我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
六番隊隊長にして朽木家当主。一護の処刑に反対しながらも、自らが背負う掟との間で苦しんでいる。
市丸ギン
三番隊隊長。酒席で白哉の相手をすることになり、普段とは異なる当主の姿を目撃する。
緋山雷太
五番隊三席。旅禍を穏便に確保するため、残留霊圧を追って行動中。
白鷹光四郎
六番隊席官。主である朽木家と旅禍との関係を知らないまま、捜索へ加わっている。
緋山染華
十一番隊十席。今回も危険な戦闘には可能な限り関わりたくない。
雛森桃
五番隊副隊長。鬼道による探知役として、雷太たちに同行している。
「……えらいことになってまあ……」
こちらは味もよく分からぬまま口を湿らせるばかりだ。
飲み比べに誘われた覚えはない。
しかし、この調子では先に潰れる方が幸せなのではないか。
「……卿は、真面目にやっておるのか?」
「いやあ……隊長同士で真昼間から酒盛りを真面目にするいうんは、ボクも生まれてこの方経験がありませんで……」
真面目な酒盛り。難しい注文である。
背筋を伸ばして飲めばよいのか、酔わずに最後まで付き合えばよいのか。
どちらにせよ、言い出した本人の髪は乱れ、目は据わっている。朽木家の礼法に詳しくない市丸にも、これが正装でないことくらいは分かる。
「……一護殿の牢の前を、追い出されてしまったのでな。当主でありながら、せめてここで一人盃を煽るくらいしかできん」
「そんなやさぐれんと、もういっそ助命嘆願に四十六室へ直接乗り込んだらどうなんです?」
「それは……掟によってできぬ。中央四十六室の決定に抗うことは許されん」
「ほな、一体どないしはるんです?」
徳利を持つ手も止まる。どうせ返事は、もう一杯寄越せ、あたりだろう。
飲みたい理由ならすでに十分すぎるほど聞かされている。そろそろ水に替えても気づかれないのでは、と市丸には少々不敬な考えも浮かぶ。
「――掟には、『四十六室に逆らってはならぬ』と記されてはおるが……『四十六室を皆殺しにしてはならぬ』とは、一言も書いておらん……」
……水では足りない。桶ごと頭から浴びせるべきか。
「…………朽木隊長、それは掟にわざわざ書くまでもない常識中の常識ちゃいますん?」
返事がない。冗談なら笑ってほしいし、冗談でないなら今すぐ撤回してほしい。
掟を守ろうという姿勢は立派である。
だが、逆らう相手を先に消しておけば違反にならない、という読み方をされるとは、ご先祖様も想定していなかったに違いない。
明日から朽木家の家訓には、飲酒後に解釈し直すことを禁ずる、と書き添える必要がある。もちろん、その一文にまで抜け道を探されなければの話だが。
「……その話、ほかの人にはせん方がええですよ」
「卿にも、今まで話したことはない」
「初めて聞かせてもろて光栄ですわ。できれば最後にしてもろて」
盃から手が離れる。ようやく寝る気になったかと安堵しかける市丸の前で、今度は畳に影が揺れる。
「おっとっと……どこへ行かはるんです?」
「旅禍を探す。……彼らは、一護殿が現世で命を預け合った無二の友人たちであろう。あたら若き命を、露と消えさせるわけにはいかん……。私が保護せねば……うっ……」
「ほら見い! 飲み過ぎですやん! ここ一週間以上、ろくに一睡もしておられんようですし……。らしくありまへんなあ、普段の冷徹な朽木隊長はどこ行ったんです?」
牢へ行けば一護がいる。悪態でも何でも、返事がある。
声を聞けない場所へ戻されて、酒など旨いはずもなかった。
「…………私の誇りは……ようやく手に入れたのだ……。私の……誇りを…………」
失ってから立派な当主に戻れても、何になる。
「ああもう! ほんま見てられませんな。ボクの肩につかまりよし、朽木隊長。……ええですわ、ボクも付き合います」
「……すまぬ」
「せやけど、行き先は旅禍のとこですからね。四十六室の方へ曲がったら引き返しますよ」
念を押しておくに越したことはない。
◇◇
「捉えたか? 雛森」
出口から届く明るさが、染華には恋しい。
あそこを出て隊舎へ帰り、布団へ潜れたらどれほど幸せか。
願いを叶えてくれる神様がいるなら、今こそ出番である。
できれば息子の目を盗んで連れ出してほしい。
「はい!! 二手に分かれています……! 方角と霊子座標を照合すると……これは……『朽木家の別邸』と『瀞霊廷内の志波家本邸』です!!」
「…………これは……」
若奥様なら、確かにそこへ入れる。
だが、報告書へこの名を書けば、誰へ疑いが向く。
白哉の補佐として来たはずが、主家の門を捜査のために叩く羽目になるとは。
「え?? なんでそんなピンポイントに大貴族の屋敷ばかりなの??」
「簡単なことだ。この旅禍騒ぎは、現世のガキ共が主犯じゃねえ。元から瀞霊廷内部で燻っていた『貴族同士の内紛』だったってことだ。朽木家と志波家の連合軍対、その他の勢力って構図だな」
「あの厳格な白哉様が……そんな法を無視した馬鹿な真似を……」
残念ながら、その厳格な当主は、つい先ほど掟に書かれていない皆殺しの可能性を検討していた。
光四郎の信頼を裏切るようで申し訳ないが、世の中には部下が知らずにいた方が幸せな酒席もあるのだ。
「ねえ、大貴族の権力争いなんて巻き込まれたら命がいくつあっても足りないわよ!? どうするの!? 私としてはすぐに隊舎へ逃げ帰って――」
「二手に分かれよう。とにかく、背後にどんな大貴族の言い訳があろうと、表向き暴れて瀞霊廷の秩序を乱しているのは旅禍の連中だ。コイツらをとりあえず形だけでも取り押さえる」
最後まで言わせてもらえない。
染華にとって、自分の息子ほど話し合いに向かない相手はいない。
母の無事な帰還より、知らない子供を迎えに行く方が大事だというのか。
小さい頃は手を引いて家へ連れ帰る側だったのに、今では逃げ道を塞がれる側である。
あまり立派に育てすぎるのも考えものだ。
「若旦那様のことはどうするのだ?」
「今あいつらの仲間が外で派手に暴れ回る方が、そいつにとっても一番危険だろ? 処刑期日が前倒しになりかねねえ。最悪、朽木ルキアたちと一緒に現世へ逃がしてやりゃあいいんだ。隊長たちが裏で何人も協力してるんだから、それくらいの手回しはできる。……本当に困るのは、あいつらが武力で強行突破して奪還に成功しちまった場合だ。護廷十三隊のメンツが潰れて、総隊長が本気で殲滅に乗り出してくるぞ」
「なるほど……その最悪を防ぐためにも、今は我らの手で穏便に抑え込むと。だが相手はあの狭山四席を仕留めた手練れだ。手強いぞ」
「ほらぁ! 光四郎さんもそう言ってるじゃない!」
「……染華さん。ですから、まずは説得を」
「説得してる途中で斬られたらどうするのよ!」
実に現実的な心配である。交渉相手が刀を持っている以上、話の途中ですが失礼します、と斬りかかられる可能性は消せない。
まして相手は、隊長格を倒すために現世で修行を積んできた連中だ。
染華の臆病を笑う前に、自分なら何番目に門をくぐるか、諸君も考えてみてほしい。
「俺と雛森は志波家へ向かう。光四郎と母さんは朽木家の別邸へ行け。光四郎なら、ルキアの野郎も少しは話を聞くだろうし説得もしやすいはずだ」
雛森とは離れない。その条件は変えられない。藍染に何を尋ねられても、命令通りそばにいたと答えられるようにしておく。
「私、どちらへ行きたいか聞かれていないんだけど」
「隊舎だろ」
「分かってるなら聞いてくれてもいいじゃない!」
母親への理解は十分である。理解した上で希望を通さないあたり、幼い頃から身近な大人をよく観察して育った息子らしい。
「ああ、任せてくれ! ……せ、染華さん……! 一緒に参りましょう……!!」
二人で出かける機会など、何度願ったか知れない。
もっとも、行き先に卍解を使う敵が待っている予定はなかった。
花を持って行くわけにもいかず、茶を奢るにもまず生還せねばならない。
百五十年待った男に、運命はいささか乱暴な待ち合わせ場所を用意する。
「痛いのも怖いのも絶対に嫌なのに…………」
差し伸べられた手を取れば、そのまま屋敷まで連れていかれる。
染華には、光四郎の親切まで恐ろしい。いつものお茶への誘いなら喜んでついていくのに、なぜ今日は刀の届く場所へ招待するのか。
「俺が、お守りします」
「光四郎さんまで怪我したら、私が運ぶのよ?」
「……それは、ないように努めます」
力強く言い切りたいところで、努める、に着地。保証書を出せない苦しさが光四郎にもある。先ほどから全員、説得する予定で話を進めているのに、身内の一人さえ説得できていない。どうか屋敷の方ではうまくいってほしいものだ。
「よし……行くぞ!!」
雷太の号令に、染華の返事はない。とうとう最後まで賛成を求められなかった。こんなことなら、せめて朝のせんべいをもう一枚食べておけばよかったと、母の未練は実に切実である。
■ 朽木白哉にとっての「誇り」
白哉が口にする「誇り」は、単なる朽木家当主としての名誉だけを意味しない。
彼は貴族としての責務、亡き妻との約束、そして現在自らが家族として認めた者たちを、いずれも自らの誇りとして扱っている。
■ 朽木家別邸
瀞霊廷内部に存在する朽木家所有の施設。
朽木家独自の結界・警備体系を持つため、護廷十三隊の一般隊士であっても自由に出入りできる場所ではない。
■ 志波家本邸
瀞霊廷に存在する志波家の本拠。
本作における志波家は五大貴族の一角であり、志波海燕が当主を務める。
黒崎一護も志波一心の血を引くため、志波家とは血縁上の繋がりを持つ。
■ 大貴族と護廷十三隊
尸魂界の大貴族は大きな政治的・社会的影響力を持つが、護廷十三隊とは完全な上下関係にあるわけではない。
そのため、大貴族が独自に動き始めた場合、それが家単位の判断なのか、護廷十三隊内部の命令なのか、外部からは判別しづらい場合がある。