最後の後日談となります
主人公と笛の彼女があの世界へ行くまでのお話です
別に嫌われていただなんて思ってはいなかったし、アレだけの時間を一緒に過ごしてきたのだから、もしかしたら彼女だって俺のことを多少は意識してくれているんじゃないかくらいは思っていた。
とは言え、彼女の表情の変化は乏しく、感情の読み取り辛いことも重なり、実際のところはどうなのかわからなかった。それに、彼女との関係はそれで良いのかなって思っていたんです。友達以上恋人未満と言うような関係に。
まぁ、結局のところ、彼女はそんな関係に満足していなかったってことなんだろうけれど。
あの世界から戻ってきて1ヶ月ほど。
待ちに待った日がやって来た。2014年10月11日。MH4の続編であるMH4Gが発売。そして過去作同様、有り難いことにMH4のデータはそのまま引き継ぐことができる。
本当なら、あの世界へ行った時のデータを引き継いでしまうのが一番楽だったけれど、それは止めておいた。それに意味があるのかはわからない。でも、上書きしたくなかったんです。だからあのデータは、彼女と一緒に行ったジンオウガを抜かすと、ほぼそのまま残っている。
いつかそのデータのことを忘れてしまう日も来るのかね? それはなんとも寂しいことではあるけれど、仕方無いのかもしれない。
そのためMH4Gの発売に向け、馬鹿なんじゃないかってくらいのペースでMH4を新しく進めることになった。いくらモンハンが好きとは言え、流石に疲れました。
でも、やっぱり直ぐにG級へ行きたかったんです。そんな考えは彼女も同じだったらしく、この夏休みの空いている時間はほとんどの時間彼女と一緒にモンハンをしていたと思う。
その結果、MH4Gの発売までにそれなりの準備をすることができた。
そしてMH4Gが発売。
その日はネットを繋いでではなく、彼女も俺の家へ遊びに来ていた。てか、最近は二人で集まってやることの方が多いと思う。家まで来るのは面倒だけど、集まっちゃった方が色々と楽だし。
それにあの世界ではずっと一緒にいた。今更、お互いに気を使うこともないだろう。
ただ、女の子が家に来ると言うのはやっぱり緊張することではあったりします。
「おおー、ウカムを倒せばG級へ行けるのか」
「……ウカム苦手」
彼女の使う武器はあの頃と同じ笛。そして俺はハンマー。
村クエを進めるときは違う武器に浮気をすることもあるけれど、彼女と一緒にやるときはハンマーしか担がないようにしている。効率は絶対に悪い。でも、まぁ、良いんです。ハンマー好きだし。
MH4Gで最初にプレイすることになったのは、崩竜ウカムルバス。相変わらず躱し難い攻撃である潜ってからの突進に辟易しながらも、どうにか討伐完了。これはちょっと火力が足りていないかもしれない。こんな調子でG級は大丈夫だろうか?
ウカムを倒してからは直ぐに、ドンドルマへ行きG級のクエストを受けてみることに、発売日と言うこともありキークエが何かはわかっていないけれど、まぁ、全部やれば良いんだ。
「うっわ、何このじいさん。超デカイ。てか、頭どうなってんだよ……」
「あっ、あ、プーギー。プーギーがいる。足元。見て、ほら。プーギー」
プーギーはわかったから落ち着きなさい。
「……近づけない」
そりゃあ残念だったね。
ふむ、此処がG級の集会所になるってことなのかな。上位と一緒にしてくれた方が楽だったんだけどなぁ。まぁ、そこまで面倒なことでもないけれど。
「んじゃあ、とりあえず……アルセルタス亜種でも行くか」
「……了解」
MH4Gとなり亜種もかなり増えた。うむうむ、新しいモンスターと戦うってのはやっぱり楽しみだよね。
その日はG2になるまで進めたところでお開きに。パッケージモンスターである、セルレとも戦ったわけだけど……なんだか良くわからないモンスターだった。
パッケージモンスターなだけあって、コイツの武器が強いんだろうなぁ。詳しく調べてはないけれど、ローリングで斬れ味が回復するらしいし、ハンマーとの相性は良いかもしれない。
「……えと、明日だけど。ちょっと忙しいから、モンハンができるのは夕方とかになると思う」
「ほい、了解。じゃあ俺は村クエでも進めてるよ」
確か、今作はモノブロスも復活したらしいし、ちょっと楽しみだ。ただ、アイツの頭って硬いんだよなぁ……
そんな会話をしてから、彼女を家まで送り届け、お酒を買ってから帰宅。それにしても、あの世界で飲んだタンジアビールは美味しかったな。もう飲む機会はないのが悲しいところ。
……俺たちが消えてしまった後、あの相棒はどうなったんだろうか。考えたってわからないことだけど、どうしても気になった。
そして、発売日の次の日。
ほぼ徹夜でモンハンをしていたせいで、目が覚めると時刻は2時を過ぎていた。これは酷い。大学生らしい生活ではあるけれど、生活リズムを崩すのはよろしくない。そろそろ休みも終わるのだし、それまでにはちゃんとした生活を送れるようにならないとだ。
そして、だ。どうにも隣の部屋が騒がしい。騒がしいと言うか、ガサガサゴトゴトと、何をしているのか知らんが五月蝿い。
そんなせいで、俺の目は覚めてしまったんです。隣は空き部屋だったはずだから、誰かが引越して来たってことだと思う。学生とは思えないから、社会人の転勤とかかねぇ? 社会人ってのも大変だ。
夕方まではまだまだ時間があったから、とりあえずまた村クエを進めることに。極限化セルレも倒してしまったし、クエストを埋めていこう。
それにしても極限化、ねぇ。この予想が正しいのかはわからないけれど、あの世界で戦ったラージャンってもしかしたら……な~んて思うのです。それを確かめる方法がないのは残念なところ。
てか、このアフロ猫は人の家のアイテムボックスを開いて何をやっているんだ。マタタビの数とか減ってないよな?
その後暫く村クエを進めていると、漸く隣の部屋も静かになった。引越しお疲れ様です。
さて、試しにセルレ武器でも作ってみようかなと思ったとき、俺の部屋のインターホンが鳴った。ん~……もしかして、引越しの挨拶とかだろうか? 人間関係が希薄になりがちな現代社会では珍しく、丁寧な人かもしれない。
まぁ、隣人相手に悪い関係を築こうとも思わないし、此処は素直に出ることとしよう。これで、宗教の勧誘とかだったら笑えないが。
「はい、今行きます」
3DSを閉じてから、やや急ぎ気味に扉を開ける。
そしてその開けられた扉の先にいたのは、彼女だった。
「……え、えと、なんで君が?」
あ、あれ? まだ夕方と呼ぶのにはちょっと早すぎると思うけど……
突然のできごとに頭が混乱。
「今日から隣に引っ越して来ました。よろしくお願いします」
そんな彼女の言葉にますます頭が混乱。
いや、状況はわかるけれど、どうしてそうなったのかがわからないし、そもそもこんなこと聞いてなかったし、でも、ちょっと嬉しく思う自分がいたりするわけでして……
「つまらないものですが、どうぞ」
「あっ、これはご丁寧にどうも」
そして、彼女が手に持っていたカップ焼きそば(激辛)をいただいた。社会経験の乏しい俺には、贈り物としてこれが正解なのかはわからない。
あと、申し訳ないけど辛いのは得意じゃなかったりします。彼女もそのことは知っていたと思うけど……
「ねぇ、モンハンしよ」
「あっ、うん。まぁ、そうだな」
色々と聞きたいことはあった。けれどもそれを聞く機会はこれからいくらでもあるだろうし、別に焦る必要なんてないのだ。のんびりやっていこう。
とは言え、この彼女は何を考えているんだろうね? 引越しだってそんな簡単にできるものじゃないだろうに。
そんなこんなで、今日も二人集まってモンハンをすることに。もしかしたら、今日中にG3へ上がることもできるかもしれない。
うむ、良いペースだ。
「どうして、また引越しなんて?」
地底火山でグラビモスと戦いながら、彼女と雑談。
むぅ、ハンマーと笛の二人でグラビはなかなかキツイな。
「……迷惑だった?」
「いや、そんなことはないよ。ただ、いきなりだったから」
それにしてもおかしいな。いくら乗り攻撃をしても背中が壊れない。もしかして、背中破壊できなくなったのか? それはちょっと困るのだが……
「隣へ引っ越しちゃえば楽だったから」
むぅ、この歩きながらビームを連発する攻撃が鬱陶しいな。なにその首の動き。明らかに無理があるだろ。
「まぁ、そりゃあそうだけど……でも、ほら引っ越しって大変じゃん。君の親もよく許してくれたね」
もう既に5回目の乗り攻撃。
けれども、まだ背中が壊れない。流石にこれはおかしい気がする。今までが早く壊れすぎたってのもあるけどさ。
「……最初は反対されたけど、彼氏ができたって言ったら許してくれた」
……うん? 彼氏ですと?
あっ、まず。乗り失敗した。
い、いや、ちょっと待て。あれ? なんですか? 彼氏いたの?
べ、別におかしなことじゃないけれど、それは知りませんでした。この彼女の容姿はかなり整っている方だし、狙っている野郎どもは少なくないだろう。
でも、まぁ、なかなかにショックを受けている自分がいたりします。
てか、彼氏がいるのに、俺の部屋なんかへ来て良いのか? 修羅場的な展開は全力でお断りしたいのですが……このアパートに住んでいるってことだとは思うけど、そう言うのはちょっと困ります。
「それで今週末に私の両親が見に来るって言ってたから、よろしく」
…………うん? よろしく?
え、えと、それはどう言う意味ですか?
お隣として挨拶してくれ的な? なんか違う気がするけど。
たぶん、頭のどこかでは理解していたと思う。でも、あまりにも突然過ぎたんです。だってねぇ、あの彼女がですよ?
そりゃあ、悪いとは思われていなかったんじゃないかと思う。とは言え、こんなことになるだなんて予想できるわけがない。
「あの……質問、良いですか?」
「うん」
「あ~……その彼氏と言うのは?」
ふと、気がつけば俺が操作していたキャラはいつの間にかベースキャンプに。たぶん、それだけ動揺していたってことなんだと思う。
そしてそれは、彼女も同じだったんだろう。だって、彼女の操作していたキャラもベースキャンプにいたのだから。
「貴方のこと」
そんな言葉を聞き、漸く俺は画面から目を離した。
彼女と目が合う。
珍しくその顔は赤くなっていた。
「……いや、だった?」
そして酷く不安そうな顔。
嫌なはずがない。むしろ、俺なんかで良いのかと聞きたいくらいだ。
「そんなわけないでしょうが」
「……そっか。それなら良かった」
何と言うか、順番がまるでぐちゃぐちゃだ。
でも、それは彼女らしいと言えば、彼女らしいのかもしれない。
コホンと一つ咳払いをした彼女。
手に持っていた3DSを置き、お互いちゃんと向き合ってみる。
そうしてから――
「貴方のことがずっと好きでした。付き合ってください」
なんて言葉。
だから最初に言ったのは彼女の方からなんです。それは男としてちょっと情けないかなと思わなくもないけれど……まぁ、俺が彼女に勝てるはずなんてないのですよ。
これまでも、これからも、きっと。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そんなことがありましたとさ。
――――――――――
それから俺と彼女の関係で何が変わったのかと言うと……特に変わったことはないのかもしれない。ただ、ちょっとだけお互いの距離が近づいたくらいじゃないだろうか。
俺は俺で不器用だし、彼女も彼女で不器用なところはあるから、普通のカップルとはちょっと違うのかもしれない。まぁ、それでも別に良いのですよ。俺はそれでも満足しているわけですし。
彼女の方がどう思っているのかはわからないけれど。
そして二人が付き合うようになってから1年と言ったところ。
またあの長い夏休みがやってきた。
クエストも全てクリアしたし、金冠マラソンも終了。HRもカンストし、残っているのは発掘武器くらいとなってしまいました。
つまり、結局今作もゴリラを狩り続けなければいけないことに。最後に辿り着くのはいつだってゴリラだ。
「しっかし、ホント良い発掘武器が出ないな。どうなってるんだろうか」
「……そればっかりはしょうがない」
仕様が無いことではあるけれど、もう少し出やすくしてくれても良いのにね。この調子じゃ、次作が発売してしまいそうだ。
「ゴリラも飽きたし、テオにしない?」
「賛成」
最近はゴリラとテオのヘビーローテーションが続く日々です。
でも、他にやることも……あれ?
「うわっ……急に電源が落ちた。データ大丈夫かこれ」
「むぅ、私もだ」
前回、ちゃんとセーブしていただろうか? それなりに良いお守りが出ていたし、アレが消えるのはちょいと痛い。
嫌な予感がしつつも、電源をつけてデータを確認。
見事に全てのデータが消えていた。
「…………」
「…………」
そしてそれは彼女も同じだったらしい。
お互いに無言。言葉なんて出てこない。
マジかよ。
しかし、この状況はアレですね。見覚えがあると言うか、何処かで経験したと言うか……
「……これって、もしかするのかな?」
彼女の言葉。
どうやら思うことは同じだったらしい。
「わかんない。わかんないけど……そう、なのかな」
もしそうだとしたら、それはあまりにも出来過ぎた物語だ。攻略本くらい用意しておいて欲しい。
「……どうする?」
どうしよっかね? そもそも、またあの世界へ行けると言う確証は何もない。
でも、もしそうなら……もう一度あの世界へ行くことができるとするなら……
「俺は行きたいかな」
「……あの娘がいるのかわからないし、同じ世界かはわからない。それに今度こそ帰って来られないかもしれない」
ですよねぇ。
それでも、そうだとしても、やっぱり夢を追いかけたくなってしまうのですよ。もう一度、あの相棒に会いたいと思ってしまうのですよ。
「……私だってもう一度行きたい。行きたいけど……そこに貴方がいないと困る」
い、いきなり言ってくれますな。
ちょっとビックリした。
俺だって、彼女がいなかったら滅茶苦茶落ち込むんだろうなぁ。それくらいには彼女のことが好きなんです。
「んじゃあ、離れないよう手でも繋いでおく?」
「……うん」
繋いだ、右手と左手。
それは冗談のつもりで言った言葉。今更、冗談でしたなんて言えたものじゃない。
けれども、まぁ、悪い気は全くしません。
「あっ、データ引き継ぐか」
「あの時の?」
「うん。たぶんそっちの方が良いと思う」
このままずっと残しておくよりも、此処で使ってあげた方が良い。
それに、たぶん、これが正解なんだろう。
繋いでいない左手を使いながら、キャラクターメイク。
左手で操作したこともあり、少々時間がかかったけれど、どうにかそれも終了。
一つ深呼吸をしてみた。
そうしてから、また一つ声を出す。臆病な自分を前へ進ませるために。
「っしゃ! 行くか!」
「おー」
そんないつかのかけ声。
一つ声の数が減ってしまっているけれど、その声がまた戻ってきてくれるよう今は願おうじゃないか。
最後に手を繋ぎながら、二人同時にゲーム開始のボタンを押した。
「……リンクスタート!」
「いや、それは作品が違……」
そして、目の前が真っ白になった。
――――――――――
真っ白な世界から何処かの船の上のような世界へ変わった。
太陽は眩しく、風が強い。その強い風によって飛ばされた砂粒が顔に当たる。
隣を見る。
彼女と目が合った。
とりあえずは一安心と言ったところ。良かった……
「よう! いつかのハンターさんじゃないか」
二人して安堵していると、急にそんな声をかけられた。
そちらを見ると、大きめの帽子を被ったカッコイイおじさんの姿。その姿に見覚えはある。
「懐かしいなァ。ハンターさんと以前会った時も船の上だった」
日差しが強い。肌が焼ける。
風が強い。皮膚に当たる砂粒が痛い。
「それで、ハンターさんが言っていた凄腕になるって言う目標は達成できそうか?」
これが夢なのか現実なのかはやはりわからない。
それでも、確かなことは一つ。
「いんや、まだまだだよ」
此処、モンハンの世界だわ。
「はっは! そうか、まだまだだったか。しかし、やはりお前さんは良い目をしている。大丈夫、お前さんなら、できるできる!」
その時から、モンハンの世界でまたハンマーを振り回し続ける馬鹿な男の物語が始まった。
そんな一人のハンマー使いのハンターが、離れ離れになった仲間とも無事合流し、モンスターハンターとまで呼ばれるようになるのは……まぁ、また別のお話だったりするようです。
随分と長くなってしまいましたがやっと終わりました
疲れたぁ……
後書きやら何やらは何時ものように、活動報告へ書かせていただきます
読了、お疲れ様でした
では、またいつかお会いしましょう