クリリンに憑依してしまった一般人のお話。

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全力

 目覚めると世界が変わっていた。

 

世界だけでなく、自分自身が別人になっていた。

視界に入るのは見慣れない小さな手。この違和感は、夢の残滓ではなく、どうやら現実らしい。

 

そして気づく。オレはクリリンになっていた。

 

ここは亀仙人の家。時代は、悟空とクリリンが修行を始めたばかりの頃。

過労で倒れたらしいクリリンが目覚めた時、何故かオレの意識が入り込んだのだ。

 

最初は興奮した。

 

オレはこの世界の未来の知識を持っている。

効率的に鍛えれば、悟空にも追いつき、もしかしたら、最強になれるかもしれない。

 

そう思ったのは、ほんの数時間だけだった。

 

亀仙流の修行は、想像を遥かに超えていた。

牛乳配達や畑耕し、言葉で聞くだけではとても地味だ。

だが実際にやってみると、常識外れの運動量である。

 

普通なら、すぐに体を壊し、下手すれば一生リハビリ生活だ。

その無茶な運動量にも、このクリリンの身体は耐える。

 

だが、オレの精神が追いつかない。

 

それはそうだろう。

 

一般的な筋トレですら継続には忍耐が必要だ。

亀仙流の修行は、ガチのボディビルダーのトレーニングや、プロのアスリートの運動量を遥かに凌駕している。息が切れ、視界が揺れ、心が折れる。

 

悟空ですら、息をあらげ必死に走っている。

だが折れない。身体が強いだけじゃない。心が強い。

 

「クリリンって……こんな修行をこなしてたのか…」

 

転生したからといって、簡単に最強になれるわけじゃない。

むしろ、クリリンという存在の凄さを思い知らされただけだった。

 

 

 オレは、原作のクリリンよりも強くなれないだろう。

早々に、それを悟ってしまった。だが修行を投げることはしたくない。

少なくとも、破門されるまでは。

 

とにかく、自分の精神の限り修行は続ける。

この身体は簡単には壊れない。あとはオレの精神次第だ。

 

だが、どうしても辛い。

 

高重量負荷のランニング中、どうしても途中で歩いてしまう。

足が止まる。呼吸が荒れ、胸が焼けるように痛み、視界が揺れる。

 

階段を駆け上がる時も同じだ。

悟空は止まらず駆け上がる。

オレは途中で足が止まり、膝が笑い、歩いてしまう。

それでも、なんと登りきる。

時間が掛かる、悟空に大差をつけられる、だが最後までやる。

 

悟空には申し訳ないと思う。

この世界では、クリリンは、悟空の親友になれないかもしれない。

あいつの隣に立つには、精神が弱すぎる。その事実が胸に刺さる。

 

それでもオレは、オレの限界を目指すしかなかった。

原作のクリリンより弱いかもしれない。悟空の親友になれないかもしれない。

それでも、オレは走る。歩いてしまっても、また走る。階段で足が止まっても、また登る。

 

オレはオレの限界を目指す。

それだけが、この世界での唯一の道だった。

 

 

 就寝時、ふと先のことを考える。

布団に横になり、疲れ切った身体が沈んでいくと、未来のことが頭に浮かんでしまう。

 

「オレ、天下一武道会の予選、突破できないんじゃないか……」

 

その考えが胸に重くのしかかる。

 

「チャオズ……あいつと戦っても勝てる気がしないな……」

 

このままじゃ、チャオズどころか、予選でも勝てるか分からない。

そしてもっと先の事を考える。

 

「オレのせいで悟空がスーパーサイヤ人になれなかったらどうするんだ……」

 

考えれば考えるほど、胸が苦しくなる。

だが、疲れ切った身体は次第に眠りに落ちる。

 

 

 昼の休憩時間、ハンモックで悟空は気持ちよさそうに昼寝をしていた。

一方でオレ、クリリンは、陰鬱な気配をまとって座り込んでいた。

 

そんなオレの様子を見て、亀仙人がゆっくりと近づき問いかける。

 

「クリリンよ、おぬし、何を見ておる」

 

突然の問いに、オレは驚いて喉を詰まらせた。

 

「え……?」

 

オレはゆっくりと口を開いた。

 

「はい……私は……不甲斐ない自分がどうすべきなのかを見失っています……」

 

亀仙人は、オレの心を見透かすように言った。

 

「何を焦っておる?悟空の背中か?それとも……もっと別の何か……」

 

オレは黙り込んだ。

沈黙の中で、亀仙人は静かに言った。

 

「おぬしはようやっとる。焦るでない。一歩ずつ、いや、半歩ずつでいい。我道を行くがよい」

 

その言葉は、胸の奥にゆっくりと染み込んでいった。

焦りで固まっていた心が、少しだけほぐれていく。

 

「は、はい……ありがとうございます。武天老師様にそう言っていただけると……救われます」

 

声が震えていた。

だが、亀仙人はただ頷いた。

その仕草だけで、オレは少しだけ呼吸が楽になった。

 

悟空には追いつけない。原作のクリリンよりも弱い。

 

それでも。

 

オレは改めて、自分の限界を超えることに覚悟を決めた。

半歩ずつでもいい。歩いてしまっても、また走ればいい。

止まってしまっても、また進めばいい。

 

オレはオレの道を行く。今は、それしかできないのだから。

 

 天下一武道会の日が訪れた。

 

悟空はいつものように元気で、試合に挑むことをとても楽しみにしている。

その横でオレは、胸の奥が重く沈んでいた。

 

亀仙流の道着が渡された。

 

「オレに、これを着る資格はあるのだろうか……」

 

亀仙人は、オレの心を見透かしたように言った。

 

「おぬしは投げ出さず、休まず今日まで修行を続けてきた。もちろん着る資格はある」

 

その言葉は、胸の奥に静かに染み込んだ。

自分では情けないと思っていた日々が、認められた気がした。

 

そして、なんとか予選も突破することができた。

原作通り、多林寺の先輩にも勝てた。

 

はっきり言ってオレは、原作のクリリンよりも弱い。

精神力も劣るし、悟空との距離は広がるばかりだ。

だが、拙いながらも亀仙流の修行を継続したことで、確実に強くはなっていた。

一歩ずつ、いや半歩ずつでも進んできた結果が、ここにあった。

 

 

 天下一武道会の本戦。

 

観客の歓声が地鳴りのように響き、会場の熱気が肌にまとわりつく。

その中でオレは、震える指で道着を整えながら、次の対戦相手を見つめていた。

 

対戦相手のバクテリアン。

 

原作ほど圧倒はできなかった。

あの巨体は、対峙すれば想像以上に威圧的で気圧される。

 

だが、なんとか勝つことができた。

勝てたという事実が、胸の奥に小さな自信を灯した。

巨体を倒したという経験は、オレにとって大きかった。

 

そして次はジャッキー・チュン。

オレは彼が亀仙人であることを知っている。

知っているからこそ、怖気づくわけにはいかない。

師匠に、今のオレの全力を見てもらう覚悟を決める。

 

試合開始の合図、オレは全力で踏み込んだ。

 

攻撃が当たらない。

拳を打っても、蹴りを放っても、ジャッキー・チュンは風のように動き、影のように消える。

 

そして攻撃が速すぎる。

攻撃の瞬間すら分からず、もう打撃を受けている。

何をどうしていいのかがまるでわからない。

戦いになっていない。ただ翻弄されているだけだった。

 

だが、ジャッキーは、まるで稽古をつけるように相手をしてくれた。

本気で潰すのではなく、オレの動きを見て、改善点を示すように攻撃を返してくる。

その一撃一撃が、まるで「ここが甘い」「この動きは良い」と教えてくれているようだった。

 

オレにとっては、とても有意義な試合となった。

自分の弱さを痛感しながらも、確かに学びがあった。

亀仙流の修行を続けてきたからこそ、理解できる技の意味があった。

 

そして、完膚なきまでに完敗した。

 

だが、不思議と絶望はなかった。

自分が弱いことを受け入れながら、それでも前に進める気がした。

 

 

 大会は原作通りに終わった。

あの熱気と歓声の渦の中で戦ったという事実が、幻のように思える。

 

高級レストランで食事をいただきながら、オレはようやく肩の力を抜くことができた。

本戦へ出場できたこと、勝利もできたこと、それらが少し心を軽くしてくれた。

 

 

 悟空は、亀仙人のもとでの修行を修了し、旅立った。

 

その後の悟空のドラゴンボール集めにはオレは参加できなかった。

悟空が来た時、オレは日々の修行で疲れ果て、眠りこけていた。

悟空もそんなオレを無理やり叩き起こしたりはせず、そのまま旅立って行った。

そして、しばらくして後に、ヤムチャが亀仙流に弟子入りを果たす。

 

修行の日々は相変わらずきつい。慣れるなどということはない。

毎日が苦しい。休みたい。精神が限界を訴えてくる。

 

そんな中、ヤムチャは凄かった。

ヘトヘトになりながらも、最初からついてくる。

止まらず走る。階段を駆け上がる。

 

もう既にオレよりも上だ。

オレの方が兄弟子なのに、すぐに追い抜かれる。

その事実が胸に刺さる。かなり悔しい。

 

ヤムチャの加入は、オレにとっては良い相乗効果があったようだ。

オレも負けられないという思いで、なんとか喰らいつく。

今度は、ヤムチャの背中がオレを引っ張ってくれていた。

 

 

 次の天下一武道会の日時が迫ってきた。

 

三年という時間は長いようで短く、気づけばまたあの舞台に立つ日が近づいていた。

オレも、前よりは修行をこなせるようになっていた。

それでも、原作のクリリンよりはだいぶ弱いだろう。その事実は、胸の奥にずっと居座り続けている。

 

そんな中でオレは、ヤムチャに声をかけた。

 

「あの、ヤムチャさん……オレのほうが全然弱いのにおこがましいんですけど……一ついいですか?」

 

ヤムチャは汗を拭きながら、いつもの気さくな笑顔で言った。

 

「なんだ?珍しいな?兄弟子だろ?なんでも遠慮なく言ってくれよ」

 

一緒に暮らしてみてよく分かった。ヤムチャは本当にいいやつだ。

強いだけじゃない。優しい。仲間思いだ。

だからこそ、この先ひどい目にあうのを見過ごせないと思った。

 

オレは言った。

 

「誰かと戦う時、どんなに格下に思える相手でも、決して油断せず、奢らず、最後まで油断せず、慎重に戦ってほしいんです。常に、相手を格上だと思うくらいの気持ちで」

 

これは、歴史が変わってしまうかもしれないアドバイスだ。

だが、オレはもう気にしてはいられなかった。

 

そもそも、オレが原作のクリリンより大きく劣っている時点で、既に歴史は変わっているのだから。

オレが弱いという事実だけで、未来はもう、原作とは別物になっている。

 

ヤムチャは少し驚いた様子で微笑み頷いた。

 

「分かった。クリリン、お前がそこまで言うなら、肝に銘じておくよ。ありがとな」

 

 

 大会当日。

 

オレは、胸の奥がずっとざわついていた。

試合そのものよりも、オレには気がかりがあった。

 

それは、未来の知識。大会後に訪れる、あの出来事。

ピッコロ大魔王の部下、タンバリンの存在。

 

あいつに殺される未来。

それを知っているからこそ、胸の奥が冷たくなる。

 

だが、今は考えないようにした。

未来の恐怖に囚われて足が止まるくらいなら、目の前のことを一歩ずつ、半歩ずつ、全力でこなす。

今日までそうやってなんとかやって来た。

 

悟空との再会を果たす。

あいつは相変わらず無邪気で、あっけらかんとしている。

その笑顔を見ると、少しだけ心が軽くなる。

 

そして会場には鶴仙流の面々。

鶴仙人、チャオズ、そしてまだ尖っていた頃の若い天津飯。

 

互いに緊張が走る。

悟空はそんな空気をまるで気にせず、いつもの調子で笑っている。

 

 

 予選が始まる。

 

悟空、ヤムチャ、天津飯、チャオズ、面々は順当に勝ち抜いていく。

オレも、なんとか本戦へ出場できた。突破できたという事実が胸に残る。

 

そして、本大会が始まる。

 

 

 ヤムチャと天津飯の対戦は、会場の空気を一気に盛り上げた。

ヤムチャは、亀仙流の道着をまとい、堂々と戦った。

 

結果は原作通りヤムチャが負けた。

だが、原作とは違い、ヤムチャは足を折られることなく、試合は終了した。

天津飯の攻撃を受けながらも、ヤムチャは油断せず、慎重に、最後まで集中を切らさなかった。

 

試合後、ヤムチャは悔しそうにオレへ歩み寄り、言った。

 

「……お前が、あの時言っていた意味がよくわかったよ。オレは、奢っていた。

武天老師様の弟子となり、自分は負けるわけがないと思い込んでいた……

自信を持ちすぎていたようだ……せっかくアドバイスしてもらったのに情けない……」

 

オレは答えた。

 

「いいえ、そんな事ありません……すごくいい試合でしたよ。オレも観ていて良い勉強になりました」

 

それは本心だった。そして悟空も笑って言った。

 

「ああ!すげぇいい試合だったぞ!見ててワクワクした!」

 

悟空の言葉に、ヤムチャは苦笑しながらも、少し肩の力を抜いたようだった。

 

 

 そして、オレとチャオズとの試合。

 

あの小柄な体から放たれる念力とどどん波の圧力は、端から眺めているだけよりも、ずっと鋭く、ずっと恐ろしかった。

オレは必死に抵抗し、なんとか動き、チャンスを窺う。

 

だが、次の瞬間、どどん波が飛んできた。

 

避けきれなかった。反射的に腕を前に出して防御した。

その瞬間、腕に激痛が走った。皮膚が焼けるような感覚。筋肉が裂けるような衝撃。骨が軋む音。

 

「……っぐ……!」

 

腕に大怪我を負った。おそらく骨にヒビが入っている。

皮膚も筋肉もかなりダメージを受けている。

痛みで震える。拳を握ることすら難しい。

 

そしてオレは、ダメもとで、原作通りの「あれ」を使うしかなかった。

 

計算問題。

 

「チャオズ!八足す五は!?」

 

チャオズは混乱した。

その一瞬の隙をついて、オレは全力で踏み込んだ。

痛む腕を堪え、なんとか蹴りの一撃を叩き込む。

 

結果は原作通り勝利。

だが、原作よりもかなり辛勝だった。

 

このダメージは次の試合にも大きく響く。

間違いなく、致命的なハンデだ。

 

だが、オレはまだ立っている。あの、超人チャオズに勝利した。

それは、オレにとっては、とてつもなく凄い事実だった。

 

 

 そして、オレと悟空との試合。

 

腕の痛みはひどく、指を握るだけで激痛が走る。

オレは謝った。

 

「すまないな……悟空」

 

悟空は首をかしげた。

 

「は?何を謝ってんだ?」

 

オレは痛む腕を押さえながら言った。

 

「オレの実力じゃ、お前を楽しませてやれない……そのうえ、今は腕まで怪我してる……」

 

悟空は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにいつもの明るい笑顔になった。

 

「そんな事か。気にすんな。おめえが棄権せず試合してくれて、オラ嬉しいぞ!」

 

そして悟空は言った。

 

「オラも左腕は使わねぇ。まあ、オラの腕には痛みがねぇから、これでもおめえの方が不利だけどな」

 

その悟空の言葉は、奢りでも油断でもない。

ただ純粋に、オレと対等に戦いたいという気持ちだけがあった。

その気持ちが、痛みで沈んでいたオレの心を持ち上げてくれた。

 

悟空がオレを、戦う仲間として見てくれている。

それが嬉しかった。

 

オレは言った。

 

「わかった。全力でいくぞ!」

 

悟空は満面の笑みで頷いた。

 

「おう!」

 

 

 オレは、とにかく何も考えず、これまで培ってきた全力を悟空にぶつけた。

痛む腕のことも、勝てるはずがないという現実も、全部いったん脇に置いた。

ただ、目の前の悟空に向かっていく。それだけだった。

 

オレの攻撃はまるで当たらなかった。

踏み込んだ瞬間にはもう悟空はいない。

 

結果は、惨敗だった。

 

だが、悟空は笑顔だった。

その笑顔は、ただの勝者の余裕ではなく、三年前よりも成長しているオレを認めてくれているような、そんな優しい笑顔だった。

 

「三年前よりずっと強くなったな!もっと強くなったらまた試合しようぜ!」

 

その言葉が、痛む腕よりも胸に響いた。

悟空はオレの成長を見てくれている。

 

悟空の言葉は、オレがこの三年間、半歩ずつでも前に進んできたことを肯定してくれた。

それだけで、今日までの苦しい修行が報われた気がした。

 

 

 運命の時は、静かに、しかし確実に近づいていた。

 

大会は原作通り進み、悟空と天津飯の激闘も終わり、会場の熱気が少しずつ冷めていく。

その裏で、オレの緊張はピークに達していた。

 

ピッコロ大魔王の部下タンバリンがやって来る。

オレは、自分が殺される未来を知っている。

 

だが結果、オレは殺されることはなかった。

 

理由は単純で、しかし決定的だった。

腕に怪我を負っていたため、一人でタンバリンと出会うというシチュエーションが生まれなかった。

 

それは、歴史が大きく変わった瞬間かもしれなかった。

 

 

 歴史が変わってしまった事に不安を抱きつつも、その後悟空は四星球が噴出した事に気づき、ブルマにドラゴンレーダーを借り追いかける。

このあとはほぼ原作通りに進んでゆく。

 

 

 亀仙人が魔封波を使おうとした時、オレは全力で否定した。

 

「武天老師様、魔封波は絶対に使わないでください!」

 

普段おとなしいオレが、声を荒げてまで止めた。

亀仙人は驚き、そして静かに問いかけた。

 

「……クリリンよ。なぜ魔封波のことを知っておる?」

 

オレは必死に誤魔化した。

 

「古文書を……読みあさって……知りました……オレは弱いから……少しでも知識で補おうと……」

 

亀仙人はしばらく黙り、オレの顔をじっと見つめた。

その視線は、嘘を見抜くようでいて、同時に弟子の必死さを受け止める優しさもあった。

 

「……分かった。魔封波は使わん」

 

オレの言葉は、ただの出任せではなかった。

亀仙人は老齢だが、潜在能力はとんでもなく高い。

 

あの力の大会では、ルールのある試合とはいえ、宇宙最強のジレンにさえ渡り合っていた。

つまり、修行さえ積めば、数年後にはピッコロ大魔王にも対抗できるはずだ。

だからこそ、魔封波で命を捨てる必要はないと本気で思っていた。

 

そして悟空は、原作通りピッコロ大魔王を倒した。

ピッコロ大魔王はマジュニアを産み落とし死んだ。

 

 

 その後、悟空は神様のもとでの修行に入った。

オレも、カメハウスを離れ、武者修行に出ることを決めた。

 

オレはまだまだ未熟だ。

原作のクリリンより弱いし、精神力も足りない。

亀仙流の修行を完璧にこなせるようになることが先決だとも思う。

 

だが、旅立つ。

立ち止まっていたら、弱いままだからだ。

 

オレの目的地は カリン塔。

 

踏破できないかもしれない。

登頂できても、カリン様の修行を何年も完遂できないかもしれない。

それでも行く。

 

 

 カリン塔は、遠くから見ても異様な存在感を放っていた。

空へ向かって真っすぐ伸びる白い塔。オレは塔の麓に立ち、深呼吸した。

 

「……よし、行くぞ」

 

半歩ずつ。半歩ずつなら進める。

 

何度も心が折れかけた。

もう戻れる高さでもない、一瞬後悔が滲む。

 

だが、弱いなりに積み重ねてきたものがある。

上だけを見て、上り続ける。

 

どれほど登ったのか分からない。

腕の感覚は怪しく、足も震える。

 

だが、遂に頂上らしき建造物が見えた。

 

「……ここまで来た……」

 

胸の奥が熱くなる。涙が出そうになる。

だが、まだ終わりじゃない。力を振り絞る。

 

 

 遂に、カリン塔を踏破できた。

 

塔の頂上に手をかけた瞬間、震えていた。

疲れだけではない。達成したという実感が、身体の奥からじわじわと湧き上がってきた。

 

ひとえに、この身体のおかげだ。

亀仙流の修行を続けられたことで、確実に常人以上の能力が身についている。

 

塔から眺める空はどこまでも広い。

 

「……ここまで来れたんだな、オレでも……」

 

原作のクリリンよりもずっと遅い。だが、遅いなりに進んでいる。

半歩ずつでも、確かに前へ進んでいる。

 

この塔を登れたという事実は、オレの中で大きな意味を持った。

 

 

 カリン塔を踏破したあと、オレは、カリン様との修行に入った。

塔の頂上には、ヤジロベーが住み着いていた。

こんな異常な場所で、仙猫と一緒に暮らしているという事実だけで、とても愉快な奴だと思えた。

 

ヤジロベーから聞かされた事実は、胸に刺さった。

ヤムチャ、天津飯、チャオズは既にここを訪れ、修行を終えている。

 

だが、焦っても仕方ない。オレはオレのペースで進むしかない。

半歩ずつ、昨日より前へ。

 

 

 悟空は三日で極めたというカリン様の修行。

 

その修行を、オレは二年半かけてようやく終えた。

 

悟空の三日と比べれば、あまりにも遅い。

だが、若いころの亀仙人ですら三年かかったという。

オレが、それよりも早く修了出来たのは、老師となってからの亀仙人の指導がよほど良かったのだろう。

 

修行は辛い。本当に辛い。

慣れたと思った瞬間、その慣れに留まっていては成長できない。

だから常に苦しい。常に限界の少し先を求められる。

 

カリン様は言った。

 

「お前さんは悟空ほどの天才ではないが、歩みを止めんのが強みじゃ」

 

その言葉は、胸の奥に深く刻まれた。

 

 

 時は流れ、再び天下一武道会の日が訪れた。

今回は、あのピッコロ大魔王の分身、マジュニアが参加している。

 

オレは原作通り、本戦でマジュニアと対戦することとなった。

マジュニアと対峙した瞬間、背筋が冷たくなった。

原作のクリリンでさえ威圧を感じ戦った相手だ。

オレは正直、かなり怖かった。

 

そして試合は、オレは、普通に圧倒されて負けた。

 

ルールに準拠していたため、大怪我を負わなかっただけマシだと思うしかなかった。

原作では、マジュニアはクリリンを高く評価したが、今回は淡々と去っていった。

 

やはりオレは、原作のクリリンよりかなり弱い。

はっきり言って、めちゃくちゃ頑張っているつもりではある。

だが、遠く及ばない。それが現実だった。

 

そして大会は、幸いにも、歴史改変で無茶苦茶になることはなく、原作通りに終わった。

 

 

 世界は静かになった。平和が訪れた。

 

そしてオレは、ずっと前から思っていた。

ここからの五年が勝負だ。この五年間は、世界は平和だ。

 

悟空も、ピッコロも、皆、この期間は大きな成長をしない。

だから、この五年は、オレが皆に追いつける唯一のチャンスかもしれない。

 

 

 そしてオレは、カリン塔にもう一度登った。

あの高さを前にしても、前回ほどの恐怖はなかった。

それだけでも、自分の成長を実感できて嬉しかった。

 

雲を抜け、頂上へたどり着いたオレは、息を整えながらカリンに告げた。

 

「……カリン様。オレ、神様のもとで修行をしたいんです」

 

カリンは、オレを見て言った。

 

「……ダメじゃ。おぬしはまだその域に達しておらん」

 

その言葉は、胸に刺さった。

だが、強く落胆はしなかった。想定内だった。

 

「……なら、カリン様。オレに、もう一度……以前以上にみっちり稽古をつけて頂けないでしょうか」

 

カリンは、ゆっくりと頷いた。

 

「よかろう。ここから、どこまで伸びるか見せてみい」

 

オレは深く頭を下げた。

 

「……ありがとうございます!」

 

 

 その一年は、以前の二年半の修行よりも遥かに厳しかった。

 

気の操作の精度、反射の強化、体幹の鍛錬、呼吸法の徹底。戦闘技術の基礎の是正。

 

一年が終わる頃、オレは確かに変わっていた。

原作のクリリンにはまだ遠い。だが、昨日のオレには勝てるようになっていた。

 

 

 カリン様に一年みっちり基礎を叩き込んでもらったおかげで、外界に降りてからの自主練は以前とはまるで別物になった。

基礎がようやく自分の中で一本の芯になった感覚があった。

 

自主練が捗るとはいえ、修行だけでは生きていけない。

オレは、カメハウスでの居候を続けながら、バイトを兼ねる亀仙流の修行を続けていた。

 

 

 悟空の家を訪れたのは、それから三年が経った頃だった。

このタイミングを選んだのは、理由がある。

悟空は前の天下一武道会の試合中に突如結婚し、そして今、悟空の息子の悟飯は三歳になっていた。

 

オレの狙いは、まさにそこだった。

 

悟飯の武術の才能は原作随一。

だが、幼い悟飯は母、チチの方針で修行をさせてもらえない。

 

悟空家でおもてなししてもらい、皆で食卓を囲んでいるとき、オレは自然な流れで話題を切り出した。

 

「悟飯くんには、武術は習わせないんですか?」

 

チチは即座に言った。

 

「これからはお勉強の時代だべ。平和な時代に武術は必要ないべ」

 

悟空は残念そうに苦笑している。

だが、オレには想定内の答えだった。

 

だからオレは、すぐに次の言葉を重ねた。

 

「運動をすることは、勉強の効率を上げるのにとても良いと言いますよ。例え武道家を目指さなくても、軽く武術を学ぶのは、勉強を捗らせるためにとても良いことだと思います。

せっかく悟空という最高の師匠になれる父親がいるんだから…」

 

それを聞いたチチは目から鱗の様子で言った。

 

「うーん……そうか……盲点だったべ……勉強のためになるなら、ちょっとはやらせてみても良いかもしれねえべ」

 

その瞬間、悟空の顔がぱっと明るくなった。悟飯は無邪気に笑っている。

 

これで、悟飯は原作よりも早くに武術に触れられる。

オレは、それがいい結果をもたらすことを願った。

 

 

 ラディッツが来るまで、あと一年。

その事実は、修行を続けるオレの胸の奥に、常に冷たい影を落としていた。

そしてその後には、ベジータとナッパが来る。

 

原作のクリリンは、地球を守る戦士の一人として、神から正式に招集される。

 

だがオレはどうだろう。

招集されない可能性がある。

 

しかし、もし招集されないなら、それはそれで気が楽だとも思った。

 

戦場に出なくて済む。

あの恐ろしいナッパと戦わずに済む。

ベジータの殺気に晒されずに済む。

 

だが、オレはさらに先の未来も知っている。

 

もしオレが歴史を変えてしまって、オレのせいで悪い未来にならないように。

オレのせいで誰かが死なないように。オレのせいで地球が滅びないように。

 

その願いだけが、修行を続けるオレの背中を押していた。

 

 

 ラディッツが来た。

 

そして原作通り、悟空は死んでしまった。

 

その事実は、胸の奥で複雑な感情を生んだ。

悟空が死ぬことを喜びたくはなかった。

 

だが、死んだことで、悟空は原作通り界王様のもとで修行できる。

それは、この世界の未来にとって絶対に必要な事だと思った。

 

ラディッツ戦の後、神様からの招集が来た。

その知らせを聞いた瞬間、胸が熱くなった。

 

五年間積み重ねたおかげで、オレは、地球の戦力として数えてもらえた。

半歩ずつ積み重ねた結果だった。

 

原作と違うのは悟飯だ。

 

オレが悟空の家を訪れ、チチを説得し、悟飯に武術の基礎を学ばせたことで、悟飯は三歳から、軽い修行を続けていた。

 

悟空が死に、悟飯がさらわれ、ピッコロが悟飯を鍛える。

この流れは原作通りだった。

 

だが、悟飯は原作より強い。

泣き虫ではない。基礎がある。

ピッコロは悟飯を見て、原作よりも早く本格的な武術を手ほどきするだろう。

 

 

 そしてオレには大きな使命があった、気円斬を自力で完成させなくてはならない。

あの技が存在しなければ、原作の流れが大きく変わってしまうと思えた。

だからオレは、神の修行に励みつつ、多種多様な技を持つ天津飯、自力で繰気弾を編み出したヤムチャ、超能力を操るチャオズなどから話を聞き込み、切実に学んだ。

 

神様の修行で気の扱いが洗練されていく中、オレは毎日、毎日、気を練り、形を変え、細くし、鋭くし、円形にしようと試行錯誤を続けた。

 

失敗ばかりだった。気が暴発して怪我をした事もあった。

円形にならず、ただの気弾になったこともあった。

 

だが、半歩ずつ進んだ。

 

 

 ベジータ達が襲来する一ヶ月前、オレは、ギリギリで 気円斬を習得することができた。

 

円形に気を保つこと、それを鋭く細く保つこと、そして軌道を安定させること。

 

どれも難しく、何度も失敗した。

だが、天津飯、ヤムチャ、チャオズから学んだ発想を組み合わせ、修行で磨いた基礎を土台にして、オレはついに、自力で気円斬を完成させた。

 

「……これなら……うまくいけば、ナッパすら倒せるかもしれない……」

 

そう思えた。だが、命のやりとりをする戦いなどしたことがない。

だから、ナッパのような相手と戦う覚悟は、正直、まだできてはいなかった。

 

だが、ためらっている場合ではなかった。

ナッパは遊び半分で都市を吹き飛ばすような相手だ。

 

この世界の未来を守るために、オレは戦場に立つことになる。

 

 

 ベジータとナッパが襲来した。

原作通り、都市が吹き飛ばされた。

 

胸がぎゅっと苦しくなった。

自分がもっと工夫すれば、もっと準備していれば、もっと強ければ、この破壊を回避する手段もあり得たのではないか、そんな罪悪感が、胸の奥で重く沈んだ。

 

だが、その痛みが逆に、オレに覚悟を決めさせた。

 

 

 荒野にて、ベジータ、ナッパと、地球の戦士たちが対峙する。

そして原作通り、彼らの遊び半分としてサイバイマンが生み出された。

 

ナッパが笑いながら言った。

 

「こいつらと一人ずつ戦ってみろ。遊びだ」

 

その言葉は、地球の戦士たちを侮辱するものだった。

だが同時に、オレ達にとっては好都合だった。

 

悟空が界王星から戻るまでの時間稼ぎになる。

 

それは分かっていた。

だが、オレは怖気づいて前に出られなかった。

 

そしてヤムチャが一番手を名乗り出る

 

「じゃあ、オレが行くぜ」

 

ヤムチャが前へ出た。だがオレは焦った。

オレは、咄嗟にヤムチャの腕を掴んで言った。

 

「決して油断しないでください!例え、ヤムチャさんが圧倒して勝利したように思えても!絶対に!常に油断しないで!」

 

声が震えていた。だが、言わずにはいられなかった。

 

ヤムチャは驚いたようにオレを見た。

その目には、オレの必死さが映っていた。

 

「クリリン…」

 

そしてヤムチャは静かに頷いた。

 

「……分かった。油断しない。絶対にな」

 

ヤムチャは深く息を吸い、サイバイマンの前へと歩き出した。

 

 

 ヤムチャはサイバイマンを圧倒した。

 

そして、サイバイマンが倒れ、地面に沈み、動かなくなったその姿を見て、周囲の空気が少しだけ緩んだ。

だが、倒れたサイバイマンが、突然、跳ね起きた。

その動きはまるでバネのようで、ヤムチャに向かって一直線に飛びかかった。

 

飛びかかってきたサイバイマンに対し、ヤムチャは即座に反応した。

 

「かめはめ波!!」

 

至近距離から放たれた光が、サイバイマンを吹き飛ばし、今度こそサイバイマンは完全に絶命した。

 

ベジータとナッパは意外な結果に驚いていた。

オレは心の底から安堵した。

 

 

 ピッコロが悟飯に言った。

 

「悟飯、今の戦い、目で追い、気を感じ、ちゃんと理解できたか?」

 

悟飯は緊張で肩を強張らせながらも、しっかりと前を見ていた。

 

「はい……見えました。気の動きも……捉えられました」

 

ピッコロは満足そうに頷いた。

 

「ふ……それでいい。次はオレが行く。その次はお前だ。覚悟を決めておけ」

 

悟飯は唇を噛みしめ、力強く「はい」と答えた。

 

 

 ピッコロが戦い、その後、悟飯が戦う。

二人はサイバイマンを圧倒した。

 

原作でもピッコロはサイバイマンを圧倒していた。

だが、それ以上だった。悟飯が強くなったことで、ピッコロの能力が相乗的に跳ね上がっていた。

 

ナッパは目を見開いた。

 

「……おいおい、連敗かよ?しかもあんなガキに…!?」

 

その声には、驚きと苛立ちがあった。

そして、オレの胸に恐怖が芽生えた。

このまま圧倒し続ければ、ベジータ達は、遊びをやめる。

そして、時間稼ぎが成立しなくなる。

 

だからオレは、勇気を振り絞り、前へ出た。

オレが戦えば、圧倒などできない。だから時間稼ぎになる。

 

弱い自分だからこそ、できる役割がある。

それを理解した瞬間、恐怖が覚悟に変わった。

 

オレは深く息を吸い、震える足を前へ踏み出した。

 

「……オレが行きます」

 

サイバイマンと向き合う。怖い。

だが、逃げない。それだけを胸に刻んでいた。

 

そして、戦いが始まった。

 

サイバイマンの拳が唸りを上げて迫る。

オレはそれを紙一重でかわし、反撃の蹴りを叩き込む。

 

攻防が続く。

 

互角に戦えている。

 

こんな状況だというのに、胸の奥が熱くなった。

これまで積み重ねて来た修行が、全部、今の一撃一撃に繋がっている。

 

だが、サイバイマンはただの格闘相手ではない。

頭から吐き出される溶解液。

 

オレは地面を蹴って横へ跳び、なんとか躱す。

 

「怖え……!」

 

心臓が脈打つ。だが、まだ戦える。

ピッコロや悟飯のように圧倒はできない。

ヤムチャのように華麗に勝つこともできない。

 

だが、互角に戦い続けることが、時間稼ぎになる。

悟空が界王星から戻るまでの時間。それこそが、この戦場のの最重要ポイントだ。

 

拮抗し続ける。

どどめをさせない、だが、殺されない。

 

 

 本当に互角だった。

そして気が付いた、スタミナはこちらの方が上だ。

 

サイバイマンの動きが鈍り始めていた。

 

これまでの地道な修行が、ここで生きた。

地味で苦しい鍛錬。その積み重ねが今、サイバイマンとの拮抗に、スタミナという差を生んでいた。

 

サイバイマンが一瞬、体勢を崩した。

その瞬間を逃さず、オレは踏み込んだ。

 

渾身の拳が、サイバイマンの腹に突き刺さった。

気を込めた一撃が相手を貫いた。

 

サイバイマンの身体はそのまま地面に崩れ落ちた。

 

動かない。自爆の気配もない。完全に沈黙した。

 

「オレは……勝った……」

 

息が上がり震えた。

 

 

 次いで、天津飯も危なげなく勝ち、チャオズも超能力を巧みに操って勝利した。

サイバイマンが全敗。それは、ベジータとナッパにとって想定外だった。

 

ナッパは苛立ちを隠せず、荒野に響く声で怒鳴った。

 

「お遊びは終わりだ!オレがまとめて片付けてやるぜ!」

 

空気が一変した。

地球側も、ナッパも、双方が構えを取る。

 

だが、オレは叫んだ。

 

「ま、待ってくれ!悟空が来るまで待ってくれないか!?」

 

声が震えていた。

だが、叫ばずにはいられなかった。

 

ナッパは怒鳴り返す。

 

「はあ!?何わけわかんねえ事言ってやがんだコイツは!」

 

その殺気に、背筋が凍る。

だがベジータは冷静だった。

 

「ゴクウと言うのはカカロットのことだな……?奴は今どこに居る。何故この場に現れない?」

 

オレは恐る恐る答えた。

 

「とても遠い場所から……今、急いでここに向かっている。お前たちは戦いを好むんだろ?

だったら……万全の状態のオレ達と戦った方が楽しめるんじゃないか……?」

 

ベジータの口元がゆっくりと歪み、嘲笑が漏れた。

 

「ははは!万全の状態か!」

 

「お前たちなど、万全だろうがなんだろうが、物の数にもならんが……」

 

「まあ……いいだろう。三時間だ。三時間待ってやる。三時間待っても来なかったときはそれまでだ」

 

しかし三時間経っても悟空は間に合わなかった。

 

 

 そしてナッパとの戦いが始まる。

 

地球側は原作よりも善戦していた。悟飯が武術を早く始めたこと。

その悟飯と修行したことで、ピッコロが原作以上の力を得ていたこと。

この二人を軸に、地球側は多対一の連携で蹂躙されることなく戦うことができた。

 

ナッパは苛立ち、怒り、荒野を揺らすほどの咆哮を上げた。

 

「てめえらあああ……!!!!」

 

だがベジータは尚も余裕の表情で笑っている。

 

 

 善戦していた。

未来は良い方向にズレていると思えた。

 

だが、歴史の修正力なのか、悲劇は訪れた。

 

怒り狂ったナッパが、巨大な気功波を悟飯へ向けて放った。

強くなったとはいえ、幼い悟飯は反応できなかった。

 

そして、ピッコロは悟飯を庇った。

 

「ぐああああ!!!」

 

ピッコロの叫びが荒野に響き、その身体が悟飯を包み込むように覆い、ナッパの気功波を全身で受け止めた。

 

爆風が荒野を薙ぎ、砂煙が空へ舞い上がる。

 

ピッコロの身体は、ゆっくりと崩れ落ちた。

そしてピッコロは絶命した。

 

悟飯は震えた。涙を流し、胸の奥から溢れ出す怒りが、気となって荒野を震わせた。

 

「うあああああ!!!」

 

悟飯の叫びとともに、魔閃光が放たれた。

原作ではナッパの片腕を痺れさせただけだった。

 

だが、この魔閃光はナッパの胸を直撃し、大ダメージを与えた。

 

「ぐはぁっ!このガキ……!!」

 

ナッパの怒りは、もはや制御不能だった。

 

「このガキィィィィィッ!!ぶっ殺してやるッ!!」

 

その巨体が悟飯へ向かって突進する。

 

悟飯は避けられない。大技を放って身体が動かない。

 

オレ達は即座に悟飯を守るために動いた。

オレとヤムチャと天津飯が気弾で牽制し、チャオズが超能力で動きを止めようとする。

 

だが、止めきれない。

 

「どけぇぇぇッ!!」

 

ナッパの殺意の塊のような気功波を放とうとした瞬間。

ナッパの身体が吹き飛ばされた。

 

荒野に、ひとつの影が現れた。

 

「みんな……よく頑張ったな」

 

悟空が到着した。

 

 

 悟飯は震える声で言った。

 

「ピッコロさんは……僕を庇って……」

 

悟空はゆっくりと頷いた。

 

「そうか……ピッコロ。おめえが誰かを庇うなんてな……」

 

悟空に不意打ちを喰らったナッパが怒り狂う。

 

「てめえええ!!!」

 

ナッパが悟空へ突進する。

だが、悟空は微動だにしない。

 

次の瞬間、ナッパは地面に叩きつけられていた。

ナッパは立ち上がれない。動けない。

悟空の一撃で完全に戦闘不能になっていた。

 

「べ、ベジータ……助けてくれ……!」

 

だが、ベジータは言った。

 

「動けんサイヤ人など必要ない」

 

ナッパの身体が宙に放り投げられ、ベジータは気功波でナッパの息の根を完全に止めた。

 

この頃のベジータは本当に冷酷だ。種族に強い誇りを持つ彼は、短絡的なナッパに対して、もしかしたら前々から鬱憤がたまっていたのかもしれないと思った。

 

 

 オレ達がその光景に驚愕した後、悟空は静かにベジータと向き合っていた。

そして悟空は言った。

 

「あいつとは、オラ一人で戦う」

 

悟空の言葉に、ヤムチャが即座に反論する。

 

「は!?何言ってるんだ悟空!もちろんオレ達も戦うぞ!」

 

天津飯も声を荒げる。

 

「奴を倒す絶好のチャンスじゃないか!一人でなんて無茶だ!」

 

だが悟空は黙ったまま、ベジータと対峙している。

ベジータは嘲笑しながら様子をうかがっている。

 

そんな中、オレは叫んだ。

 

「とにかく!今は悟空の言うとおりにしよう!オレ達は消耗している……悟空の邪魔になってはいけない!」

 

だがヤムチャと天津飯は納得できない。

オレは必死に説得した。

 

「お願いだ!今はとりあえずここを離れよう!!」

 

そのオレの必死さに、ヤムチャが何かを察してくれた。

 

「……お前がそこまで言うのなら……分かった」

 

天津飯はまだ納得できない。

 

「本気か!?ヤムチャ!」

 

ヤムチャは頷いた。

 

「ああ。とりあえずはクリリンの判断を信じてみよう」

 

その言葉で、ようやく一向はこの場を離れる決断をした。

 

悟空は背中を向けたまま、静かに言った。

 

「すまねえ、クリリン、みんな」

 

オレ達は悟空の背中を見つめ、退いて行った。

 

 

 戦域を離れ、空を飛びながら、ヤムチャが横目でオレを見て言った。

 

「クリリン、何か作戦があるんだろ?」

 

オレは息を整え、正直に答えた。

 

「作戦というほどのことはありません……あの二人の実力は、今のオレ達を遥かに凌駕している。オレ達が居ると邪魔になるというのは本音です……」

 

ヤムチャと天津飯は黙った。その沈黙は、悔しさと現実を受け止める重さだった。

 

だがオレは続けた。

 

「けど、気を消してこっそり戻りましょう。悟空が危なくなった時に、いつでも助けに入られるように」

 

そしてオレ達は荒野へそっと戻り、気を抑えながら、遠くから悟空とベジータの戦いを見守った。

その光景は、まるで別次元の戦いだった。空気が震え、地面が唸り、二人の気がぶつかるたびに視界が揺れる。

 

ヤムチャは目を見開き、言葉を失っていた。

天津飯は拳を握りしめ、チャオズは震え、悟飯もそんな父の背中を見つめていた。

 

「これほどの差があったとは……」

 

ヤムチャは唇を噛みしめながら言った。

そして天津飯が悔しそうに唸る。

 

「…確かに……クリリンが言ったように、オレ達は邪魔にしかならない……くそっ!」

 

そしてヤムチャはオレを見て言った。

 

「あの時点で、二人の力を読み切っていたのか。流石だなクリリン」

 

オレは慌てて首を振った。

 

「い、いえ……そういうわけでは……オレはただ、臆病なだけですよ」

 

だがヤムチャは首を横に振った。

 

「臆病だからこそ、冷静に状況を見れる時がある。オレ達は熱くなっていた。お前は……ちゃんと見てたんだ」

 

天津飯も悔しそうにしながらも、静かに言った。

 

「確かに…今の悟空の戦いにオレ達が割り込めば、足手まといになるだけだ…」

 

悟空とベジータの戦いは続いている。

荒野で、二人の気がぶつかり合い、衝撃波が吹き荒れる。

 

 

 悟空は次第に劣勢へ追い込まれていった。

ヤムチャが震える声で言った。

 

「……悟空が……押されてる……」

 

悟空が押される姿を見て、悟飯は耐えられなかった。

 

「僕、行きます!お父さんを援護します!!」

 

悟飯は飛び出した。その瞬間、ヤムチャも叫んだ。

 

「ああ!やるしかねぇ!!」

 

天津飯も続く。

 

「おおっ!!」

 

チャオズも恐怖に震えながらも、覚悟を決めて飛び出した。

仲間が次々と飛び出していく。

 

オレだけが取り残された。

 

だが、一拍置いて、オレは拳を握った。

 

「行くしかない……例え、何の役に立たなかったとしても!!」

 

オレは皆の後を追って飛び出した。

 

 

 悟飯の魔閃光、ヤムチャのかめはめ波、天津飯とチャオズのどどん波、それらがベジータの背後から襲いかかる。

ベジータは不意を突かれたにもかかわらず、咄嗟に防御姿勢を取り、ほとんどダメージを受けていない。

 

そして、その刹那に、オレは動いた。

初めての戦場で、初めての殺傷技、気円斬。

 

それは、今までの修行のすべてを込めた一撃だった。

 

ベジータの目が見開かれた。

 

「なっ……!?この技……!」

 

彼は一瞬で気円斬の性質を読み取った。

避けなければ死ぬ。

 

そしてベジータは、慌てて身を翻し、気円斬を躱した。

 

「貴様あああぁっ!!!!」

 

自分が死にかけたことを悟ったベジータは、怒りで気を爆発させた。

次の瞬間、強力で高速な気弾が、オレを貫いた。

 

オレは、絶命した。

 

霧散する意識の中で、空の上から、金色の気が爆発するのが見えたような気がした。

 

 

 クリリンと融合していたオレの魂は、死を迎えたことで元のクリリンと分離した。

 

それがある種のバグだったのか、誰かの意思だったのか、今でもそれは、何も分からない。

そして、閻魔大王は言った。

 

「お前さんの魂は元の次元へ戻すとしよう。この世界の魂ではないからな」

 

その言葉を聞き、オレはこの世界での自分の終わりを理解した。

そして最後に、クリリンと話すことができた

 

オレは言った。

 

「すまないな……憑依してしまったこともだけど、こんな事になってしまって……」

 

クリリンは、気さくで優しい笑顔だった。

今はオレ達は、肉体が無いはずなので、クリリンの魂の色がそのように感じさせたのかもしれない。

 

クリリンは言った。

 

「いや、オレもお前と一体化してたから分かるよ。お前はよく頑張ったよ」

 

オレは苦笑するしかなかった。

 

「オレの弱い精神が邪魔をせず、クリリン単体だったらもっと頑張れたって……オレはよく知ってるよ」

 

クリリンは首を横に振った。

 

「そんなことねぇよ。オレ一人じゃできなかったこともあったさ」

 

胸が込み上げた。

 

「ありがとう。じゃ、オレはそろそろ行くよ」

 

クリリンは笑った。

 

「ああ、またな……ってのも変だけどさ。また会うことがあれば、どこかでな」

 

オレは頷いた。

 

「ああ、また」

 

そしてオレは、静かに眠りについた。


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