久しぶりの投稿のくせして短めかもしれません。
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咲夜が会議室に入るとザーボンが神妙な顔で待っていた。
「失礼します、咲夜です。」
「咲夜、実は少し困ったことが起きてな。」
「と言いますと?」
「キュイと連絡が取れないんだ。」
フリーザ軍きってのエリート戦士であるキュイは先日、新兵の隊を率いてレベルの低い星へ実戦演習に出かけていた。ザーボンが言うには3日前からキュイからの定期連絡が途絶えたままなのだという。状況から考えて何かしらのトラブルに見舞われた可能性が高い。
「この事をフリーザ様は……?」
「まだお知らせしていない。知っての通りフリーザ様は年に一度のコルド大王様への近況報告で出かけておられる。」
このセリフを聞いて咲夜はザーボンの思惑を理解した。彼はこの程度のトラブルはちゃっちゃと解決して何も起きなかったことにしたいのだ。咲夜自身前世でとある会社に勤めていた時、上司に自分のミスを隠したことがあったのでその気持ちはよく分かる。
部下としてはどんな些細な事でも報告するべきなのだが、ここはザーボンに従うしかない。
フリーザ様が不在な今、この惑星フリーザの管理は咲夜、ザーボン、ドドリアの側近三人に一任されている。ザーボンはそんな中起きたつまらないトラブルで自分の信頼を損ないたくないのだろう。
この三人の幹部には派閥が存在する。昔からフリーザ様に仕えていたドドリアとザーボンの派閥は同程度の規模だが、軍歴の浅い咲夜の派閥はまだ小さい。地位は同じ側近でも、そういった背景から実質的な地位ではザーボンは咲夜の上だ。
「……分かりました。私が調査に行きましょう。」
「助かる。キュイ程の者が生死不明となれば、生半可な兵士を送っても二の舞になるだけだからな。」
咲夜は会議室を後にするとガレージへ向かった。咲夜の宇宙船の専門メカニックに指示を出し、宇宙船の発進準備を整える。
今回は一先ずその惑星の状況を調査する。キュイ達の救出はその後、救護用の大型宇宙船を要請して行う。情報がない場所へ大所帯で向かうのはかえって危険だからだ。咲夜はキュイ達の分を含めた食料を半月分程積み、惑星フリーザを飛び立った。
「さて行先は………キコン星ですか。」
「とおいのか? そこは」
「惑星フリーザからそれ程離れてはいないようです。3日もあれば………って」
誰もいないはずの宇宙船で話しかけられ、咲夜が振り向くと何食わぬ顔でラディッツが乗船していた。
「ラディッツ……貴方いつの間に乗り込んだのですか。」
「れんちゅうのしょくりょうといっしょにさ。おれもついていかせてもらう」
「危険ですよ? レベルの低い星とはいえ何があるか分からないんですから。」
「だからこそさ。おやじはたたかいのなかでせいちょうした、だからおれもじっせんでちからをつける。ちまちまときそくんれんしてたってだめだ!」
ラディッツは何を言っても聞かない様子だ。こういう変に頑固なところまでバーダックに似なくてもいいのにと思う。咲夜はため息をついた。
「仕方ありません。このまま連れていきますが、危険ならすぐ宇宙船に放り込みますからね。」
「ふんっ、きけんがなければちからもつかん!」
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ラディッツと二人、戦闘のイメージトレーニングをしながら宇宙船に揺られること3日。目的地のキコン星に到着した。キコン星は新兵隊の実践訓練に選ばれるくらいなのでサイヤ人のように戦闘に長けた種族がいるわけでも、ツフル人のように知能に長けた種族がいるわけでもない。ましてやヤードラット星人やナメック星人のように特殊能力を持つ種族もいない。
ただ岩と砂が一面に広がる殺風景な惑星だ。いるのは岩の影や地中、草陰からこちらの様子を伺い、突然飛びかかってくる虎のような原生生物。フリーザ軍新兵はこの地で1ヶ月間サバイバル生活を行い、戦場で命のやり取りをするための胆力を身に付ける。
「ようやくとうちゃくか。けっ、なんともつまらないほしだ。」
「知的生命体がいない星ですから。だからこそ、キュイ程の者がついていながらこの事態は不可解なのですが。」
キコン星に降り立った二人はスカウターでこの星の生命反応を調査した。二人を取り囲んでいる戦闘力1000程度の反応はこの星の原生生物。すぐさまエネルギー波で焼き払い、一掃した。
すると原生生物たちの反応が消え、その先に小さな反応が映し出される。
「戦闘力約10000。弱っていますがこれがキュイでしょう。」
「となるとそれにむらがるたすうのはんのうがへいしどもか。」
それを確認すると二人はすぐさま飛び立った。距離はそんなに離れていなかったようで、すぐにその場所に辿り着いた。そこは岩に上手い事大穴が空いた洞くつだった。
「キュイ、フリーザ軍より救援に参りました咲夜です。無事ですか?」
「おーいしんぺいども! いたらへんじしやがれ!」
二人はキュイ達の名を呼びながら奥へと進む。しばらく進むと小さく呻き声が聞こえた。そちらを向くと這って二人に近づく人影。
「おまえは……!」
「キュイ。」
「………」
二人が呼びかけるも、キュイは何も言わない。二人は不審がりながらもキュイを助け起こすため手を貸した。
ギュンッ!!
ガッ!!
「がはっ!?」
一瞬の出来事だった。
急に顔を上げたキュイ。その顔はいつもの人を小ばかにしたようなエリート戦士ではなく、血に飢えた猛獣そのものだった。
彼は一瞬でラディッツの顔を掴み、洞くつの壁に叩きつけた。その衝撃で頭皮が切れたのか、ラディッツの後頭部から血が流れだす。
あまりに突然の出来事に何が起きたのか分からないラディッツ。異常に熱い後頭部の熱を感じてようやく自分の身に起きたことを理解する。
「てめっ…! なにしやがんだ………!」
ラディッツはキュイの腕を掴みながらもう一方の手で気功波を放った。しかし、キュイとラディッツでは力の差がありすぎて何の意味もない。
キュイはその眼光をさらに強め、口元から涎を垂らすとラディッツの顔を掴む握力を強めた。
「があぁぁ………!!」
ラディッツの頭がミシミシと嫌な音を立てた。それを見てギラっと笑ったキュイはもう一方の手を引いて手刀の構えを取った。そしてラディッツの首を落とすためにその手を振り落と___
ザンッ!!!
ボトッという音と共にその手刀は斬り落とされた。キュイが睨むとその先には返り血に染まった銀髪の使用人がいた。彼女は青い無機質な目をキュイに向けている。
「キュイ、ラディッツを離してください。さもなくば軍への反逆と見なし、貴方を処刑します。」
咲夜の言葉に反応したのか、キュイはラディッツを離した。
「ハァッ!!」
ズオッッ!!
しかし、咲夜の気がラディッツへ逸れた所を狙ってキュイはエネルギー波を放った。自身の全エネルギーと生命力さえも注ぎ込んだ明らかに過剰な威力のエネルギー波。キュイが反逆し始めたにせよそうでないにせよ、フリーザ軍のエリート戦士に数えられるキュイの不意打ちとしては妙だ。
まるで知能をどこかに落っことしてきたような獣のような戦い方。そんな状態で倒せるほど、咲夜は甘くない。
ビュッ!!
「っ!?」
「………はっ!」
ザクッ!!
「!? ぐあぁぁぁ!!」
エネルギー波の中を突き進んできた咲夜はハイヒールのかかと部分をキュイの右目に突き刺した。キュイは潰された眼球を押さえながらドクドクと血を流してもがき苦しむ。
その間に咲夜はクルクルと華麗に回りながらキュイの背後に着地、手刀を構えてすかさず飛びかかる。
ザンッ!
ごとりとキュイの首が落ち、彼の身体もぐらりと倒れる。フリーザ軍のエリート戦士はあっさりと帝王の召し使いに処刑された。
「ぐっ、くそっ! きでもふれたのかこいつはっ!」
「戦闘中の尋常ならざる形相、体温、心拍数、判断力。明らかに普通ではありませんでした。」
「しんぺいつかって、はんらんしようってわけでもなさそうだな」
「とにかく異常事態です。ザーボン様に連絡を…」
ボッ!!
咲夜が通信機に手をかけたその時、洞くつの奥から光線銃が撃たれた。そしてぞろぞろと口元から涎を垂らした新兵達が現れる。
「ちっ! こいつらもきゅいとおなじか!」
「退きますよラディッツ。ここでの戦闘は意味がありません。」
二人は検体として持ち帰るためキュイの亡骸を抱え、洞くつを飛び出した。
一刻も早く宇宙船に戻ろうと空を飛ぶ二人だが、新兵達もその後を追って空を飛ぶ。
「このっ! ついてくんじゃねぇてめぇらっ!」
飛びながらラディッツが必死に撃ち落としていく。
「これは………フリーザ様に報告せざるを得ない大事のようですね。」