園崎家の庭園、その外れ。
先ほどの戦いから逃れるように、鳴海探偵事務所の一同はひとまず身を隠していた。
「はぁ……はぁ……」
翔太郎は膝に手をつき、大きく息を吐く。
「とんでもねぇ奴に会った気がするぜ……」
その隣で、いつもなら冷静沈着なマリバロンも険しい表情を浮かべていた。
「まったくだ……」
マリバロンは園崎家の方角を睨む。
「人間風情が、あのような力を得るとは。この世界は、とんでもない悪意に満ちておるな」
そして心の中で付け加える。
(……それでも、南光太郎と比べれば……まだましか)
マリバロンの脳裏に、かつて自分たちを圧倒した仮面ライダーBLACK RXの姿が一瞬だけ蘇る。
あの男の力を思い出し、マリバロンは小さく眉をひそめた。
「……」
そんな彼女をよそに、翔太郎が亜樹子へ向き直った。
「おい、亜樹子!」
「え?」
翔太郎はいつになく真剣な顔をしていた。
「いいか。どんなことがあっても、依頼人を危ない目に遭わせちゃならねぇ」
「翔太郎くん……」
「それは、おやっさんが決めた絶対のルールだ」
翔太郎は帽子のつばを下げる。
「俺も昔、一度だけ依頼人を怪我させちまったことがある」
亜樹子は黙って聞いていた。
「その時、おやっさんに殴られた」
「……」
「依頼人を怪我させる奴はクズだ。探偵の資格どころか……生きる資格すらねぇ」
翔太郎の言葉には、鳴海荘吉への尊敬と、今でも消えない後悔が滲んでいた。
「だからな……」
翔太郎は亜樹子に背を語る。
「俺は、お前に何かあったら遅いんだよ」
「翔太郎くん……」
「なぜなら……親父さんは……その……」
翔太郎は言葉に詰まった。
「この世に……もう、いないからだ……」
「…………」
静寂。
翔太郎はゆっくり振り返った。
「……あれ?」
そこには誰もいなかった。
「亜樹子?」
亜樹子の姿は、いつの間にか消えていた。
残っていたのは――腕を組んだマリバロンだけ。
「……」
「……姉さん?」
マリバロンは静かに翔太郎を見る。
「やはり、そういう事情があったか」
「え?」
「お前とあの娘の間には、まだ語られていないものがあるようだな」
マリバロンは園崎家の方を見た。
「亜樹子は依頼人のところへ真っ先に向かったぞ」
「……」
「今の話、きちんと亜樹子と向き合って話してみせよ」
翔太郎は頭を掻く。
「ったく……大事な話してるっつーのによ」
その時だった。
「翔太郎」
フィリップの声が響く。
「フィリップか?」
「やはり敵の狙いは浅川麻衣だ」
翔太郎の表情が変わる。
「何だって?」
「彼女も風都のパティシエランキングに名を残す一人だ。上位五人までは、すでに行方不明になっている」
フィリップは淡々と続ける。
「そして、その次に位置するのが浅川麻衣だ」
「……なるほどな」
翔太郎は拳を握る。
「あぁ。おそらく亜樹子も、もう向かってる」
そしてマリバロンを見る。
「姉さん、悪いが亜樹子を頼む」
「私が?」
「その似合ってるメイド姿で、亜樹子を守ってやってくれ」
マリバロンの眉がピクリと動く。
「……」
「姉さん?」
「ええい!」
突然、マリバロンが叫んだ。
「このマリバロンに使用人の格好をさせるだけでも気に入らぬというのに、さらに護衛までさせるとは!」
「悪かったって」
「……しかし」
マリバロンは鋭い目を園崎家へ向ける。
「亜樹子の身は任せておけ」
そして踵を返す。
「亜樹子よ、待っておれ!」
マリバロンはメイド服の裾を翻し、足早に屋敷へ向かっていった。
「……ほんと、頼りになるんだか危なっかしいんだか」
翔太郎は苦笑する。
そして自分もまた、園崎家の庭園へと戻っていった。
一方、園崎家の一室。
「麻衣さん、大丈夫?」
亜樹子は浅川麻衣のそばに駆け寄った。
「はい……」
麻衣は不安そうに頷く。
「もう一人の探偵の方……マリさんのおかげで助かりました」
「マリさん?」
「彼女、マジシャンか何かなんですか?」
「あー……」
亜樹子は苦笑いする。
「えーっと……まあ、そんなところね!」
「……?」
「とにかく安心して!」
亜樹子は胸を張る。
「それより、犯人をあぶり出す方法があるの」
「犯人を?」
「うん」
亜樹子は麻衣の耳元で、作戦を小声で説明する。
「……というわけ」
麻衣はしばらく考えた後、頷いた。
「わかりました」
「よし!」
亜樹子は拳を握る。
「後は……当主様にお願いするだけね」
園崎家博物館。
巨大な展示物に囲まれたその場所で、園崎琉兵衛は静かに立っていた。
そこへ亜樹子が駆け込んでくる。
「当主さまーーー!」
「ははは」
琉兵衛が振り返る。
「これはこれは、美少女メイド君か」
「はい!」
亜樹子は勢いよく頭を下げる。
「当主さま、忙しいところすみません!」
「何かね?」
「どうしてもお願いしたいことがあるんです!」
琉兵衛は興味深そうに眉を上げた。
「ほう?」
亜樹子は笑顔を作る。
「次のデザートを嗜む時間……」
一拍置いて、
「使用人も含めた、全員参加にしていただきたいんです!」
琉兵衛は目を細めた。
「ほう……」
「お願いできますか?」
「それは……どうしてかな?」
亜樹子はニッと笑った。
「それは……」
人差し指を口元に当てる。
「本番までのお楽しみです!」
琉兵衛はしばらく亜樹子を見つめていた。
そして――。
「はっはっはっ!」
豪快に笑った。
「いいだろう。君の頼みを聞こうじゃないか」
「本当ですか!?」
「次のデザートタイムは、使用人も含めて全員参加だ」
「ありがとうございます!」
亜樹子は深々と頭を下げる。
「では、失礼します!」
亜樹子が走り去っていく。
その背中を見送りながら、琉兵衛は微笑んだ。
「……面白い娘だ」
しかし――。
その瞳の奥には、何かを見透かすような光が宿っていた。
「さて……次のデザートタイムは、少々面白いことになりそうだねぇ」
園崎家の静かな夜に、不穏な予感が漂い始めていた。
園崎家デザートタイム――。
先ほどまでとは打って変わって、園崎家の食堂には妙な緊張感が漂っていた。
長いテーブルには、園崎家の三人。
園崎琉兵衛、冴子、若菜。
そして、その周囲にはメイドたちと料理長の進藤。
全員が席につき、目の前に置かれたデザートを静かに見つめている。
琉兵衛が楽しそうに笑った。
「ふむ。なんでも今日は、いつもと趣向が違うそうだね」
向かいに座る冴子は、少し面倒そうにため息をつく。
「フン……一体なんだっていうのよ」
若菜は逆に楽しそうだった。
「こういうのも、なんだか楽しいじゃない。ねえ、お父様。何が起きるのかしら?」
「はっはっはっ! まあ、細かいことはいいではないか。皆、さっそく今日のスイーツを楽しもうではないか!」
琉兵衛の言葉に、メイドたちも一礼する。
「いただきます」
そして、一斉にスプーンを口へ運んだ。
――沈黙。
琉兵衛の顔に「?」が浮かぶ。
「……ん?」
もう一口。
そして、眉間に皺を寄せた。
「……なんだね、これは?」
冴子も一口食べる。
「……フン」
露骨に顔をしかめた。
「食べられたものじゃないわね」
若菜だけは首を傾げながら、
「私は……意外とありかも」
「若菜、君は味覚が少々独特だからね」
「もう、お父様ったら」
そんなやり取りが続いていた――その時。
バァン!!
勢いよく扉が開いた。
「さーて!! 一連のパティシエ行方不明事件の犯人を、見つけちゃいますよー!!」
そこに立っていたのは、いつもの亜樹子とは少し違う姿だった。
探偵帽をかぶり、虫眼鏡を片手に、完全に探偵モードである。
その隣には――。
「ホホホホ……私の諜報能力、とくとご覧あれ!」
なぜかメイド服姿のまま、堂々と胸を張るマリバロン。
琉兵衛は二人を見て、ぽかんとする。
「犯人?」
「そうです!」
亜樹子がビシッと指を立てる。
「今日、この場で犯人を暴きます!」
琉兵衛は少し期待したように目を輝かせた。
「ほう……」
しかし。
「……なんだ、そんなことかね」
「え?」
琉兵衛はしょんぼりと肩を落とした。
「趣向が違うというから、もっと面白い余興かと思ったのだが」
「いやいやいや! 十分大事件ですよ!?」
亜樹子が慌てる。
「風都中のパティシエが次々に消えてるんですよ!?」
「まあ、事件なのは分かったよ。続けたまえ」
「はい!」
亜樹子は胸を張った。
そして、メイドたちを一人ずつ見回す。
「犯人は――」
一同が息を呑む。
「あなたよ!」
亜樹子が指差した先。
そこにいたのは――。
城塚。
「え?」
城塚は目を丸くする。
「ちょ、ちょっと! なんで私なのよ!?」
「だって城塚さん!」
亜樹子はずいっと顔を近づける。
「ずーっと食べてばっかりじゃない!」
「いやいや! 私が食いしん坊なのは認めるけど、それだけで犯人扱い!?」
「怪しいですよ!」
「どこがよ!」
「だって――」
亜樹子がさらに何か言おうとした、その時だった。
「……ゲホッ、ゲホッ!!」
隣に座っていた佐々木が激しくむせ始めた。
「え?」
亜樹子が振り返る。
佐々木は口元を押さえながら、テーブルの上のデザートを睨みつけている。
「な、なんだ……この……」
そして、怒りに震えながら吐き捨てた。
「この、くっそ不味い食い物は……!!」
マリバロンがニヤリと笑う。
「ホホホホ……ようやく気づいたか」
「え?」
「それは怪魔妖族に伝わる秘伝の丸薬を加工したものだ」
「ちょっと待ってマリさん!?」
「滋養強壮、精神統一、そして何より――」
マリバロンは堂々と言い放った。
「死ぬほど不味い」
「そんなものを食べさせたの!?」
佐々木は震えながらスプーンを投げ捨てた。
「私の……私の神の舌が……汚れる……!!」
その瞬間。
亜樹子の目がカッと輝いた。
「……なるほど」
マリバロンも腕を組む。
「ふむ」
二人が同時に佐々木を見る。
「「ついに正体を表したわね!!」」
「なっ!?」
佐々木の顔から血の気が引いた。
亜樹子が指を突きつける。
「あなたはスイーツに異常なこだわりを持っている!」
マリバロンが続ける。
「そしてパティシエばかりを狙っていた!」
「さあ、白状してもらいましょうか!」
「くっ……!」
佐々木は立ち上がった。
その目から、先ほどまでの穏やかなメイドの面影が消えていた。
「お前ら……絶対に許さぬ……!」
そして懐から一本のメモリを取り出す。
「これ以上、私の邪魔をするな!」
亜樹子の表情が変わる。
「それ……!」
マリバロンも目を細める。
「ガイアメモリ……!」
佐々木はメモリを掲げる。
「スイーツ!!」
ガイアメモリが起動する。
紫色の光が佐々木の身体を包み込んだ。
「うわっ!」
肉体が異形へと変貌していく。
皮膚は菓子細工のように変質し、巨大な口が顔面に現れる。
全身から甘ったるい香りが漂い、触手のような粘液が床へと滴り落ちた。
そこに現れたのは――。
スイーツ・ドーパント。
「ふふふふ……!」
不気味な笑い声が食堂に響く。
「私は最高のスイーツを求めている……!」
そして――。
「そのためには、最高のパティシエが必要なのだ!!」
スイーツ・ドーパントの触手が伸びる。
「きゃあっ!」
狙われたのは――浅川麻衣。
「麻衣さん!!」
亜樹子が叫ぶ。
だが間に合わない。
ベチャッ!!
粘液が麻衣の身体に絡みついた。
「いやっ!!」
「麻衣さん!」
亜樹子が走り出す。
しかし、スイーツ・ドーパントは麻衣を軽々と持ち上げた。
「お口直しには……最高のデザートを作ってもらわねばならん」
「離して!!」
「ふふふふ……!」
スイーツ・ドーパントは窓を突き破るようにして逃走を開始する。
「待ってーーー!!」
亜樹子が追いかける。
しかし――。
その直後。
「……ほう」
園崎琉兵衛が静かに見ていた。
その顔には、先ほどまでの陽気な笑顔はない。
ただ静かに、庭の方を見つめている。
「面白いことになってきたじゃないか」
冴子が立ち上がる。
「お父様……」
琉兵衛は答えない。
ただ、ゆっくりと右手を上げた。
「恐怖というものはね――」
空気が歪む。
「美味しいスイーツよりも、人間の心をよく刺激するものなのだよ」
冴子の表情がわずかに強張った。
一方、庭では――。
「待ちなさーい!!」
亜樹子が必死に走る。
「絶対に助けるんだから!」
その目には、いつものおちゃらけた表情はなかった。
父・鳴海荘吉から受け継いだ――探偵としての意地。
そして、依頼人を絶対に見捨てないという覚悟。
「麻衣さんを……絶対に取り戻す!」
その頃。
庭園のさらに奥。
スイーツ・ドーパントは麻衣を抱えたまま、暗い森へと消えていく。
そしてその行く手には――。
「待っていたよ、侵入者のドーパント君」
青い騎士の姿が現れた。
ナスカドーパント――園崎霧彦。
スイーツ・ドーパントが足を止める。
「……貴様、何のつもりだ?」
霧彦は剣を抜き、静かに構えた。
「君がどこまでやれるのか、少し興味が湧いてね」
「邪魔をするなら――」
「いや」
霧彦は笑う。
「私が相手をするのは君じゃない」
その視線の先。
庭園の向こうから――。
亜樹子が叫ぶ。
「待ちなさい、ドーパント!!」
霧彦は口元を吊り上げる。
「さあ……また面白い戦いになりそうだ」
そして――。
遠く離れた園崎家の屋敷の窓から、その光景を見下ろす琉兵衛。
「ふふふ……」
彼の瞳が怪しく輝いた。
「さあ、恐怖の宴を始めようじゃないか」
園崎家――庭園。
異様な緊張感が屋敷全体を包んでいた。
冴子は父・琉兵衛の隣に立ったまま、庭園で繰り広げられている戦いを冷たく見下ろしていた。
仮面ライダーダブルとナスカドーパントが交戦していた。
その向こうでは、亜樹子がスイーツドーパントを追っている。
冴子は静かに父を見た。
「……お父様」
「なんだね?」
「この不始末……私がつけます」
その言葉に琉兵衛はしばらく娘を見つめる。
そして――。
「……好きにしたまえ」
それだけだった。
冴子は無言で頷く。
「ありがとうございます」
踵を返すと、胸元から一枚のガイアメモリを取り出した。
TABOO
冴子がメモリを起動する。
「タブー」
次の瞬間。
冴子の身体が紫黒い光に包まれた。
タブードーパント。
手のひらに禍々しいエネルギーが凝縮されていく。
そして――。
「消えなさい」
ドォン!!
凄まじい光弾がダブルを直撃した。
「ぐっ!!」
ダブルが吹き飛び、地面を転がる。
「翔太郎!」
フィリップの声が響く。
「大丈夫だ、フィリップ……!」
翔太郎が顔を上げる。
その視線の先にいたのは――。
紫色の異形。
「お前は……」
タブーは静かに笑った。
「お久しぶり」
「……!」
「まさか忘れてないわよね?」
タブーの声が庭園に響く。
「私の怖さを」
翔太郎の脳裏に、かつての戦いが蘇る。
「ビギンズナイトの……あいつだ!!」
その瞬間――。
「隙あり!」
ギィン!!
ナスカの剣がダブルを襲う。
「ぐあっ!」
メタルシャフトで受け止めるものの、凄まじい衝撃にダブルが後退する。
フィリップも動揺していた。
「翔太郎……おかしい」
「ああ……」
「なぜここまで幹部クラスが揃っているんだ?」
タブー。
ナスカ。
そして屋敷の奥には、あの恐怖を司る謎のドーパント。
フィリップが低く呟く。
「何かを守っているのか……それとも、何かを企んでいるのか」
翔太郎は拳を握った。
「どっちにしたって……ここで何とかしないと」
そして――。
「亜樹子が……麻衣さんが危ねぇ!」
廃屋
薄暗い廃屋の奥。
スイーツドーパントは、捕らえていた浅川麻衣を床へ下ろした。
「ゲホッ……ゲホッ……!」
その姿がゆっくりと人間へ戻っていく。
佐々木だった。
「私はね……評論家じゃなくて、作る側になりたかったのよ」
佐々木は恨めしそうに麻衣を見る。
「風都の一番街に自分の店を出した。でも、一年も経たずに潰れた」
拳を握る。
「その時、思い知ったわ」
「食べて批評することと……自分で作ることは全然違うって」
そして胸元のスイーツメモリを撫でる。
「でも、このメモリがあれば違う」
佐々木の顔が狂気に歪んだ。
「最高の味を、私だけが独り占めできる!」
「あははははは!!」
「さあ!」
麻衣へ詰め寄る。
「私のためだけに、最高のスイーツを作るのよ!」
「さあ!!」
しかし――。
麻衣は俯いたまま動かない。
佐々木が眉をひそめる。
「どうしたの?」
すると。
麻衣はゆっくり顔を上げた。
その表情には――先ほどまでの怯えがない。
「……人間風情が」
「え?」
「たかだか食べ物ごときで、ここまで愚かになるとは」
佐々木が後ずさる。
「な、何を言ってるの……?」
麻衣は不敵に笑った。
「高貴なるクライシス人から見れば、所詮は愚かな存在よ」
「ホホホホ……」
「ク、クライシス……?」
佐々木は完全に困惑する。
「何を訳の分からないことを……!」
そして再び怒鳴った。
「さあ! 父親の代わりに最高のパティシエとして、最高のスイーツを私のために作るのよ!」
「そして神の舌を持つ私に――」
「黙れ!!」
突然、麻衣が怒鳴った。
「黙らぬか!!」
「ひっ……!」
麻衣が大きく口を開く。
その奥に――眩い光が集まる。
「な、何……?」
次の瞬間。
ドゴォォォン!!
強烈な火炎弾が放たれた。
「ぎゃあああ!!」
佐々木は咄嗟にメモリを起動する。
「スイーツ!!」
再びスイーツドーパントへ変身し、両腕で火炎弾を受け止める。
爆炎が廃屋を包み込んだ。
「ぐああああ!!」
佐々木が吹き飛ばされる。
「な……何なのよ……この攻撃……!」
煙の向こうから声がする。
「ホホホホ……」
「まだ分からぬか?」
佐々木が目を見開く。
「ま、まさか……」
光が収束する。
パパパパパッ!!
眩い光が弾けた。
そこに立っていたのは――。
「お前は……!?」
マリバロンは優雅に髪を払い、口元を吊り上げた。
「そうだ」
「なぜ……お前が……常識知らずのクソメイドが!」
「貴様が浅川麻衣を狙っていることなど、最初からお見通しだった」
マリバロンは鼻で笑う。
「だから私は、あの混乱に乗じて浅川麻衣に化けた」
「わざと捕まったというの……!?」
「その通り」
マリバロンは堂々と胸を張った。
「貴様に連れ去らせれば、アジトまで案内してくれるからな」
「そして――」
マリバロンが周囲を見回す。
「ここを突き止めた」
その時。
「いたいたーー!!」
廃屋の入口から声が響いた。
「ここね!」
亜樹子が駆け込んでくる。
その後ろには――。
本物の浅川麻衣。
「お父さん!!」
廃屋の奥。
そこには拘束され、衰弱した男性がいた。
「……麻衣か」
「お父さん!!」
麻衣は父親へ駆け寄る。
「お父さん! お父さん!!」
「大丈夫だ……麻衣……」
父親は娘を抱きしめる。
「無事だったんだな……」
「うん……!」
その光景を見た亜樹子は、胸を撫で下ろす。
「よかった……本当に……」
だが――。
「まだ終わっておらぬぞ」
マリバロンがスイーツドーパントを睨みつける。
「亜樹子!」
「はい!」
「捕らわれている人間を解放し、この屋敷から逃がすのだ!」
マリバロンの声が廃屋に響く。
「この怪人は――」
ビームウィップを手元に出現させる。
「私が直々に始末する!」
「依頼人を全員、無事に連れ出してみせろ!」
亜樹子は一瞬マリバロンを見る。
そして――力強く頷いた。
「了解!」
父親を支えながら麻衣に声を掛ける。
「麻衣さん、行きましょう!」
「はい!」
亜樹子が振り返る。
「マリバロンさんも、無事でいてね!」
マリバロンはニヤリと笑った。
「フン……」
そしてビームウィップを構える。
「この私を誰だと思っている?」
「美少女メイドの幼魔術で――」
スイーツドーパントが怒りの声を上げる。
「ふざけるなぁぁぁ!!」
マリバロンの目が鋭く光る。
「――全て終わらせてみせる」
亜樹子たちが廃屋から走り去る。
残されたマリバロンとスイーツドーパント。
しばしの沈黙。
やがてマリバロンが口元を歪めた。
「さあ……」
「貴様のガイアメモリとやら――」
ビームウィップが唸りを上げる。
「じっくり拝ませてもらおうか!!」
「おのれぇぇぇえええ!!」
スイーツドーパントが激昂した。
巨大な口を大きく開く。
「私の最高のスイーツを邪魔するなぁぁぁ!!」
次の瞬間――。
ブシュウウウッ!!
大量の粘液がマリバロンへ向かって噴き出した。
しかし。
「……フン」
マリバロンは一歩も動かない。
その瞬間、彼女の周囲に紫色の光が広がった。
「魔障結界!!」
バシュン!!
粘液は結界に触れた瞬間、弾き飛ばされる。
「なっ!?」
「そのような愚かな攻撃で……」
マリバロンは冷たい目でスイーツドーパントを睨みつける。
「このマリバロン様に抵抗するとは、身の程を知れ!!」
「くっ……!」
スイーツドーパントが再び口を開く。
だが――。
ビュンッ!!
「なっ!?」
紫色の光が一直線に伸びる。
マリバロンのビームウィップだった。
「ぐおおおお!!」
ビームウィップがスイーツドーパントの身体に絡みつき、その巨体を一気に締め上げる。
「は、離せぇぇ!!」
「離す?」
マリバロンは薄く笑った。
「逆だ」
グッ!!
さらにウィップが締め上げられる。
「四大隊長の一人、このマリバロン様を抑えたいのなら――」
マリバロンの瞳が鋭く輝く。
「幹部クラスでも連れてくることだな!!」
「な――」
ザシュン!!
一閃。
スイーツドーパントの身体が大きく弾き飛ばされた。
「ぐ……あ……」
そのまま地面に倒れ込む。
マリバロンはゆっくり歩み寄る。
「……」
「……あ」
彼女は倒れた佐々木を見る。
「勢い余って……倒してしまった」
若干、気まずそうな顔。
しかし次の瞬間には、いつもの尊大な表情に戻った。
「まあ、よい」
マリバロンはガイアメモリを拾い上げる。
「おい、貴様!」
倒れている佐々木の胸ぐらを掴む。
「このメモリをどこで入手した!?」
「……う……」
「ミュージアムとやらに会わせぬか!!」
「ミュージアム……?」
佐々木は朦朧とした意識の中で答える。
「わ、私は……直接は……」
「ならば誰から手に入れた!」
「トランクを持った……エリートみたいな男……」
「男?」
マリバロンの眉が動く。
「それだけか!?」
「……それしか……知らない……」
「ええい!!」
マリバロンは苛立たしげに手を離した。
「まともな情報は得られぬか!」
その時――。
「マリバロンさーん!」
亜樹子の声。
振り返ると、そこには浅川麻衣と父親、そして他の救出されたパティシエたちがいた。
「みんな、なんとか保護できたよ!」
亜樹子は満面の笑みを浮かべる。
「ありがとね!」
そして両手を上げる。
「美少女メイドコンビの勝利のブイ!」
「……」
マリバロンは冷めた目で亜樹子を見る。
「フン」
腕を組む。
「使用人ごときの姿で喜ぶほど、この私も落ちぶれてはおらん」
「えー?」
亜樹子が頬を膨らませる。
「せっかく頑張ったのにー」
「……」
マリバロンはそっぽを向く。
しかし――。
その口元には、ほんの僅かな笑みが浮かんでいた。
「……まあ、悪くはなかったがな」
「え?」
「なんでもない!」
「絶対いま、嬉しかったでしょ!」
「うるさい!!」
そんな二人だったが――。
亜樹子の表情が突然変わった。
「あっ!」
「どうした?」
「そうだ!」
亜樹子がマリバロンに駆け寄る。
「いま翔太郎くんたちが外で戦ってるの!」
「ほう」
「ドーパントが二体!」
マリバロンの顔から笑みが消える。
「二体……?」
「それもなんか、めちゃくちゃ強そうなやつと!」
マリバロンは黙って考える。
「……ふむ」
マリバロンの瞳が鋭くなる。
「幹部クラスか?」
「たぶん!」
「なるほど……」
マリバロンは立ち上がった。
「ならば、奴らの力を測る絶好の機会やもしれぬな」
「マリバロンさん……?」
マリバロンは廃屋の外へ向かう。
「任せておけ」
そして一度、亜樹子へ振り返った。
「しかし、亜樹子」
「なに?」
「お前はここを退け」
「え?」
「これは……」
マリバロンは少しだけ言葉を選ぶように間を置いた。
「友である私からの頼みだ」
「……友?」
亜樹子が目を丸くする。
マリバロンは気まずそうに顔を背けた。
「……何度も言わせるな!」
「マリバロンさん……」
亜樹子の顔が一気に明るくなる。
「いいね!」
拳を握りしめる。
「頑張って!!」
「フン!」
マリバロンは歩き出す。
その背中に向かって、亜樹子は大きく手を振った。
「マリバロンさーん!!」
「……」
マリバロンは振り返らない。
だが――。
その口元には、また小さな笑みが浮かんでいた。
「友……か」
かつて怪魔妖族の大隊長として、誰かを「友」と呼ぶことなど考えもしなかった。
しかし今は――。
「……悪くないものだな」
そしてマリバロンは、ダブルたちが戦っている園崎家の庭園へ向かって走り出した。
マリバロンは、園崎家の庭園を駆け抜けていた。
普段ならば決して乱れぬ呼吸が、珍しくわずかに荒れている。
「はぁ……はぁ……」
それでも足を止めない。
「左翔太郎……持ち堪えろ!」
脳裏に浮かぶのは、先ほど別れた仮面ライダーの姿。
「ミュージアムの幹部クラスが二人……」
マリバロンは口元を吊り上げる。
「いったい、どれほどの実力なのか……気になるところだな」
その瞬間――
ドゴォォォン!!
屋敷の向こうから凄まじい爆発音が響き渡った。
マリバロンが立ち止まる。
「……そこか!」
一気に方向を変え、木々の間を駆け抜ける。
そして視界が開けた瞬間――。
「ぐっ……!」
そこでは、仮面ライダーダブルが激しい攻撃を受けていた。
ナスカドーパント――園崎霧彦が剣を振るう。
ザシュッ!
「くっ!」
ダブルが身を捻ってかわす。
だが、その直後。
「逃がさないわ」
タブー・ドーパントの掌から光弾が放たれる。
ドドドドドッ!!
「うおっ!」
ダブルが地面を転がる。
「翔太郎!」
フィリップが叫ぶ。
「分かってる!」
翔太郎が立ち上がる。
しかし、二人を挟み込むようにタブーとナスカが迫る。
フィリップが冷静に分析する。
「翔太郎、幹部級が二人同時に相手では分が悪い」
「……ああ」
翔太郎は拳を握る。
「引くべきだ」
「けどよ……」
翔太郎は園崎家の屋敷を振り返る。
「亜樹子がまだ中にいる」
「……」
「亜樹子を助けるのが先だ。けど、どうすれば――」
そのときだった。
「ふふふふ……」
タブーがゆっくりと右腕を上げる。
掌に、凄まじいエネルギーが凝縮されていく。
「これで終わりにしてあげるわ」
「……やべぇ」
翔太郎が身構える。
その瞬間――
キィン!!
何かが飛来した。
鋭利な金属片がタブーの拳をかすめ、地面に突き刺さる。
「っ!」
タブーが振り向く。
「何……?」
霧彦も目を見開く。
「誰だ?」
木々の奥から、女の笑い声が響く。
「ホホホホホ……」
カツン。
ヒールの音。
「やっと会うことが出来た」
ゆっくりと姿を現したのは――
メイド服姿のマリバロンだった。
「お前は……!」
タブーが警戒する。
マリバロンは、まるで舞踏会にでも現れたかのように優雅に歩いてくる。
そしてダブルの前で足を止めた。
「仮面ライダーダブルよ」
「姉さん!」
「ここは私が引き受ける」
「え?」
マリバロンはタブーとナスカを見据える。
「貴様は亜樹子と合流するといい」
「しかし……」
翔太郎は二人の幹部を見る。
「姉さん一人で幹部相手は――」
「黙れ!」
「!」
「黙らぬか!!」
マリバロンの一喝が庭園に響き渡る。
翔太郎は思わず口を閉ざした。
マリバロンは翔太郎を真っ直ぐ見つめる。
「私のことなど気にするな」
そして静かに言った。
「まずは依頼人に寄り添え」
翔太郎の表情が変わる。
「……」
「貴様の師の言葉、忘れるでないぞ」
その言葉に、翔太郎は黙り込む。
やがて帽子を被り直した。
「……わ、わりぃ」
そしてマリバロンに背を向ける。
「倒されないでくれよ」
「ふん」
マリバロンは鼻で笑った。
「誰に物を言っている」
翔太郎はそのまま走り去っていく。
「待て!」
霧彦が追おうとした、その瞬間――
ザシュッ!!
霧彦の足元に一本のナイフが突き刺さった。
「!」
霧彦が足を止める。
マリバロンは不気味な笑みを浮かべていた。
「動くでない」
「……」
「そして――」
マリバロンは両手を広げる。
「私は戦いに来たのではない」
タブーが訝しげに尋ねる。
「……戦いに来たんじゃない?」
「そうだ」
マリバロンは微笑む。
「話がしたくてな」
タブーは警戒しながら尋ねる。
「話……何かしら?」
マリバロンは一歩前へ進み出る。
そして――
「私をミュージアムの一味に入れてくれぬか?」
霧彦が目を丸くする。
「なに?」
「幹部待遇でな」
マリバロンは堂々と言い放つ。
「貴様達の目指す地球征服に、私の力を貸してやろうと思ってな」
「……」
タブーは沈黙する。
そしてマリバロンを観察する。
(確か……)
頭の中で、以前調べた資料を思い返す。
(ドーパントを単独で撃破するほどの戦闘能力を持つ、正体不明の魔女)
(異常な身体能力……不可解な術……そして、あのビーム状の鞭)
タブーの目が細くなる。
(この女――)
(ただ者ではない)
一方、霧彦は剣を構えたままマリバロンを睨んでいた。
「冴子さん……この女、信用できるんですか?」
「さあ?」
タブーは静かに答える。
「でも……」
その口元に、薄い笑みが浮かぶ。
「面白そうではあるわね」
タブーの言葉を聞いた瞬間――。
マリバロンの笑みが消えた。
「……ほう?」
「あなたの力は認めるわ。でも、ミュージアムは慈善団体ではないの」
タブーは冷たい声で続ける。
「あなたを幹部として迎えるなら、それ相応の条件を飲んでもらう」
「条件?」
「ええ。まず、あなたの正体と目的をすべて話してもらう。それから――」
タブーはマリバロンを見下ろすように言った。
「私たちの命令には絶対服従」
「…………」
「そして、あなたが持っている能力や技術についても、こちらに提供してもらうわ」
霧彦が横で聞いている。
「冴子さん、いくらなんでも――」
「黙っていて」
タブーは構わず続ける。
「それと、加入後の立場についてだけど、幹部待遇を希望しているようだけど――」
「待て」
マリバロンが低い声で遮った。
「まだあるのか?」
「ええ」
タブーは平然としている。
「ミュージアムの幹部になる以上、あなたが私たちを裏切らないという保証も必要ね」
「……」
「つまり、あなたの力をこちらで管理させてもらう」
マリバロンの眉がピクリと動いた。
「貴様……」
空気が変わる。
先ほどまで余裕の笑みを浮かべていたマリバロンの顔から、表情が消えていた。
「私を何だと思っている?」
「協力者候補よ」
「違う」
マリバロンは一歩前に出る。
「私は貴様らに力を貸してやろうと言っているのだ」
「だから条件を――」
「ええい!」
マリバロンの怒声が庭園に響いた。
「条件、条件、条件……!」
ビームウィップが地面を叩く。
ドゴン!!
石畳が砕け散った。
霧彦が思わず身構える。
「なっ……!」
マリバロンはタブーを睨みつける。
「私は怪魔妖族の大隊を率いた女だぞ!」
「……」
「諜報参謀として数多の戦場を生き抜き、クライシス帝国の四大隊長の一人にまで上り詰めた!」
「……」
「ならば――!」
マリバロンが胸を張る。
「私に命令するという、その態度を改めよ!」
タブーは冷たく笑った。
「ずいぶんプライドが高いのね」
「当然だ!」
マリバロンは怒りに震える。
「貴様らが私の力を利用したいだけなら、最初からそう言え!」
「……」
「私は誰かの奴隷になるために、ミュージアムへ入ろうとしたのではない!」
タブーはしばらくマリバロンを見つめた。
そして――
「交渉決裂ね」
「……そうか」
マリバロンは目を閉じた。
「ならば仕方あるまい」
ゆっくりとビームウィップを構える。
「私も、貴様らに興味がなくなった」
その瞬間――。
「ならば!」
ナスカドーパントが前へ出た。
「僕が相手をしよう」
マリバロンが振り返る。
「貴様が?」
「そうだ」
霧彦は剣を構える。
「仮面ライダーとの戦いで、僕もあなたの力には興味があった」
「ほう」
「それに……」
霧彦は笑う。
「ミュージアムを侮辱したまま帰すわけにはいかない」
マリバロンもニヤリと笑った。
「面白い」
「霧彦!」
タブーが止めようとする。
「下がっていてください、冴子さん」
霧彦は剣を構え直す。
「これは僕自身の意思です」
「……好きにしなさい」
タブーは距離を取った。
マリバロンとナスカ。
異世界の戦士とガイアメモリの怪人。
二人が向かい合う。
「行くぞ!」
ナスカが一気に踏み込む。
ザシュッ!!
剣がマリバロンの肩を狙う。
しかし――
キィン!
ビームウィップが剣を受け止めた。
「甘い!」
マリバロンが鞭を振るう。
霧彦は飛び退く。
「やはり強い……!」
「その程度か!」
マリバロンが追撃する。
ビュン! ビュン!
鞭が空気を切り裂く。
霧彦は剣で弾きながら距離を詰める。
「接近戦なら!」
ザシュッ!!
鋭い斬撃。
マリバロンは身体を反らしてかわす。
「ぬっ!」
「もらった!」
二撃目。
三撃目。
ナスカの剣が猛烈な速度で迫る。
しかしマリバロンは――
笑った。
「なるほど」
「何?」
「貴様、速いな」
マリバロンの瞳が鋭くなる。
「だが――」
次の瞬間。
マリバロンの姿が消えた。
「なっ!?」
「鏡渡りの術!」
霧彦の背後に紫色の光が現れる。
「そこだ!」
ビームウィップが霧彦を直撃する。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされるナスカ。
「まだだ!」
霧彦は空中で体勢を立て直す。
そしてナスカの翼を展開。
「これならどうだ!」
高速飛行。
マリバロンの周囲を旋回しながら、連続して斬撃を浴びせる。
「ふん!」
マリバロンは魔障結界を展開。
ガキィン! ガキィン!
すべての斬撃が結界に阻まれる。
「何!?」
「貴様の力――」
マリバロンが結界を解除する。
「確かに素晴らしい」
そしてビームウィップを構える。
「だが!」
一閃。
「私には届かぬ!」
ザシュン!!
ナスカの身体を鞭が打ち抜く。
「ぐああああっ!!」
霧彦が地面に叩きつけられる。
「あなた!」
タブーが叫ぶ。
しかしマリバロンは容赦しない。
「これで終わりだ!」
ビームウィップがナスカを絡め取る。
「なっ……!」
「怪魔妖族秘伝――」
マリバロンが腕を振り上げる。
「魔障裂断!」
ドゴォォォン!!
ナスカが地面を転がる。
変身が解除され、霧彦が人間の姿に戻った。
「くっ……!」
マリバロンは霧彦を見下ろす。
「見事だったぞ」
「……負けたよ」
霧彦は悔しそうに笑った。
「あなた……本当に何者なんだ?」
「だから言ったであろう」
マリバロンは背を向ける。
「怪魔妖族の大隊長だ」
タブーは無言で二人を見つめていた。
マリバロンは振り返る。
「貴様…」
「何?」
「貴様らミュージアムの力は、確かに興味深い」
「……」
「だが、今の私には仮面ライダーの方がよほど面白い」
タブーは目を細める。
「そう」
「そして――」
マリバロンは不敵に笑った。
「貴様らが何を企んでいるのか、いつか必ず突き止めてやる」
「敵になるつもり?」
「さあな」
マリバロンは踵を返す。
「だが、一つだけ覚えておけ」
「私は誰の下にもつかぬ」
そのまま闇の中へ歩き去っていく。
タブーは追わなかった。
「……面倒な女」
霧彦が立ち上がる。
「ですが、強かったですね」
「ええ」
タブーはマリバロンが消えた方向を見る。
「敵に回したくはないわ」
――その頃。
園崎家から少し離れた場所。
「マリバロンさん!」
亜樹子が駆け寄ってくる。
その後ろには浅川麻衣と、救出された父・雄三。
「みんな無事だよ!」
マリバロンは腕を組む。
「当然だ」
「翔太郎くんもフィリップくんを迎えに行ってて、もうすぐ来るって!」
「そうか」
マリバロンは少しだけ笑う。
そこへ翔太郎が走ってくる。
「姉さん!」
「左翔太郎」
「大丈夫か?」
「誰に物を言っている」
「……だよな」
翔太郎は苦笑する。
そして麻衣が父親に駆け寄る。
「お父さん……!」
「麻衣……」
二人は強く抱き合う。
翔太郎はその光景を静かに見つめる。
「……これで依頼は完了だな」
フィリップも頷く。
「そうだね」
亜樹子は笑顔で言う。
「よかった……本当によかった!」
マリバロンはそんな三人を見て、ほんの少しだけ表情を和らげた。
「ふん……」
「どうしたんだ、姉さん?」
「何でもない」
マリバロンはそっぽを向く。
「ただ――」
「依頼人が無事なら、それでよい」
風都の夜に、静かな風が吹いた。
こうして、パティシエ連続失踪事件は幕を閉じた。
だが――。
園崎家の屋敷では、琉兵衛が一人、博物館の展示品を眺めていた。
「ふふふ……」
「実に愉快な夜だった」
そしてその口元に、不気味な笑みが浮かぶ。
「さて……次はどんな“客人”が、この風都を訪れるのかな?」
風都にはまだ、幾つもの謎が眠っている。
そして鳴海探偵事務所にも――
新たな依頼が訪れようとしていた。