「やりま、やりたくなりますねぇ!」未来の闇の帝王?うるせぇ!ホモビ見ろ!! 作:未完成な人
時は過ぎ去り、3年生の秋。ホグワーツを包む冷気は例年よりも深く、ホグワーツの壁面を覆う石レンガを冷たく覆おうとしていた。
トムは着実に交友関係を広げ、3年生ながら寮内で一定の地位と呼べるようなものを手に入れるまでになっていた。今後は自分を中心とした時代が来ると確信を持って言えた。
ただ、それでもトム・リドルの心は、すでに限界を迎えようとしていた。
同じ部屋でないといえど連日、耳元で撒き散らされるホヨ・モノリーの不快極まりない語録。噛み合わない不条理な会話。
そして何より、どれほど巧みに策を弄しようとも、自分の計算や心理操作が一切通用しないという枠外の存在という異常な敗北感。
優等生の仮面の下で、トムの精神は激しくに侵食されていた。
その歪んだ自尊心を満たす唯一の術として辿り着いたのが、図書室の禁書区の奥底、カビと血の匂いが染み付いた羊皮紙の魔導書に記されていた古代の忘却魔法だった。
「……おい、ホヨ・モノリー。少し話がある」
夕闇が沈みきる直前、トムは廊下の角でホヨを呼び止めた。
その声には、周囲の誰に聞かれても疑いを挟まない、優等生らしい完璧な穏やかさと丁寧さが塗られていた。
「今日の『変身術』の課題の件で、確認しておきたいことがあるんだ。少し時間をくれないか。地下の空き教室で待っている」
「ぬああああん!これもうわかんねぇな!」
案の定、ホヨは不満げに顔を歪め、雑な大声で返事をした。だが、その声の軽さに反して、彼女の足取りはあっさりとトムの後をホイホイ追ってきた。
普段は誰も使うことのない地下の空き教室。石造りの室内は重苦しい湿気に満ちている。
ホヨが足を踏み入れ、木製の重い扉が閉まった瞬間——トムは躊躇なく杖を振った。
アロホモラの逆相となる高度な施錠呪文と、音が一切外へ漏れ出さない防音の障壁が扉を覆う。
「……おっKMR? なにマジな顔して……ファッ!?」
異変に気づいたホヨが振り返ろうとした瞬間、トムの冷徹な声が暗闇を切り裂いた。
「ステューピファイ」
トムの杖先から走った稲妻のような魔力光が、ホヨの胸を正確に捉えた。
ホヨは「お……」と弱々しい吐息を漏らし、瞳から光を失うと、まるで糸を断ち切られた人形のように冷たい石畳の上へと崩れ落ちた。
「……フフ……呆気ないものだな」
トムは吐き捨てるように呟き、足元に横たわるホヨを見下ろした。
ここまでは計画通りだった。あとは、この無防備なコイツを魔法陣の上に移動させ、彼女の記憶と存在の痕跡を完全に削ぎ落とす古代忘却呪文を発動させるだけだ。
これを行使すれば、ホヨは自分の記憶を失い、またホヨを知るものもその存在を忘れ、名簿などからも存在が最初からなかったかのように修整される。つまりコイツは誰も知らないことで学校への不法侵入者として処分される。自分の世界から、あの汚物が永久に去るのだ。
ここまで高度な魔法だとは思わず、一年も準備期間がかかってしまったが、魔法陣は完璧だ。触媒の不足で範囲をホグワーツ圏にしか設定できなかったことくらいか。
ダンブルドアには効かない可能性もあるが、魔法が成功すればこちらは全ての教師が味方になる。たかだか変身術の教師一人に部外者を追い払うのを止めるのは不可能だ。つまり完璧だ。
心の中で勝利の笑いが止まらない。
トムは深く呼吸を整え、両手で固く杖を握りしめた。
喉の奥から、低く重厚な古代語の唱句を紡ぎ始める。
言葉が重なるにつれ、杖先から魔法陣にしたたり落ちるおぞましい黒銀色の魔力が、部屋の空気そのものを歪めていく。空間の温度が急速に下がり、トムの額にはじんわりと冷や汗が滲んだ。
(……これで終わる。僕の視界から、僕の完璧な世界から、あの汚物が永遠に消え去るんだ……!)
トムは体内の全魔力を杖へと注ぎ込み、最後の一句を叫ぶように放った。
——しかし、その直後だった。
「……くっ……!? ガ……ッ!?」
右腕の骨が砕けるかのような、凄まじい衝撃と激痛がトムを襲った。
トム自身は認めないだろうが、トム・リドル一人で行使するには古代魔法の構造があまりにも高度すぎたのだ。13歳のトム・リドルが持つ魔力と技術は、間違いなく同世代を超絶していた。だが、それでも——この禁忌の術式を完全に制御しきるには、あまりにも未熟で、実力が及ばなかった。
抑え込みの効かなくなった魔力が杖の尖端で急激に膨れ上がり、激しい術式崩壊を引き起こす。
「しまっ……暴走す……ッ!?」
制御を失った黒銀色の閃光が、狂った蛇のように部屋中を反射した。
トムの制止の叫びも虚しく、極大まで暴走した魔力の束は、石畳に横たわっていたホヨへと注ぎ込まれる。
「——おおんっ……!?」
眠っていたはずのホヨが、短く悲痛な叫びを上げて体を大きく跳ねさせた。
黒銀の光はホヨの頭部へ吸い込まれるように沈んでいき、やがて激しい閃光とともに部屋全体を白く染め上げた。
長すぎる数秒ののち、室内には静寂だけが残された。
「はぁ……はぁ……っ……!」
トムは両膝を床につき、激しい魔力酔いと腕の激痛に耐えながら荒い息を吐いた。
杖を持つ指先は小刻みに震えている。己の慢心と未熟さが招いた失態。その屈唇に激しく歯噛みしながら、トムは倒れたまま動かないホヨの元へ這うように駆け寄った。
「おい……! 起きろ……! ホヨ・モノリー……!」
呪文は失敗した。学校中から記憶を消し去るどころか、望んでいた結果は全くもって得られなかった。それどころか、暴走した魔力がアイツに直撃したのだ。最悪の場合、脳が焼き切れ、死に至っている可能性すらある。
トムは冷や汗を流しながら、ホヨの華奢な肩を激しく揺さぶった。
「う……ん……」
長い沈黙の末、ホヨの瞼がゆっくりと開いた。
「……誰……トム…?」
名前を呼ばれ、トムはハッと息を呑んだ。
記憶は消えていない。
だが——今までと何かが、決定的に違っていた。
ホヨの瞳の奥に常に宿っていた、あの不条理で、底意地が悪く、人を食ったような「濁り」が、完全に消失していた。
そこに広がっていたのは、澄み渡るほどに透明で、今にも壊れてしまいそうなほど無防備な少女だった。
「…トム、ごめんなさい……。僕…何か嫌われるようなこと、した…?」
「…………は?」
トムの思考が、完全に氷結した。
いつもの「ファッ!?」という下品な奇声もない。「おかのした」という舐めくさった返答もない。
肩を小さくすぼめ、涙で潤んだ瞳で自分を見上げる少女の声には、一切の毒も、煽りも、滑稽さも含まれていなかった。
脳裏に激しい痛みが走るが関係ない。トムは反射的に開心術の力を解放してホヨの心の中へ足を踏み入れた。
これまでトムの精神を削り、泥水のように汚し続けてきた無数の「ゴミのような語録」「汚物のような思考」——それらが、跡形もなく消え去っていた。
トムが引き起こした魔法の暴走は、彼女の記憶を消すのではなく、ホヨの精神内に存在していた『異質で巨大な記憶の塊』だけを完全に焼き切ってしまったのだ。
鎧を引っぺがされ、生身のまま露わになったホヨの心。そこから流れてくるのは、あまりにも痛々しいほど純粋な感情だけだった。
『怖い……怖い怖い怖い怖い怖い』
『殴らないで…』
『ごめんなさい……お願いだから、誰も私を嫌わないで……』
ダイレクトに頭の中へ流れ込んでくる、生身のホヨの「恐怖」と、人への恐怖。
「……あ……」
トムの手から、ぽろりと杖がこぼれ落ち、石畳の上で乾いた音を立てた。
勝ったはずだった。
自分の完璧な計算を狂わせ、誇りを傷つけ続けたあのうるさい汚物は、結果的ではあるが、ついにこの世界から消えたのだ。
それなのに——トムの胸の内を締めていたのは、勝利の歓喜などでは断じてなかった。
自分の未熟さゆえに「一人の人間を壊してしまった」という取り返しのつかない衝動。
そして、見たこともないほど透き通った純粋で透明な瞳で自分を見上げ、ボロボロと大粒の涙をこぼし始めた少女を前に、未来の闇の帝王は、何も言葉を口にできなかった。
一発ネタのつもりで始めたはずだったのに…。
淫夢ネタだけで小説の全てを賄うなんて俺には無理でした…。実力不足のわたくしをどうか許してください。