インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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経済とは、色々なところで繋がっているのです。



第248話 紛争の足音/クラレスのお勉強(IS学園卒業5年目の5月)(イラスト有り)

  

 カラード宇宙開発部門部門長代理のシャルロットは、眼前の空間ウインドウを見ながら考えていた。

 表示されているデータは大別して2つ。

 1つは月の衛星軌道にあるスターゲートハイウェイ(スターゲート群)のもので、稼働している17個それぞれの交通量が表示されている。

 1つは月の衛星軌道にある荷物の積み替え用ステーションのもので、稼働している8つのステーションの港の状況や水の販売量が表示されている。

 いずれも好調と言って良い推移で、地球人としては喜ぶべきことだろう。

 だが、少し気になる事があった。

 水の販売量が急激に増えているのだ。良心的な価格にしているから、大量に買い込んで他で売る転売だろうか?

 だが武力に関わる者にとって、生活、いや生存に直結する水の販売量の急激な増加は、とある言葉を連想させた。

 まして地球の争いの歴史を勉強したなら、必然だろう。

 

 ―――戦争。

 

 膨大な物資を消費するから、膨大な量を買い込んでおく。極めて単純なロジック。予め計画されていたものなら時間をかけて行うが、ここまで増えているという事は、現在進行形で行われている可能性がある。

 シャルロットは1号支社と2号支社*1、プラチナ・ドロップス、積み替え用ステーションから入ってくる宇宙(そら)の情報をデータベースから呼び出した。

 宇宙(そら)にも様々な紛争があるが、直近で大きなところは“翼の眷属”の動きだろう。

 かつての大戦で非ヒューマノイド系文明に奪われた―――と“翼の眷属”は主張している。実際は内戦という不手際でやらかした。―――17星系に侵攻して、14星系を瞬く間に奪還している。

 旗艦級を含む相当な大規模戦力が投入されたらしいが、覇権文明(ランクS)である“首座の眷属”が即時介入して仲裁に踏み切らなかった理由は、“翼の眷属”内部でクーデターが起きて体制が不安定な時期に、非ヒューマノイド系文明が領域侵犯をしたという動かぬ証拠があったためだった。他に見えていない事情は沢山あるだろうが、恐らく“首座の眷属”の考えとしては、「先に手を出したのだから、殴り返されるのは自業自得」というものだろう。

 そしてここまでの情報で考えるなら、“翼の眷属”の動きは見事と言って良い。先に殴られたという事実を盾にカウンターで侵攻作戦を行い、僅か120時間(5日目)で14星系を陥落させているのだ。地球人には想像もつかないようなスケールだが、恐らく文明内部の支持は物凄い事になっているだろう。

 しかし色々な情報を組み合わせると、また違った景色が見えてくる。

 想像の上に推測を重ねたものだが、“翼の眷属”が本当に落したかったのは、残った3星系だろう。

 一般を経由しての情報なので相当にバイアス(偏り)がかかっている可能性があるが、それでもほぼ確定事項と言えるのが、宇宙要塞の存在だ。

 ワープやスターゲートという超長距離移動が可能な手段が存在する宇宙(そら)で、要塞など何の意味も無い。迂回して進めば良いだけ、と誰もが考えるだろう。しかし、違うのだ。

 銀河の星系配置図とワープやスターゲートの特性を踏まえれば、配置場所さえ間違わなければ有効に機能するのだ。

 シャルロットは考えを整理する為に、特性について思い出す。元3年1組の面々は、束博士から直接、多くの事を教えて貰っているのだ。

 ワープは主に星系内の移動用。宇宙(そら)の他の文明においても、一般で販売されている宇宙船に搭載されているワープドライブは基本的にこれだ。

 次に高性能ワープドライブ。星系間を移動可能だが普通のワープドライブよりも大型でエネルギー消費が段違いであるため、搭載した場合は同サイズの非搭載型に比べて、性能面で明らかに見劣りしてしまう。巡洋戦艦級という300~600メートルサイズの艦種ならある程度は緩和されるが、それでも緩和されるだけであって、同型の非搭載艦と1対1で戦えばまず勝てない。それでいて購入、稼働、メンテナンス、全てのコストが跳ね上がってしまう。

 最後にスターゲート。単艦でも複数艦でも任意の地点に送り込める。オペレーション難易度を無視するなら、これが一番使い勝手が良いのは間違いない。しかし設置型スターゲートを高度な技術によって小型化しているとは言え、戦艦級という600~900メートルサイズの艦種であっても、無視出来ない程の負荷を船に与えていた。同サイズの船に比べて、性能面で明確に劣ってしまうのだ。コスト面での負担も、高性能ワープドライブ搭載艦の比ではない。

 そして非常に大事な事として、設置型スターゲートと艦船に搭載したスターゲートの跳躍距離は同じではない。当たり前だろう。設置型は高度な演算システムを潤沢に使って、かつ莫大なエネルギーを消費してゲートを安定させる事が出来る。これに対して艦船に搭載しているのは、船という限られた演算能力と動力源でゲートを開いて制御しているのだ。同じな訳がない。

 次に、残った3星系周辺の星系配置図を見てみる。

 “翼の眷属”の領域と非ヒューマノイド系文明の領域との間には、広大な星間空間がある。

 星間空間(せいかんくうかん)とは銀河系などの中で、恒星の重力や影響が強く及ぶ領域を除いた星と星の間に広がる空間のことだが、両文明の間にある空間は非常に広いのだ。残った3星系の中で、“翼の眷属”からみて最外縁部に位置する星系にあるスターゲートを使わないと、非ヒューマノイド系文明の領域にアクセス出来ない程に。

 艦船搭載型のスターゲートでは、恐らく旗艦級に搭載されているタイプを使っても、数回の跳躍を必要とする。それほどの空間だ。

 だから非ヒューマノイド系文明は、この星系に宇宙要塞を置いた。

 “翼の眷属”にしてみれば、喉元に突きつけられた刃と同じだ。どうあっても排除したかったはず。しかし、出来なかった。事情は色々あるだろうが、束博士と晶が“翼の眷属”の領域に行った時の出来事も関係しているだろう*2

 何せ20キロメートル級の超大型輸送艦5隻分の物資を、自沈させて消し炭にしたというのだ。

 行動計画の根底に“首座の眷属”の介入前に事を終わらせるという考えがあったなら、この物資消失は致命的だっただろう。

 暫し考えこんだシャルロットは、情報収集する事に決めた。

 余り使い過ぎるとこちらの動向が筒抜けになってしまうが、この動きについては調べておいた方が良い。そういう判断からだ。

 まずはプラチナ・ドロップスに通信を繋ぐ。相手は総責任者のナユだ。

 元々夜の街の蝶だった彼女は、情報に対する感度が高い。そしてレジャー施設という人が多く集まる場所には、様々な情報も一緒に集まる。無論、確定情報などは無いだろう。しかし、今必要なのは現状を知る為の手がかり。どのように動くべきかを考える手がかりだ。

 数回のコールでナユが出た。

                               

 ―――プラチナ・ドロップス総責任者ナユ―――

                               

 

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 ―――プラチナ・ドロップス総責任者ナユ―――

                               

 パーティか何かの最中だっただろうか?

 スタイルに相当の自信がないと着れないデザインのドレスを、見事に着こなしている。

 尤も同じ女として嫉妬心が湧くかと言えば、そうでもない。晶の周りにいるのは、皆このレベルなのだ。

 そんな事を思いながら、シャルロットは話し始めた。

 

『ナユさん。もしかして、パーティか何かの最中でしたか?』

『大丈夫です。丁度オフィスに戻ったところだったので。それに本社からのコールに出ないなど、私の立場で許される事ではないでしょう』

『こちらはそんなに狭量なつもりはありません。正当な理由があって出れないなら、それは仕方のないことでしょう。無論、ちゃんと仕事をしてくれているなら、ですが』

 

 ナユは敢えて軽い雰囲気で返した。とびっきりの自虐ネタだ。

 

『寝ていてもですか?』

『徹夜明けの者を叩き起こす気なら、起きるまでコール連打です。容赦なんてしませんよ。絶対に起きて貰いますから』

 

 2人の脳裏に、プラチナ・ドロップスがオープンする前の出来事が蘇る。

 なにせナユはあの時、本社からコールしてきたシャルロットの前で熟睡モードだったのだ。会議室のような場所で他の9人は起きていたのに、ナユだけ完全な熟睡モード*3。あの時一緒にいた9人からは、未だにこのネタで弄られる。

 

『上司が良心的で嬉しい限りです。――――――で、本日はどのよう御用件でしょうか』

 

 シャルロットはストレートに尋ねた。

 

『最近スターゲートハイウェイでの水の販売量が、こちらの予想を上回る勢いで伸びています。多少のズレではなく、かなり。なので、宇宙(そら)で何か起きているのかと思いまして』

『なるほど。そういう事でしたか』

 

 ナユは直前まで参加していたパーティのやり取りを思い出した。

 最近、傭兵業界がかなり賑わっているという話だ。事の切っ掛けは、約4320時間前(約半年前)にまで遡る。|“翼の眷属”と非ヒューマノイド系文明の争い《第239話~第242話》が起きたのだが、程なくして“首座の眷属”が介入の姿勢を見せたため、互いに正規軍を動員しての大規模戦闘が行い辛くなってしまった。このため傭兵が雇用されて、非正規戦闘が頻発している、というのだ。そして宇宙(そら)の傭兵には、自分専用にカスタマイズされた戦闘艦を扱う者もいる。スターゲートハイウェイで販売されている水は良心的な価格なので、傭兵が補給地点として使っているのだろうか?

 この話を聞いたシャルロットは肯いて答えた。

 

『それなら納得です。ただ、それだとそちらの客入りに影響はありませんか? レジャーというのは、治安の影響をダイレクトに受けるものですから』

 

 これにナユは、自信を持って答えた。

 

『ここはスターゲートハイウェイからの直通という、最高の立地条件です。そして今スターゲートハイウェイが直接繋がっているのは、“首座の眷属”と“獣の眷属”の領域です。“翼の眷属”の方で多少何かあっても、大きな影響は出ないでしょう』

『それもそうですね。ところでナユさん。話は変わるのですが、そちらのパーティとはどんな感じのものでしょうか? ナユさんの姿を見る限り、地球人が想像するパーティと大きくは変わらなさそうに見えるのですが』

『そう………ですね。私もカラードの忘年会*4の映像は見ましたが、大きくは変わらないと思います。勿論、部門長代理の姿も見ました。とても美しかったと思います』

                               

 ―――放送されていたシャルロットの姿―――

                               

 

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 ―――放送されていたシャルロットの姿―――

                               

『ありがとうございます』

 

 シャルロットは社交辞令として受け取ったが、ナユは割と本心だった。というか、カラード中枢の容姿の基準は色々とおかしい。元々夜の街にいて、美女と言われている人種を見慣れているナユですら、美人と思う者ばかりだ。美の暴力と言っても良いかもしれない。

 内心でそんな事を思いながら、ナユは尋ねてみた。

 

『ところで仮に傭兵が水を多く買っているとして、本社はどう対応する気なのですか?』

 

 シャルロットは少しだけ考えてから答えた。

 

『まだ何も決まっていません。真っ当に買ってくれている限りはお客様なので。ただ、そうですね。例えば重要軍事物資として値を釣り上げるとか、そういう事はしないと思います。社長や束博士は殴ると決めたら間違いなく殴る人ですが、そうでないなら隣人とは仲良くやりたい、と思っていますから。水もその方針に従って扱われると思います』

『ありがとうございます。安心しました。実はパーティで聞かれていたのです。カラードは今後、水をどう扱うつもりなのか、と。幾つかのコロニーにとってカラードが販売する水は、既にインフラのようなものですから』

 

 シャルロットは純粋な疑問を尋ねてみた。

 

『スターゲートが繋がっている“首座の眷属”や“獣の眷属”なら、宇宙(そら)であっても水に苦労するような事は無いと思うのですが?』

『苦労はしていなくても、近くから購入できてコストを抑えられるなら、抑えた分の差額を他に回せますから』

『なるほど。確かにそうですね』

 

 こうした話題を切っ掛けに、カラード宇宙開発部門長代理とプラチナ・ドロップス総責任者は、様々な情報を交換していったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ナユとの情報交換を終えたシャルロットは、どうするべきかを考えていた。

 どうやら“翼の眷属”方面で色々動きがあるのは事実らしい。なら、情報を持っていそうなのが2人いる。

 1人はクラレス。“翼の眷属”穏健派筆頭のカルレス・イル・ディアニス・カルニアの孫娘だが、今は正体を隠しながら資材供給や搬送屋事業の出資者をしている。間接的に穏健派の活動を助けようというのだ。

 1人はレイシー。穏健派筆頭のカルレス・イル・ディアニス・カルニアの私兵の1人で電子戦のエキスパート。今はクラレスの護衛兼秘書をしている。

 2人の仕事内容的に、色々知っている可能性は高い。

 しかし、聞くのは躊躇われた。

 何故なら彼女達は、こちらに恩義を感じている可能性が高い。“翼の眷属”強硬派に捕らえられそうになっていたところを助けたというのもあるし、出資者として活動出来るように資金援助や鉱脈も与えた。

 何かを聞けば、色々頑張ってしまう可能性がある。結果として最悪なのが、彼女達の活動や正体が強硬派にバレてしまう事だ。

 なのでシャルロットは暫し考え、聞かない事にした。代わりに別のデータにアクセスする。出資している資材供給や搬送事業の業績データだ。会社という形をとっている以上、それである程度の動向は把握できる。

 そうして見てみれば、恐ろしい勢いで伸びていた。以前晶がクラレスに渡した鉱脈は特別な鉱脈ではない。銀河系に広く分布している一般的なもので、コロニーや艦艇建造などの幅広い分野で使われている。イコール供給元が多いという事でもあるため、独占的に扱って影響力を及ぼせるようなものではない。にも関わらず大きく伸びていて、かつ搬送事業も伸びているとなれば、物流全体が活性化していると考えて良いだろう。

 クラレスとレイシーが出資しているところだけが伸びている、というのは出資規模からも考え辛い。

 シャルロットは晶にコアネットワークを繋いだ。

 

(どうした?)

(これ)

 

 確認したデータを送る。

 

(なるほど。向こうで随分動いてるみたいだな)

 

 争いごとに関して、晶の理解は本当に早い。

 だから単刀直入に聞く。

 

(宇宙開発にも影響してくると思うけど、どういう方針で動けば良いかな?)

(その前に確認。クラレス達に連絡は取ったのかな?)

(ううん。取った方が良かった?)

(いいや。取らない方が良いと思う。下手な情報を知らせて、下手に動かれる方が怖い。で、そうだな。方針か………)

 

 数秒の沈黙の後、言葉が続けられた。

 

(不介入は当然として、水の値段はそのまま。ただし、制限を設ける。個人購入や団体購入別に、720時間(1ヶ月)あたりの最大購入量を設定してくれ。スターゲートハイウェイを使ってくれている一般の人達が、水を買えないって事態は避けたい。ああ、そうだ。目安は一般人が使う分には十分な量で)

(意図は分かるけど、どんな対策をしても戦闘に流用されるのは避けられないと思うよ)

(別に使われたって良いんだよ。大事なのは、一般の人が使える分の量はちゃんとありますよってアピールなんだから)

 

 カラードが水源として使っている原始星L1448-MMの水量は非常に豊富だが、水を浄化する施設の性能上の限界が存在する。つまり、何処かの誰かに買い占めされる可能性もゼロではない。なので先に、「カラードはその可能性を見越して対処してますよ」というアピールをしておく。

 無論抜け道は幾らでもあるが、余りに露骨にやるようなら、こちらも露骨にやってやれば良い。初手が温いからと言って、次の一手も温いとは限らない。

 

(分かった。あと晶。これはラウラの領分でもあるんだけど、“翼の眷属”は残り3星系を奪還して、非ヒューマノイド系文明への侵攻を考えていると思う?)

(そこまでは流石に分からん。でも、宇宙要塞の撃破までは考えてるだろうな。どう考えても、あの場所に宇宙要塞があるのは邪魔だ。喉元の刃って言っても良い)

(でも“首座の眷属”が睨みを利かせている限り、要塞攻略戦を出来る程の戦力を動員するのは中々難しいと思うけど)

(現状ならそうだろうな。でもそれなら、認めざるを得ない状況を作れば良い。あと多分、“翼の眷属”強硬派のトップはやり手だぞ)

(どうして?)

(“翼の眷属”のこれまでの動きを見ていて思ったんだ。まぁ大分推測も入ってるから反論の余地は幾らでもあるんだけどさ。まず1つ目。穏健派トップを辺境惑星に軟禁するのを、ほぼワンサイドゲームって言って良い程の早さで完遂してる。配下に、束がある程度とは言え腕を認める電子戦のエキスパートがいる相手をだぞ。どんだけ周到に準備したんだよ。まぁ腕はあっても配下だから、能力を発揮させない動かし方をしたんだろうけど。それでも相当な仕込みをした筈だ。で、2つ目。クーデター後という安定が喉から手が出るほど欲しい時期に領域外縁部を不安定化させて、非ヒューマノイド系文明の領域侵犯を誘発させた。よくやるよ。余程それ以外の統治に自信がないと取れる手じゃない。勿論イチかバチかの賭けだった可能性もあるけど、次の3つ目を考えれば、恐らく自信があった方だな)

(じゃあ3つ目は?)

(領域侵犯を誘発させた後の逆侵攻に使う艦隊を、使う直前まで完璧に隠匿して見せた。ここまでくると優秀なブレーンだけじゃないな。中間、末端にも使える人材がいないと無理だ。そして最後の4つ目。今後を考えても歴史的な経緯を考えても、17星系全てを奪還したかった筈だ。だが全部の奪還が無理と分かった時点で、3星系を残して引いた。それまで圧倒的に勝っていたんだぞ。勢いに乗っている時に引くのがどれだけ難しいかなんて、地球の歴史を見れば明らかだろう。なのに、軍部に引かせたんだ。余程の統率力が無いとこんなこと出来ない)

 

 シャルロットはこれまでの、個々の状況を思い出した。その時々の状況だけを見れば、クーデター後ならありそうという感じの動きだった。細かい所にまで手が回っていない不手際だ。しかし、全てを繋げて考えると……………。ゾクリと寒気が走る。

 保有恒星系153という多星間文明で、それをやってのけた? 明確なビジョンを持つトップ。優秀なブレーン。自身の役割をしっかりと認識して動く優秀な部下が中間や末端にいないと、こんなこと、絶対に出来ない。カラード最高幹部の今だからこそ分かる。

 シャルロットは尋ねた。

 

(さっき不介入の方針って言ったけど、もし向こうから関わって来たらどうするの? “翼の眷属”が将来的に侵攻作戦を考えてるなら、ウチのスターゲートハイウェイは物凄く使い勝手が良いと思うんだけど)

 

 スターゲートハイウェイを構成するスターゲートは現在17個で、約3ヶ月で1個増えている。もし非ヒューマノイド系文明の領域にスターゲートの出口を設置出来たなら………というのは恐らく向こうも考えただろう。だが、すぐに難しいと理解した筈だ。何故なら“首座の眷属”と“獣の眷属”が、スターゲートハイウェイの運用利益や水の販売利益を受け取っているから。正確に言えばスターゲートハイウェイの運用利益は地球:首座:獣で2:2:2。残りの4は、スターゲートハイウェイに関わる諸問題に対応する為の基金として積み上げている。水の販売利益は地球:首座:獣で6:2:2だ。単純な損得勘定という意味でも、覇権文明(ランクS)最上位の一角(ランクA)という立場を考えても、この中に他の文明を入れるとは考え辛い。

 また他文明から束への面会は、必ずアラライル大使かスノー大使という窓口を通すようになっている。完璧な防壁という訳ではないが、並大抵の動きは此処でシャットアウトできる。

 

(こっちが一番やって欲しくないのは、太陽系に艦隊を直接送り込まれることかな。その場合は“首座の眷属”が直接介入するだろうけど、色々面倒な事になる。あと、もしも“首座の眷属”がちょっと悪い事を考えて、介入を遅らせてスターゲートハイウェイを独占しようとしたなら、こっちはアンサラーを投入する)

 

 アンサラーは今現在9号機まで稼働していて、普段は発電衛星として地球・月・太陽に配置されているが、自力で動けるしワープも出来るのだ。そして全てのアンサラーは、スターゲート送電システムで互いにエネルギーを融通し合う事が出来る。

 性能はNEXT(N-WGⅨ/IS)をして、攻略が難しいという化け物。アクティブ・イナーシャル・キャンセラー(AIC)を応用した、物理兵器に対する絶対的な防御力。空間制御技術を応用した、光学兵器や空間破砕兵器に対する理不尽なまでの防御力。極限まで効率化された強力な光学兵器群。重力制御による重力兵器。これに加え自己再生と自己進化能力。魔改造のソルディオス・オービット6機。その他様々な機能が搭載されている。

 他文明の艦隊が相手でも、十二分にやり合えるだろう。

 

(武力的にはそれで良いとして、政治的には?)

(正直なところ分からん。考えられる手段は幾つもあるけど、相手のリソースだって有限なんだ。それだけの労力をこっちに割けるかも分からない。だから、こっちはこっちの出来る事をやって備えていくしかないと思う)

(それもそうだね。魔法のように必要なものがパパッと出てくるなんて事はないんだから)

(そういうこと)

 

 2人はこの後も、情報交換と意見の擦り合わせを行っていったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時は少しだけ遡る。

 クラレスとレイシーの元には、“翼の眷属”領域内の情報が色々と入っていた。

 そしてクラレスはその情報を晶やシャルロットに直接伝えようと思ったのだが………。

 

「ダメです」

 

 レイシーに一刀両断されていた。

 

「どうして?」

「状況的に、カラードもこの情報は欲しいでしょう。では仮にこの情報を渡して反応が良かった場合、クラレスはどんな行動を取りますか?」

「色々お世話になってるし、また良い情報が入ったら渡すと思う」

「それを続けていった先に、罠があります」

「どんな?」

「もう少し。もうちょっとだけ。そう思って少しずつより詳しい情報を知ろうとして、気付けば危険な案件に首を突っ込んで戻れなくなって破滅する。そういう者を沢山見てきました」

「でもお世話になった人に、何もしないっていうのも………」

 

 クラレスはお転婆だが、根が善人なのだろう。お世話になった人に何かをしてあげたい、という気持ちが強いようだった。

 そんな彼女に、レイシーはニコリと笑って言った。

 

「何もするな、という訳ではありません。要はやり方です」

「レイシー。もったいぶらないで教えて」

「そうですか? では、クラレスが大嫌いなお勉強の話をしましょうか」

「え゛!?」

 

 一歩後ずさるクラレス。

 一歩進むレイシー。

 

「私達は出資者という立場で、資材供給や搬送屋事業に関わっています。これは良いですね?」

「う、うん」

「そして、カラードの人達はプロです。詳しい説明などしなくても、データを見れば大体の事は分かる人達です。なので、会社のここ最近の業績や活動を社のアピールポイントとして、ホームページに載せなさいと指示すれば良いのです。後は社の透明性を高める為に、営業報告書という形で公開しなさいと。これだけで、後は向こうが勝手に読み取ります」

 

 クラレスは思った。

 その内容なら、勉強しなくても良いんじゃないだろうかと。

 しかし、甘かった。

 

「そしてクラレス。貴女はその内容が良いか悪いか判断出来る目を養わないといけません。目を養う為には知識が必要です」

 

 クラレスは更に一歩下がった。

 レイシーは更に一歩前に出た。

 

「えーっと、レイシー。私なんで追い詰められてるのかな?」

 

 いつの間にか壁ドンされていた。

 

「貴女が下がるからでしょう」

「圧が凄いんだけど」

「気のせいです」

「気のせいじゃないと思うなーーー」

「気のせいったら気のせいです。という訳で、これから企業業績の見方のお勉強です」

「レイシーってハッカーだよね? なんでそっち系も詳しいの?」

「データを引き抜けても、そのデータが本物かどうかを見分けるのは自分です。下地となる知識が無いと始まりません」

「確かにそうだね。なら私はレイシーに話を聞いて判断しようかな」

 

 本心ではない。ただ、ちょっと圧が凄くて場を和ませる冗談を言いたくなっただけだ。

 しかし、レイシーは受け取ってくれなかった。

 デコピン一撃。

 

「なに言ってるんですか。私は無能な主には仕えたくありません。しっかり学んで下さい」

 

 ここでクラレスは反撃した。

 

「有能な主が良いの? 社長みたいな? 前に「騙される相手は選ぶように教えておきます」なんて言ってたけど*6、自分が騙されたい相手じゃないの?」

 

 ここで良くあるテンプレなら、レイシーが恥ずかしがってモジモジするところだろう。

 しかし彼女は違った。

 

「そうですね。上司としては理想的かもしれません。なので、クラレス」

 

 レイシーの両手がクラレスの肩を掴む。

 

「ああいう人は逃しちゃいけません。しっかり捕まえておく為にも、しっかり勉強して、お荷物ではないという事をちゃんと証明していきましょうね」

「レイシーが教育ママになっちゃった」

「カルレス様から、貴女のことはくれぐれも宜しく頼むと言われています。それに私自身、貴女がどう成長していくのか楽しみにしていますので」

「分かった。期待に応えられるように頑張るね」

「はい。では、早速始めましょうか」

「はーい」

 

 こうしてクラレスのお勉強の時間が始まったのだった。

 因みに鋼の自制心を持つ紳士諸君には全く関係ない事だが、2人はとても薄着だった。

 他人の目を全く気にしなくて良い場所なので、自然と手持ちの衣類の中で動き易い服装になっていったのだ。

 地球で言うところのレオタードのような姿で、素晴らしいスタイルが無防備に晒されている。

 しかも素材が地球で普及している布地と違い肌にピタッと張り付くタイプのためか、地球人から見ると中々に素晴らしい眺めであった。

                               

 ―――クラレスとレイシーの部屋着姿―――

                               

 クラレスの部屋着

 

【挿絵表示】

 

 レイシーの部屋着

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――クラレスとレイシーの部屋着姿―――

                               

 

 

 第249話に続く

 

 

 

 

*1
1号支社は“首座の眷属”の領域、2号支社は“獣の眷属”の領域にある。

*2
第241話 第8回外宇宙ミッション(後編)のこと。

*3
第230話にて

*4
第243話のこと。

*5
多少デザインが変わっていますが、ご容赦下さい。

*6
第242話にて。




今回は情報収集&整理の回でした。
傭兵活動が活発化してるとか、ワクワクしてしまいます。
地球人にも出来るお仕事ないかなぁ。
そして美女4人のイラスト。
シャルロットが美人なのは世の摂理ですが、他3人も美人です。
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