イヴである、と思考する次第であります。
夜中からひっきりなしにサイレンが鳴っている。
誰が通報しているんだろう?
突然の停電でこの町はまるで墓の下に埋められたみたいに全てが沈黙していた。
だって、そうだろう。
そんなことを考えながら、コーヒーを啜って、蝋燭のゆらゆらとした灯りに頼ってペンを走らせている。何気なく灯源に手をかざすと、僕の指の影がまるでお化けみたいに不気味に太った。踊っている。
蝋燭を見つめている。赤々と燃え、日なたに置いた氷みたいに次第に縮んでいく。
今は彼女が唯一の文明の証だった。
見る間に彼女は小さくなって、最後は白い煙をいくらか吐き出すとあっけなく燃え尽きた。それで終わりだった。鼻に少しだけ焦げ臭いものが残った。彼女がそれまで見せていた蠱惑的なまでの表情、それから突然かけ離れた、下品にさえ思える無作法な所作にただ困惑していた。
手回しのラジオから流れる名前も知らない歌手のバラードに、なんとなく嬉しくなった。
なんにせよ、夏で良かった。
冬だったらきっと、死んじまってただろうから。
べつに、夏だから油断していた、冬だったら停電にならなかった、そういうわけでは決してないんだろう。たまたまだ。半分半分のところですべてが決まって、結果、僕はこうして生きている。
コインを投げて、たまたま表だったから生き延びた。
そんな感じだ。
何にも感慨は浮かばなかった。
とりあえず、水とガスは出る。だから、お湯も汲めるものな。
そんなことを思いながら、コーヒーを淹れるために横になった本棚から腰を上げた。
日時:2018年09月09日(日) 01:21
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