とあるプラズマ団員の日記   作:IronWorks

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春の月 迷子と出会った日

(おそらく)春の月

 

 

 あまりの肌寒さから、春ではないのでは? という可能性に思い至り始めた今日この頃。

 ここ数日、一日一日でちゃんと筆を執れているわけではないものの、インパクトのある出会いなんかはしっかり書いて、後の振り返りに役立てたいと思う。

 

 まず書いておきたいのは、そう、最近、身を切る肌寒さとは裏腹に、ウォロからの視線が生暖かくなっているような気がするということだ。というのも、かつて私が住んでいたイッシュ地方と違って、ろくに舗装されていない……どころか、ポケモンが踏みしめた土の道や草の道がほとんで、道らしい道すらない環境であるため、よく転ぶのだ。

 私は、運動神経が良い方ではないものの、かつてイッシュではそこまで転んだり滑落したりはしなかった。なのに、環境に慣れないせいでそれはもうよく転ぶ。そして、転んだり滑落したりと道を外れる度にウォロに助けて貰い、気が付けばウォロはすっかり私の介護要員だ。ドジなおばちゃんだと思われているのではないかと思うと、泣けてくる。

 

 

 

 さて、とはいえそれについては、考えすぎても落ち込むだけだ。これ以上日記が脱線しないうちに、インパクトのある出来事についても書いておこう。

 ウォロと、(暫定で)私が所属することになったイチョウ商会からの情報で、変わった衣装の人間が空から落ちてきたと耳にしたのを発端に、私たちはコトブキ村、という地に足を運ぶことになった。

 このコトブキ村に根を張り、開拓や警備で村の発展を進めているのが、ギンガ団という組織だという。ウォロによると、このギンガ団に顔合わせをして商売の円滑化を図りつつ、ついでに空から落ちてきた人にもあってみよう、とのことだった。

 このギンガ団、という名称はどこかで聞いたことがあるような気がするのだけれど、私にとってそれ系の団体はプラズマ団が印象に強い……記憶へのインパクトがありすぎて、他がちょっと思い出せない。なんだったか。

 

 コトブキ村へ移動する道程で気が付いたのだけれど、そもそもどうやら、私は最初に迷い込んだ天冠(テンガン)の山麓という地域から、そんなに遠くまで移動していたわけではなかったため、山麓の肌寒い地域から脱していなかっただけ……だったみたいだ。

 天冠の山麓を降ってその下、黒曜の原野にまで来ると春らしい温暖な気候でちょっと安心。この地に落ちてきたのが春だったので、季節までずれているとは思いたくなかった。

 いざ故郷に帰ったら、土に埋もれたスカイアローブリッジ(イッシュ地方の橋。大きい)があった……みたいなことに遭遇してしまったら、古い映画のようで笑えない。

 

 そんなこんなで、黒曜の原野で物資の調達や休憩を済ませると、私たちは一路北西へ。

 空から落ちてきた人の情報を聞いたとき、ウォロは少しだけ目を鋭くしていたが、また直ぐあの半目に戻っていたので、きっと商会人らしく、商売の匂いを嗅ぎつけたのだろう。頼もしい。

 ところで、半目から普通の表情に中々戻らなくなってしまったのだけれど、これはひょっとしなくても私のせいだろうか。どこに行っても年下の青少年を煩わせてしまって申し訳ない、と、思わずにはいられなかった。

 

 コトブキ村は、開拓村という言葉が似つかわしい、活気のある発展した村だった。瓦屋根の大手門から一歩踏み込むと、煉瓦造りの街並みが見える。とりあえず村の上役と顔合わせをして商売スタートできる環境作りかな、と思って警備隊の少年と話をしていたのだけれど、ギンガ団との顔合わせよりも先に、件の空から落ちてきた人に遭遇した。

 

 黒髪に灰色の瞳の女の子で、変わった衣装に身を包んでいた。というか、シャツとショートパンツだ。腰に巻き付けた古めかしいポーチが、なんともアンバランスだった。

 彼女はショウと名乗ってくれて、笑顔を浮かべて手を握ってくれたりと、闊達(かったつ)な様子を見せてくれた。私の住んでいたところと同じところから来たか聞きたかったのだけれど、記憶が定かで無い迷子とのことなので、難しいかも知れない。

 よくよく考えてみれば、どうせ私はギラティナが関わっているだろうから、おそらく巻き込まれている事情は、私とショウではよく似ているようで違うのだろうとは思う。

 

 もう少し問答したかった気持ちもあったが、なんでかウォロは慌てて、とりあえず手合わせをしたいと言う。

 聞きたいことはあれど、私もウォロにお世話になってる……なりすぎている身だ。ちゃんと見ている、と伝えると、ウォロは半目で頷いてくれた。ショウに手合わせを持ちかけたときはあんなにきらきらしていたのに、なぜ私に対してはこんな感じなのだろう? 疑問が尽きない。

 

 そうそう、忘れてはならないのが、ショウの手持ちだ。なんと彼女の相棒は、かつてのトウヤと同じミジュマルだった。遠く離れたこの地でもミジュマルの姿が拝めるとは、なんだか感慨深い。トウヤは元気にしているだろうか。同居のお姉さんがいなくなって、悲しい思いをしていないと良いのだけれど……なんていうのは、少し自意識過剰かも知れない。

 ミジュマルがなじみ深いポケモンだったから、研究データもよく覚えている。何気なくウォロに“知っているポケモンか”と問われたので、ささっと答えたら半目で見られた。なにゆえ。

 

 

 

 

 ショウはこのあと、ギンガ団への入団試験があるというので別れてしまったが、空から落ちてきた彼女と、穴に落ちて迷い込んだ私との出会いは、きっと、なにかの転機になるのではないかと思う。

 今日の出来事を振り返って、帰還のヒントにならないか記しつつ、ウォロの商売にも繋げてあげれば一挙両得ではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追記。

 ショウはまだまだ年若い少女だ。やはり年上のお姉さんとしてショウを見守るためにも、コトブキ村を中心に活動がしたいという旨をウォロに伝えたところ、ウォロからは肯定されつつやはり半目で見られてしまった。

 やはり滑落のせいで、足腰が弱いと思われているのだろう。ショウの方が元気そうに見られるようで、逆に心配をかけてしまった。申し訳ないと思いつつ……ちょっと失礼じゃないかな、ウォロ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――†――

 

 

 

 

春の月 ウォロの受難(2)

 

 

 

 ――空から落ちてきた人がいる。

 

 

 ウォロがイチョウ商会で入手した話の真偽を確かめるために、コトブキ村へ向かうことを決めたのは、イルとの旅路にようやく慣れてきた頃だった。

 遺跡群のある天冠の山麓から南西に回ると、なだらかな丘陵地帯に出る。そのまま黒曜の原野まで降れば、山麓から直接コトブキ村へ行くよりも遠回りにはなるが、道のりはそう険しくはない。

 

(あまり、険しい道は進みたくありませんからね。なにせ……)

 

 黒曜の原野は他の土地に比べてなだらかな道が多い。背の低い丘しかなく、坂も傾斜が少ない。高台と橋を繋ぐ道も踏みしめられているため、見通しも良く歩きやすい。とくに高台から一望する景色は、一息吐くには絶好のポイントだ。焦って降ろうという気持ちにもならない、良い道だ。

 ウォロはそんな歩きやすい黒曜の原野の中でも、とくになだらかなシシの山道を歩きながら、脇道へダイブしようとしたイルをそっと持ち上げた。

 

「ありがとう、ウォロ」

「はは、いいえ、はい」

「道、わかりにくいね」

「はは、はは、いいえ」

 

 脇に手を入れて持ち上げられた、風船のように軽い彼女の暢気な様子に、ウォロはため息をぐっと堪える。このなだらかな道でこうなのだ。天冠の山麓から黒曜の原野に至るまでの道中は、それはもう大変だった。

 というのも、イルは少し山風に煽られただけでフワンテのようにふわふわと崖に吸い寄せられ、そのままひょいっと消えそうになる。最初は慌てて抱き上げていたウォロだったが、あまり抱きしめると折れそうな身体にヒヤヒヤし、すぐ飛ばされる軽さにハラハラし、気が付けば“飛ばされる前に脇に手を入れて持ち上げる”ムーブが完璧になっていた。

 

「そっちは危ないですよ、イルさん(ポケモンの身体の癖で、崖を滑って移動しようとするのはやめてくれませんかねぇ!?)」

「ん、ありがとう、ウォロ。助かった」

「はは、いえ、いえ、ははは」

 

 ウォロは暢気にお礼を言うイルを降ろしながら、脳裏で彼女に文句を言う。

 

「……人間の勉強くらいさせておいてくださいよ、アルセウスめ」

「ウォロ? なにか言った?」

「いいえ! それよりイルさん、コトブキ村はもうすぐですよ!」

「そう? コトブキ村、楽しみだね。人の営みが見られる」

 

 イルはそう、生活様式が見られたら慣習が理解できる……程度の気持ちで告げたが、もはやイルを“一生懸命人間のフリをしているポケモン”としか見ていないウォロからすると、イルの言葉の意味合いは少々違って聞こえてくる。

 

「そうですね(人間の暮らしを見ることが目的? いいえ、やはり、ヒトの生態を学んでいる?)」

 

 ウォロから見てイルは、到底現在の年齢まで元気に生きてきた人間とは思えない存在だ。

 未だに寝方はポケモンのそれだし、時々箸の持ち方を忘れ、ウォロから見えないように(見えてる)頑張って手づかみで食べようとするし、崖は四つ足のポケモンよろしく滑って降りようとする。

 普通の人間だったら、今のイルのように高度な会話が可能になる前に死んでいるはずだ。ウォロの中でイルは既に、“人間のフリをした使者”から、“人間ゼロ才のくせに使者として送り込まれた謎のトンチキポケモン”になっていた。

 

(イルさんが何故、どんな目的で雑な人間体で送られてきたのか、知る必要があります。それと、ギラティナに造らせた裂け目から落ちてきたであろう、コトブキ村の人間のことも調べなければ)

 

 ウォロはふらふら山道を歩くイルをそっと持ち上げながら、コトブキ村に向かう足を速める。

 考えることが多すぎる上に、イルの補助までしているのだ。到着予定時間に間に合わず、コトブキ村の異邦人とすれ違う事態にだけはすまいと、ウォロは笑顔の下に焦りを隠すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウォロとイルがふらふらしながらコトブキ村に到着すると、あたりは日が落ち始め、空は茜色に染まっていた。大手門で見知った警備員に頭を下げ、コトブキ村に踏み込むと、直ぐにギンガ団の少年の姿が見える。

 ギンガ団の警備隊所属で、クラフトが上手なことで有名な少年、テルだ。ウォロは何度か商会員としてテルと会っていたため、警戒されることなく“世間話”に持ち込むことができた。

 

「こんにちは、テルさん。お仕事ご苦労様です」

「ウォロ! ちょうど良かった。そろそろ新しいキズ薬が欲しかったんだ……って、あれ、その子は? 見ない子だ」

 

 テルはそう、ウォロの一歩後ろに立っていたイルを見て、首を傾げた。イルは一瞬、ウォロを伺うように見上げてから、直ぐに頭を下げて挨拶をする。

 

「こんにちは、初めまして。私はイル」

「はは、イルさんはイチョウ商会の新人商会員でして。ジブンが面倒を見ているのです」

「へぇー。オレはテル! オレも実は新人……候補の世話をしていてさ。なんだか他人事じゃないなぁ」

 

 テルの言葉に、ウォロは小さく口角を上げる。いい流れだ、と。

 

「おや、そうだったのですか! 実は商会から小耳に挟んだのですが、なんでも空からヒトが落ちてきたそうではありませんか。もしや新人候補、というのは、その?」

「はは、さすが、イチョウ商会は耳が早いな。そうだよ。ちょうど今日これから、空から落ちてきた人の入団試験をやるんだ」

「なんと! 良いタイミングです! ちょうど、お目見えできれば、と思っていたのですよ!」

「そうなのか? 珍しいもんな。ああ、噂をすれば……ほら」

 

 テルが指を差した方向へ、ウォロが顔を向ける。ギンガ団本部のある方から小走りで向かってきたのは、ウォロには知る由もない、変わった衣装に身を包んだ少女だった。

 

「キテレツな身なり! ちょうど今、アナタのウワサをしていたのですよ!」

「え? あの、わたしの? あなたは?」

 

 暢気な様子の少女だ。黒髪に、灰色の瞳。顔立ちは普通の人間と変わらないように見える。イルのように、あからさまに神がかった造形美でもない、とウォロは瞬時に分析する。

 

「ジブンはウォロ。こちらはイルさん。イチョウ商会の者です。キテレツな身なりで空から落ちてきた人、とは、あなたのことですよね?」

「そう、です。わたしはショウっていいます。ところでその、イルさん? というのは?」

「? イルさんは……ああ、またはぐれて。イルさん、こっちに来て下さい!」

 

 ウォロはぐるりと見回して、興味深そうに街並みを見ていたイルを呼び戻す。イルはテルとの会話の邪魔にならないように一歩引いていたのだが、イルをトンチキポケモンだと思っているウォロはそんなイルの気遣いに気が付くことはなかった。

 イルはウォロの言葉に頷くと、ショウの前まで歩み寄って、丁寧に頭を下げる。商会員を意識した、イル渾身の商売人姿勢だった。

 

「初めまして。私はイル。イチョウ商会の臨時商会員」

「わぁ! か、かわいいっ! わたしはショウ! よろしくね!」

「うん、よろしく」

「おててちっちゃい! かわいいっ!」

 

 ショウは目に見えて笑顔を浮かべると、イルの小さな手を取る。イルは無抵抗で、されるがままだった。

 

(イルさんの手、折れませんかね。心配です)

 

 ウォロは止めることも、割り込むこともせず静観する。心配こそしていたが、イルがここでトンチキポケモンだとバレる訳にもいかないためだ。

 

「ショウは空から来たの?」

「うん、そうだよ。といっても、あんまり覚えてないんだけどね」

「そう。ポケモンは、持ってるんだね」

「うん! 最初にね、ギンガ団のラベン博士がくれたんだ。わたしの相棒!」

「相棒。なら、ポケモンバトルで経験を積まないと。私も、バトルには一家言あるから」

「そうなんだ? あれ、でも、イルのポケモンは?」

 

 イルの腰に、モンスターボールはない。ボールが壊れてしまっているから、これ以上破損しないようにポーチにしまいこんでいるのだが……イルはそのことをすっかり失念していて、そっと、いつもボールにも入らずについて回る相棒に指示を出すイメージで、片手を上げた。

 その行動は、まるで、ポケモンが技を繰り出すときのように自然体で、ショウもテルもなにが起こっているのかわからず首を傾げる。一方で、焦ったのはウォロだった。

 

(しまった! イルさんに、人間は技を繰り出せないと教えてないッ!!)

 

 ウォロの動きは速かった。まるで“しんそく”のような動きで素早く、丁寧に、イルに駆け寄って脇に手を入れると持ち上げる。そのまますっとウォロ自身の背後に置くと、ウォロは引きつった笑みでフォローした。

 

「は、ははは、イルさんはまだポケモンを持っていないのですが、ジブンの動きを真似してポケモンを繰り出そうとしてしまいまして……そうだ! せっかくならジブンとバトルしましょう! ね!」

「は、はぁ。でも、はい、いいですね。やりましょう、バトル!」

 

 乗り気になってくれたショウに、ウォロは内心安堵の息を吐く。あと少しで、イルが人型トンチキポケモンだとギンガ団警備隊に公開するところだったのだ。

 ウォロはショウから距離を取り、彼女がミジュマルを繰り出すのに合わせて、トゲピーを繰り出す。バトルになってしまえば、全てうやむやにできる。ウォロは安心し切っていた。

 

「と、とりあえずイルさんは見学していて下さい」

「うん。ちゃんと見てるね」

「はい、見ている“だけ”でお願いします」

「?」

 

 首を傾げながらも頷くイルに、今度こそウォロは胸をなで下ろす。

 

「おお、ミジュマルですね。イルさん、ご存知ですか?」

 

 だからだろう。ウォロは油断して、余計なことをイルに聞き。

 

「知ってる。お腹の貝は爪と同じ成分でできていて、ヒトと同じように研いで小刀として扱うポケモン」

 

 “成分”などという、普通の人間は知らない知識が出てきたことで、ウォロの胃は小さく悲鳴を上げた。

 人間の常識は知らないくせに、ポケモンに詳しすぎる。ウォロは内心で“ポケモンの物差しで人間を測るな、アルセウスめ”と悪態を吐いた。

 

 結局、ウォロは冷や汗を隠しながら奮闘するも、あっさり敗北を喫することになる。元々、異邦人の実力を見て負けるつもりのウォロではあったが、どのみち、このストレスの中では勝てる試合でもなかったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――それから。

 

 

 入団試験のためにショウと別れたウォロは、どのようにしてイルに常識を教えるか悩んでいた。

 思えば、イルは自身がトンチキポケモンであることを隠したがっているようにも見える。これでウォロがイルの正体に気が付いていることを悟られたら、イルはウォロの前からいなくなってしまうのではないか、という不安があったのだ。

 

(イルさんを一人にしたらどこかでポケモンだとバレて、捕獲されてしまい、ひどい目に遭わされ――ではなくて、そうです、アルセウスに会うための道具にするのですから、いなくなられると困ります。まったく、ワタシとしたことが、まるでイルさんを心配しているようなことを……疲れているんですかねぇ)

 

 ギンガ団への挨拶を済ませたウォロは、少女を連れているという事情から長屋を一室借りられることになった。

 ウォロは、三和土(たたき)から板の間に上がろうとして転んだイルを支えながら、小さく息を吐く。油断も隙もない。

 

 

「ウォロ、今日もありがとう」

「いえいえ、これくらいなんてことありませんよ」

「頼もしい。でも、情けないな。私の方が先達なのに」

「ポケモン歴は数えないでくださいね」

 

 

 言ってしまった。

 

 

「ポケモン(使用)歴? 含めてはだめなの?」

 

 

 大丈夫だった。

 

 

(あ、危なかった! 耐えきれず、つい!!)

 

 ウォロは大きく、大きく息を吐く。だが同時に、光明を得ることができた。悟られても大丈夫なのであれば、堂々と常識を教えることができる、と。

 

「? まぁいいわ。ウォロ、ショウの様子を見てあげたいのだけれど、しばらく近くに滞在しても良いかな?」

「ええ、もちろんです! ジブンも賛成ですよ!」

「良かった。やっぱり、私の方がお姉さんだから、心配で」

「ですからポケモン歴は含めないで下さいね」

「そんな……」

 

 イルはウォロから降ろして貰うと、荷物を部屋の端に置き、囲炉裏の前で丸くなる。ウォロはそんなイルに苦笑しながら囲炉裏に火を熾すと、自身も囲炉裏を囲んで腰を下ろした。

 まずはこの子に、人間社会の常識を教えよう。最初の授業はもちろん、“人前で技を使ってはいけません”ということだ。

 

 

(まったく。先が思いやられます)

 

 

 ウォロはそう――自身が優しい瞳でイルを見ていることに気が付かないまま、人差し指をぴんと立てて授業を始める。

 その光景はまるで、家族と囲炉裏を囲む、優しい兄のようにも見えたが、イルは“面倒見の良い弟ができたみたいだ”と、ウォロが聞いたらため息を吐かれそうなことを考えていたのだった。

 




キツネ目の青年ウォロ→チベットスナギツネ目の青年ウォロ
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