夜兎の営む呉服店   作:とんちき

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星海坊主篇01

星海坊主。

 

 宇宙最強の掃除屋(えいりあんばすたー)の異名を持ち、かつて夜兎の王と称される夜王と互角に渡り合った、俺の知る限り宇宙最強筆頭の男。星海坊主という名はあくまで通り名であって本名は神晃。しかしその名を知る人物は宇宙でも数えるほどしかいない。星海坊主という名が宇宙に広まりすぎているからだ。

 

 そんな師匠と出会ったのは今から10年前。この星とは別の星で師匠と出会いひょんなことから腕を見込まれ弟子になった、というか弟子にさせられた。何でも息子と同じ目をしていたとか何とかで。

 その時の俺は自分でも思うが相当拗らせていたので、やれハゲだのくそジジイだのと好き勝手に罵倒したものだ。その度に殴られて地面に埋められたが。

 

 師匠と一緒に過ごした時間は僅か半年という短い期間だったが、銀さんと同じくらい俺の人生に大きく影響を与えてくれた恩人だ。師匠の前では口が裂けても言えないが、本当に感謝している。あの人と出会わなかったら俺は今も夜兎の本能に従うままの獣だっただろう。

 

「ただなぁ……」

 

 師匠と関わると大抵碌なことが起きない。毛根の女神が実家に帰った代わりに祟り神でも連れてきたんじゃないかというぐらい、師匠の周りでは事件ばかり起こる。師匠自身が掃除屋をやってることもあって因縁の一つや二つくらいは持たれても当然だと思うが、それを含めても異常だ。最早師匠という存在が災いを引き寄せる疫病神なのではないかと疑うほどに。

 

「だけど師匠も過保護だなぁ。神楽ちゃんなら大丈夫だって手紙送ったのに」

 

 師匠と別れてからは数ヶ月に一度の頻度でしか連絡を取り合ってなかったが、神楽ちゃんがコッチに来て銀さんのところで暮らし始めたのを伝えたときからは一週間に一回のペースで手紙が送られてくる。やれ神楽は元気か、神楽はいじめられてないか、神楽が野郎に襲われてないかなどなど。初めのうちは子供を心配するいい親だと俺も手紙を返していたが、あまりの過保護ぶりに面倒になったのでここ最近は手紙を返してなかった。

 

「《ps 何で返事くれないの》……文面だけ見ると危ない女の子みたいだな」

 

 聞けば神楽ちゃんは絶賛反抗期の様子で、師匠には黙ってこの星に来たというのだから恐らく相当のものだろう。家に帰ってみれば娘がいなくなってたなんて、神楽ちゃん思いの師匠のその時の気持ちは想像を絶するほど驚いたことだろう。実際俺のところにも

 

《神楽がいなくなった! 手掛かりが一つでも欲しい小柄で朱色の髪の俺によく似た女の子だ! それっぽい娘を見つけたらすぐに連絡してくれ!!》

 

 なんていう手紙が凡そ20通来たほどだ。

 その時には俺も神楽ちゃんとは知り合っていたので、取り合えず神楽ちゃんに事情を説明し許可を貰った後、一緒の写真を取って師匠に送っておいた。後日、それを見て色々と荒ぶった師匠から100に及ぶ手紙が送られてきて、そのほとんどが感謝の手紙と神楽に手を出したら許さんという子離れ出来ない父親の手紙だった。

 

 一先ず神楽ちゃんの状況を手紙で師匠に伝えて安心させようとしたのだが、いかんせん神楽ちゃんの居候先は銀さん──大雑把に言うと師匠の知らない男の家だ。勿論、そんなことを師匠が許すはずがない。神楽ちゃんを連れ戻そうとする師匠に、銀さんが信頼できる人だと手紙越しに伝えるのはそれはもう苦労した。

 その甲斐あって同じ夜兎として神楽ちゃんの面倒は俺が見ることと、神楽ちゃんの状況を最低でも一ヶ月に一度は報告することで手打ちとなった。神楽ちゃんが偶にウチでバイトしてるのもそういう訳があってのことなのだ。

 

「と、電話だ」

 

 ジリリリリというけたたましい音を聞いて店の裏に向かう。

 基本的に仕立ては店に直接来て言ってもらうようにしてるので、店関連のことではないだろう。となると将ちゃんやそよちゃんから遊びのお誘いか、常連さん方からののお礼の言葉だったりするのだが。

 

「もしもし」

《もしもし拙者拙者─》

 

 ガチャリと受話器を置く。対応するだけで時間の無駄だと脳が即座に判断を下した。

 

「最近多いな。オレオレ詐欺ならぬ拙者拙者詐欺。今時こんなの引っ掛かる人いるのかなー」

 

 情報社会に疎い人か常識的な知識が欠けてる人、もしくは詐欺ということにすら気づかないお人好しな人しか引っ掛からないんじゃないだろうか。

 しかし最近じゃニュースにも取り上げられてるくらいだし、引っ掛かる人は多いのだろう。そういうのを聞くと犯人って手当たり次第に電話してるのか、予めターゲットを絞ってやってるのかが凄い気になる。

 

「……お腹減ったな」

 

 気づけばもうお昼時。お客さんは来ないようなので、14時くらいまで店閉めてお昼でも取りに行こう。ついでに何か買い物でもしてこようか、今日は家具とかが安くなってるみたいだし。

 

「あ、お金下ろしに銀行行かないと」

 

 

 

 

 

 

 えいりあんvsやくざ、という映画が最近巷で流行っているらしい。

 銀行に向かって歩いているとその映画の広告のチラシを貰ったり、宣伝をしていた女の子や男の人が十数回は勧めてきた。話を聞く限りだと大ヒット間違いなしで既に江戸の3分の2近くの人たちは映画を見に来て号泣したとか。タイトルを見る限り親近感が湧きすぎてあんまり面白くなさそうだけど、そこまで言われれば気になるのが人の性。暇があったら見に行こう。

 

「えいりあんばすたーの師匠とえいりあんの映画……何だろう嫌な予感がする」

 

 偶々被っただけならそれでいいんだけど、師匠に限って何も事件が起きない確立なんて天文学的数値に等しい。師匠のことは信じたいが、それでも何か起きてしまうんじゃないかと思わせるのが師匠なんだ。こればっかりは師匠が実家に帰ったという毛根の女神様にお祈りをするしかあるまい。

 

「そう言えば店の机傷んでたっけ。この機会に新しいの買っちゃおうかなー」

 

 お祈りもそこそこに、格安と書かれたチラシとにらめっこを始める。師匠のことも大事だが、店を閉めてまでここに来た理由を忘れてはいけない。

 最近じゃ銀さんたちがよく店で騒ぐから机だけじゃなく椅子とかも傷んできている。むしろ机だけじゃなく家具一式を買い換えるのも手ではないだろうか。

 

「犯人に告ぐ! お前は既に包囲されている、大人しく出てきなさーい!」

「なんだなんだ?」

 

 どうしようかと思考を巡らせながらも取り合えず銀行に到着。しかしどういうことか、銀行の前を警察の人たちが取り囲んでいるではないか。中には真選組の人たちもチラホラと……一体何事だ?

 

「あのおじさん。これどうしたんですか?」

「ああ長門くん。実は──」

 

 ウチの常連さんのおじさんが近くにいたので聞いてみると、どうやら銀行強盗がここに立て篭っているらしい。中には職員さんや俺と同じく銀行に来た人たちがいて、その人たちを人質に取られて思うように動けないとのこと。

 

「犯人は何か要求してるんですか?」

「いやそれが、要求どころかコッチの呼び掛けに何一つ応じないんだ。何とか逃げ延びたお客さんの話を聞く限りだと、犯人は常人離れした力で銀行を制圧して人質を取ってるとか」

「常人離れした力……」

 

 おじさんが言うからには地球人ではないだろう。となると天人だろうか。しかし話を聞く限りだと放っておくのは少しばかり不味そうな気がしないでもない。呼びかけに応じないということは中で何かをしてるということ、つまりそれさえ完了したら逃亡する可能性がある。天人なら何か特殊な力や道具を持っていてもおかしくない、あまり時間をかけるのは危険だ。

 

「すまない。道を空けてくれないかその銀行に用事があるんだ」

 

 番傘持って突入しようかと思い込んだのも束の間、人混みを分けて聞きなれた声の人物が扉の前に立っていた。見慣れた戦闘衣装に番傘、顔の大半が包帯で覆われており唯一包帯のない目の位置にはゴーグルが着けられている。

 ええと、凄い見覚えのある人なんですけど……もしかしてあの人

 

「まったく手間のかかる」

 

 言うや否や、番傘が物凄い勢いで店内に投擲される。

 地響きと同時に、店内に立て篭もっていた犯人らしき存在の悲鳴が木霊した。呆然とする警察の人たちの輪から抜け出し、その人に続くように俺も店内へ足を運ぶ。

 

「うわぁ……」

 

 店内は壮絶の一言だった。

 先ほど投擲された番傘の先にいるのはスライム状の未確認生物で、番傘の破壊力に耐えられず店内は半壊している。正直、銀行強盗よりも性質が悪い。

 そして、そんな店内の中心にいるのは何故か万事屋のメンバーと

 

「ええと、師匠?」

「ん? おお、久しぶりだな長門」

 

 すだれ頭とチョビ髭。以前会った時より髪が抜け落ちたことを除けば、何ともまぁ変わらない姿の師匠こと星海坊主がそこにいた。

 

「丁度良かった。お前等には積もる話もある。昼飯でも食いながらどうだ、俺が奢るからよ」

 

 




大変遅くなりました。
詳細は活動報告に載せていただきましたので、時間の空いた時に見ていただければ幸いです。
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