Bocchi of the dead 作:true RIZE
「ーーー♪」
「………」
鼻唄を口ずさみながら、コーヒー豆を挽いていく謎の中年外国人ことフランクさん。大人しく着いて行って、街外れの喫茶店で話を聞くことになった。
ここならゾンビが少なくて、何があったとしても対処しやすい。
床主市に来る前は、フリージャーナリストとして手当たり次第仕事を請け負ってたもよう。不倫の証拠を掴む為浮気現場を盗撮、動物の写真を撮るため単身アフリカに、挙げ句の果てに偽名で講師もしてたと。過去には戦場カメラマンもやってたとのこと。
どういう経緯でここに来たのかは話さなかったが、さきほど俺がバスで見かけた墜落するヘリコプターに同乗してたみたいだ。命からがらスカイダイビングして難を逃れた…いやあんた丈夫すぎないか?
「HAHA!マチガパニックナッテルノニ、オレラハノンキコーヒーブレイク!Fuc○ing!」
「Fワード止めろよ」
「ホラデキタゾ!オッサンノゲキマズCoffeeダ!」
「不味いなら出すなよ」
店員も客もいない静かな喫茶店で、喉の渇きを潤す為飲むことにする。感想としては豆が良いだけに、やはり店員に人煎れて貰いたかった。つまりあまり美味くない。
「アーマズイ!シロウトガヤルモンジャナイナ!」
「いい加減話を進めたいんですけど…」
「オオSorry!マズハRestトイイタイトコダガ、ボーズハコタエガキキタイラシイ」
「坊主じゃない、比企谷だ」
「HIKIGAYA…イイヅライ!ファミリーネームジャナクナマエオシエロ!」
「八幡だ」
なんとも面倒くさいおっさんだ。こんな怪しい奴がジャーナリストだなんて世の中おかしい。いやそれともジャーナリストはこう言う人でこそ務まるモノなのか?職の偏見まみれの考え事をしているとフランクさんはボイスレコーダーを取り出した。
「イッタロ、Interviewダ。ココオキタコト、ナニシッテルカスベテハナセ。ソシタラオレモ、オシエテヤル」
「……分かった」
急に仕事人の顔つきになったフランクさんに、思わず面食らった。この気迫、過去に人並み以上の経験を積んだがゆえの貫禄なのだろうか。
俺は今日起きたことをある程度は話した。ゾンビは学校の外からやって来た。そこで教員が噛まれ学校で感染が拡大する。命からがら脱出してグループから離れた。変異体については伏せた、これは何かしらの交渉において切り札になると思った。
しかしフランクさんは一連の流れを聞いたものの、まるで何度も聞いてきたのだと言わんばかりのつまらなそうな顔だった。
「……Shit!ホカトオナジコトバッカカ!SchoolハジマリダトオモエバケッキョクCITYカラカヨ!トンダホネオリゾンダ!」
どうやら満足のいく答えが得られなかったようだ。てか片言とはいえよくそんな言葉知ってるな。不機嫌そうにコーヒーを飲み干したフランクは喫茶店から出ようとする。
「待てよ、まだ話は」
「Shut up!Interviewオワリダ!コンナンジャMoneyニナリャシナイ。Pulitzer Prizeモトルニハヨワスギル!」
「…は?」
何を言ってるんだこのおっさんは?金?ピューリッツァー賞?この惨状を見て金儲けをしようとしてんのか?
「Oh!?Brat(クソガキ)!ナニシヤガル!」
「おっさんこそふざけてんのか?」
フランクさんを壁に詰めより胸ぐらを掴む。何故だろう、ここまで怒りを表に出すのは初めてだと思うほど、このおっさんを俺は許せなかった。人の死を、金に変えようとするゲスな発想に、苛立ちを感じずにはいられない。
「今日で俺は沢山の人達の死を見てきた、見届けてきた。命も沢山奪ってきた…ゾンビとは言え元は人間だ、倒す度に震えが止まらない…ゾンビになる前に、殺してくれと願う人を…そんな人達を、犠牲者で金を稼ぐようなクソったれに少しでも期待した俺がバカだった!」
「…ワカッタヨウナコトイッテンジャネーゾBrat!」
「ぐっ!」
胸ぐらを掴んだ腕は容易く外され、今度は逆に掴まれた。中年とは言えフランクさんは体格がえらくがっしりしていた。片腕で壁に押し当て鬼気迫る顔で語る。
「ボーズニオレノナニガワカル!Outbreakガハッセイシタウィラメッテニイッテ、タクサンシャシントッテ、イノチガケデEscapeシタ。ソシテ、セカイニTruth(真実)ハナソウトシタノニ…
Government(政府)ニゼンブツブサレタ!Fu○k!!!」
「……おっさん、あんた」
「…アノトキハオレモ、PureデHotナヤツダッタ。コノカメラニ、Truthトッテ、ゼンブDarkアバイテヤルトオモッテタ。ゾンビモ、PSYCHOモ、Special forces(特殊部隊)…カベニナルヤツハゼンインブチノメシテキタ」
「……ん?」
今ゾンビだけじゃなくてサイコパスと特殊部隊も倒してきたって言ったのか?このおっさんホントにジャーナリストなのか?人並み外れて化け物になってないか?
「ウィラメッテヲデテモ、トッタショーコハゼンブツブサレテ、シマイニハコレダ」
「なんだよ、急に服脱ぐ…なよ…」
フランクさんが服を捲ると、お腹に生々しい噛み痕が残っていた。肌の感じからして大分経った後みたいだ。そして首筋に手術痕もあった。
「…Escapeマエ、ヤツラニカマレタ。サイワイトチュウ、ワクチンツクレタ。ダガイマハ、コノクビ、チップナイトマタゾンビナル」
「チップ?ワクチンか何かか?」
「Depressant(抑制剤)ダ。オレノゾンビウイルス、ラクーンシティトチガウ。セイカクニハParasite(寄生生物)ダガ、ニタヨウナモノダ。コレヲツケルカワリ、サグルナイワレタ」
「助けるかわりに証拠を世間に公表するなってことかよ」
「ソウダ、モノワカリイイナ」
まとめるとこうか。フランクさんは過去にウィラメッテという場所で、今回の床主と同じくゾンビが発生したのをカメラに納めようとしたんだ。紆余曲折あるも証拠を掴んで脱出して終わり、だがそうはならなかった。
フランクさんも噛まれて感染し、政府から交換条件で泣く泣く提案を受け入れ抑制剤を接種し今日まで生き長らえてきた。そして証拠は全て闇に葬られたってワケか。それはあまりにも…やるせないと思った。
「ン?オイボーズ、シゴトダゾ。ゾンビドモコッチニキヤガル」
「うわ、マジかよ…多いな」
「オイオイ、ビビッテルノカボーズ?」
「誰が…びびるかよ…」
「HAHA!ショウジキダナ!ナラオレガ、マダマダゲンエキナノシッカリミテロ!」
フランクさんは喫茶店から出て近くのゴミ箱拾ってゾンビの頭に被せた。
「SHAKESHAKESHAKE~!」
これでもかと揺さぶって、そのまま頭をもぎ取った。続け様ベンチを手に取り、バット代わりに振りまくって薙ぎ払ったのだ。え、ベンチ?何を言ってるの自分でも分からないがベンチを持って振ってるのだこのおっさん。
「オオオオ!ンン!?…コシ、クソ…オトロエタナ」
「はあ…おらっ!」
フランクさんの前に出て釘バットを振って頭をカチ割る。おっさんはそれに負けじと、今度はカラーコーンを振ってゾンビと戦っていた。
「ハッハー!アノMoleノHellケイケンシタオレナラ、ココニアルノハナンデモブキダ!」
誇張抜きに、フランクさんが手に取る物はなんであれ武器と化していた。雑誌、コップ、マネキン、タイヤ…あらゆる物を駆使してゾンビの群れをほとんど片付けたのだ。
「…何だよそれ」
「ワカッタカ、ボーズ。コレガケイケンノサッテワケダ。Virginソツギョウシタテノボーズニハハヤスギタカ?」
ニタニタと笑うおっさんにイラっとするも、経験の差とは良く言ったものだ。いったいどんな地獄を経験したらこんな芸当ができるのか。
「オ、ソウダ。トクベツニオシエテヤルゾボーズ」
「はぁはぁ…なんだよ」
「コレハウィラメッテノトキトハチガウ。アレヲミテキタオレガイウカラソウニチガイナイ」
「てことは…」
「サアナ、オレモラクーンシティノコトヨクシラン」
「は?」
「ソウイウコトダボーズ。イキテタラマタアエルトイイナ」
「…はああ!?」
散々時間を取らされ、ラクーン事件と関係があるのかどうかが結局分からず終いだった。まあ、過去にゾンビ事件が複数あったことが知れたのはプラスか?
「ソウダ、ハチマン!」
「…今度は何だよおっさん!」
「狙うものだけ見据えろ」
「……どういう意味だよ」
「イツマデモマヨッテルボーイニ【餞別】ダ。ジャアナ!」
おっさんは走り出した。さっきみたいに道にある物なんでも武器として活用しながら。
「……狙うものだけ見据えろ」
俺がそもそも何故この事態を気にしていたんだ?ラクーン事件が関わってるかも知れないから?事件の大元が発覚して全て元通りになって欲しいから?
…それもこれも違った。俺があの学校にいた時から、絶対忘れないように胸の内に秘めてたモノは。
「絶対帰って、家族に…小町に会うことだ」
そうだ、このパンデミックが例え自然発生でも人為的による事件でもそんなことはさして関係はない。大事なのは、この状況下で小町達が無事であるかどうかだ。
「今行くからな」
ふんどしを締め直すように、靴紐をしっかり結ぶ。なんだかんだ街外れには来ている。引っ越したばかりだからあんま土地勘とかないが、もう家はすぐ近くだった。
「…ホント、別なこと考えてばっかだと視界狭めるな」
バットを握りしめる。そして一目散に道路を走り抜ける。ゾンビに何度も鉢合わせするも、相手する時間が惜しくなるほどに素早く駆け抜けた。
「頼む、無事でいてくれ」
ただ、生きて欲しい。そう願いながらひたすらに走る。
走って、走って走って、走って走って走って走る。そうして、ようやく俺は、一月(ひとつき)ぶりの我が家に帰ってきた。
藤美学園は寮制の学校だったからか、俺も転校と同時に入寮させられる。親父が、俺がいなくなって小町と一緒にいられる時間が増えるとかぬかしてやがった。あのクソ親父め…。
母ちゃんも弁当作る機会減って助かるとか言ってたな。確かに普段俺みたいに目が腐るほど仕事してるから無理にとは言わないけど。まあ、作って貰えるだけありがたいとは思う。
小町は俺がいなくなって寂しくなってないだろうか。俺は寂しいと伝えると、キモ、これだからゴミぃちゃんは…と返される始末。
あれ、これ俺帰ってきても歓迎されるのか?一抹の不安を抱きつつも、玄関の扉を開けた。鍵はかかっておらず、すんなりと我が家へ帰ることができた。
「……ふう、ただいま」
靴はあった。でも慌てて靴を履かずに出てった可能性だってある。家に誰かいないか恐る恐る探し始める。するとリビングから音がして引き戸をゆっくりと開けると。
「………」
「…こ、小町」
やったぞ!最初に会ったのは愛しのマイリトルエンジェルこと小町だ!小町がいたことで今までの心配事が全て吹き飛んで、ようやく会えたことによる感無量の近づく。
ぐちゃ
「ん?なんだこの音、何踏ん…」
足で踏んでいた物の正体は、腸、だった。
「………こま、ち?」
あ、あ゛あ゛…
小町だと思って声をかけた相手は、既に小町じゃなくなっていたのだ。そこにいたのは、かつての両親の腹を裂き、内臓を食い破って咀嚼しているゾンビだった。
「あ……そだろ……」
言葉が詰まってしまう、上手く呼吸ができない。
小町が、親父が、母ちゃんが…し、死ん…嘘、だ。
「嘘だ…嘘、だよな?ドッキリにしちゃ…ひゅ…わ、笑え…かはっ…ないぞ?」
お゛に゛い゛ぢゃん…
「こ、小町。い、いくら…くぅ…騒ぎに、便乗…はぁはぁ…しすぎだぞ…」
ごべんね゛…
「ご、ごまぢ…もう、やべろよ…笑え…」
動悸が激しくなり呼吸ができなくなっきた。涙も何故か止まらない。急激に冷や汗が滝のように溢れ、体温が下がってくのを感じる。
がは……かゆ、いよ……
「こまち…?」
かゆ、くて…おと…さん、おかあ…ん…おいし…
「こまち、や、やめてくれ…」
おに…ちゃん…いいにお…たべだ…あ゛あ゛あ゛!!!
「小町ぃぃぃ!」
***
「みんな~、もうすぐよ~」
「……」
「はぁ、やっと着いたのね。先生の友達の家」
八幡が別行動を取り、一行はバスで追いかけようとするも街へと続く道は渋滞となっており、これ以上車での移動は困難となり鞠川の友人宅へと歩を進めた。
途中、卓三グループの三人組は家族が生き残りっているか確認するためここで別れることになった。
既に疲弊しきって限界に達した彼らは、友人宅で一時の休憩も兼ねて、これから訪れる夜に備えるため、そして銃を手に入れるために向かうのだった。
「たく…比企谷の奴、今度会ったら絶対ぶん殴りってやるんだから」
「高城さん比企谷のこと随分気に入ってますね」
「は、はあああ!?何言ってんのこのデブチン!んなわけないでしょうが!」
高城と平野は平常運転。しかし彼女の場合、宮本麗はその限りではなかった。小室孝を失い、井豪永も亡くし、比企谷八幡も去った。この心境下で、彼女の精神は最早風前の灯火だった。
「宮本君、少し休むかい?」
「……いえ、もう少しだから。頑張れ、ます…」
「そうか…無理はするな」
毒島冴子は少しばかり途方に暮れる。生存者を寄せ集めチームとして組んだは良いものの、いまいち方向性に欠けていた。
鞠川静香はこの中で最年長なものの人を率いる器かと言えば違う。では高城沙耶はどうだ?頭も良いしキレがあり、合理的でもある。だが時たま合理的過ぎるが故、融通が効かないところもある。
平野コータは真っ先に戦士という配置が好ましい。彼ほど銃の扱いに秀でてる同世代そうはいない。…が同時に銃を過信しすぎていることが懸念点だが今それはいい。
問題は宮本麗、これほど感情と相手によりコンディションが乱高下する存在そうはいない。パートナーと共にいてこそ真価を発揮するが、そうでない場合の沈み方が些か暴落的すぎる。
かと言って自分はどうだ?答えはNOだ。考える余地もなく自分は皆を率いる存在ではない。なにより毒島冴子自身、宮本以上に爆弾を抱えている自覚があるからだ。
「…比企谷八幡君、この場合君ならどうする?」
答えが返らない問いを呟きながら、目的地まであと少しというところで、一行は歩を止めた。
「ちょっと…ウソでしょ?」
「ひ、比企谷ちゃん?比企谷ちゃんだー!」
「凄い、バットだけで生き残ったなんて…」
「比企谷…君?ホントに、比企谷君なの?」
先ほどまで沈みきっていた彼らは、一筋の光が照らされるかのように比企谷との再開に喜びを隠しきれずにいた。
ただ1人を除いては。
「…止まれ!」
「はあ!?何言ってんのよ!私は比企谷に文句の1つや2つじゃ済ま」
「高城さん!下がってください」
「ちょっと平野まで何…言って…」
「比企谷…ちゃん?」
「っ!そ、そんなっ…」
みんなの前に現れた比企谷八幡は、おびただしい返り血を全身に浴びながら、濁りきり仄暗く狂気に走りきった瞳を爛々と照らし、布を猿轡代わりに口に縛りつけた最愛の妹、小町をおぶっていたのだった。
「比企谷君…【ソレ】を下ろすんだ」
「………」
反応はなかった。ブツブツと静かに何かを呟きながら歩くだけの、ゾンビとなんら変わらない仕草だった。皆のことに気付かないまま通りすぎようとした。
「比企谷君!待ってよ!止まって!」
「宮本君!危険だ!下が」
「先輩は黙ってて!」
宮本は八幡を掴む、しかし背中にいる妹だったモノは獲物に反応して彼女に食らいつこうと暴れ出す。
んぐううぅぅ!
「ひぃっ!」
「……こら、小町。暴れんなよ、もうすぐ、だから…」
「比企谷君…」
「……やむを得ない」
毒島は八幡がおぶっている妹を強引に引き剥がそうとする。しかしそれに反応するかのように、八幡は毒島に向かってバットを振った。本当に殺すかの勢いで。間一髪で躱すも、彼の行動に驚きが隠せなかった。
「っっ」
「触んな、小町に…妹に指1本触れんなぁ!」
八幡の狂気を孕んだ恫喝に、高城は恐怖のあまり腰を抜かした。平野は変わらず銃口を妹ではなく八幡に向ける。鞠川はこの状況でどうしたらいいかパニックになる。
ただ1人、沈みきっていた沼から上がってきたもう1人の狂人が八幡の腹を柄で突くのだった。
「がはっ!い、でえぇ…」
「ごめんなさい、比企谷君」
転倒した拍子に小町だったゾンビは背中から離れる。八幡は鳩尾を柄で突かれ、痛さのあまり悶え苦しむが這いずりながら小町の元へと辿り着こうとする。
「ご、ごまぢぃ…」
しかし、小町が転倒した先は、幸か不幸か彼女の…毒島冴子の元へと転がっていたのだった。
あ゛あ゛…おに…ちゃ…
「恨むなら私を好きなだけ恨むんだ。君にはその資格がある」
「よせ…止め、ろ…小町の、こと…病院に…連れてか…」
「すまない…比企谷君」
「やめろぉぉぉ!!!」
彼の制止の叫びは、無情にも叶わなかった。日が沈む空の元に、一閃の血飛沫が舞った。その光景を最後に、比企谷八幡の意識は途絶えた。
Report:1
フランク・ウェスト
正史では世界へウィラメッテでおきたアウトブレイクの全てを公表することに成功。一躍有名人となるもそれは時間と共に忘れさられた。
この世界のフランクは証拠が闇に葬られ、うだつのあがらないジャーナリストになり皮肉屋として磨きがかかった。
ある情報筋の元、日本のある場所にてウイルスの取り引きがあったことを知る。
急遽日本語を覚えることになり、文句を言いつつも持ち前の要領の良さで会話するには問題ないレベルになり、単身日本へと乗り込むのだった。
ウィラメッテ、ラクーンシティ…どちらかでも良い。とにかく新たな証拠が欲しいのだ。今度こそ、闇を暴いて世界に真実を伝える一ジャーナリストの信念として、床主市に降り立った。、