ、ハ───、!?

「では失礼」

 

 義骸を脱いで、すぐに行動を開始する。

 といっても現場に直行し、黒崎一護の行動を見守るだけですが。

 

「あ、合い鍵……! 先輩の部屋……あ、あぃっ……あいしゃっしゃ……!」

「? あの」

シッ! ……静かに」

「は、はい……」

 

 雛森第四席が私の義骸に圧を掛け、妄想に集中していることなど露知らず。

 私は黒崎サンの行動を、罰の内容通り見守るのでした。

 

 

 

 ……その日、尸魂界に住んでいた日以来、私物が無くなった気がしました。

 

 気の所為ですかね。

 

 何が無くなったかまでは上手く思い出せないのですが。

 





 登場人物紹介という名の蛇足

◆一貫坂慈楼坊-いっかんざか じろうぼう
巨漢。
原作では髪のセットにうるさそうなピッチリした男。
丁寧な口調でやることがセコいものの、戦場では別に間違ってないから性質が悪い。
今作では周囲の覚えがとても良い、サイッコーのアニキらしい。
ただし恋愛対象としては絶対ないそうな。

◆劈烏-つんざきがらす
劈く、という文字を忘れると、劈拳(へきけん)の書き方を忘れる。
と、どうでもいいことはさておき。
慈楼坊の斬魄刀。
解放すると、二本刃の手裏剣のようなものが空を舞う。
今作では慈楼坊の愛によって覚醒、結構な速さで身も心も()け、戦って屈服ではなく感情で屈服した。
言ってしまえば、教えなかっただけで霊術院卒業前から卍解は使えた。
具象化した姿は黒髪で枝毛が多めな無口な女性。
慈楼坊の前世の『こんな子がいいな』を魂の形から詰め込まれたので、彼の好みのドストライク。綺麗より可愛い系。胸は大きい。
ちょっぴり嫉妬深いけれど、後でぶちぶち言うタイプではなく、構って欲しいと自ら寄っていく、ヤンデレにはならないタイプ。
なお、他の女性ばかり見ていると頬を膨らませ嫉妬し、始解などを受け入れない時があり、
羽搏(はばた)きなさい! つんざ《ゾブシャア!》うぎゃああああっ!?」
剣先を押し込んで解放する、なんて仕様のため、左手の掌を斬魄刀が貫通するなんて事件が起きたこともある。後悔なさい。
そんな時は、目を閉じ頬を膨らませ、ぷいすと知らん顔する黒髪枝毛の女性の幻影が背後に映るそうな。

◆石田雨竜-いしだうりゅう
魂の宿敵。
原作では彼にやられた所為で死神としての力を失ったので、尸魂界編が終わるまでは相当に警戒していた。
終わった今ではなんやかんや交流があり、石田自身は経緯を織姫から聞いているため、混乱しながらも当時はマユリ様を瞬殺。
尸魂界編で大活躍するに到る。
終わった今では慈楼坊は死神の中でも別、という意識を持とうとしているため、偏見を少しずつ削っているところ。

◆井上織姫-いのうえおりひめ
弟子枠。
殺意や戦い方についてをご教授され、今ではすっかり懐いている。
戦場での立ち回りや心の持ち様を教えてもらったため、原作より精神的疲労は相当低い。
攻撃の立ち回りも練習し始めたはいいものの、椿鬼くんの負担はめっちゃ増えた。
椿鬼くんが掌恐怖症になりつつある。

◆黒崎一護-くぅろさきいぃちぐぉ(グランドフィッシャー風)
全然出てこない主人公が居るらしい。
活躍はそこまで変わっていないものの、仲間と話す機会があって、『卍解して俺と戦え』は言わなかった模様。
白哉を瞬殺することで、いろいろと傷は浅かった。

◆藍染惣右介-こんさくのふびんわく
いいとこ無しで力でねじ伏せられた。
でもこの人も大概力技ばっかりだったのでいいと思ってる。
崩玉は私のものだと思っていたのに全然そんなことなく、崩玉自身は『いつでもどこでも斬魄刀に愛を捧げる巨漢の意志』を感じ取ってから、傍に来てくれたならその人の傍に居ようと考えていた。
つまり最初から愛染は器ではなかった。
なので手に入れた時点で急速な弱体化が始まっていた。
その影響は周囲にも及んでいたため、慈楼坊の敵=自分の敵、となっていた。

◆崩玉-ほうぎょく
自分で自分の境界を破壊して、意思を持つに至った崩玉ちゃん。
きっかけはどこぞの憑依コブダイ。
いつぞやルキアと曲がり角で激突したことがあり、吹き飛ぶルキアを見て『やべぇ兄様に殺される!』とマジの本気で焦る混乱の中、硝眩刀が発動。光の速さで助けねばという意志が光を届けた。
その時はまだ知らなかった『斬』が魂魄と融合していた崩玉に接触し、劈烏が慈楼坊から溢れんばかりに受け取っていた愛を受け取る。
あとはひたすらに次の接触を待っていた。
のちに『愛染の崩玉』を吸収、慈楼坊の魂魄に根を生やす。
慈楼坊自身はどんどん勝手に霊力を上げられているけど、平和な日常以外に興味がないので実際平和。
今日も自宅でお味噌汁を作り、この美味しさを与えられないものかと崩玉の意志の具象化を頑張っている。

◆雛森桃-やっかいふぁん
助けられてから感謝が憧れへ、憧れが推し活へと到った、どうしてこうなった枠。
最初は熱量こそ阿散井恋次に負けていたものの、誰からも尊敬され、感謝される慈楼坊先輩の姿に、推しへの想いが膨らんでいった。
努力の果てに七番隊第四席に到るも、何故かその席こそが自分の居場所では? という謎の安心感を憶え、そこから先を目指すでもなく今は落ち着いている。
時折お世話と称しては彼のサンクチュアリへと侵入し、要らなそうな私物を拝借しては保存して、お宝にしている。
「あの。最近の雛森くんって一貫坂先輩とよく一緒に居るけど。も、もしかしてその、好きだったり?」
と、例えば吉良イヅルくんが探りを入れれば、
「ぁ解釈違いだから。勘違いしないでね」
「あ、ハイ」
と、スンと冷たい眼差しで見られるほど、恋愛感情は無い。
なお。『推し』と『恋』を間違えた人が、相手から好意を伝えられると、解釈違いのため思いが冷める。これが属に言うカエル化現象である。(*神冥書房刊:『恋と推し心を間違えると誰も幸せにならない』より)

◆市丸ギン-いちまるぎん
一応乱菊と腹を割った話もして、仲直りは出来たものの、裏切った事実は変わらんので拘束されている。
山本総隊長は厳しいのだ。

◆鎌鼬劈烏-れんゆうつんざきがらす
卍解。
刀が粒子状の刃となり、接触すると真空の刃を生み出す。
密集させると光を吸収して輝き、空気を切ることでも巨大な真空刃を放つことも可能。
粒子であるため、転ばせる棒、斬る刀、癒す光、に形を変えることが出来る。
癒しの場合、当然ながら真空刃は出ない。
光を吸収すると、『見えるもの』を問答無用で斬る刃に変質。
なにも見えない闇の中は斬れない。
なお。癒す光では、その刃自身が斬ったものしか癒せないため、案外意味がない。
が、志波空鶴の腕で試したところ、腕の先の薄皮を斬ったのち、癒すと右腕が完璧に生えた。驚きとともに何故か殴られた。右拳で。
きっとリハビリだったのでしょう。後悔なさい。

◆鎌鼬-かまいたち
最強の飛び道具使いの称号、または日本の妖怪。
転ばせて、斬って、癒す鎌鼬は地方に寄る伝承。
一部地域ではそうでないものもある。
印象強いのは『うしおととら』の妖怪。


 さ、これにて後悔の時間は終わりです。
 どうです? こんな蛇足を見て後悔してしまったのではありませんか?
 後悔も無しに楽しめたのならとても素晴らしいことです。
 ではまた、どこかの後悔の場にてお会いしましょう。
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黄金の魔法使いに勝つまで(作者:MトK)(原作:葬送のフリーレン)

『葬送のフリーレン』の世界に転生した少女イリゼは、ある日「生きる魔導書」ゼーリエの存在を知り、無謀にも彼女へ勝つことを目標にする。▼だが、長年魔法を学んで挑んでも、結果は惨敗。▼死の先で再び生まれ変わった彼女は、自分の魂に「前世の記憶と魔法を刻む固有魔法」が宿っていることに気づく。▼人間として、エルフとして、時には魔族として。▼何度も転生し、何度も敗北しなが…


総合評価:1133/評価:8.5/短編:1話/更新日時:2026年04月29日(水) 14:52 小説情報


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