アイシールド21 強くてニューゲーム   作:ちあっさ

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32nd down それぞれの目標

ミーティング後に部室に残って高見と雲水が話し合っていた。

 

「それにしても、ラインにもう一枚強力なのが欲しいな」

 

「ああ、いくら合宿で強くなるという前提でも、大田原レベルとまでは言わないがそれに準じた選手を加えたいと思うのは今の切実なチーム事情だよ」

 

「だがそう都合よく強力なラインが入部してくれるわけもなし」

 

「今から外にヘッドハンティング…まあやりたくはないが、仮にやったとしても規則で秋大会は出場出来ない、今王城の生徒でないと無理だ」

 

「王城の生徒で他の部活に所属していないラインを任せられる人材というわけか」

 

「………………」

「………………」

 

二人はフッと息を吐き。

 

「「………いるわけないか」」

 

と、ハモった瞬間、ドカンという大きな音と共にドアが破壊される勢いで開けられた。

そこには、何故か全身に鎖を巻きつけた鬼のような形相の筋骨隆々の大男が立っていた。

 

「「…」」

 

言葉も無く唖然とする二人をジロリと見ると、その男は容姿に似合った大きな声で叫んだ。

 

「押忍!俺は猪狩大吾といいます!入学式からずっと停学食らって謹慎してましたが今日解けたので入部します!!!尊敬する選手は大田原先輩です!!!」

 

教室が震えるような大音量で一気に言うとその男は大きく頭を下げた。

 

「「……………」」

 

声の余韻が残るような静寂が教室を支配する。

 

「「……………」」

 

反応がないことにその男が訝しがり、頭を上げた時、ようやく室内の二人から反応があった。

中の二人、高見と雲水は入ってきた男の容姿や大声に驚いていた訳ではない、それくらいで怯んだりする二人ではない。

ただ、降って沸いたような幸運が信じられなかっただけだった。

 

「「………き」」

 

「は?」

 

「「キタコレ~~!来たよ、都合良くラインがぁぁ~!」」

 

 

猪狩大吾が入部しました。

 

 

 

夏休みの合宿における目標を考えてみた。

まず僕個人の目標としては。

 

まずは1試合を全力で走り続けられるようになる。

かなり無茶な目標だが、その為のスタミナ作りに身体強化など、目指して近づけることは出来る。

それにより、4ディメンションの使用可能回数も増えるし。

「あの技」を使えるようになりたいが、僕が使った所で怪我するだけなので後で進さんに教えに行こう。

 

次にラインは監督の方針としてはデスマーチでトラックかバスを押させて下半身の強化に専念するらしい。

これをクリアすることで「自分はこんなキツイ特訓を耐えてきたんだ」という自信に繋がるという。

脱落者が出ないことを祈るしかない。

 

ならばと蜘蛛の毒を覚えさせるのはどうかと提案した。

やり方を監督と高見さん雲水さんに説明したら、

「絶・対・無・理」

と3人ハモって反対されたので断念した。

 

次に攻撃陣だけど、これは何と言ってもバリスタの完成がメインになる。

進さんを加えた力押しの攻撃方法。

わかっていても止められないというのは本当にすごい。

 

そして、僕と高見さん雲水さんによるゴールデンドラゴンフライ。

これは雲水さんからの提案だった。

 

「QBが二人いるのならどちらかではなく、両方使えばいい、セナも出来るのだろう、進と練習していたのは知っている、ならば3人でQBをやるのも面白いかもしれんな」

 

ということで既に練習を始めている。

脳内師匠にクリフォードさんを想定し、全力で走りながらパスが投げられるよう練習中。

さらに帝黒で対戦した横っ飛びする人の技も加えてどんな状況でも投げられるようにしたい。

 

桜庭さんはエベレストパスを完璧に捕れるようにするのがメイン。

攻守両面に出ると言っているのでやらなければならないことは多いが、今の桜庭さんは気合が入りすぎてちょっと怖い。

ついこの前は「死ぬ寸前までやってやる!」と言って本当に実践し、疲労と脱水症状で死にかけたので流石に庄司監督に怒られていた。

 

こんなところだろうか。

後は進さんに話をしに行こう。

 

 

~石丸の目標~

石丸は考える、自分の存在は目立たないらしい。

自覚はなかったが、これだけ敵味方から言われ続けると流石に自覚する。

実践でも最近では神龍寺戦で自分でも驚くくらいあっさりとゲイン出来たことは一度ではないことから疑問の余地はないと思っている。

 

だが理由はさっぱりわからない。

わからないが事実のようだ。

 

ならば

 

それを利用することは出来ないだろうか?

その自分の存在感の無さというのを意識的に使いこなせないだろうか?

 

まずは自分の動きを研究しようとマネージャーから試合のビデオを借り、自分のプレーを繰り返し何度も見てみた。少し進めたプレー、すぐ止められたプレー、びっくりするくらい進めたプレー。

これらを分類分けして編集し、差異はないかと何度もチェックする。

 

あらゆる角度から何度も見ているうちに、ある共通点のようなものを見つけた。

それは対戦相手の「視線」だった。

自分のいる場所からズレているのだ。

見ていないのだから自分が進めるのは当たり前だ。

では何故ズレる。

ここにいるのに何故見ない。

 

地味だから

 

目立たないから

 

確かにそうだろうが、それだけでは答えとしては弱いような気がする。

 

それ以上、考えを進めることが出来ず、しばらく停滞していたが、ある日たまたま見ていたテレビで手品師が見せた技に、視線誘導(ミスディレクション)というテクニックがあることを知った。

 

「あ、UFOだ!」と空を指差すことも視線誘導だという。

野球の投手が投げるクセ球のように、打者の予想の軌道を通らないために打ち損なう。

これもある種の視線誘導だという。

 

では相手選手の視線が自分からズレるのはコレなんじゃないか。

そんな気がしてきた。

 

だが実際に自分が何をしたのかわからない。

注意を逸らすための動作を何もしていないのに何故?

 

いくら自分のプレービデオを見ても、いくら考えても納得のいく答えは出なかった。

せめて自分がどんな存在なのか客観的に見れたらまた違うアプローチも出来るのだろうに。

答えが出ず、悩んだまま石丸は合宿に入る。

 

その後、彼がアメリカでジミィ・シマールと邂逅し、奥義開眼するまであと少し。

 

石丸哲生にチートフラグが立ちました。

 

 

 

「兄さんは大丈夫かなあ」

 

鈴音が溜息をついて悩んでいたので話を聞いてみた。

 

「ああ、瀧くんね、アメリカに行ってから連絡は取れてるの?」

 

「うん、何故か電話は通じなくてたまにメールが来るけれど、何て言うか…埒があかなくて…」

 

「どういうこと?」

 

「えっとね、兄さんから来るメールが

 

『今踊ったらウケたよ』

とか

『ハンバーガーが美味しかったよ』

 

とか、どうでもいい内容ばっかりで、今どこにいるの?って聞いても、

 

『スパゲッティ屋』

 

とか、こっちが聞きたいことを全然理解してくれないのよ」

 

「ああ~、ある意味瀧くんらしいっていうか…はっきり地名を聞いたら?」

 

「聞いたわよ、そしたら何て答えたと思う?

 

『え~と、何て読むのこれ?』

 

って私に聞いて来るのよ、信じられる?」

 

「はは…何かごめんだけど容易に想像できる」

 

「なので読めなくてもいいから英語をそのままメールに書いてって言ったら…」

 

『EIGO HA MUZUKASIINE』

 

「って返事が英語になっただけだし、しかもこれ英語じゃないし、ローマ字にしただけだし、やっぱりこっちの質問の意味理解してないし!」

 

「落ち着いて鈴音」

 

「もうこうなったら根気よく続けるしかないって思って、まずは住んでいる場所を書いてよってメールして返事待ちなの」

 

「写メ撮って送ってもらうのは?」

 

「無理、兄さんに撮った写真をメールに添付するなんて高等技術は不可能なの」

 

さすが兄のスペックを完全に見切っている妹、一瞬の迷いもなく断言した。

 

「そうなんだ、両親はどう言ってるの?」

 

「元気に暮らしていることは間違いないので心配してないみたい」

 

「瀧くんの両親もわかってるなあ」

 

「監督に話して時間貰って探しに行った方がいいのかなあ…」

 

「う~ん、一人で行くのは危険だよ、一緒に行ってあげたいけど…」

 

その時、鈴音の携帯にメールの着信音が鳴った。

個別に着信音を設定しているようで、彼女の兄の着信音は「1/6の夢旅人2002」だった。

この音源からするに鈴音は文句の割には兄の評価は悪くないようだ。

いや、むしろ自由に旅する兄を憎からず想っているような。

 

「メールには何て?」

 

聞くと鈴音は無言で携帯を見せてくれた、そこには…

 

『あれ?言ってなかったっけ、アメリカだよ』

 

「…………そこから?」

 

呆然と呟く鈴音。

 

「根気よくやるって言ってたけど無限ループするような気がするんだけど」

 

「うう…」

 

残念な兄の返事に鈴音の顔はシワシワになっていた。

 

今回の遠征では迷子から寄り道などないハズなので瀧君には会えないかなと思っていたが、ある場所であっさりと再会することになる。

 

 

 

 

「進さん、僕と付き合ってくれませんか?」

 

「ウホぉっ!」

 

「わ、何を変な叫び声を上げてるのさ、まもり姉ちゃん」

 

セナと進の会話をたまたま近くにいて聞こえたまもりの動揺はハンパなかった。

 

「せ…セ…セナ?…つ…つゅきあうって…何を言ってるの?…そういうのはね…ホラ、アレよ…そっちの道は…アレだからダメしなさいって言ったでしょ」

 

汗をダラダラかきながら手をワタワタさせてうろたえるまもりはいつもとはまるで違っていた。

 

「え~と、何を言っているのか全然わからないよまもり姉ちゃん」

 

ろれつも回っていないまもりにキョトンとして言うセナ。

 

「だから…付き合うって…」

 

「うん、だから練習に付き合って欲しいって進さんに…」

 

「ソーダヨネェ!!!」

 

セナが言い終わる前に大きな声で相槌をうつまもり。

益々の挙動不審さに首を傾げるセナ。

 

「何だと思ったのまもり姉ちゃん?」

 

「はぁん?何を言ってるのセナ、練習に決まってるデショ、他に何があるってのYO、あ、いけない、私仕事しなくちゃ、忙しい忙しい!!」

 

そうしてまもりはバタバタと慌てて走って行き。

 

ベシャ 

 

転んだ。

 

 

 

「何だったんだまもり姉ちゃん…」

 

「それで、話とは何だセナ」

 

呆然と見送る僕に対し、全く気にも留めていない進さんは続きを促した。

 

「うん、進さん、合宿中に1つ技を覚えてみませんか?」

 

「技?セナが大阪でやった蜘蛛の毒というやつか?」

 

「いえ、あれはかなり相手を知っていないと成功率は低いというのが監督の結論ですので違います」

 

進さんは腕組みをしたまま僕が続きを話すのを待っている。

 

「パワーが3倍になるっていう便利な技なんですよ」

 

「ほう、技で力が増すというのか、興味があるな」

 

さすが進さん、全く疑問を持たずに信じてくれている。

 

「使いこなすには高い技術と頑強な身体が必要なので、僕では怪我するので無理ですが進さんなら全く問題なく会得出来るはずです」

 

続けて簡単に内容の説明をする。

 

「基本はショルダータックルなので相手が避けない状況でのみしか使えませんが、ぶつかる相手に対して頭と肩と腕の三箇所を同時に当てることで……」

 

 

 

「…ええと、内容はというわけで、とりあえず名前をつけてみるとですね…」

 

 

 

 

「【デルタダイナマイトスピアー】と名付けました」

 

 

進清十郎に超絶チートフラグが確定しました。

 

 

 

おまけ

 

「でも、進さんのスピアータックルとかトライデントタックルとかは、伸ばした腕を槍に見立てたから付けられた名前なんでしょ?そのデルタダイナマイトって腕伸ばさないじゃないか、それをスピアーって言うのはちょっと違うんじゃないかなあ」

 

と、後に部員全員に技の説明をした時に猫山君が言った。

 

「うん、でもまあ、身体は槍のように伸びてるわけだし、あながち全然違うってわけでも…」

 

石丸さんもそんなフォローをしてくれている。

そんなみんなに高見さんが言った。

 

「そんなことはどうでもいいんだよ、必要なのは相手がどう思うかだ、対戦相手への心理的影響が大事なんだよ、それを優先して考えた場合、進の技にはとにかくなんでもかんでも「スピアー」をつけるべきなんだ」

 

「なんでもかんでもって…じゃあ進さんがレシーバーでボールをキャッチしたら?」

 

「スピアーキャッチだ」

 

「QBでボールを投げたら?」

 

「スピアーレーザーとかだ」

 

「くしゃみしたら?」

 

「スピアー……achoo!…だ」

 

「アチョー?…なんですかそれ?」

 

「『ハクション』は英語で『achoo!』だからだ、『くしゃみ』の英語名詞は『sneeze』だが、イマイチ迫力がないのでこっちのほうがマシと判断したんだよ、咄嗟に考えたにしてはよく出来ているだろう」

 

「いえ、高見さんは捻りすぎて逆に名前が覚えにくくなるので出来の良し悪しで言えばよくないんじゃ…」

 

「ってゆーか、どっちにしてもそこにスピアーはいらないでしょ」

 

 




薬を飲むのをやめました。
通院もやめてのんびりしています。

色々と心配をおかけしています。
感想欄に励ましのお言葉や薬に関するアドバイスをくださってありがとうございます。

ゆっくりとですが続けていきますのでよろしくお願いします。

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