とある学園都市の第零位《ゼロナンバー》   作:右左右左右

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第29話 観測者を狩る者

 八月十二日、午前九時十八分。

 

 学園都市第七学区。

 

「……なるほど」

 

 久遠零司は、テーブルに置かれた黒い通信端末を見つめていた。

 

 八月十日。

 

 旧貨物操車場で襲撃してきた武装部隊から回収したものだ。

 

 その内部には暗号化された通信記録が残っていた。

 

 しかし、今回注目しているのは記録そのものではない。

 

「……これ、電源を入れたらどうなるんだろうね」

 

「……また動くんじゃない?」

 

 N-13が答えた。

 

「そうだね」

 

 零司は頷く。

 

「それだけならいいんだけど」

 

 そのとき。

 

「……位置情報を送信する可能性がある」

 

 N-12が口を開いた。

 

 右腕には、まだ包帯が巻かれている。

 

 昨夜の救出戦には同行せず、部屋で九九七一号と待機していた少女だ。

 

「……この端末、外した電源部品に管理番号が書いてある」

 

「……それで?」

 

「……管理番号を使って、紛失した機械を探す仕組みかもしれない」

 

 零司は、少しだけ考えた。

 

 確かに、それはあり得る。

 

 襲撃部隊の装備品。

 

 所属を隠しているとはいえ、組織的に運用されている以上、機材の管理は必要になる。

 

「……じゃあ、便利だね」

 

 零司が笑った。

 

 N-13が首を傾げる。

 

「……何が?」

 

「向こうから探しに来てくれるかもしれない」

 

「…………」

 

 N-13は、嫌な予感がした。

 

「……零司」

 

「何?」

 

「……また、変なこと考えてる?」

 

「失礼だなぁ」

 

 零司は、端末を手に取った。

 

「今度は、こっちから仕掛けようと思って」

 

 その言葉に、N-12が顔を上げる。

 

「……研究者を?」

 

「そう」

 

 零司は頷いた。

 

「毎回、実験施設へ行くのは効率が悪いでしょ」

 

 八月十日。

 

 九九七一号の実験へ介入。

 

 八月十一日。

 

 九九七二号の実験へ介入。

 

 その結果、二人の妹達は生存した。

 

 だが、絶対能力進化計画は続いている。

 

 実験場所を変更し、時刻を繰り上げ、観測設備を破棄する。

 

 研究側は、すでに対策を取り始めていた。

 

「……だったら」

 

 零司は、端末を指先で転がした。

 

「相手が動く場所を、こっちで決めればいい」

 

 N-13は、しばらく少年を見つめていた。

 

 そして。

 

「……また戦うの?」

 

「たぶん」

 

「……今度は、誰か死ぬ?」

 

 零司の手が止まった。

 

 N-13は、目を逸らさなかった。

 

 旧貨物操車場で死んだ警備員。

 

 あの光景を、まだ忘れていない。

 

 零司は、数秒ほど少女を見つめた。

 

「相手次第かな」

 

「……そう」

 

 N-13は頷いた。

 

 納得したわけではない。

 

 それでも、誤魔化されるよりはよかった。

 

 その隣から、別の声がした。

 

「質問があります」

 

 ミサカ九九七一号だった。

 

 少女は、テーブルに置かれた二本の缶飲料を見つめている。

 

「今回の行動は、ミサカたちの実験を停止させることが目的でしょうか」

 

「最終的にはね」

 

 零司が答える。

 

「でも、今日の目標は別」

 

「……別?」

 

「誰が僕たちを観測してるのか、確かめる」

 

 九九七一号が、首を傾げた。

 

「観測する側を観測する、ということでしょうか」

 

「そういうこと」

 

 零司は笑った。

 

「見られっぱなしって、あんまり好きじゃないんだよね」

 

     ◇

 

 午前十時四十六分。

 

 第七学区、某ファストフード店。

 

「……つまり」

 

 御坂美琴は、目の前の少年を睨んでいた。

 

「敵をわざと呼び寄せるってこと?」

 

「そう」

 

「……馬鹿なの?」

 

「ひどいなぁ」

 

 零司は、平然とポテトを口へ運んだ。

 

 美琴のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

「向こうは武装した連中なのよ!?」

 

「知ってる」

 

「爆発物まで使ってくるんでしょ!?」

 

「使ってきたね」

 

「だったら、もう少し危機感を持ちなさいよ!」

 

 零司は、少しだけ考えた。

 

「……でも、昨日のままじゃ相手のこと何も分からないし」

 

 その言葉に、美琴は口を閉じた。

 

 昨日の事件。

 

 研究施設の自爆。

 

 繰り上げられた実験。

 

 そして、零司と一方通行の戦闘。

 

 すべてが、研究者側に利用されていた可能性がある。

 

 それは美琴も理解していた。

 

「……それで、私に何をしてほしいの?」

 

「通信端末を調べてほしい」

 

「……端末?」

 

 零司は、黒い機械を差し出した。

 

「中の情報を全部読む必要はないよ。電源を入れたら、どんな通信をするかだけ」

 

 美琴は、端末を受け取った。

 

 外装を確認する。

 

 それから、指先を軽く当てた。

 

 パチッ。

 

 微弱な電流。

 

 内部の回路構成が、美琴の感覚へ伝わってくる。

 

「……ふうん」

 

 小さく呟く。

 

「送受信機能は生きてるわね」

 

「そう?」

 

「ただし、通信内容は暗号化されてる。すぐに全部読めるわけじゃないわよ」

 

「それでいいよ」

 

 美琴は、さらに回路を調べた。

 

「……電源が入ると、定期的に管理信号を送信する仕組みみたい」

 

 零司の目が細くなる。

 

「位置情報は?」

 

「位置を特定するための情報も含まれてる可能性はある。でも、送信先を特定するには実際の通信を追う必要があるわね」

 

「なるほど」

 

 零司は頷いた。

 

「じゃあ、使えそう」

 

 美琴は端末を机へ置いた。

 

「……一つ聞いていい?」

 

「何?」

 

「あんた、敵を捕まえたらどうするつもり?」

 

「話を聞く」

 

「……それだけ?」

 

「答えてくれたらね」

 

 美琴の表情が険しくなった。

 

「……また、昨日みたいなことする気?」

 

 零司は、すぐには答えなかった。

 

 物流施設で、保安責任者の腕を折ったこと。

 

 そのまま殺す可能性まで口にしたこと。

 

 美琴は、忘れていない。

 

「……あんたが強いのは分かったわ」

 

 少女は、静かに続けた。

 

「でも、強いからって何をしてもいいわけじゃない」

 

 零司は、少しだけ笑った。

 

「君、本当に真面目だね」

 

「茶化さないで!」

 

 テーブルが、僅かに揺れた。

 

 零司は、美琴を見つめた。

 

「……じゃあ、こうしようか」

 

「何?」

 

「捕まえた相手の扱いは、君に任せる」

 

 美琴が目を瞬かせる。

 

「……え?」

 

「君がいるところでは、なるべく殺さない」

 

「……なるべく!?」

 

「絶対とは言えないでしょ」

 

 零司は、淡々と答えた。

 

「君が撃たれそうになっても、相手の命を優先してほしい?」

 

「…………」

 

 美琴は、言葉に詰まった。

 

 零司の考えを受け入れたわけではない。

 

 だが、危険な相手を前にして、どんな状況でも全員を無傷で捕まえられるとは限らない。

 

「……それでも」

 

 美琴は、少年を睨んだ。

 

「私は、できる限り誰も殺さない」

 

「うん」

 

 零司は頷いた。

 

「それでいいと思うよ」

 

 美琴は、深く息を吐いた。

 

「……ほんっと、調子狂うわね」

 

     ◇

 

 午後零時二十一分。

 

 第七学区、西部貨物集積場。

 

 かつて民間貨物の一時保管に使用されていた施設。

 

 現在は、再開発の準備期間に入っており、通常の利用は少ない。

 

 そこへ、一台の小型車両が進入した。

 

 運転席には誰もいない。

 

 荷台には、黒い通信端末。

 

 その電源が入っていた。

 

《通信接続》

 

《管理信号送信》

 

 端末の小さなランプが点滅する。

 

 そして、一定の間隔で無線信号が発信され始めた。

 

     ◇

 

 同時刻。

 

 学園都市某所。

 

「……反応を確認」

 

 暗い管理室。

 

 男が、端末を見つめていた。

 

《紛失通信装置》

 

《識別番号:確認》

 

《位置情報:第七学区西部》

 

 その隣に立つ研究員が、口を開く。

 

「……回収しますか?」

 

「待て」

 

 男は、画面を拡大した。

 

 端末の発信位置。

 

 周囲の道路。

 

 そして、監視カメラの映像。

 

「……誰もいない?」

 

「現時点では、人物を確認できていません」

 

 男は、しばらく考えた。

 

 紛失した通信装置。

 

 それが、突然通信を再開した。

 

 しかも、普段はほとんど使用されていない貨物集積場で。

 

「……罠だな」

 

 短く呟く。

 

 研究員が顔を上げた。

 

「……では、放置しますか?」

 

「いや」

 

 男は、静かに笑った。

 

「こちらの装備を利用している以上、多少は情報を取れる」

 

 そして。

 

「回収班を出せ」

 

「……危険では?」

 

「だから、直接人間を送り込まない」

 

 画面が切り替わる。

 

《無人回収機》

 

《遠隔監視装置》

 

《投入準備》

 

 男は、椅子へ深く腰を下ろした。

 

「……誘っているなら、付き合ってやればいい」

 

     ◇

 

 午後零時二十九分。

 

 西部貨物集積場、南側監視塔。

 

「……来た」

 

 美琴が、小さく呟いた。

 

 遠くの道路。

 

 そこから、二台の無人車両が進入してきた。

 

 先頭は、箱型の回収機。

 

 後続は、小型の監視車両だった。

 

 人間は乗っていない。

 

「……やっぱり、警戒してるわね」

 

 美琴が言った。

 

 隣に立つ零司は、車両を眺めていた。

 

「そうみたいだね」

 

「……どうする?」

 

「予定どおり」

 

 零司は、軽く指を動かした。

 

 次の瞬間。

 

 無人回収機の前輪が、突然停止した。

 

「……っ!?」

 

 車体が大きく傾く。

 

 しかし、転倒する寸前で動きが止まった。

 

 続いて、後続の監視車両も停止する。

 

 美琴が右手を伸ばした。

 

 パチッ!

 

 微弱な電流が、監視車両の通信回路へ干渉する。

 

 ただし、完全には破壊しない。

 

 通信内容を観測できる状態を残す。

 

「……受信したわ」

 

 美琴が呟いた。

 

「向こうから、何か命令が来てる」

 

 零司が顔を向ける。

 

「何て?」

 

「……待って」

 

 少女は、目を細めた。

 

 通信自体は暗号化されている。

 

 だが、送受信のタイミング。

 

 接続している中継設備。

 

 そして、通信が途切れたときの再接続先。

 

 そうした情報は確認できた。

 

「……なるほど」

 

 美琴が、小さく笑った。

 

「こいつら、近くの中継設備を使ってる」

 

「場所は?」

 

「第七学区の北西側。少なくとも、そこまでは追える」

 

 零司は頷いた。

 

「十分だよ」

 

 そのとき。

 

 N-13から連絡が入った。

 

『……零司』

 

「何?」

 

『……北側の道路に、黒い車が三台』

 

 零司の目が細くなる。

 

「人は?」

 

『……乗ってる』

 

 N-13は、少しだけ声を落とした。

 

『……でも、変』

 

「何が?」

 

『……先頭の車だけ、監視カメラが多い』

 

 零司は、少しだけ考えた。

 

 そして。

 

「……なるほど」

 

 その口元に、薄い笑みが浮かぶ。

 

「向こうも、こっちを見に来たんだ」

 

     ◇

 

 午後零時三十二分。

 

 西部貨物集積場、北側搬入口。

 

「……対象を確認」

 

 黒い車両の内部。

 

 戦闘服の男が、通信装置へ呟いた。

 

「ZEROおよび第三位を確認」

 

『了解』

 

 通信の向こうから、低い声が返る。

 

『観測を優先しろ。無理に交戦する必要はない』

 

「……了解」

 

 男は、端末を操作した。

 

 車両の外壁に取り付けられた複数の監視装置が起動する。

 

 通常の映像。

 

 赤外線。

 

 距離測定。

 

 そして、周囲の電磁的な変化を記録する測定器。

 

 すべてが、零司たちへ向けられていた。

 

「……あの少年の能力を記録しろ」

 

 男が告げる。

 

「可能なら、第三位の干渉範囲も測定する」

 

 そのとき。

 

 監視画面の一つに、不自然な乱れが生じた。

 

「……ん?」

 

 画面を確認する。

 

 誰もいないはずの通路。

 

 そこに、ほんの一瞬だけ人影が映った。

 

「……何だ?」

 

 すぐに別のカメラへ切り替える。

 

 しかし、何も映っていない。

 

 男は、眉をひそめた。

 

「……映像を確認しろ」

 

 その瞬間。

 

 車両の側面から、小さな音がした。

 

 カチリ。

 

「……っ!?」

 

 男が振り返る。

 

 車両の扉。

 

 その鍵が、いつの間にか外されていた。

 

 そして。

 

「……こんばんは」

 

 そこに、一人の少女が立っていた。

 

 暗い青緑色の長い髪。

 

 赤茶色の瞳。

 

 N-13。

 

「……貴様!」

 

 男が、咄嗟に銃へ手を伸ばした。

 

 しかし。

 

 その瞬間。

 

 少女の位置が、視界の中で不自然に揺らいだ。

 

「……っ!?」

 

 目の前にいる。

 

 それは分かる。

 

 だが、どこを見ればいいのか判断が遅れる。

 

 観測干渉。

 

 注意の向け先や、観測情報の一致を乱す能力。

 

 男の反応が、一瞬遅れた。

 

 その隙に。

 

 N-13が、車両の操作盤へ手を伸ばした。

 

 カチリ。

 

 内側の非常解錠装置が作動する。

 

「……零司!」

 

 少女が叫んだ。

 

 次の瞬間。

 

 車両の扉が、外側へ吹き飛んだ。

 

     ◇

 

 ガシャアアアンッ!

 

「……なっ!?」

 

 戦闘服の男が、目を見開いた。

 

 扉が、地面へ落下する。

 

 その向こうに、久遠零司が立っていた。

 

「……ご苦労さま」

 

 少年が、軽く手を振る。

 

「ちょっと話、聞かせてよ」

 

 男は、即座に銃を向けた。

 

 パパパッ!

 

 銃声。

 

 しかし、弾丸は一発も届かない。

 

 零司の目前で、すべてが静止した。

 

「……またそれか」

 

 少年は、呆れたように呟いた。

 

 次の瞬間。

 

 男の銃が、手から引き剥がされる。

 

 さらに、身体が座席へ押しつけられた。

 

「……ぐっ!?」

 

 零司は、車両内部を見渡した。

 

 監視装置。

 

 通信設備。

 

 記録媒体。

 

 そして、複数のモニター。

 

「……へえ」

 

 少しだけ目を細める。

 

「結構、本格的だね」

 

 男が、歯を食いしばった。

 

「……貴様、何が目的だ!」

 

「君たちの上司に会いたい」

 

「……何?」

 

「僕を観測してる人」

 

 零司は、笑った。

 

「そろそろ、直接話してみたくなってさ」

 

 その瞬間。

 

 男の口元が、僅かに歪んだ。

 

「……馬鹿め」

 

 零司が首を傾げる。

 

「ん?」

 

「……ここへ来た時点で」

 

 男は、低く笑った。

 

「……貴様らは、もう観測対象だ」

 

 その言葉に。

 

 零司の瞳が、僅かに細くなった。

 

 そして。

 

 車両の外から、巨大な音が響いた。

 

     ◇

 

 ドォンッ!

 

「……っ!?」

 

 N-13が、咄嗟に身を伏せた。

 

 車両の横。

 

 そこへ、巨大な金属製の箱が落下した。

 

 違う。

 

 落下したのではない。

 

 隣の貨物車両から、射出されたのだ。

 

 その箱が、地面へ激突した瞬間。

 

 側面が開いた。

 

 ガシャンッ!

 

 内部から、複数の小型兵器が飛び出した。

 

 車輪。

 

 低い車体。

 

 上部には、短い発射管。

 

「……何、あれ!?」

 

 美琴が、監視塔から叫んだ。

 

 次の瞬間。

 

 発射音が響いた。

 

 パシュッ!

 

 金属弾ではない。

 

 非金属製の硬質弾。

 

 圧縮空気によって射出されたそれが、N-13へ向かって飛ぶ。

 

「……っ!」

 

 少女が、咄嗟に身体を捻った。

 

 弾丸が、肩のすぐ横を通過する。

 

 背後の壁に、鋭い音を立てて突き刺さった。

 

「……零司!」

 

 N-13が叫ぶ。

 

 その瞬間。

 

 小型兵器の一台が、横転した。

 

 車輪の軸が、不自然に折れ曲がっている。

 

 零司の能力だった。

 

 だが。

 

 残る兵器は、すでに別の方向へ移動していた。

 

 N-13へ向けられていた発射管が、今度は美琴のいる監視塔へ向く。

 

「……っ!」

 

 美琴が、顔を上げた。

 

 そして。

 

「……なるほどね!」

 

 その口元が、僅かに上がった。

 

「私の電撃を警戒して、絶縁性の弾を使ってるってわけ!」

 

 次の瞬間。

 

 少女が右手を振り上げた。

 

 地面に散らばっていた鉄片が、一斉に浮き上がる。

 

 さらに、周囲のレールから微細な砂鉄が集まり始めた。

 

 黒い粒子。

 

 それらが、美琴の周囲へ集中する。

 

「……だったら!」

 

 砂鉄が、巨大な帯となって伸びた。

 

 ガギギギッ!

 

 小型兵器の進行方向に、黒い壁が形成される。

 

 射出された硬質弾が、次々と砂鉄へ突き刺さる。

 

 しかし、貫通しない。

 

 そのまま、内部へ飲み込まれていく。

 

「……金属じゃないなら」

 

 美琴が、歯を見せて笑った。

 

「弾を受け止めればいいだけでしょ!」

 

 次の瞬間。

 

 砂鉄の帯が、地面を這うように動いた。

 

 小型兵器の車輪へ絡みつく。

 

 ガギンッ!

 

 駆動軸が停止する。

 

 一台。

 

 二台。

 

 三台。

 

 次々と、車体が動きを止めた。

 

 美琴は、そのまま監視塔から飛び降りた。

 

 落下地点へ、砂鉄が集まる。

 

 黒い粒子が衝撃を受け止め、少女の着地を補助した。

 

「……よし!」

 

 美琴が顔を上げる。

 

 しかし。

 

 その瞬間。

 

 背後から、低い機械音が響いた。

 

 ガコンッ。

 

「……え?」

 

 振り返る。

 

 そこには、大型の貨物搬送機があった。

 

 古い油圧式の機械。

 

 荷物を持ち上げるための巨大なアーム。

 

 その先端が、ゆっくりと持ち上がっている。

 

 そして。

 

 次の瞬間。

 

 美琴へ向かって振り下ろされた。

 

     ◇

 

「……っ!」

 

 美琴が、目を見開いた。

 

 巨大な鉄製アーム。

 

 その質量は、明らかに人間が受け止められるものではない。

 

 咄嗟に磁力を利用して、アームの動きを変えようとする。

 

 だが。

 

 機械の内部で、油圧がさらに高まった。

 

 金属の軋む音。

 

 アームが、強引に押し込まれてくる。

 

「……くっ!」

 

 美琴が、歯を食いしばる。

 

 その瞬間。

 

 ガギンッ!

 

 巨大なアームが、空中で停止した。

 

「……危ないね」

 

 零司だった。

 

 少年は、少し離れた場所から右手を上げていた。

 

 アームに掛かる力。

 

 油圧装置の内部応力。

 

 それらが、強引に組み替えられている。

 

 次の瞬間。

 

 ガシャアッ!

 

 油圧シリンダーが、内部から破裂した。

 

 巨大なアームが、ゆっくりと地面へ落ちる。

 

 ドォンッ!

 

 美琴は、深く息を吐いた。

 

「……助かった!」

 

「どういたしまして」

 

 零司は、軽く答えた。

 

 しかし。

 

 その瞬間。

 

 車両の内部から、短い電子音が響いた。

 

 ピッ。

 

 零司の表情が変わる。

 

「……ん?」

 

 振り返る。

 

 先ほど拘束した男。

 

 その手元。

 

 座席の下に隠された、小さな操作装置。

 

 男の指が、スイッチへ掛かっていた。

 

「……っ!」

 

 N-13が息を呑む。

 

 零司は、即座に指を動かした。

 

 操作装置が、空中で分解される。

 

 だが。

 

 その直前。

 

 送信ランプが、一度だけ点灯していた。

 

「……あらら」

 

 零司が、小さく呟いた。

 

 次の瞬間。

 

 車両の内部に設置された記録装置から、白い煙が上がった。

 

     ◇

 

「……何!?」

 

 美琴が、駆け寄った。

 

 記録装置の内部。

 

 複数の記録媒体が、急激に加熱されている。

 

 さらに、装置の奥には物理的な破壊機構が組み込まれていた。

 

「……自動消去!?」

 

 美琴が叫ぶ。

 

 零司は、内部を見た。

 

「……そうみたい」

 

 指先が動く。

 

 内部の熱移動が抑えられ、破壊機構の動作が停止する。

 

 しかし。

 

 すでに一部の記録媒体は損傷していた。

 

「……遅かったか」

 

 零司が呟く。

 

 美琴は、すぐに装置へ手を伸ばした。

 

「まだ全部壊れたわけじゃない!」

 

 内部の電子回路へ干渉する。

 

 残された記録領域。

 

 外部接続装置。

 

 そして、記録媒体の状態を確認する。

 

「……こっちは駄目」

 

 美琴が歯を食いしばる。

 

 別の領域を調べる。

 

「……これも」

 

 さらに。

 

「……あった!」

 

 少女の表情が変わった。

 

 完全な記録ではない。

 

 だが、一部の運用情報が残っている。

 

「……搬送記録?」

 

 零司が顔を向ける。

 

「何?」

 

「この車両、観測装置だけじゃないみたい」

 

 美琴が画面を指差した。

 

《車両運用記録》

 

《観測資料回収》

 

《関連施設への搬送》

 

《運用管理番号:記録あり》

 

 零司の目が細くなる。

 

「……へえ」

 

 そのとき。

 

 N-13が、車両の奥から声を上げた。

 

「……零司!」

 

 少年が振り返る。

 

「何?」

 

「……こっちにも、何かある」

 

 N-13が手にしていたのは、薄い書類ケースだった。

 

 車両内部の収納棚。

 

 電子的な認証装置のない、物理的な保管場所。

 

 そこに収められていたものだった。

 

「……書類?」

 

 零司が尋ねる。

 

 N-13は頷いた。

 

「……紙」

 

 美琴が、思わず目を瞬かせた。

 

「……紙?」

 

 ケースを開く。

 

 中には、複数の搬送伝票が入っていた。

 

 研究資材。

 

 設備番号。

 

 管理区画。

 

 そして、次の搬送予定。

 

「……これ」

 

 美琴の表情が変わった。

 

 伝票の一つを取り出す。

 

《観測関連資料》

 

《移送区分:機密》

 

《搬送先:第十八学区・統合観測管理区画》

 

 零司が、ゆっくりと笑った。

 

「……やっと出てきた」

 

 N-13が顔を上げる。

 

「……何が?」

 

「向こうの仕事場」

 

 零司は、伝票を指差した。

 

「少なくとも、観測記録がそこへ送られてるってことだね」

 

 美琴は、書類を見つめていた。

 

 まだ、それが絶対能力進化計画の中枢と断定できるわけではない。

 

 だが。

 

 久遠零司を観測していた組織。

 

 その運用経路の一部は、初めて具体的な形で判明した。

 

「……これは大きいわね」

 

 美琴が呟いた。

 

 零司は頷いた。

 

「そうだね」

 

 そして、少しだけ笑った。

 

「今日は、こっちの勝ちかな」

 

 その瞬間。

 

 背後から、声がした。

 

「……勝ったつもりか」

 

     ◇

 

 振り返る。

 

 先ほど拘束した男が、零司を睨んでいた。

 

「……貴様らが手に入れたものなど、ほんの一部だ」

 

 零司は、首を傾げた。

 

「そうだろうね」

 

「……何?」

 

「全部手に入るとは思ってないよ」

 

 少年は、笑った。

 

「でも、君たちが何を運んでるかは分かった」

 

 男の表情が変わった。

 

「…………」

 

「それに」

 

 零司は、一歩近づいた。

 

「君たち、僕の能力を調べたいんでしょ?」

 

 男は、黙っていた。

 

 その沈黙を見て。

 

 零司は、少しだけ目を細めた。

 

「じゃあ、今度は僕が調べる番だね」

 

 男の顔色が変わる。

 

「……何を」

 

「君たちのこと」

 

 零司は、静かに答えた。

 

 そして。

 

「研究対象になる気分、どう?」

 

 その言葉に。

 

 男の表情が、僅かに強張った。

 

 そのとき。

 

「――久遠!」

 

 美琴が声を上げた。

 

 零司が振り返る。

 

「何?」

 

「……その人は、もう抵抗できないでしょ」

 

「そうだね」

 

「だったら、これ以上やらないで」

 

 零司は、少しだけ考えた。

 

 そして。

 

「……分かったよ」

 

 あっさりと答えた。

 

 美琴が、目を瞬かせる。

 

「……え?」

 

「君に任せるって言ったしね」

 

 零司は肩をすくめた。

 

「ただし、逃がさないでよ」

 

「……当然よ!」

 

 美琴は、男へ視線を向けた。

 

 その身体から、青白い火花が散る。

 

「……あんたたちがやってること、全部話してもらうから」

 

 男は、何も答えなかった。

 

     ◇

 

 午後一時二十四分。

 

 第七学区、某所。

 

「……大丈夫?」

 

 N-12が、ミサカ九九七一号へ尋ねた。

 

 少女は、小さく頷いた。

 

「はい」

 

 その隣には、ミサカ九九七二号。

 

 二人は、テーブルを挟んで向かい合っていた。

 

 零司たちが動いている間、三人は別の場所で待機していた。

 

 N-12の腕は、まだ完全には治っていない。

 

 そのため、今回は現場へ同行していない。

 

「……何か分かった?」

 

 N-12が尋ねる。

 

 九九七一号は、少しだけ考えた。

 

「ミサカネットワークを通じて、他の個体の状況を確認しています」

 

「……うん」

 

「現在も、絶対能力進化計画は継続されています」

 

 N-12の表情が曇った。

 

「……そうだよね」

 

 九九七二号が口を開く。

 

「ただし、前回の実験結果が無効となったことで、一部の予定に変更が発生しています」

 

「……変更?」

 

「はい」

 

 少女は頷いた。

 

「次の実験対象は、ミサカ九九七三号です」

 

 N-12が、顔を上げた。

 

「……また、次の子」

 

「はい」

 

 九九七二号は、静かに答えた。

 

「実験予定日は、本日です」

 

 その言葉に。

 

 N-12の拳が、ゆっくりと握りしめられた。

 

「……今日」

 

「はい」

 

 九九七一号が、続けた。

 

「予定時刻は二十一時です」

 

 沈黙。

 

 N-12は、窓の外を見た。

 

 学園都市の街並み。

 

 夏の青空。

 

 いつもどおりの、穏やかな午後。

 

 だが。

 

 その裏側では、また一人の少女が死亡する予定になっている。

 

「……ねえ」

 

 N-12が口を開いた。

 

 九九七一号が顔を向ける。

 

「何でしょうか」

 

「……その子と、話せる?」

 

「ネットワークを通じた情報共有は可能です」

 

「……じゃあ」

 

 N-12は、二人を見つめた。

 

「……伝えてほしいことがある」

 

 九九七二号が首を傾げる。

 

「……何でしょうか」

 

「……死ななくてもいいって」

 

 短い言葉だった。

 

 九九七一号は、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……了解しました」

 

 静かに頷いた。

 

     ◇

 

 午後二時三十九分。

 

 第七学区、帰路。

 

「……それで」

 

 美琴が、零司を見上げた。

 

「……あんた、次はどうするつもり?」

 

「資料を読む」

 

「……それだけ?」

 

「まずはね」

 

 零司は、書類ケースを軽く持ち上げた。

 

 戦闘で入手した搬送記録。

 

 通信設備の接続情報。

 

 そして、観測資料の移送先。

 

 どれも完全な情報ではない。

 

 だが、研究者たちを追うための手掛かりにはなる。

 

「……第十八学区ね」

 

 美琴が呟いた。

 

「……そう」

 

 零司は頷いた。

 

「でも、いきなり行っても、また逃げられるかもしれないし」

 

 美琴が目を瞬かせる。

 

「……あんたが慎重になるなんて珍しいわね」

 

「失礼だなぁ」

 

 零司は笑った。

 

「毎回、正面から行ってるわけじゃないよ」

 

「……昨日までの行動を思い出してから言いなさいよ」

 

 美琴は呆れたように息を吐いた。

 

 そのとき。

 

 零司の携帯端末が振動した。

 

 N-12からの着信。

 

「……もしもし」

 

『……零司』

 

「何?」

 

『……次の実験、今日だって』

 

 零司の目が細くなる。

 

「……うん」

 

『……九九七三号』

 

「……そっか」

 

『……それで』

 

 N-12は、少しだけ言葉を詰まらせた。

 

『……二人が、その子に話しかけてる』

 

 零司は、静かに聞いていた。

 

『……生きたいって思ってもいいって』

 

「……なるほど」

 

 少年は、少しだけ笑った。

 

「いいんじゃない?」

 

 N-12が、小さく息を吐く。

 

『……うん』

 

「で、その子は何て?」

 

『……まだ、返事はない』

 

「……そっか」

 

 零司は、少しだけ考えた。

 

 そして。

 

「返事が来たら、教えて」

 

『……分かった』

 

 通話が切れる。

 

 美琴が顔を向ける。

 

「……何かあった?」

 

「次の妹達の実験が、今日あるんだって」

 

 美琴の表情が変わった。

 

「……何ですって?」

 

 零司は頷いた。

 

「二十一時」

 

 少女の拳が、強く握りしめられる。

 

「……また、あの実験を……!」

 

 零司は、少しだけ目を細めた。

 

 研究側の観測部隊。

 

 絶対能力進化計画。

 

 そして、次の実験対象。

 

 すべてが、同時に動いている。

 

「……忙しくなりそうだね」

 

 美琴が、少年を睨んだ。

 

「……他人事みたいに言わないで!」

 

「他人事じゃないよ」

 

 零司は、静かに答えた。

 

「だから、今度は別の方法を考えようと思って」

 

「……別の方法?」

 

「うん」

 

 少年は、書類ケースを持ち直した。

 

「一人ずつ助けても、終わらないでしょ」

 

 その言葉に。

 

 美琴は、口を閉じた。

 

 確かに、そうだった。

 

 九九七一号。

 

 九九七二号。

 

 二人を助けた。

 

 だが、次の個体が実験へ送り込まれる。

 

 その次も。

 

 さらに、その次も。

 

 同じことを繰り返すだけでは、いずれ間に合わなくなる。

 

「……じゃあ」

 

 美琴が、静かに尋ねた。

 

「……どうするの?」

 

 零司は、少しだけ笑った。

 

「実験する側が、実験を続けられなくなればいい」

 

 美琴の表情が変わった。

 

「……それって」

 

「研究施設を全部壊す、って意味じゃないよ」

 

 零司は、肩をすくめた。

 

「少なくとも、今はね」

 

 そして。

 

「予定を出してる人。資金を動かしてる人。実験結果を集めてる人」

 

 少年は、書類ケースを指先で叩いた。

 

「その人たちの仕事を、止めに行こう」

 

 美琴は、しばらく零司を見つめていた。

 

 そして。

 

「……分かった」

 

 小さく頷いた。

 

「そこまでは、私も協力する」

 

 零司は笑った。

 

「頼りにしてるよ」

 

「ただし!」

 

 美琴が、人差し指を突きつける。

 

「人を殺すために協力するわけじゃないからね!」

 

「知ってる」

 

 零司は頷いた。

 

 その返答に。

 

 美琴は、少しだけ眉をひそめた。

 

「……本当に分かってる?」

 

「分かってるよ」

 

 少年は、楽しそうに笑った。

 

「君は、そういう人でしょ」

 

     ◇

 

 午後四時五十二分。

 

 第十八学区、統合観測管理区画。

 

「……観測車両が制圧された?」

 

 管理室。

 

 白衣姿の男が、報告書を見つめていた。

 

 その表情は、険しかった。

 

「はい」

 

 研究員が答える。

 

「一部の記録媒体が回収されました」

 

「……何を持っていかれた?」

 

「運用記録の一部、および紙媒体の搬送伝票です」

 

 男は、数秒ほど黙った。

 

 そして。

 

「……なるほど」

 

 小さく呟く。

 

 久遠零司。

 

 非公式の第零位。

 

 これまで、研究者側が一方的に観測していた存在。

 

 その少年が、今度は研究側の情報を集め始めた。

 

「……想定より早いな」

 

 男は、端末へ視線を向けた。

 

《ZERO》

 

《行動傾向:更新》

 

《観測部隊への逆介入》

 

《関連情報の取得を確認》

 

 研究員が、恐る恐る尋ねる。

 

「……今後、どう対応しますか」

 

 男は、しばらく考えた。

 

 そして。

 

「……直接的な観測を減らせ」

 

「……はい?」

 

「近づきすぎれば、こちらの情報を奪われる」

 

 その声は、静かだった。

 

「観測する側の安全が確保できないなら、手段を変える」

 

 研究員が頷いた。

 

 男は、別の画面を開く。

 

《絶対能力進化計画》

 

《次回実験:第九九七三次》

 

《予定時刻:二十一時》

 

《対象個体:ミサカ九九七三号》

 

 そして。

 

 その下に表示された情報へ、視線を移した。

 

《ミサカネットワーク》

 

《個体間通信:異常傾向を確認》

 

《生存希望に関する情報共有》

 

 男の目が細くなる。

 

「……これは」

 

 研究員が顔を上げた。

 

「……どうされました?」

 

「量産個体の行動に、変化が出ている」

 

 その言葉に。

 

 研究員の表情が変わった。

 

「……まさか」

 

「九九七一号と九九七二号が、生存した影響だろう」

 

 男は、静かに続けた。

 

「他の個体へ、予定外の情報が伝わっている」

 

 数秒の沈黙。

 

 そして。

 

「……厄介だな」

 

 男は、端末を操作した。

 

《次回実験対象》

 

《ミサカ九九七三号》

 

《個体管理:強化》

 

《外部通信環境:再確認》

 

 研究員が、頷いた。

 

「……了解しました」

 

 男は、画面を見つめた。

 

 久遠零司。

 

 御坂美琴。

 

 そして、妹達。

 

 それぞれが、研究者たちの想定から外れた行動を取り始めている。

 

「……実験予定は変更しない」

 

 男が告げた。

 

「ただし、対象個体の管理を強化する」

 

 その声には、迷いがなかった。

 

「次の実験は、必ず実施する」

 

     ◇

 

 午後五時三十一分。

 

 第七学区。

 

「……返事が来た」

 

 N-12が、顔を上げた。

 

 その隣に座る九九七一号が、小さく頷く。

 

「はい」

 

 九九七二号も、静かに口を開いた。

 

「ミサカ九九七三号から、返信がありました」

 

 N-12は、息を呑んだ。

 

「……何て?」

 

 九九七一号は、少しだけ目を伏せた。

 

 そして。

 

「……ミサカは」

 

 静かに答えた。

 

「……まだ死にたくない、とのことです」

 

 その瞬間。

 

 N-12の表情が変わった。

 

「……っ!」

 

 九九七二号が、続けた。

 

「ただし、現在位置については確認できません」

 

「……どうして?」

 

「対象個体からの応答が、途中で途絶えました」

 

 N-12が、顔を上げる。

 

「……途絶えた?」

 

「はい」

 

 九九七一号は、静かに頷いた。

 

「通信環境に何らかの制限が加えられた可能性があります」

 

 N-12は、拳を握りしめた。

 

 九九七三号。

 

 次の実験対象。

 

 その少女は、初めて自分の意思を示した。

 

 まだ死にたくない。

 

 たった、それだけのこと。

 

 だが。

 

 その返事を最後に、通信が途絶えた。

 

「……零司に、連絡しなきゃ」

 

 N-12が、端末を手に取る。

 

 そして。

 

 短いメッセージを送信した。

 

《九九七三号が、実験への参加を拒否しました》

 

《現在、通信不能》

 

《本人は、生存を希望しています》

 

 送信完了。

 

 N-12は、端末を握りしめた。

 

 その隣で、九九七一号が静かに呟く。

 

「……ミサカは、今回の実験結果を観測したいと考えています」

 

 N-12が顔を向ける。

 

「……実験結果?」

 

「いいえ」

 

 九九七一号は、首を横へ振った。

 

「ミサカ九九七三号が、生存した場合の結果です」

 

 その言葉に。

 

 N-12は、少しだけ笑った。

 

「……うん」

 

 そして。

 

「……わたしも、見たい」

 

 窓の外では、夕日が街を赤く染め始めていた。

 

 午後五時三十三分。

 

 次の実験開始まで、三時間二十七分。

 

 今度は、研究側が一方的に実験の条件を決められるとは限らない。

 

 久遠零司は、観測する側の居場所へ手を伸ばした。

 

 御坂美琴は、妹達を生み出した計画の実態を追っている。

 

 そして。

 

 妹達自身もまた、与えられた予定とは異なる未来を選ぼうとしていた。

 

 絶対能力進化計画。

 

 その前提が、少しずつ崩れ始めていた。

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