病院で目を覚ました和戸たけるは、自分の過去を思い出せなくなっていた。名前も、生活の知識も、仕事の技術も残っている。けれど、見舞いに来た帆羽くれあと森亜るるかの顔には、覚えがなかった。

 二人は彼を「たける」と呼び、彼は二人を名字で呼ぶ。

 退院後、少しずつ日常を取り戻していくたける。何気なく選んだソファの席、紅茶に入れる砂糖の量。そんな些細なことに微笑む二人を見て、自分が忘れてしまった時間を、彼女たちは覚えているのだと気づく。

 以前の自分は、二人とどんなふうに過ごしていたのだろう。

 その日々を知りたくて、たけるは馴染みの場所を訪ね始める。