【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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最終話:行く先は波乱万丈

 まず、何から説明したらいいものか──。

 あの事件から半月ほどが経ち、学園都市は大きく変わった。

 

 一番大きかったのは、暗部の弱体化だ。

 『神の右席』全員襲撃事件及び『窓のないビル』消失事件と、それに伴う学園都市での散発的な戦闘の数々は、この街の『裏』を白日の下に晒すには十分で──ええと、なんだっけ? 『嫌普性』とかいうカテゴリの悪人たちが、大量に検挙されたんだとか。

 もちろん、暗部の全部がこれでなくなった訳ではないし、『木原』もそうだし、言ってしまえば『スクール』とか『アイテム』とか『メンバー』みたいな組織だって究極的には過去にやってきたことを清算しないといけないわけではあるんだけど、少なくともこう……『この街の闇はそんなハッピーエンド許さないんだよォ!! ぎゃはははは!!』みたいな感じにはなりにくくなったというか。

 いやいや、このへんは今後も課題にはなり続けていくんだろうけど、結果的に良い感じにまとまってよかったと思う。

 

 それから、俺達自身に関することでいえば──

 

 

「わたくしとしては、学生参政権は時期尚早と考えておりますわ」

 

「……と、言いますと?」

 

 

 ──なんだか、学園都市のお偉方とお話する機会がとても増えました。

 

 

「まず第一に、置き去り(チャイルドエラー)問題です。……先日、少年院の脱獄トライアルのキャンペーンのお仕事をしている最中に、他組織からのスパイ目的で『置き去り』として学園都市に送り込まれた学生と対峙する機会がありました」

 

 

 今お話しているのは、学園都市統括理事会の一人でもある親船最中さん。

 学生が人口の大半を占める学園都市だけど、実はこの街の学生の殆どは選挙権がないのだ。親船さんはそのために子どもの街なのに大人向けの政策ばかりが行われていることを懸念していて、ざっくり言うと子どもにも参政権を持たせられるようにしようという運動をしている人である。

 『正史』にも出てきていたけど、本当にすごい人なんだよね。俺もこの世界に来てから一応最低限社会の成り立ちのこととかは勉強しているわけなんだけど、本当によく名前が出てくる人だもの。

 

 

「学生参政権を確立させるとなると、そうした問題にも直面します。なら置き去りに参政権を与えないのか? となると、それはそれで今よりもさらに置き去り差別が加速することでしょうし。学生参政権の意義には賛同しますわ。しかし……」

 

「……『答えが出ない問題』に直面する、と」

 

「ええ」

 

 

 で、俺達はというと、この街のトップであり、学園都市の広告塔でもあり、そしてゆくゆくはこの街の上層部になっていく──と期待されている立場にいるわけなので、『学生視点からの意見交換』という形で、親船さんをはじめとした、比較的学生よりのお偉方とお話をする機会が増えたというわけなのだった。

 まぁ、大部分は『あの話題の超能力者(レベル5)とも対等な立場で話をする学生目線のクリーンな私』を演出する為の道具にしてるだけだと思うけどね。

 

 

「それだけではありません。学生というのは親の影響が強いですわ。たとえばわたくしにしても、ブラックガード財閥とは切っても切れない関係にあります。平安日本の外戚政治を紐解くまでもなく、外部組織の学園都市への影響力を強める懸念もあるでしょうし……それがなくとも、学園都市内だけで政治目的の犯行が増えることは間違いないでしょう」

 

 

 そういうわけで、学園都市の政治系ニュースサイト向けの対談として親船さんと今何かと学園都市でホットな学生参政権について一問一答みたいなインタビューをした、その後。

 個人的に時間を作ってお話がしたいという親船さんたってのご要望で、俺達はもうちょっと込み入った話をしていた。

 

 

「なるほど。それは道理ですね」

 

「重ねて言いますが、学生の意志を今よりもっと政治に反映させるべきとは思いますわ。しかし参政権という形ではあまりにも弊害が大きすぎる……少なくとも、現状はその為の土台作りをすべきなのではなくて?」

 

「……素晴らしい」

 

 

 親船さんは、静かに呟くように言って、

 

 

「これだけ学生参政権の弊害を指摘できるということは、ブラックガードさんはかねてより学生の社会参画について考えられてきたのですか?」

 

「……まぁ、ゆくゆくは関係してくることだから、という程度ですけれども……」

 

 

 ただ、レイシアちゃんと脳内で意見交換をしていたこともあって、ある程度考え方としては煮詰まってはいる。こういうとき二乗人格(スクエアフェイス)って便利だよね。

 親船さんはそんな俺達を見て嬉しそうに微笑むと、

 

 

「ただ、この学生参政権の提案自体は幾つもの弊害を抱えるものであっていいのですよ」

 

 

 と、あっけらかんと言った。

 

 

「重要なのは、『学生が政治に参加することができるという道があること』を提示することにあるんです。……そして、実際にそのことについて真剣に考えて下さったブラックガードさんは、『学生がこの街の政治に参加するのに乗り越えなければならないハードル』を自分で考えて提示しました」

 

「……あ、」

 

 

 親船さんに指摘されて、ようやく俺は自分たちが親船さんに見定められていたことに気付いた。

 この人は、こうやってあえて突っつかれる隙を見せて、こっちがどれだけその問題に対して深い理解度を持っているかっていうのを観察していたんだ。……うわぁこえぇ……。これが大人の世界かぁ……。

 

 

「もしも威圧されたような印象を受けてしまったのなら、ごめんなさいね」

 

 

 そんな俺の戦慄すらも先回りするように、親船さんは申し訳なさそうに笑う。

 

 

「でも、孫娘くらいの女の子が同じ志を持って自分と向き合ってくれているんですもの。おばあちゃんだって、年甲斐もなくはしゃいじゃいますよ」

 

「……怖い話ですが、上等でしてよ」

 

 

 レイシアちゃんもまた、若干気圧されつつも勝ち気に言い返す。これからは、こういう場にも立っていかないといけないんだ。精々、安全にやり合えるうちに経験値を貯めさせてもらおう。

 

 まぁ、何はともあれ。

 俺達の周辺は、確かに変わってきていたのだった。

 

 

 


 

 

 

 そんなこんなで、一〇月三〇日である。

 『第二少年院』という最新鋭の少年院の開設に先駆けてその堅牢さをアピールする為の『脱獄トライアル』なるものが開催されたり、その宣伝キャラクターに俺達が任命されたり、お勤めをこなしたと思ったら囚人達が暴れたり、その主犯格が何故か当麻さんの竜王の顎(ドラゴンストライク)を操ってたり(なんでやねん!!!!!!!!)、本当に色々あったのだが──無事に月末目前である。

 ただし、俺達の心は月末を目前にしても休まることはなかった。

 

 まず、世界はしっちゃかめっちゃかとなってしまった。

 ローマ正教の最暗部である『神の右席』が四人全員学園都市に乗り込んで四人全員叩き返されたという事件が魔術サイドに与えた衝撃は凄まじかった──というのもあるし、そのドタバタで世界最悪の魔術師アレイスター=クロウリーの生存が全世界に広まってしまったのもあるし、そのアレイスターの居城である『窓のないビル』が影も形もなくなってしまったというのもあるし。

 魔術サイドにしてみれば、自分達の中でも相当の実力者が完敗してしまったが、代わりに向こうのウィークポイントも見えたし色々ガタガタになってる!! 今がチャンス!! ──という感じなのである。

 

 つまり。

 

 第三次世界大戦が、始まりそうです。

 

 というのも、昨日の夜にイギリスとフランスを繋ぐユーロトンネルが爆破されまして。

 ……流石に『神の右席』もあれだけダメージを負っていればしばらくはおとなしくしているだろう、とタカをくくっていたんだけど、考えてみればヴェントさんもテッラさんもアックアさんもフィアンマさんも、全員健在といえば健在な訳で。

 そう考えると、『正史』で『神の右席』が裏で糸を引いていたユーロトンネル爆破事件も同様に起きてしかるべきではあるし、そうなってくると連鎖的にイギリスのクーデターも起きそうだし、最終的に第三次世界大戦が起きない保証は何一つない。

 

 ちなみに、なんで俺がそんな情報を知っているかというと、もちろん『正史』の知識があるから──というのもそうなんだけれど。

 それにプラスして、最近できたツテが頼んでもいないのにペラペラとその手の推測を垂れ流してくれるからで、お陰で当麻さんやインデックスが弾丸ツアーを敢行する前から準備をする余地ができていたりするんだけど、どうにもあやつに感謝はしたくないんだよなー……。

 

 

「なぁ」

 

 

 あと、俺達の周辺で目に見えた変化と言えば……、

 

 

「なぁ、いい加減無視はやめてくれないか?」

 

 

 言えば…………、

 

 

「せっかく同室なんだ。会話が成り立たないのは寂しいな」

 

「うるっさいですわねぇ!!!! アナタの存在を認識するとツッコミどころが渋滞するんですのよ!!!!!!!!」

 

 

 新しく、同室の子ができたってことかな。

 名前、アレイスター=クロウリーって言うんだけどさ。

 

 ………………………………。

 

 

「なんで平然と常盤台に編入してますのなんで女体化してますのどの面下げてわたくしの前に現れることができたんですの!! アレイスター=クロウリーィィいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!!!!!!」

 

「はっはっは。年の功だよ」(説明する気がない)

 

 

 そいつは、さらりとした銀色の髪を腰くらいまで伸ばした、中学生くらいの『少女』だった。

 緑色の瞳はにんまりと笑みの形に持ち上げられ、俺達のことを楽しそうに見据えている。──そう。どういうわけか、我らが統括理事長アレイスター=クロウリーは──少女になって、常盤台中学に編入してきたのだった。

 何を隠そうコイツこそが最近できたツテであり、頼んでもいないのに魔術サイドの動向予測をベラベラ垂れ流してくれる情報源なのだった。

 

 コイツのお陰で俺達もイギリス行きに同行できる感じになっている訳なんだけど、実はコイツのせいで美琴さんや食蜂さんもイギリス行きに同行することが決まっているわけで……端的に言って、状況をカオスにしかしない野郎なのであった。お得意の『計画(プラン)』はどうしたんだよホントに。

 

 

「まぁ冗談はさておき、『窓のないビル』は使い潰してしまったからな」

 

 

 アレイスターは一転真顔になって、そんなことを言い始めた。

 

 

「中枢機能についてはギリギリで外部に持ち出せたが、私が滞在する場所はなくなってしまったんだ。新たな居城としてあそこを超える水準はこの街には存在しない。……となると、いっそのこと特大のイレギュラーと行動を共にすることで、リスクその他諸々をうやむやにするのが最も合理的とは思わないかね?」

 

 

 一から十まで手前勝手な理屈だった。

 しかもその手前勝手な理屈で、実際に諸々の手続きをぶっ飛ばして俺達の同室の座を正式に獲得しているからやってられない。まさか自室が一人部屋だったのがアレイスターと同居するハメになる伏線だったなんて……。

 

 それはまだいい。

 いや、全然よくないのだが、直近で最大の問題は、アレイスターが同室になったことではなく、むしろ──。

 

 

「それで。準備はもういいのか? おそらくイギリス行きは今日か明日だろう。私の方は既に準備を終えているが」

 

 

 コイツも、どさくさに紛れてイギリス行きが確定しているってことなんだよ!!!!

 

 ほんとになんというかこう……。

 …………どうしてこうなった。

 

 ──気付けば、俺達の周辺事情はすっかり跡形もなく変わってしまっていた。

 

 

 


 

 

 

《……ついに自室からも平穏がなくなっちゃったねえ》

 

 

 その後。

 アレイスターのいる自室から逃げてきた俺達は、()()()()()の通りに第七学区の公園脇にあるベンチに腰かけて空を見上げていた。

 

 

《『正史』も何もかも壊れちゃって、もう本格的に何も分からないし》

 

《それは今更ではありませんこと?》

 

《…………確かに…………》

 

 

 言われてみれば、大覇星祭のあたりでもう既に『正史』なんて何のあてにもなってなかった気がする。上条さん出てくるし……。『ドラゴン』出てくるし……。マジで何だったんだよ、あれ……。

 

 

《それより問題は、アレイスターですわよ》

 

 

 レイシアちゃんは、そう言って心の裡で嘆息する。

 

 

《女になったということは、どう考えてもヒロイン化狙いでしょう? どうするんですの。また敵が増えましたわよ》

 

《当麻さんがアレイスターと添い遂げる未来だけは何がどう転んでも絶対にありえないでしょ》

 

 

 だって中身変態オヤジだぞ。

 

 

《最終結果は問題ではないのですわ。ようは、ヤツの目論見が危険なのです。どうせアイツは『色々な基盤が崩れ去ってしまったので、女の形をしている存在なら何でも救い上げる上条当麻の性質を利用しよう』みたいな発想で女になったんだと思いますけど、あの野郎が恋愛模様に混ざるだけで……すっごいノイズ!! 端的に言ってしまうと邪魔なんですのよ!!》

 

《それはまぁ》

 

 

 レイシアちゃんが文句を言いたくなる気持ちも分かる。

 ただ、こうなってしまった以上言っても仕方がないわけで、やっぱり俺達にできるのは切り替えて最善を尽くしていくことしかないよな、と。

 

 

《最終的に『アレイスターが近くにいたからこそ、最高の未来を掴めた』って言えるように頑張ろうよ。こないだみたいにさ》

 

《あの件は前例にするにはちょっと特殊すぎませんこと?》

 

《ともかく。気持ちを切り替えよう。なんていったって今日は──》

 

 

 そこまで言って、俺は前を見据える。

 視線の先、公園の入り口辺りには、ちょうど俺達の待ち人でもある一人の人影が現れたところだった。

 

 

《当麻さんとデートなんだし》

 

 

 ツンツン頭の待ち人が元気に手を振っているのを見ながら、俺達はゆっくりとベンチから立ち上がる。

 

 そう。

 俺達の周辺事情は、少しずつ変わろうとしている。

 

 

 


 

 

 

「よう、久しぶり」

 

 

 軽い感じで手を振りながら、当麻さんが挨拶してくる。

 俺もそれに応じて、ぺこりと軽く会釈をした。

 

 

「お久しぶりですわ。なんだかんだで、ちゃんと会うのは例の事件以来でしょうか」

 

「まぁ中学生と高校生じゃなかなか会う機会もないしなぁ」

 

「その節は、ありがとうございました」

 

 

 横に並んで微笑みかけると、当麻さんは照れくさそうに苦笑して、

 

 

「別に、お礼を言われるようなことじゃないだろ。ぶっちゃけ仕事してたのは俺以外の連中だったし。俺は最後の方にちょっと手伝っただけだよ」

 

「貢献度の話をするなら、実利の他に心理の面も勘案するべきではなくて?」

 

 

 無粋なことを言う当麻さんを窘めるような響きで俺は言って、

 

 

「恩義に順位をつける気は毛頭ありませんが、アナタがいてくれたことで、わたくしの心がどれだけ軽くなったことか。当麻さんは少し自覚するべきだと思いますわ」

 

「……そんなもんかね」

 

 

 要領を得ない感じで、当麻さんは頬を掻く。まぁ、この人にそのへんを自覚しろなんてのは土台無茶な話なのでこれ以上はよかろう。あんまり詰めすぎると当麻さんヘコんじゃうからね。

 

 

「さて、時間は有限です。早いところ、始めてしまいましょうか」

 

 デート──と言っても、別に男女が恋仲に発展していく中でするお出かけを、今回しているわけではない。というかデートというのもレイシアちゃんの言であって、ぶっちゃけ実像に則しているわけではないからね。

 今回当麻さんを連れ立ってお出かけしている理由──それは、今日明日にもかかるであろうイギリス清教からの招集に向けて、旅支度を整える為なのであった。

 当麻さんは英語ができない。なのでイギリスに行くに向けて、イギリス旅行用の英語の本が欲しいとのことなのであった。

 

 

「しかし、凄いよなぁ──『ここではない歴史の知識』だったっけ?」

 

 

 で。

 イギリスのクーデターやら何やらの予測に基づいた情報を上条さんに連携したということは即ち、ちょっと前から既に隠す気すらなかった俺の『正史の知識』の存在を隠しきれなくなるということでもあった。

 そういうわけなので、当麻さん、インデックス、美琴さん、食蜂さんには、俺が『正史の知識』を持っていることは既に伝えてあった。説明がかなり大変だったので、ちゃんとしっかり伝わっているかどうかは自信がないんだけども……。

 

 

「……あまり、誇れはしませんけどね」

 

 

 俯きがちになりながら、俺は言う。

 実際、既に殆ど隠す気がなかったとはいえ──改めて話すかどうかについては、けっこう悩んだ。言われた相手からしてみれば、『自分は出会う前からお前達のことを知っていて、自分が君達と仲良くなるという選択肢を選んだのは君たちの人となりを知っていたからだ』と言われているようなものだし。

 それってかなり不義理なことだと思うし、嫌われる心配はしていなかったけど、やっぱり申し訳なさみたいなものは感じる訳で。

 

 

「わたくしがいない世界。……『正しい歴史』」

 

 

 それは、ある種俺にとってはイデアのようなものだった。

 上条当麻が歴史の中心で多くの事件に首を突っ込み、傷つき悩みながらもその右手で道を切り開いていった世界。俺は、そんな歴史にも負けないような幸せな未来を掴む為に戦っている。

 でも。

 

 

「…………正直なところ、あまりにも大きいですわ」

 

 

 その軌跡は、途方もなく偉大だ。

 イギリスのクーデターを食い止め、第三次世界大戦を終結させ、無限の地獄に囚われていた魔神を救い──そんな輝かしい未来。

 もちろん、そんな未来と比べても見劣りしない『幸せな未来』を掴み取るっていう決意に翳りはない。でも、だからといって目標の大きさは変わらないわけで……。これはもう、()()()()()()()()()くらいの覚悟を以て挑まなくちゃいけないんだよな……。

 

 

「……お前が見てきた『本来の歴史』の俺が、どれだけ凄かったのかは知らないけどさ」

 

 

 と。

 そんな俺の様子を見ていた当麻さんが、横を歩きながらそんなことを言った。

 

 

「『そいつ』が俺の知っている上条当麻なら、それは違うって言うと思う」

 

 

 上条当麻だからこそ、言える言葉を。

 

 

「今までだって、悩みながらなんとか駆け抜けてきた。記憶がない中で、誰かが助けを求めて泣いているのが許せなかったから拳を握って……結果的に上手くいって。そんなことをやっていくうちに自分が積み重なっていくような気がして……その繰り返しだよ、『俺』は。……お前が知る『上条当麻』も、そうだったんじゃないのか」

 

「…………、」

 

「なら絶対に、『そいつ』は自分が作った歴史を『理想』だなんて思っちゃいない。いや違うな。そもそも、自分が作ったとすら思ってなんかいない。歴史が自分の影響で作られたなんて、そんな傲慢なことを考えるヤツは、どこかで何かが捻じれてしまっているってな」

 

 

 気付けば俺達は足を止めていて、当麻さんはじっと俺のことを見下ろしていた。

 

 

「そもそも、お前が知る歴史が──『正しい歴史』が正しいだなんて誰が決めた。お前が知る歴史の俺だって、悩んで悔やんで、それでも自分が歩いてきた結果に胸を張っているだけだ。それを見たお前がその歴史を好ましく思ってくれたことは、きっと『そいつ』にとっては嬉しいとは思うけど」

 

 

 こつん、と。

 当麻さんの右拳が、優しく俺の頭の上に載せられた。

 

 

「『正しい』なんて言葉で、『そいつ』の歩いてきた道筋を勝手に物差しに使わないでやってくれ。きっと『そいつ』も、そんなものの為に死に物狂いで頑張ってきたわけじゃないんだから」

 

「…………はい」

 

 

 頷いて顔を上げると、当麻さんは優しく微笑むようにしてこう続けた。

 

 

「どうだ。自信不足のお嬢様の幻想も、これで少しは殺されたか?」

 

「……ええ、お陰様で!」「まぁ、シレンのことなので自信不足は一生モノでしょうけれども。その時はよろしくお願いしますわね」「ちょ、レイシアちゃん……!」

 

 

 そんな俺のことをいつまでも似たようなことで悩むメンヘラみたいに……!

 ……いや、実際そう、なのか? でも俺だって少しは成長しているというか、悩んでいる内容もちゃんと進展しているっていうか……!!

 

 

《……ちょっとシレン。何をしていますの。今良い雰囲気でしょうが。当麻もちょっと無言の時間に照れていますわよ。今モーションをかければ童貞の当麻ならころっといきますわよ》

 

《急に余韻を台無しにしてきたなぁ!?》

 

 

 レイシアちゃん、こういうとこデリカシーないよね。俺よくないと思うよ。

 

 

《そもそもだね、俺も恋愛関係(こういうの)を少しずつ分かろうと努力しようとは思っているけど、やっぱりこう……相手に意識させる為にナントカして~みたいなのは好みじゃないんだよ! 純粋に! やるにしたってもっとゆったりとしたペースで、緩やかな日常の中でじっくりやっていきたい!》

 

《そんな日常を差し挟むタイミングがこの先どれだけあるか考えてみなさいこの童貞ロマンスお花畑野郎!! 基本的に!! スケジュールが!! 過密なんですのよ!!!! そんなことで生き馬の目を抜くこのラブコメ修羅道を生き抜けると思っておりまして!? バウムクーヘンを主食にしますわよ!!》

 

《うわーん用語レベルでレイシアちゃんと恋愛観が噛み合わない!!》

 

 

 バウムクーヘンエンド(想い人の結婚式で引き出物のバウムクーヘンをもらうような失恋ビターエンド)呼ばわりはいいとして、なんでバウムクーヘンを主食にされなくちゃいけないんだよ!?

 

 

《……だから勇気を出してイギリス行きを口実に当麻さんを買い物に連れ出したじゃんか。たとえ『正史』の知識があったって、それをデートの口実に使うバカなんて俺達くらいのものだよ》

 

《甘いですわね。わたくし達が辿り着いた回答に別解がない保証なんてありません。『正史』の知識なんてなくったって、泥臭く答えに辿り着いてくる連中はどこにだっているんですのよ。たとえば……、》

 

 

「見・つ・け・た・わぁ…………」

 

「なぁ~にを抜け駆けしてくれちゃってるのかしら、アンタ達」

 

「ちょっと! イギリス行きには私だって関わってくるんだから私を抜きにするのは筋が通らないかも!!」

 

 

《…………恋に恋する乙女、とか》

 

 

 振り返れば、息を切らした二人の同級生と、純白のシスター。

 

 

「この抜け駆け女は、隙を与えれば抜け駆けしかしないわね……!」

 

「まぁ? この程度の策略は私にとっては可愛げ力のあるイタズラでしかなかったんだゾ」

 

「っていうか、旅行の買い物に行くなら私達も普通に混ぜてほしいかも! のけ者にされたみたいでちょっと悲しかったんだよ!」

 

「あ、その点についてはすみませんでした……」

 

 

 そんなこんなしているうちに。

 

 

「だぁーもう!! せっかく裏で見守っていたのに案の定ゴタゴタにされやがりましたね! じゃあもう我々が黙って見ている義理もありません行きますよGMDW!!」

 

「プライベートの監視をしていたと白状するのはっ、それはそれでリスキーではありませんかっ……?」

 

「……チッ。言っておくが僕は反対したぞ。ただ女所帯で男の意見がどれほど聞き入れられるかという話で……」

 

「馬場。残念ながらもう誰もお前の言い訳は聞いていないぞ」

 

 

 GMDWに、『メンバー』。いつもの面々が、ぞろぞろと顔を出していく。……っていうか、一体どれだけ見られてたんだ俺達。やっぱ気流探知はプライベートからやってないとダメだねこれ……。

 頭痛がしてきた気がして額に手をやっていると、喧騒の中でこんな声まで聞こえてくる。

 

 

「まぁまぁ落ち着け。一対一になるまで戦い続けるから問題が起きるんだ。学園都市の法制度を変えて一夫多妻制を導入してみるとか、私ならできるがどうかね?」

 

「黙りなさい腐れ統括理事長ッッッ!!!!」

 

 

 ノータイムで飛び蹴りを敢行した俺は、きっと間違っていなかったと思う。人が参政権の話で必死に色々調整してるっていうのにこのクソ野郎は…………!

 

 

「(……ねぇ。ひょっとして統括理事長もライバルになるのぉ?)」

 

「(いよいよ以てバリエーションが豊富すぎというか……)」

 

「(とうまのことだし、もうあんまり驚かないかも)」

 

「なんかいつの間にか知らない女の子が増えてるけど、やっぱ中学生はエネルギーがあるなぁ。高校生の上条さんはついていけませんよ」

 

「そいつの中身、アレイスターですわよ」

 

「ヴェ!?」

 

 

 あ、当麻さんがひっくり返った。

 

 倒れたツンツン頭の少年に銀髪の統括理事長が肉体的に迫り、それを電撃ビリビリ少女と洗脳ピコピコ少女が威嚇し、何故か暴食シスターが被害者のツンツン頭の少年をガブガブする。

 そんなカオスな光景を見ながら、俺は内心で溜息を吐く。

 

 

《……はぁ、結局こうなるんだね》

 

 

 一心同体の相棒は、そんな俺に対して笑いかけて、

 

 

《あら? こんな感じはお嫌かしら?》

 

 

 歌うように、そう問いかけた。

 

 

《どうです? わたくし達と共に歩んでいるこの未来は。この世界は。この可能性は。波乱万丈もいいところでしょうけど──》

 

《そんなの、答えは決まっているでしょ》

 

 

 楽しそうに笑う少女と一緒に笑いながら。

 俺達は目の前で繰り広げられている幸せな喧騒、相変わらずの周辺事情の、その中へと飛び込んでいく。

 

 

 


 

 

 

最終章 予定調和なんて知らない 

Theory_"was"_Broken.   

 

最終話:行く先は波乱万丈 Best_Future.

 

 

 


 

 

 

とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)

了 




本当に長らくご愛読ありがとうございました!
あとがきは活動報告に投稿しておきますので、気になった方はぜひ。

完結祝いイラスト

【挿絵表示】
画:Yoshihiroさん(@Ghost_Weekend

【挿絵表示】

【静止画MAD】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)【とある二次創作】
動画はこちらから
画:柴猫侍さん(@Shibaneko_SS

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