Bocchi of the dead 作:true RIZE
バスに揺られ街へとひたすらに走り続ける。車内では全員が辟易し疲れきっていた。
外を眺める 。数多の乗り捨てられたのとぶつかり、横転した事故を起こした車。空にテレビ局のヘリコプターも飛んでるものの、中にゾンビになった奴がいたのか、騒ぎが起きて揺れていた。そして飛び出るように落ちる人が…。
「……鞠川先生。少し、休憩しないすか」
「…そうね、私も少し休みたいかな」
バスをコンビニの駐車場に停め、俺達は外に出る。鞠川先生はゾンビを牽いたのとこの状況に精神的な疲れが出たのか、運転席で仮眠を取ってた。
途中で出会った卓三なる人物と一緒にいた見知らぬ三人組は固まって、これからの不透明な当面について不安がっていた。
平野と高城は物資であーだこーだ言い合ってる。なんだか相性良さそうだなあの2人、爆発しねーかな。
俺も、リフレッシュがてらコンビニに入店する。店員は立っておらず、俺が入ってきたのにバックヤードからも出る気配すらない。
この時点でいつもとは違うコンビニなのだと再確認させられる。
「……なんか買うか」
適当に見て回るも、意外なことに食品はかなり残ってる。郊外にあるコンビニだからなのか、それともここまで寄る暇がなかったのか、店員も急いで逃げたからなのか…いずれにしてもこの状況下で選べる自由があるのは贅沢すぎるな。
「おにぎり、それとドリア。マッカンは…当然ないか」
渋々妥協する形でコーラと何本か飲み物を取る。カウンターに行き、フライドチキンやフランクフルト、にくまんを何個か取る。店員がいないから自分でホットスナックを取る形になるのが少し背徳感を抱かせる。
「こんなもんか。ざっと…4000円くらいか?」
コンビニでの買い物にしてはちと豪遊、いや無駄遣いしているがこの際金持ちの道楽のようにぱあっと使うことにした。さらば4000円、ブッチしたバイトで稼いだ給料を泣く泣くレジに入れた。
「律儀だな比企谷君」
「っ!おどかさないでください」
「ふふ、それは失敬」
隣で緑茶とおにぎりを袋に入れてた毒島先輩。そんくらいなら300円で足りるか?
「すまないね比企谷君。あいにく今財布を持ち合わせてなくてな」
「いいっすよ別に。それに、こんな状況でちゃんとお金払う奴の方が変すから。普通は盗んでトンズラこきますよ」
「なら君はどうして普段通りちゃんと金を払う?」
「……まだ夢から覚めてない、てとこすかね」
返答を聞くことなくコンビニから出る。買った食べ物、飲み物を三人組に渡す。突然渡して驚かれたが、ありがとうございますとこぼし受け取った。
「平野、高城。ほらよ」
「ひ、比企谷。…ておにぎりとスポーツドリンク?」
「急になによ。どういう風の吹きまわし?」
「食える内に食っとけ。これからはマトモに食えなくなるかもしんないからな」
「だったらバックにいっぱい食べ物詰めときなさいよ」
「あいにく俺の所持金で買えんのがこれくらいでな」
「はあ?アンタなんで今更」
「文句はあとでな」
「な!?」
説教キャンセルされたことにご立腹なのかギャーギャー喚き散らかしてる。バスに乗ると宮本は明後日の方向を向いて心ここにあらずな感じだ。
「鞠川先生、休んでるとこすみません」
「……ん、どうしたの比企谷ちゃん」
「これ、栄養ドリンクとゼリーです。落ち着いたら飲んで下さい」
「…ふふ。ありがとう比企谷ちゃん。なんだかお母さんみたい」
いえ、とだけこぼし宮本の方へ向かう。通路を挟んで隣に座りドリアをいただく。うん、コンビニのも悪くないがやはりサイゼのが一番だな。はあ、サイゼが恋しい…あったかいコーンクリームスープ飲みながら、あっつあつのドリアを頬張る。もう食えないのかと思うと虚しくなってくる。
「比企谷君はさ…」
「ん?」
「なんでそんなに普通でいられるの?」
普通?いや俺ほど特別、いや今そんなこと聞いてるワケじゃありませんねすみません宮本さん。
さて、俺が普通に見える…否、何故こんな最悪な現状なのにも関わらずいつも通りでいられてるのか。大方、宮本が聞きたいのはこんなところだろう。
「別に普通じゃねえよ。お、ドリアのおこげ美味いな」
「っ…、やっぱり変だよ。なんでそんなに【普通】で塗り固めたような行動をするの?おかしいよ…」
「……」
「屋上でゾンビを惹き付けた時、自分が先陣切って正面玄関を開けに行った時、強そうなゾンビに真っ先に囮になった時だって…まるでそれが当たり前みたいに…私、比企谷君が怖い…」
「宮本…」
「お願い。もっと自分を大事にしてよ…私達を、私のこと頼ってよ…無理しすぎて比企谷君が、壊れるところなんて見たくない…」
席を立ち涙をこぼしながら再び抱きしめられる。
……何故だ?何故かわいそうな奴扱いをされなければならない?俺がソレを最善だと思い、勝手に納得して勝手に考えついた選択だ。
後悔なんてない。それで死ぬならそれまで、自己責任、自業自得で終わりなハズなんだ。
宮本は俺の命知らずな行動で死ぬなと警告する。
だけどな宮本、それは思い違いだ。お前が俺を自己犠牲を厭わない憐れな奴だと思うのは勝手だ。他人をどうイメージしようが当人の自由だ。
でもな宮本、『好奇心は猫をも殺す』って知ってるか?踏み込みすぎなんだよ。
静かに、けれど確かな力を込めて宮本を突き離す。そして、漏れ出てしまうほどの拒絶の意を腐りきった目で示す。
「ひ、比企谷、君?」
「ふ、なあ宮本。俺は死ぬつもりなんて毛頭ない。家族に会うまではな」
「そ、そうだよ比企谷君!比企谷君の家族がきっと生きてどこかで待って」
「だから俺のことを自殺願望がある異常者だって言うのか」
「…え?」
「……結局お前は、自分のことを肯定してくれる奴なら誰でも良かったんだよ。【都合の良い依存先】、今度はちゃんと見つかると良いな」
その言葉を皮切りに、今の今まで俺を憐れむ目は、敵意へと180度様変りして生易しい平手ではなく、拳を握り殴ってきた。
「何よそれ!何よそれー!私は!比企谷のことが本当に心配で!死んで欲しくなくて!自分の命を粗末にしないで欲しいだけなのに!それなにアナタは!なんでなんで!なんでぇ!」
「2人共どうし…比企谷ちゃん!?宮本さん何してるの!」
怒りと涙をこぼしながら、馬乗りでひたすらに殴り続ける。顔面やら胸やら腹やら感情の赴くままに殴る。自分の手が怪我しようとお構いなしに。
「ちょっと何の騒、宮本!?アンタ何してんの!」
「お願い!宮本さんのこと止めるの手伝って!私1人じゃ」
「了解した」
「ああもう!世話焼かすわね!平野アンタも!」
「わ、分かりました!」
3人係りで宮本を俺から離すも、今でも食ってかかりそうなほど圧倒的な殺意を見せつけられる。どうやら虎の尾を踏んでしまったみたいだ。
「っ……いっ…」
「比企谷ちゃん凄い血まみれ…待っててね。今バックから消毒液とガーゼ取るから」
「宮本アンタ!何があったか知らないけど少しは落ち着きなさいよ!」
「ふむ、凄い力だ。さながら火事場の馬鹿力そのもの」
「アンタは黙ってなさいよ!」
「ふー…ふー…っ!」
キッと仇でも見るかのように睨み続ける、まあ実際そうだが。鞠川先生が医療道具を持ってくるが俺はそれを拒むようにヨタつきながら空かさず立ち上がる。
「比企谷ちゃん?」
「……鞠川先生、心配かけちゃってすみません。それ、俺なんかに使う必要ないっすよ。いざって時に足りなくなると困るだろうから」
「な、何言ってるのよ比企谷ちゃん!ほら傷を見せ」
「俺、こっから1人でいいんで」
その言葉に、車内が凍りついたかのように空気が止まった。あんなに敵意を剥き出しにしていた宮本も、毒気を抜かれたかのように力を緩めていた。
「は…アンタ何言ってんのよ。何があったか知らないけどムキになるんじゃないわよ。ほらさっさと2人で謝」
「悪いな高城。短い時間だけど迷惑かけまくった」
「は、はぁ?比企谷…アンタ」
「平野、これから皆のこと守ってくれ。銃を扱える奴は今の日本で貴重な人材だ。簡単にくたばんなよ」
「比企谷…」
「毒島先輩、もっと早く会いたかったです。先輩の剣術、めっちゃ格好良くて見惚れてました」
「…そうか」
「鞠川先生、大人だからって本音とか弱音吐ちゃダメなんて決まりないっすよ。嫌なことあれば存分にブチまけちゃって下さい。幸いアイツらはそれを受け止めきれますから」
「比企谷…ちゃん…」
「それと…宮本」
「っ!何よ…今度は何て」
「お前は強い人間だ。誰かに寄り添わなくても自分の足で立てるんだ。まだその切っ掛けがないだけだ」
「え…」
「俺がいなくても、お前は大丈夫だよ」
「待って…比企が」
言いたいこと全部言った。武器と食料を取り俺はバスから降りて振り返ることなく一目散に走り出した。
エンジンがかかる音が聴こえ、このままでは追い付かれるのも時間の問題だと思い、意を決し道路を抜け擁壁から滑り落ちる。
「いでででで!」
そのままもう一段擁壁を滑る。パルクーラーもびっくりのアクロバティックかつ命知らずなことをする。なんだ、こういうことを言われたのか。いや少し意図は違うだろうがこんなもんか。
大幅に距離を離してそのまま住宅街に入り、入り組んだ迷路に誘うかのように裏道を使って行方を眩ます。当然ゾンビまみれだがこれも押し切る。
なんだか今の俺は無敵だなと錯覚してしまう。そうして油断してると塀と塀の間で挟み撃ちになる。
「調子乗り過ぎた…なんてな」
塀をよじ登り寸でのとこで回避する。塀の上を猫のように渡って行き、住宅街を脱け出す。
街へ向かう道を見ると渋滞が発生していて動けそうにないのが分かる。
「これで時間はたっぷり稼げるか」
しかしこうして自分の行動を振り返るとトラブルメーカーの何者でもなかった。そりゃ心配もされるは怒られもするは、やはり早目に1人で行動しとくんだった。こうやって後悔して周りに迷惑かけてばっかで、昔となんも変わってない。
「今さら遅いか」
胸の空洞が更に深く、広くなってくのを感じつつ道路へと出る。標識を見るに県道へと出たみたいだ。どこかに武器になりそうな物がないか探し回ると、一台のパトカーを見つけた。
「…流石に法律違犯だよな」
車内を見ると誰も乗ってなかった。恐る恐るドアに手をかけ開かないでくれと願うも開いてしまった。これでは探さない理由がなくなってしまう。
「非常時だからな、超法的措置ってことで」
俺もすっかり悪人になったなと悲しくなりながら、車内を探すもガムやファイルなどしか見つからず肝心な物は見つからなかった。一縷の望みを賭け、トランクを開けるレバーを引く。
パトカーの後ろに回りトランクを見ると…。
「ビンゴ」
ハンドガンが一丁だけ残っていた。銃には詳しいワケじゃないがコレがグロックと呼ばれる代物だというのは分かる。
マガジンには弾がある程度入っていて、予備のボックスも1ケース分だけあった。
「ふう、焦るなよ俺」
銃を入手したことによる高揚感を抑える。いくら銃とはいえ取り扱う者が下手であれば意味がない。使いどころは慎重に、そして無駄に撃つのは避けなくてはならない。
銃を所持している、これだけで他の生存者からは脅威の対象にクラスアップしてしまう。
するとカシャっとシャッター音が響く。まずい!銃を所持したとこ撮られたかと思い周囲を見渡す。
シャッター音を切った半人が道路のど真ん中にいた。立派な一眼レフで俺ではなく、辺り一帯をカメラに納めてた。
「~~~、~~~!!!」
「何喋ってんだ?」
何を話してるかは聞き取れず、と言うのも日本語ではなく恐らくは英語。てか旅行中の外国人(勝手な推測)がこんな片田舎のパンデミックに巻き込まれるとか、御愁傷様すぎる。
「ーー!~~~」
「やべ、見つかった」
「…!チョ、チョトマテ!」
急いで逃げようとするが止まってしまう。唐突に日本語で話しかけられられたらそりゃ驚く。最悪脅し用に銃を構える準備をするが、それは杞憂に終わる。
「KID、イヤ、ガキ…Hmm…ボ、ボーズ!キキタイコト、アル!」
「な、なんですか?壺なら間に合って」
「コレ、【ラクーンシティ】トオナジカ?」
「……は?」
「イヤ、オレカラ、ダト…【ウィラメッテ】ノホーガナジミアルガ…」
「ウィラメッテ?アンタ、何を知ってるんだ!」
「OH!?ド-シタボーズ!」
この怪しい中年のおっさん外国人は、俺達が知らない何かを知ってる!ラクーン事件が都市伝説や陰謀論、はたまたオカルトではなく真実なのだと確信がある!
「答えろ!アンタはいったい…」
「ワカッタワカッタ!オチツケ!…タク、セワシ、ナイガキダ。オレノナマエ、【フランク・ウェスト】ダ。タダノジャーナリスト、オボエトケ」
「フランク・ウェスト…それでウェストさん」
「マテ、マズハオレカラノInterview、コタエロ。ヘンジ、ソレカラ」
「取材だあ?本当にジャーナリストみたいなことしやがって…」
「アト、コーヒーガウマイミセ。ソコデダ」
「注文多いな…分かりましたけど、俺もここに越してきたばっかなんすよ」
怪しい外国人中年、自称ジャーナリストのウェストさんと出会い次の目的地は喫茶店。聞きたいことが聞けるか分からないが、1歩進める可能性があることに、一抹の期待をしてしまうのだった。