ジュラテンペスト連邦にアイツらが……!

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ムコーダ御一行、首都リムルにて…

### 第一章:噂の都と、見知らぬ風の匂い

異世界の空は広い。だが、目の前に広がる光景の異様さは、その広さすら霞ませるほどだった。

「……なぁ、フェル。本当にここ、魔物の国なんだよな? 俺、見間違いとかしてないよな?」

平原を抜ける街道の小高くなった丘の上で、ムコーダは思わず眼前に迫る大都市を指差しながら、情けない声を漏らした。

傍らにたたずむ巨大な銀狼——伝説の魔獣フェンリルのフェルは、深々とした溜め息をつき、その立派なフサフサの尻尾を不機嫌そうにひと振振るう。

『ぬぅ……我の記憶にある「魔物の集落」とは、せいぜい泥を固めた穴ぐらや、粗末な木の柵で囲われた程度のもののはずなのだがな。あの巨大な石造りの城壁、規則正しく並ぶ建造物、それに……見たこともない滑らかな舗装道路。あれは一体何なのだ?』

「だよねぇ!? 電柱こそないけど、なんか近代都市っていうか、下手をしたら地球のちょっとした観光都市レベルじゃないか……!?」

ムコーダたちが旅の途中で立ち寄った街の酒場やギルドで噂に聞いていた「ジュラ・テンペスト連邦国」。

その首都である「リムル」の姿は、ムコーダがこれまで渡り歩いてきたレオンハルト王国やエルマン王国などの人間の国々を遥かに凌駕する文明力を誇っていた。

「スイねー、あまい匂いがするのー! あるくお肉さんもいっぱいいるよー!」

ムコーダの革袋からぽよんと飛び出したぷにぷにの青いスライム、スイが嬉しそうに体を上下に揺らす。スイの感覚では、遠くに見える街からは美味しそうな匂いと、たくさんの生き物の気配が伝わってくるらしい。

「へっ、どれだけ街がでかかろうが、俺たちの目当ては美味いメシだろ! ムコーダ、街に入ったらすぐ肉料理屋を探そうぜ! この前の『ワイバーンのお肉の特製タレ焼き』も美味かったけど、新しい街には新しい美味いもんがあるはずだ!」

ムコーダの肩のあたりを元気に飛び回るのは、小型の龍であるピクシードラゴンのドラちゃんである。小さな体を一杯に使って翼をはためかせ、待ちきれないといった様子で鼻を鳴らした。

「はいはい、分かったから暴れるなよドラちゃん。……それにしても、フェル。一応、ここは魔物の国なんだ。いくらフェルやスイ、ドラちゃんが強いからって、無用なトラブルは避けたいんだからな? 俺は平和に買い物ができて、静かに美味しいものが食べられればそれでいいんだから」

『ふん、何を日よけなことを言っておるのだ。我らに挑みかかる愚か者がおれば、喰らい尽くすのみよ。……だが、あの街の中心から感じる気配は、少々尋常ではないな。……異様なまでに強大な魔素(まそ)の渦を感じる。』

フェルの黄金色の瞳が、一瞬だけ鋭く細められた。

普段ならどんな強敵を前にしても「我の敵ではない」と一蹴するフェルが、わずかに警戒の色を見せたのだ。ムコーダの背中に冷たい汗が伝わる。

「え……マジで? やっぱりやめとく? 迂回する?」

『バカを言え、ここまで来て引き返せるか。それに、あの街からは確かに美味そうな肉の焦げる匂いが漂ってきているのだ。我の胃袋が、行けと命じている。』

「結局喰い気かよ……!」

ムコーダは頭を抱えつつも、足を止めるわけにもいかず、重い足取りで舗装された立派な街道を下り始めた。

街道を進むにつれて、すれ違う人々の姿も異常だった。

全身鎧に身を包んだガチガチの冒険者もいれば、角の生えた鬼族(オーガ)、二足歩行する狼(ウルフ)、小柄な小鬼族(ゴブリン)たちが、実に仲睦まじく会話を交わしながら行き交っている。人間と魔物が一切の隔たりなく——共存しているのだ。

「すっげぇ……人間と魔物が普通に買い物してる……。本当にここ、異世界なんだよな?」

ムコーダが感嘆の声を上げた、まさにその時だった。

突如として、周囲の空間の「色」が消えた。

空中を流れる風がピタリと止まり、太陽の光が歪む。

次の瞬間、ムコーダたちの周囲360度を、凄まじい密度の「負の感情」と「圧倒的な魔圧」が覆い尽くした。

「ヒッ……!? な、なに、なに何!?」

ムコーダは恐怖のあまり膝がガクガクと震え、その場に崩れ落ちそうになる。

スイは目ざとくムコーダの背中に隠れ、ドラちゃんも威嚇するように身構えた。

そして——フェルが全身の毛を逆立て、低く地響きのような唸り声を上げた。

『ぬおおおっ……! 殺気……! いや、これは「存在」そのものの圧か……!? 何者だっ!!』

空間が不自然に歪み、影の中から四つの影が緩やかに現れ出でた。

それは、洗練されすぎた漆黒の燕尾服やドレッシーな服に身を包んだ、異様なまでに美麗な男女たち——。

「クフフフフ……。怪しい者たちですね。我が主(あるじ)、リムル様のおわす尊き都に、これほどまでの魔力を秘めた獣が土足で踏み入ろうとは」

優雅に頭を下げながらも、その瞳には凍てつくような殺意を宿した、黒髪に赤と黄色のメッシュが入った男——『原初の黒(ノワール)』こと、ディテールまで完璧な執事姿の**ディアブロ**。

「あらぁ? 可愛いスライムちゃんと、生意気そうなトカゲちゃん。それに……ちょっと大きめのワンちゃんかしら? リムル様のお邪魔をするなら、僕がグチャグチャに潰しちゃってもいいのかな?」

少女のような可憐な容姿とは裏腹に、世界を滅ぼしかねない極悪な魔力を指先で転がす、紫髪の少女——『原初の紫(ヴィオラ)』こと**ウルティマ**。

「ハッはー! 面白そうなのが来たじゃない! ねぇねぇ、そこのデカい犬! 私の拳骨と、アンタの牙、どっちが硬いか試してみない!?」

破天荒な笑みを浮かべ、今にも跳びかからんばかりに拳を鳴らす黄金の髪の少女——『原初の黄(ジョーヌ)』こと**カレラ**。

「お静かに、カレラ、ウルティマ。……貴方たち、どのような意図でこの国へ来られたの? 申し開きの如何によっては、ここを貴方たちの墓場とさせていただきますわ。」

冷徹にして完璧なる美貌、白い軍服に身を包み、存在するだけで周囲の空間を凍てつかせる——『原初の白(ブラン)』こと**テスタロッサ**。

いわゆる『ブラックナンバーズ』——リムル・テンペストの直属であり、この世界のパワーバランスを崩壊させる極悪の悪魔たち(原初の悪魔)が、ムコーダ御一行を完全に包囲していたのである。

『な……なに……!?』

フェルの額から、冷や汗が流れた。

神話の時代から生きるフェンリルであるフェルですら、この四人の異常さを瞬時に理解した。

(くっ……! この四人、なんだ!? 悪魔(デモン)の類であることは分かるが……こんな出鱈目な密度の魔素を秘めた悪魔など、我の知識に存在せんぞ!? ネームド……いや、それどころではない! 上位魔神すら子供に見えるほどの化け物ではないか……!!)

さらに、事態はそれだけでは終わらなかった。

「何事だ! リムル様の都の街道で不穏な動きを見せる者は!」

ドォン! と激しい音を立てて上空から舞い降りたのは、赤い髪に立派な一本角を生やした男——**ベニマル**。

その隣には、身の丈を超える巨大な大剣を軽々と肩に担ぎ、豊満な胸を誇示する紫髪の鬼族の美女——**シオン**。

「チッ……ディアブロたちか。抜け駆けは許さんぞ。リムル様の治安を守るのは我ら親衛隊の役目!」

「そうですわ! どのような怪しい者であろうと、リムル様へ仇なす可能性が万に一つでもあるのなら、私のこの大剣で肉みじんに刻んで差し上げます!」

「殺気立つのをやめなさい、二人とも! まだ敵と決まったわけではありません!」

最後にふわりと舞い降りたのは、桃色の髪に二本の可愛らしい角を生やした、清楚で美しい姫君——**シュナ**だった。

一瞬にして取り囲まれた、ジュラ・テンペスト連邦国が誇る最高戦力たち。

その圧倒的な圧力を前に、流石のフェルも全身の筋肉を緊張させ、爪を地面に食い込ませる。

(オーガ……? いや、オーガだと!? 鬼族のネームド……!? 我の知るオーガは、せいぜい集団で狩りをする程度の低級な魔物のはず! なぜこれほどの『神性』すら帯びた魔素を纏っているのだ!? 伝承にある『鬼神』とでもいうのか……!?)

フェルは焦っていた。

もしここで戦いになれば、自分一人なら相打ち覚悟で戦えるかもしれない。だが、後ろにいるムコーダやスイを守りながらこの化け物たち全員を相手にするなど、到底不可能だ!

「ひぃぃぃぃっ! ご、ごめんなさい! 俺たち、ただ観光に来ただけで! 美味しいものが食べられるって噂を聞いて来ただけでぇぇっ!!」

ムコーダは地面に伏し、全速力の土下座をかました。

生粋の日本人であるムコーダの第一選択は、いつだって圧倒的謝罪である。

ドラちゃんも「なんだあいつら、ヤバすぎるだろ……!」と青ざめてムコーダの頭の後ろに隠れ、スイだけが「むー? なにか楽しそうなのー?」と空気の読めない声を上げている。

ディアブロが冷酷な笑みを深め、細長い爪をムコーダの首元に向けようとした、その時——。

「——いーかーげんーにーしーろーおー前たちーーーっ!!!」

甲高い、だがどこか愛嬌のある声が上空から響き渡った。

「ぽよん」と一匹の水色のスライムが空から落ちてきて、ディアブロの顔面にダイレクトヒットした。

「ぐふっ!? リ、リムル様のアタッチメント……!?」

「ディアブロ! テスタロッサ! ベニマルもシオンも! お前たち、街のすぐ近くで何重圧放ちまくってんだよ! 街道を行き交う商人の人たちが腰抜かしてんだろうが!」

スライム——リムル・テンペストは、ぽよんと着地すると、一瞬で光に包まれ、綺麗な銀髪に金の瞳を持つ、可憐な少年の姿(人間態)へと変化した。

「え……スライム……? 人間になった……?」

ムコーダが目を見開いて硬直する。

『ぬ……!? あのスライム……只者ではない。体内に秘めた魔素量が……異常だ……!』

フェルもまた、リムルの登場によってさらに戦慄していた。見た目は子供のようだが、その内側に秘められた魔素の量は、先ほどの四人の悪魔すら束にしても敵わないほどの膨大さだったからだ。

リムルは溜め息をつきながら、頭を抱えた。

「ったく、ちょっと目を離すとすぐこれだ……。あ、すいませんね旅の人。うちの部下が物騒で……って、ん?」

リムルは土下座しているムコーダの姿をジッと見つめた。

その服装、その雰囲気、そして何より——先ほど発した「ごめんなさい! ただの観光でー!」という日本語のニュアンス。

「……あの、失礼ですけど。あなた……もしかして『向こう』の人?」

「え?」

ムコーダは顔を上げた。

「向こう」——その言葉の意味を、ムコーダは瞬時に理解した。

「あ……あなた……もしかして、日本人……ですか!?」

「やっぱり! いやぁ、懐かしいな! 俺、リムル! 元・三上悟(みかみさとる)! 日本でシスコシステムの関連会社でサラリーマンやってたんだけど、通り魔に刺されて気がついたらスライムになっててさぁ!」

「み、三上さん!? 俺はムコーダ……向田剛志(むこうだつよし)です! 勇者召喚に巻き込まれてこの世界に来て……!」

「「うわあああ! 同郷の人だーーーっ!!」」

がしっと固い握手を交わす二人。

周囲のベニマルやディアブロたちは、「リ、リムル様と同郷の者……!?」と驚愕の表情を浮かべている。

フェルだけが、呆れたように鼻を鳴らした。

『む……? なんだ、その妙なテンションは。異界の者同士ということか?』

「いやー、嬉しいなぁ! この世界に来てから異世界人には何人か会ったけど、こんな風に普通に話せる日本人と会うのは久しぶりだよ! あ、そっちのデカい狼さんがフェンリル? 凄まじい気配だね」

「あ、はい。一応従魔のフェルです。で、こっちがスイとドラちゃん」

「スイだよー! ぽよぽよスライム仲間だねー!」

「俺はドラちゃんだ! よろしくな!」

「おお、可愛いなぁ! スイちゃんにドラちゃんか! いやぁ、歓迎するよ! ささ、立ち話も何だし、我が国『ジュラ・テンペスト連邦国』へようこそ!」

リムルの気さくな一言で、先ほどまでの緊迫した殺伐とした空気は一瞬で霧散したのだった。

### 第二章:奇跡の雫と、狂喜乱舞の姫君

テンペストの賓客館。

最高級の調度品が並ぶ豪華な応接間に通されたムコーダは、ふかふかのソファに深々と腰掛け、ようやく生きた心地を取り戻していた。

フェルは部屋の隅で巨体を横たえ、スイとドラちゃんはテーブルの上で出された果物を突いている。

正面にはリムル、そしてその脇にはお茶を給仕するために控えているシュナ、さらには護衛(という名の見張り)として静かに佇むディアブロの姿があった。

「いやぁ、本当に災難だったね。うちのブラックナンバーズ(悪魔たち)は過保護すぎて困るよ」

リムルが苦笑しながら、出されたお茶を啜る。

「いえいえ……無事でよかったです。一時はどうなることかと……」

ムコーダは胸を撫でおろしながら、ふと思い出した。

(そういえば、同郷の人に会えたんだ。何か手土産というか、挨拶代わりのものをお渡しした方がいいよな……。リムルさん、スライムだけど今は人間の姿だし、冷たい飲み物とか喜ぶかな?)

ムコーダは自身の固有スキル【ネットスーパー】をこっそり起動した。

頭の中に浮かぶ、見慣れた通販サイトの画面。

(えーっと、ジュース類、ジュース類……。あ、これなんかどうだろ? 最近ネットスーパーの輸入食品フェアで入荷してて気になってたやつ。東南アジア系とかで人気の『タマリンドジュース』!)

タマリンド。甘酸っぱくてフルーティ、甘みと酸味のバランスが絶妙で、疲れた体に染み渡る独特の味わいが特徴的なトロピカルドリンクである。日本の普通のスーパーではあまり見かけないが、ネットスーパーならではの豊富な品揃えの中にラインナップされていたのだ。

ムコーダは画面上で「タマリンドジュース(缶)」と「氷入りのグラス」を数個ポチり、決済を済ませた。

カシャコン、と空間から現れた段ボールから、冷えたタマリンドジュースの缶とグラスを取り出す。

「あの、リムルさん。大したものではないんですが……同郷のよしみというか、俺のスキルで取り寄せた飲み物なんですけど、よかったらどうぞ」

「え? スキルでお取り寄せ? ……あ、もしかしてそれが噂に聞く『ネットスーパー』ってやつか! 凄いなそれ! どれどれ……」

ムコーダは冷えたグラスに、褐色の透き通ったタマリンドジュースを注ぎ、リムル、そして給仕をしてくれていたシュナの分も差し出した。

「シュナさんも、よかったらどうぞ。甘酸んっぱくて美味しいですよ」

「まあ、私にまで? ありがとうございます、ムコーダ様」

シュナは上品に微笑み、両手でグラスを受け取った。

「タマリンドジュースねぇ。昔、エスニック料理屋で飲んだことあるような……。どれどれ」

リムルがグラスを傾け、ゴクリと一口飲んだ。

次の瞬間——リムルの目がカッと見開かれた。

「〜〜〜〜〜〜っ!??!?」

『解。対象の体内に摂取された物質に含まれる栄養成分、および微小な魔力活性因子を計測。疲労回復効果、精神活性効果、および味覚中枢への極めて高い多幸感の付与を確認しました。』

リムルの脳内で<<神智之核(シエル)>>の無機質なアナウンスが流れるが、そんな解説などどうでもよくなるほどの衝撃がリムルを襲っていた。

「う……美味い……!! 何だこれ!? 甘い! でもただ甘いだけじゃない、絶妙な酸味が喉を駆け抜けて、後味が驚くほど爽やか……! 冷たさと相まって、全身の細胞に染み渡るようなこの美味さは何だーーーっ!?」

「え、あ、そんなに喜んでもらえるとは……」

ムコーダが苦笑いしていると、隣でグラスを手にしていたシュナの様子がおかしくなっていた。

「……っ!?」

シュナの真っ白な頬が、みるみるうちに朱に染まっていく。

その両手は微かに震え、桃色の瞳は潤み、息を荒くしていた。

「な……なんですか……この、お飲み物は……っ!?」

「え? シュナさん?」

「甘み……果実の豊かな甘みが口いっぱいに広がったかと思えば、それを追いかけるようにやってくる、清々しい酸味……! それらが完璧な調和を保ち、氷の冷たさとともに喉を通り抜けていく……! この奥深い風味、果実の旨味を極限まで引き出した奇跡的な配合……! 私がこれまで作ってきたどんな果汁ジュースも、この一杯の前には赤子同然……っ!!」

「し、シュナ!?」

リムルが引くほどのテンションで、シュナが熱弁を振るい始めた。

普段は淑やかで品のあるテンテンの姫君が、完全にキャラ崩壊を起こしている。

「素晴らしい……! 素晴らしすぎます、ムコーダ様! この甘みと酸味の黄金比率! これがあれば、どのような肉料理の口直しにも、どのような高級和菓子の引き立て役にもなり得ます! ああ、なんという至高の雫……っ!」

シュナはグラスを両手で大切そうに抱え、まるで神聖な宝物を奉納するかのように感極まった表情を浮かべた。

「おいおい……シュナがここまで取り乱すなんて、シオンの料理(ダークマター)を美味いと言わされた時以来だぞ……」

リムルが冷や汗を流しながら呟く。

「クフフフフ……。なるほど、我が主をこれほどまでに感嘆させ、シュナ様を狂喜乱舞させるとは。ムコーダ殿、貴方の持つその『ネットスーパー』という能力、ただの物品引き寄せスキルではありませんね?」

後ろで控えていたディアブロが、怪しい笑みを浮かべながらムコーダを見つめていた。

「いやいや! ただの日本のスーパーから食材を買えるだけのスキルですから! 政治的な価値とか一切ないですからね!?」

ムコーダは慌てて手を振った。

そんな賑やかな応接室の扉が、突然ドシンと開いた。

「リムル様! 各国からの使者の方々が続々と到着されております! 会談の準備が整いました!」

駆け込んできたのはベニマルだった。

「あ、そっか。もうそんな時間か」

リムルは表情を引き締めた。

「そうなんだよムコーダ。実は今日、このテンペストで『人魔会談』が行われるんだ。魔王達(ワルプルギスで仲良くなった奴ら)や、周辺諸国の重鎮……ブルムンド王国やサラオン諸国、さらには神聖法皇国ルベリオスの要人まで集まってさ。これからの世界の方針を話し合う重要な会談なんだよ」

「は、はぁ……すごい規模の話ですね……」

自分には全く関係のない雲の上の話だ、とムコーダが他人事のように頷いていると、リムルが「ニヤリ」と邪悪な笑みを浮かべた。

「でね? 会談の後は、当然『晩餐会』があるわけだ」

「はい。美味しそうなお料理が出るんでしょうね」

「そう! その晩餐会の料理なんだけど……シュナがメインで仕切る予定だったんだ。でもさぁ……」

リムルはシュナの方を見た。

シュナは未だにタマリンドジュースのグラスを抱え、「この酸味……料理のソースに応用すれば……いや、肉の漬け込みダレとしても……」とブツブツと独り言を呟きながら、自分の世界に入り込んでいる。

「ご覧の通り、シュナが完全に『食の探求者』モードに入っちゃってさ。それに……各国から来るVIP(特に魔王のミリムやラムリス、それに食いしん坊な連中)を唸らせるには、普通の最高級料理じゃ物足りないと思ってたんだよね」

「……あの、リムルさん? なんだか嫌な予感がするんですけど……」

ムコーダがジリジリと後ずさりする。

リムルはムコーダの肩にぽんと手を置いた。

「ムコーダ。お前、料理得意だろ? フェンリルやピクシードラゴンを胃袋で従わせるレベルの料理人だろ?」

「いやいや! 俺はただの家庭料理に毛が生えた程度で! ネットスーパーの市販の調味料を使ってるだけで——」

「それがいいんじゃないか!!」

リムルが身を乗り出した。

「日本の調味料、日本の味付け、そしてネットスーパーの豊富な食材! これ以上の『おもてなし』があるか!? シュナと一緒に、今日の晩餐会のメイン料理を作ってくれないか!?」

「ええええええっ!? 無理ですよ! 国王とか魔王が集まる晩餐会なんて、一商人(兼冒険者)の俺が作れるわけないじゃないですか!」

『ぬ? ムコーダよ、なぜ断るのだ?』

ここで余計な口を出したのは、横で寝そべっていたフェルだった。

『我が主の作る飯は世界一だ。あの奇妙な魔王どもとやらにも、我が毎日食べている至高の味を知らしめてやればよかろう。それに……リムルとやら、美味い飯を作るなら、当然我らの分もあるのだろうな?』

「勿論! フェンリルさんたちの分も特大サイズで用意させるよ!」

『むふー! スイも美味しいお肉食べたいのー!』

「俺も! ムコーダのメシなら絶対負けねぇぞ!」

「お前らぁぁぁっ! 勝手に受諾するな!!」

ムコーダの叫びも虚しく、完全に外囲いは完成していた。

シュナもハッと我に返り、目を輝かせてムコーダに歩み寄ってきた。

「ムコーダ様! お願いいたします! 異世界の……向こうの世界の素晴らしい食材と知恵、ぜひ私にご伝授ください! 共に至高の晩餐を作り上げましょう!」

「うぐっ……そんな綺麗な目でお願いされたら……断れないじゃないか……」

ムコーダは頭を抱えた。

### 第三章:激震の【オーケーコーナー】開店

「はぁ……分かりましたよ。やればいいんでしょ、やれば……」

覚悟を決めたムコーダは、溜め息をつきながら【ネットスーパー】の画面を呼び出した。

「よし、じゃあ大人数向けの高級肉料理とか、みんなが喜ぶメニューを……ん?」

画面を操作していたムコーダの手が、ピタリと止まった。

いつも見慣れていた【ネットスーパー】のトップページ。

その上部に、鮮やかな赤と黄色で書かれた、見慣れない巨大なバナーが出現していたのだ。

そこには、太字でこう書かれていた。

**『祝・新エリア拡張! 高品質・Everyday Low Price!【オーケーコーナー】新規オープン!!』**

「……は? え? オーケー……!?」

ムコーダは目を丸くした。

「オーケーって……あの関東を中心に展開してる、顧客満足度爆高の超人気ディスカウントスーパーの『オーケー』か!??!?」

「え!? オーケーが開いたの!?」

リムルが思わず身を乗り出した。元・関東在住サラリーマンの三上悟にとっても、「オーケー」は馴染み深い存在だったのだ。

「マジですかムコーダ!? オーケーのピザとか、手作りお弁当とか、めちゃくちゃ高品質なのに信じられないくらい安いあのオーケー!? ピザなんかワンコイン(500円)であのクオリティだぞ!?」

「そうですリムルさん! あのオーケーですよ! なんでネットスーパーのコーナーにオーケーが追加されてるんだ……!? ちょっと中見てみますね!」

ムコーダがバナーをタップすると、ズラリと並ぶオーケー特有の魅力的な商品群!

特に目を引いたのは——

* **オーケー名物! 黒毛和牛(A4〜A5ランク)一頭買い破格パック**

* **店内焼き上げ! 焼きたて巨大ピザ(各種)**

* **極厚カツ丼&手作りお惣菜大容量パック**

* **オーケー特製・高品質オリジナル調味料&ドレッシングシリーズ**

「う、嘘だろ……!? A5ランクの黒毛和牛が、この値段で……!? しかも『一頭買いブロック肉』とか売ってるんだけど!?」

ムコーダの声が上ずった。

通常のスーパーではまず見かけない、巨大な部位ごとのブロック肉。それがオーケーならではの「高品質・Everyday Low Price」の精神に基づき、信じられないほどの低コスト(銅貨・銀貨単位)でラインナップされているのだ!

「す、すごい……! これがあれば、大人数の晩餐会どころか、軍隊一つを大満足させられるレベルの極上肉料理が作れるぞ……!」

シュナも画面(ムコーダの操作する空気中の光のウィンドウ)を覗き込み、その美しくサシの入った肉の画像に目を奪われていた。

「この……お肉の表面に細かく入った白い脂(サシ)は一体……!? まるで芸術品です……! これほどまでに美しいお肉、我が国の最高級ランクの魔獣肉でも見たことがありません!」

「シュナさん、これは『黒毛和牛』っていう、俺たちの世界で極限まで味を追求して育てられた牛の肉なんです! 脂の甘みと赤身の旨味が段違いなんですよ!」

「なんと……! そのような至高の食材が、この『オーケー』という神秘の市場で手に入るのですか……!」

シュナの瞳に、メラメラと料理人としての情熱の炎が燃え上がった。

「リムル様! ムコーダ様! 決まりました! 今夜の晩餐会、この『黒毛和牛』と、オーケーの素晴らしい食材をフルに活用した『異世界&現代極上フルコース』でおもてなしいたしましょう!」

「おおお! いいねぇ! テンション上がってきたぞ!」

リムルも拳を握りしめた。

「よし! じゃあ準備にとりかかるぞ! 晩餐会に集まるのは、魔王ミリム、ラムリス、カリオン、フレイ……それに各国の王様たちだ。舌の肥えた連中を、オーケーとムコーダの料理で完全にノックアウトしてやろうぜ!」

「お、おう……! なんか大事になってきたけど、やるからには完璧にやってやる! オーケーの底力、異世界に見せてやるぜ!!」

ムコーダは【ネットスーパー】のオーケーコーナーで、大量の黒毛和牛ブロック肉、特製調味料、そして焼き立てピザの注文ボタンを勢いよく連打し始めた——!

### 第四章:開幕前夜の狂騒曲

テンペストの大調理場は、熱気と見たこともない芳醇な香りに包まれていた。

「ムコーダ様! この『オーケー特製・黒毛和牛サーロイン』の下処理が終わりました! 表面に塩コショウを振り、フランベする準備は万全です!」

「ナイスですシュナさん! こっちの『A5和牛もも肉のローストビーフ』も、低温でじっくり火が通りました! このオーケー特製和風玉ねぎソースをかければ完成です!」

厨房の中では、ムコーダとシュナがまるで長年コンビを組んできた名シェフのように息の合った連携を見せていた。

オーケーから取り寄せた最高級和牛は、シュナの神業のような包丁裁きと、ムコーダの現代の味付けが見事に融合し、次元の違う料理へと変貌を遂げていく。

そして、厨房の外では——。

『ぬおおおん……! なんという匂いだ……! 待ちきれん! 我の肉はまだかムコーダ!!』

『スイもー! スイも早くお肉食べたいのー!』

『おいムコーダ! あっちで焼いてるでっかい丸いパン(ピザ)みたいなヤツ、アレ俺の分もあるんだろうな!?』

フェル、スイ、ドラちゃんの三大食いしん坊トリオが、待ちきれずに厨房の扉の前で地響きを立てていた。

「ちょっとみんな! 静かにしてて! 今VIP用の料理作ってるんだから、後でちゃんと山盛りあげるから!」

ムコーダが厨房から顔を出して宥める。

その頃、テンペストの大参事会館——晩餐会の会場には、続々と「世界の頂点」たちが集まりつつあった。

「わははは! リムル! 美味いもんがあるって聞いて飛んできたぞ! 今日はどんな珍味が食えるんだ!?」

桃色のツインテールをなびかせ、元気いっぱいに乗り込んできたのは『破壊の暴君(デストロイ)』こと魔王**ミリム・ナーヴァ**。

「ちょっとミリム、品がないわよ。……でもリムル、アタシたちの分もちゃんと最高級のケーキとか用意してあるんでしょうね?」

妖艶な羽を休めながら姿を現したのは『天翼国フルブロジア』の女王、元魔王**フレイ**。

「ガハハハ! リムル特製の酒と肉が食えるなら、俺はいくらでも付き合うぜ!」

豪快に笑う『獣王園ユーラザニア』の獣王、元魔王**カリオン**。

さらには、小さな体で空中を飛び回る『妖精女王』魔王**ラミリス**や、各国の使者、さらには暗闇から静かに気配を消して見守るルベリオスの要人たち……。

世界を揺るがす絶対者たちが、ただ一つの目的——「テンペストの至高の晩餐」のために、一堂に会していたのである。

「ふふふ……みなさん、お揃いですね」

人間態のリムルが、不敵な笑みを浮かべて会場の壇上に立った。

「今宵の晩餐会は、ただの晩餐会ではありません。我が同郷の友・ムコーダとその仲間たち……そして、異世界の奇跡の市場『オーケー』の力を結集した、未だかつて誰も味わったことのない『至高の和牛&絶品フルコース』をご用意いたしました!」

「なにぃ!? 異世界の料理だと!?」

ミリムの目が爛々と輝く。

厨房の奥で、ムコーダはオーケーの特大ステーキ肉を巨大な鉄板の上に載せた。

ジューーーーーーッ……!!

爆発的な音とともに、上質な和牛の脂が弾け、甘く濃厚な肉の香りが会場全体へと一気に広がり始める。

「……っ!? な、なんだこの匂いは……!?」

「ただの肉の匂いではない……! 脂の甘みが、香ばしさが……脳を直接揺さぶる……!?」

静まり返る会場。魔王たちも、王達も、その圧倒的な「食の暴力」の前に、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

「さあ……開宴だ!!」

リムルの宣言とともに、異世界放浪メシ×転スラ×オーケーの、前代未聞の爆食晩餐会が幕を開けようとしていた——!

### 第五章:極上の薫香と、神聖なる肉の福音

大参事会館を揺るがすほどの静寂。それは、恐怖や緊張によるものではなく、会場全体を覆い尽くした「未曾有の香り」に対する、圧倒的な戦慄であった。

ジューーーーーーッ……!!

鉄板の上で弾ける、特選黒毛和牛の極上脂。だが、魔王たちや各国の重鎮たちの鼻腔を鋭く突き穿ったのは、単なる高級肉の香ばしさだけではなかった。

「な……なんだ、この香りは……!? ガーリックの芳醇な旨味……黒胡椒のスパイシーな刺激……そして、ハーブと塩気が絶妙に絡み合った、恐ろしいほどの食欲増進効果……!?」

『獣王園ユーラザニア』の獣王カリオンが、思わず立ち上がり、野性の本能を剥き出しにして厨房の方角を睨みつけた。

そう、ムコーダがここで投入した「秘密兵器」——それこそが、キャンパーや肉好きの間で『奇跡のオールマイティスパイス』と称される【ほりにし】であった!

「ふふん、驚くのはまだ早いぜ」

人間態のリムルが、誇らしげに胸を張る。

「ムコーダが焼き上げたのは、オーケーの誇る最高級A5ランク黒毛和牛のサーロイン! そしてそこに施された味付けは、異世界の知恵の結晶『万能調味料・ほりにし』だ! さあ、冷めないうちに召し上がれ!」

給仕を務める侍女たちが、一斉に銀のカバーを外す。

現れたのは、綺麗な桜色の断面を見せる、極厚にカットされたステーキ。表面には「ほりにし」の粒々が黄金色に輝き、肉汁と一体となって宝石のような光沢を放っている。

「ぬおおおっ! 我慢できん! いただきますのだーーーっ!!」

真っ先にフォークを突きたてたのは、魔王ミリム・ナーヴァであった。

一口大に切った肉を口の中に放り込んだ瞬間——ミリムの動きがピタリと止まった。

「……ミリム?」

隣にいた元魔王フレイが不審そうに声をかける。

次の瞬間、ミリムの体から凄まじい覇気が爆発した!

「な、ななな……なんじゃあコレはぁぁぁぁぁっ!!?? 肉が……肉が口の中で溶けるぞ!? なのに噛めば噛むほどジュワッと溢れ出る肉汁の甘み! そしてこのカリッとした塩気とスパイシーな風味! 噛むたびに口の中で旨味の爆発が起きているのだーーーっ!!」

「えっ、嘘でしょあのミリムが……!?」

フレイも半信半疑で肉を口に運ぶ。

次の瞬間、フレイの美しい翼がピンと直立した。

「〜〜〜〜っっっ!?? 美味い……美味すぎるわ……っ! 脂っこさが全く残らないのは、この粒状のスパイスが肉の旨味を完璧に引き締め、高め合っているから……! こんなの、いくらでも食べられてしまうじゃない……!」

そして、その場に集まっていた各国の要人たちの中でも、最も格式高く、冷徹に事態を見極めていた人物——。

銀髪オッドアイの美しい少女の姿をした、神聖法皇国ルベリオスの最高神にして最高指導者、魔王**ルミナス・バレンタイン**。

その傍らに控える、聖騎士団長**ヒナタ・サカグチ**。

ルミナスは優雅にナイフとフォークを動かし、小さく切り分けた肉を口へと運んだ。

「ふん……たかだか肉の焼き物ごときで大袈裟な。妾(わらわ)は数千年の時を生き、あらゆる美食を味わい尽くしてきたのだぞ。リムルの大言壮語など……っ!?」

ルミナスの美しい瞳が限界まで見開かれた。

『解。対象(ルミナス・バレンタイン)の精神波動に著しい動揺を確認。極上の肉の旨味と「ほりにし」の旨味成分(グルタミン酸、イノシン酸、ガーリックのアリシン等)の相乗効果により、理性の防壁が全開で崩壊中。』

<<神智之核(シエル)>>の冷静な分析通り、ルミナスの脳内では前代未聞の大爆発が起きていた。

(な……なんなのだこれは……っ!? 妾は吸血鬼(ヴァンパイア)の頂点たる者、血と上質な食を好むが、これほどの『肉』の官能的な味わいは知らん! 噛みしめた瞬間に広がるハーブの香気、そしてガーリックと醤油パウダーの深みが、肉の血肉の旨味と混ざり合い……体が……体が蕩けてしまいそうだ……っ!!)

「っ……く……!!」

ルミナスは震える手で二口目を口に運び、そのまま目を閉じて陶酔の吐息を漏らした。

あの高貴にして尊大なルミナス・バレンタインが、たった一口のステーキによって完全に骨抜きにされ、恍惚の表情を浮かべているのだ!

「ル、ルミナス様……!?」

驚いたヒナタが慌てて自分も肉を口にする。

「……ッ!! なにこれ……! 向こうの世界のスパイス……『ほりにし』!? 嘘でしょ、こんなの私の知ってるステーキの次元を超えてる……! 美味しい……美味しすぎる……!」

元・日本人のヒナタにとっても、この味付けは郷愁と衝撃が交錯する至高の味わいだった。二人はもはや周囲の目も気にせず、夢中でステーキを口へと運び続けていた。

### 第六章:男たちの野性と、深海の静寂

「まだまだコースは終わらないぞ!」

リムルが手を打ち鳴らすと、厨房から次なる一皿が運ばれてきた。

ムコーダが腕によりをかけて仕込んだ二品目——【コカトリスの骨付鶏・特製ガーリック醤油仕立て】である!

魔物『コカトリス』の引き締まった極上の骨付きもも肉を、オーケーで調達した特製醤油、ニンニク、ショウガ、そして隠し味のハチミツにじっくり漬け込み、炭火で皮目をパリッと香ばしく焼き上げた逸品だ。

「さあ男性陣! ガブッと豪快にいっちゃってください!」

ムコーダの声とともに、巨大な骨付き肉がテーブルに並べられる。

「ぬおおおおっ! これだ! 男ならコレだよ!!」

ベニマルが真っ先に骨付き肉を掴み、大口でかぶりついた!

バリッ……ジュワァァァァッ!

「あがぁぁぁっ!? 皮がパリパリで、中から溢れる肉汁が熱い! だが……このニンニクと醤油の濃い目の味が、肉の持つ強い旨味と完璧に合体してやがる! 止まらん! 骨の周りの肉までしゃぶり尽くしたくなる美味さだ!!」

「ガハハハ! ベニマル殿、甘いぞ! こうして骨ごと豪快に喰らうのが最高なのだ!」

カリオンも、ブルムンド王国の重鎮たちも、さらには普段は澄ましている男たちの要人までもが、手と口をタレでベタベタにしながら、夢中で骨付き鶏にかぶりついている!

「うむ! この濃密な味わい、酒が……酒がいくらでも進むぞ!! 誰か、一番強い酒を持ってまいれ!」

「まったく、男ってやつは野蛮なんだから……」

女性陣が呆れ顔を浮かべたその時、静かに運ばれてきた三品目。

**【のどぐろの炭火焼き・塩振り仕立て】**

「白身のトロ」と称される高級魚『のどぐろ』。それをオーケーの鮮魚コーナーから一頭買いで仕入れ、じっくりと炭火で遠赤外線焼きにしたものだ。シンプルに粗塩のみで味付けされている。

「お魚……? ステーキの後に、こんな淡泊そうな魚料理かしら?」

ルベリオスの聖騎士たちや、重鎮たちが首をかしげながら箸を伸ばす。

しかし、一皮はがした瞬間に溢れ出たのは、白身魚とは思えないほど濃厚な「輝く脂」であった!

「……ッ!? なんという脂の乗り……!?」

一口食べたルベリオスの司教が、あまりの衝撃に目を丸くした。

「皮目はパリッと芳しく、身はフワフワと綿雪のように柔らかい……! そして口に入れた瞬間、トロリと溶け出す極上の脂! 塩気のみというシンプルな調理法だからこそ、魚本来の上品かつ濃厚な旨味がダイレクトに脳を突き刺す……!」

「素晴らしい……! 肉の狂宴の後に、これほど静かで、しかし力強い『海の幸』を持ってくるとは……! この料理を作ったシェフは、まさに食の神の使い……っ!」

ルベリオスの重鎮たちは、まるで聖歌を歌うかのように『のどぐろ』の美味さを称え合い、骨の髄まで綺麗にしゃぶり尽くしていた。

### 第七章:激痛と快楽の赤——シビカラの沼

「さて、ここからが今夜のメインイベント第二弾だ!」

リムルがニヤリと笑う。

運ばれてきたのは、真っ赤なスープがグツグツと沸き立つ、見た目にも恐ろしい土鍋であった。

**【京野菜と魔獣肉のマーラータン(麻辣湯)・手打ち刀削麺入り】**

ムコーダがオーケーのこだわり野菜コーナーから取り寄せた、彩り豊かな「京野菜(九条ねぎ、聖護院かぶ、万願寺とうがらし等)」と、唐辛子、花椒(ホアジャオ)、八角などの本格中華スパイスをふんだんに使用した激辛スープ。そこへ、モチモチ食感の『刀削麺』を投入した極上シビカラ麺である!

「な、なんだその真っ赤なスープは……!? 湯気(ユゲ)を吸い込んだだけで鼻がツンとするぞ!?」

ラミリスが鼻を押さえて縮こまる。

「くふふ……これは『シビカラ』という、刺激的な辛さと痺れを楽しむ料理ですよ。辛いのが苦手な方はご注意を……」

ムコーダが説明し終わる前に、辛いもの好きの魔王たちが果敢にスープを口にした!

ズズッ……。

「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!???」

一瞬の静寂の後、ミリムとベニマルの顔が真っ赤に染まった!

「からぁぁぁぁぁいっ!!?? なんだコレは、舌が焼けるように熱いぞ!? だが……あれ!? か、辛いのに……スープの出汁の旨味と野菜の甘みがすごくて、レンゲが止まらないのだ!?」

「あ、アツい! シビれる! 舌がビリビリする! だが……このモチモチした平打ちの麺(刀削麺)にスープが絡みついて、噛むたびに旨味が爆発する……! 汗が噴き出すのに、箸が止まらん!!」

「フハハハ! これぞ試練! だが病みつきになる辛さだ!!」

会場全体が汗をかき、激辛の刺激に狂喜乱舞する中——。

「……静かにしなさい、騒々しい。」

凛とした声で制したのは、ルミナスであった。

ルミナスは優雅にレンゲを取り、赤く輝くスープをすくい、一口口に含んだ。

ジュワッ……。

唐辛子の突き抜ける『辣(ラー)』の辛み、そして花椒の舌を痺れさせる『麻(マー)』の刺激。

だが、その激痛の奥から押し寄せてくるのは、シャキシャキとした京野菜の上質な甘みと、じっくり煮込まれた出汁の圧倒的な深みであった!

「……っ! む……むむむ……っ!?」

ルミナスの白皙の頬が、ポッと朱に染まる。

(な……なに……この刺激……!? 舌が痺れるほどの痛みなのに、その背後から押し寄せる尋常ではない『旨味の波』……! 辛い……痛い……なのに、もっと欲しい……! 妾の体が、この激しい刺激と快楽を求めている……っ!!)

「ルミナス様!? お顔が赤いです、お水をお持ちしますか!?」

「黙れヒナタ! 水などいらん! 妾はこの麺を喰らうのだ!!」

ルミナスは普段の気品をかなぐり捨て、汗をじんわりと額に浮かべながら、夢中で刀削麺をすすり始めた!

「あはは! ルミナス、すっかり『シビカラの沼』にハマっちゃったね!」

リムルがゲラゲラと笑う。

ルミナスはフーフーと息を吹きかけながら、「辛い……だが美味い……! 痛い……なのにやめられん……っ!」と、完全に麻辣湯の虜となってドハマりしていたのだった。

### 第八章:至高の甘味と、成城石井の奇跡

「ふぅ……辛いものの後は、やっぱり『別腹』が必要だよね」

汗をかき、大満足で一息ついている一行の前に、最後に運ばれてきたのは——白く輝く美しい磁器皿に載せられた、一切れのケーキであった。

**【成城石井コーナー特製・自家製プレミアムチーズケーキ】**

ムコーダが【ネットスーパー】の新機能、まさかの高級スーパー【成城石井コーナー】から買い付けた、伝説の大人気スイーツ!

きめ細やかなクリームチーズを贅沢に使用した濃厚な味わい、ベースのきび砂糖の優しい甘み、そして表面に散りばめられたサクサクのシュトロイゼル(クッキー生地)とレーズンのアクセント。

「最後はデザートです。お口直しにどうぞ」

シュナが丁寧に配膳する。

「ケーキ……? でも、さっきまでの料理と比べたら、見た目はシンプルね……」

原初の白(テスタロッサ)が、細いフォークでケーキを小さく切り取り、優雅に口へと運んだ。

次の瞬間——テスタロッサの冷徹な表情が完全にフリーズした。

「……っ!?」

「テスタロッサ? どうしたの……って、あら?」

原初の紫(ウルティマ)と原初の黄(カレラ)も口にする。

「な……なにこれぇぇぇっ!?? 超濃厚……!! おチーズのコクが、口に入れた瞬間にトロ〜って広がって……でもしつこくない! 中に入ってるレーズンの酸味と、上のサクサクしたクッキーの食感が完璧すぎるんだけどーーーっ!?」

「アタシ、こんなに美味しい甘味、生まれて初めて食べたわ……! ルベリオスやイングラシアの最高級洋菓子なんて比較にならない……っ!!」

「ま、待ちなさい二人とも! アタシの分も残しなさいよ!」

ラミリスがケーキにダイブし、「うあぁぁぁん! 美味しすぎてほっぺたが落ちるぅぅぅっ!」と大号泣!

シュナに至っては、一口食べるごとに「このクリームチーズの密度の高さ……一体どうやって焼き上げればこれほどのしっとり感が出るのですか……!?」と、メモ帳を取り出して猛烈に書き込みを行っている。

女性陣全員が、成城石井のプレミアムチーズケーキの圧倒的な完成度にメロメロになり、会場は完全に「至高のスイーツ鑑賞会」と化していた。

### 第九章:争奪戦と、究極のオチ(専属指名!?)

宴もたけなわ。

満腹になったミリムやカリオンたちは満足そうに腹を叩いて横になり、フェルやスイ、ドラちゃんもムコーダから貰った山盛りの肉とピザを平らげて「くはー、食った食った!」と幸せそうに寝転がっていた。

「いやぁ、ムコーダ! 本当にありがとう! 完璧な晩餐会になったよ!」

リムルが心から感謝の言葉を述べる。

「いえいえ……なんとかなって良かったです。オーケーと成城石井の品揃えには俺も助けられましたよ……」

ムコーダが胸を撫でおろし、ホッと溜め息をついた——その時であった。

ガタッ……!!

強烈な力でテーブルが押し倒される音が響いた。

静かに立ち上がったのは、未だに麻辣湯のシビカラの余韻と、チーズケーキの甘みに酔いしれている神聖法皇ルミナス・バレンタイン、そして聖騎士団長ヒナタ・サカグチの二人であった。

二人はまっすぐな足取りで、逃げ場のないムコーダの目の前へと歩み寄ってきた。

「ひ……ヒナタさん? ルミナス様……?」

ムコーダが冷や汗を流して後ずさる。

ルミナスは銀髪を軽やかになびかせ、至極真面目な、しかしどこか必死な瞳でムコーダを深く見つめた。

「ムコーダとやら……。いや、ムコーダ殿とお呼びすべきか。」

「は、はい!?」

「単刀直入に言う。——妾(わらわ)の『専属料理人』になれ。」

「……はい!??!?」

ムコーダの叫び声が響き渡る!

「な、何を言ってるんですかルミナス様!?」

「戯れ言ではない! 妾は本気だ! 貴殿の作るあの肉の旨味、あのシビカラの麻辣湯、そしてあの甘味……! あれを知ってしまった以上、妾はもうルベリオスの宮廷料理など口にできん! 妾の館に来い! 望むだけの金も、権力も、領地も、何でも与えてやる!!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいルミナス様!」

間に入ってきたのは、ヒナタだった。

ヒナタは本気と書いた目でムコーダの手を固く握りしめた。

「ムコーダさん! 私からも頼むわ! ルベリオスに来て! ルベリオスに来てくれれば、私が全力であなたを聖騎士団の最優先保護対象にする! どんな魔物(フェンリルも含めて)からもあなたを守るわ! だから……毎日あの『ほりにしステーキ』と『成城石井のケーキ』を作って!!」

「ヒナタさんまで何を言ってるんですかぁぁぁっ!?」

「待ちなさいルミナス! ヒナタ!」

ここで慌てて割って入ったのは、リムルであった。

「ムコーダは俺の同郷の友達なんだぞ! 渡すわけないだろ! ムコーダはテンペストの特別名誉料理人として、ここに残るんだ!」

「黙れリムル! 貴様は普段からこんな美味しいものを独占していたのか!? 許しがたい暴挙だ! 渡さぬというなら、神聖法皇国の総力を挙げてムコーダ殿をお迎えするまで!」

「なっ……開戦の口実が『料理人の奪い合い』ってどういうことだよ!?」

「ムコーダ様は渡しません! ムコーダ様の異世界料理は、私が一番近くで学ぶのです!」

シュナまで参戦し、ルミナス、ヒナタ、リムル、シュナによる「ムコーダ争奪戦」が勃発!

原初の悪魔たちやミリムたちも「我らもあやかりたいぞ!」「ムコーダ、我が国に来い!」と叫び始め、会場は大混乱に陥った!

「ヒ、ヒィィィィッ! 俺はただの異世界放浪者ですー! 勘弁してくださいーーーっ!!」

『ぬう……ムコーダよ。騒がしいな。満腹になったことだし、そろそろ次の街へ出発するぞ』

フェルが欠かしそうに巨体を起こし、ムコーダの首根っこを口で咥えあげた。

『スイもいっぱい寝たいのー』

『おいムコーダ、逃げるぞ!』

「グッジョブフェル! スイ! ドラちゃん! リムルさん、ごちそうさまでしたー! 俺たちはこれにて退散しまーす!!」

「あ! 待てムコーダ! 逃げるなーっ!」

「追いかけますわよ、ヒナタ!」

「了解、ルミナス様! 逃がしません!」

夕闇が迫るジュラ・テンペスト連邦国。

豪快な笑い声と、美味しい香りと、激しい追いかけっこ(争奪戦)の声を背に受けながら、ムコーダ御一行は【オーケー】と【成城石井】という新たな武器を胸に、今日も平和(?)な異世界放浪の旅へと駆け出していくのだった——!

 


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