魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第八十五話:帰還

 銀時とプレシアがナカジマ家に訪問してから時間は経過し、翌日の朝。

 場所は、プレシア、銀時、リニスの三人が現在泊っている高層ホテルのエントランス前。

 

「……じゃあ、リニス。銀時のことお願いね」

 

 なのはたちのいる地球へと帰る銀時と、付き添いであるリニスを見送るプレシア。主の言葉を聞いてリニスは「はい」と言って頷く。

 

「銀時さんは私が責任を持って送り届けますから」

「本当にお願いね。何事もなく、まっすぐ地球に送り届けてね。余計なトラブル起こさせないでね」

「もちろんです」

 

 プレシアの心のから懇願に力強く頷くリニス。

 そんな二人のやり取りを見て少し眠そうな表情の銀時は眉間に皺を寄せだす。

 

「……いや、俺をなんだと思ってんのお前ら? 初めてのおつかいをするガキ扱い?」

 

 銀時のツッコミは無視し、プレシアは告げる。

 

「じゃあ、二人共。気を付けてね」

「はい」

 

 とリニスは頷き、銀時はぶっきらぼうに「へ~い」と相槌を打つ。

 リニスと銀時はプレシアに背を向けて歩き出す。

 

 プレシアはふいに銀時の背へと顔を向けてクスリと笑みを零す。

 

 ――しかし、頭の毛みたく、捻くれたあいつがあんな小さな子供に〝気の利いた〟ことをするなんてね……。

 

 

 場所は代わり、ナカジマ家。

 朝になり、空中のウィンドウに映ったネットニュースを眺めながらコーヒーと朝食を満喫しているゲンヤ。

 すると、

 

「ふわぁ~……」

 

 欠伸をするギンガと、眠そうに目を擦るスバルがダイニングへと入って来る。

 起きて来た姉妹に反応して妻であるクイントは笑顔で「おはよう」と声を掛ければ、娘たちは眠たそうにしながらも笑顔で「おはよう」と返す。

 ゲンヤは二階から降りて来た娘たちに目を向け、スバルが頭に被った〝物〟を見て「おッ」と声を漏らし、嬉しそうに話しかける。

 

「なんだスバル。お前、坂田の奴に作ってもらった〝それ〟がそんなに気に入ったのか?」

「……うん」

 

 スバルは少し恥ずかしそうにしつつ、頭に被った『白い紙の兜』を大事そうに抑えながら顔を隠す。

 

 

 そして場所は変わり、クロノたちが待つ管理局の支部に向かうバス。

 そのバスの中では、右側の後ろの席に並んで座る銀時とリニスがいる。窓際の席に座った銀時は流れる街の景色をボーっと眺めていた。

 するとリニスは含みある笑みで問いかけて来る。

 

「銀時さん。これで当分の間はミッドチルダには来れないと思いますけど、思い残すことはありませんか?」

「……ねェよ。つうかねェからこのまま地球に戻んだろ」

「その割には名残惜しそうにミッドを見ていませんか? あッ、もしかしてスバルのことが気になって――」

「ちげェよ。つまんねェから外の景色眺めてんだろうが」

 

 妙な勘繰りをしてくるリニスの言葉を即否定する銀時。

 だがリニスはニヤニヤと含みのある笑みを浮かべながら話しかけ続ける。

 

「でもスバルを気にしてないってことはないですよね? 昨日なんか紙を使って思い出の品を作ってあげたりしたじゃないですか」

「いや思い出の品って……」

 

 と言って、銀時は呆れた声を漏らす。

 

「んな大層なモン作ってねェよ。紙の兜と紙を丸めて作ったチャンバラ剣だぞ?」

 

 そう。銀時は昨日、スバルの為に折り紙を作るために『折り紙の用の紙』や『新聞紙』などを探していた。だが、どうにもミッドチルダに折り紙や新聞紙という文化がない(もしくはあまり浸透してない)らしく、折り紙もしくは新聞紙という言葉を出してもプレシアを含めて首を傾げられるだけだったのだ。(紙を折る遊び的な概念はあるらしい)

 とはいえ折れる紙ならなんでもいいので、ちょうど良い大きさの用紙をゲンヤから受け取り、スバル前で紙を折って兜と剣を作った。兜はともかく、剣はただクルクルと丸めた簡易な物ではあるが。

 兜を折っていた時なんか、スバルの目はとても輝いていた。

 

 銀時の言葉を受けてリニスは笑顔で言う。

 

「それでも私はあなたに対する印象が結構変わりましたよ? 普段はズボラで不躾で捻くれてて怠惰でいい加減な人だと思ってましたけど、子供を気遣うことくらいはできるんだって」

「それ褒めてないよね? 貶してまくってるよね? つうか俺、どんだけお前の中で評価低いの?」

 

 かなり失礼な使い魔の言葉に銀時はツッコミ入れる。

 リニスはニコリとした笑顔で。

 

「スバルが怪我しないように紙でおもちゃを作ってあげたんですよね?」

「怪我させられそうになったのは俺だけどな。まぁ、木刀に興味津々なガキに殴っても痛くねェ剣を作ってやっただけだ」

「しかし、意外でしたよ。あなた子供にも冷徹で優しくなさそうな印象でしたから。それに意外と器用な特技を持っているんですね」

「おいテメー、一々俺のことディスらねェと気が済まねェのか? なに? 喧嘩売ってんの?」

 

 リニスの失礼な物言いに銀時は青筋を浮かべ、やがてはぁ、とため息を吐いてから語る。

 

「あんなキラキラした目を向けてくるガキを無下に扱うほど俺だって冷たくできてねェよ」

「子供を大人の遊技場に連れて行く非常識な人ではありますけどね」

(げッ……。知ってたのかよ……)

 

 痛いところ(第三十話参照)を突かれた銀時は汗を流し、リニスから視線を逸らす。

 今のリニスの言葉を聞く限り、たぶんアルフ、もしくはフェイトが思い出話と称してリニスにジュエルシード集めの間に起こった出来事のあれこれやを話した違いない。

 どうりでリニスの中では自分の評価がただ下がりなはずである。たぶんプレシアも言わずもがな。(会った時から問題ある人間であるとプレシアに認識されている)

 

 フェイトやアルフを通して、リニスやプレシアからはダメな大人として目を付けられてしまったに違いない。

 ただ銀時にとっては、メンドーな連中に目を付けられたなメンドクセ、くらいの感覚ではあるが。

 

 リニスはため息を吐き「まぁ、色々と言いたいことはありますがこの辺にしておきましょう」と言ってから不思議そうな声で尋ねる。

 

「にしても……『おりがみ』でしたっけ? あのような紙遊びは得意なんですか?」

 

 折り紙と言う概念を知らないであろうリニスからの問いかけに、銀時は流れる景色を窓越しに眺めながらぶっきらぼうに答える。

 

「……別に、得意ってほどでもねェよ。ただ……ガキの頃、剣しか取り柄がなかった不器用な奴に教えてやった事があるだけだ」

 

 と、銀時が珍しく自身の過去を口にすれば、ふと幼少期の思い出が頭の隅を流れる。学び舎で一人の子供と一緒に紙を折っていた記憶が。

 またバスの景色を眺め始める銀時に対して何を思ってか、リニスは目を何度か瞬かせてから柔らかい笑みを浮かべた。

 

「今度はフェイトやアルフにも教えてあげくださいね」

「メンドクセ……」

 

 

 やがて管理局の支部にやって来た銀時とリニス。

 バスを降りれば、高いビルがいくつか立ち並ぶ管理局支部区画前。支部区画と一般地域を隔てる門の前では腕を組んで立つクロノの姿が。

 バスから降りる銀時とリニスに気付いたクロノは左へと顔を向けてから、空中にウィンドウを出現させて時間を確認。

 

「時間ピッタリか……。遅れるんじゃないかと予想していたが」

「まぁ、私が一緒なんですから遅刻なんてさせませんよ」

 

 苦笑しながらリニスが告げ、銀時は欠伸して頭をボリボリ掻く。

 

「俺はぶっちゃけ夕方くらいまでは寝坊しても良かったんだけどな……。まだねみィし」

 

 銀時の言葉を聞いてクロノはリニスへと顔を向け、真剣な表情で告げる。

 

「リニス、君みたいにしっかりした使い魔が付き添いでホントに良かったよ……」

「まぁ……これから気苦労は多いと思いますけど頑張ってください」

 

 そんなこんなでプレシアの元に戻るリニスと別れ、銀時はアースラでなのはたちが居る地球へと帰還することになった。

 

 

 

「なに、汚職警察共も今日一緒に地球に戻んのか?」

「あぁ、今日送り届ける予定だ」

 

 銀時とクロノが白い床のエントランスを並んで歩きながら話していると、

 

「つうか誰が汚職警官だコラ」

 

 若干キレ気味に二人の前に現れたのは、真選組の土方。

 ポケットに両手を入れながら鋭い視線を向けて来る土方に対して、銀時は小指で耳の穴を穿る。

 

「おやおや~? 数日でお帰りですかチンピラ警察様。あらゆる次元世界を管理する管理局様の職場体験は終わったんですか~? それとも、偏差値が下落中の株価みたくひっくいおめェらじゃ、ワールドワイドな管理局様の法は学べませんでしたかな?」

 

 銀時の執拗な煽りに、土方は青筋浮かべながら言葉を返す。

 

「偏差値がスキー場のキッツイ傾斜みたく斜め下に下がり続ける頭プリンのテメェに言われたかねェんだよ。そもそも職場体験じゃなくて見学だ。見学なんざ数日で充分なんだよ。何週間も滞在するワケねェだろ」

 

 やがて銀時と土方は近づき、メンチを切り合い始める。

 

「つうか頭ババロアのテメェら不祥事起こしまくりのチンピラ警察はご立派で品行方正な管理局で学ぶことだらけだろ? ミッドチルダに数年は留学でもしたらどうだ? そうすりゃあ、少しは江戸の風紀も良くなるだろうよ」

「だったらいの一番に長期滞在するべきはお前だろうが。江戸の外観と風紀が少しは改善させるだろうぜ。そして心の襟を正してきやがれ」

「ああん? だったらおめェもその尖った前髪ブイ字を横一線にして整えろや」

「んだとコラ。だったらテメェも頭や心と同じくそのどこもかしこもひん曲がった跳ねっ返り鳥の巣ヘアーをなんとかしてきやがれ」

 

 ついにはお互いのヘアースタイルを罵り合う低レベルな口喧嘩を始める二人。

 

 ――なんだろうな……。管理局のことを素直に褒めてると感じないのは……。

 

 喧嘩相手を罵るためのダシに使われているからか、微妙な気持ちになってしまうクロノ。

 すると、

 

「おいおいお前たち。『なのはちゃん達の地球』に帰ろうって時に早速口喧嘩とはいただけんぞ」

 

 近藤が苦笑を浮かべながら銀時の土方の喧嘩を止めようと声を掛ける。

 声に反応して近藤へと目を向ける銀時。偉丈夫の姿を見て何度か瞬きしてから口を開く。

 

「なぁ、土方くん」

「なんだ?」

「おめェらって確か、色んな次元を管理する管理局の法とか体制とかを学んでたんだよな?」

「あぁ……」

「じゃあ、なんで……」

「ん? なんだ万事屋?」

 

 と小首を傾げ腕を組む近藤。彼は頭にミッドチルダと言う文字が描かれたバンダナを巻き、上半身には『ミッドチルダ』と描かれたTシャツを着て、両手に何かがいっぱいに詰まった袋を持っている――つまり、観光ガッツリ楽しんでね? スタイルなのだ。

 銀時は土方へと顔を向ける。

 

「この数日の間、真選組のトップはなにしてたの?」

「…………」

 

 土方は顔を背け、何も答えなかった。

 近藤は銀時に対して、訝し気な視線を送る。

 

「ん? 万事屋……お前もしかして……ミッドチルダTシャツ買えなかったのか?」

「買えなかったつうか買わねェよんなダサT。おめェ真選組の長として管理局の職場見学してきたんじゃねェのかよ」

「いいか、万事屋」

 

 と言って近藤は腕を組み、真剣な表情で語りだす。

 

「俺ら法を執行する者たちが考えなければいけないのは、法の下に暮らす人々の様子だ。どんな法が敷かれ、それの元で住人たちがどのように平和な暮らしを送っているか観察するのもまた大事なのだ。窮屈な暮らしではないか、なんの憂いもなく心置きなく平和を満喫できているか。それを目と耳で観察する事で多くを学ぶことができるのではないかと俺は考えた」

「ほォ~、なるほど」

 

 と若干の感心を見せる銀時は、質問を飛ばす。

 

「で? ミッドチルダの様子を眺めて学んだことは?」

「魔法世界……超楽しかった……」

 

 近藤が思い出すのは、ミッドチルダの遊園地、動物園、ショー、売られてる物品などなど。

 

「思いっきり旅行気分で遊んで来ただけじゃねェか!! 俺よりガッツリミッド満喫してるしよ!!」

 

 と銀時がツッコミ入れ、近藤の横に沖田が並んで言う。

 

「旦那ァ、近藤さんに異世界に来といて法を学ばせろってのは、子供の前にゲーム置いといて遊ばず弁護士になれって言ってるようなもんですぜェ」

「どんだけ頭も心も少年なんだよオメーらの上司は……つうか説明してて情けなくならねェの?」

 

 銀時は呆れた声を漏らし、沖田は平然とした顔で。

 

「まァまァ、旦那。よその国の(ルール)を学ぶのも良いですが、自分たちの(ルール)を大事にするのも大切ですぜェ。つうわけで、俺は2割江戸の(ルール)と8割俺の(ルール)を遵守しながらこれからも犯罪者共を処刑していくんで」

「まずお前みたいなサイコ警察処刑して欲しいけどな」

 

 と銀時がツッコムと、今度は近藤が袋から長方形の箱を一つ取り出す。

 

「万事屋。お前、このミッドチルダサブレは買ったか? もし買ってないのなら折角だ。今からでも買いに行くか?」

「いやだから買わねェって言ってんだろんなモン。つうか俺たちの世界で普通に手に入るモンだろうがそれ。なんでんな目新しさゼロの土産なんざ買ってんだよ。つうか騙されてんぞお前。どんだけ馬鹿(ピュア)なの?」

 

 銀時は近藤にツッコミ入れながら、ふと土方へと顔を向ける。

 

「つうかよ、なんであのゴリラ異世界(ミッドチルダ)で買い物出来てんの? 地球の金使えたっけ?」

「地球の……なのはたちの地球の金をミッドチルダの貨幣に変換することができたから、あっちで稼いだ金の一部を変えたんだよ」

「えッ? マジで? なら俺もなにかしら珍しい魔法アイテムの一つでも買っとけば良かったなー」

 

 少し残念そうにする銀時に対し、土方は「いやお前、なのはの世界の金なんざ持ってねェ無一文だろ」とツッコミ入れる。

 そんな彼らのやり取りを一通り見ていたクロノはタイミングを見計らって声を掛ける。

 

「とりあえず、そろそろアースラに搭乗してください。積もる話は帰りながらでも出来るでしょう?」

 

 近藤は「おォ、そうだな」と返事をして、クロノへと体を向ける。

 

「ならクロノくん。折角だから君にもこのミッドチルダパンを――」

「いりません。そもそもミッド出身者の僕に渡す必要ないのでは?」

 

 ミッドチルダ名産かどうかも怪しい土産を渡してくる近藤の好意をクロノはバッサリ断る。

 クロノの言葉を聞いて、銀時は訝し気に片眉を上げる。

 

「つうか行きはともかく、帰りもアースラで送ってくれんのか? サービス良いな。てっきり、『アースラはタクシーじゃないから別の船で帰ってもらう』とかなんとか言われると思ってんたんだけどよ」

「まぁ、僕としてもアースラであなたたちを地球に送り迎えするのは不本意ではあるのだが、事件が完全に解決したワケではないから度々本局と地球を行き来するついでに送るだけだ。そもそも、管理外世界である地球行きの定期的な民間の次元航行船なんてモノはないんだ」

「地球の文化みてェなもんたま~に見かけたけど? マジで交流とかしてないワケ?」

「管理外世界、とくに比較的安全な世界を観光したり滞在する人も少なくはないから。そういう人たちが地球の文化とかを広めたりしているんだろう」

「お前の母ちゃんみたく?」

「うん……まー、そうだな……」

 

 地球文化にどっぷり浸かっている艦長(はは)の事を思い出し、微妙な表情を浮かべるクロノ。

 銀時は頭をボリボリ掻きながら問う。

 

「じゃあよー、管理局の世話になんなくても地球には帰れるのか?」

「金は掛かるし手続きもかなりメンドーだがな」

「送り迎えありがとうございます!」

 

 銀時はビシッと敬礼する。金が絡むと途端に現金な態度を取る男に、クロノは少しため息を吐く。

 銀時は真選組の面々に顔を向ける。

 

「おいお前ら。管理局様が〝ただ〟で乗せてくれるってよ。良かったな」

 

 どうやら無料(ただ)で送り迎えしてもらう前提らしい。

 まぁ、さすがに管理局は旅行会社ではないので金を取る気はさらさらないが。それにこれでも事件解決の功労者の一人。態度こそアレだが、それなりに優遇した取り計らいはしようとは考えいる。気が進まないと言うのも、クロノの本音ではあるが。

 

 

 場所は変わって首都クラナガン。

 街の大通りでは普段よりも忙しなく市街地を巡回する局員や局員の乗った車が増えている。

 その様子を裏通りから見つめるのは、クマの人形。その黒い瞳はジッと大通りから見える街の様子を眺めている。

 

「……局員……増えてる」

 

 そして、クマの人形から離れた場所――郊外の森の中。

 今しがた言葉を発したのは、背丈が小学生くらいで、両肩に黒いうさぎと白い猫のぬいぐるを乗せた黒いローブの人物。

 ローブの人物はクマの人形が目にしている街の様子を、たどたどしく口にする。

 

「……そろそろ管理局の目が厳しくなってきたな」

 

 と喋るのは、至る所が毒々しく鋭利に尖った鎧を着こんだ黒い騎士。

 その後ろでは、

 

「なるほどなるほど、今頃人員を増やしてきましたかぁ。少々遅すぎますねぇ」

 

 黒いレインコートを着込みフードを被りマスクで口元を隠した男――ネインは愉快なのか、面白おかしそうに笑い声を漏らし、語る。

 

「局はとっくに私たちの犯罪行為に気付いている割には、捜査は後手後手。いやはや、やはり管理局の人材不足は追われる側になると改めて実感できますねぇ」

 

 「あぁ、なんと嘆かわしいことか……」と言って、ワザとらしく肩を落とすネイン。

 猫耳フードを目深にかぶるローブの人物は、ネインの胡散臭い語りをスルーしつつ、黒い騎士に話しかける。

 

「……ミッドチルダで……リンカーコアの蒐集……続けるの?」

 

 ローブの人物の問いに対し、黒い騎士はしばし黙考してから答えを口にする。

 

「……いや、ミッドはもうよかろう。いくら人材不足で一人一人は我らの敵ではなくても、数が揃えば面倒な相手となる」

 

 黒い騎士の考えを聞いて、ネインは不思議そうに小首を傾げる。

 

「しかし、ミッドは管理局の膝元。高位の魔導師と遭遇する可能性も増えて来ますよ? 逆にチャンスなのでは?」

 

 黒い騎士は後ろに振り向き、ネインの顔の前に黒い尖った鉄の指を突き付ける。

 

「今の我らの戦力で包囲でもされれば目も当たられん結果になる。慢心と短慮は、痛い思いを招く事になるぞ?」

 

 ネインは返事をせずに、両手を少し広げて肩を竦めた。

 やがてネインは横へと顔を向け、隣に立つ黒いローブの人物へと問いかける。

 

「あなたはどう思いますか?」

「私は……どっちでも……」

 

 顔を少し上げて答えた、黒いローブ。

 ネインは黒い騎士へと顔を向けて楽し気に話す。

 

「まぁ、私は楽しめればいいので、あなたに付き従いましょう」

 

 二人の反応と確認した黒い騎士は告げる。

 

「十分な蒐集は出来た。もうミッドで蒐集する必要もあるまい」

 

 すると騎士の数歩後ろの地面に、正円の黒い穴のよう物が突如現れた。

 

「――さて、なら俺の出番ってところか?」

 

 黒い光を放つ、底が見えない円から声が聞こえると同時に、黒い穴は水のように波紋を揺らめかせ、中から何かが徐々に上へとスライドする。

 ゆっくりと姿を見せたのは、人の頭、胴、そして足と穴の中から出現し、黒い穴から一人の人間が姿を現す。

 その出で立ちは黒いハットを被り、白いペンシルストライプの付いた黒いスーツを着た男。

 

 後ろから現れた男に黒い騎士はチラリと視線を向ける。

 ハットを被った男は腰に右手を当て、口元をニヤリと吊り上げた。

 

「次の行先は?」

 

 間を開け、黒い騎士はゆっくりと呟くように告げる。

 

「――夜天が根差す地」

 

 

 場所は移り変わり地球――海鳴市。

 海沿いの通りに光の柱が地面まで伸びて、そこからミッドチルダ観光から帰ってきた真選組三人と、クロノとエイミィの五人が降り立つ。

 

 銀時たちが帰って来る事を事前に知らされ、迎えに来たなのは、フェイト、アルフ、アリシア、アリサ、すずか、新八、神楽の七人。

 七人はようやく地球に帰ってきた三人へと歩み寄る。

 

「土方さん、近藤さん、沖田さん。お帰りなさい」

 

 いの一番に真選組三人の名を呼んだのは、なのは。

 土方は「おう」と短く答え、新八が歩み寄りながら声を掛ける。

 

「結構早かったですね。もっと長くなるかと思ってました」

「あんまクロノたちの世話になるワケにもいかんからな。江戸に帰れるようになるまでは、とにかく海鳴市で日銭稼ぎだ」

「ミッドチルダ、どうだったの?」

 

 とアリサが尋ねると、近藤は感慨深そうに告げる。

 

「すごかった……」

「具体的にどう凄かったの?」

「すんごかったァ……」

「…………えッ? いや、凄いのは分かったから……」

「通訳するとだ」

 

 とここで沖田が割って入る。

 

「近藤さんが『凄かった』じゃなく『すんごかったァ』って言ってるってことは、つまりマジですげェってことだぜ。だって『ん』と『ァ』が追加されてんだからな」

「ごめん……バカにしか分からない言葉で説明しないで」

 

 アリサが呆れ気味に言えば、近藤は感慨深そうに告げる。

 

「魔法だったァ……」

「ごめん……聞いたあたしがバカだった……」

 

 近藤にまともな感想を期待して、アリサはすぐに損をしている様子。

 すると、

 

「おらテメェェェェェェェ!!」

 

 神楽がいきなり沖田の顔面に飛び蹴りを叩きつけようとするが、沖田はヒョイっとしゃがんで回避。

 神楽は着地し、沖田にビシッと指を突き付けた。

 

「私を差し置いて魔法世界満喫しやがってェェェ!! 私もハリポタ世界に行きたかったネ!!」

「ホグワーツもダイアゴン横丁もなかったけどな」

 

 土方はタバコを吸いながらクールに告げる。

 憤慨して青筋浮かべる神楽に沖田はニヤリといやらしい笑みを見せつけた。

 

「残念だったなチャイナ。ミッドはハリポタじゃなくてスターウォーズみてェなとこだったぜェ」

「だったらヨーダにフォース習ってライトセイバーもらいたかったネ!!」

「ライトセイバーもフォースも土産感覚で手に入るもんじゃねェよ」

 

 と土方がツッコミ入れ、神楽は地団駄を踏む。

 

「な ん で!! 私じゃなくてこんな腹黒サディストがミッドを満喫してるアルか!! むっちゃ納得いかないアル!!」

「TPOが満足にできねェ奴じゃ、ミッドは敷居が高いぜェ」

 

 沖田の言葉を聞いてクロノはジト目で言う。

 

「いや、ミッド出身者でもない君はミッドの何を知っているんだ?」

 

 沖田の煽りを受けて神楽は更に憤慨。

 

「んだとコラァ!! PTAに目を付けられてそうなお前に言われたかないネ!!」

「オメーこそゲロインの癖してPTAに目を付けられねェとでも思ってんのか?」

 

 そのまま二人が構えに入り、喧嘩勃発しそうな勢いなので近藤が止めに入る。

 

「落ち着くんだチャイナ娘!! 今回こそお預けだったが、次こそミッドチルダ観光に行けばいいんだ!! 頑張ってTPOを身に着けるんだ!! だから今はこの――!!」

 

 そこまで言って、近藤は紙袋から一つの箱を取り出す。

 

「ミッドチルダサブレで我慢するんだ!!」

「いやそれホントにミッドのお土産なんですか!?」

 

 自分たちの世界で簡単に手に入りそうな物品を見て新八はツッコミ入れ、近藤は更に紙袋から品を取り出す。

 

「更にミッドチルダTシャツも付けよう!!」

「うわなにそのダサT!?」

 

 とアリサが若干引く。

 

「気になってたけど……近藤さんのTシャツってミッドチルダのお土産だったんだ……」

 

 近藤が着ているセンスゼロのTシャツをすずかはしげしげと見る。

 そして近藤は強引に土産の品を渡し始め、アリサとすずかは微妙な顔で素直に受け取った。

 

「みんな!! これらの品でミッドの感覚を味わってくれ!!」

 

 悪意なしで熱く言い放つ近藤に対し、新八はすかさずツッコミ入れる。

 

「いやそんなもんでミッドの感覚を感じられるわきゃないでしょ!! あんた土産選ぶセンスゼロだな!!」

 

 だが一方で神楽は、

 

「まァ、今回はこの辺で勘弁してやるアル」

 

 サブレを速攻で開封して食っていた。

 

「うわ、チョロい……」

 

 食べ物で凄まじい怒りをどっかに捨て去る神楽を見て、アリサは呆れる。

 新八は近藤の土産の品々を見て困惑の表情で言う。

 

「って言うか近藤さん。もうちょっとこう……百味ビーンズ的な? ハリポタ的な? 魔法世界に行ってきたー、みたいな感想を抱けるお土産とかなかったんですか? サブレとかダサTって……」

「ならあるぜー」

 

 と言って沖田は別の紙袋に手を突っ込み、ある物を取り出す。

 

「ほれ、なのは。お前にコレやる」

 

 なのはは素直に沖田から差し出された物を受け取る。

 それは、

 

「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙……!」

 

 ムンクの叫びみたいな顔が付いた大根のような植物だった。根に生えたツタが地味に動いているのがすんごい不気味である。

 

「マンドラゴラだってよ。魔法感あるだろ」

 

 と言って、沖田はなのはに手渡した不気味な植物? を説明しだす。

 

「煮ても焼いても生でもうめェ。しかも刻むとこの世の終わりのような悲鳴を上げるってよ。俺一押しの土産だ」

「………………」

 

 オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙……! と不気味なうめき声を上げながら手にツタを絡ませてくるマンドラゴラを見て、なのはは青ざめ絶句。

 なのはは親友のすずか、アリサ、フェイトへと顔を向けると……三人は若干離れていた。

 アリシアだけはなのはの持ったマンドラゴラに「うわ~」とキラキラと興味津々な瞳を向けていたが。

 

「…………」

 

 新八はなのはに若干同情しつつ、あることを思い出して土方とクロノへ顔を向ける。

 

「そう言えば土方さんクロノくん。銀さんはどうしたんですか?」

「ん?」

「あぁ……彼は――」

 

 

「んー…………」

 

 アースラの便所でマイペースに用を足していた。

 

(あッ……土産忘れた……)

 

 ついでにミッドチルダで土産を買うのを忘れた事を、今更ながらに思い出す銀時であった。




第八十五話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/95.html
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