『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「とゆーことで、今日からルイくんの異能対策講座が始まります!」
ルイと一緒にファミレスで夕食を食べ、アパートの近くまで送ってもらった翌々日の月曜日の放課後。
僅かにオレンジがかった陽の光が差し込むこのレンタルルームで、見慣れないメガネ姿をしたルイが、ホワイトボード前の教卓で前のめりになりながら開講を宣言した。
「い、いえーい?」
「ちょっとそこ、ノリ悪いよ」
教えるのが好きなのか、それとも一昨日の話でそんなに気が軽くなったのかな。
教壇代わりの机に手を突くルイは、久しく見ないようなはしゃぎ方をしていた。
「いやー……メガネ姿のルイは初めて見たなって思って」
本人には悪いけど、はしゃいでいるルイよりも彼の掛けるメガネの方に目が行っちゃう。
むふんと鼻息を出しながら自慢げにフレームを持ち上げるルイからは、どこか幼げかつ知的な雰囲気が漂う。
ってことはいつもはコンタクトだったのかな、そこまでして見てくれを気にするなんて偉すぎ——
「ああこれ? 伊達メガネだよ、家で勉強する時に掛けると頭が良くなれた気がしてね」
って思ったけどダメだ、シンプルにアホの子だった。
それどころか邪魔くさくなったのかメガネをケースにしまうルイ。
出来れば
「今更だけど、座学の担当は僕になりました。大和くんはドシドシ僕を頼るように」
「はーい先生、質問です。ってことは他の授業はルイ以外が教えるってことですか?」
「いい質問ですね、大和くん。そのとおりです。って言っても誰が何を教えるとかまでは分かんないけどね」
大和くんも何も、生徒は私だけのはずじゃ……?
ってか他の科目は分かんないのか、知らない人が来るのだけは嫌だなあ。
「コホン……まあふざけるのもこんぐらいにして、早速授業に取り掛かっていこう」
ふざけている自覚があったのか、咳を一つするのと一緒に声を落ち着けるルイ。
私も背筋を伸ばし、彼の方へと向き直る。
「じゃあ早速一つ質問。なんで大和はよく異能者に狙われていたか。わかる?」
「えっ……名声とか武威のためじゃないの?」
これは今まで斬ってきた異能者からも聞いてきたし、こないだ町田さんも言っていたこと。
だからかなり自信がある答えだったのに、ルイはあろうことかその答えに三角を付けた。
「残念だけど半分しか正解してないね」
「半分ってことは、名声とか武威も間違ってはないってこと?」
「より厳密に言うと、僕らが使う異能のエネルギー源『威信』の量を最大化するためでした」
「威信?」
「ふむふむ……やっぱりそこからか」
ルイは「分かってたよ」と言わんばかりにマーカーを手に取ると、ホワイトボードに何やら書き込み始めた。
彼の鼻歌と、ペンのこすれる音が鳴り渡る。
普通なら退屈な時間なんだろうけど……ちょっとワケあって、ルイが文字を書く姿は退屈しない。
っていうのも注目するべきはその書き順。
一緒に課題やったときなんかにも思ったけど、ルイの字はゴシック体じみていて綺麗なのに、書き順がめちゃくちゃ。
それこそ「口」の字を底辺から書きはじめるぐらいで、わざわざ声に出しはしないけどそういう可笑しさに勝手に口の端が綻んだ。
「それじゃあ、この威信量を増やすには何をしたら良いか答えてみてよ」
「うーん…………猛特訓、とか?」
「これも残念、猛特訓するだけじゃ威信は増えないんだ」
私が不正解を口にすると、ルイがホワイトボードの前から退き、彼の書いていたものが明らかになった。
ホワイトボードの真ん中にはデカデカと『威信』と書かれ、その下に小さく「名声」「精神」「所領」と三つの単語が書かれていた。
「それじゃあ分かりやすいところからいこう。大和は今までに心持ちが大きく変わった時なんかに身体に余計な力が入ったり、五感が鋭くなったことは無いかい?」
余計な力、鋭い五感……そう言われてみれば、思い当たる節はある。
一つが初めて異能が発現したとき、有り余る力と鋭くなった五感に万能感を感じたこと。
けれどあれはどちらかと言えば「異能者と非異能者の境目」にあったって考えた方が自然で。
どっちかと言えば本命は二つ目の……ジャンとの戦いの合間、ルイに立ち上がらせてもらったあとのあの感覚。
靴底がぐっと沈むほど強い踏み込み、産毛の一本一本で感じる海風、そして暗所でも色がきっちり見えるようになったこの
「うん、ある。思い当たり」
「おっ、それは話が早い。これが威信の供給源の一つ目、異能者の精神に由来する威信だ。場合によっては異能の性質が変化することもあるし、唯一自分だけで増やすことが出来る威信の源でもあるんだ」
あー、あのときはしがらみだとかが吹っ切れたからだと思っていたけれど、物理的に力や五感が強くなってたのか。
理由が分かってちょっとすっきりした反面、心持ちの問題だと思ってた出来事を論理的に説明されたみたいでちょっと複雑な感じもする。
「んー? ってことはメッセージ性のある映画とか観まくればいいってこと?」
「それがそうもいかなくてね、異能者の個々人によってどう心持ちが変われば良いかが違ってくるのが厄介で」
ルイは「だからあくまで『そういうのがあるんだ』ぐらいに思ってた方がいいよ」と話を締めくくった。
さすがにテレビの前に貼っ付いて特訓完結、みたいな展開にはならないか。