「過去は消えない! ザ!! 自業自得だぜ!!」
全国、そして世界中に生中継された悪夢の告白——になるはずだった。黒い髪を洗い流し、自らの凄惨な過去を明かそうとした荼毘は、何を思ったか突如として『ミーモ・ダンシング』の鏡慶志郎も真っ青な、キレッキレのステップを披露し始めたのである。
ステップを踏むたびに舞い散る青い炎と、人間の領域を超えた圧倒的な軸のぶれなさ。プロヒーローも、テレビ画面に釘付けになった日本国民も、果ては海外の視聴者までもがその神がかったパフォーマンスに心を奪われた。重々しいはずだった過去の暴露は、最後の「さァ一緒に堕ちよう 轟炎司!! 地獄(こっち)で息子(おれ)と踊ろうぜ!!! なぁ!! お父さん!!!」という決めフレーズしか人々の記憶に残らず、完全に「伝説のダンスパフォーマンスの決め台詞」として処理されてしまったのだ。
生中継が終わった後、アジトに潜伏していたヴィラン連合の面々は、首をかしげながらテレビやスマホを眺めていた。
「……なんか、思ったより社会が平和だね?」
死柄木弔の呟きに、トガヒミコやスピナーも深くうなずく。世間の反応を見るべくネットを調査してみると、トレンドのトップに並んでいたのは信じがたいワードの数々だった。検索を深く進めるにつれ、事態の異常さが浮き彫りになっていく。
エンデヴァーに対する世間の評価は、ヒーロー社会の闇に対する憤りなどではなく、「息子のこれほどのダンスの才能を見抜けず、抑圧して放り出したクズ親」という謎の方向性で炎上していた。さらに詳細を調べると、「ダビダンス」の告白内容は世間にほとんど伝わっておらず、動画サイトでは「史上最高の神ステップ」「炎を纏った芸術的パフォーマンス」として世界中でバズり散らかしていることが判明する。
「……どういう事!?」
画面を見つめたまま、荼毘は完全に呆然と立ち尽くした。復讐の炎を燃やし尽くしたはずの男の顔は、困惑と虚無感で白く染まっている。かけるべき言葉を失った死柄木やトガたちは、なんと言えばいいのか分からず、ただ気まずそうに視線を泳がせるしかなかった。
静まり返るアジトに、突如として陽気なチャイムが響き渡る。
「郵便デース!」
扉の隙間から滑り込んできたのは、海外からの国際速達便だった。開封してみると、そこにはアメリカの世界的有名ダンスチームからのメッセージが添えられていた。
『君のステップに痺れた! ウチに来ないか!?』
やることがなくなって完全に燃え尽き症候群になっていたヴィラン連合は、この謎の熱意に押される形で、これを機にあっさりと全員で渡米することとなった。
アメリカに到着するやいなや、ダンスチームのオーナーは荼毘の身体を見るなり頭を抱えた。
「オーマイガー! 君の体ボロボロじゃないか! うちのチームで踊るなら、まず金を出すから最高の病院で治してきなさい!」
「えっ」
荼毘の困惑を置き去りにしたまま、アメリカの最先端医療と「個性」治療の専門チームによる集中治療が開始された。数週間後、信じられないことに皮膚の縫合痕や重度のやけどはきれいに消え去っていた。
「……完治した……」
自分の手を見つめて呟く荼毘に、担当医は爽やかな笑顔で告げた。
「うん、ついでに寿命もすっごく短くなってたから、最先端技術でしっかり伸ばしておいたよ!」
「」
絶句する荼毘を置き去りに、ダンスチームのメンバーたちがドアを勢いよく開けて入ってきた。
「Come On! 最高の体になったな! さあ、世界を踊らせに行こうぜ!」
「……やってやらぁ!(ヤケクソ)」
投げやりな覚悟と共にダンスの世界へ飛び込んだ荼毘だったが、その才能は本物だった。
それからしばらくして——ヴィラン連合の面々は、アメリカの地でそれぞれが思い描いた以上の幸せな日常を満喫していた。
「なんやかんやプロゲーマーになって、毎日ゲーム三昧で楽しく暮らしてます!」
配信画面の前でコントローラーを握りしめ、死柄木は満面の笑みを浮かべていた。
「アメリカは異形型への個性差別が少なくて最高だな!」
スピナーは街の人々と笑顔でハイタッチを交わし、自由な空気をごくごくと噛みしめている。
「私の吸血衝動を全身全霊で引き受けてくれるボーイフレンドが出来ました〜!」
嬉しそうにはしゃぐトガの横には、金髪をオールバックにし、派手なシャツを着こなした男が立っている。
「Hey!」
その顔立ちは、どう見てもあの『ミーモ・ダンシング』の鏡慶志郎そのものであった。
そして、当の荼毘はといえば——。
「ダンスで世界取りました!」
世界最高峰のステージで圧巻のパフォーマンスを披露し、一躍世界のトップスターに君臨していた。世間的に「炎のヒーロー・エンデヴァー」の存在感を完全に食ってしまったことで、「まぁ親父の影は完全に消せたし、なんやかんや復讐出来てるしいっか」と、荼毘自身も謎の満足感を得ていたのだった。
そんなある日の楽屋裏。同じダンスチームのメンバーである女性ダンサーが、荼毘に近づいてきた。ロングの紫髪を目元まで伸ばした、まるで『Fate/stay night』のメデューサを彷彿とさせるクールで妖艶な美女である。
「ねえ荼毘、私たち付き合わない?」
「OK! ……待って今なんて」
「Let's Go!」
「ァァァァァ!」
拒否権を与える間もなく、圧倒的な力で抱き抱えられた荼毘は、そのまま夜の街へと連れ去られていった。
翌朝。
「oh…♥ oh…♥」
満足そうに吐息を漏らし、艶やかな笑みを浮かべる彼女の横で、荼毘は真っ白な灰のようにゲッソリと痩せこけてベッドに横たわっていた。世界を制したダンサーも、彼女の情熱には勝てなかったようである。その後、二人は無事に結婚し、末永く幸せに暮らしたのだった。
——そして時は流れ、舞台は日本の雄英高校ヒーロー科。
2年生に進級した緑谷出久たちは、近づいてきた文化祭の出し物について話し合っていた。満場一致で出し物が「ダンス」に決定した際、芦戸三奈がテンション高く1枚のDVDを持ち込んできた。
「みんなー! 本場アメリカから、世界的ダンサーが教える最高のレクチャーDVD取り寄せたよー!」
「おおっ!流石芦戸!」
ワクワクした様子で生徒たちがモニターを囲む中、再生ボタンが押される。
画面に映し出されたのは、色鮮やかな最先端のダンススタジオ。そしてカメラの前で、恐ろしいほどのキレでステップを踏みながらハキハキと指導する、一人の男の姿だった。
『はいそこ! 過去は消えないんだからもっと腰落として!!』
画面の中で眩しい笑顔を振りまく、ツヤツヤの肌をしたダンスコーチ・荼毘。
「「「「「えええぇぇぇ!!!???」」」」」
画面の中の元・最悪のヴィランと、完璧すぎる指導内容。
理解が追いつかないA組のメンバーたちの絶叫が、雄英高校の校舎全体にどこまでも響き渡るのだった。
轟家の反応
1. エンデヴァー(轟 炎司)の反応
「俺の罪は……そっちなのか……!?」
電波ジャックされたあの日、エンデヴァーは死を覚悟していました。「自分の過去の過ちがすべて晒され、ヒーロー社会は崩壊し、俺は罪人として糾弾されるのだ」と。
しかし、隣にいたホークスが引きつった顔で差し出してきたスマホの画面には、信じられない言葉が並んでいました。
《エンデヴァー、息子のダンスの才能潰したの罪深すぎだろ》
《あんなキレキレのステップ踏めるのに炎の特訓強制してたの? 毒親の極み》
《スカウトの目なさすぎワロタ。芸能事務所の社長なら即クビレベル》
「……え? 俺の罪は……虐待とか……エゴの押し付けとかでは……?」
呆然とするエンデヴァーに、ホークスは気まずそうに「なんか……『息子の才能を見抜けなかった最低な親』として炎上してますね。あ、ちなみに『過去は消えないステップ』の歌ってみた&踊ってみた動画、TikTokでミリオン再生いってます」と追い打ちをかけました。
世間からのバッシングの理由が「毒親」ではなく「無能な芸能プロデューサー」的な方向だったことに、エンデヴァーは深い困惑と謎のショックを受けることになります。
2. 轟 夏雄の反応
「親父……あんたマジで最低だな!!!」
いつも通り父親への怒りを爆発させる夏雄でしたが、そのベクトルは微妙にズレていました。
「昔から親父がゴミなのは知ってたけどさぁ! 燈矢兄がこんなダンスの天才だってことすら気づいてやれなかったのかよ!! あんな軸のぶれないステップ、幼少期から踊ってなきゃ絶対に踏めねぇだろ! どんだけ子供のこと見てなかったんだよ!!」
「えっ、夏雄……そこ……!?」と狼狽するエンデヴァーに対し、夏雄はすでにYouTubeで「荼毘ダンス・スロー再生解説動画」をチャンネル登録していました。
3. 轟 冬美の反応
「燈矢兄、全米1位だって!! DVD予約しなきゃ!」
最初はショックで泣いていた冬美でしたが、ネット上が「荼毘かっこいい!」「不遇の天才ダンサー」と大絶賛されているのを見て、徐々にお姉ちゃん(妹)の推し活モードが覚醒。
荼毘が渡米してトップスターになると、すぐさま公式ファンクラブに入会。
「お父さん! 燈矢兄がアメリカの音楽チャートで1位獲ったよ! 今度のツアー、チケット取れたら家族みんなで行こうね!」と笑顔でエンデヴァーに圧をかけるようになり、轟家の居間には荼毘のポスターが飾られることになりました。
4. 轟 冷の反応
「あの子のリズム感は……きっと私の家系譲りね」
病院のTVで息子のダンスを見守っていた母親の冷。
ボロボロの体で完璧なステップを踏む燈矢を見て静かに涙を流していましたが、重苦しい告白の内容よりもステップのキレに目が行き、病室でそっとお茶をすすりながら呟きました。
「そういえば私の弟も、昔ディスコでブイブイ言わせていたわ……。燈矢、あんなに元気に踊れて……よかった……」
母親の謎の納得により、冷の中で「燈矢の件」はだいたい解決しました。
5. 轟 焦凍の反応
「父上。俺の『ザ!!自業自得だぜ』の腰の入れ方はこれで合っているか?」
一番真面目に受け止めたのが焦凍でした。
焦凍は「兄のダンスには、父への長年の怨念と炎の波動が込められているはずだ」と超解釈。兄の教え(?)を理解するため、雄英の寮の部屋で夜な夜な『過去は消えないステップ』を猛練習していました。
週末、実家に帰ってきた焦凍は、居間にいたエンデヴァーの前で突如として無音でキレックレのダンスを披露。
「……焦凍?? お前、何を……??」
「兄のステップだ。俺もこの技(ダンス)を極めれば、兄の気持ちがわかるかもしれない。父上、俺の決めポーズの角度はどうだ?」
「焦凍おおおおお!! お前まで何を踊っているんだあああ!!」
後日談の裏側:エンデヴァーの密かな努力
その後、荼毘がアメリカで皮膚も完治し、メデューサ美女と結婚して幸せになったというニュースが日本に届いた時。
エンデヴァーは「……そうか、あいつは……幸せになったのか……」と安堵すると同時に、父親としての意地(?)が芽生えてしまいました。
ある日の深夜。事務所の社長室で鍵をかけたエンデヴァーは、こっそり取り寄せた『ダンスコーチ・荼毘の初心者向けレッスンDVD』を再生していました。
『はい父上! 過去は消えないんだからもっと腰落として!!』
画面の中の息子に指導されながら、「こうか……? 過去は消えない……ザ!!自業自得……っ!?」と必死にステップを踏もうとしたエンデヴァーでしたが、あまりの激しい腰の捻りにそのままギックリ腰を発症。
床に倒れ伏しながら、エンデヴァーは涙目で呟くのでした。
「……ぐぬぬ……これが……地獄で踊る……ということか……(激痛)」