一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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お久し振りです。つい最近まで物凄く暑かったのにあっという間に冷え込みましたね…。皆さんは風邪など引いていませんか?ちなみに私は引きました。

という事で(どういう事?)、私の気が変わった結果、二年生編(後)が始まります。

※この話は前話アトガキよりも以前の話になります。








2年生(後)
第102話 シンネン


 

 

 

 

 

 

 

 

身を包む冷たい空気を切り裂いて、青空に浮かぶ太陽が温かな日差しを照らす。周りを歩くのは家族か、友人か、はたまた恋人か。皆一様に笑顔を浮かべ、両脇に屋台が並ぶ参道を歩いている。

 

「へぶしっ!はぁ~、やっぱ日本は寒ぃなぁ~」

 

「そりゃ、南の島に比べたらね~」

 

隣から聞こえてきたくしゃみの音に振り向けば、鼻の下を指で擦りながらごちる楽の姿が。そしてその向こう側には髪の毛を二つに結い、花柄の着物を着た羽が。

 

そう、陸達もまた、この参道を歩く一人なのだ。昨日、自室の炬燵に籠ってのんびりしていた所、千棘がスマホアプリのメッセージで初詣を誘ってきたのだ。断る理由もなく陸は了承。その時、疲労困憊で布団で寝込んでいた楽もそのメッセージには気付き、誘いに了承。そして同じく千棘に誘われていた羽と共に今日、三人で神社へとやって来たのだ。

 

ちなみに先程羽が口にした南の島というのは、楽が万里花と一緒に行ったキリバスの国にある孤島の事だ。陸の素知らぬ所で行われていたのだが、何やら万里花は寝ている楽を連れてその孤島に行ったらしい。そして楽と万里花は二人でその島でサバイバル生活を送ったという。

 

「しかし、橘は残念だったな。しゃーねぇけど」

 

「あぁ…。何か、絶対行きます!とか言ってたけど、本田さんがさせねぇだろ」

 

ポツリと呟いた陸に、楽が返事を返す。そう、万里花は今日の初詣に来れないのだ。

 

何でもサバイバルの途中で万里花が持病で倒れてしまったらしい。帰ってきてからの検査の結果は大事なかったようだが、今日は残念ながら来れないという。だが、冬休み明けの学校には行ける予定との事だ。

 

「おーい、三人ともー!こっちこっちー!」

 

そうして歩いていると、前方から聞き覚えのある自分達を呼ぶ声が。

 

「「「「「明けましておめでとうございまーす!!!」」」」」

 

今日来れない万里花以外のメンバー達はすでに揃っていた。この寒い中、何故そんなにもと聞きたくなるような高いテンションで、年始の挨拶を繰り出してきた。

 

「おう、あけおめー」

 

「おめでとさん」

 

「みんな、明けましておめでとー!」

 

陸達は各々挨拶を返して、集まったメンバーの中に加わり歩き出す。

 

陸、楽、集以外の八人の女性陣は皆着物を身に着け、集にとっては何とも目の保養になる光景だろう。

 

(…まあ、小咲を見て鼻の下伸ばすもんならぶん殴らせてもらうが)

 

「…な、なんだ。今、寒気が…」

 

メラッ、と、僅かに漏れた殺気は届き、集は強烈な寒気に身を震わせたのだった。

 

「い、いや~。ここに来るのも一年ぶりだね~。今日は巫女のバイトはないの?」

 

「ねーよ。去年の事はあんま思い出したくねぇんだけど…」

 

寒気を振り切った集が、いつもの明るい口調で言うと、楽がどこかうんざりした様子で返事を返す。

 

「去年は皆で初詣に行かなかったんですか?」

 

「いや、一応俺以外は行った。はずなんだが…」

 

「え?陸先輩は行かなかったんですか?」

 

「あぁ。去年はちょっと用事があってな」

 

楽と集が去年の正月について話していると、その内容に疑問をもったいない一年生組、春と風ちゃんが陸の方へと振り向いて問いかけてきた。が、去年は一征と共に挨拶回りに出ていた陸はそこに参加しておらず、曖昧な返答をするしかなかった。

 

「楽に聞いても話したくねぇ、思い出したくねぇって頑なだし」

 

「へぇ~」

 

そうして話していると、ふとこちらに振り向いた集が目を光らせ、何かを企んだような笑みを浮かべながらこちらへ寄ってきた。

 

「聞きたいかい?」

 

「「え?」」

 

「聞きたいかい?」

 

「「えっと…はい」」

 

「…そうか。実はね…、あれ?誠士郎ちゃん?桐崎さんも怖い顔して…」

 

勢いに押されながら、集の問いかけに春と風ちゃんが頷くと、ニヤニヤしながら集が話そうとする。だがその直後、物凄い形相でこちらを向いた千棘と鶫が集を木陰へと連れていきーーーーーーーーそこからは何かを殴る音と呻き声が聞こえてくるだけだった。

 

「気にしなくていいんだよ~、気にしないで。ホントだよ?」

 

更に小咲もこちらに来たかと思えば、先程の話を終わらせようとする。…そこまでされると逆に気になってしまうのだが。

 

(…しかし)

 

まあ無理に聞きたい訳でもないため、もうその話は掘り返さない事にする。それにそんな事よりも、今の陸には重要な事があった。

 

それは、今の小咲の格好である。

 

小咲が着ているのは桃色を基調とした花柄の着物。羽程派手に花柄が描かれている訳ではないが、それが逆に小咲に似合っている気がする。いつもは流している髪の毛も結っており、新鮮さを感じる。

 

(去年もこれ着てたのか?だとしたら…、去年の俺のバカ野郎!)

 

今の小咲を去年も見れたかも、と考えると無性に去年挨拶回りに同行した自分に怒りが湧いてくる。もし可能ならば、一発殴ってやりたいのだが…。

 

「どうしたの?」

 

「うおっ…」

 

胸の中のモヤモヤと戦っていると、突然陸の視界に小咲の顔が飛び込んできた。自分の世界に入り込んでいた陸は、驚きのあまりつい声を漏らしてしまう。

 

「あ、ご、ごめんね?驚かせちゃったかな…」

 

「あぁいや、まあ驚いたけど、気にすんな。考え事してた俺が悪い」

 

驚かされた事が特に気に障った訳でもなく、陸は小咲に手を上げながらその旨を伝える。

 

「考え事?」

 

陸の前方から隣に移った小咲は、陸の顔を見上げながら問いかけてきた。陸は一瞬、目を見開いてから空を見上げてーーーーーーー

 

「去年、小咲達と一緒にいなかったのが勿体なかったなって思ってさ」

 

「へ?」

 

「小咲の着物姿。去年も見れたのかなって」

 

恥ずかしげもなく、正直にそう答えたのだった。

呆気にとられ、硬直した小咲だがすぐに立ち直り…そして、顔を真っ赤にした。

 

「え…ちょっ…陸くん!?」

 

「あっははははは!似合ってるよ、着物姿。髪型も新鮮だな」

 

「…ありがとう」

 

慌てる小咲に続けて今日の格好についての感想を伝えると、更に顔を赤くさせた小咲は遂に俯いてしまった。其の様子が何とも可愛らしく、愛おしく、今すぐ小咲を抱き締めたいという衝動に駆られてしまう。当然、こんな公衆の面前でそんな事できるはずもなく、我慢するしかないのだが。

 

「…あ」

 

悶々とした気持ちを抱えながらも、何とか衝動を抑えた陸は、再び小咲に視線を向けて、彼女の首にかかる鎖を見た。それは、クリスマスイブに二人で買った、お揃いのネックレス。

 

実のところ、小咲と顔を会わせるのはクリスマスイブの日以来だった。あれから毎日メールのやり取りはしていたが、こうして実際に会って話す事は出来ないでいた。年末はそれぞれの家の用事で忙しく、会う約束を取り付けられなかったのだ。だから今日が、恋人同士となって初めて顔を会わせる日となる。

 

「陸くん?」

 

「…明けましておめでとう、小咲」

 

「…うん。明けましておめでとうございます。陸くん」

 

ゆっくりと歩きながら、微笑み合った二人は新年の挨拶を交わす。

 

「そういえば、陸くんは神様に何てお願いするの?」

 

「ん?」

 

「この神社だったら本当に叶っちゃいそうだから、下手なお願いできないねって皆で話してたんだ」

 

「…あー」

 

不意に小咲の口か出てきた問いかけに初めは戸惑うものの、小咲が続けてした説明によって陸は思い至る。確かに、ここの神主の事を考えると本当に願いが叶ってしまいそうだ。

、小咲が続けてした説明によって陸は思い至る。確かに、ここの神主の事を考えると本当に願いが叶ってしまいそうだ。

 

しかし、もしそうならば今の陸にとってまさに文字通り、願ったり叶ったりだ。

 

「んなの決まってんじゃん」

 

「え?」

 

「可愛い彼女とずっと居られます様にってお願いする」

 

「…」

 

黙り込み、俯く小咲。横目で様子を見遣ると、その顔は真っ赤に染まっていた。

 

「そ、それなら私も」

 

「ん?」

 

「り、陸くんとずっと一緒に居られます様にってお願いするつもりだったもん…」

 

「…お、おう」

 

小咲にしては珍しいストレートな言葉に、陸もまた頬を染める。

 

まだ想いを通じてから一週間。にも関わらず、完全に二人の間に流れる空気は新婚夫婦並に満たされていた。

 

 

 

 

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

 

 

 

 

前方で、二人並んで歩く男女がいる。自分の想い人と姉が、まるで恋人の様に歩いている姿を、小野寺春は複雑な気持ちを抱きながら眺めていた。

 

その光景を見ていて思い出すのは、クリスマスイブの夜、陸とのお出かけから帰ってきた姉との会話。

 

『お帰り、お姉ちゃん!どうだった?先輩とのデートは』

 

『…』

 

『…お姉ちゃん?』

 

『あ、え…は、春?ど、どうしたの?』

 

完全に上の空だった姉。その後、もう一度陸とのデートはどうだったかと聞いてみれば、顔を真っ赤にして『何にもなかったよ!うん!何にも!あはははは!』と笑いながらダッシュで自室へと逃げ込んでしまった。もう陸と何かあったとしか思えなかった。

 

そして今、仲睦まじく歩く陸と小咲。まだハッキリとした話は聞いていないが、あれはもう完全にーーーーーーー

 

「気になる?」

 

「うぇっ!?ふ、風ちゃん!?」

 

いつもの優しげな笑みを浮かべながら覗き込んできた風ちゃんに驚き、声を上げながら立ち止まる。

 

「き、きき気になるって何が?私は別に、お姉ちゃんと先輩が仲良さそうで良かったな~って思ってただけで…」

 

「ふ~ん?」

 

嘘だ。今、自分は友達に嘘をついた。でも、風ちゃんのこの笑い方は絶対に誤魔化されてない。騙されていない。春の本心を見抜いている。

 

「春はそれでいいの?」

 

「…それでいいも何も」

 

風ちゃんが聞いてくる。その問いかけが、春の心を更に暗くする。

 

「あの二人は、もうーーーーーーー」

 

「怪しいわね」

 

そう、怪しいーーーーーーって、あれ?

 

「ひゃあっ!宮本先輩!?いつの間に…」

 

「ついさっきよ。それよりも春もあの二人、怪しいと思うわよね」

 

「え?あ、はい…」

 

突然春と風ちゃんの間に現れたるり。そして何故かるりに服の襟を掴まれ引き摺られてる集。前の二人も気になるが、この二人にも一体何があったのだろうか。

 

「俺達も同じだよ」

 

「い、一条先輩?皆さんも…」

 

続けて現れたのは楽と千棘と羽、鶫にりんご飴を咥えているポーラ。ポーラはいつの間に屋台で買ったのだろうか。

 

楽は顎を手で触りながら前の二人を見つめながら続ける。

 

「陸の奴、イブの日に小野寺とどうなったかって聞いても何もねぇよとしか言わねぇんだ。…何もねぇ訳ねぇだろ。あんなの見せられちゃぁなぁ」

 

「えぇ。小咲も私に同じ事を言ってたわ。…間違いなく、イブの日に二人の間に何かあったわね」

 

千棘と羽、鶫が首をこくこくと、同時に頷く。るりに掴まれている集もまた、か細い声で「おれもそうおもいまーす…」と口にしたのを春は聞き逃さなかった。

 

「気になるな」

 

「気になるわね」

 

「右に同じ」

 

「気になる気になる」

 

「私も…、正直」

 

年上組が集まり、視線を見合せ、再び何かを決意するかのように大きく頷いた。

 

「「「「「聞き出そう」」」」」

 

「ちょっ、皆さん!?」

 

何でこんなにも団結してるのか。いや、自分も気にならないと言えば嘘になるのだが。

 

「春、私達も」

 

「風ちゃん!?」

 

まさかの風ちゃんも同じ気持ちという。何という事だ。味方が消えた。

 

「なに?何してるの?焼きそばでも買うの?」

 

何も解ってない人が一人。

 

「あびゃー」

 

行動不能が一人。

 

「ひとまず、列に並ぼう。二人を問い質すのはお参りしてからで」

 

「「「「「了解」」」」」

 

「…はぁ」

 

先程も言ったが、気にならないと言えば嘘になる。だが、出来れば真相を聞きたくない、知りたくないという複雑な思いをかかえながら、意気込んで進む楽達についていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、それ所ではなくなる騒動に陥ることは、まだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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