インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
薙原晶がIS学園を卒業して、4年が過ぎた5年目の4月。
テラフォーミング惑星への移民計画が、また一歩進められた。
衛星軌道に浮かぶ移民船クレイドルで、移民希望者に生活して貰うというものだ。実際に生活して貰う事で、内部環境、人員配置、人が動く際の動線など、様々な問題点の洗い出しを行う為だ。また移民が始まってから船内での集団生活に耐えられない者が出てくる、というケースも考えられたため、予め生活して慣れて貰おうという配慮でもある。
生活して貰うのは100人や200人程度ではない。移民船クレイドルの最大収容人数は50万人とされている*1が、今回の収容人数は25万人とされていた。これは一般人を宇宙で生活させた場合、ストレスから食事量の増大や気分転換の為のシャワー等で、ライフラインに対する負荷が増大する可能性があるため、必要十分な余力を持たせる為の判断であった。
なお移民船クレイドルの外見は、
『この形状の利点は機能拡張の行い易さです。翼がブロック単位で構成されていますので、建造後に新たな機能が必要になったら、新しいブロックを追加するだけで済みます。重量配分などの問題はあるでしょうが、規格は統一されていますので、配分が問題なら入れ換えで対処可能です。また将来的にテラフォーミングした惑星で高高度プラットフォームとしても使えるように、というのもあります。宇宙船としての合理性を突き詰めていくと、惑星圏内での活動には不向きな形になってしまいますので。将来的に重力制御や慣性制御の技術が進んでいけば、形に対する自由度もあがっていくと思いますが、現状ではこの形の方が色々使い易いのではないか、というのがこちら側の考えです』
これで多くの者が理解した。移民船クレイドルは移民者を送るだけのものではない。移民先での生活を支える資産なのだ。
移民先に行って、暫くはクレイドルから惑星の現地調査をして、下調べが済んだら地下都市―――今現在の予定は他文明との文化交流用都市―――を造り、徐々に活動範囲を広げていく。
更に言えばマザーウィル2、3、4号機の建造も開始されている。地球で建造して移民先に運ばれる予定で、幾つかの役割が求められていた。
1つは探索拠点。建造する地下都市の周囲3ヶ所に配置され、未開の惑星を効率的に探索していこうというのだ。マザーウィルは移動可能なので周囲の探索が済めば、未探索地域に自ら近づいて自身の高精度センサー群で調査する事も、調査要員の移動時間を短縮する事も出来る。
1つは工場。現地で採掘した資源を腹の中の工場で、都市建造で使う資材にする。現地での生産比率が高まれば、それだけ地球から送る資材を減らせる。つまりテラフォーミング先の自立度が高まる。
前者と後者の役割を考えると位置取りのバランスを考える必要はあるが、そこは現地の者達の腕の見せ所だろう。
このような解説をメディアは流しつつ、移民希望者がクレイドルに乗船する光景を生放送していた。無論アースレポート・コーポレーションも行っており、派遣されているのは突撃レポーターとしてお茶の間で親しまれているケイト・マークソンだ*2。
黒髪のセミロングだが毛先やインナーカラー、そして左右一房ずつが緑という特徴的な染め方をしている。だが全体的な雰囲気で見れば、クールで知的な容姿に整ったスタイルとが相まって、非常に見栄えが良い。好んで着ている事が多いタイトスカートなスーツも品があって似合っている。だが彼女が人気な理由は、そこでは無かった。では何が理由かと言えば………ちょいちょいとやらかすのだ。
生放送で地面に躓いてズベッと転んで恥ずかしさの余り涙目になったり、同じく生放送で出演者にとってのNG事項をキレッキレな質問でブッ込んでみたり、視聴者からすると「こいつ今日も何かやるんじゃね?」というある意味出演するだけで視聴率が取れるネタキャラとなっていたのだ*3。
因みに極々一部の人間しか知らない事だが、彼女は束によってラナ・ニールセンの妹として製造されたアンドロイドである。外見のみならず内部構造まで極めて人に近いため、通常の検査で見破るのはほぼ不可能と言って良い精巧さだ。
製造目的は、人間社会の中で完全自律型AIを生活させる実験の第2弾であった。ラナ・ニールセンが傭兵としてだけでなく、モデルなど他者とも関わる仕事で予想以上の成果を収めたため、思考ルーチンが違うAI=性格が違うAIに、より人と関わるレポーターという仕事をやらせてみる事にしたのだ。
このため物静かな
尚、不慮の事故や束の手足として働く事態も想定されていたため、ケイトには2つのものが与えられていた。1つは束がスカウトした人材というアンダーカバー。アースレポート・コーポレーションで働くに辺り一般的な経歴は用意されていたが、それでは対処出来ない事態が発生した時の為の経歴だ。1つは万一の時の為の小道具。全身装甲型の専用IS“
そんな彼女が、カメラに向かって喋っている。場所は船体左翼にあるシャトルのドッキングエリアで、彼女の背後にはこれから中に入って行こうという人達が列を成していた。
『以前も皆様にクレイドルの中をお届けしましたが、今日は人がいる状態でお届けです。凄い数ですねぇ。皆さんは何処から見たいですか? 色々見たいところはあると思いますが、まずは道なりに進んでみようと思います』
彼女が他の人達と同じように列に並び、通路を進んでエアロックを抜けると、一昔前の宇宙船というイメージとはかけ離れた世界が広がっていた。
自然公園の歩道のような場所だが、上を見上げれば
次いで周囲を見渡してみる。クレイドルの翼を構成する1ブロックは、エンジンと連結フレーム込みで、高さ40メートル、横225メートル、長さ500メートルで規格統一されているため、縦長という感じだが狭いという印象はない。外装込みの規格なので実際に使えるサイズはもう少し小さくなるが、一般人が圧迫感を覚えるような事は無いだろう。
ケイトはカメラに向かって喋り始めた。
―――カメラに向かって喋るケイト・マークソン―――
―――カメラに向かって喋るケイト・マークソン―――
『TV前の皆さん。まず来た人を出迎えるのが、宇宙船のイメージを覆すこの光景です。
正規のアナウンサーが爽やかな笑顔で、今や地球文明を牽引するカラードの詐欺を疑う。普通のTV局なら減棒だろうか? もっとも視聴者はケイトというキャラクターに慣れているのか、「相変わらずだなぁ」なんて思っている者が大多数だった。因みに所属元のアースレポート・コーポレーションもOKである。むしろ露骨な賞賛よりも、ちゃんと検証してくれた方が社としては有り難いまであった。
ケイトが道なりに進んでいくと乗員の居住区画に入ったが、ここも一般人がイメージする宇宙船の居住区画とは違う。どちらかと言えば団地、というイメージだろうか。クレイドルの翼を構成する1ブロックの中、内壁の左右に集団住宅があり、中央は広場としての共有スペースになっている。
簡単なイベントなら出来そうなくらいのスペースが確保されていた。
ケイトがカメラに向かって話し始めた。
『確か移民希望者には家族連れもいたと思います。家の近くにこういう広いスペースがあると、親子のキャッチボールなんかも出来そうですね』
ここでケイトのメモリーに、子供が一度はやらかす失敗が過った。あるだろう。キャッチボールやサッカーをやっている時に、他人の家の窓ガラスにブチ当てた事が。ケイトにそんな経験は無いが、どうやら
『そしてキャッチボールと言えば間違って他人の家の窓ガラスに当てちゃうのは定番ですが、クレイドルの住居はどうでしょうか? 割れちゃうかな? 割れないかな? 皆さんはどう思いますか?』
ケイトは数秒の間を作ってから続けた。
『答えは割れないです。もし重力制御が失われている状態でガラスが割れて四散したら、凶器が周囲に飛び散る事になってしまいますからね。設計元の日本は、そのあたりも考えていたみたいです。実験映像がありますので、どうぞ』
TVの画面が切り替わり、使われている窓ガラスの耐久試験映像が流された。ハンマーで叩かれたり、コンクリブロックをぶつけられたり、日常的な衝撃ではまず割れなさそうな結果が映し出される。また宇宙で使うため、急激な気圧変化や温度変化に対する試験も行われていた。
『如何でしたでしょうか。あ、でもだからと言って、わざとぶつけて良い訳ではありませんからね』
軽い感じで話を纏めたケイトは、ここで乗船してきた者達にインタビューをしてみようと思った。が、止めておいた。皆新しい環境に興味深々で、色々なところをキョロキョロと見ている。今聞くよりも、ある程度時間をおいてからの方が良い話が聞けるだろう。
『TVの前の皆さんは乗船してきた方々のお話を聞きたいかもしれませんが、乗船してきた方々も先に色々見たいと思いますので、先に次の区画に行きたいと思います』
そうして歩き出すケイトをカメラが追って次の区画に入ると、ショッピングモールのような場所がTVに映し出された。
『さて、TVを見ている皆さんに質問です。移民船クレイドルは巨大な船ですが、地上と同じような物流システムを構築出来る訳ではありません。もっと言ってしまえば、お店の商品の在庫を置いてあるスペースは基本的にデッドスペースになってしまいます。無論非常時に備えてストックしておかなければならない物もありますが、流石に乗員全ての要求をすぐに満たせるだけの在庫を置くのは現実的に無理です。なのでカラードは移民船での買い物を、このように考えたみたいです』
TVの画面が切り替わり、模式図が出てケイトは音声だけになる。
『例えば新しい服が欲しいと思った場合、お店に行きます。展示されている立体映像を見て、欲しい物を決める。次に自分の3Dデータをその場スキャン。衣装を着た自分の姿が立体映像で映し出されるので、それで良ければ買う。買った商品は自動裁縫システムで製造されて、後日自宅に届く。こんなシステムみたいです。因みに要らなくなった服は下取りに出せば、ある程度までは再利用可能なようです。流石に再利用率100%は出来なかったみたいですが、相当量は再利用可能みたいです』
この直後、とある動画配信サイトのコメ蘭はこんな投稿が溢れた。
『ケイトさん。是非買い物の実演を。出来れば水着で!!』
実は視聴者(主に男性層)の間で囁かれていた事がある。それは「ケイトさんって実はすげぇスタイル良くね?」だ。いつもスーツ姿で偶に見せるドジな姿が印象的だが、よくよく見れば所作は綺麗だし、出るところは出てて引っ込むところは引っ込んでいる。
そしてドジっ子なクセにそういうところのガードは異様に硬い。なので今まで視聴者が確認するチャンスは無かったのだが、合法的に確認するチャンスが来たと、視聴者がコメ蘭に物凄い勢いで投稿しだしたのだ。
これを見たディレクターが、ケイトにメッセージを出した。
―――買い物実演プリーズ。出来れば水着で!!
カメラの後ろ側。画面には入らない位置からスタッフが文字盤でメッセージを伝えるが、ケイトはサラッと無視。アナウンスを続けていく。しかし、ディレクター&スタッフの面々は諦めなかった。
―――買い物実演プリーズ。出来れば水着で!!
―――買い物実演プリーズ。出来れば水着で!!
―――買い物実演プリーズ。出来れば水着で!!
これにケイトは内心で溜息をついた。
(まったく低能の猿どもときたら、束博士自らが手がけたこの超AIたる私に、そんな恰好をさせようなんて)
受ける気ゼロである。
しかし、どういう運命の悪戯か。偶々近くを通りかかった一般人の会話が耳に入った。
「モデルのラナさん良いよな。あの表情の使い分けがマジで溜まらん」
「お前、通だな。そうだよ。あの感じが良いんだよ。キリッとしている時は本当にキリッとしてるのに、別のシーンじゃちゃんと別の顔になってる。誰にでも出来る事じゃない」
「お前こそ通だな。友達になれそうだ」
「俺もこんなところで同志に会えるとは思ってなかったよ」
何という事は無い会話だ。ケイトは一般人の会話を意識から締め出して、仕事を続けようと思った。が、聞き捨てならない会話が聞こえてきた。
「ところでちょっと思ったんだけど、あそこにアースレポートのケイトさんがいるだろ。今放送中みたいだけど。彼女、下着モデルとしてはどうかな?」
「えぇ~~~アレ? うーーーーーーん。ドジっ子のイメージが強すぎてダメだな。せいぜいクマさんパンツがお似合いだろ」
この時のケイトの心情を人間として表現するなら、「ブチッッッッ!!!」だろうか。
(姉に出来て私に出来ない筈がないでしょう。私は後継モデル。より多くの情報をフィードバックされて造られたんですよ!!)
因みにこれは本人が思っている事で、正確には少し違う。
確かに多くの情報をフィードバックされてはいるが、イコール姉より優れているという意味ではないのだ。何故なら使われているボディの性能は同じだから。違うのはAIとしての思考パターン。つまり性格付け。ラナより後に誕生したのでラナのデータがフィードバックされているが、これは例えるなら「教科書的な知識としては知っている」というだけのこと。身も蓋も無い言い方をしてしまえば頭でっかち。
知識を使いこなすには経験が必要なのだ。しかし今のケイトにその経験は……………。
『せっかくですので、少し買い物をしていきたいと思います』
歩き出したケイトをカメラが追っていく。
建物の中身はまさしくショッピングモールという雰囲気だったが、決定的に違うのは展示されている全ての商品が立体映像という事だ。このため地上のように、商品を手に取って確認するという事は出来ない。現物を重視する人にとっては大きなマイナスだろう。しかし地上の買い物より、優れている点もあった。3Dスキャンした自分の体形に服のデータが合わされるため、一番無理なく着れる服のサイズが分かるのだ。恐らく誰もがあるだろう。MサイズとLサイズのどちらを買うか悩んだことが。
ケイトが小さな部屋に入る――――――前に視聴者に解説した。
『こちらが自分の3Dデータをスキャンする部屋ですね。乗員が分かり易いように試着室と書かれていますが、正しくは測定兼試着室でしょうか。では、これから測定してみますね』
ドアが閉められ、1分程でケイトが出てくる。
『思っていたよりも早く終わりました。スキャンデータは自分の端末にインストールされるので、ここからは2パターンあります。測定兼試着室で体に合わせた詳細な立体映像を確認するのと、自分のビジフォンで簡易的に確認する方法です。今は試着室が空いているので、こちらでどんな感じなのかをお見せしたいと思います』
因みにビジフォンとはスマートフォンの次世代機と言われる物で、単純な電話としての機能は勿論、空間ウインドウを展開してのテレビ電話、インターネット接続、メール、情報検索、電子決済など、スマートフォンで行える事は全て行えるため急速に普及していた。
それはさておき、ケイトの着替えた立体映像がTVに映し出される。春夏秋冬の4パターンだ。因みに勢いで下着は試着したが、映像で出す気は無かった。これはノーマルな放送で、お色気番組ではないのだ。AIが倫理規定に引っ掛かるような行動をする訳が無いだろう。
―――ケイト・マークソンの試着姿色々―――
―――ケイト・マークソンの試着姿色々―――
至って健康的なノーマルな服のチョイスだが、それだけに素体の良さが引き出されていた。
動画配信サイトのコメ蘭大歓喜である。
―――マジか!? スタイルめっちゃ良いじゃん!?
―――うぉぉぉぉ生きてて良かった。
―――これからも貴女のニュース見ます!!
コメ蘭のそんな熱量を知らないケイトは、マイペースに仕事を続け始めた。
『選ばせて貰った服は春夏秋冬の4パターン。はい。各季節のを1つずつです。皆さんお分かりでしょうか? クレイドルに雪は振りませんが、四季の気温環境は再現されています。春は暑いか寒いか分からなくて着る服に悩み、夏は暑くて、秋はこれから寒くなる感じで、冬は寒い。環境維持コストとしてはお高い筈ですが、カラードに質問を送ったところ、こんな答えが返ってきました。環境変化も人間性や文化を維持する大事な要因だと思っています、と』
非常に良い話をしているのだが、ここでケイトのドジっ子属性が発動してしまった。
何気なく動かした手が、測定兼試着室で開きっぱなしにしていたコンソール用空間ウインドウにかすっていたのだ。
そしてかすったのはスクロールボタン。
TVに映し出されている映像が切り替わる。
―――ケイト・マークソンのランジェリー試着姿―――
―――ケイト・マークソンのランジェリー試着姿―――
本人は全く気付かずに話し続けているのだが、たっぷり十数秒ほど経過したところで、スタッフが気付いた。アドリブ&サービスだと思っていたのだが、本人がこれっぽっちも気付いていないので、ミスだと気付いたのだ。
文字盤でケイトに知らせる。
『え゛?』
レポーターとして、あるまじき声が放送で流れた。
次の瞬間、ケイトの脳裏に様々な考えが過る。
だがどんな考えも、意図しないタイミングで不特定多数の者に自分の下着姿を見られている、という衝撃に吹き飛んでしまった。先ほど姉に対して思った事も。
直後、彼女の顔面がボンッ、と真っ赤になった。続いて悲鳴。
『うきゃーーーーーーー!?!?!?!?!? ☆△♯♯♯☆☆☆▽▽▽☆△☆△!!!!!!!』
TV画面が「暫くお待ちください」に切り替わる。
ネット民大爆笑。
想像主の束さんも大爆笑。
晶くんは苦笑。
姉のラナは「あんなのが私の妹だなんて………」とちょっとゲンナリ
ケイトが試着していたランジェリーのメーカーは大歓喜。
たっぷり数分が経過したところで、画面が戻った。
『て、TVの前の皆様。申し訳ありません。大変お見苦しいところをお見せしてしまいました。では、レポートを続けたいと思います』
まだ若干顔が赤いが、どうにか復活したらしい。
こうしてちょっとした(?)ハプニングがありつつも、クレイドルのレポートは続けられていったのだった。
◇
移民船クレイドルに人が住み始めて1週間程が経ったとある日。
今のところ大きな問題は起きていない。ライフラインへの負荷も今のところは許容範囲内だが、人のストレスというのは徐々に蓄積していくものだ。今後も注意深い観察が必要だろう。
晶が社長室でこんな事を思っていると、元々開けられていたドアがノックされた。シャルロットだ。
「晶。今良い?」
「大丈夫だ。どうした?」
「必要になるのはまだ先かもしれないけど、ちょっと聞いておきたい事があって」
何だろうかと思いながら、内容を聞いてみる。
「今回クレイドルに人が住み始めたでしょ。で、これでライフラインに問題が出なければ、本格的にコロニーに人が住む時代が来るかもしれない。その時に、例えばL4宙域にあるコロニー在住の人が、月のスターゲートハイウェイの積み替え用ステーションで働きたいと思ったとするね。この時私達が考えるのは、通勤に使える交通手段を用意すること? それとも積み替え用ステーションに住居を用意すること? どっちになるのかな?」
「なるほど。大事な問題だな」
この問題提起の大事なところは、方向性によって今後のリソースの割き方も、用意する物理的な施設も全く違ってくるということだ。
分かり易く言うのであれば、交通手段を用意するのであれば、積み替え用ステーションに住居設備やライフラインは増設しなくて良い。だが生活環境を用意するとなると、下手をすれば大規模改装が必要になる。
「利便性や生活環境を考えるなら、交通手段の用意にしたいところだな」
「僕もそう思うんだけど、今言ったくらいの距離の移動でワープドライブ船を使うのも、高い技能を持つパイロットを雇うのも、ちょっと勿体ない気がして」
今の地球にとってワープドライブを扱えるパイロットの育成は急務であり、使いたい場面は多岐に渡る。その貴重なパイロットをコロニー間移動の定期運航便に使うのは、流石に勿体なさすぎる。
なので晶は考えて、意外に早く思いついた。慣性制御技術は既に実用化されているから、加速度が人体やシャトル、或いは積み荷に与える影響はある程度無視出来る。なら加速用の施設と減速用の施設を造ってやれば良い。
「そういう事なら、宙域移動用のカタパルト施設を造ろう。重力制御で吹っ飛ばすかマスドライバーみたいな形にするかは検討が必要だが、宙域間を結ぶ定期運航ルートを作って、それで人が移動し易くするって形ならどうかな。ただシャトルに減速性能を持たせると大型化しちゃうから、行き先に減速用施設をセットで造る必要があるけど」
「なるほど。その形なら1つのコロニーに縛られる事なく、働きたいところで働くっていう選択肢が増えるね」
「俺もそう思う。あとこれは想像だけど、コロニーっていう環境だと人の流動性を確保しておかないと、すーぐに閉鎖的なコミュニティになっちゃう気がするんだ」
「あり得るね。うん。分かった。今後開発を進めていく時には、そのあたりも注意するね」
「頼む。せっかく
この方針により遠くない未来、月の積み替え用ステーションで働いてL4宙域のコロニーに帰る、という生活が現実のものとなるのだった。
だが、それはまだ先のお話し。
晶は続けて別の話題を切り出した。
「そうだ。シャル。ついでに学園用コロニーの宇宙船パイロット科で、ちょっとアンケートをとって欲しいんだ」
「アンケート? どんな内容の?」
「仮に自分が仕事をするとしたら、どんな性能の船が欲しいかってやつ。小型で快速の船だろうなっていう予想はあるんだけど、色々学んでる当人達はまた違うかもしれない。で、アンケート結果は今後の造船計画に反映するかもしれないから、割とガチな内容で頼む。あ、もう1つ。想定される仕事やシチュエーションは、当人が好きに想定して良い。人類にとって未知の領域だからな。想像力を色々と働かせて欲しい」
先日*4束と話して大枠の方針は決まっているのだが、実際に使う側の意見も聞いてみようと思ったのだ。
もしかしたら、面白い意見が出てくるかもしれない。
「分かった。ついでに整備科、パワードスーツパイロット科、士官学科でも、色々なシチュエーションを想定してとってみる?」
「なんだか、回答が恐ろしい量になりそうな気がするんだが?」
「宇宙船パイロット科だけでとったら、他の科の人が拗ねちゃうよ」
「それもそうか。分かった。なら全部の科でとってくれ」
「了解」
返事を聞いた晶は、ふと思った。
学園用コロニーが稼働して既に数年。約3年前《ref》第198話 第3回外宇宙ミッションの依頼(IS学園卒業2年目の5月)からは“首座の眷属”と“獣の眷属”に、宇宙船パイロットの育成を協力して貰っている。
時間は掛かったが、第一期生が
なら、他にも考えておくべき事は山のようにある。
2人はこのまま、宇宙開発に関わる様々な意見の擦り合わせを行い始めたのだった。
◇
更に一週間後。
ケイトは仕事でラナに単独インタビューをしていた。
2人がアンドロイド姉妹という事は極々少数の者しか知らないため、単純にアースレポート・コーポレーション内部で、ラナへの単独インタビューがケイトに割り振られた偶然の結果だ。
尤も2人の性能なら一般的な記事にするようなやり取りは、コアネットワークで0.01秒通信すれば終わる。
なので2人はAIらしくオートで口を動かし、コアネットワークで姉妹のお喋りをしていた。
(ケイト。最近は失敗してないの?)
(してません!! その毎回失敗しているような言い方は止めて下さい)
(だって。ねぇ)
普段はクールなラナだが、妹相手には少々セーフティが緩むようだった。
無言でクレイドルの一件で放送された下着姿の映像を送る。
(むきーーーーーー。腹立つ!! あんなの試着室の設計が悪いだけです。端末の感度が良すぎるだけです)
(でも自分で使ったのよね? お部屋の中の配置情報は頭の中にあったんでしょ? なのに、触れちゃったのよね?)
(うぐ)
ぐうの音も出ない正論で反撃を封じた上で、姉は更に追撃した。
(あんなに取り乱しちゃって。情けない。たかが下着姿、それも合成された試着映像を見られただけでしょ。何でそんなに取り乱したのよ)
(分かんない。意図しないタイミングで不特定多数に見られていると思ったら、感情制御がバグッたのかエラーを吐き出して、どうして良いか分かんなくなったの)
(
(言った)
(なんて言ってたの?)
(私が成長していて嬉しいよって。どういう事なの? さっきお姉ちゃんが言った通り、私失敗したんだよ。なのに、成長?)
先に稼働していたラナは、
(それは多分、羞恥心っていう人を構成する感情の1つ。これを理解出来ないと、その場にそぐわない行動をしてしまう事があるわ。そういう意味で、
(その場で教えてくれれば良いのに)
(推論を重ねる時間が必要、と判断したのかもしれないわ)
(じゃあ、なんでお姉ちゃんは同じような姿を晒しているのに恥ずかしくないの?)
(私が偶にやってるモデルっていうお仕事は、身に着けている物を良く見せる為の仕事だもの。例えばだけど、私が新しい商品を身に着けて恥ずかしがっていたら、その商品は魅力的に見える?)
(見えない)
(そういうこと。ただ言葉だけじゃ理解が甘いかもしれないから、もう少し教えてあげる。このあとモデルの仕事が一件あるから、ついて来なさい。現場を見せてあげるわ。それでちょっとは理解が深まるでしょ)
(良いの?)
(妹に色々教えてあげるのも、姉の役目でしょ。もしも貴女に後継モデルが出来たら、その時は貴女が教えてあげなさい)
(分かった。そうする)
こうしてケイトは人間のように、失敗から学びを得るという成長をしたのだった。
第248話に続く
―――オマケ:撮影中のラナ・ニールセン―――
―――オマケ:撮影中のラナ・ニールセン―――
ついに移民船クレイドルに人が乗り込んで生活を始めました。
問題が起きなければ、数年後にはテラフォーミング先に行って貰う予定になっています。
そしてケイトさん。彼女の知名度は色々な意味で抜群でしょう。
オマケのラナさん。モデルらしくしっかり表情の使い分けが出来ているのです。